No.876030

『舞い踊る季節の中で』 第174話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

戦火が燻ぶる西涼の地。その西涼の地を故郷とする馬超や馬岱がいる蜀で、誰よりも忠義を重んずる二人がいる。一人は言葉にし、一人は胸に中に…。


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2016-10-26 13:10:34 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3599   閲覧ユーザー数:3178

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第174話 ~ 堅き大地に咲くは、雄たる華の一輪の舞い ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊、セリフ間違い、設定の違い、誤字脱字があると思いますが温かい目で読んで下さると助かります。

 この話の一刀はチート性能です。オリキャラがあります。どうぞよろしくお願いします。

 

 

【北郷一刀】

  姓:北郷

  名:一刀

  字:なし

 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

 

 武器:鉄扇("虚空"、"無風"と文字が描かれている) & 普通の扇

   :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(現在予備の糸を僅かに残して破損)

 

 習 :家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、

   :意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

 得 :気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

   :食医、初級医術

 技 :神の手のマッサージ(若い女性は危険)

   :メイクアップアーティスト並みの化粧技術

 術 :(今後順次公開)

 

 

 

 

 

華雄視点:

 

 

ぎんっ、ががんっ!

ひゅっ!しゅしゅ!

ぎぎんっ!

 

 一振りする度に、それ以上の攻撃となって帰ってくる。

 だが、それがなんだというのだ。

 雨のような攻撃が降ろうと、私には関係ない。

 我が金剛瀑斧でもって受けきってみせるのみ。

 金剛瀑斧が伊達や酔狂で大きいのでは無い。

 その巨大さで持って、敵の攻撃を受け、または受け流す盾。

 巨大な盾ともなる金剛瀑斧の重量と、身につけた武が生み出す威力は、たとえ窮地に立たされようとも、その流れを一転させる事の出来る一振り。

 

どんっ!

「うぬぬぬぁっ!」

 

 大地に裂け目が走るほどの踏み込みと共に、放たれた我が剛檄を受けた張飛の長大な蛇鉾を身体ごと地面に叩き付ける。

 だが流石は童女の姿はしていても、あの関羽に武の腕だけをみるならば、自分を超えるかも知れないと言わせただけの事はある。

 

「なかなかやるのだ。

 なら次は鈴々の番なのだ」

 

 同じく地面に亀裂を生みながら、私の剛檄を受けきった張飛は我が金剛瀑斧を勢いよく弾くやいなや、先程の私以上の剛激を放とうと、大きく振りかぶらんとする。

 ふん、付き合ってやっても良いが、毎回それでは面白みに欠けるというもの。

 強く弾かれた金剛瀑斧の勢いをそのままに、右手一本で金剛瀑斧を振りかぶってみせるが、其処で得物を再び振り下ろす事をせずに、そのままの勢いの侭に後ろへと放る。

 ……我が身体ごとな。

 

「ぬなっ」

 

 超重量級の得物である金剛瀑斧の重さは、私の体重十倍近くもある故に、そんな巨大な物を踏ん張る事もせずに勢いの侭に握ったまま放れば、私ごと飛んで行くのは当然のこと。

 自分で自分を飛ばす事など出来ぬが、張飛の膂力を利用すれば小さな弧を描く事ぐらいは出来ると踏んだが、まさか本当に出来るとはな。

 おかげで張飛の攻撃を躱すだけでなく。全力の攻撃をした張飛は、己が膂力と身体に見合わぬその長大の蛇鉾によって大きくよろめく。

 

 その間に私は金剛瀑斧の重さを利用して体制を入れ替えて足から地面に着地すると共に、再び地面を蹴りつける。

 手の中の己が愛斧を持ちなおし、体勢を回復しきれぬ張飛に向かってな。

 

ひゅっひゅっ

「ぬなっ!」

 

 それでも流石は張飛。

 不自由な体勢からであろうとも、しっかりと此方の攻撃にあわせる。

 だが、その体勢の侭いつまで保つものではあるまい。

 張飛が私の攻撃に驚きの声を上げたのはなんてことはない。

 想定すらしていなかった速度と鋭さによって、攻防の呼吸が乱されたから。

 先ほどまでのような金剛瀑斧の自重を生かした攻撃ではなく、金剛瀑斧の柄を反対に持つことで金剛瀑斧の自重を逆に石突きの速さへと変えた攻撃に。

 

「うりゃ、なのだ」

「なっ」

 

 だが、今度は私が張飛のとんでもない行動に声が上がる。

 このままでは体勢が崩れ、受けきれなくなると判断した張飛は、己が蛇鉾を目の前に突き立てると共に、我が石突きを大きく弾く。 だが、無理な体勢からのその行動の代償は高く、張飛は己が矛を手放さなければならかった。……いや手放したのだ。一尺八寸もある長大な蛇鉾を金剛爆斧の柄に叩き付けて。

 

がっ!

