真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-
第175話 ~ 夏風に舞うは少女の想い ~
(はじめに)
キャラ崩壊、セリフ間違い、設定の違い、誤字脱字があると思いますが温かい目で読んで下さると助かります。
この話の一刀はチート性能です。オリキャラがあります。どうぞよろしくお願いします。
【北郷一刀】
姓:北郷
名:一刀
字:なし
真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇("虚空"、"無風"と文字が描かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(現在予備の糸を僅かに残して破損)
習 :家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、
:意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
得 :気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)
:食医、初級医術
技 :神の手のマッサージ(若い女性は危険)
:メイクアップアーティスト並みの化粧技術
術 :(今後順次公開)
一刀視点:
ばっ!
タンッ
だだんっ!
トンッ
硬い床ではあるものの、石畳や硬く踏み固められた地面と違って、木の撓る特性を考慮されて張られた板間の部屋に足音が響き渡る。
広大な屋敷の中にある建物の一つ、五拾畳以上はある鍛錬用の部屋の中で、
互いに素手とは言え、この世界の将の持つ身体能力は絶大。
ましてや彼女ほどの将ならば素手であろうと本気で打ち込まれたならば、普通の肉体しか持たない俺など、ガードした腕ごと腹を突き破り臓物を引きずり出すくらいは容易いこと。
トッ
「ちぃ、このひらひらと」
もっとも、今は
むろん、こう言う手加減しながらだと、実力を出し切れない人達もいるけど、武威五将軍たる更紗達は勿論。孫呉の主立った将達ともなると、そんな段階はとっくの昔に卒業しており。
ばんっ
ト
…っと。
やばいやばい。
逆に相手を一撃で倒そうと言う余分な力みが無い分、技が鋭かったり反応や行動の移りが半呼吸分は早かったりする。
おかげで
超接近戦とも言える距離に、小柄な彼女の放つ呼吸が胸元にそっと掛かるのを感じ。それをくすぐったいと感じながらも、突き出された相手の左腕に置いた手を引くように、そのまま立ち位置を入れ替えるかのように、再び互いに距離を取る。
無論、その際にやる事は忘れていないけどね。
だから……。
「ん、…それまで、おにぃの勝ち」
「んな!?」
どこか眠たげな声だけど、本人としてはしっかり起きているつもりの
たしかに、右腕はだらりとぶら下がっているとは言え、その原因たる俺の攻撃をその腕に受けたのは数分前の事。その後は互いに決定打の無いままに攻防が繰り広げられていただけ。
……でも。
「ん……、
これ以上、おにぃの負担になるだけ。…だから」
「れ、恋殿、
「ふるふる。…違う。…恋もやられた。…だから分かる」
まぁ、普通はそう思うよな。
と言うか、今のように思ってくれなければ、今頃俺は恋にやられてあの世に逝っていたに違いないわけだしね。
恋と俺との一戦を見ていない
「……なるほど、点穴とは逆の理屈のように見えるが、小さな威力を相手に気づかれないように分散と蓄積させているところを見ると、通じるものがあるのだろう。
ちっ、まだこんな技を隠し持っていたか」
「かなり特殊な打ち方でしょうから、あれだけ流れるような動作の中に入れているだなんて、とても信じられません」
「それだけやないで、離れて見取るから、なんとか分かるけど。あれを間近でやられたら、ウチ等でもまず気がつかれへんな」
「まぁ一刀は、女の肌をそれとなく優しく責めるのは得意そうだし」
首をかしげている武威五将軍の皆さんとは逆に、冷静に分析をしているは、先日、南方から帰ってきたばかりの
無論、最期の人聞きの悪い事を言う何処かの元王様の一言は聞こえないふりをしてやる。
其処、頷かないのっ!
