前書き
はじめましての方も、10度目の方も
おはようございます。こんにちは。こんばんは。 柳眉です。
前回投稿してから3ヶ月経ってしまいました。
投稿したときは2月、3月と時間に余裕があってもっと書くことができていたはずなのに
蓋を開けてみたらこうなってました。無念です。
あと、この3ヶ月で多くの方にコメントとメッセージを頂きました。ありがとうございます。
これから、お返事をさせていただきます。
さて、今回の『恋姫と無双』ですが、本編ではなく番外編となっております。
しかも、5月なのに「バレンタインネタ」……あほか! と言いたい気持ちはわかります。
しかし、時間の合間にチョコチョコと書いたものが中途半端にあったので
折角だからと投稿しました。
お読み頂いた後の感想は多々あると思いますが、広い心でIFの1を受け入れていただいたらありがたいです。
バレンタインデー……それは、男にとっては審判の日
普段女気がなくても、男ならば2月14日というものを意識してしまう。
今までほとんど身内にしか貰うことがなかった北郷一刀にとっても、やはり、気になってしまうものであった。
<side一刀 始>
「今日の分はここまでね」
その言葉を合図に胸の空気が空になるほどの息を吐いた。
同じ姿勢だった為か少し肩が重い感じがする。
桂花に文字を教えてもらうようになってしばらく経ち、少しならこちらの文字も読めるようになってきた。文字もなんとか書けるようになってはきたけど、文章を書くまでには至っていない。あとどれくらいで一通りの文章を書けるようになるのか…なんて考えると少し焦りがでるけど、忙しいなか時間を貰っている桂花に応えるためにもしっかりと覚えていきたいと思う。
字を習うために広げた書物などを片付けながら、横目で桂花を見る。
桂花は椅子に座ったままで、持ってきた書物に目を通しながら片づけが終わるのを待っている。
俺が文字を習う時間の後は、俺が桂花に知識や気になったことと伝える時間が始まる。
この世界の人にとって、俺の考え方…まぁ、俺の世界の考え方は気が付きにくいものだそうで、そこから桂花が話の中から役立たせることの出来る素材を抜き出して政策などに活用させるのだそうだ。
片づけが終わって、今度は俺が先生(?)になる……さて、何を話そうか?
そういえば、もうすぐ年が明けて二月経ったことを誰かが言ってたな……正月に当たるものはこっちにもあるみたいだから、アレの話をしてみよう。
「そういえばさ、もうすぐ年が明けて二月になるんだっけ?」
「それがどうかしたの?」
「俺がいたところだと、その月にバレンタインデーっていう行事があるんだよ」
バレンタインの起源は分からないから、深く突っ込んだ部分までは話す事は出来ないけど、現在ではどんなイベントとして捉えられているか、どんなことをするかなどを話すことにする。……正直役に立つかは分からないけど、どんなことでも話すってことになっているから気にしないことにした。
「ばれん、たいん、でえ…だっけ?それは何をする行事なの?」
「一般的には女の子が好意を寄せている男の子に贈り物をする日……かな?」
「ふ~ん……あんたのところだと、その日にしか贈り物をしないの?」
「そう言う訳じゃないんだけど……ん~どういえばいいんだろう?贈る側には本命と義理があって、本命なら好意だし義理なら日ごろの感謝を表すんだけど、受け取る側には本命か義理かわからないから、それとなく悪く思ってないよって言う意思表示する特別な日にしているんだ。好きな人に面と向って好きだって言い難いしさ」
「そんなものかしら……贈り物って何を贈ったりするの?」
「大体食べ物かな? チョコレートっていうお菓子が多いみたい」
「はっきりしないわね、なによみたいって」
「まぁ、そういう日だって分かるんだけど、女の子から貰った事なんて数えるほどしかないからな~一般的にしか分かんないんだよ」
「へぇ~~」
桂花はニヤニヤしながら、こっちを見てくる。言いたい事はわかるだけに憎たらしい。
