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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百五十四話 くえすの語る真実と堕ちる猫

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2016-05-01 23:08:40 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:9717   閲覧ユーザー数:9138

 ~~回想シーン~~

 

 「ひゃああぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 突如、悲鳴を上げた私。

 

 「……夢?」

 

 上半身だけ起こした状態の私の目に映っている光景は先程まで見たものではありませんでした。

 ゆうちゃんが他の女とイチャイチャしてる行為から始まってズチュッズチュッな行為までしてる所を何も出来ず、見せつけられると言う悪夢のような光景。

 けど今はそんな光景は一切見当たらない。

 

 「夢で良かったですわ」

 

 どこの誰とも知らない女とズチュッズチュッとか。

 そんな事して良いのは私だけだというのに。

 あれが正夢や予知夢だとは思いたくはないですわね。

 もしそうなら私はDEATHらないといけなくなりますから。勿論誰をDEATHるかは言うまでもありませんわ。

 

 「……って、そんな事は置いといて」

 

 私は現状を把握しようとまずは周囲を見渡します。

 視界に入るのは見覚えのある一室。

 

 「ここは……私の家?」

 

 そう結論付けるのに時間は然程かかりませんでした。

 

 「私は一体……」

 

 ゆっくりと私は自分の記憶を振り返ります。

 私は確か酒呑童子と戦い、あの蛇を狙う妖を滅した直後に致命傷を負い、それでも酒呑童子を滅ぼして

 

 「っ!!」

 

 そこで私は布団とシャツを捲り致命傷を負った筈の右脇腹を見ます。

 しかし……

 

 「あの深手が……無い?」

 

 右脇腹に触れてみても全く異常は無く、むしろ異常がない事に異常を感じて私は困惑してました。

 そんな時に部屋の扉が開き

 

 「お目覚めかい?ミス・グリモワール。くひひ」

 

 「……………………」

 

 「柩……お母様も」

 

 部屋に入ってきたのは私の母と、私と同じ鬼斬り役の夜光院柩でした。

 

 「ジュデッカはお気に召さなかったかい?それともカロンと揉めでもしたのかな?」

 

 「……どういう事ですか?お母様」

 

 柩の例えを聞く限り、私があの戦いで致命傷を負ったにも関わらず、傷が負ってない理由を知っている様子。

 ……まさか。

 

 「まさか私は『実は3人目の~~』とかいうオチは無しですわよ」

 

 自分が記憶を引き継いだクローン体だなんて言われたらヘコみますわ。そういうのはマンガやゲームの中の設定、もしくは他人事で充分だというのに。

 

 「……………………」

 

 しかしお母様は否定もせず、ただ私を見つめるだけ。

 あれ?本当に私がクローンとか言わないですよねお母様。お願いですから否定して下さい。

 何も言わないお母様を前にして私は嫌な汗が額から出て来るのを感じます。

 

 「……くえす。貴女は確かに死にました(・・・・・・・・)。そしてもう二度と死ぬ事はありません(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「……………………は?」

 

 私はお母様の言った事が理解出来ず、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 私が……死んだ?もう二度と死なない?

 何かの謎かけでしょうか?

 酒呑童子との戦いで致命傷は負ったものの、私は今こうして生きているのに死んだと言われても…。

 

 「お母様、仰ってる意味が分かりません。一体どういう事ですの?」

 

 お母様の言葉の意味を考えるよりも、私は答えを伺います。

 

 「くえす、貴女も魔術師ならば何故魔術師が魔導書を残すのか、その理由が分かりますね?」

 

 「後進の魔術を扱う者達へ教科書として書き記す……じゃないよね」

 

 「無論違いますわ」

 

 お母様の問いに続き柩も言葉を挟んでくるが、私は柩の言葉を否定する。

 

 「魔術師とは基本的に自分の知識や技術を他人に教えたがらない人種です。しかし…」

 

 誰にも教えなければ研究の果てに得た知識、技術、奥義……それ等は全て闇に埋もれる事になる。

 

 「それは己の存在の霧散を意味しますわ。自己の存在の証として世に遺す物こそが魔導書というものでしょう」

 