「将に限った話では無いけど、みんなのような力を持った人達は、ん〜、こういう言い方は失礼だとは分かっているけど、化け物じみた身体能力をもっているんぶん、それを過信しているところがある。
なら、怖くはあっても恐くは無いさ。 つけいる隙なんて、いくらでも作り出す事が出来る」
恋にはあの時に言ったけど、
……もっとも、その隙の切っ掛けを一つ作るにしても、此方は毎回命懸けだから割には合わない。とは流石に言わないけどね。
「さっきみたいな技は俺が言うのもなんだけど、流石に戦場向きじゃないから使われる事はまず無い。 ただ、ああいう戦い方もあると言う事だけでも、頭の片隅に入れておいてくれればいいさ」
恋との時は、一切邪魔の入らない状況を作ったのと、仲間がそれを死守してくれると信じられるからこそ使えれただけのこと。でなければ、仕掛け終わるまでに時間が掛かりすぎてとても使えないような技。
それに技なんてものは流派や状況によって変わってくる。
なら技そのものを覚えてもさして意味は無い。ああいう攻め方もあるという事だけ知っておいてくれれば、彼女達なら学んだことを活かしてくれるはず。
……で、結局、何でこうなっているかと言うと。この建物、所謂、鍛練場の御披露目を兼ねて招待したんだけど、そこでちょっとした仕合を行う話になり。 そこで真っ先に名乗りをあげたのが
その事に霞がわざとらしく悔しがっている影で、思春が羨まし気にしていたのは内緒だ。…口にすると後が怖いからね。
「よっしゃー、次はウチの相手してや」
「……ん、分った」
「いや、恋やのうて、ウチは一刀に」
「おにぃ休む。……だから恋が相手」
霞の名乗りに、恋は有無を言わさず俺と霞の間に立って得物を構える。俺の相手をしたければ自分を倒してからと言わんばかりにね。
正直、霞には悪いけど、俺としては少し休みたいというのが本音。
さっきも言ったように、あの一戦で恋に仕掛けた小細工は、通常の戦闘で仕掛けるような手ではなく、俺にとっても神経どころか命を削る思いで無ければ出来ないギリギリの仕掛け。
幾ら恋より格下の更紗で、おまけに手加減してくれていると言っても、俺にとっては決して手を抜けるような相手ではないわけで、短時間とは言え精神的にもきついため、恋の申し出は正直在りがたかった。
……それに身体はともかくとして。あっちの方は、まだまだ快復していないからね。
ぱんっ
びしっ
建物の中に響き渡る甲高い音。
なし崩しに始まった恋と霞の一戦だけど、二人が手にするのは、いつもの己が愛槍ではなく。棍の先端に竹で組んだ仮初の刃。 俺の世界で言うところの竹刀のようなもの。形的には薙刀の先を竹刀にしたものと思ってくれればイメージしやすいだろう。
なんで、そんなものを使っているかと言うと、この鍛練場自体が軟弱体質扱いされている俺のために作られた建物だったりするわけで。
硬い石畳や踏み固められた大地ではなく、衝撃を吸収するさせるために、
鋼で出来た模造刀では当たった時に打撲では済まなくなるために、大怪我のしにくい竹刀。
例によって、以前にどこかの腹黒都督に一般兵の武術鍛練の相談を受けて、天の世界にはそういうものがあると答えてあったわけだけど。あの時は緊張感の欠如を増長させかねないという将達の意見で見送られたはずだったんだけど。
それが前々から俺の事で華佗に言われていたのと、恋達との一戦での件で冥琳も華佗からの嫌味を逃れるための口実。という口実にとりあえず此方に急遽建築することになったわけだ。
冥琳としては将達の意見も理解してはいるが、俺を出汁にして兵達が生き残るための最低限の戦闘技術の習得は必須にしておきたく。なにより、いくら必要だからと言って鍛錬で死者や兵として使い物にならなくなる者を極力減らしたいらしい。
怪我の治療費や遺族への補償金。それらが馬鹿にならないというのもあるだろうけど、どうせ大怪我や死ぬのならば、国のために役に立って死ねというのが本音なのだろう。
彼女の立場からしたらそう考えざる得ないのは当然のこと。
……華やかな雪蓮や蓮華の立場の影で、そう言う闇を一身に引き受けてね。
ばしんっ!
「っだあぁーーっ!」
「……恋の勝ち」
「じゃないやろっ!
打ち込んでどうするんやっ! 寸止めはどないしたんっ!」
「……? 大丈夫。これなら痛いだけ」
「大丈夫やないっ!
