No.100261

真・恋姫†無双~江東の花嫁達・娘達~(面影と素直な気持ち)

minazukiさん

娘編第五弾!
今回は雪蓮と冥琳の娘達です。

一刀に似ているのかどうか考える二人の娘は妹達と接していく中でその謎を解いていくお話です。

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2009-10-11 01:20:20 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:18913   閲覧ユーザー数:13593

・オリジナルキャラクター紹介

 孫紹・・・・・・一刀と雪蓮の娘で真名が氷蓮(ひょうれん)。

 

      まさに雪蓮そのもので何事も楽しんでしまう遊びの天才児。

      母親譲りの天性の勘と父親からの優しさを兼ね備えた北郷一刀の長女。

      基本的に周りを巻き込んでの騒ぎを起こす。

      だがその性格からして憎まれることなく、日々の生活を120%満喫している。

 

 周循・・・・・・一刀と冥琳の娘で真名が彩琳(さいりん)。

 

      母親の才能を受け継ぎ、姉妹の中ではダントツの頭脳を持つ。

      一刀の役に立ちたいと国試を受け主席で突破後、なぜか大都督書記官となる。

      本人は一刀の傍でいられるだけで幸せ。

      何かと姉である氷蓮に連れまわされる不憫な娘だが、嫌というわけではない。

(面影と素直な気持ち)

 

「待ちなさい、二人とも!」

 

 大声と同時に部屋の入り口が勢いよく開いて、孫紹こと真名が氷蓮とその彼女に襟を掴まれてひきずられていく周循こと真名が彩琳は後ろから聞こえてくる冥琳の声から逃走をしていた。

 

「まったく、旦那様に迷惑をかけるとは……」

 

 呆れてものが言えないといった状態の冥琳。

 

「助かったよ、冥琳」

 

 お茶の準備を整えた一刀は冥琳の労をねぎらった。

 

「まるで雪蓮が二人いるみたいな気分になります」

 

「それって褒め言葉かしら?」

 

 机の上に腰掛けて先にお茶を啜っている雪蓮はほんのりと不満顔をあらわにしていた。

 

「そう聞こえたのなら気のせいね」

 

「ひど~~~~~い」

 

 頬を膨らませて抗議する小覇王に冥琳は軽く受け流してそれとなく一刀の横に座った。

 

「でも、元気なのはいいことだと思うぞ」

 

 一刀としては元気が有り余りすぎているのはどうかと思うが、それでも氷蓮ぐらいの明るさは好きだった。

 

「でしょう?さすが私の旦那様♪よくわかっているわね」

 

「私達の旦那様だ」

 

 訂正を加える冥琳。

 

 共に愛する男と結ばれて子を宿した二人の関係は何も変わることはなかった。

 

「でも、氷蓮に付き合う彩琳が時々、可哀想に思えるのは気のせいかな?」

 

 氷蓮は大都督付き護衛官、彩琳は国試を主席で突破して大都督付き書記官に任じられていた。

 

 つまりそれがどういうことかといえば、一刀が政務をしている間、常に一緒にいて真面目な彩琳を巻き込んで父親に猛烈アタックをかけているのが氷蓮だった。

 

「護衛官とはいえ、ただの門兵に過ぎぬのに氷蓮様は少し度が過ぎていないか?」

 

「知らないわよ。あの子が武官としての出世街道より愛しいパパの近くにいる方に価値があると思ったのでしょう?」

 

「親としては嬉しいが公人としてみるならば考えるべきかな?」

 

「私達が言っても聞かないのであれば旦那様に言っていただくしかないですね」

 

 いずれは呉の国を支えていく娘達の将来を考えれば悩みは尽きないものだった。

 

「それより、せっかくこうして私達だけになったのだから、たまにはゆっくりと話がしたいわね♪」

 

「そうですね。せっかくですから」

 

 二人の笑みを見て一刀は苦笑しながらお茶をすすっていく。

 

「さすがに陽の明るいうちからは勘弁してくれ。蓮華や思春に見つかったらそれこそ夜が怖い」

 

「大丈夫よ。しばらくいないってことにしておけば問題ないわ♪」

 

 無茶苦茶な注文に一刀は結局、無条件降伏をした。

 その頃、氷蓮と彩琳は息を切らしながら城の庭で倒れこんでいた。

 

「あ、姉上、どうして私まで逃げなければならないのですか?」

 