 「……ならば分かるでしょう。貴女がかつて英国で触れた『真実の書』。幾度もの焚書処分を潜り抜け、読み挑む者に対し、苛烈な負担を強いるあの魔導書に込められた呪いとも言える魔術を」

 

 「…………まさか」

 

 私は徐々にだが理解する。先程お母様が言った言葉の意味を…。

 

 「神宮寺家の女ならば誰でも定期的に確認する神宮寺の封印……。私は英国から戻った貴女のソレ(・・)を調べた時に気付きました。貴女の身体の変質を」

 

 「ちょっ……お母様……」

 

 「狂った賢者にとってその魔導書は存在し続けなければならなった。知れば死に匹敵する程膨大な情報量……。しかしそれを読み解く事が出来た者が現れたならば、その者こそが第二の自分とも言える存在。自分と同じ領域に立てる者であり、存在の証となり得る者。なればこそその者は魔導書同様護らなければならない」

 

 お母様の言葉が私の心に容赦無く食い込んできます。

 

 「くえす、貴女は失われない証……『第二の真実の書』として最早死ぬ事も老いる事も許されない存在とされてしまったのですよ」

 

 それが私の傷が全く無かったかの様に完治している理由。

 

 「はは……そんなバカな。錬金術じゃあるまいし。そんな呪い…」

 

 身体の震えが…止まらない。

 

 「くえす、ボクは前に言ったよね?君には失ったモノがある…と。あれは君が想いを寄せる少年以外も愛する慈愛の心の事だけを指してた訳じゃない。君自身の人としての生、人として生きる時間も失った事(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)も指していたんだよ」

 

 …私が死んだあの時にソレは…………呪いとも言える魔術は発動した――――。

 

 「くえす、君は人間(ヒト)を超えてしまったんだ。素晴らしいじゃないか。くひひ……」

 

 信じられない――――シンジタクナイ。

 認められない――――ミトメタクナイ。

 柩の声が耳に届く中、頭の中で何度も否定するけど、現実は変わらない。

 私は人間(ヒト)でなくなった……。

 

 「(私は……私は……)」

 

 私はもう…………人間(ヒト)として彼の隣に立てなくなってしまった………。

 

 

 

 ~~回想シーン終了~~

 

 「これが酒呑童子との戦いの後、私の身に起こった事の真実ですわ」

 

 「……………………」

 

 何て言うか……言葉が出なかった。

 くえすは一度死んで……けど死ぬ事すら許されない身体になっていて……。

 優人が言っていた『くえすが死んだ』というのは決して間違いじゃなかった。

 けど俺はそれが優人の早とちりじゃないかと思い込み、その後に五体満足なくえすが姿を見せたもんだから、やっぱり死んでなかったと勝手に決めつけていた。

 

 「お母様が…」

 

 俺が親友(ゆうと)の言葉を信じず、勝手な思い込みに至っていた自分自身に憤りを感じていた中、くえすの言葉はまだ続く。

 

 「お母様がいつの間にか天河家やゆうちゃんとの縁談に拘らなくなりました。家のためにと固執していたのに、もう私には必要無いそうですわ」

 

 …そういや、くえすのお母さんは神宮寺家の地位を上げるために、俺か優人との縁談を進め、くえすは最終的に俺の方を選んだ。

 ……うん、俺ってくえすと許嫁の関係なんだよね。

 

 「優秀な他家の血の助けなど要らない本物の魔女……ですのよ」

 

 言葉を続けるくえすの表情には陰りが見えていた。

 

 「これからは魔女の血を道標に永劫を歩き続ける。最早死神ですら私に振り向く事は無い」

 

 「くえす……」

 

 「これは力を追い求めた私自身の罪。超人気取りを省みなかった私自身の罰」

 

 「もう良いって……」

 

 辛そうに吐露するくえすを見るこちらも辛くなってくる。

 俺はこれ以上の彼女の告白を制したのだが、くえすは俺の制止が聞こえていないのかそのまま喋り続ける。

 

 「ははは……お笑いですわ。もう…私は何も得られない。私の時間は止められてしまった」

 