「まぁ、そんな訳だから――」
そんなことがありながらも話は窓から赤い陽が差す頃になるまで続く。
始めの頃は字を教わったらすぐに片付けて部屋を出ていたが、今では夕日を終わりの合図にするのが定番になりつつあった。
この後は特に用事のない限り一緒に食事をしてから分かれることになっているのだが、この日は違った。
部屋を出るとき思い出したように桂花が立ち止まって話を切り出した。
「そういえば話にあった『ばれんたいんでー』だけど、聞いただけじゃ分からない部分もあったし、明後日がそれにあたる日になるなのよ。ちょうどいいから『ばれんたいんでーの贈り物』を選ぶのに付き合いなさい」
今までこの時間に話したことを実践するなんて事はなかったから、その一言にどう応えるべきかと考える。話した内容が内容なだけにはっきりとした態度が取れない。
「どうなのっ!?」
時間は予定を確認していると取れるほどの短い間であったのに、桂花は痺れを切らして声を上げた。
その剣幕に驚いたけど、特に用事はなかったはずだから、
「明後日ね? わかった。けど文――桂花の方は都合はいいの?」
とっさに文若といいそうになったけど、桂花がギッと睨みつけるので桂花と言い直す。
「問題ないわ。それにこれも仕事の内よ」
「ん、桂花が都合つくなら俺は大丈夫だよ……ん~と、明後日の昼頃に部屋に迎えに行くよ」
仕事と言われて少し悲しかったけど、桂花の都合がつくならそれでもいいかと思えた。
「わかったわ、遅れたら承知しないから」
「ああ、遅れないようにするって。……それにしても」
「…なによ?」
「なんか意外だなって。桂花が好意を持っている異性がいるっ――」
「ど、どうして私が男なんかに贈り物をしなくちゃいけないのよーーっ!!」
吼えた。そして、一歩詰め寄って俺の目の前まで来ると、顔を真っ赤にしながら
「勘違いしないでよね!あくまであんたの国の文化を知るためであって、他意はないんだから!!」
「わかった! 分かったから!!」
何かを言えば火に油を注ぐようにさらに勢いが増すだろう剣幕。それとおそらく無意識なのだろうけど、詰め寄るにしたって距離が近すぎる。匂いと吐息を感じるほどの距離にどんな態度というのか。
「いい!? 当日になって都合が悪いなんて聞かないんだからねっ! 絶対空けときなさいよ!!」
そんな俺の心中を察していないであろう桂花は、言うだけ言って足早に部屋から出ていった。
「え、っと」
残された俺は、うるさいくらいの鼓動が落ち着くまで部屋の出口で立ちすくんでいた。
<side一刀 終>
<side桂花 始>
「……遅い」
出かける支度も終わり、手持ち無沙汰で読んでいた書物も読み終わってしまった。
「これだから男なんていうのは――」
と、あいつに対する不満と苛々が募って口に出さないとやってられない。それで思いつく限りの言葉を出し終えたら、むなしさだけが残った。
「はぁ……書でも読もうかしら」
と、書物に手を伸ばしたところで、とんとんと戸を叩く音が聞こえた。
「桂花いるか~?」
いるか~、じゃないわよっ!? なによっ遅れてきて!!……なんて不満や苛々は一杯あるけど、楽しみにしてたとか待っていたとか思われるのも癪だ。
「いるか~? ってあんたが部屋にいろって言ったんじゃない」
戸を開けながら少し睨んでやる。それでも、こいつのへらへらした態度は変わらない。
「まぁ、確認ってことでさ」
なんて笑っているし。わかってはいたけど、それでも少しは腹が立つ。
「だいたい、昼に来るって言っておきながら来るのが遅かったじゃない」
「そうか? 昼っていったらこのくらいの時間じゃないか?」
「はぁ~~」
「なんだよ、その呆れたような溜息は」
「なんでもないわ。今度から昼って言ったらもう少し早い時間だということを覚えておきなさい」
「ああ、そういうことか。わかったよ『先生』」
「わかればいいのよ。それと先生って呼ぶな」