「ちっ」

 

 蛇鉾を捨てた張飛は、真っ直ぐと我が懐に飛び込み、私の金剛爆斧の柄に、その小さな拳を叩き付ける。

 私が金剛瀑斧の巨大な重量を生かしたように、こんどは張飛が金剛爆斧の巨大な重量を味方にして見せたのだ。

 梃子の要領で、持っていた持ち手の更に内側を狙って。

 

どすん

 

 打ち払われ、砂埃を立てながら地面へと叩き落とされる金剛爆斧を視界に収めながら、私は決してその視線の中心を張飛から逸らしたりはしない。

 これで共に無手。

 ふっ、面白い。

 

 ならば拳同士で決着を付けるのみ。

 張飛もそのつもりなのだろう。

 互いに、足を広げ地面に踏ん張る。

 拳を胸の前に軽く握り構える。

 

「まさか此処で止めるなんて言わないよね?」

「当たり前だ。得物を失ったからといって、はいそうですかと負けを認める馬鹿がどこにいるというのだ」

「ぐっ」

 

 張飛の問いかけにすらならない問いに、応えてやる。

 なにか後ろの方で呻き声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

 今はそんなつまらぬ事(・・・・・)よりも、張飛との一戦。

 

 

 

 

 

 

「それまで」

「ぬははっ、鈴々の勝ちなのだ」

 

 ほんの僅かの差で地面より起き上がるのが遅れたが故に、着いた勝負の行方に私は素直にその結果を受け止める。

 三つ数えるうちに地面より立ち上がれねば負け、という下らぬ決めごとだが、将兵が鍛錬に熱くなりすぎぬために生まれた決めごとである以上。将である私自らがその決めごとに背くわけにはいかない。

 

「次こそは勝ってやる」

「へへーんだ。鈴々は今度も負けないのだ」

 

 張飛の言葉を甘んじて受けながら、服についた砂埃を軽く払い、地面に落ちていた金剛瀑斧を再び手にしてから、二、三、軽く振って身体の調子を再確認すると。

 

「よし、趙雲。もう一手願おうか」

「………構わぬが、お主も大概に頑強だの。

 これで何連戦だと思う」

「ふん、まだ百と参拾を超えた程度のところだ」

「あたしも大概体力ある方だと自負してたけど、体力だけならあたし以上だな」

「確かにな。今思えば汜水関での一戦は、華雄殿の実力ではなかったのだろう。

 我ら四人に今一歩届かぬとはいえ、翠の言う通り体力だけで見るならば我等の中でも抜きん出ているのも事実」

「ふん、そんなものなんの自慢にもならん。勝てねば意味が無い」

 

 関羽達が何か好き放題言っているが、私には関係なき事。

 

「勝てねば……か。

 私にはそれほど勝ちに拘っているようには見えぬがな」

「相手が弱ってから勝負をかけるだなど、私の性に合わぬだけだ」

 

 なにより時間稼ぎが目的ならともかく、それでは突破力に欠ける。

 ましてや、せっかくの仕合。今、勝つよりも己が腕を磨く事を優先するのは当然。

 少なくとも、私にはその方が価値があると考えているだけの事。

 それに……

 

「自分より強い奴を、我が武でもって倒すからこそ、楽しいというもの」

 

 そうでなければ守りたい者を守れないし、倒したい者も倒すことはできない。

 もう二度とあんな想いは十分だ。

 

「なるほど、盗賊討伐の報償に我等に一日鍛錬に付き合えと望む貴公らしいと言えよう」

「だったら、ワタシとも戦えってんだ」

 

 やっとやる気になったか。

 おそらく私の呼吸が回復しきるのを待っていたのだろう、槍を構える始める趙雲に今度は私の方からと、地を蹴ろうとしたところに魏延の邪魔が入る。

 

「ふん、聞こえなかったのか。自分より強い奴と戦うから面白いというのが。

 私と戦いたいのなら、あと伍拾ほど戦ったら相手をしてやる」

 

 山や谷を十日は走り続けれる自信のある私だが、流石に関羽、張飛、趙雲、馬超という、大陸に名高いの四人と代わる代わる相手では、体力も気力も目減りする程早い。

 昼を休んだとはいえ、朝から殆ど休まず斧を扱いているから、あとそれくらい仕合えば、あの時のように少しは面白い戦いが出来るというもの。

 

「焔耶、止めといた方が良いよ。

 体力だけは馬なみと叔母様から絶賛されてたお姉様が、体力であっさり負けを認めるほどなんだよ。 今、戦ったところで勝ち目なんて無いのなんて、これまでで判りきってるじゃない」

「よし分かった。蒲公英。

 二人ともそんなに手持ちぶさたなら、あたしが纏めて扱いてやるっ!」

「し、しまった。

 魏延、アンタが変な事言うから、口が滑っちゃたじゃない」

「人のせいにするなっ!

 お前の口と尻の軽さが生んだ自体だろうか! いかげんワタシを巻き込むなっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これでもういいよ」

 

 馬岱の言葉に、左腕を軽く回して具合を確かめるが……。ふむ、多少抵抗があるが悪くない。少なくとも力を入れぬ限りは問題はないだろう。問題は……。、

 

「だ、駄目だよぉ。治ったわけじゃないから無理は禁物。

 あくまで、もしもの時のためようなんだからね」

「分かっている」

「本当に分かっているのかなぁ」

 

 馬岱の不満げに言うのも分からないでもないが、せめて愛斧を一振りしてみない事には、どれくらいまで無理が利くのかを把握しきれるものではない。逆に軽い一振りで駄目なら最初から使えないものとして覚悟をしておかねば、もしもの時に使い物にならないと言うもの。