 「くえす!もう良いから!!」

 

 自嘲気味に言うくえすの姿は正直見ていられない。

 

 「もうゆうちゃんと同じ時間を歩めない。一緒に歳を取る事も無い。ああ、背中を護ってもらう必要も無いですわね。何せ死なないんだから」

 

 「くえす!!!」

 

 自分の言葉で自分を追い詰めていくくえす。

 

 「こんなの!!これじゃあまるで!!」

 

 ぐっ!ヒートアップしていくくえすをまずは止めんと。

 手荒な手段には出たくなかったが…。

 

 「これでは私なんてあやか……」

 

 「デコピン!!」

 

 バチインッ!!!

 

 「ひゃわあああぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 俺は指を弾いてくえすの台詞を物理的に黙らせる。

 良い音鳴ったなぁ。しかも可愛らしい悲鳴まであげちゃって。

 

 「い、いきなり何するんですの!?」

 

 「やー…くえすがあまりにもヒートアップしていって、俺の言葉が全然届いてなかったみたいだから強引に止めてみました」

 

 「だからって攻撃する必要ありませんわよ!!」

 

 「でもこうしないと止まらんでしょ」

 

 「他に方法があるでしょ!」

 

 「例えば?」

 

 「そそれはく……私を包み込む様に優しく抱き締めてくれるとか……////」

 

 「ゴメン、それは無い」

 

 「……………………」

 

 くえすの瞳から光が消えて無表情になった。超恐いです。

 けど、くえすの言うような事実行したら俺も優人の二の舞になるじゃないか。

 屋上で優人を突き飛ばした件を忘れたとは言わせんよ。

 

 「むぅ……」

 

 「まあ、冷静になれただろ?」

 

 「……やり方に不満はありますが」

 

 この際文句は言わんで下さい。

 

 「……で、話を戻すけど酒呑に殺された筈のくえすは、その魔導書とやらの力で不老不死になったから生き返ったって事だな?」

 

 「ええ……人間卒業しちゃいましたわ」

 

 落ち込むくえすの背後には『ず~ん…』っていった感じの擬音と暗い影が見える様な気がする。

 

 「まあ、確かに辛いわな」

 

 不老不死……人類にとっちゃある意味究極の悲願。

 ほとんどの人は羨ましがるかもしれんが、当の本人からすれば永遠に続く地獄の始まりの様なものだ。

 身近な人が次々と逝く中、1人だけ歳も取らず、死ぬ事も無く、見送らなければならないのだから。

 

 「ゆうちゃんは軽蔑しますか?気味悪く思いますか?人ですらなくなってしまった私を…」

 

 「はい?」

 

 「望んでもいない不老不死なんてものを強引に与えられ、妖以下の存在に成り果てたと言っても差し支えない私から離れますか?見捨てますか?」

 

 「ネガティブになり過ぎだろ。第一、それぐらいの理由で何故くえすから距離を取らねばならん?」

 

 「だって私は……」

 

 「あのなぁ。不老不死になろうが人間止めようがくえすはくえすだろ」

 

 それぐらいで縁を切るとか人付き合い止めるとか、そんな酷ぇこたぁしねえよ。

 

 「俺の目の前にいるのはちょっと特殊な状況に陥った神宮寺くえすという女の子。それで良いじゃねえか」

 

 「…私は化け物ですわよ?」

 

 「だーかーらー!!くえすはくえすだって言ってんじゃん!!不老不死なんか気にするなって言っても無理かもしれんが、俺は今後もお前と接する態度は変えるつもりなんて無いし、縁を切る事も絶対に無いって言える!何なら神様に誓っても良いぞ」

 

 ……いや待て、正富(かみさま)に誓うのは不安だな。

 

 「何なら閻魔さまに誓っても良いぞ」

 

 「何で訂正したんですの!?」

 

 そこは気にしないで下さい。

 

 「とにかく!俺は絶対にくえすの事見捨てたりしない!これ結論!この話は以上!!」

 

 俺は強引に話を打ち切らせる。

 またネガティブになられても困るし、そういうのはくえすらしくない。

 

 「……そこまで言われたらこれ以上落ち込む訳にはいきませんわね」

 