無茶苦茶痛いやんけっ!」
……こういう勘違いで死なれたくない。と言うのも本音なのは確かだろうな。
緊迫感や得物の重さに慣れるには、確かに不向きかもしれないけど。単純に腕を競い合う事での戦闘技術の習得と向上と言う意味では、有効な手段には違いないから、此処を発端に一般兵向けの鍛練場が将達に受け入れられることを祈るのみだな。
「あぁ、もうええ。寸止めだと恋に確認するのを忘れたウチが悪かったことにするわ」
そういうわけで恋、次の
「……ふざけるな。 と言うか、その呼び方は止めろと言ったはずだ」
いやぁ結構可愛いから似合ってるんじゃないか、いえ何でもありません。
そんな殺気を放って睨み付けなくても……。それに心の中でぐらい最後まで言わせてくれてもいいのに。
「……ん、大丈夫。
当たらなければ痛くない」
「……おもしろい、その挑発に乗ってやろうではないか」
「……挑発? 恋、べつに挑発していない」
恋の悪気のない一言に、開始の挨拶など関係なしに始まる第3戦目。
……こんな調子で広まるんだろうか(汗
床を踏み抜いたり、竹でできた得物を圧し折ってしまわないギリギリの範囲で力加減しているとはいえ、この世界の超人達のじゃれ合い染みた本気の試合に冷や汗を垂らしていると。
「あるじ様、あるじ様」
ピコピコと大きく下に揺れる兎耳の被り物をした
なんでも、黒山地方とか言う山岳地域を主に生息する巨大な兎。なんでも大きいものは身の丈2メートルをも超える兎の毛皮らしい。
そんな毛皮を両手と両足、それと御尻にの辺りに飾りとして丸い尻尾を身に着けている。
正直、そんな
【絵著者:金髪のグレイトゥ様】
「どうしたの?」
「
「これ、あまり
確かに、彼女の言う通りかもしれない。
「……だめ」
「貴様、余所見とは余裕のつもりか」
「……ん、大丈夫」
「っ!」
思春の相手をしながらでも恋はしっかりと此方の様子を窺っていたらしく、
むろん、恋は俺の内的な消耗に気を遣ってくれているのは分かっているし、おそらく俺の本当の状態を一番正確に把握しているのは、医者の華佗でも家族である明命や翡翠でもなく、同じ北郷流の使い手でもある恋だろうと言う事もね。
ん〜、でも恋の心配も嬉しいけど。
実際、明命との鍛錬は再開しているし、半月に一度の北郷隊との簡単な手合わせも先日やったわけだから、俺直属の軍の将達の相手をしてあげていないというのも確かに変と言えば変な話ではある。
……でも、みんな忘れているかもしれないけど、俺のは【舞】であって【武】ではないんだよね。
なら……。
「武の相手でなく、舞の相手でよければ」
「ふに?」
うん、やっぱ今の説明では分からないか。
キョトンとしながらも首を可愛らしく傾げる
一定以上の距離を相手の持ち手から離されてはいけないし、勿論転んだりしてもいけない。
言うまでもなく力業禁止で純粋に動きだけで、相手の動きに合わせた上で相手の予測を上回らなければならない。
反応速度が速いこの世界の将である彼女の方が有利ではあるけど、相手の動きを読むという点では俺の方が有利。
少し違うけど、中国拳法の推手に遊び要素を加えたものと思った方が想像は付きやすいと思う。
一通り説明を聞いた
「それ面白のですか?」
「遊びだからね。楽しんだものが勝ちと言えば身も蓋もないけど。でも、妹とは結構これで遊んだりもしたかな」
ぼすっ
「ぐぁっ」
鈍い音共に、床に転がる思春。
とっさに後ろに下がっていたといっても、流石に喉を突き込まれたら悶絶くらいするよ。
超人的な肉体を持つ将である思春だから痛い程度で済んでいるけど、俺や一般兵なら十分に致命傷になりえる。 ……恋には後でしっかり言い聞かせておかないとな。
その恋はと言うと、スタスタと元の場所。音々の隣に座るなり此方を黙って見つめ中。
眠そうな目をしているけど、恋の目はしっかりとこう語っている。
遊びなら恋もおにぃと遊べる。
……とりあえず。実害の無い遊びならとやっても良いと判断された思って良いんだろうな。
咳き込みながら、喉を擦る思春の冷たい視線を全力で気がつかない振りでやり過ごしながら、部屋の中央で
両手を合わせ合う事から、見た目的には舞いと言うより舞踏会のダンスに近いかな。
まずは初めての彼女をリードするように、持ち手の左手を引いたり押したり、それに合わせて
押したり引いたり、横の動きは勿論、時には回るかように足を動かしてゆく。
まるで二人で舞う輪舞曲かのようにね。
彼女も慣れてきて気がついたのだろう。確かにこれは遊びだけど、彼女の望む武に通じるものがある事をね。
互いに触れている僅かな部分から、相手の動き全てを読み取るだけで無く。息が掛かるほどの距離で見つめ合う視線の奥から、相手の感情と思考を読み。呼吸から動く量とタイミングを知る。得物で打ち合い、殴り合わないだけで、多く部分は同じだと言う事に。
