No.1149249

「くだんのはは」(7/11)~鬼子神社事件始末~

九州外伝さん

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【ご注意】
この物語はフィクションです。実在または歴史上・の人物、実在の団体や地名、事件等とは一切関係ありませんのでご了承下さい。
●作中に 小松左京・著「くだんのはは」のネタバレおよび独自の考察が含まれます。ご都合が合わない方の閲覧はご遠慮下さい。
●日本の歴史、主に太平洋戦争について、やや偏見に伴う批判的・侮辱的な描写がございます。苦手な方は閲覧を控えて下さい。

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2024-08-02 09:49:12 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:56   閲覧ユーザー数:56

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 突然の頼み事だったにも かかわらず、大金寺の『寺主』最澄僧侶は鬼子達からの依頼を二つ返事で受けると、「翌早朝にも来てくれ」というスピード感でこれに応えてくれた。

「いやぁ、タネを明かすとね、菊一くんから連絡を受けるまでもなく、オレも今回の連続殺人事件の事は色々とあたってたんスよ」

 中小企業の会計係か町工場の社長のような服装で、妙に砕けた物言いをする40半ばほどの この男、一見して僧侶には見えない。

 それもそのはずで、今の彼の主な仕事は悪徳宗教団体の被害者救済を目的としたNPOの役員である。

 

 元々、彼の父親である大金寺先代住職というのが絵に描いたような悪徳坊主で、悪どいやり方で檀家から金を巻き上げるような金の亡者だった。挙句の果てには詐欺と恐喝で逮捕・実刑にまで至るのだが、皮肉にもそれを機に 放蕩息子だった最澄青年は僧となる決意を固める。

 以後、父の被害者となった檀家衆への贖罪に精を出す傍ら、同じような被害に遭った人々のサポートやインチキ宗教の糾弾にも関わるようになった。

 しかし、鬼子たちが彼と知り合ったのは、直接的な形ではない。

 最澄氏の傍らに控えている若い僧侶…『裏高野』退魔師《孔郎(くろう)》。彼こそが、鬼子たち本来の知人であり、いくつかの事件で その助力を得ている『仲間』である。

 『神』となって まだ日の浅い鬼子も、神主である菊一も、仏教方面の神や魔物には さほど造詣が深くない。そんな彼女達が、とある悪霊がらみの事件で偶然に孔郎と関わり、その関係で彼の協力者の一人である最澄とも縁が出来た、という形になる。

 最澄自身は霊能力等は ほぼ皆無であり、僧侶としてもまた未熟なのだが、孔郎の師である今世最強の退魔師・K阿闍梨(あじゃり)とは若い頃からの知己であり、本人曰く「Kさんの1のファン」だそうで、かの人と共に何度かの修羅場を切り抜けてきた間柄でもある。その愛弟子である孔郎にも何かと世話をやいてくれる良き兄貴分として彼から慕われ、頼りにされていた。

 そのため、鬼子たちも必然的に最澄と顔を合わす機会が多くなり、今では時々こうして相談に乗ってもらっている。

 

「こういう事件があるとね…まあ、今回はホトケさん(事件の犠牲者)がホトケさんだ、やれ仏罰だ神罰だ、前世の因縁だ因果応報だと、それっぽい事を言って自分トコの宣伝に利用しようって不埒な教団が わんさと出てくるんでね」

「いつもの事じゃが、終わっとるな、日本の宗教法人認可制度」

「まあ、そんな事する連中ってのは、たいてい迂闊なもんでね。そういったところからボロが出たりするんで、ウチの団体としちゃあ むしろ有難いってもんです。

 でも、昨日の電話の後でピンときたのは、そういう連中とは また別の団体でね…」

 そう言って最澄はノートパソコンの画面を見せた。

「上の顔写真が、今回の事件の犠牲者。そして下が、とある新興宗教の教祖。コイツは最初の事件前後から、表立って姿を見せなくなりました」

「なんというか、コレは…」

「みんな、どことなく雰囲気が似てますね…」

 頭の左右を刈り上げたツーブロックの髪型、角ばった鼻立ち、唇の薄い小さな口、神経質そうな目付き…瓜二つという訳でもないが、その気になって見れば兄弟と言われても通りそうである。

「でしょう?