 書記官として頑張っている彩琳はただ単に巻き込まれただけで何も悪い事をしていなかっただけに、逃げる必要もなかった。

 

「だって、私だけが逃げてもつまらないじゃない」

 

 面白おかしく答える氷蓮はまったく悪いことをしたと思っていなかった。

 

「それにあんただって仕事中に何度もパパの方を見ては顔を紅くしてるじゃない」

 

「あ、あ、姉上!」

 

「何よ?事実を言ったまでよ」

 

 書記官としての仕事の手を緩めてはいないが、時折、一刀の方を見ては頬を紅くしていることも事実だっただけに彩琳は言い返せなかった。

 

「まったく、冥琳様もちょっとパパとじゃれあっているだけで目くじらたてのだから」

 

「姉上、いつも父上にべったりとくっつくのはうらやま……コホン、どうかと思いますよ」

 

「あんた、本音がこぼれているわよ」

 

 実のところ、氷蓮のように父親に甘えたいという気持ちは溢れそうなほどあった。

 

 だが、公務中にそのようなことをしたら他の者に示しがつかないということで相当の我慢をしていた。

 

「大体、パパがいけないのよ」

 

「どうしてですか?」

 

「あんたね、夜中にふと目が覚めてどこからか声が聞こえてきたら怖いでしょう?」

 

「普通に話しているのであれば別に怖いとは思いませんけど?」

 

「パパとママ達が同衾した日なんてたまったもんじゃないわよ」

 

「ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど!?」

 

 あまりにもあっさりした口調で氷蓮が口にした言葉に顔を真っ赤にする彩琳。

 

「しかも酷い時なんか朝までよ、朝まで。こっちは寝不足になるし、パパとママを見るとつい口に出して、昨晩は頑張りましたね?なんて言いたくなるのよ?」

 

「姉上、さすがにそれは少々、生々しいと思いますが」

 

 自分では絶対に口にできない言葉を並べていく氷蓮にどう答えるべきか困り始める彩琳は思わず周りを見てしまった。

 

「詠様が言っていたわよ。パパは獣だって」

 

「け、け、獣!?」

 

「まぁそういう理由だから私はパパに甘えないとはっきり言って身体がもたないのよ」

 

「は、はぁ」

 

 わかったようなわかっていないような彩琳はある意味では大胆な姉が凄いと思った。

 

「あ、姉上」

 

「な~に?」

 

「姉上は父上のことが大好きなのですね」

 

「当たり前じゃない。パパ以上の男はいないわよ」

 幼い頃から何かといえば、

 

「ぱぱとけっこんする~」

 

 と言い、それを真似るかのように彩琳も言っていた。

 

「あんただってパパのこと大好きでしょう?」

 

「当然です。父上は優しくて温かいですから」

 

 熱を出した時など政務を放り投げて看病をしてくれた一刀に彩琳は嬉しかった。

 

 手を握ってくれたり、頬や頭を撫でてくれたり、父親をまさに独占できた至福の時だった。

 

「私達みんな、パパのことは大好きだもんね」

 

「だからといって公務中に抱きつくのはどうかと思います」

 

「まだ言うか~!」

 

「当たり前です。姉上はもう少し公私の区別をつけていただけなければ、もし他の官吏の方に見られでもしたらそれこそ父上に迷惑をかけることになるのですよ」

 

「その時は、パパと私の仲の良い姿をみせつけるだけよ♪」

 

 自分の恋路を邪魔するのであれば氷蓮は手加減を多少はするつもりではいるが許すつもりは毛頭なかった。

 

「どうしたら姉上のように能天気に考えられるのでしょう」

 

「あんた、たまに酷いこと言うわね」

 

「母上の娘ですから」

 

 氷蓮にとって苦手なものがいくつかある。

 

 一つは学問、一つはお説教、そしてもう一つは冥琳だった。

 

 嫌いというわけではないのだが、何かと小言を言われ逃亡を計ることがよくあった。

 

「それに姉上も雪蓮様に凄く似ていますよ」

 

 母娘揃っての破天荒な性格。

 

 そしてそれに振り回される周家の母娘。

 

 少しは直して欲しいと願いながらもそれが叶うことはまずないだろうと彩琳はすでに確信していた。

 

「そういえば、私もあんたも父上のどこが似ているのかしら?」

 

「どういうことですか?」

 

「この前、街の友達がね、パパと私が似ているって言ったのよ」

 

 気前がよく、誰とでもすぐに仲良くなれる氷蓮はその時からずっと考えていた。

 

(パパと私、どこが似ているのか?)