こういった感覚のズレは多々ある。しょうがない部分と理解できるけど納得がいかない部分もある。まぁ、それはいいとして――本当は良くないから、置いておくとして――何にかを教えているときに先生と呼ぶのは止めて欲しい。なんか居心地が悪いのだ。それをこいつは、「教えを受けるのだから先生だろ」なんて建前を言っているけど、本音は私の反応を面白がっているに違いない。きっとそうだ。
「それで、これからどうするのよ?」
「そうだな。まずは――」
街に出てきたものの、贈り物は手作りの品にするか既製品にするか、最初の一歩から難問である。私としては既製品で良いと思うのだけれど、こいつは手作りの品の方が貰って嬉しいという。これといって手作りの物を貰うということがなかったから、そこがいまいちよくわからない。……でも手作りの方が喜ばれるなら――
「って違う! 違うから!!」
「ん? なんだ突然?」
「……え? んな、なんでもないわよっ!!」
「そうか、ならいいんだけど」
危ない危ない、声が出てたみたいね。落ち着け、私。
そうよ、なんにも問題ないわ。
「……花」
これはあくまでも、そう、あくまでも! あいつの国の習慣を理解する為であって
「桂……」
別に私が――
「桂花?」
「ひぅっ!!」
「大丈夫か? さっきから変だぞ」
「うるさいわねっ! 変って何よ?」
「問題ないならいいんだけど、さ。それで、贈り物は既製品と手作りどっちにするか決まった?」
それまでこいつが何か言っていた気もするけど、気にしないことにする。たぶん、手作りにするかという話だろう。
「そ、そうね既製品にしようかしら。今回はその『ばれんたいんでえ』なるものがどういったもかを体験することが目的な訳だし」
「そっか」
「でも、手作りでもいいとは思うのよね。む~~」
手作りはちょっと手間だけど、食べ物を作るといった事は今までなかったしやってみてもいいかなとは思う。……思うんだけど、もし、いやいや万が一にもありえないことだけど、失敗なんかして笑われるなんてあったら――
と、ふと隣を歩いてる奴が気になった。視線を向けると、顔を背けて肩が震えているのが見える。
「ちょっと、何がおかしいのよ!」
「いや、別に。ただ、桂花が優柔不断なところを初めて見たからさ、新鮮だなあって」
もー馬鹿にして! こいつは手作りで失敗したら笑う、絶対笑う。きっとそう。決めた、手作りはこいつの前ではやらない。
「うるさい! それに手作りをするとしてあんたは作れるの?」
「あ~、そうだった。こっちでのお菓子の作り方わかんないや」
「まったく、何が手作りよ。作り方も知らないで」
「そうだな。んじゃあ、お菓子売ってるところで聞いてみるか」
「はぁ? ――って、ちょ、ちょっと」
言うが早いか、こいつは何を思ったか私の手をとって早々に歩き出した。それも、小走りくらいの速さで。
そうだった。付き合いが長いわけでもないけど、それでもこいつのことでわかったことがある。こいつは一度決めると周りが見えなくなるのだ。今回だってそう、文句の一つくらい言ってやりたいくらい。でも、結局いつも言えないのだ。だって――
―――――そんなに楽しそうに笑うな。そんな顔されると、止めろなんて言えないじゃない。
<side桂花 終>
<side一刀 始>
少し歩いたところにお菓子を出すお店があった。そのままの勢いでお店の人にお菓子の作り方について聴こうとしたところで、右手に抵抗を感じて一歩を踏み出せなかった。右手の方に意識を向けてみると手を掴んでいる相手はというと、顔を伏せてその握る力を強めている。
そして、妙な視線と、なんと言うかまるで晒し者になっているかのような居心地の悪さを感じて周りを見ると、道行く人の微笑ましい様子を見守るような視線やら、露骨に見てくる子供、あまつさえ指を指している者までいる。
なぜそんな風に見られているのだろうか、この疑問に応えてくれるであろう桂花は俯いたまま動かない。
さて、どうしたものかと自覚のある癖がでるところで、気付いた。
――――――桂花と手をつないでいるという状況に……
「……あっ」
