No.935082 九番目の熾天使・外伝~マーセナリーズクリード~番外編 エクササイズプログラムokakaさん 2017-12-29 19:58:23 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:815 閲覧ユーザー数:696 |
番外編【エクササイズプログラム】羽ばたきのブラック・イーグル
―――――――旅団本部【楽園】施設内、市街地型演習アリーナ―――――――
『くそっ、また見失ったか』
「外部音声切らないと音問サーチでバレるぞー」
『っとやべぇ!』
次の瞬間、8m程の巨大なカエルのような頭と胴体に人の手足を付けたような機体、【Rk-02セプター】から発せられていた声が消えた。操縦している支配人が外部音声を切ったのだろう。
「やっぱりまだ乗りこなせそうにないか?」
「そうでもないだろ。3日であそこまで乗れれば良い方だ」
隣に座ってコーラを飲むロキの言葉に好評価を返しながら、この演習の責任者であるokakaは通信端末のマイクをテーブルの上に置き直した。
彼らは現在、アリーナに設けられた観戦用のスタンドに研究機材やデータ収集ドローンの受信機等を設置し、この演習を統括している。演習の目的は、この度okakaが企画、立案した【情報部特殊作戦群】にて使用される小型機動兵器【アーム・スレイブ(以下、AS)】の操縦者養成と適性検査を兼ねた戦技教導だ。高いステルス性と電子戦能力を持ち、歩兵と共同で作戦を行うことのできるASはこの部隊の要となる存在だ。人工筋肉による柔軟な稼働と無音で稼働する常温核融合炉【パラジウムリアクター】を持ち、特殊なアクティブステルス装備【ECS】を持った第3世代ASは隠密作戦において重要な役割を果たす事になる。
その為、情報部の準軍事作戦担当官、通称【パラミリ】から選りすぐった人員に対し、元特殊部隊であるokakaが特殊部隊教育と訓練を施し、通常の兵士を超える高水準の能力を持った人員を揃えることを目的に、一部勧誘してきたナンバーズを混じえてこうした演習を行っているのだ。
「支配人は対話型AIの操作にまだまごつきがある。俺等の相棒みたいにツーカーで通じるようなAIじゃなくて、具体的な命令が必要な通常型だからな」
「長い付き合いと高度な思考能力を持った相棒に感謝だな」
「つまり僕はAIのせいで選定試験が不合格だったんですね」
「「んなわけねぇだろすっこんでろ」」
二人の会話に割って入ってきたディアの頭上に飲み終わったコーラの缶を乗っけながら二人の容赦ないツッコミが入った。その当人は今、石畳の上に正座で固定され、膝の上に石を置かれて、胸元に大きなプレートをぶら下げている。
「『私は無理な操縦をしようとしてシャドウを壊しました』しっかり書いてあるだろうが」
そのプレートの示す通り、ディアはASを通常の機動兵器同様、自分の学習能力なら簡単に操縦をマスターできると判断して、演習前に起ち上げておいたokakaの私物である【Zy-99Mシャドウ(輸出仕様)】に乗り込み、操縦感覚についていけずに転ばせて犬神家状態にしてしまったのだ。
「だって、「ASは優れた兵士の肉体の延長」って言ったのはokakaさんじゃないですか。それがあんなに大げさな反応するなんてあだっ!」
「だ・か・ら、お前には声かけなかったんだよ!自分の肉体感覚で動かせるわけねぇだろ!お前はあのコックピットのサイズで自分の手足が思いっきり振り回せるのか!?普通に歩くのにも細心の注意が必要なんだよ【セミマスター・スレイブ】ってのは!」
ASの最大の特徴、それは操縦するオペレーターの手足の動きを増幅して肉体の延長のように動作させる操縦方式だ。これにより、MS等の通常の人型兵器を遥かに超える柔軟な運用性能を獲得しているのだが、ディアはその角度差を上手くコントロールできずに自分の歩き方をしようとした結果、増幅された動きを行った機体が暴走、パニックになったディアが慌てて手足を振り回し被害が拡大、結果的に地面に頭から突っ込み、機体は強制停止されたのだ。
「今後お前にはASの支給は無い。そもそもお前は自分の実力を発揮する事前提の戦闘しかしないからな。これまで連携っぽく見えてたのは周りが勝手に合わせてただけ、明確なルールが無いからいつ事故を起こすか解からん綱渡りのような戦闘だ。そんなやつに特殊部隊の適性なんかない」
頭上のコーラ缶を潰すように拳骨を落としたokakaの無慈悲な追い打ちにディアはがっくりと項垂れた。
「うう・・・あの格納庫にあった青と黒の機体、欲しかったんだけどなぁ・・・」
