No.97611

涼州戦記 ”天翔る龍騎兵”3章3話

hiroyukiさん

第3章3話です。
今回は曹操と孫策陣営の1コマになります。
やや暗めの話しになっています。
後、白蓮のところに軍師が来ます。

2009-09-27 09:54:41 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8776   閲覧ユーザー数:6992

第3章.過去と未来編 3話 各陣営の1コマ(後編)

 

翌日、再び各陣営が集まり、并州に劉虞を招聘し対袁紹監視網を布くこと、予州に馬騰、徐州に劉備が赴任することが決まった。

 

因みに公孫賛希望の軍師であるが、頼みに頼みまくってやっとこさっとこ諸葛亮より徐元直を紹介してもらうが本人にあっさり断られる。

 

しかし公孫賛も唯の普通の人ではない。

 

三顧の礼もかくやと言わんばかりにしつこく何度も頼み込む内に元直も根負けし客将待遇で幽州に行くことになった。

 

 

 

この会議の少し前

 

曹操陣営

 

陳留に帰り着いた曹操はすぐに諸将を集め今後について軍議を行った。

 

「皆集まったようね、桂花!」

 

「はっ、ではこれより軍議を始めます。」

 

荀彧の軍議始まりを告げる声に諸将に緊張感が漂う。

 

「皆に集まってもらったのは今後のことを協議するためよ。忌憚のない意見を期待するわ。」

 

立ち上がって諸将の発言を促した曹操は席に座ると荀彧を見て頷く。

 

「私達は今回の戦いにおいて最後まで戦闘に参加することはなかった。でも連合に参加した訳だから皇帝に弓引いた逆賊と取られてもおかしくない訳。だからしばらくは恭順の意を示し、表面上はおとなしくしている必要があるの。」

 

そこまで言うと一旦区切り諸将を見渡す。

 

「でも覇道を進む華琳様の元に集った我々はその歩みを止める訳にはいかないわ。我らは水面下で動く。先ずは兗州を固めるわ。」

 

「ふむ、それは問題なかろう。兗州の勢力と言えば我々の他は済北の鮑信殿くらいで、それに鮑信殿は華琳様とは昵懇の仲だからな。」

 

「その後はどうするのだ?」

 

荀彧の説明に納得する夏侯淵と次を促す夏侯惇。

 

「他州に打って出るに決まってるでしょう!…私にばかり言わせていないであなたも意見を出したらどうなのよ、春蘭!!」

 

「んっ?んーーー。そうだ冀州の袁紹はどうだ。連合の首謀者だったのだから討伐すると言えば大義名分が得られるし袁家の兵力や財力が手に入れば一気に大きくなれる。」

 

夏侯惇の意見にへぇ~と驚いた顔をした荀彧だが

 

「却下!袁紹がいくら馬鹿でも袁家の動員力は我々より上よ。負けることはないにしてもそれなりの損害を受けるわ。そうなれば馬騰達に漁夫の利を与えるだけ、袁紹には当面手を出さないのが1番よ。」

 

 

「あのー、何もしないのですか?極秘裏に手を結ぶとかはしないのですか?」

 

楽進がオズオズと発言してくる。

 

「凪も見たでしょう。袁紹の軍の質の低さを。あんなのと手を結んでもこちらの邪魔になるだけ。手を結ぶ意味がないわ。それに袁紹と我々は今回無傷だった、当然馬騰達は監視しているわ。少しでもそんな動きがバレれば相手に大義名分を与えることになってしまう。」

 

納得が行ったと頷く楽進の後を受けて夏侯淵が言う。

 

「ということは、徐州、予州は同様の理由で駄目となると残るは青州か。」

 

夏侯淵の言に于禁が驚いた顔で

 

「で、でも秋蘭様。青州にはあの青州黄巾党がまだ勢力を保っているのー。そこに行けばこちらの損害もばかにならないのー。」

 

と指摘するが李典が何かに気づいたようで

 

「ちょいまち沙和。そうや、うちらには天和達がおるやないか!あいつらに説得させれば案外うまくいくんとちゃう?」

 

青州黄巾党の精強さ、勇猛果敢さは家族愛この1点に尽きる。

 

愛する家族を守る為彼らは死を恐れぬ勇猛果敢な兵となるのである。

 

だからその家族を保護してやれば彼らは従うだろう。

 

でもそれは至難の技である。

 

なぜか?それは彼らが権力者や役人に散々苦しめられてきた存在であるからだ。

 

曹操のような者達が保護を口にしたとしても彼らは絶対に信じないだろう、それほど彼らは苦しめられてきたのだ。

 