意識し始めた途端、急に気恥ずかしくなって自分でも訳の判らない言動を取り始めた。落ち着けと言いたくなるような、アタフタして情けなさをこれでもかと言うほど発揮している。
頭の中は冷静で、それなのに行動は滅茶苦茶。きっと今の自分の顔は真っ赤になっている。それが判るから一層恥ずかしい。
漸く――と言ってもさほど時間が掛かったわけでもないが――もうどうにでもなれ、と割り切った時、右手に掛かる力が弱まり手が離れた。
「ククク、なに? その情けない様は」
俯いていた顔を上げた桂花の口角はつりあがっている。
「いい気味ね」
なんて捨て台詞を残して、さっさと店の中に入って行った。置いていかれると言う形になった俺は、後ろから僅かに見える桂花の耳が赤くなっていることに笑いを溢し後を追った。
その後のことだが、結果から言ってお菓子の作り方や材料、その上どこでその材料が手に入るかまで教えてもらうことができた。いくら感謝してもし切れない位なのだが、なんとも複雑だ。
というのも、菓子屋のおばさんや材料を買いに行った店でのおじさん、おばさんの悉くが「あついね~」やら「ダンナのコレかい」などと声をかけてきた。普段見かける笑顔とは違うニヤニヤという言葉が当てはまるような顔のおかみさんや、果たして此方でも通用するのかと言いたい小指を立ててウィンクする親父さん。そして、そのひとつひとつに噛み付いていく桂花。
……何があったかなんて普段の桂花を知っている者であれば容易に想像できるだろう。
おかげで決まって最後は「がんばって」だの「コレを夕食で」などと、数や量をおまけしてくれた他に、明らかに菓子には使うとは思えない、いやそれどころか……忘れよう。
まぁ、なんというかそんな壮大な誤解を与え、多大な疲れと材料を抱えて城に戻った。と、そういうわけである。
城に戻ってそのまま厨房へと向かった。そして机に買ってきた材料を置き、周りに目を向ける。事前に話をしてあった事もあり必要な器具は既に準備されてあった。そのことに感謝しつつ、先程から静かなままの桂花を見る。
今まで厨房に入った事がないと言ってた桂花は器具の一つ一つを手にとって見ていた。「ほー」とか「へ~」などと言いながら、手に取った器具にはどんな用途があるか想像しているみたいだ。
「んじゃあ、まず手を洗いますか」
――――さて、仕切りなおして始めようか。
<side一刀 終>
<side桂花 始>
手作りでゴマ団子を作ることになって、材料を揃えて厨房まで来た。
初めて入る厨房にはやっぱり始めて見る器具があり、それがどんな用途で使うものか簡単に想像できそうな物もあれば、皆目検討がつかないものまである。
店での話を聞く限りだと簡単にできそうだから、ここまで器具が揃っているなら完成させるのは容易いはずだ。
あまりに簡単に作れそうだから、
「もっと難しいものでもいいのではないか」
と言ったら、コイツは
「桂花は料理するの初めてなんだろ? 今日は簡単なのにしようぜ」
なんて言うのだ。まぁ、一理あるなと思っていたところ、店の売り子から……いや、忘れよう。そもそもコイツがあんな態度をとるから在らぬ誤解を受けるのだ。そうだ、こいつのせいだ。
「んじゃあ、まず手を洗いますか」
そう言いながらコイツは手を洗い始めた。私もそれに倣う。
悔しいけど料理をしたことがあるというコイツの指示に従うことにする。軍師として失敗する可能性を少しでも減らすことは常道なのだから。
えっと、まずは……2種類ある粉を混ぜるんだったわね。
袋の封を―――
「ちょっ、桂花待って!」
「はぁ? ―――うわっぶ」
袋を開けて、そのまま器に移したら粉が舞った。……まぁ、少し顔に付いちゃったけど、これくらいは失敗に入らないでしょう。
さて、もう一つの袋を―――
「桂花? 粉を細かくするの忘れてるって。あと、も少し落ち着いてな」
そうだった、私としたことがちょっと気が早かったかしら。
…………
……
…
よしっ、次はコレに水を入れる、だったわね。
「桂花、水を入れるときは少しずつな」
いちいちうるさい。判ってるわよ! と言うのは後にする。今は他の事に構ってられない。