「あれは俺のだ。改装と再塗装をして俺が乗る。そもそも誰かにあの【レイヴン】を預ける気なんかねぇ」
okakaはわざわざASの存在する世界の日本から議員や自衛官、開発元とのコネや交渉を重ねてようやく秘密裏にライセンス生産と配備を行う事ができた【AS-1 ブレイズ・レイヴン改】とその量産仕様【一一式主従機士:レイヴン】シリーズを脳裏に描きながら演習風景に視線を戻した。
「支配人、焦れて来たな。演習の交戦規定で武器が単分子カッターしかないから周囲を撃って誘き出すわけにも行かないし、下手にECCSを使えば今度は自分がいい的だ。パッシブセンサーからの情報だけで見つかるか?」
「ってか俺も解かんねぇよ。ECSを不可視モードで作動しててどういう状況なのか全く解かりゃしねぇ」
ロキの愚痴も最もだ。現在支配人が相手をしているASは最高級の不可視モード付きECSを搭載した超エリート向けの機体だ。ステルス性、電子戦能力を程々で妥協し、扱いやすさと整備性、防御力や環境へのタフさを徹底して追求したセプターとの相性は非常に悪い。
「今ちょうど支配人から見て右の路地から忍び寄ってる、そろそろ仕掛けるぜ・・・ほら来た!」
鷹の目でしっかりと感知していたokakaの言葉通り、電力消費の大きく、戦闘機動に制限がかかる不可視モードを解除したのだろう、マッシブながら引き締まったシルエットの黒いASが全速力でセプターに飛びかかった。
『接近警報、五時の方向、距離20』
「っ!そこか!」
AIの発した警告に支配人がとっさに反応、小型のグルカナイフ型の形状をした【IAI製単分子カッター:ダークエッジ】を機体後方に素早く振り抜く。しかし、敵はその刃が届く寸前、視界から掻き消えた。
「なっ!?」
支配人が突然掻き消えた敵に驚きつつも周囲を建造物ではさまれている以上、逃げ場は上にしかないと踏み、すかさず頭上へ単分子カッターを振り上げる。しかし、その刃は虚しく空を切った。
「ここもハズレか!?」
あり得ない、素早く後ろに回り込み確実にこちらを仕留めるために跳躍は最小限だったはず。ならば小振りなダークエッジでも十分に届くはずだった。しかし、その刃は空振りに終わった。ならば一体・・・そう思った次の瞬間、敵のASが眼前にいきなり現れた。既にその手にはダークエッジの後継機種である大型単分子カッター【クリムゾンエッジ】が刺突の構えで向けられており、突き立てられようとしている。
「んなろぉ!」
なんとか腕を引き戻し、ダークエッジで防御、弾き返して反撃を試みようとした瞬間。セプターの機能が停止した。
「マウリッツ・システムからの撃破判定確認、演習終了。おめでとう支配人、撃破で戦死判定だ」
無線機に向かってニヤケ面のokakaが呼びかけると、再起動したセプターが土下座のような膠着姿勢を取り、背部のハッチが展開、中から操縦服姿の支配人が飛び出てきた。
「クソッ!めでたくねぇよ!何だよ今の!しっかり受け止めただろ!?」
文句タラタラ、不満を大声で叫びながら支配人がセプターから降りてヘッドギアを脱ぎ捨てた。
「残念ながらファルケが止まったのは演習終了が確定したからだ。あのままだったら突撃の重さと速度がダークエッジを破壊してクリムゾンエッジが装甲を貫徹してたぞ」
「・・・うぉぉぉ・・・全力突撃だったのかよ」
うめきながらその場にうずくまる支配人、そのすぐ側で同じく膠着姿勢を取った対戦相手【M9A2SOP-D ファルケⅡ】から一人の少女が降りてきた。
「ツバメ、今のECSの使い方は良かった。あと0.1秒待てれば完璧だ」
「はい、ありがとうございますマスター!」
そう、先程ツバメがセプターの視界から消えたのはカッターが当たる瞬間に不可視モードを作動させ、バックステップで最小限の動きを行った事による一種のイリュージョンだった。
電力消費の高い不可視モード中は素早い戦闘機動を取れないという一種の第3世代の常識には実は一種の穴があり、ほんの僅かな間なら全力での機動ができるのだ。その僅かな意識の穴を突いた巧みな戦闘機動を見せた事を褒めながら、okakaは弟子の成長を素直に喜んだ。
「しっかしあれが最新型のM9かぁ、前使ってたE系列とあんまり変わんない気もするけどなぁ」
演習風景を見ながら自分を除いた場合、この場で唯一高いASの操縦適性を持つロキの言葉にokakaがタブレット端末を差し出した。そこには特殊作戦群に正式配備されることが決定している最新型のAS【M9A2SOP:ガーンズバック シグマ・エリート】の詳細データが映し出されていた。