だが張角達は違う。

 

彼らは張角達の歌により明日への希望を見出し立ち上がることができたのだから。

 

彼らにとって張角達は救いの神なのだ。

 

なればこそ張角達の言葉なら彼らは信じる。

 

それにもう1つ曹操は極秘裏に張角達を保護した為、対外的には曹操が張角達を討ったことになっている。

 

だから曹操が青州黄巾党討伐を願い出ても言葉通りに取られ、彼らを取り込もうとしていると考える者はいない。

 

つまり曹操は極秘裏に兵力の増強を図れるのである。

 

 

荀彧の説明に納得した諸将は皆一様に綻んだ表情になっていた。

 

それを満足そうに眺めていた曹操は唯1人沈んだ顔でいる許緒の所で視線を止める。

 

「季衣、どうしたの?そんな顔して、何か意見でもあるの。」

 

曹操に問われた許緒は言うべきか言わぬべきか逡巡していたが意を決したように立ち上がる。

 

「あっあの華琳様。僕達は悪者なんですか?」

 

「きっ季衣!!お前何を…」

 

「待ちなさい春蘭!季衣続けなさい。」

 

許緒の発言に驚いた夏侯惇が止めようとするが曹操はそれを押さえ、続きを促す。

 

「洛陽に行く時、この戦いは董卓の圧政から洛陽の人達を助ける為だと聞きました。だから僕の村のように苦しんでる洛陽の人達を助ける為がんばろうって思ったんです。でも汜水関を越えたら僕達が洛陽の人達を苦しめようとしている悪い奴だって。それも皇帝がそうだって言ってるんですよ!僕何が何だかわからなくなっちゃった。…」

 

そう言うと許緒は拳を握り締め俯く。

 

じっと話しを聞いていた曹操は徐に立ち上がると

 

「季衣、今回はあなたを苦しめてしまったようね。ごめんなさい。でも季衣、少なくともあなたは悪者ではないわ。ここに悪者がいるとすればそれは私よ。麗羽の檄文がうそであり董卓の方に義があるのを知っていながら連合に参加する決定をしたのは私なのだから。」

 

曹操の謝罪に荀彧はあわてて立ち上がる。

 

「いいえ、華琳様のせいではありません。連合への参加は仕方なかったのよ。あの檄文が届く少し前から陳留周辺に檄文とほぼ同じ内容の噂が広まり出し、届いた頃にはかなり浸透していたわ。」

 

そう、噂が広まり出してからあっという間に世の中の風評が董卓が悪、袁紹が善という形に固まってしまったのである。

 

荀彧は何者かが情報操作を行っていると感じ調査を命じたのだがその痕跡は欠片もなかった。

 

唯、情報操作があったとしても今の風評がそうなっている為、曹操としては今まで得てきた風評を消さない為にも参加せざると得なかった。

 

荀彧の説明の後、夏侯淵が続ける。

 

「それとな季衣。あの時袁紹達の勢力がかなり大きくなることがわかっていたのだ。あの状態で董卓に味方したとしても勝算があるとはとても思えん。ならば袁紹側に付き、他の諸候の兵が洛陽の民に狼藉を働かないよう監視するしかないと華琳様は仰せになられてな。今回参加した理由の1つだ。」

 

なぜか夏侯惇がまとめる。

 

「そういう訳だ、季衣。わかったか。」

 

「そういうあなたはわかったの?」

 

荀彧と夏侯惇が言い争いを始めるのを横に夏侯淵が許緒に話しかける。

 

「つまりだな、確かに我らは悪者となってしまった。だがな我らは民を守るべく参加したのは間違いない。その我らを悪者と呼ぶなら呼ばせてやればよい。季衣、お前は胸を張ってればいい。」

 

「はい!秋蘭様。」

 

どうやら許緒は納得いったようで明るい顔になっていたが、横ではまだ荀彧と夏侯惇が言い争っていた。

 

「春蘭、桂花。いい加減にしなさい。季衣も納得してくれたようだからこれで会議は終わりよ。解散!」

 

「「「はっ」」」

 

諸将は解散し会議室よりぞくぞくと出て行く中、夏侯姉妹と荀彧は曹操の傍に寄る。

 

「季衣はやっぱり純真ないい子ね。春蘭、秋蘭、桂花しっかりと育ててあげてね。」

 

「「「はっ」」」

 

そういうと曹操は席を立ち会議室を出て行く。

 

後に続く夏侯姉妹と荀彧。

 

その後、遠征の後片付け等に追われこの日は終わりとなる。

 

 

その日の夜

 

曹操は自室で夏候淵と酒を飲んでいた。

 