「耳の柔らかさ……ね? でも、そうは言うけどそんなの人それぞれじゃない」
作り方に有る耳のやわらかさという曖昧な基準に戸惑う。とりあえず自分の耳を触ろうとしたところで、手に粉が付いたままであったことに気付き、手を洗うことにした。
ふにふに、と自分の耳の触る。意識して触ったことは初めてだけど、なんというか不思議な感じね。
さて、耳の感触を覚えているうちに生地を仕上げましょうか。
…………
……
…
「こんなところかしら?」
形になった生地を見て完成したわけじゃないのに、少し達成感のようなものを感じて自然と頬が緩む。
「こっちは準備できたわよ?」
「わかった。こっちはあと少しだからちょっと待ってて」
生地が私で、餡はコイツ。最初、全部私が作ると言ったのにコイツときたら、
「餡と生地が在るんだから、分担しよう」
と言って、餡を作り始めた。作り始めた手つきを見たら、作り慣れてる感じは見られなかったけど、言うだけあってたどたどしさは無かった様に見えた。
はじめ、こっちを見ないで指示してきたときは、適当言うな! と言いたかったけど、その次からもその場に適した指示やら注意をしてくるのだから、よく周りが見えてるなと、関心したものだ。……ちょっと意外だったけど。
――――さて、コイツから失敗を指摘されるのは癪だし、より完璧を追求しましょうか。
むにむに
むにむにむに
むにむにむにむにむに
……なんで、上手くできないのよ。ただ丸めるだけなのに。
コイツの準備した餡、私の準備した生地。ここまでは完璧。
あとは団子にして、ゴマつけて、揚げるだけだ。
ふふん、なんだ簡単じゃないお菓子作りなんて……なんて思っていたのだけど。
「……桂花ってもしかして不器用なのか?」
その掛けられた声に思わず肩が上がる。これでは肯定しているのと同じだ。
「なによ!? そんなことい……えっ?」
苦し紛れの口撃もコイツの手元を見て途切れる。
そこには、綺麗に整えられた杏子ほどの大きさの団子。
それに引き換え私の手元には、私の拳よりやや小さいくらいの餡がはみ出ている団子。
――明らかに私のより綺麗に仕上がっている。
「別に団子なんて、食べてしまったら一緒じゃない!?」
同じ生地と餡で作ったのだからある意味では正しい。だけど―――
これはただの負け惜しみ。それが判ってるから悔しい。
直せど直せど小さくなることは無い。何度やっても杏子大の大きさにならずにどうしても拳大の大きさになってしまう。
上手くできないのが情けなくて――
こいつに負けるのが悔しくて――
コイツに料理できないと思われるのが嫌で――
―――――なんだか泣けてきた。
涙が出そうになったから、俯いて前髪で隠す。
ああ、ほんとうになにやってんだろ 私……
<side桂花 終>
<side一刀 始>
桂花の様子がおかしい。
下を向いて団子を整えようとしている……みたいなんだけど、さっきから手は止まったまま。
掛ける言葉も浮かばず、熱かったか? なんて我ながら白々しい台詞を吐く。もっとマシな言葉を選べと自分に言いたい。
「餡がはみ出てるときはな」
結局、無い頭使って考えても解決法は出てこない。とにかく目に付いた団子が気になった。
桂花の手の上にある団子に手を添える。桂花は変わらず下を向いたまま。
「な?」
出来る者にしては一瞬、でも出来ない者には……
手を加えたものをこれまで団子の形にしたモノと同じように並べた。そして、自分の感覚で生地を取り桂花の手に乗せた。
桂花の手に自分の手を添えて団子の形を作っていく。
「……なんのつもりよ、こんなことして」
視線を動かさないまま桂花は声を出す。でもその声は震えていた。
「なんでも? それにしても桂花は団子作るの上手いな」
なんとも無いように言った言葉に桂花は勢いよく顔を上げた。
「なによそれ! 莫迦にしているの!? 嗤っているんでしょう、こんなことも出来ないのかって!!」
「違うよ。少なくても俺が始めて団子を作ったときより上手い。これはホントだ」
「でもっ!!」