 でもね、コイツん所は別に、今回の事件についてコメントとかは出してないんです。まあ、自分のところが本当に関わりがあったら、できるだけ その話題には触りたくないと思うのが人情ですからね。逆に怪しいってわけです」

「でも、自分からアクションを起こしていない団体なのに、よく見つけられましたね」

 菊一がそう言うと、最澄はニヤリと笑って答えた。

「実はね…この教団は、元々マークしてたんスよ。

 こいつらは表向きは『新興宗教』…まあ実際に宗教法人登録されたのは30年ほど前だから、新興宗教には違いないんですがね。でも、実際は違う。戦時中に解散した『降神道場』っていうカルトが前身になってて、ここはその再興なんです。現教祖も当事の教祖の玄孫(やしゃご)で、当事『生き神様』と呼ばれてた組織のシンボルの曾孫(ひまご)です」

「降神道場~?」

 その名前にレイコが反応した。

「なんじゃミタマモリ、知っておるのか?」

「いいや、他所の世界線の話だ。いくつかの世界線に同名の組織があって、『神降ろし』と称して人為的に悪魔憑きの人間を作る実験をしてた事と、終戦の少し前に解散してるという点で共通してる」

「ビンゴですよ!」最澄が指を鳴らした。「オレが調べたのと一緒です!まさに、『降神道場』の教義というか、目的が『人の体に神を憑依させて、その知恵と力を使って世界を統一する』というものだったんです。

 その一方で、最初に『生き神様』になった初代教祖の息子っていうのが、まるきり悪魔憑きでね。ほとんど言葉も通じなければ、人間とは思えない力で暴れ出したりと、手がつけられなかったそうです。教団が解散、というか分解したのも、初代教祖である父親が死んで、もう どうしようも なくなっちゃったから みたいです。

 …そうか~、他所の世界でも、同じ事やらかしてたんだ…。全く、悪い奴らほど世にはばかるモンっすね~」

「で、その『降神道場』の継承団体って事は、ここも『神降ろし』…『悪魔憑き』の実験を?」

「そこはそれ、現代日本で同じ事やっても、イカレた連中としか思われませんからね。

 教義自体は おおまかに継承しつつも、『神降ろし』は秘伝中の秘伝って事で、表立っては それをする事を目的には掲げてないんですよ。それどころか、信者からも無理な集金をしたり、常識から逸脱した掟を強いたりもしていない、表面的には比較的まっとうな宗教団体なくらいです」

「それでも、最澄どのがマークしとったくらいじゃから、何か裏があるんじゃろ?」

「もちろんっスよ、鬼子ちゃん。

 実は、『降神道場』が団体として解散した後も、教祖の一族は『神降ろし』の研究を続けてたみたいなんス。

 その『成果』は存外早く出たみたいで…初代から数えて曾孫に当たり、最初の『生き神様』の孫に当たる先代の教祖が、『神降ろし』の儀式によって2人目の『生き神様』になってるらしいんです」

「また、悪魔憑きに?」

「それが、です。その先代教祖、先天的な身体障害こそあったんですが…いや、子供の頃は知的障害すらあったみたいですが、『神降ろし』以降は異常なほどの知性を発揮して、瞬く間に現在の組織の礎を築いてしまったんです。

 そして、どうも その異常な知性で、《大日本宗教審議協会》の爺さま達に、取り入る事に成功したらしいんス。

 なんでも、その語るところに『人の知り得ない、神の領域の知識』だか何だかが あったとかなんとか…」

「うわ、うさんくさ~」

「まあ、そう思うっスよね、普通w」

 至極当然な鬼子の反応に、最澄は苦笑しながら鼻をかく。

 

「まあ、胡散臭い噂話で済めば良かったんですけどね…」

 そう言ったのは孔郎であった。その、いかにも困ったような表情に、一同はそれが笑い話で済ませられない話だと否が応もなく気付かされる。

「この話が師匠から裏高野の座主(ざす/最高位の僧)様にも伝わって、内密に調査が入ったらしいんです。その結果、《協会》から内々に、現教団に かなりの額の不明金が流れているらしいと…」

「あのオカルトかぶれのハナタレどもなら、やりかねん話ですな」

 日本の宗教法人の認可に絶大な発言力を持つと言われる宗教研究者団体の、その長老たちをつかまえてハナタレ呼ばわりするレイコ。 さすが《神》ともなると、生きている人間の権力に対しては恐いもの知らずである。

「結局、あいつらも『帝国時代の再現』っていう夢物語から脱却できねェンだ。

 常識や価値観・世界観の基礎となる『宗教』を支配する事で、国民全員を駒(こま)として動かせる。そんな時代から ちょっとだけ生まれてくるのが遅かった連中の、子供じみた憧憬です。

 そういった連中にとって、何らかの利用価値があると見なされたんでしょう」

「あるいは、その先代教祖とやらに、何か弱みでも握られたか…ですね」

 一同はコクリと頷く。おおむね、全員の考えは一致しているようだ。

「どちらにせよ、現に大金が教団に転がり込んでるってワケです。

 その一方で、表面的には特にハデな活動をしてる団体ってワケでもない。むしろ おとなしすぎるくらいです。

 となると、その金は『裏でやってる何か』に使われている、と考えるのが筋でしょう?」

「おっしゃる通りじゃ」

「でも、そうなると少々厄介ですね。裏高野の間諜(スパイ)でも、表沙汰に出来るほどの確証は得られなかった訳でしょう?

