No.110798

真・恋姫無双激闘編④~徐公明推参!~

激闘編4弾です。とりあえず週1ペースを守れてひと安心の作者です。
最近寒いですー!

2009-12-06 12:50:11 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7167   閲覧ユーザー数:5974

「撤退と決まれば、勢いに乗って追撃してくるであろう劉備軍を食い止める殿を決めなければなりません」

軍議の進行役である市が深刻な面持ちで諸将に告げる。

「この任務は危険を伴いますし、討ち死にも必至―――」

「ウチがやる!」

市の説明を遮って真っ先に挙手したのは霞だった。しかし市は首を横に振る。

「駄目です。霞殿は確かに戦の経験豊富ですし、うってつけですが・・・あなたの騎馬隊は今後の戦いでも必要になります」

「では私が―――」

「沙和がやるのー!」

「楓も沙和も却下。2人はこのまま鄴城に入って南皮城の袁譚とその兄弟、袁煕・袁尚の袁家残党の討伐にそれぞれ楓が総大将、沙和が副将として出向いてもらうから」

口を開いたのは上座に座る舞人だった。さらに彼は続ける。

「この任務、俺は凪に託したいと思う・・・やってくれるか?」

敬愛する隊長の問いに、凪が返した答えはここで書くまでもないだろう。ここでは彼が凪にかけた激励の言葉だけ記す。

「凪・・・許昌で会おう。必ず生きて帰れ!」

馬廻り200騎とともに戦線を真っ先に離脱した舞人の後、織田軍は市の指示で順次戦場を離脱することになった。舞人の本隊のうち騎馬隊は霞の部隊に預けられ、彼女の隊は舞人を追うように2番手として撤退を開始した。

「霞殿の隊は機動力が高いですので、主殿が敵に捕捉されてもすぐに救援できるように」

というのが理由。次に撤退するのは冀州の鄴にむかう楓と沙和の隊で、これに本隊の槍・弓隊の9割7分を振り分けた。それに続くのは荷駄隊と残りの本隊を率いる市。彼女には殿の撤退路に兵糧などの支援物資を設置するという任務があった。そして凪が殿として退く。

これが市の考えた撤退プランである。さらに彼女は楽進隊支援の為にあらかじめ仕掛けてあった策を起動させた。

「とりあえずこの策で劉備本隊の後詰は遅らせれると思うけど・・・」

市の憂いの籠った瞳は遥か向こうで関羽・趙雲の率いる追撃部隊との戦闘を開始したであろう凪に向けられていた。

「凪殿・・・生きて、戻られよ・・・」

「退けっ、退けー!」

追撃部隊の総大将・関羽は織田軍の殿である楽進隊の奮戦に部隊が崩され、体勢を立て直すべく一時撤退の号令を下した。退くこちらに目もくれずに逃げていく敵兵達に悔しげな一瞥をくれて馬首を返す。

「どういうことだ?朱里の策ではここで桃香様の本隊が追いつくはずではなかったのか!?」

楽進隊を補足した山道から兵の再編成ができる平野まで退いた関羽は苛立ちまぎれに副将の趙雲に詰問した。

「愛紗、すこしまずい事態になった。恋の下邳城が孫策に敗れた厳白虎と劉繇(りゅうよう)の連合軍に奪われたそうだ」

「なんだと!?」

下邳城は劉備の居城・彭城防衛の南の最重要拠点。その城が奪われるとは・・・!

「連合軍は彭城も狙っているという事か」

「ああ。桃香様は3万の兵と雛里達とともに彭城へ退却。朱里が援軍の1万3千を率いて総指揮を執るそうだ」

「にゃぁぁぁぁぁ!」

「うおっ!このっ!」

200騎の馬廻りとともに逃げる舞人だが、彼の前に思わぬ敵が立ち塞がった。

「ったく!お子ちゃまと遊んでる時間はないってのに!」

「鈴々は子供じゃないのだー!」

丈八蛇矛を自在に操る劉備軍が誇る万夫不当の豪傑・張飛。彼女の率いる部隊が舞人の前に立ちはだかったのだ。

舞人と張飛は一騎打ち、兵達もお互いの主の目的の為に戦いを始めた。

舞人は魏軍(漢軍)内でも屈指の武人である。剣術では夏候惇に勝り、弓術でも夏候淵に並び、知略でも筆頭軍師荀彧に勝るとも劣らない。それほどの武人である彼だが、張飛はケタ違いの武人であることは認めざるを得なかった。彼女との一騎討ちはじわじわと均衡から劣勢に追い込まれていった。

そしてついに―――

「しまっ―――」

舞人の愛刀・『雲台仲華』が張飛の蛇矛に弾かれる。

「もらったのだっ!」

勝利を確信した張飛の蛇矛が舞人を貫く―――かに思われたが―――

ガキィィィン!

張飛の蛇矛の軌跡を、阻んだ者がいた。

白の頭巾をかぶった、季衣や流琉くらいの身長の少女。舞人を庇うように立ちはだかった彼女の手には、得物の大斧が握られていた。

「大将!お怪我は!?」

「無事だ!助かったぞ!」

舞人はすぐさま刀を回収して張飛に相対するが、少女は背を向けたまま撤退を促す。

「大将は逃げてくれ!張飛はオレが足止めする・・・大将はこの後の戦に必要な人だからな!」

「っ!すまない、後は任せる!お前の名は!?」

舞人はひらりと騎乗し、張飛と相対する少女に名を問う。白頭巾の少女は日焼けした健康的な顔を向けて名乗った。

「オレは徐晃!字は公明だ!」

「むー!お兄ちゃんが逃げちゃったのだ!」

頬を膨らませて地団太する張飛。徐晃はベーッと舌を出して笑う。

「残念でしたー!こっからはオレと戦ってもらうぜ!」

「望むところなのだ!」

お互いの得物を構えて対峙する2人の少女。いざ、一騎打ちをせんとしたその時―――

「張飛様!撤退しましょう!」

「にゃっ!?」

張飛隊の兵がその一騎打ちに待ったをかけた。彼は慌てたように「あれを!」と彼方の方に指を向ける。

その指先にあるのは無数の旗。その旗に描かれているのは―――紫紺の『張』旗。

本隊救援の任を負った張遼隊がようやく追いついたのだ。

「お兄さん、御無事でしたかー」

織田軍撤退開始から数十日後、舞人は13騎の兵と共に許昌の門をくぐった。その彼を待ち受けていたのは普段通りボンヤリとした風だった。しかしその中にも安堵の表情も混じっているのは気のせいではないだろう。

「他のみんなはどうなってる?何か情報は入ってないか?」

彼が真っ先に気になったのは殿を務めた凪をはじめ残してきた諸将のこと。風は「安心してくださいー」と飴をなめながら告げる。

「霞ちゃんは5日後にもここに戻ってきますし、楓ちゃんと沙和ちゃんは鄴に入りました。市ちゃんも凪ちゃんも損害は受けましたが無事だそうですー」

「そ、そうか・・・」

鎧を脱ぎ捨てた舞人はフラフラと部屋に向かう途中で―――ふと思い出した。

「風、俺の本隊に徐晃って奴がいたんだが・・・知ってるか?」

「知ってるも何も―――」

クフフ、と口に手を当てて含み笑いをする風。

「こんな事もあろうかと、風がお兄さんの隊に付けたんですよー?」

「は?」

「お役に立ちましたかー?」

キョトンとする舞人を面白そうに見上げて、風は笑った。


 
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