南陽郡
太守の屋敷の一番広い部屋で、一番大きな態度をしていてる少女がいた。
??「つまらんのー、なにか面白い話はないのかえ?」
南陽太守、袁術公路。真名は美羽である。
??「どんなお話をご所望ですか、お嬢様」
側に控えていた側近の少女が声をかけた。名を張勲、真名は七乃である。
美羽「そうじゃのー、麗羽の馬鹿はなにをしておるのじゃ?」
七乃「袁紹様は今は洛陽におられますねー、ただし、宮廷内のキナ臭い話がこの南陽にまで伝わってきております。」
美羽「ほほー、謀略にでも巻き込まれて死んでくれたら袁家の全ては妾の物じゃのぉ」
と言うと、幼い顔ではあるが妖しく笑った。
その顔に七乃は卒倒しそうになるほど興奮する。
七乃「あぁん、お嬢様ぁ、そのお顔が意地が悪いのが出ててとてもステキです!」
美羽「そうかステキか!うははははは!」
七乃「あ、そういえば・・・」
美羽「うん?」
七乃「洛陽といえば、陳留王劉協様の配下の王允殿の使者が参られてましたが・・・・」
美羽「一体、何用じゃ?」
七乃「いえいえ、たいした用件ではなかったので、適当に返事しておきましたー」
美羽「よいよい、七乃のすることに間違いはない、全て任せる!」
七乃「はーい、ありがとうございまーす」
(話の内容はとても胡散臭くて、お嬢様に教えれるようなことではございません・・・探りもいれてみたけど、同じ様な使者を地方で軍閥化しつつある諸侯に派遣してるようですが・・・話に乗る人は、いないんじゃないかなぁ・・・)
美羽「七乃ー、他に面白い話はないのかえ?」
七乃「そうですぇ、この南陽は豊かな土地なんですけど、すぐ南の荊州もなかなか豊かな土地なんですよねぇ」
美羽「ふむふむ」
七乃「で、そこを頂いちゃうってのはどうでしょう?」
美羽「おぉ!それはいい考えなのじゃ! ん・・・? しかし、妾の兵士達が傷つくのは嫌じゃのぅ」
七乃「そこはお任せください、うまーく、美味しい所だけ頂くようにしますよー」
美羽「さすが七乃じゃ! 前祝に蜂蜜水で乾杯じゃー!」
七乃「はーい、お嬢様ー」
七乃(あの狂犬達を使えばいいでしょう、我が軍は後方で兵站でもしてれば問題ありません。それに同盟相手とはいえ、すこし調子にのりすぎなので強力な劉表軍と戦って削れてもらわないとですしねぇ・・・弱体したあとに前に出て城を頂いてしまいましょう)
呉郡
太守の屋敷の中庭で二人の女性が戦っていた。
もちろん訓練ではあるのだが、まるで実戦のような迫力である。それを少し離れたところで見ている二人は対照的であった。
??「我が主よ、そ、そのようにやられては、雪蓮が・・・・」
と、アタフタしているのが、周瑜公瑾、真名は冥琳である。
その横で悠然と酒を飲んでいるのは、黄蓋公覆、真名は祭である。
祭「フッ、あれくらいでアタフタしてるようでは、次代の孫呉は担えぬがな」
と、杯になみなみと注がれた酒を一気にあおる。
そんな二人のやりとりなど、一切耳に入らぬかのように戦い続けてた二人だが、ようやく剣を収めて冥琳と祭のところに戻ってきた。
孫堅「すこしは腕前があがったか、雪蓮?」
雪蓮「ふー、まだまだかないませんわ、母様」
と、肩を落とす雪蓮。
孫堅「そうそう簡単に負けてやるわけには、いかんからな。それに武だけではなく知も磨きなさい、でないと孫家は冥琳にのっとられるぞ?」
祭「違いない、ははは!」
冥琳「そ、そのようなことはありません! わが身果てるまで、堅様と雪蓮のためにつくす所存」
雪蓮「フフフ、冥琳であれば、私はかまわないわよ、母様」
冥琳「な、雪蓮まで何を言う!」
と、叫んだ後、意地悪く続ける。
冥琳「なら雪蓮は、仲謀殿を主君と仰ぐようになるかもしれんぞ?」
四人のいるところから見える屋敷の中の陽の当たらない所で末娘の尚香と共に昼寝をしている次女の孫権仲謀を指差す。
祭「違いない、ははは!」
堅「祭はそれしか言わんのか?ははは!」
豊かな胸の二人が、声と胸を震わせて大声で笑っていると、いつのまにか傍に控えていた周泰が次自分の胸と見比べて、ひどく悲しい顔をしていた・・・・
雪蓮「ん?どうした明命?」
周泰、字は幼平。真名は明命である。
雪蓮の声に、ハッと我に返る明命。