だから、足や手を動かすタイミングや相手の動きを利用して。
「にょ。ふぅ〜です」
体移動に膝と足がついて行けなくなり、
無論、彼女だって負けていない。明命をも上回るだろう持ち前の反応速度や動きの速さを駆使してくる。 ……が、ただ速いだけなら生憎と初動作の起こりさえ見逃さなければ、俺程度でも十分に反応できる。北郷流を使わなくてもね。
素直で真っ直ぐな動き。まるで
でも、それだけでは無い。その奥に熱く激しいものを感じる。
なにより、ちゃんとこの状況でも俺を傷つけないように、ギリギリの所で力加減をしている優しい心根の持ち主だと分かる。
だから興が乗る。
せめて遊びらしく楽しい舞いを。
それでいて彼女が望んでいたような動きの舞いを。
「ぷきゃ」
「はい、おしまい」
興奮と笑みが眭涸の表情に浮かび上がってきているのをしっかりと確認し、少し名残惜しいと思いつつ、眭涸が足を床に下ろす一瞬前に、眭涸のその足を少しだけズラしてやる。
それだけで眭涸は座り込むように地面へと腰を落としてしまう。
無論、そうなるように仕向けたんだけどね。複雑で高度な膝かっくんを喰らったようなものと思ってくれれば良い。
俺の悪戯かのような最後の仕掛けに、可愛らしい小さな悲鳴を上げて座り込んだ眭涸は、少し悔しげにしつつも、上気した顔には確かに笑顔が浮かんでいた。
うん、楽しんでくれたのなら良かった。
「んにゃ。負けてしまったのです。
あるじ様は不思議な動きをするのですね」
「俺のは【舞】であって【武】じゃないから、武人である君達からしたら不思議と感じて当然だろうね」
差し伸べた俺の手を
手袋越しに伝わる温かい手の感触に不思議と感じながら…。
「
今は、俺みたいな相手の裏をかく戦法を得意とする人間とは相性が悪いだろうけど、今の殻を打ち破れば、相手の思惑ごと打ち破れるようになっていくだろうからさ」
目に頼りがちなところはあるけど、
今は、この超人だらけの将達の中ではまだまだなのかもしれないけど、これから楽しみな娘なのは確か。
「ふにぃ、
でも、あるじ様の裏をかく方法は、
自信満々に言ってくる
俺を倒す方法なんて言うのは幾らでもあるけど、あれだけ真っすぐな動きをする彼女が、正面から裏をかく方法と言われれば、好奇心を擽られても仕方ない。
だから
彼女はせっかく突き出した手をそのまま引っ込めるかのように、俺の右手を引っ掛け。
ぷに。
……。
……胸だよな。
ふに。
ふにん。
…暖かくて、柔らかい。
……それに甘い良い香りが。
………これくらいだとBのAくらいかな?
…………明命の勝ち。そんでもって翡翠の負け?
……………え〜と〜、なにがだっけ?
どすんっ!
「…っ、げほっ」
背中に襲った衝撃と言うか、気が付いたら床に背中からひっくり返っていた。
むろん、完全に不意を突かれたため受け身なんて取れるわけもなく、痛みどうこうより衝撃に咳き込む。
咳き込むんだけど。……その、なんと言うか手に残った確かな感触と、鼻を擽るような甘い
「正体を現したですねっ! この変態男がーーーーーっ!」
「ぐはっ!」
叫び声と共に背中を思いっきり蹴られ、宙に浮く俺の身体は、やがて重力を思い出したかのように、地面へと落ち始めると同時に…。
「うきゅ」
「でっ」
小さな悲鳴とともに何かにぶつかり、縺れる様に今度は俯せに声の持ち主とともに倒れ込む。
叫び声の持ち主なんて、聞かなくても分かる。
蹴られた事にたいして、いろいろ言いたい事や、やるべき事はあるだろうが、そんなことよりまず問いたい。
「今、どうやって蹴った!?」
「そんなの音々が知るわけないのです!」
確か俺は床に背をしていたはずだぞ。それを背中の真ん中を真っすぐ蹴り上げられたら不思議に思うだろ。床下を蹴破ってと言うのなら、この世界の超人達ならともかく、その形跡すら無いんだぞ。
だというのに肝心の蹴り主は、真っ平らな胸を大きく張り上げて仁王立ちしながら自信満々に言い放つ。
嘘は言っていないみたいだし、周りを皆も目を丸くしているところを見ると、本気で今、何が起こったか分からないのかもしれないけど。
……物理的障害は無視ですか?(汗
……まさか瞬間移動でもしたとか?
……恐るべし陳宮キック。
「そんなことよりも。
音々の前で、よりにもよって純情な
いい機会です。諸悪の根源たる、その不埒なモノを捥いであげるから観念するです」
「はいそうですかと、観念するかっ!
だいたい、今のは俺が悪いのか!?」
「音々には、たっぷりと楽しんでいたようにしか見えなかったのですぞ!」
いや、楽しんでないぞ。
驚いていたのと、やわ温かい感触に戸惑っていただけで、決して自ら楽しんでいたわけではない。
っていうか、何で皆さんそこで頷くんですか!?
俺には味方はいないのか!?