 

 嬉しいはずなのにその疑問が頭から離れず、何度もそれを確認しようと最近、一刀にべったりとしていたのだが、それを言うつもりなどまったくなかった。

 

「こう言ってはなんですが、姉上は雪蓮様そのものに思えます」

 

「でしょう?私もママには似ていると思うけどパパの面影があるなんて思っていなかったわ」

 

 自分がもし男であれば父親に似ていただろうと思う氷蓮。

 

 鏡を見ても何も感じず、自分は本当に一刀の娘なのだろうかと自問したこともあった。

「尚華達だって蓮華様の面影はあるのにパパとはぜんぜん似てないのに、どうしてパパに似ているって言われたのかしら?」

 

「私達以外からすればそう見えるのではないのですか?」

 

 第三者から見れば自分達以上に見えるものがある。

 

 彩琳としてはそれ以外に考えつかなかった。

 

「考えてもきりがないわね。この話題はここまで」

 

「そうですね。私達が考えてもわからないことだと思いますし」

 

 それよりも早く戻って仕事を再開しなければと息が落ち着いてきた頃合を見計らって彩琳は立ち上がろうとした。

 

「ちょっと、どこいくのよ?」

 

「どこって言われましてもお仕事に戻るのですが」

 

「やめといた方がいいわよ」

 

「なぜです?まだ今日のお仕事は終わっていないのですよ?」

 

 少しでも一刀と一緒にいたいのに、ここで油を売っておくわけにはいかなかった。

 

 だが、氷蓮は腕を掴んで無理やり座らせた。

 

「あんたね、今戻ったらそれこそやばいわよ」

 

「何がですか?」

 

「本当にわからないの?」

 

「だから何がです?」

 

 何を言っているのだろ不審そうに姉を見る彩琳に氷蓮は息をついて彼女の耳元で戻れない理由を話した。

 

「な、な、な、な、な、な、な、な」

 

 顔を真っ赤にしてどう答えたらいいのかわからず頭が混乱していく彩琳に氷蓮は何度も頷いた。

 

「い、い、いくらなんでもそれはないと思います」

 

「甘いわね。この前、パパと亞莎様が仕事で戻ってこない時があったでしょう?あの時なんか執務室の隣の仮眠できる場所で抱き合って寝ていたんだから」

 

 亞莎だけではなかった。

 

 他の母親達も何人か見かけたと氷蓮は説明すると彩琳は絶句してしまった。

 

「し、しかし、それは夜であって今はまだ昼間ですよ?」

 

「ママと冥琳様よ?最近、構ってもらってなかったみたいだから、相当溜まっていると思うわよ」

 

「姉上、それは娘である私達が口にしてはならないような気がするのですが」

 

 頭を抱える彩琳はもし氷蓮の言うとおりだったら自分はどうしたらいいのかわからないであろうと思って行くことを諦めた。

 

「だからたまにはのんびり姉妹で話でもしない?」

 

「…………仕方ありませんね。今日の分は明日にでもするとしましょう」

 

 諦めた彩琳は座り直し、氷蓮は満足そうに妹の膝に頭を乗せていった。

 

「あ、姉上!?」

 

「いいじゃない」

 誰にでも遠慮なく接していく氷蓮に彩琳は一種の憧れを抱いていた。

 

 数多くいる妹達は自分よりも氷蓮を姉として尊敬しているところがあり、自分は少し真面目すぎてどこかで敬遠されているのではないかと思っていた。

 

「姉上が羨ましいです」

 

「なにがよ?」

 

 瞼を閉じている氷蓮の髪を手櫛で梳いていく彩琳。

 

「私には姉上のように先頭に立って動くことなど出来ません。それに、誰とでもすぐにお友達になれるのが羨ましいです」

 

「そんなことないわよ」

 

 手櫛が気持ちいいのか氷蓮は穏やかな表情で答える。

 

「私がこうしていられるのもあんたのおかげなのよ」

 

「私の……ですか?」

 

 何か自分は姉にしているのだろうかと思ったが思い当たるものがなかった。

 

「だっていつもあんたがいてくれるから、私は後ろを気にすることなく前を見ていられるのよ。それって凄いことよ?」

 