 暗かったくえすの表情もいつも通りに戻っていく。

 

 「そうそう。常に大胆不敵な態度こそがくえすらしいんだし」

 

 でないと調子が狂って仕方ないッスよ。

 

 「けどアレですわね。こうもすんなりと受け入れられるとは思ってもみませんでしたわ」

 

 「んあ?」

 

 「私としてはこの事実を伝えるまで不安で不安で仕方なかったのに」

 

 「地球の裏世界を知ってる身としては今更不老不死ぐらいじゃ……ねぇ」

 

 「でも、ありがとうございます。ゆうちゃんに拒絶でもされたら私は今頃首吊ってますから」

 

 首吊っても時間経ったら生き返るから死ねないよねアンタ。

 けど口にはしないでおこう。またネガティブになられるのもアレだし。

 

 「話ってのは以上か?ならそろそろ戻ろうぜ」

 

 「はい」

 

 翠屋を抜け出してそこそこ時間が経ってるし、小腹が空いてきた。

 

 「ゆうちゃん…」

 

 翠屋に戻ろうと思った所でくえすに呼ばれたので振り返ったら

 

 「んぐっ!?」

 

 不意に唇を塞がれた。

 目の前にはくえすの顔がどアップで視界に入る。

 唇を塞いでいる柔らかい感触――――言うまでもなく、くえすの唇だと認識する。

 

 「んちゅっ、ちゅっ、ちゅるっ、ちゅうぅ……」

 

 更に舌も割り込ませてきて、俺の舌が絡め取られる。

 くえすと俺の唇の間からは卑猥な音が聞こえる。

 

 「あむ……んっ、ちゅっ、ちゅるっ、ちゅるる……」

 

 くえすが首の角度をずらし、唇を更に深く重ね合わせてきた。

 隙間なくつながった二つの口の間で、舌だけが淫らに蠢き続ける。

 

 「ちゅううぅぅぅぅ…………ぷはぁ」

 

 最後に強く俺の舌を吸って、くえすは顔を放す。

 お互いの唇の先端には混ざり合った唾液がアーチを描き、程無くしてプツッと切れる。

 くえすの頬は赤く染まっているが、それは俺も同じだろうな。

 

 「ああああああ、あのくくくくくくえす!!?いいい、いきなり何を!!?」

 

 「何ってディープなキスをしただけですわ」

 

 いやいやいや!!いきなりキスされた理由が不明なんですけど!?

 てか離れてくえすさん。さっきからアンタの豊満でやーらかいオムネ様がふにゅふにゅと服越しに当たってるんですが。

 

 「無理ですわ。だってゆうちゃんが引き寄せてるじゃないですか」

 

 「ほわっ!?」

 

 くえすに指摘されて気が付いた。

 確かに俺の右手がいつの間にかくえすの腰に手を回し、引き寄せていた。

 慌てて手を放した俺はバックスッテプで3歩分の距離を取って何度も頭を下げる。

 

 「すんませんくえ助!!すんませんくえ助!!」

 

 「何ですのその呼び方は!?」

 

 おおお、落ち着くんだ俺。動揺し過ぎて謝り方がコリブーさんになっちゃってるじゃないか。

 まずは深呼吸深呼吸。

 

 「スー…ハー…スー…ハー…」

 

 ………よし、少し落ち着いた……

 

 「ゆうちゃん」

 

 「ひゃい!」

 

 くえすに呼ばれたので姿勢を正し、やや上擦った声で返事する。

 まだ動揺は収まってないねこりゃ。

 

 「本当に私の事を受け入れてくれてありがとう」

 

 「……………………」

 

 月の光に照らされて僅かに輝き、そよ風に靡く銀髪。そして優しげに微笑むくえす。

 その姿は幻想的で美しく、俺は思わず見惚れてしまった。

 そのせいか内心の動揺も収まったのだが。

 

 「さ、店に戻りましょう」

 

 「あ、あぁ……」

 

 くえすに促されて公園から出て来た道を引き返し、翠屋に向かう。

 けど俺の脳裏には先程見せたくえすの姿が焼き付いてしまい、しばらくは何も考える事が出来なかった………。

 