「ぅきゅっ」
思わず手を握りしめるとともに、下から小さな声が聞こえって、
「わ、悪い。今、どくから」
さっきの衝撃で供に床に倒れ込み、俺の身体の下にいた眭固から身体をどかすために、ついていた手を…って、妙に暖かくて柔らかいと思ったら眭固の御尻だったか。
別にいやらしくないぞ。偶然の事故だし。手をついていたのは、お尻と言っても服の上、しかも飾り物の尻尾の上からだしな。
「ぅぅ、ぁ、あるじ、様、…その手を…離して…ほしいの…ですぅ」
「ん?」
なにやら苦し気と言うか、なぜか紅潮した顔の
しかも、これ以上もたついていたら、それこそ余計な嫌疑をかけられない。
下になっている
「さぁ、とっと言うのです」
再び俺の身体を跨ぐように仁王立ちした音々に睨み付けられる。
「いや、言うもなにも、本当に悪気や変な気持ちなんて無かったって。確かに暖かいなぁとか、感触が気持ち良いなあとか思いはしたけど」
「そっちは後で問い詰めるとして、
「んにゃぁ、
あるじ様はむっつりに違いないから、胸にでも手を当てさせたら隙が出来るって言ってたのですよ。 でも、むっつりってなんなのですか?」
「
「ああ、彼奴ならさっき、慌てて部屋を出て行ったぜ」
「逃げるなどと卑怯ですぞぉっ!」
「た、助かったぁ」
「なにがですか?」
「げっ」
ぎゅにゅーー。
「いひゃいいひゃい。ひょめ、ひょめんってふぁ」
安堵していたところに、いつの間にか側にまで来ていた
「今回は
正直なのは美徳ですが、時と場合と相手を考えてくださいと。
私が言う事ではありませんが、少なくとも想い人がいるところでは控えるぐらいはしてあげたほうが良いと思いますよ」
「……うっ」
愛さんの言葉に、慌てて明命の方を振り向くと。
……はい、むくれちゃってます。
こうほっぺを膨らませて。ぷく〜とね。
そして俺と目が合うなり、明命はぷいっと横を向いて拗ねてみせる。
うん、可愛い。
って、やばっ、どうやら考えている事が顔に出ていたのか、ますます膨らんだほっぺを膨らまして、知りませんっ! と言い残して出て行ってしまう。
あちゃー、失敗したな。 俺なんかにヤキモチを焼いてくれていると思うと嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまうのが裏目に出てしまった。
……あの怒り具合からしたら、後でなんとかしないと後が恐いな。
「追いかけなくて良いんですか?」
「うん、まぁ……後でね」
愛さんの言葉に心の中で明命に謝りながら答える。
明命の事が気かがりで無いと言えば嘘になるけど、今はそれよりも……。
「
ビクッ
俺の言葉と視線に、愛さんの身体の影で小さく震える
白い小さな顔に紫掛かった紅い大きな瞳に浮かんでいるのは……怯え。
気のせいか
さっきまであんなに楽しそうに笑ってくれていたのに、いきなりこうも怯えられるとは……弱ったな、こういうのには、どうにも慣れていない。
やっぱ原因は不可抗力とは言え、さっきのお尻を触っちゃった事かな。 服の上、しかも飾りの尻尾の上からとは言え。今、思えば暖かくて触り心地が良かったと言えば良かったし。女の娘はそう言う事に敏感だと言うから、誤解を受けたかも知れない。
「えーと、
「………あ、あるじ様は、……
俺の謝罪の言葉に、
でも、愛さんの身体の後ろから恐る恐る顔を覗かせながら言っている事から、
そりゃ、この熱い夏に被り物や手袋とかは熱そうだとは思うけど、正直それ以上にその姿が似合っているから変に思わないし。そもそも女性は寒風吹きすさむ真冬でも、可愛いからという理由でミニスカートや生足で平気でいたりするため、夏に可愛いからと被り物していても不思議には思わない。
だいたい
「
戸惑っている俺に、愛さんが理由を話してくれるものの。正直、俺には民族が違う事が【気持ち悪い】に繋がる理屈が分からないし、感情や生理的に受け付けないと言うのも理解できない。だいたいそれを言ったら、俺なんて民族が違うどころか世界が違う人間だ。そんな俺を受け入れてくれたこの世界の人間に、理由も無くそんな事を思うこと自体が有り得ない。
多分、俺のそんな考えが顔に出ていたんだろう、愛さんは
「……
そう怯える目と声で、頭の被り物を脱ぐ。
黒山地方の山岳地域に住む巨大な兎の毛皮を……。
そしてそこには脱いだ其処には先程と変わらぬ兎の被り物。
さっきと違うのは兎の顔が無いのと耳の位置ぐらいかな。と言うか、よく見ると脱いだ兎の毛皮の被り物には、兎の耳の部分が無い。
えーと、それがなにか?
