薄暗い部屋。
ここに貴女がやって来た。
『よっ、パチュリー。』
『魔理沙、なにしに来たの?』
『ちょっと本を借りにな。』
せっせと本棚からお目当てのものだけ取っていく。
取られた本が帰ってくる事はない。
『ちゃんと返してくれるんでしょうね?』
『返すって。…でも私が死んだらだぜ。』
『何年先になるかしらね。』
冗談混じりに言ったのは解っているけれど、何故か急に胸が苦しくなる。
『人間の一生は、アンタ等に比べたら短いからそんなに長くはないと思うぜ?』
ハハハッと笑うその笑顔…。
その笑顔が私の胸をもっと締め付ける。
『それはよかった。』
私はその場の空気に合わせて言った。
‡
「どうかされましたか?」
小悪魔が私を過去から現実へと引き戻した。
「いえ、別に。ただ…」
「ただ?」
「あとどのくらいこの“幸せ”が続くのかなと思ってね。」
幸せは長くは続かない。
魔理沙という名の恋人が亡くなることなんて私には想像はつかないが
いつかは待っている出来事である事は確かだ。
「“幸せ”ですか…。という事は今は幸せなんですね。」
小悪魔が微笑み掛けながら私に言った。
確かに間違いではないわね。
「そうね、幸せだわ。」
「だったら、今の幸せを楽しんでみたらどうですか?」
「“今の幸せを楽しむ”?」
小悪魔が不思議な事を言った。
「はい。今の幸せを楽しむんです。未来なんて今は気にしないで、精一杯今を楽しむんです。」
私はクスッと笑ってしまった。
「いかにも貴女らしい考えね。」
「笑わないでくださいよ。」
確かに今は未来なんて考えない方がいいのかもね。
今を精一杯楽しむ事が大事なのかも知れないわね。
確かにやってくる未来なんかを今、考えてもしょうがないわ。
「でも、確かに貴女の言う通りね。今を楽しみましょう。」
私たちは、同じ時を一緒に歩んでいく。
場所は違えど時間と言うものは皆に平等に流れているから。
魔理沙にはその時の流れを楽しんで生きて欲しい。
これはささやかだけれど、私の大切な願いと想い。
「おや?お客さんですよ?」
「よっ、パチュリー。」
「また来たの?今日はどんな本を取っていくわけ?」
「そんな事言うなよ。借りてるだけだぜ。」
今日も貴女がやってきた。
薄暗いこの部屋に。
笑顔の絶えない貴女を見て、ふれあい、語り合う。
それだけで私は幸せだ。
魔理沙は幸せなのかな?
気持ちは解らない。
でも…
「どっちでもいいけど、ゆっくりしていきなさい。」
私は少しでも貴女の幸せを持続させてあげたい。
魔理沙は私に優しく微笑み掛けながら返事をした。
「あぁ。いつまでもいつまでもゆっくりしていってやるぜ。」
☆End☆
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パチュリーの切ない恋の物語。
人間である魔理沙には直ぐにくる終わり。
でもパチュリーにとっては長い時間。
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