明命「も、もうしわけありません、孫堅様。袁術殿よりの使者が参っております。」
堅「ほう? そのような予定は聞いてなかったのだが、先触れもなしとは急な用件か?。まあ、よい、すぐに行くと伝えなさい。」
明命「はっ!」
軍議の間
堅「ほぉ、側近中の側近である、張勲殿がわざわざのお使者とは・・・」
七乃「これは、孫堅殿、お久しぶりでございますー」
堅「早速だが、用件は?」
七乃「お話が早くて助かります、我が主である、袁術様からのご相談なのですが・・・現在、荊州は袁紹殿の息のかかった劉表殿が治めております。」
堅「ふむ。」
七乃「しかし、その劉表殿は病で伏せってるご様子。よって、荊州を・・・・」
堅「共に攻めぬか?という話か」
七乃「然り」
堅「・・・命は天より受く」
それだけ言うと、孫堅は奥に下がってしまう。
七乃はひどくあわてると同時に思考をめぐらせる。
七乃(ど、どういうこと?お嬢様の言うことは聞けないということ?我が袁家に対してなんという無礼!し、しかし、孫堅軍は我が軍よりも数が少ないとはいえ勢いがある、戦になるとこちらの出血も・・・)
冥琳「張勲殿」
七乃「ん?」
思考の波に潜っていた七乃は冥琳の声で我に返る。
冥琳「南陽郡の袁術殿と呉郡が本拠のわれらが攻めるとなると、まずは江夏郡からになると思われます。よって、我らは東から、そちらは北からということでよろしいか?」
七乃「(よ、よくわからないけど、攻めるのは納得したということ?)し、承知した。」
冥琳「我らは早速にでも先発隊を二日後にでも出発させます、本軍も五日後には出れるでしょう、そちらも時機をあわせてよろしくおねがいします。」
七乃「はい、心得ました。では、これにて・・・」
七乃(二日後に先発隊、五日後に本軍など、早すぎる! あらかじめ用意してたとしか考えれません、なにか考えないと、このままでは・・・)
退場していく七乃達を見送る、呉の群臣。その姿が完全に見えなくなると、
雪蓮「次は荊州ですか、母様」
いつのまにか、戻ってきている孫堅がうなずく。
堅「うむ、むこうも軍をだすといってるのであれば、丁度良いではないか。江南を攻めて背後を落ち着かせる予定ではあったがのぅ」
祭「儂は戦えるならどこでもいいのじゃが、袁術にのせれてというのは好かんのぉ」
冥琳「ですから、あやつらが来るまでに落としてしまおうということですよ、祭殿」
堅「先発隊として、韓当、程普、凌躁に出陣を命じる! 本軍は、策、周瑜、黄蓋、そして我がでる!」
一同「はっ!」
堅「(江東は固めてはあるが、他はまだまだ完璧に統治できているとはいい難い。豪族共も、勝ち続けて勢いがあるからこそ従ってるに過ぎん・・・正直な所は、江南の小豪族共を討ち従えたいところではるが・・・荊州はそれさえも後回しにさせるほどの甘い果実よ。あの地を全て手に入れることができれば、孫呉は安泰よ!)それゆえ、必ず勝たねばならん」
群臣はすべて退席していたが、唯一残っていた雪蓮が孫堅の声に気づき顔を見る。
雪蓮「母様、なにか仰いましたか?」
堅「此度の戦は、今までのようにはいかん、心して臨むように。」
雪蓮「はっ! 一つ聞いてもよろしいですか?」
堅「なんだ?」
雪蓮「命は天より受くとは、一体?」
堅「ははは!あれか!・・・あれはな、張勲に考えさせるためじゃ」
雪蓮「考えさせる?」
堅「うむ。冥琳は、ああはいってるが、今回の戦は簡単には終わらん」
雪蓮「江夏太守の黄祖は、そんなに強いので?」
堅「ああ、強いのぉ、今までの敵とは段違いにの。それゆえに、袁術の軍にも戦ってもらわねばならん。最初の心積もりでは、あやつらは戦の時は我らの後ろにいるつもりでいただろうしのぉ」
雪蓮「なんというやつらだ!」
堅「しかし、我が言葉によって混乱した張勲は、冥琳の北と東からの攻撃に賛成しよった。」
雪蓮「北からくる援軍は奴らに引き受けてもらうと・・・、しかし南からの援軍は?」
堅「そちらには、穏と明命をいかせた。謀をもって止める」
雪蓮「・・・流石ですね。」
堅「打てるべき手は全て打つ。なんとしても荊州を手にいれるぞ、雪蓮」
雪蓮「おまかせください、母様。見事、黄祖を討ち取ってみせます!」
そう叫ぶ娘を愛おしく見つめる母である、孫堅。