耳が立っているか立っていないかの違いなだけで、よくテレビのイベント会場で見かけるようなバニーさん姿になったと言うだけの事。
………あれ? よくよく見ると。
「……もしかして」
「ええ、
「………まじ?」
「冗談でこんな事は言いません」
俺の言葉に愛さんは面白くなさそうに言い放ち。俺の視線から
だから俺は正直に言う。予想だにしなかった、この世界の姿に驚きを隠せないものの、被り物では無いという
「悪い、正直、可愛いという言葉しか浮かんでこない。
だってね。可愛いし。いや、理由になっていないけど、それしか浮かばないと言うか」
民族が違うどころか、部落や住んでいる集落が違うと言うだけで差別や迫害があるこの世界において、見た目が大きく違うと言う事は、迫害や差別を受けるには十分な理由だったんだろうと言う事は容易に想像は出来る。
……出来るんだけど、やっぱり、俺には他人ごとでしか無いんだろうな。失礼だと頭では理解していてもそんな言葉と感想しか浮かばない。
「……
「当たり前だろ。
それとも俺が嘘を言っているように見える?」
だいたいバニーさん姿どころか、コスプレが文化の一つになっている俺達の世界において、
そもそも、猫耳姿の翡翠や明命にあんな事やこんな事や口にして言えない事をした経験のある俺に彼女の姿を気持ち悪いと思えるわけが無い。
「……
「だって本当の事だし。愛さんは、
「そうは言ってません。まったく、この人は」
そう言ってから愛さんは説明してくれる。
無論、鍛えれば耐えられるようになるらしいけど、
他にも恋の部隊には、
で、その話を聞く傍ら、俺が何をしているかというと……。
「へぇ、やっぱ触ると温かいんだ」
「ん、くすぐったいのです」
「手袋の下は普通に可愛い指なんだね」
「うにゅ、でも愛様達と違って毛があるのです」
「うん、甲側と手首の部分はのことだよね。でも、男だって毛深い人間はあるし、眭涸のは可愛いくてサラサラした毛だから全然OK。こう触ると気持ち良いくらいだし、可愛い飾りにも見えるぐらい整った形だし」
「お、おーけーなのですか?」
「無問題ってことさ」
先程までの怯え顔から、元の可愛らしい笑顔に一転した
「てぃっ」
「うぉっ!」
「…ちっ」
愛さんが不機嫌になって行く理由を考えながら、
ひゅっ
びしっ
「や、やるじゃない一刀」
「やるじゃないじゃないっ! いきなり襲うなっ!いきなりっ!」
難を逃れたと言って、其処は不利な体勢には違いないわけで、其処へ雪蓮の追撃の一撃を交わせる余裕もなく、とっさに竹刀の両端を挟み込むようにして再び難を逃れるんだけど。
こちとら半分寝転んでいる状態。幾ら雪蓮の体重が軽いと言っても、このまま押し込まれたら不味いわけで。
「れ、恋、なんとかしてくれ」
とっさに恋に助けを求めるんだけど、何故か帰ってきた返事は。
「……ん〜、じゃれあい?」
と、訳の分からないお言葉。
どうやら、恋には雪蓮の鬼気迫る攻撃がじゃれあいにしか見えてないらしく、危険はないと判断されたらしい。しかも他の皆も何故か傍観の様子。
おまけに霞なんて無責任にどっちも頑張れやー、とか有りがたくない声援を送ってきてくれるし。 まぁ持っている得物が竹刀だから無理と言えば無理な話かも知れないけど。それにしたって、放置はないだろう。
ええいっ、こいつらを当てにした俺が馬鹿だった。
真剣白刃取りじゃなく竹刀白刃取り?で、なんとか持ちこたえているけど、持ちこたえれなくなるのは時間の問題。
「まて、まて、俺が悪いなら謝るから、せめて理由を話せ」
「自分の胸に手を当てて聞いてみなさいってのっ」
無茶言うな。この状態で手を胸に当てたら、竹刀が顔面に落ちてくるだろうがっ!
だいたい、分からないから聞いているというのに、その返事はないだろう!