 とは言え、これ以上は、せっかく治療してくれた馬岱にも悪いし、それこそ、もしもの時のために取っておかねばな。

 最後に魏延の相手をしてやったのだが、……ふん、最後の最後で意地を見せやがった。

 相打ち狙いという負け思考が気に食わぬが、我が一撃に気を失いながらも放った一撃が、私の左腕を微かに捉えた。

 無意識が故に放ったからこそ届いた一撃。

 だが無意識では、それが限界。一兵士であるならともか。、将たるもの、相手を倒すのは得物でも技でもなく、相手を倒すという強い意思があってこそ初めて意味を成す。

 私にも覚えはあるが、自分よがりで戦っているようでは、一流(・・)戦人(いくさびと)としては、まだまだひよっこの半人前。

 そして半人前と言えば、こいつもそうだったな。

 

「で、お前の方はどうなんだ」

「ん?なにが?」

「修行の方は進んでいるのかと思ってな」

「順調だよ。 ……と言いたいけど、まだまだ修行が足りないと言う以前に、現実を突きつけられてばっかで嫌になっちゃうよ」

 

 そんなことを言いながらも、馬岱の目は少しも嫌だと語ってないがな。

 馬岱は馬岱で、必死に半人前の殻を破ろうとしている。

 姉と慕う馬超はおろか、同じ半人前の魏延ぐらいの才にも恵まれなかったが、いくら才に恵まれようとも、半人前にすらなれない奴などごまんといる。

 だが、天賦の才が無かろうとも、大成した英傑がいるのも、また事実。

 

「これも修行の成果ではあろう」

 

 塗布薬はともかく、この包帯の巻き方は塗布薬が外れぬように固定するのは勿論のこと、動きに邪魔にならぬ様に固定しているだけでなく、動かしても痛みが気にならぬようにする特殊な巻き方。

 【てーぴんぐ】とか言う天の知識の一つらしいが、あの男から我等に送られた蔵書の一つに書かれていたことの一つ。

 

「えん、まあね。少しでも怪我を早く治したり、怪我をしても気合い以外で乗り越える手段があるなら、それはそれで戦いに集中できるんじゃないかなってね。

 ……あはははっ、……華雄さんからしたら消極的な話かも知れないけど」

「ふん、戦い続ける事が出来るのも一つの強さだ。

 私のように体力任せであろうと、簡易的な治療であろうともな」

 

 戦場において、治療など何時でも何処でも受けれる状況に有る事など無いが、己で行うのであれば、そのかぎりでは無い。治療が早ければ早いほど体力の浪費も抑えられ、戦線に復帰できるのも早くなるのは当然の事。

 少なくとも、戦場を知らない者が思い付き、必死に身に着けようと思う事ではないな。

 

「い、意外。てっきり馬鹿にされるかと思っていたから」

「強さなど一つではない。私等武官のような強さもあれば、文官の持つ強さもある。そして董卓様のような人の上に立つべきものとしての強さもまた強さの一つ。ならば戦う力とて一つではないのは道理。

 だいたい同じ強さしかなかったら、相手を倒す楽しみがないだろうが」

「あはははっ、結局そこなんだ」

「当然だ」

 

 もしも武において強さが一つしかないのなら、相手の方が上回っていたら、それで終わりということ。逆らうことも太刀打ちすることすらできんことになる。

 馬岱に言ったように色々な強さがあるからこそ面白いと思うし、道を切り開くこともできると言うもの。

 なにより強さが同じならば弱点も同じという事。そんな強さが揃ったところで意味など無い。

 戦では、将の切り開く力、兵の数という力、軍師の未来を紡ぐ力、そして王の民を導く力。まさに数多くの強さがあり、互いが助け合うからこそ、本当の強さと言うもの生まれるし、はじめて本当の力が生まれる。

 それが軍であり、仲間と言うものだ。

 

「まぁ、今は必死に足掻くがいい。

 足掻いて足掻いて足掻いた先にお前が何を見つけるかは知らんが、足掻かなければ溺れるだけだ」

 

 戦場で泥と血と肉に溺れて死にゆくことになる。

 守りたいものも守れず、成し遂げたいことも成し遂げることもできずにな。

 そして此奴の性格からして、得るためではなく守りたいがためなのだろう。

 そのために関羽達に師事を仰ぎ鍛えてもらうだけではなく、簡単な医術以外にも多くの者に付いて様々な事を学んでいるとも賈駆からも聞いている。

 だから、私にもそれなりに力添えしてやってほしいともな。

 

「じゃあ蒲公英行くね。

 今からなら別の人に頼めるかもしれないし」

「なにを寝言をほざいている」

「えっ、でも華雄さん怪我しているし」

「ふん、こんなもの怪我のうちに入らんと言いたいが、せっかく治療をしてくれたのを無碍にするわけにはいかん」

「うん、だから」

「だから今日は体を徹底的に鍛えてやることにした。

 まずは走り込みだ。先ずはあそこの山まで二往復」

「って、あの山って途中に崖があるじゃん!」

「安心しろ、私も一緒に走ってやる」

 

 もっとも董卓様や賈駆に頼まれなくとも、鍛錬を望むやつにはいくらでも付き合ってやるのが私の信条だ。

 馬岱にしろ魏延にしろ、誰かを守るために強くならんとする奴は嫌いではないからな。

 

「無茶言わないでよっ。得物を持たない華雄さん馬並みに速いじゃない。しかも体力は馬以上だし。

 蒲公英が求めるのは。そういう化け物じみた体力とかじゃなくて、もっと人間側の枠で強くなることで」

「いいから行くぞ」

「うわっ! 無理っ! 無理だからっ腕を引っ張らないでっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぜー、…はー、…ぜー、…はー」