この戦の先に待つ未来を共に見ることができるのであろうか・・・
この大陸の混乱が続き限り、それは見ることのできない夢なのだろうか・・・
荊州 江夏郡
孫堅・袁術連合軍が攻め寄せるという情報が出回り、城は喧騒に包まれていた。
黄祖「蘇飛!襄陽に援軍の依頼はしたか!?」
蘇飛「は、すでに済んでおります。」
チリーン、チリーン
黄祖「ん?鈴の音?」
蘇飛「あぁ、あやつですな」
段々と鈴の音が近づいてきて、姿を現した。
鋭い目付きではあるが、どこか悲しげな瞳の少女が右手に包みをもって黄祖の前までやってきて、その包みを黄祖の前にドスンと置く。
黄祖「なんじゃ、これは?」
蘇飛「答えよ、甘興覇。」
少女の名は、甘寧興覇、真名は思春。
蘇飛の言葉には答えず、包みをほどく・・・でてきたのは、生首であった。
蘇飛「こ、これは・・?」
甘寧「孫家の先発隊が着いたばかりで隙があったので、一番のりで討ち入った。これは、武将・凌躁の首だ」
蘇飛「おお、これは大手柄であるぞ、興覇殿」
しかし、黄祖は不機嫌であった。
黄祖「だれが命令したか! 勝手な行動はするな!・・・これだから賊あがりは・・・」
甘寧「チッ」
舌打ちして、思春は振り返りでていく。
しかし、それを蘇飛が追いかけてきて黄祖の姿が見えなくなったところで声をかけた。
蘇飛「興覇殿、黄祖殿はあぁ言っておるが、見事でござるぞ」
思春「ありがとうございます、しかし、所詮は賊あがりとしか此処ではみてもらえぬよで・・・」
蘇飛「この時機に手柄をあげた興覇殿に、私がいうのは可笑しいのだが・・・別の主君を探したほうがいいのかもしれぬな・・・」
思春「ご助言、かたじけなく・・・」
そして、入ってきた時よりも更に悲しげな目をして、立ち去っていった。
南陽郡
すでに江夏出陣についての軍議はおわり、美羽は退出していた。
残っているのは、張勲、紀霊、楽就、雷薄であった。
紀霊「一体、話とはなんじゃ?張勲殿」
七乃「孫呉のことですよ、あのまま勢力を拡大させるのは不味いと思います」
楽就「それについては同意だな。」
雷薄「あのような成り上がり者どもに大きな顔をされるのは気に入らん、孫子の末裔などとは眉唾物じゃ」
張勲「そこでですね、孫堅を・・」
紀霊「まて、それ以上は言うな。そのような謀は我らがする。そなたは主の下にいっておれ」
楽就「あぁ、それがよい、このようなことは我らだけでやる」
雷薄「なぜか、我が主の前に出ると、とても申し訳ない気持ちになるのじゃ・・・だが、あの笑顔に救われる。汚い仕事は我らにまかせよ」
七乃「そなたたち・・・、すまぬ・・・」
そういって頭を下げて張勲は出て行った。
紀霊「・・・さて・・・黄祖の配下にいる、呂公とは旧知でな」
楽就「それはよいな、孫呉などは孫堅でもっているにすぎん、それさえいなくなれば・・・」
雷薄「然り。」
紀霊「呂公も手柄がほしいであろうし、他言はせぬであろう」
楽就「儂は、着陣したのちは、孫呉の陣に行き、連携を密にするためといい、孫堅の陣の側に陣を張ろう、なにかあれば紀霊殿に伝令を走らせる」
雷薄「その伝令は、こちらにもお願いしたい。呂公殿を信用せぬわけではないが、念には念をいれて我が部隊を動かす」
紀霊「・・・・よいのか? もし姿を見られた場合、同盟国であるのだから、そなたを処罰せねばならぬぞ?」
雷薄「かまわん、生き残りなど残さぬ。それに確実に袁術様のためになるのじゃ、処罰されても悔いはない」
三人の謀を立ち去ったとみせて聞いていた七乃。
七乃「(失敗したとしても配下の暴走ということで三人を処罰すればよい・・・孫堅よ、天とは美羽様のことだ、それ以外の天などのないのですよ! その天からの命によって、舞台から退場してもらいましょうか!)」
七乃は三人に気づかれぬように静かに、そして、軽やかにステップを踏みながら美羽の元に急いだ。
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今回は孫呉、袁術編なのですが、思ったより長くなり3で収まりませんでした・・
蒼天にはかなり影響されておりますw
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