「たぶん、ドキドキとしか答えてくれないかと」
「へぇ〜、一刀結構、余裕在るじゃない。じゃあもう少し力入れても大丈夫ね」
「まてまてまてっ、限界っ限界だから、せめて訳を話してくれって、俺なりに善処するから」
俺の余計な一言が原因か、何故か雪蓮が手にする竹刀から、怪しげな桃色の"氣"が噴き出してくると同時に、挟み込む両手どころか身体全体に押し掛かる重圧が一気に増すのを感じ、本気で懇願する。
「誰彼構わず口説いているんじゃないって言うの」
「まっ待て、誰が誰を口説いたって言うんだ」
「どう見ても一刀が
「それは錯覚だって、俺は
「それが口説いているって言うのよっ! いい加減自覚なさいっての」
無茶を言うな。多寡が耳や尻尾が付いていたりしているだけで、それを気にして怯えていたりしてたら、気にするなって方が無理だろ。
だいたい、アレはアレで
それを言葉にして
「だとしても、なんで雪蓮がそんなに怒るって、痛い痛いっ! "氣"が当たって痛いって!」
「二人の代わりにお仕置きしてあげようと思ってね! あと、ついで!」
「なるほど翡翠達の代わりなら納得。…って、ついでってなんだよ!」
「そ、それこそ、自分の胸に手を当てて聞いてみなさいって言うのっ!」
ずるっ。
びしんっ!
「いぎっ!」
何故か顔を真っ赤にした雪蓮に気魄に押されるようにして、両の掌の間をスリ抜けるようにした竹刀が、雪蓮の怪しげな"氣"もろとも俺の顔面を派手な音と共に襲う。
………な、なんで?
……がくっ。
明命(周泰)視点:
たんっ
床を踏みならす音が、心地よく響く建物の中で、一刀さんが高順を相手に舞います。
慣れない竹刀という、天の世界の鍛錬用の剣ではなく。槍や棍と同様に馴染んだ素手という己が得物でもって、一刀さんの舞いの内側へと入り込もうと踏み込んで行きます。
ですが一刀さんは、高順の動きに合わせるかのように、私より小柄な高順の更に内側へとあっさり入り込み、高順の猛攻を無意味なものへと…舞いの一部へと変えて行きます。
見取稽古
こうして一刀さんの舞いの相手ではなく、近くで見るからこそ分かる事があります。
ですが一刀さんの動きは武術ではなく舞術。
相手だけではなく、周りの人間ごと魅せるための動き。
一件無駄に見える動きこそ、其処に【魅】があり、また【愁】があり【意】があるんです。そしてそれがまた次の【魅】へと繋ぐ付箋。
……はっきりいって、これが【舞い】ではなく【仕合】と分かっていなければ、狙っている事さえ分からない程に僅かな差異。
とん
点穴とも発頸とも違う打ち方。
そっと優しく手を当てているように見えつつも、其処には僅かに身体を捻るようにして打ち込んでいるのが分かります。
一刀さんから教わった空に漂う鳥に羽を、その場に留めたまま粉砕するあの打ち方を囮に、高順に己が意図を悟られないように、何度も何度も、体中の彼方此方に……、頸脈の流れに沿うように……。
「ん、…それまで、おにぃの勝ち」
「んな!?」
だから分かります。
呂布がこれ以上の仕合は無駄だと判断した理由が。
おそらく私や思春様、そして霞様であろうとも、一刀さんの思惑に填まっていただろう事も。
だから隣に座っている思春様は、悔しげに呟きます。
自分の目指す先が、まだまだ遙か先にあると知っていながらも、その険しさと奥深さに。
慢心しているつもりはなくとも、一刀さんが指摘した私達がもつ共通の弱点に。
「つけいる隙なんて、いくらでも作り出す事が出来る」
でも、同時に一刀さんは教えてくれます。一人一人ではなく、何十何百と相手にする戦う事が多いこの世界では、当然のように身につく考え方と癖だと言う事を。でも今回こうやって見せた事で、頭の片隅においておけばこの弱点をつくような相手ならば切換が出来るはずだと。
……私達なら、そうする事が出来ると信じて。
……自分がどれだけ無茶をしているかを隠しながら。
びしっ
ぱんっ
そして再び始まる仕合。
霞様と呂布の一戦にあれだけの霞様の猛攻に、呂布は何処か眠たげな表情のまま。
「……ん〜、霞、腕あげた?」
「当たり前やっ!」
「……でも、恋の方が強い」
ひゅっ
ばしんっ!
「っだあぁーーっ!」
「……恋の勝ち」
「じゃないやろっ!」
……何故か寸止めではなく最後まで打ち込んだ呂布の一撃に、霞様は打ち込まれた右腕の赤く腫れたところを見せながら、呂布に文句を言っているようですが、……どうやら呂布は分かっていないようです。
一刀さんは言っていました。
呂布の強さは天賦の才もあるけど、引き替えに得た強さでもあるのだと。
私が幼平というもう一つの人格でもって得た心の強さと同じなのかも知れません。
力をを得るために何かを失う力。
………なら一刀さんは何を失っているのでしょう。
一刀さんが罪の意識と不安で涙する夜とは別の何かなのでは無いでしょうか。
失ってはいけない何かを失い続けているのではと、呂布を見ているとそう思えてしまいます。
なんの確証はない考えですが、なんとなくそんな気がします。
ぼすっ
「ぐぁっ」
喉に手を当てて咳き込む思春様の喉に、軟膏を塗り込みながら始まった
……とても楽しそうです。
分かっています。
一刀さんが
高順との仕合で疲れている一刀さんが、叶えられる手段で叶えているだけだと。
普段あれだけ、私のためだけに早朝鍛錬をして貰っているというのに、 こうして誰かが一刀さんと舞っているのを見ると、こう胸が締め付けられます。……心が冷たくなってゆくんです。
私は一刀さんの特別では無いのではないのでは?