因みに夏候惇は遠征の後片付けが終わらずまだやっていた。

 

「秋蘭~~(涙)」

 

曹操は杯を置くと溜息を吐きつつ

 

「ふふふ、悪者ね。あの場に悪者はいないわ、私以外は。……」

 

「華琳様……」

 

曹操は自嘲気味に続ける。

 

「私の元にいる子は皆高潔な子ばかりよ。自らを省みず弱い者の為にその力を揮う。私だけね私憤でその力を使おうとしているのは。」

 

「巨高様のことですか?」

 

曹操は夏候淵へと視線を向けるが何も言わない。

 

曹嵩、字を巨高、曹操の母であり大長秋だった曹騰の養子である。

 

彼女は先々帝である霊帝が即位した頃より頭角を現し着々と出世していたのだがある時突然汚職を糾弾され失脚し失意の内に病死していた。

 

唯、余りにも突然すぎることと汚職に関して言えば汚職官吏は周りにも蔓延っており何故に彼女のみが糾弾され失脚したのか疑問を呈していた。

 

「お母様は汚職などしていないわ。あれだけ清廉潔白なお母様が汚職などするはずがない!多分お母様は何らかの理由で他の者の罪を被ったのよ。お母様がそうまで為さるからには朝廷のかなり上の方なのでしょう。そこまで忠誠を尽くしたお母様に奴らは何をしたか。お母様の口から真実が洩れるのを恐れた奴らはお母様を毒殺したのよ!表向きは病死となってるけど前日までピンピンしてたお母様がいきなり病死?そんな訳ないわ!」

 

曹操は机に拳を叩き付けて悔しさを滲ませる。

 

「それが朝廷というものなら、私はそんなもの認めはしない。我が手で叩き潰すのみよ。」

 

「しかし華琳様、あの頃と皇帝も朝廷も人が刷新され別のものになっていますが?」

 

「ふふふ、秋蘭。霊帝の前、そのまた前も似たり寄ったりだったのよ。たいして変わらないわ。…さて秋蘭、今日はもう休みましょう。明日からまた忙しくなるわ。」

 

「はっ、お休みなさいませ。」

 

席を立つと曹操は寝室へ、夏候淵は自室へと向かう。

 

自室へと向かう廊下でふと夏候淵は空を見上げた。

 

「ふっ、今夜は満月か。…巨高様、華琳様はあれでいいのでしょうか?私には誤った方向へ向かってるように思えるのです。そもそも巨高様は皇帝や朝廷に復讐など考えていなかった、寧ろあの免職には何らかの意図があったように思えるのです。」

 

夏候淵は曹嵩に問いかけるかのごとく月に問いかけるが、当然ながら答えは返ってこない。

 

彼女の胸の内を表すかのように月に雲が繋り夜は更けていく。

 

 

曹操達が陳留に帰り着いてから1週間後、孫策達も袁術の本拠地寿春に到着していた。

 

寿春の館に戻った孫策達は部下に遠征の後片付けの指示を出すと主要な幹部を中庭に集め、これからについての打合せに入った。

 

「さて、冥琳。蓮華達の準備は整っているかしら?」

 

「ええ、後はこちらからの連絡待ちよ。」

 

ここに集まっている孫呉の幹部は孫策、周瑜、陸遜、周泰等で孫呉の本拠地であった建業に孫策の妹である孫権、宿将黄蓋、今回から参加する呂蒙等が集結していた。

 

今回の独立に向けての作戦は次の通りである。

 

建業の孫権達が一揆に見せて蜂起するとそれに合せて他の箇所にいる孫呉の旧臣達も同じく一揆に見せて蜂起する。

 

その後合流すれば、かなりの勢力となる為汜水関で大打撃を受けた袁術はその鎮圧を孫策に押し付ける可能性が高い。そうなれば全軍を率いて鎮圧に向かうと見せかけて出陣し孫権達と合流後、反転し一気に袁術軍を叩き潰す。例え押し付けてこなくても、自分達から言い出してもいいし、袁術に出陣させてその背後を衝き孫権達と挟撃してもいいのである。

 

「今回は~、我々に押し付ける公算がかなり高いですね~。汜水関で大損害受けちゃいましたからね~」

 

「さて、じゃあさっさと始めましょうか。」

 

「待て、雪蓮。後2,3日待つぞ。」

 

陸遜のぽや~んとした見解を聞いた孫策は作戦を開始しようとするが周瑜が待ったをかける。

 

「なによ、準備は整ってるんでしょう?さっさと始めましょうよ。」

 

「後2,3日待て。そうすれば大義名分がやってくる。」

 