 

 

 ~~優人視点~~

 

 勇紀とくえすが出て行ってしばらくした後、俺も緋鞠に呼ばれて店を出た。

 メイド服から和服に着替えた緋鞠の背を追い、夜道を歩いて……。

 現在は俺達が通う風芽丘学園の屋上だ。

 夜の校舎に無断で侵入。普通にバレたらヤバいよなぁ。

 

 「なあ緋鞠。これ完全に不法侵入だぞ」

 

 「だが何人もおらぬから逢い引きには相応しいと言う事じゃ」

 

 色気も何も無い逢い引きだけどな。

 

 「のう、若殿」

 

 「ん?」

 

 「若殿は私とくえす、どちらを取る(・・・・・・)?」

 

 「へ?」

 

 俺は突然の緋鞠の質問に目を点にする。

 

 「どちらかを『捨てよ』というのではない。どちらを『取る』?」

 

 「そ、そんな事……」

 

 何を言ってるんだ緋鞠は?

 俺は緋鞠が質問してきた意図が読めず、困惑していると

 

 「んふ…」

 

 「んんっ!?」

 

 近付いてきた緋鞠に突然キスされた。

 この行動に目を見開き、硬直してる俺に対し、緋鞠は俺の後頭部に手を回し、身体を密着させてくる。

 

 「あむ……んふっ……ちゅっ……」

 

 「うぐっ…んぐぐ……」

 

 緋鞠はより身体を密着させ、その豊満な胸を俺の身体に当て、形をひしゃげさせる。

 同時に舌を割り込ませ、ディープなキスで攻めてくる。

 

 「(うぅ……緋鞠のキス、凄く気持ち良い…)」

 

 俺の理性を揺さぶり、壊そうとするかの如く、緋鞠は積極的にくる。

 何も出来ず、緋鞠のなすがままにされていると緋鞠は突然足払いを仕掛け、俺を地面に押し倒す。

 

 「んぐっ!」

 

 後頭部は緋鞠が自分の方へ引き寄せていたため、打ち付ける事は無かったが、背中には軽い痛みが走る。

 仰向けで倒された状態で緋鞠はようやくキスを止め、マウントポジションを取って俺を見下ろしていた。

 

 「くえすの奴は勇紀を好いておる。故に若殿との縁談も破棄したではないか」

 

 それは俺も知ってるよ。くえすの好きな相手が勇紀だってことぐらい。

 だからこそ俺は疑問が浮かぶ。

 何故自分とくえすのどちらかを選ぶかの様な選択肢を問うてきたのか。

 

 「それとも若殿はくえすとの縁談が諦めきれるのか?勇紀と敵対して略奪愛でもしたいのか?」

 

 「何言ってんだよ緋鞠。俺は別にそんな事…」

 

 「そうでも無ければ昼間、屋上でくえすに抱き着いたりしないであろう?」

 

 「ちょ!?お前勘違いしてるだろ!?」

 

 アレはくえすが無事だったのが嬉しくて思わず抱き締めただけで、別にくえすに対しての恋愛感情からきた行動って訳じゃない。

 

 「……若殿が幼き頃、野井原の地で我等は常に一緒じゃった。だからお主の癖も性格も好きな事も、私は全て知っておる」

 

 しかし緋鞠は俺の言葉なんざ聞いちゃいない。

 自分の言いたい事を言い、上半身を倒して再び唇を重ねてきた。

 

 「ひ、ひま……んうっ!」

 

 「はむ……あふ……んふっ……」

 

 緋鞠は俺の右手首を掴み、自分の胸へ添えさせ、そして放す。

 

 ぐにゅっ

 

 「んんっ!」

 

 キスをしながら緋鞠は僅かに喘ぐ。

 和服の一部がはだけ、素肌を晒していた。

 ブラも着けておらず、桜色の先端部も含めて豊満な胸は惜しげも無くその姿形を露わにし、思わず指先に力を入れて揉んでしまった際、俺の指は柔らかな胸に吸い込まれる様に沈む。