そんな考えが、脳裏に浮かんでしまいます。
この間、南に行ったときに
……でも。
………でも。
ぷにょ
ふに。
ふにん。
私のと同じくらいか、それ以下の
……うぅ、私の修行不足なのでしょうか?
どういう修行をしたら良いのでしょうか?
こうして私が一生懸命、腹の底から湧いてくる私の闇を押さえながら悩んでいるというのに、一刀さんは私の顔を見て笑みを浮かべています。
ええ、分かっています。
こう言う時の一刀さんの笑みは、私がヤキモチを焼いているのだと、その事に嬉しくなっているのだということは。
だからその事に余計腹が立ってしまいます。
「知りません」
もちろん分かっています。
一刀さんに悪気はないと言う事は分かっています。
でも、これでは私一人だけ怒っていて馬鹿みたいじゃないですか。
私が勝手に勘違いして、私が勝手にその事にむくれて、一刀さんを一方的に困らせているみたいじゃないですか。
だから、今は一刀さんの顔を見たくありません。
これ以上、此処にいては、またみっともない私を見せる事になるに違いないからです。
「……ふぅ」
屋敷の外に出て、空気を胸一杯に吸い込みます。
嫌な自分を吐き出すかのように、思いっきり吐き出します。
「……一刀さんの馬鹿」
本当は追いかけてきて欲しかった。
私の我が儘な感情に付き合って、私の暗い感情を慰めて欲しかった。
……でも、一刀さんは追いかけてくれません。
いいえ違います。追いかけてこれないんです。
私の知っている一刀さんなら……。
私の好きになった一刀さんなら……。
……今は追いかけてきません。
見た事はありませんが、南蛮の民とは違う容姿を持つ、西の高原地域にいる少数民族。
民族自体が優れた身体能力を持っているにも拘わらず、少数民族が故に戦に利用され、その事で多くの犠牲者をだし。 ますます勢力が弱くなった事で、虐げられるようになった民族。
以前に相見えた時には気づきませんでしたが、偶然とは言え飾りの尻尾と思われていた場所に力をかけられた事で、虚脱している
他にも呂布の率いる軍の人達は訳ありの人間が多くいます。
……真面な軍であれば真っ先に打ち捨てられて行く者達。
それが、呂布達を孫呉の直轄の軍に組み入れなかった真の理由。
蓮華様や冥琳様達が幾ら問題がないと言おうとも、信頼できない者達とは共に戦えない。そう拘る古き人達の声を無視するわけにも行かなかった事情があるが故に。
利用すべき天の御遣いの軍としてならば、利用価値はあると。其処が妥協点だったようです。
「……すこし、頭が冷えてきました」
陽が高く汗ばむ陽気を胸に吸いながら、そう独りごちます
一刀さんは私の好きな一刀さんだと分かって。
それが寂しいと思いはするものの、それは私の我が儘だと。
胸にある嫌なモヤモヤは消えてはくれませんが、そう自分を納得させます。
一刀さんを信じるべきなんだと。
「いぎっ!」
ん?
なんでしょう。
風と共に流れてた誰かの声に、少しだけ胸のモヤモヤが晴れますが。……きっと気のせいですね。きっと私の自己暗示が効いてきたのでしょう。
一刀さんの想いを信じようという想いが。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、書いた馬鹿こと うたまる です。
第175話 ~ 夏風に舞うは少女の想い ~を此処にお送りしました。
今回もあの天然フラグ建築士はやってくれました。
本当に、この人いつか背中刺されてもおかしくないですよね。……と言うか、私なら刺しますね。こう、ぷすっと♪
でも書いといてなんですが、一刀君、巨大フラグを残したままな事を完全に忘れてませんかね?(汗 彼女が怒るのも無理はない話です。
と言うわけで、フラグ建築士に天罰が下る事を祈っておいて、次回は魏の様子を覗いてみようと思います。
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
Tweet |
|
|
13
|
2
|
追加するフォルダを選択
『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
長かった南方との戦にひとまずの決着を付けた孫呉。
その本拠地に戻った明命は、一刀の相変わらずの無自覚ぶりに心を悩ます。
明命の心が晴れ渡る日は来るのかだろうか?
続きを表示