逸る孫策を周瑜が抑える。

 

「大義名分?」

 

「ああ、袁術討伐の勅令が来るはずだ。」

 

さすが周公謹といったところで馬騰の次の手というか気遣いというかに気づいていたようである。

 

 

勅令を受けているのといないのとでは大きな違いがあるのだ。

 

確かに袁術に奪われた領土を取り戻すという義はある。

 

だが取りようによっては袁術は孫堅が死に危機にあった孫策達を助けた恩人とも取れるのである。(孫策達はそんなことは露とも思っていないし、世間一般の見方も窮状にある孫策達に付け込んで領土を奪ったというものだったが)

 

しかし勅令を受けて袁術を討つとなるとこれ以上の大義はなく誰にも後ろ指指されることもない。

 

それに自分達が勝手に討つのではなく勅令を受けて討つとなるとその恩賞として奪い返した領土を自分達のものとして認めてもらうことも可能である。

 

そのような理由から周瑜は勅令を待てと言ったのであるが孫策は苦々しい顔になっていた。

 

「ふん、認めようと認めなかろうと関係ないわ。あの土地は元々我々孫呉の土地。朝廷なんか知ったこっちゃないわ!」

 

「雪蓮……」

 

「冥琳はもう忘れたの!!朝廷の奴らが母様や父様に何をしたか!私は忘れない、絶対に忘れない。」

 

「雪蓮……」

 

孫策の母、孫堅、字を文台。そして父、呉慶(字は不明)。孫呉の礎を築いた英雄である。

 

特に孫堅は皇甫嵩の元や荊州で数々の武功を挙げ、「江東の虎」と呼ばれた猛将であったが彼女に野心はなく、唯、皇帝への忠誠を貫く義の人でもあった。

 

しかし既に腐敗しきっていた朝廷の上層部にとっては便利な道具に過ぎず、次から次へと反乱鎮圧や賊の討伐を命じられ疲弊していった。

 

やがて兵站等の後方支援を担当していた呉慶が過労により病に倒れそのまま死亡すると孫呉の崩壊は加速していき、無理に無理を重ねていた孫堅が過労により判断ミスを犯し対黄祖戦において崖崩れに巻き込まれ死亡すると孫呉は崩壊してしまった。

 

多感な時期に父母の苦悩を傍で見ていた孫策にとって朝廷の仕打ちは許されざることであるのは当然と言えば当然であった。

 

とりあえず周瑜が説明した理由はもっともだった為2,3日待つことになり、その日の軍議は終わりとなる。

 

軍議の後、1人中庭に残っていた周瑜は空を見上げ呟く。

 

「文台様、父君。私はどうするべきなのでしょうか。雪蓮を止めるべきなのか、それとも後押しするべきなのか。天下取りなど御2人は目指していなかったはず。それにこのままでは菖蒲殿達と戦うことにもなりかねない。」

 

周瑜は空の彼方に問いかけるが答えは帰ってこない。

 

周瑜の心内を表すかのように空に雲が広がり始める。

 

2日後、周瑜の予測通り袁術討伐の勅令が孫策の元にやって来た。

 

 

 

奇しくもこの3章のヒロインともいうべき曹操と孫策はその愛深きゆえに過去に囚われ未来へと目を向けることができない。

 

彼女達を心配する者達の心は、その無念さ巨大ゆえに届かず。

 

彼女達を未来へと向かわせることができるのは、はたしてより強き力なのか?

 

それとも……より深き愛なのか?

 

 

 

 

<あとがき>

 

どうも、hiroyukiです。

 

前回に続き拠点イベント?という名の曹操と孫策陣営の1コマという感じにしてみました。

 

今回曹操と孫策の親達について書きました。

 

孫堅については演義の話を踏襲しましたが、曹嵩についてはこの物語のオリジナルで陶謙の配下に殺された史実とは変えています。

 

当初は曹嵩も史実を踏襲して徐州で陶謙の元配下に殺されて怒った曹操が……という話しにしようかと思いましたが、前にあとがきにも書いた皇帝直属常備軍に絡めた方が良い様に思えましたので曹嵩のみ変えました。

 

今回の内容とこの話しで察しのいい方はわかると思いますが曹嵩の病死は常備軍に関わる謀略によるもので常備軍に反対の勢力の仕業です。

 

この反対勢力が一刀達の本当の敵なのですが現時点では殆ど姿を現していないので一刀達はまだ知りません。

 

3章でその姿を少しづつ現し4章で本格的に姿を現す予定です。

 

では、あとがきはこのくらいにしてまた来週お会いしましょう。


 
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