「まったく、多寡が一往復でその様とはだらしない」

 

 地面に突っ伏して、絶え絶えに息をしている馬岱に容赦なく叱咤してやる。

 途中あまりにも走る速度が落ちてきたから、腰に紐を括り付けて引っ張ってやったというのにも関わらずというのに此の体たらく。おかげで私一人ならば二往復は楽に行けると言うのに、一往復分しか出来なかったではないか。

 

「…ぜー、…はー、が…崖を下りる…のも、…・登る…のも駆け足だなんて…本気…で…死ぬかと……思った…よ…、ぜー、…はー、…ぜー、…はー、」

 

 一般兵ならともかく、仮にも将なら断崖絶壁の一つや二つ駆け足で登り降り出来なくてどうする。

 情けなくも崖をよじ降りようとするから、せっかくやり方を教えてやろうと腰の紐を引っ張って一緒に駆け下りてやったら、駆け降りずに落ちてくるわ。 登りは登りでよじ登るどころか私についてこれず、結局は殆ど私に引きずられるように引っ張り上げられてたようなものだろうに。

 

「鍛錬や勉強も大切だろうが、まずは体力が無くては話にならんぞ。

 せめて平地だろうが山脈だろうが百里や二百里くらいは全速で駆けれるようにする事だな」

「きゅぅ……」

 

 ……気絶したか。 まったく情けない。

 それでも洛陽に腐るほどいた、将とは名ばかりの連中に比べたら、よほど見所はあるか。

 おっと、張遼や呂布達は別だがな。私が馬鹿で未熟なばかりに迷惑を掛けたが、壮健であれば、あれ程の連中、いつか戦場で相まみえることもあるだろう。

 疲れ切り、顔中を汗や埃に塗れながら地面に寝ている馬岱を肴に一杯ぐらい呑もうかと思案していたのだが、不愉快なものが視界に写っため呑む気が失せる。

 

 

 

 

【絵著者:金髪のグレイトゥ様】

 

 

 張任、この国を劉璋が治めていた頃には将兵を纏める立場にあった者だが、董卓様と劉備が………おっと、今は劉備様だったな。とにかく私は此奴は気にくわない所か、顔を見るだけで反吐が出る。

 だと言うのにも拘わらず。

 

「あなた大丈夫!?」

 

 遠目にも息絶え絶えに呼吸しながら気絶している馬岱の様子が分かったのだろう。

 地面に大の字になっている馬岱に駆け寄るなり介抱しようとする。

 

「必要ない」

「なっ! 貴女、こんな状態の娘の放っておけと言うんですか!」

 

 いくら死にかける一歩手前であろうと、馬岱は一介の兵ではなく将。

 例え我等からしたら半人前と言われようとも、兵を率い、兵を守り、そして兵に慕われるだけのものを持っている。

 少なくとも、私も関羽達も将と認め。馬岱を鍛えることに労を惜しまぬ逸材で在ることには違いない。

 そんな馬岱がこの程度で本気でくたばる程、弱くはないし、馬岱自身も鍛錬程度で本気でくたばるわけにはいかないと自覚している。

 その証拠に小まめに竹筒から水を摂っていたし。その水も、どこからか仕入れてきた知識なのか、蜂蜜と塩が僅かに溶けこませてあるらしい。

 無茶をとおす以上、簡単にへばらないための予防としてな。

 

「そう言っている」

 

 故に、張任の抗議に当然だと言い放ってやる。

 馬岱はやるだけのことをやり、気絶するように身体を休めているだけ。

 これ以上は、本気でまずいと身体の方がそうさせてな。

 怪我もなく、最低限の水と栄養を摂っている以上、馬岱に今一番必要なのは身体を休息させ、いち早く回復をはかること。

 

「貴女は、それでもこの娘の師ですか!」

「ふん、別に師でも弟子と言うわけではないが、鍛えてやっているという意味ではそうだろう」

「だったら」

「貴様に、とやかく言われる筋合いはない。邪魔だ、失せろ」

 

 確かに、これが師弟としての鍛錬なら、張任の言うとおり馬岱の実力にあわぬ無茶な鍛錬なのかも知れない。

 だが、此奴が求めているのは、己が限界の殻を打ち破ること。

 既に平均的な将以上の腕を持つ馬岱が、天賦の才ではなく己が力で、しかも短期間でそれを成そうというのは生半可なことで成せるものではない。

 だが私に馬岱のためにしてやれることは少ない。

 せいぜいが限界を超えさせてやることだ。

 死んだり身体を壊さぬギリギリのところを見極めて、全力以上の力で無理矢理駆けさせ続けてやるだけだ。

 いつかそれが当然の力となるように。

 

「なっ!

 貴女は私を愚弄するつもりですか」

 

 犬を追い払うような仕草が気にくわなかったのか、それともよほど普段の鬱憤が溜まっていたのか、先程以上に怒気を表す張任に……。

 

「ふん。

 貴様相手にそんなことをしてやるほど私は暇でも酔狂でもない。

 いいからとっとと視界が消えろ。目障りだと言われなければ分からん程の阿呆ではあるまい」

 

 つい隠す気も無い本音が口に出てしまう。

 別に此奴が敗軍の将だから気にくわないからと言うわけではない。

 むろん、董卓様達に仕える気が無いかなどというのは理由にすらならん。

 勝とうが負けようが、気にくわない奴に仕えるぐらいならば、己が力を封印し市井の中に己を溶け込ませていく者もいるし、それを否定する気など更々無い。

 

「そうですね。

 確かに貴女のような人間を相手にするほど、私は暇でも酔狂でもありません。

 せいぜい、其処の娘が死なない程度に弱い者虐めに浸っていてください」

 

 ふん、ますます気に食わん。

 別に弱い者虐めに浸る愚か者呼ばわりされたことでは無い。

 私が気に食わないというのはもっと別のこと。

 

「しょせんは偽善者か」

「聞こえませんでしたか?