「前お前にやったE系列とあのファルケのベースになったD系列はとっくに生産終了してるからな。現行出回ってるA系列みたいなノロマでグズなデブじゃ特殊作戦になんか使えるもんかよ、このシグマ・エリートは俺の昔の仲間が起ち上げた企業が開発してくれた逸品でな。かつて運用されていたE系列のデータと最新式のシステムを徹底的に盛り込んで完成した正当なM9だ。基本性能はE系列と同等だが最新式の電子機器による電子戦性能や素材工学の進歩から来る耐弾防御性能、ハードポイントの追加やシールドのギミックからなる拡張性、それに運用が熟してきたM9というプラットフォームに蓄積された整備性と信頼性は素晴らしいの一言に尽きる。E系列の時点で既にASというプラットフォームの限界性能を達成していたが、コイツは今後それを更に向上させうる可能性を―――――――」
「わかったわかった、取り敢えずすげぇってことでいいな」
すさまじい饒舌に辟易しながらロキが端末を押し返す。確かにシグマ・エリートは素晴らしい性能を持っている。しかし、そのオペレーターとなることができるのは文字通りの【超上級者】のみだ。徹底的に突き詰めて調整を加えられたこの機体を乗りこなせる人間はE系列のM9に慣れた自分とokakaを除いてもそうはいない。自分達以外のナンバーズにすら僅か2人しかいなかったのだ。
しかし、その操縦を可能にする人員をokakaは自分の部下達から見事に選出してみせた。まさに奇跡とも言える選定を勝ち抜いた文字通りのエリート専用機であることを改めてロキは痛感した。
「只今戻りましたー」
唐突に横から響いた声、3人が声の方を向くとそのシグマ・エリートの操縦権を勝ち取ったナンバーズの二人、朱雀とルカが何やら大きな荷物と共にやって来ていた。
「おうおかえり、どうだった?D.O.M.S.での訓練。楽しかったろ?」
「社長が直々に訓練をしてくれたんですけど、有り体に言って地獄ですね」
「社長の娘に狙撃で負けました」
「「ブフッwww」」
okakaの旧友が経営する民間軍事企業【ダーナ・オシー・ミリタリー・サービス 通称D.O.M.S.】へ出向していた二人は、インストラクター達から受けた訓練の凄惨さに恨みのこもった視線で答える朱雀と肩を落とすルカの姿にokakaとロキが思わず吹き出した。
「メリッサの奴、海兵隊式でやりやがったなwwwああそれからルカ、クララに負けたのは仕方ねぇよ。アイツは親父譲りの天才だ。小学生に負けたんじゃなくて狙撃の天才に負けたと思っとけ」
「お前の昔の仲間碌なのいねぇな」
笑いをこらえながら答えるokakaにジト目を向けたロキは弟の持つ大きな荷物に目を向けた。
「アキヤ、それなんだ?」
「ああこれ?社長からokakaさんに届け物だって」
ルカがokakaにその荷物を手渡すと、okakaはその荷物の包みを開いた。一同が覗き込む中、姿を表したそれはずらりと並ぶスマートフォンサイズの携帯端末の山だった。
「よし、注文通りの出来だな。後でシグマ・エリートに取り付けて試験してみよう」
「なんだそれ?」
ロキの疑問にokakaがドヤ顔で答える。
「ニューロ・バディシステム、タチコマに使われている高度な思考能力を持ったニューロチップを内蔵した端末だ。コイツを対応する機体に接続することで個人にパーソナライズされた設定を瞬時に反映、使用者に合わせたサポートを行うシステムだ。整備ローテーションの都合上、AIを一々乗せ換えるのも面倒なんでな。こいつがあれば自分の設定を持った対話型AIを瞬時に適用できるって寸法だ」
「・・・何処かで聞いたようなシステムだな」
「・・・僕もです、ロキさん」
『ソックリ!ソックリ!』
自身のインテリジェントデバイス、ユーズはokakaが提供した機体のことごとくに支援AIとしての機能をもたらし、朱雀の抱えている学習型AI搭載の相棒ロボット【ハロ】も搭載機に朱雀の戦闘データを反映させる事ができるシステムを搭載している。その相似点に二人の中である疑念が芽生えた。
「そりゃそうだ、だってお前らのシステムがプロトタイプなんだもん」
「「やっぱりか畜生!」」
しれっと自分達をテストモデルにしていたことを告げられた二人は思わず声を荒げるも、その有用性を理解していたため、それ以上の追求は一切無かった。
「別の友人に依頼してあったんだけどな、予定が合わなくてメリッサに受け取ってもらってたんだよ。いやぁ間に合って良かった。って事でほれ、ルカの分」
「おっと!ありがとうございます」
「お前らは今まで通りにそれで良いだろ?」
「言われたって変える気はねーよ」
「僕もです。ね、ハロ?」