 気持ち良さに身を委ね徐々に目を細めてしまう中、俺は確かに見た。

 

 

 

 

 

 ――――――――オ主ハ私ノ(モノ)ジャ――――――――

 

 

 

 

 

 緋鞠の瞳の奥にドス黒いナニカ(・・・)が現れていたのが。

 

 「ぐっ……止めろよ緋鞠!!これは(・・・)お前じゃないだろう!!!」

 

 蕩けかけていた理性が一気に戻る。

 胸に添えていた右手と空いていた左手で緋鞠の両肩を掴み、無理矢理に押し上げる事で俺の唇も解放された。

 少し強めに声を発し、緋鞠を見る。

 今の緋鞠は…………俺の知っている緋鞠じゃない!!

 

 「くっ…くくく」

 

 「???」

 

 「く…ふ、ふははは!あははははは!!」

 

 「緋鞠、お前…」

 

 緋鞠はゆっくりと俺の上から退き、笑い出した。

 唾液塗れになった唇を自分の右手の甲で拭いながら俺は僅かに声を絞り出す。

 

 「……………………」

 

 ゾクリ

 

 恐怖。

 俺は緋鞠から恐怖を感じ取っていた。

 俺を見下ろす緋鞠にはクリスマスパーティーの時よりもヤバい何かを瞳の奥に宿し

 

 バッ!

 

 「あ、おい!緋鞠!!」

 

 その身を翻して何処かへ飛び立って行った。

 

 「緋鞠……」

 

 その後ろ姿を見送る事しか出来なかった俺。

 この日以降、緋鞠は俺達の家に帰って来なくなった………。

 

 

 

 ~~優人視点終了~~

 

 ~~柩視点~~

 

 緋剣の猫神君が天河少年の元を離れた翌日。

 

 『……成る程。大体の事情は把握した。それで君の見立てはどうだ?』

 

 ボクは今、鬼斬り役序列第壱位の『土御門(つちみかど)愛路(あいじ)』に電話で昨日の一件について報告していた。

 それは店に戻ってきた天河少年から聞いた内容の事だ。

 

 「九尾が一見人畜無害になったとはいえ、内に抱えてる負の妖力が亡くなった訳じゃないから、何らかの処理は必要だろうね」

 

 ま、実際はそんな処理すらいらないと思うけどね。

 それよりも…

 

 「現状の問題は緋剣の猫神君だね。次代の九尾候補が淵を歩いている(・・・・・・・)。首輪は掛かってないし天河少年(かいぬし)の抑えも効いていない」

 

 それに昨日の祝勝会の際、店の奥で猫神君に軽く挑発しただけでも過剰に反応し、性格も享楽的だ。

 

 「彼女自身自覚や焦りはあるけど、そもそも打開の対策案(カード)も持っちゃいないよ」

 

 『それ等全てを彼の責任とするのは酷だろう。場合によっては私が出る』

 

 「くひ……」

 

 序列第壱位の君が直接動くとはねぇ。

 そうなりゃ猫神君の行く末は……

 

 「それは流石に天河少年に恨まれるとボクは思うよ。てか恨むだろうねぇ確実に」

 

 『自分の内に一生消えない傷を負うよりはマシだろう。君には引き続き動向の観察を頼む』

 

 「あいあい、任されたよくひひ…」

 

 ボクがそう言うと向こうから通話が切られ、彼との会話は終わった。

 彼の依頼通り、ボクは観察に留まろう。

 ボクは戦えないし、天河少年と猫神君がどういった未来を掴むのか……ボクの能力を使わず、リアルに見る方が面白いだろうし。

 ただ…

 

 「天河少年の親友である長谷川少年。彼がこの件に関わるか否か、またどう関わるかでも何か起きそうだからねぇ」

 

 くえすや各務森の巫女みこシスターズから得た彼の情報。そして直に会った時、ほんの少しばかり彼の未来を視ようとしたけど

 

 「まさか未来を視る事が出来なかった(・・・・・・・・・・)なんてのは初めての経験だよ」

 

 正直信じられなかったよ。

 ボクの能力でも何故か彼の未来が視えない。

 これは彼自身に能力が通じない何か不思議な能力(チカラ)があるのか。それとも…

 