 貴女のような人間を相手にする気はないですし、この程度のことで剣を抜くほど劉璋様よりお預かりしたこの剣は軽くないと言うだけです。

 烈士たる者、剣を抜くのは忠義のため、民のため。

 貴女には分からない考えでしょうけどね」

 

 ああ、分からぬな。貴様のような似非烈士の考えなどな。

 現に貴様は馬岱を心配しながらも、今、私とのいざこざを避けるため、心配した馬岱を見捨てようとしているではないか。

 たとえ、それが貴様が忠誠を立てている劉璋に迷惑を掛けないために、鞘を握る手が震えるほど我慢しているのだとしてもだ。

 

「ふん、忠義か。

 その忠義も怪しいものだな」

「……」

 

 足早に立ち去ろうとしていた張任は、私のその一言で足を止める。

 射貫くような強い眼差しで、私を睨み付けてくる。

 やはり怒るか。だが、その怒りは今度こそ本物だろうな。

 

「ふぇっ? えっ?えっ?」

「口出しはするな。お前には関係ないことだ」

 

 疲労のあまりに昏倒していた馬岱が、張任の怒気とは既に言えない殺気に一瞬で目を覚ましたため、念のため釘を刺しておいてやる。

 

「一応、確認しておきますが、今の暴言、取り下げる気は無いですか」

「ふん、忠義の欠片も無い臣下など、今時珍しくもあるまい。

 故に貴様がそうだと言ったとしたら、それがどうかしたか?」

 

しゅっ!

 

 風を斬るよりも速い斬撃が文字通り空気を斬り裂く音が辺り一帯に響き渡る。

 得物を手にするためもあって、後ろに跳び下がっていなければ、間違いなく腹を裂かれ臓物を地面にぶちまけていただろう。

 

「……」

 

 張任は無言のまま剣を斜め下に構える。最早私などと口を利きたくもないと言うのもあるのだろうが、最早、会話など不要。これ以上語りたい事は剣でもって交わすのみ。

 それに初撃後に畳み掛けて来ないところを見ると、初撃は警告なのだろう。私がぎりぎり避けれるだけの一撃をあえて放ったのだと。つまり、此方の実力は見切っているのだとな。

 その上で、武人として此方の用意を整うのを待ってやっているのだと。どうせ死んで悔やむのならば、実力を出し切って悔めと。

 ああ、それでいい。貴様のその怒りと殺意が大きければ大きいほど、貴様が分かるというもの。だが、それでは私の気持ちが晴れん。

 

「なるほど、己が忠義を汚されたのなら、己が忠義を示すためにも剣を振るわねばならんか。仮にも烈士を名乗るのならば、それは正しい選択だろうな。

 ……だが、示す相手は果たして劉璋にか、それとも天下にか、ふん、お前のはどれも違うな」

 

ぎっ!

ちぢっ!

がっ!

しゅっ!

ふぉんっ!

ぎんっ!

 

 ふぅ……、流石は速い。

 力は剣と矛の差はあるが関羽に及ばない程度。

 速さは馬超に劣るが技の鋭さはそれ以上……だが、組み立ては趙雲には及ばない。

 そして何をやってくるか分からぬという意外性においては、張飛には遠く及ばない。

 

ちっ

きんっ

ひゅっ

がんっ!

 

 だが戦場には似合わぬ剣という得物は、他の武器には無い長所もある。それは張任ほどの使い手が使えば、小回りと技の多彩性おいては四人以上。

 はっきり言って目が追いつかん。

 まず間違いなく一対一ならば私より強いだろうな。

 ……本来の実力ならばと、但し書きを付ければだが。

 

「よく受けきる。

 巨大な得物は伊達ではないという事ですか」

 

 まぁ、それもあるが、こと剣においては張任以上の担い手と言うか、小娘達以上に出鱈目な相手との苦い経験が在るからな。剣使い相手にはそうそう遅れは取らん。……もっとも、それでは意味がないがな。

 

「……ほう、言葉は不要と言うわけではなかったのか?」

「都合、三拾以上も剣を交わせば、貴女が只の無頼で無礼な人間でないことくらい分かります。

 ですから殺してあげる前に、せめて理由ぐらいは聞いておいて上げようと思っただけのこと」

「ふん、理由など無い。

 ただ貴様が気に食わん。それだけだ」

 

しゅっ

ちぢんっ!

 

「そんなに私が劉備や董卓につかないのが気に食いませんか」

「くだらぬな」

 

ぎぎっ、

ふぉっ!

どこんっ!!

 

 さすがに、大地すら爆散させる我が金剛瀑斧の一撃をまともに受けては、幾ら名剣であろうと剣が耐えられないと悟ったか、大きく後ろに跳んで避ける張任は憎々しげに吐き捨て。

 

「烈士たるもの、どうして二君に仕えることなどできましょう。

 もっとも、烈士ではない貴女には分からないでしょうね」

 

がんっ!