『コハクトモダチ!コハクトモダチ!』
嬉しそうに跳ね回るハロを尻目にokakaは端末を選抜隊員に配るべく、アリーナを後にした―――――――
「あの、僕はいつまでこうしてれば・・・」
ディアが忘れられたのは気にすることではない。
―――――――「あら、一城さん、丁度良かったですわ、これをミラ先生が」
「おう、俺も丁度良かった、これ、お前の分な」
情報部のAS格納庫へ通じる通路、そこでokakaが出会ったのは艶やかな黒髪とまるで日本人形のような美しい容姿と見事なプロポーションを持った少女だ。どうやら選抜隊員らしく、okakaはタブレット端末と交換するようにニューロバディの端末を渡した。
「ありがとうございます、後でMIKE(ミケ)を入れておきますね」
「おう・・・うわぁ、ミラの奴マジか、まーたロキの機体は魔改造かよ」
ASの搬入と同時にokakaが自社から呼び寄せて情報部特殊戦術兵器研究班に任命した常軌を逸した天才技術者【久壇未良(クダン・ミラ)】からもたらされた新たな設計図に目を走らせながらokakaが呟く。
「TAROS適性を加味した結果だそうです。驚きましたわ、こちらの組織でもTAROSの研究者がいらしゃったなんて」
「少なくとも日本やジオトロンの連中よりは進んでるぞ。こっちには【ウィスパード】がついてるからな・・・さて、じゃあ俺は残り配るから、お前はMIKE載せ替えとけよ?」
「ええ、勿論です」
「・・・色々あったが、レイヴンを一機預ける以上、今後はアテにさせてもらうぞ―――――――
――――――――――――――三条菊乃」
「ええ、おまかせくださいな、一城さん」
そう言った少女、【三条菊乃】はニッコリと微笑んで格納庫へと向かっていった。
おまけ
機体紹介
M9A2SOP-D ファルケⅡ
全高:8.5m
基本重量:10.5t
最大跳躍高:50m
最高自走速度:280km/h
最大作戦行動時間:120時間
動力源:パラジウム・リアクター/ロス&ハンブルトン SPR3300
固定武装:AM11 12.7mmチェーンガン×2、M18ワイヤーガン×2、テイザー×2
概要
okakaがかつて所属していたいかなる国家にも属さない傭兵特殊部隊【ミスリル】で使用していた第3世代アーム・スレイブ【M9ガーンズバック】のD系列試作機、【ファルケ】を最新の技術を盛り込んで復元、強化したAS。
Dはドイツのドルムント工廠で試作された機体であることを表す。
通常のM9よりもマッシブな見た目ではあるが、性能に大差は無く、若干ペイロードに余裕がある程度。
okakaがミスリル在籍中に地中海戦隊から西太平洋戦隊への人事異動に合わせてもう一機とそれに乗る上官と共に異動。その後、任務でオーストラリア本部へ出向中に敵対組織【アマルガム】による一斉蜂起が発生。負傷した作戦部長と保護されていた【ウィスパード】クダン・ミラを連れて逃走。その後ミスリル情報部のギャビン・ハンター等と合流した際にARX-8の作成の為、(勝手に)部品を流用されたため、解体保存されていた。
ミスリル解散後も復元しようにもパーツが既に生産されておらずそのままだったが、okakaが共同出資し、元ミスリルのメンバー達が作った企業【キャバリア・ダイナミクス】がA2SOPを完成させ、そのパーツを取り込むことで復活させた。
A2SOP基準のアップデートを施されており、性能もほとんど変わらないが、ミラにより本来ファルケに搭載されるはずだった【とある機材】が内蔵されたせいで活動時間が一気に低下している。
完成後、okakaは既に新たな機体を発注していたため、空き機体となっていたが、ツバメがその漆黒の装甲と猛禽類を思わせるシャープな顔つきを気に入り、数度の試験と選定を突破して専属操縦者となった。
AIのコールサインは【ノキザル(軒猿衆が由来)】
※余談:とある事情によりツバメはこの機体の【100%】を発揮できる唯一の存在となった。
あとがき
だいぶ執筆から離れていたのでリハビリを兼ねて書いてみました。いやぁ、もう少しじっくり書きたいのですが、モチベーションの維持が結構キツいです。
でも可能な限り続けていきたいと思っているので。良ければ読んでやっていただければと思います。
サブタイトルのエクササイズプログラムは【演習項目】と訳していただければなんとなく解っていただけると思います。
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お久しぶりです。リハビリを兼ねて書いてみました。進行中の話の続きはいずれ書きたいと思っています。