「確かにその時は今の桂花より年は幼かったけど、生地も作れなかったし餡も当然作れなかった。何回も作って漸く今に至るわけだ。だからさ、初めて作ってこれだけ出来るんだから、同じ数こなせば俺より上手くできるだろ? だったらもったいなくない?」
「……」
「なんて、思ってたりするんだけどね……んじゃ、続きやりますか?」
と、言いつつも桂花がいったことを考えていた。確かに自分でも経験在るけど、同じくらいの人が出来て自分が出来ないことは悔しい。
それに、これは他人がどうこうするものではなく自分でなんとかするものなんだから。
まぁ、もっと上手く立ち回れることが出来たら変わったのかもしれないけどさ。
………上手くいかないな。
…………
……
…
気を取り直して、適量の生地を取る。餡を包もうとしたところで声を掛けられた。
「……さっき、言ってたことはホント?」
その声は弱く、揺れている様だった。
「さっきって?」
「だから、あんたが初めて作ったときより上手いって」
「ああ。ほんとだよ」
「ふ~ん、そっか……そ、か」
少し元に戻ったかな? 声の調子がいつも聞くものになっている。
「……じゃあ、さっさと教えなさいよ」
そして、普段と同じ不敵不敵しい態度。ほんとに教わる気があるのか言いたくなる。
――――けど、不思議と嫌じゃない。
<side一刀 終>
<side桂花 始>
餡を生地で包んで団子を作り終わった。後はゴマを付けて油で揚げるだけだ。まぁ、少し餡が余ってしまったけど気にすることはないだろう。
揚げるのはコイツがやるから私は後ろで見てるだけ。あんなことがあったから私が団子を揚げたかったのに、コイツときたら
「料理が初めてで揚げ物は無理だよ。それに油が跳ねて火傷でもしたら大変だしさ」
と言って、一切私に触らせようとしない。…………なんかつまんない。
時間に余裕が出来た時などいつも書を読んでいたから、何もせずに見てるだけというのは間を持て余してしまう。
さっきのことがあったから話し掛け辛いし、コイツの背中ばかり見ていてもしょうがないし……
結局、静かに席を立って足音を立てずにこいつに近づいた。初めて料理を作るのだ。自分が作ったものがどんな風になっていくのかは見届けたい。
「今は何しているの?」
「ん? ああ、ムラができないようにしてるんだ。見た目は大事だからね」
そう、とだけ返して、そのまま鍋の中を見る。バチバチと音を立てている黄色い油と徐々に狐色になっていく団子。
別にそれ自体は珍しくもなんともないし、今まで売られているゴマ団子を見ても何も感じたことはなかった。でも、今鍋の中で泳いでいる団子はとても綺麗だ。そして、変わっていく団子を見ているのが不思議と面白い。
そうして見ていたらあっという間に全部の団子が揚げ終わっていた。
――――――あ、あれ? い、いつのまに!?
揚げたことで大きさが一回り大きくなり、揚げる前とは違って皿の上には2段になったゴマ団子があった。
揚げる前は杏子くらいだったコイツの団子だって今では私の拳とほとんど同じくらい。もちろん私の団子だって大きくなって、お菓子なんて軽くつまめるような大きさではない。
片づけをしながら、少し団子が冷めるのを待つ。そして、片づけが終わったときには触ったときにちょっと熱いかなと思うくらいの温度になっていた。
机に座り皿の上にあるゴマ団子は売られているものと比べると不恰好で大きいけど、すごくおいしそうに見える。
その中でも一番不恰好な団子を取った。きっと、最初に作ったやつだ。初めて自分が作った団子なんだから、やっぱり一番最初に作ったものから食べ始めたい。
その大きさを前にどうやって口つけようかと眺めていると、ふわっと香ばしいゴマの匂いがした。
作っているときはあまり意識しなかったけど、こうして匂いを嗅いでいると唾が出てくる。
「うん、おいしいな」
自ら作った団子を半分ほど食べ顔を綻ばせている奴が見える。
「じゃ、じゃあ、私も」
ちょっと凸になっているところを齧る。
「―――おいしい」