「し、しかし、私は母上のように才があるわけでも、姉上のように誰からも頼られるような者でもないのですよ?」

 

 この人が姉であることが誇らしく思えると同時にその妹である自分は何も誇れるものがなかった。

 

 そればかりか氷蓮や妹達に迷惑をかけているのではないかと思ったりしていた。

 

「あんたは誰よりもみんなのことを見ているわ」

 

「……見ている?」

 

「そう。それも心の内をね」

 

 氷蓮は彩琳がどれほど妹達や自分を影ながら支えてくれているのか知っていた。

 

 悩み事があれば親身になって聞くことなど大雑把な氷蓮にはできないことだが、彩琳はゆっくりと一緒になってその悩みをどう解決したらいいのかを考えることができた。

 

「尚華達が一時的に避けていたのだって、あんたが国試に集中できるようにって考えた結果なのよ」

 

 時折、早莎がゴマ団子を差し入れにきたこともあった。

 

 その時の優しい味を彩琳は今でも覚えている。

 

「私はほら、あんた達に迷惑をかけるようなことばかりしているでしょう?」

 

「自覚はあるのですね」

 

「話を折らないの。あんたは違うの。何事も相手のことを考えているわ」

 

 妹の中で尚華と彩琳は他の妹達からすれば優しくて自分達のことを想ってくれている大切な姉に違いなかった。

 

「私にないものをあんたはたくさん持っているわ。だからそれに気づかないだけよ」

 

「姉上にないもの……」

 

 彩琳はふと姉の豊かに成長している胸を見た。

 

 軽くため息をつき、手櫛を続ける彩琳。

 そこへ、

 

「氷蓮姉上様、彩琳姉上様」

 

 莉春を伴ってやってきたのは尚華だった。

 

「あら、私達の可愛い妹達、どうしたの?」

 

 相変わらず瞼を閉じたままで氷蓮は声をかけていく。

 

「母上様に用事があって来たのですが、お二人はどうしてここにいるのですか?」

 

「確か、まだ午後のお役目は終わっていないはずですが?」

 

 二人の妹達に指摘されても氷蓮は動じることはなかった。

 

「只今、北郷一刀の娘による極秘会談中よ」

 

「極秘ですか?」

 

 城の庭では極秘もあったものではないと莉春は思ったがあえて声に出さなかった。

 

「急ぎの用じゃないのでしょう?」

 

「はい」

 

「ならあんた達も座りなさい」

 

 尚華と莉春はお互いの顔を見て、姉の言うとおりに近くに座った。

 

「それにしても氷蓮姉上様がお仕事をしていないのは理解できますが、彩琳姉上様までいらっしゃるとは思いもしませんでした」

 

「理解できるって……あんたねぇ~……」

 

 事実なだけに言い返せない氷蓮は黙って手櫛の心地よさに意識を向けた。

 

「私もたまにはこうしていたいと思うときがあるのですよ」

 

 本当は戻るに戻れない状態で仕方なくいるのだが、そんなことを言ってしまえばとんでもないことになりそうな気がして言えなかった。

 

「それに私にはないものを姉上から教えていただいているので、有意義な時間だと思っていますよ」

 

「そうですか。彩琳姉上様でも氷蓮姉上様のようにないものがあるのですね」

 

 どこかホッとしたような表情を浮かべる尚華。

 

「尚華、さっきから私の悪口を言っているように思えるのだけど?」

 

「そ、そんなことはありません。ただ」

 

「「ただ?」」

 

「お二人が羨ましいのです」

 

「「羨ましい?」」

 

 何が羨ましいのかわからない二人の姉達。

 

 その言葉に一番反応を示したのは莉春だった。

 

「私には完璧であることでしかダメですから」

 

「どうしてよ?」

 

「私は母上様の跡を継いで王になるのです。だから何も手を抜くことが出来なくて少し辛いなあって思うときがあるのです」

 

 氷蓮が王になってくれればと何度も思ったがそれは叶うものではなかった。

「だからこうしていられる姉上様達が羨ましく思えてならないのです」

 

「尚華……」

 

 心配そうに尚華を見守る莉春。

 

 静けさが四人の間を通り過ぎていく。

 

「ダメですね。こんなことを言ったら姉上様達や莉春に迷惑を「迷惑なんかじゃないわよ」……え?」

 