 

 此方が瀑斧を引き寄せるよりも速く、強烈な斬撃を放ってくるのを、石突側の柄でもってなんとか受けきってみせる。

 いくら攻撃が鋭く速かろうと、こんな【芯】の入っていない鈍らな一撃など、死んでも喰らってたまるか。

 

「……ああ、分らぬな。

 多寡が己が主が【王】で無くなったくらいで、本当の忠義を失うような軟弱者の気持ちなどな」

「きっ、貴様っ!」

 

ぎんっ!

がんっ!

ざっ!

ぢっぎんっ!

 

「はっ、図星を刺されて怒ったか」

「黙れっ!」

「言ってやろうか、貴様は劉璋ではなく、【王】である劉璋に忠誠を誓っていたにすぎん。 だから【王】でなくなった劉璋など興味など無く。かと言って【王】で無くなった劉璋を見捨てては、烈士を語る己が実は偽物だと天下に知られるのが怖いから、烈士の振りをしているだけだという事を」

「出鱈目をっ!

 私は誓ったんだ。

 自分にも、劉璋様にも、劉璋様の母君たる劉焉様にも」

 

 ぐっ!

 速く、重くなってゆく張任の剣戟に重い金剛瀑斧を合わせるべく動かしてきたが、昼間の仕合で痛めた左腕に痛みが走り、髪の毛一筋程の僅かなずれだが反応が遅れはじめる。

 ただの将兵が相手ならともかく、張任ほどの相手となると致命的な遅れになりかねない。

 ……だが、それだけだ。

 悔しいが、確かに今の私の実力では小娘(関羽)達にも、目の前の張任にも届かないかもしれん。

 馬岱が私の事を体力馬鹿の無鉄砲な猪と思っているように、あの小娘達も私を武では自分達に届かないものの、体力勝負で持久戦に持ち込まれたら不覚を取るかもしれないと大きな勘違いをしている。

 だが、私が戦いにおいて奴等より誇れるとするのならば、それは体力でも持久力でもなく、数多くの戦闘経験だ。

 小娘共より歳を取っていると言えば聞こえが悪いが、それでも潜り抜けてきた戦場は奴らのそれとは比べ物にならん。

 歴戦とはいっても、基本的に田舎かである益州の地に引き籠っていた黄蓋や厳顔達ともな。

 なにより勝敗はともかく、幾多の戦場を生き残ってきた。

 江東の虎の異名を持つ孫堅を相手にも。

 漢の忠臣を謳い。騎馬の民の王たる馬騰にも。

 数多くの戦人を相手に生き抜いてきた。

 将や兵など関係なく、振るってきた斧の一振り一振りが……。

 この身体に刻んできた敵の鉾の一つ一つが……。

 散らせた魂、守れなかった魂、それら一つ一つが、武人としての魂を磨いてきてくれた。

 体力があるのではなく、背負った魂がゆえに倒れないだけだ。

 突進馬鹿なのではなく、戦況を斬り開かんと踏み込んでいるだけのこと。

 攻撃を受けるのが巧いのではなく、敵味方に関係なく受け継いだ想いが私を守っているに過ぎん。

 そう、私の最大の武器。それは得物の重さではなく、戦場の先人達より引き継いだ魂の重さ。

 

どんっ!

びししっ

 

 踏み込みと同時に足元がひび割れてゆく。

 張飛よ。今回は貴様の技、借り受けるぞ。

 全体重をかけて勢いとともに金剛瀑斧を振り切る。

 だが、それは金剛瀑斧の巨大な得物と我が剛激が生む斬撃ではなく。

 

 

ぶぉわっ!

ぎゃりぃーーーん。

 

「ぐぅっ!」

 

どすん。

 

 私の瀑斧が周りの空気を巻き込みながら大きく唸る。

 大地を踏みしめ、体重と技の威力とともにしっかりと握った金剛瀑斧の柄を振り切るのではなく。

 、金剛瀑斧の柄の軸を中心に横回転させながら振るった一撃は、本来は槍や棍においての技だが、大きさの違う巨大な両斧の大きさを利用して攻撃は線ではなく面の攻撃。

 もっとも金剛瀑斧ほどの超重量級の得物を支える柄の部分が、刃の重量を受けて回転しては、当然、手で持ちきれるものでもなく、金剛瀑斧を振り切ることなどできずに吹き飛ぶ。

 ……躱した張任の方向にな。

 飛んできた金剛瀑斧を逸らそうとしようとも、剣では金剛瀑斧の巨大さを受けきれるわけもなく、ましてや回転している金剛瀑斧に巻き込まれれば、剣を持ちきれるものではない。

 ……だが、流石は腐ってもこの益州の将を纏めていただけの事はある。

 回転する金剛瀑斧に巻き込まれないために、剣を弾かれる勢いを利用して自分から弾き飛ばされることで、斧の刃が自分に食い込むことだけは防ぎきってみせた。

 あの変則的に回転する巨大な金剛瀑斧の刃に、垂直に己が剣を叩き付ける事ができなければできない芸当。

 これで得物を失ったのは供に同じ。

 ……だが、覚悟は此方の方が早い。

 

がっ

ごっ

 

「ぐっ」

 

 ましてや、張任からしたら先ほどまでの威力こそあるものの金剛瀑斧の鈍重な攻撃に慣れて来たところから、無手による私の攻撃は、さぞ速く感じるのだろう。先ほどとは逆に防戦一方になる。

 ふん、分っているぞ。重い金剛瀑斧の一撃を防ぎきるために振るった一振りで、手が痺れているのだろ。

 ……だが。

 

「違うな。今の貴様は探しているだけだ。

 劉章を見捨てる口実をな」

「っ!」

 

がごんっ!