自然と言葉が零れた。この団子の生地を私は作ったんだ。うん、上出来ね。流石、わたし。
「団子の皮、ちょうどいい感じだね」
「ふん、当然よ。アンタの餡だってなかなかじゃない」
こんなやり取りだって、楽しい。
漸く最初に手をつけた団子が食べ終わった頃、コイツは言った。
「どうだった? 手作りは」
もう1つと手を伸ばしていた手を引っ込めながら応える。
「ま、まぁ、悪くないわね。楽しかったし」
「そっか。だからさ、手作りのもらうと嬉しいだろ? 簡単なものでもコレだけ手が掛かるんだから」
……そうだった。これは「ばれんたいん」とはどういうものかということでお菓子を作ったんだった。
「た、たしかにそうだけど、でも実際に作りはしても貰いはしてないから――――」
「おぉ、そういえばそっか。んじゃま」
そんなことを言いながら、徐に1つの団子をつまんだ。それは他の団子の揚げる前の大きさ位の物だった。
「お一つどーぞ」
その小さい団子を私の口元まで持ってきた。
「いらないわよ、自分の分食べるだけで十分だわ。……大きさが違うだけでしょ?」
「いや、コレだけは違うんだ。ちょっとね、餡を変えてみた」
「ふ~ん」
そういうことね。なんとなく視線を少し残っている餡をみた。
……さて、餡を変えたと言うがいつの間に準備していたんだろう。少し興味がないこともない。
「じゃあ、食べてあげる。はい」
その小さい団子を受け取ろうと手を出したけど、それは未だ私の口元にある。
「はい、あ~ん」
…………は!?
いや、ちょっと!! 待ちなさいよ! なんなのよこれは!?
「あんたなっ―――む」
口に広がるのはゴマの香りと、なんだろう? もう少しで名前が出てきそうなんだけど……
―――って、そうじゃないコレは一先ず置いて。
「あんた……」
「まぁまぁ、食べてからね」
「むぐむぐ」
確かに食べながら話すというのは品がない。だから、精一杯目で文句を言ってやる。
それでも私の視線を気にも留めずに、こいつは私の作ったゴマ団子を眺めていた。
「なぁ、桂花の団子一個ちょうだい?」
「さっきから意味わかんないことばっかね、あんた。だいたい味は一緒でしょう」
「まぁ、そうだけど。でもバレンタインだから女の子からもらえると嬉しいんだよ。桂花みたいな可愛い女の子からだと特にさ」
なんてことを言うのか、流石に面と向かって言われると……その――
「そんなに欲しいならあげるわ。ちょっと大きいから全部食べきるのも大変だし」
「ありがと」
そして、私の団子を手に取り口へと運んだ。
―――――って、待ちなさい。その指は私のっ!
しかし、なんと言ったらいいんだろう。
止めさせるにも「私の唇に触った手で食べ物を食べるな?」 これだと、私が意識してるみたいで嫌だ。それとも、「ちょっと、手が汚れてるわよ」 いやいや、私の唇が汚いなんてないし。
そんな私の葛藤も知らず、こいつは何かを気にすることなく平然と団子を食べ始めたのだ。
「不思議だ……味は変わらないはずなのにこっちの方が美味い」
あっという間に一個を食べ終わり、団子のゴマが指についていたんだろう赤々とした舌でそれを舐めとっていた。
―――――ということは、つまりは、そういうことで…………
「あぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああぁ」
どんどんこみ上げてくる恥ずかしさと熱で、すぐに此処から離れた。
聞こえてくるのは莫迦なことを言ったあいつの声。
あいつが何を言っていたかなんてどうでもいい。
まして、指を舐めて「こっちの方が美味い」って、何言ってんのと鼻で笑ってやる。
――――――――次に会った時に。それまで「覚えていなさいよ」
Tweet |
|
|
30
|
4
|
追加するフォルダを選択
この作品は真・恋姫†無双の二次創作です。
そして、真恋姫:恋姫無印:妄想=1:1:8の、真恋姫の魏を基に自分設定を加えたものになります。
ご都合主義や非現実的な部分、原作との違いなど、我慢できない部分は「やんわりと」ご指摘ください。
続きを表示