 言葉を遮った氷蓮は腕を伸ばして尚華を自分の方へ引き込んだ。

 

「あんたは完璧である必要なんてないのよ。足りない分は私や彩琳、それに莉春達できちんと埋めてあげる」

 

「姉上様……」

 

「そうですよ。尚華を支える喜びがあるのですから、貴女が完璧である必要はないのですよ」

 

「彩琳姉上様」

 

 二人には遠く及ばないと思っている尚華にとってその言葉は大きな温もりを感じさせていた。

 

「私も尚華を支える」

 

 姉達ばかりではなく自分も全力で支える覚悟はあると莉春は力強く声を上げた。

 

「ほらね。だからあんたは自分の出来る限りのことをして蓮華様のような王様になりなさい」

「はい」

 

 氷蓮の腕の中で尚華は自分のことを考えてくれている人がこんなにもいるのだと思い、嬉しくて涙がこぼれそうになった。

 

「氷蓮姉上様、彩琳姉上様」

 

「な~に「はい」?」

 

「父上様のように凄く優しくて温かいです」

 

 尚華はありのままのことを口にした。

 

 だが、氷蓮と彩琳は違った。

 

「私がパパみたいに?」

 

「はい。とても安心します」

 

「私達が父上のように温かいのですか?」

 

「はい」

 

 莉春は空いている彩琳の近くにやってきて、

 

「姉上、いいですか?」

 

 許可を得る前に彩琳に抱きついていく莉春。

 

「確かに父のように温かいです」

 

 尚華と同じ意見の莉春に氷蓮と彩琳はお互いの顔を見た。

 

「なるほど。そういうことだったのね」

 

「道理で見えないわけです」

 

 二人は自分達がどう見ても一刀に似ていないと思っていたが、それは表面的なことでありしっかりと内面から似ているのだと気づいた。

「さすが私達の妹ね」

 

「はい」

 

 氷蓮と彩琳はそれぞれの妹を優しく抱きしめていく。

 

「姉上様?」

 

「姉上?」

 

 事情を知らない二人はどうしたのだろうかと思ったが、優しい温もりを感じていたため何も聞こうとはしなかった。

 

「そうよね。私達の中にはパパの血が流れているもの」

 

 だから同じ温もりを感じることができ、与えることもできる。

 

 それは一刀が彼女達に与えた宝の一つであり、最も望んだもの。

 

「簡単でしたね、姉上」

 

「そうね。じゃあ、この子達に何かご褒美でもあげようかしら?」

 

「「ご褒美?」」

 

 自分達が何か良いことでもしたのか聞くと、

 

「気づかせてくれたご褒美よ♪」

 

 氷蓮にそう言われた尚華と莉春は「?」が頭の中を支配していく。

 

「どうせ今日はもうやることもないから四人で街にでも出かけましょう」

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「いいのよ♪」

 

「しかし、私と尚華は蓮華様のところへ行くという「そんなのあとあと」……」

 

 尚華を離して起き上がった氷蓮はその場にいる全員に拒否権を与えなかった。

 

「たいした用事じゃあないんだから、私達に付き合いなさい」

 

「姉上、少し強引過ぎます」

 

 せめて先に用事を終わらせてから行かないかと妥協案を出したが即答で却下され、莉春は大きくため息をついた。

 

「たまには姉妹で仲良くお買い物よ♪」

 

「あ、でも、私達、お小遣いが少ないです」

 

 まだ働く術のない尚華と莉春は一刀が決めたお小遣い制によって毎月、決められた金額を与えられていたが月末になると残り少なくなっていた。

 

「安心しなさい。彩琳が出してくれるわ」

 

「姉上、もしかして私に全額出させるのですか?」

 

「次は私が出してあげるわよ」

 

「その言葉はすでに五回目ですよ?」

 

 毎回、同じことをいわれ一度も支払ってくれない姉にため息を漏らす彩琳。

 

「今度は絶対よ」

 

「はいはい、期待せずに待っておきますね。さあ、莉春、尚華も遠慮せず好きなものを買ってください」

 

 彩琳の優しい一言に尚華と莉春は頷き、自分達の用事を後日にまわす事にした。

 その日の夜。

 

 一刀が政務を終えて静かな一時を過ごしていると扉がノックされた。

 

「パパ、まだいる?」

 

 そう言いながら入ってきたのは氷蓮と彩琳だった。

 

「どうしたんだ、こんな夜遅くに?」

 

