関羽の合図と同時に、先に動いていたのは張飛だった。
(つーか…あんなちびっ子があんなデカイ武器を軽々持ってる時点でおかしいだろ!攻撃喰らったらやばそうじゃねーか!)
ロイドの言うデカイ武器とは、張飛の武器と言えばこれだろう、と言われるほどおなじみの蛇矛(だぼう)と言われる武器だ。
柄が長く、先の刃の部分が蛇のようにくねくねと曲がっているために蛇矛と呼ばれている。
長さは約4.40m、(一説には6m以上)で、刺した時に敵の傷を更に広げてダメージをより大きくする事が目的の武器だ。
今回は試合なので突きはない…とはいえ、こんなに大きな武器の一撃を受けたらほぼアウトだろう。
「うりゃーっ!」
(速え!)
フォン!と張飛がロイドめがけて一閃した。
「ぐっ!」
ロイドは咄嗟に受け止めたが何せ力の差が明らかだった。張飛の力に耐え切れず、そのまま吹っ飛んでしまった。
「…なんつー馬鹿力だよ」
吹っ飛び終わり、地面にズザザッと着地(?)した後、思わずそう呟いてしまった。
「あれー?お兄ちゃんもう終わりなのかー?」
つまんなーい、と言った感じで張飛はそう言った。
「へっ!まだまだだぜ!」
その言葉を聞いて少女はにんまりと笑い、そして再び攻撃を仕掛けてきた。
(落ち着け…まずは相手の動きを見切るんだ…)
ロイドは冷静に張飛に対応していた。
あの馬鹿力を見せ付けられ、そして迫ってくる張飛に臆す事は無かった。
世界再生の旅をしていた中で魔物やディザイアン、クルシスの天使達を相手に鍛えられてきた動きが、経験がそれを物語っていた。
「うりゃりゃりゃりゃりゃー!!」
ブン!フォン!フォォン!!
(見えてるぜ…今度は!)
今度は連続で斬り付けてきた…が、ロイドもその動きに対応して、しっかりと避けていた。
「うにゃっ!?」
「へへっ、甘いぜ!」
ロイドはしてやったり、と言う表情で、対する張飛はあれ?避けられた?と言うのが顔に出ている表情をしていた。
「あの鈴々の攻撃を一回受けただけで攻撃を見切るとは…ロイド殿、できるな…」
と関羽が素直に驚き、
「ロイドさんすごいすごーい!」
と劉備は興奮していた。
「よっしゃ!次はこっちの番だぜ!」
「かかって来るのだ!」
ロイドが負けじと鈴々に突っ込んだ。
「たあっ!はっ!でやっ!」
フォン!フォン!フォォンッ!
ガキィン!キィン!ガキキィンッ!
「うにゃっ!」
二回の斬り付けからの回転斬り。ロイドのいつも通りの攻撃だったが軽くいなされた。
(ふぅ…)
ロイドは一度落ち着くために深呼吸をし、そして母親の形見であるエクスフィアをちらりと見て、
(母さん…父さんを見つけるためなんだ…俺に力を貸してくれ…!)
と、母に祈るようにすると、それに呼応したかのように力が漲って来るのを感じた。
「さあ行くぜ!喰らえっ!魔人剣!」
「うにゃっ!?」
地を這う、斬撃。
これには流石の張飛も驚いたのか、次なる斬撃をかわしながら距離を詰め、再び一気に攻撃を仕掛けに行った。
「あの馬鹿力だ…これ以上近づけさせるか!魔人剣・双牙!」
「また飛んでくるのだ!?…でももう見切ったのだ!」
迎撃にと言わんばかりに魔人剣・双牙を放ったが、今度は軽く避けられてしまった。
(避けられたか!…でもさっきから魔人剣なんかでスゲー驚いてるみてーだな…待てよもしかして…よし!なら!)
何か思いついたのか、ロイドは迫り来る張飛を見て迎撃の構えをとる。
(よし…そのまま詰めて来い!)
すると突然バッ、と張飛は飛んだ。
空中で攻撃を仕掛けるつもりなのだろうか、ロイドは瞬時に作戦の変更をし、上から来たる張飛を迎撃せん、とばかりに上を向いた。
「うりゃーっ!!」
少女の持つ蛇棒が勢いよくロイドに襲い掛かろうとした。
「裂空斬!」
今度は上から来る張飛に対して避ける、のではなく、あえて真正面から激突した。
先ほどの魔人剣を放った時に張飛から見られた驚きからロイドは、自分の特技はこの世界ではかなり効果があるのではないか…という仮定を立てた。
確かによく考えてみれば、地を這う斬撃に、獅子の形を模した衝撃、更に炎を纏った人間が回転斬りを仕掛けてくれば、普段見慣れているロイド達からすれば大した事はないが、そんな常軌を逸した行動を普通の人間の主観からすると相当のビックリ人間であろう。
ガキィン!