 

「誰が劉璋様を、桜華様を見捨てるか!」

 

 もとより実力差は明白。

 重い一撃に慣れている私にとって、早い一撃など所詮は付け焼き刃。、

 なにより【臣】を思い出した張任に、先ほどまでの揺らぎがないのは当然の事。

 それは、私の顔をしっかりと捉えた拳に込められた重さが語っている。

 まったく、これだけ【芯】のある攻撃ができるくせに、いつまでもめそめそと女々しい奴め。

 

「それが貴様の答えだろうがっ!」

 

どすんっ!

 

 まともに戦っては敵わぬ相手と分かっていれば、戦いようなど幾らでもある。

 例えば最初から攻撃を受けることを前提にしての攻撃とかな。

 魏延の馬鹿な相打ちと違って、繋げるために相打ち覚悟の一撃を腹に受けて、後ろに大きく吹き飛ぶ張任を追いかける。

 流石は張任、魏延の馬鹿とは違うか。あの攻撃しきった瞬間を狙ったにもかかわらず、とっさに自ら後ろに跳んで、衝撃を逃したか。

 こうなっては、糞面白くもない持久戦。

 悪いが、付き合ってもらうぞ。

 

 

 

 

 

 

はぁはぁ……。

 

「ね、ねえ、二人とも、もう止めようよ。」

 何が切っ掛けかは知らないけどさ。これ以上やっても意味ないよ

 

 此方を心配げに声をかけてくる馬岱の言葉に、互いにいい加減重くなった腕を再び振るい被る。

 私も張任も、流石に今更、馬岱の事が切っ掛けでこうなったとは口が裂けても言えんし認めるわけにはいかん。それに最早、馬岱の事など欠片も気にしていないのが本音だ。

 まったく、張任のやつめ。此方が一発打つ間に十はいれおってからに。既に両者とも体力も、怪我も限界で腰に力が入っていないとはいえ、うっとおしいことこの上ない。

 ……もっとも、もはや勝敗などどうでもよくなってはいるがな。

 

がしっ

 

 これで何度目かの相打ちだろうか。

 痛みなど、とっくに疲労と共に麻痺しているが、まだ動けなくなったわけではない。

 むしろ高揚し、心地が良いとさえ言える。

 くだらぬ事に捕らわれ、迷っていた拳ではなく。

 本当に自分が成すべきことを思い出した拳がな。

 

「はあ…はぁ…はぁ…。

 まったく、…ふらふらなくせに、……笑みなんか浮かべて、……気持ち悪いですよ」

「はぁはぁ、すぅーー、はぁ…。

 ふん、人のこと言える顔か……」

 

 それで、終わり。

 互いに拳を引っ込め、地面に落ちた己が得物を拾い上げる。

 私にとって、既に張任に苛立つべき理由などなく。

 張任にとっても、既に剣を鞘から抜く理由はない。

 ならばこれ以上話すべき事も、言葉を交わすべき事などない関係。

 ……今はな。 だが、

 

「はぁ、はぁ、…で、これからどうする気だ」

「すぅ、はぁ…、言ったはずです。

 烈士たるもの、どうして二君に仕えることなどできましょう」

「ふん、頑固者だな。

 ならば、これ以上、貴様の顔など見たくは無い。とっとと消えろ」

「それは此方の台詞です」

 

 蹌踉けるのを必死に堪えながら、立ち去って行く張任が建物の向こうに消えるのを待ってから、地面に腰を下ろして、思いっきり寝転んでやる。

 いいか、倒れ込んでいるのではなく、寝転んでだ。

 それにしても、まったく私も人のことを言えた義理では無いが堅物め。

 ……だが、まぁ、今の奴ならば、そう嫌いでは無い。

 奴は去り際に確かにこう言い残していった。

 

 

 

 自分の主君は此からも劉璋だと。

 生涯、それが変わる事はないと

 故に、自分に出来る事はただ一つ。

 劉璋様の夢を叶えるために力を尽くすだけだと。

 それが自分の望みであり、自分の夢にも繋がる事だと。

 

 

 

 まったく小娘達め揃いも揃って、自分達が如何に恵まれている事すら気がつかずに、文句ばかり言いおってからに。

 おかげで柄にもあわぬ、くだらぬ事をしてしまったではないか。

 董卓様に再び仕える事ができたことになんの不満はないが、賈駆の奴め、こうなることが分かっていて、私を呼出したのではないかと本気で疑いたくなる。

 

「ちょ、華雄さん。駄目だよこんな所で寝ちゃ、まずは治療しなくちゃ」

「……そうだな、悪いが治療をしておいてくれ」

「なに言ってるの。こんな大怪我、蒲公英の出番じゃないよ。

 いいからお医者さんの所にいこ。うぅ、お、重い。もう武器を放してよ」

 

 ふん、武人たるもの、理由も必要もなく得物を手放せるか。

 心配してくれる馬岱には悪いが、これくらいの怪我で一々医者などに診せていられるか。

 腫れなど放って治まるし、骨も幾つか折れてはいるかもしれんが歪んではいない。ならばそのうち引っ付く。だいたい張任だって似たようなものだというのに私だけ治療など受けれるか。