 『教団の裏の顔』には、かなり分厚い守りが布(し)いてあるって事です。その奥底にまで足を踏み入れるとなると、正直、私達の力ではどうにもならないのでは…?」

「そうでもないよ」

 菊一の心配に対して、レイコは事も無げに言ってのけた。

「別に『教団』を相手にする必要は無いんだ。こっちは たった一人の人間に会うだけでいいのさ。

 

 …たかだか『人間』一人にな」

 

~~~◆~~~

 

 ビルの出入り口から大小二人の人影が駆け出すと、孔郎は大型ワゴン車の後部座席を開けた。

「ひゃ~~~!!酷い雨じゃ!!」

「お疲れ様でした」

 車に乗り込んだ鬼子と菊一にタオルを渡しながら、孔郎は急いで扉を閉める。傘を鬼子の上に差し出していたせいで菊一の方は ずぶ濡れだったが、その努力も空しく、鬼子の方も髪といわず着物といわず かなりの水っ気を吸ってしまっている。

「で、どうでした?首尾は」

 運転席から最澄が声をかけた。

「まー…可も無く不可もなく、じゃな」

「ひとまず『名刺』は無理矢理置いてきましたんで…あとはミタマモリ様からの連絡待ちです」

「文字通り、運を天に任す、ですね」

「あいつが『天』なんてタマか」

 孔郎の言葉に鬼子が毒づく。

 

「それにしても、新興宗教とはいえ、感じの悪い事務所でしたね」

 うんざりしたように菊一が言った。

「天照大御神様と、歴代の天皇陛下の御名前、あるいは肖像画なんかは壁に整然と並べられているのに、昭和天皇陛下から今上天皇陛下までが影も形も無い。まるで『人間に格下げされた天皇など用は無い』とでも言わんばかりだ」

 菊一の憤慨も無理はない。《天皇》というのは、今日(こんにち)日本国の象徴であると同時に『日本の神職の最高位』だ。神主の菊一にとっては はるか上の上司であり、尊敬と畏怖の対象である。

 同時に、彼が仕えている神の名前は『多縫喜守 日本鬼子』である。

 このうち『日本/ひのもと』は『太陽の下』という意味だ。それが『神の名=その神の性質』に入っているという事は、つまり鬼子が『太陽神/天照大神の下部/僕(しもべ)』に位置しているという事である。

 このため、鬼子、同じくレイコも、天照大神に対しては絶対的な忠義を貫く立場である。と言うよりも、『宇宙の摂理として そのようになっている』というレベルで、天照大神の意向に反するような行動を取る事は不可能と言ってよい。

 その天照大神の末裔にして その長・天皇にも、そこまでの権限や強制力こそ与えられていないが、下界の『人間』で唯一、鬼子やレイコに命令を下す『権利』を有している。

 仮にも《神》の立場にある鬼子やレイコが、唯一 頭を下げなければならない『人間』こそが《天皇》なのだ。

 そういう意味で、菊一にとっては『自分が仕えている主人と同等か それ以上』の立場にある人物でもあり、それを蔑ろにされるのは二重の意味で憤懣(ふんまん)ものである。

 

「まあ、自分で宗教を興そうなんて輩は、神や仏ですら『自分の得になるか ならないか』で判断しとるような奴らじゃろ。真面目に相手をするだけ疲れるだけじゃ。気にするでない」

 既に諦観しているのか鬼子はそう言ったが、そんな事を言ったら真言密教の開祖・空海だって『自分で宗教を興した』うちの一人である。『裏』とはいえ高野山の僧である孔郎の前で、そこまで言ってしまっていいものだろうか。

「それは、まあ…あの『名刺』を見ても、何の反応も無かったですもんね。

 『裏の顔』を隠し通すくらいだから、事務職員にも霊感持ち くらい配属してるもんだと身構えてたんですけどね…」

「えっ!」孔郎が思わず声を上げる。「アレを見て、何のリアクションも無かったんですか!?」

「まあ、ゴミくらいにしか思ってない目付きじゃったの。実際、帰り際 ワシらの見てないところで くずカゴに捨ててたし」

「アレをですか…封印も付けずに、ただ くずカゴに…」

 そう言うと孔郎は思わず合掌してしまった。会った事もない事務員の身を案じているのだろう。

「ま、奴(やっこ)さん達には気の毒な事になるかも知れないが、これで事件は解決…いや、警察からしたら迷宮入り、かな…ま、まあ、それは決まったようなもんだ。あとは なるようにしかならんさ」

 ハハ、と最澄はカラ笑いをして、景気づけのために わざと大声で言った。

「よし、じゃあ、みんなでメシでも行くか!!池袋の中華!!」

「わーい池袋!!鬼子、池袋大好き!!」

 元・華僑の家に住む精霊である鬼子のテンションが爆上がりした。

 

~~~◆~~~ ■■■(六の段終わり)■■■


 
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