「うにゃにゃっ!?」
空中時の攻撃には隙がある。それは確かだ。
しかし逆に言うと、その瞬間を狙われなければ自分の体重+重力加速度+武器を振り下ろすスピードによる攻撃が可能になる。特に張飛のような(外見は幼女だが)類まれなる馬鹿力ならばその威力は計り知れないだろう。
だがロイドはその力が最頂点に達する前に裂空斬で空中での距離を詰め、早めに迎撃を試みた。
馬鹿力でかかられると流石のロイドも堪らなかったので烈空斬での攻撃を仕掛けた。そのために張飛は予想外の攻撃で怯み、力が緩んでしまっていた。いくら万人に匹敵する張飛でも油断している所を突かれれば常人とさほど変わらない。
「くっそー!お兄ちゃんやるなー!」
「へっへーん!お前が油断してるからだぜ~?」
「むーっ!油断なんか…」
「してねーってか?ならあんな攻撃も受けれるよなー?最初は良かったけどこの調子が続くなら俺に勝つなんて絶対無理だぜー?」
「むかーっ!」
完全に挑発を受けてしまった張飛はそのままロイドに突撃した。
当初の予定に再び変更し、張飛が罠に嵌るのをゆっくりと誘った。
張飛はどんどんロイドとの差を詰め、遂に攻撃射程距離内に達した。
同時にロイドも作戦のため、張飛に悟られないようにひっそりと身構えた。
「てりゃぁー!!」
再びロイドに自慢の一撃を喰らわせようとするが、ロイドは避けようとする素振りも見せない。
(どういう事なのだ?)
このまま攻撃が当たれば間違いなく目の前のロイドは吹っ飛び、負けるだろう。しかも確実に無事ではすまない。
しかしロイドはあせる様子も見せずにいた。
「これで終わりなのだっ!」
(今だ!)
「粋護陣!」
ガキィィンッ!
「うにゃにゃっ!?」
またしても、自分の攻撃が防がれた。
手で止められたのではなく、攻撃した瞬間にロイドの周りを「何か」が覆い、張飛の攻撃を防いだ。
しかも只攻撃を止めるだけではなく、攻撃した張飛をも弾き飛ばしていた。
張飛の重心が大きくズレ、その結果から生じた隙を見逃すはずも無く、ロイドは追撃にと一気に距離を詰めた。
(これで…終わりだッ!!)
「獅吼ッ!」
腕に力と、覇気を込め、力と覇気を獅子の形に具現化する技の名を叫んだ。
「旋破ッ!!」
一瞬何が起こったのか、張飛には分からなかった。
認識できたのは、自分の真上に広がっている青い空。
そして、自分が吹き飛んでいると言う事のみだった。
どさっ、と、張飛はそのまま地面に背を付けた。
「へへっ!どうだ!俺の勝ちだろ?」
「鈴々、どうだ?」
関羽が戦える意思があるかどうか確かめたが、張飛はまだ呆然としたままだった。
「………」
「鈴々ちゃん、どうしたの?」
「おーいちびっ子ー?」
そしてわなわなと震え始めた。
「何だ?おーいどうしt「すっごいのだーっ!!」
「ぐえっ!?」
突然張飛がロイドの腹のあたりに抱きついた(もといタックルした)。
張飛にすればじゃれているのだろうが、ロイドにとっては大ダメージであった。
「こ、こら鈴々!」
「ロ、ロイドさん大丈夫?」
「ああ…なんと、か。」
「お兄ちゃんすっごいのだ!最後のあの虎みたいなんがガオーって出たやつ!あれ鈴々に教えて欲しいのだ!」
ロイドにタックルした自覚もないのか、張飛は構わずロイドの肩を掴みガックンガックンと揺らしている。ロイドはあぁぁっぁあああぁぁあぁと情けない声を上げながら揺さぶられるがままにやられている。
「こらやめんか鈴々!(どさぁっ)ロ、ロイド殿!?」
やられ過ぎでロイドが倒れた。こころなしかうえっぷ、と船酔いかあるいはかなり酒に酔っている人が出しそうなモノを召喚してしまいそうな感じであった。
「ちょっ!?愛紗ちゃんこれまずいよ!?」
「と、とりあえずどこかに運びましょう!」
「じゃあ街の屋台かどっか行くのだ!」
「そこはお前が行きたいだけだろう!…あぁ、もうそこでもいい!行くぞ!」
「あ、愛紗ちゃん!待ってよう!」
「ご飯だー!」
ロイドはとりあえず三人に連行された。
「………殿…ロ…殿!…ロイド殿!」
「うぅ…何だ…?」
「よ、よかったぁ~…このまま目が覚めなかったらどうしようかと思ったよ~…」
どうやら自分は気絶した後運ばれたらしい、とロイドは判断した。
「おっちゃんおかわりー!」
張飛の高らかなおかわり宣言が発令された。
ていうか俺の心配しろよ、とロイドは思わずにはいられなかった。
「ってここ…飯屋か?」
「す、すいません…とりあえず運び込まねばと思い近かったこの場所で…」
「いやそれはいいけどさ」
「ロイドさん大丈夫?吐き気とかしない?」
「収まったな。多分」
自分の体に問題はもう無かった。
張飛にタックルされたときには危うく生死をさまよったが。
「御体の方が大丈夫なら…我々の話を少し聞いていただけはくれないでしょうか?」