 

『えっ、えっ、えっ、梅華ちゃん。

 こんな所で倒れていて吃驚なのに、そんな大怪我して、どうしたの、敵襲で受けたのっ!?』

 

 そう考えているところに、なにやら建物の向こうから騒がしい声が聞こえてくる。

 察するに、私の見えないところまで姿は消したはいいが、痩せ我慢もそこで限界だったというわけか、まったくあれしきの事で倒れるとは情けない。

 

『桜華様、大丈夫ですから』

『だ、大丈夫じゃないよ。こんなに顔や腕を腫らして。

 早く、お医者さんの所へ行かなきゃ』

『いえ、派手に腫れているだけで、其処まで心配』

『いいからっ、言う事を聞く。

 これは梅華ちゃんの(あるじ)としての命令!

 ……ぁっ、……ご、ごめんなさい。私には、もうそんな事を言う資格なんて…ない…よね』

『そ、そんなことありません。私こそ桜華様にそのような心配される資格など』

 

 何処までも運の良い奴め。

 こうも簡単に、元の鞘に収まっては詰まらぬではないか。

 せめて、少しぐらい苦労をしてみろってんだ。

 そうすれば、いかに自分が恵まれているか分かると言うもの。

 腕が立とうと、志が高ろうと、所詮は箱入りのお嬢ちゃんでは、なにかを変える事などできんという事に気が付くわけもない。

 ……もっとも、それはそれで幸せなのだろうな。

 私のような苦労などさせずに、世の中が回るのならば、それに越したことはないのかもしれん。

 

「華雄さんも、我儘言ってないで」

 

 まったく、人が感傷に浸っているというのに、馬岱の奴め人聞きの悪いことを言う。

 それではまるで私が聞き分けのない子供みたいではないか。

 

「ふーんだ。だったら、蒲公英も最終手段を使うもん」

 

 ほう、おもしろい。

 お前の言う最終手段が、どんなものか楽しませてもらおう。

 

「月様を呼んでくるから」

「ぶっ! ま、まてっ、このようなことで忙しい董卓様の手を患わすわけには」

「月様は優しいから、きっといっぱい心配するだろうし、きっと華雄さんの事を思って、命令してくれるはずだよ。そしたら、華雄さんも逆らえないよね」

「馬鹿っ、お前は董卓様の恐ろ、いや、いい。

 とにかく分ったから。そんな恐ろしい手段に出るのは勘弁してくれ」

「ん?」 

 

 こっちの慌てぶりを他所に首をかしげる馬岱に、心の中で悪態を吐く。

 確かに董卓様は心が御広く、御優しくあられるが、それは普段での話。

 時には、そのお優しさゆえに、将兵を震えあがらせることもある。

 ましてや、こういう見た目が派手なだけで怪我とは言えない怪我といえど、面倒だからと治療を放っておこうとした時の恐ろしさは、……いや、言うまい。いずれ此奴等も身をもって知ることになるだろうしな。

 ……ああ、そうだ、せめて。

 

「あっちの奴とは別の医者の所にしてくれ」

「もう、子供じゃないんだから。

 そんな我が儘ばかり言って、これじゃあ、どっちが年上だか分からないじゃん」

 

 これ以上、不要ないざこざを避けようという私の心遣いが分からん奴め。

 建物の向こうからも何やら似たような会話が聞こえてくるが、あまりにも張任の言い訳が子供じみていて笑えるが、そこは武人の情け、聞こえなかった事にしてやる。

 

「とにかく、早く行こうよ」

「分かった分かった、そんなに急かすな」

 

 こちとら朝からずっと戦いっぱなしで、いい加減体の節々が痛くなってきてるんだ。

 さすがに、歳をとったと言うほどでもないが、馬岱達のような若い頃のようにはいかんか。

 ごきごきと鳴る身体を解しながら、馬岱に城付きではない知り合いの医者の所へと連れられながら、別ごとを考える。

 張任や劉章の事でもなく、むろん馬岱やこれから行く医者の事でもない。

 問題はおそらく董卓様の耳にまで届くだろう今回の件を、どう誤魔化すかだな。

 いや、董卓様相手に誤魔化すのは無理だと分かっているが、どう穏便に計らうかだ。

 ………いかん。思い付かん。

 そもそも涼州の地でも、洛陽の地でも董卓様を誤魔化せたことなどなかったし。

 文官達とて董卓様が敢えて誤魔化されてくれない限り、下手に動けば動くだけ董卓様を怒らせるだけでしかった。

 やはり、ここは賈駆に頼るしかないか。

 ……はぁ、まったく、私は欠片も悪くないというのに、何故こんな面倒なことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、書いた馬鹿こと うたまる です。

 第174話 ~ 堅き大地に咲くは、雄たる華の一輪の舞い ~を此処にお送りしました。

 

 西涼の続きを期待していた読者の方もおられると思いますが、今回は蜀のモブキャラこと華雄姉さんとオリキャラの張任をメインに描いてみました。一応、恋姫の純ヒロインこと蒲公英も入っていますが、……原作同様に入っているだけですね(汗

 ちなみに、この外史の華雄さんは関羽達より年上。と言うか雪蓮や冥琳より年上ですが、紫苑や桔梗お姉様ほどではないと言ったところなんですよ。

 さて、西涼の話の続きは、もう少しだけ置いておいて、次回は語に舞台を戻したいと思います。

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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