 すでに夜もだいぶ更けていたためすっかり二人も屋敷に戻って休んでいるものだと思っていた。

 

「パパと一緒に食べようと思って」

 

「みんなで作ってきたのです」

 

 二人が持っていた包みを開けるとそこにはいろんな形をしたおにぎりがあった。

 

「美味しそうだな」

 

「食べて食べて♪」

 

 氷蓮から渡されたおにぎりを一口頬張ると、

 

「美味いな」

 

 と嬉しそうの答える一刀。

 

「よかった。ねぇパパ」

 

「なんだ?」

 

「私達って父と娘よね?」

 

「そうだけど?」

 

「よかった♪」

 

 氷蓮も彩琳も嬉しそうにおにぎりを頬張っていく。

 

「二人とも」

 

「な~に「はい」?」

 

 何気なく父親の方を見る二人。

 

 そこにはいつになく真面目な表情をしている一刀があった。

 

「産まれてきてくれてありがとうな」

 

 いつもの優しさを含んでいながら『男』の表情をしていた一刀に二人は見惚れてしまった。

 

「パパ」

 

「うん?」

 

「今日は私と彩琳の三人で寝ましょう♪」

 

「そうですね」

 

「お、おい」

 

 さすがに年頃の娘と寝台を共に過ごすのには恥ずかしさがあったが、一切の反論は却下されてしまった。

 

「ついでだから今日はここで寝ましょう。今日の分のお仕事も明日朝からしたいですから」

 

「そうね。そうしまょう♪」

 

 独占できるだけあって二人は興奮状態だった。

 

「わかったわかった。今日だけだぞ」

 

「さすがパパ♪」

 

 嬉しそうにする二人を見て一刀は苦笑してしまった。

 そして三人は寝台で寄り添うようにして眠った。

 

 最後に一緒に寝たのは何年も前の事だっただけに二人の娘は少しでも温もりを感じていようと離れずにいた。

 

 その様子を二人の女性が苦笑して見守っていた。

 

「やれやれ、戻ってこないから様子を見にきたら」

 

「本来は私達の場所なのだが、今日ぐらいは譲ることにしよう」

 

 雪蓮と冥琳は音を立てることなく仮眠室から出て行った。

 

 それを確認した氷蓮は瞼を開けた。

 

「彩琳、起きてる?」

 

「はい」

 

「怒られると思ったけど何もなかったわね」

 

「そうですね。これで心置きなく父上と眠れますね」

 

「ねぇ、彩琳」

 

「はい?」

 

「私はパパとママの娘でよかったって思っているわ、本当に」

 

 それは心からの言葉であり、それと同じ気持ちである彩琳は頷いた。

 

「私も父上と母上の娘でよかったと思っています。そして私達の中には父上の血も流れているのだと」

 

 自分達ではわからない面影でもその心はしっかりと感じていられる。

 

 それだけで満足できることだった。

 

「パパ、これからずっと私達と一緒にいてね♪」

 

「私からもお願いします。ずっとお傍にいてください」

 

 二人はそう言って眠る一刀の頬に口付けを交わして小さく笑った。

 

 そして愛する父親に改めて寄り添って今度こそ眠りの世界に落ちていった。

 

(パパ、大好き♪)

 

(父上、お慕いしています♪)

 

 夢の中でも大好きな父親といて自然とその寝顔も笑みがこぼれていった。

 

 こうしてまた呉の国の一日が静かに、そして穏やかに過ぎていった。

(座談)

 

水無月:ようやく折り返し地点に到着しました。

 

雪蓮 :今回は私と冥琳の娘の話ね。

 

冥琳 :二人ともよく旦那様に似ているわね。

 

雪蓮 :そうかしら?

 

冥琳 :優しいところや人を思いやるところなどそっくりよ。

 

一刀 :それは嬉しいな♪

 

雪蓮 :でも娘でなく息子が産まれていたらその種馬の実力も受け継がれるのよね?

 

冥琳 :それはそれで問題がありそうね。

 

水無月:呉だけではなく魏や蜀などにも魔の手が!

 

一刀 :おい!

 

水無月:というわけで残り五回ですが今後ともよろしくお願いします~。

 

雪蓮 :ねぇ一刀。

 

一刀 :なんだよ?

 

雪蓮 :娘には手を出さないわよね?

 

一刀 :出さないって!(泣)


 
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