「いいけど…話って?」
「うん…ロイドさんはこの世の中が今、どういう状況か知ってる?」
と、劉備は深刻なかおをしてロイドにそう尋ねた。
「どういうって…俺もこの世界に来たばっかりだからさ…」
「…今この国は悪政を敷かれ腐敗し、そのせいで民衆は餓え、そして罪もない人々が殺されていくという現実に突き当たっております」
「!それって…」
「はい。先ほども申しました通り、今の漢王朝は機能していないも同然。このままでは国が滅びるばかりか、多くの人々が無駄な死を遂げる事になるでしょう」
「なんだって・・・!」
ロイドは自分の中に怒りがこみ上げてくるのを感じた。
それは、人間の身体能力を極限にまで高めるエクスフィアが人間によって作られている、というのを知ったとき抱いた怒りと同じであった。
自分達のためだけに罪もない人々が殺される、というのはロイドにはもう耐えられなかった。
だから自分は再生の旅が終わった後もエクスフィア回収という作業をしていた。
「それでねロイドさん。お話があるの。」
「…何だ?」
「私達のね、お願いをかなえて欲しいの。全ての人が幸せになるための…お願い。」
劉備は静かに、それでいて意思の力強さを感じさせるような口調でそう言った。
「都合の良いお願いだって事は分かってる。…けど、私達には力がない。いくら私達がお願いしたって世の中は変わらないし変えられない。だからあなたが必要なの。…天より遣わされた、あなたが。」
「ああ、そっちの事情は分かった。…だけど、俺にも力はない。自分一人じゃ何にもできない…ただの強がりだ。」
「ううん!でも私達は…」
その先の言葉を言おうとした瞬間、ロイドが手でそれを止めた。
「俺も…この世界に来るまではさ、世界を救う旅に出てたんだ。」
ロイドは唐突にも、自分がこの世界に来るまでのことを話し始めた。
「それには俺の親友がさ、その旅には必要だった…って言ったら今思えばおかしいけど、とにかく世界を救える唯一の人だったんだ。…俺よりもか弱い女の子だったんだぜ?普通の人生を送りたいって思ってたはずなんだ。だけど…生まれ持った運命ってやつで、そいつは旅に出なきゃいけなくなったんだ。それでも世界を、人々を自分の手で救えるなら、って喜んで世界を救う旅をやったんだ。」
劉備とそっくりだよ、とロイドが出会った頃より思っていたことを告げた。
「結局…その旅もまやかしだったんだ。世界を救えるなんてでかい事言っといて、裏では誰かの得になるからそういう嘘をついたんだ。だから俺は、世界を救って、その女の子も助け出すって勝手に決めて、旅に連れてってもらったんだ。」
「それは…上手くいったのですか?」
と、関羽が気になったのか、後の詳細をロイドに聞いた。
「ああ。世界も救って、女の子も助けられた。でも、それは俺の力じゃない。仲間がいたからなんだ。」
「仲間…?」
「皆いい奴ばっかりだよ。俺には何の力も無かったのに、俺の理想に皆協力してくれた。だから、世界を、女の子を救えたんだ。」
と、ロイドは喋って疲れたのか、手元にあった水を一気に飲んでから、
「俺一人じゃ、この世界は変えられない。…だからさ、俺に力を貸してくれないか?」
自分の手を劉備に差し出した。
「…うん!喜んで!」
劉備はそれに答え、ロイドの手を両手でがっちりと掴んだ。
「ぃやったのだー!」
「おめでとうございます桃香様!そして…ありがとうございます!ロイド殿!」
「おいおい、俺はお前達に協力してもらう立場なんだからそんなに喜ぶなよ…」
「ううん!むしろ嬉しいよ!だってこの国を救うのが私達の願いだもん!」
ロイドは改めて目の前にいる少女はやはりコレットに似ている、と感じた。
「んじゃ改めて…これからよろしくな!」
「うん!」
「はい!」
「よろしくなのだ!」
今ここに、後の大徳と呼ばれる少女と、世界再生の英雄は歩む道を交えた。
後書き
こんばんは。Kです。
久しぶりのロイド君です。今回は戦闘編ですが如何でした?
ロイド君が使った特技は↓
魔人剣…攻撃範囲が広い斬撃を放つ。但し直線にしか飛ばない為避けられやすい。
魔人剣・双牙…魔人剣の派生技。二回連続で斬撃を放つ。
裂空斬…放物線に沿って縦回転しながら敵を斬りつける。
獅吼旋破…獅子戦孔の派生技。回転斬りの後に獅子戦孔同様の覇気を吹き飛ばして相手をダウンさせる。
です。これからも技は(知っているとは思いますが)解説入りで行きたいと思います。
ではでは…
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どもどもKでっす。ロイド編の続きを桃香させていただきます。まだまだ至らぬところがあるでしょうが精一杯書かせていただきました。ではではどうぞ。