 「彼は未来を自由自在に選び取れる能力(・・・・・・・・・・・・)でもあるのかな?」

 

 未来は無数に存在し、ほんの些細な切っ掛けで簡単に変わる。

 ボクはその中でももっとも可能性の高い未来を視れるけど、もし長谷川少年がその些細な切っ掛けを意図的に起こす事が出来、未来を自在に操れるならボクの未来視で見えないのも納得だし、視えたとしても意味は無いだろう。

 何にせよ長谷川少年と言う存在はあまりにも特異と言わざるを得ないねぇ。

 

 「くひひ…彼が関わったとするなら果たしてそれは吉となるか凶となるか…」

 

 実に楽しみだよ、くひひひひ………。

 

 

 

 ~~柩視点終了~~

 

 野井原が優人の元から失踪して数日。

 4月も下旬に入り、この後に待ち構えるはゴールデンウィークだ。

 クラスの連中はもうゴールデンウィークの予定を立てたりクラスメイト同士で話し合ったりとここ数日は結構浮かれている姿があちこちで見られる。

 まだ気が早いだろうに。

 そう思いつつ、俺は朝一番からC組にお邪魔しに来ていた。

 

 「……まだ優人は来てないのな」

 

 「ええ。毎日必死に走り回って緋鞠を探し回ってるんだけど、何の手掛かりも無し」

 

 はぁ、と九崎が溜め息を吐く。

 

 「むぅ……」

 

 そんな中、ちょいとむくれてご機嫌斜めの遥。

 アイツは優人や野井原、飛鈴ちゃんが来てない理由を俺達が知ってるのに教えて貰えないという現状に不満気なのだ。

 けどしょうがないじゃん。ツインエンジェルは妖云々と何ら関係を持つ事なんて無いんだし。

 言ったところでどうにか出来る訳でもないし。

 その辺の事は優人達から直接聞けとだけ言っといた。

 

 「ホント、何処にいるんだか…あのバカ猫め。ウチの蘭丸を見習いなさいっつーの」

 

 「やれやれ……にしても」

 

 この数日は色々動きがあった。

 まず飛白さんが中越から海鳴市(こっち)に戻ってきた。

 理由は九尾の処遇について。

 力のほとんどが野井原に奪われたと言えど、九尾自身が危険な可能性もあると言う事で飛白さんの鏡像を用いた封魔術で確認した所、

 

 『封印する必要がある程邪気も妖力もありません』

 

 との結論だった。

 九尾は今後も優人が保護するだろうから、この件はひとまず安泰。

 しかし今の野井原は逆にヤバいらしい。

 飛白さんに言われて野井原を見付けたらしい飛鈴ちゃんが襲撃した所、返り討ちに遭い、ボロボロの状態で帰って来た。

 飛白さんは釘を刺したらしいが結局、手を出した血の気の多い飛鈴ちゃんにも困ったもんである。

 俺の魔法と静水久の妖力で治療したから今は何とも無いけど、飛鈴ちゃんは飛白さんの命で現在待機中。

 

 「優人に野井原さん、各務森さんは今日もいねえんだな」

 

 今登校してきたと思われる泰三が自分の机の上にカバンを置いてコッチにやってきた。

 

 「柾木君もやっぱり心配よね」

 

 「流石にもう『おっぱい美少女を独り占めすんなー!』って茶化したりしねーよ」

 

 心配する委員長と真面目顔の泰三。

 

 「あの真面目な優人がこう何日も休むんだ。何か事件にでも巻き込まれ……」

 

 泰三の言葉は最後まで続かなかった。

 

 キーンコーンカーンコーン…

 

 予鈴のベルが鳴ったのと同時に

 

 ズシンッ!!

 

 何か巨大な力に押し潰される様な重圧を感じ

 

 「ぐうっ!な、何なんだよ……コレ?」

 

 「あ、頭が…痛い…」

 

 「く、苦しい…」

 

 「たす…け……て……」

 

 泰三に委員長、他の連中が呻きながら次々に倒れていく。

 

 「痛っつうぅぅっっ!!!」

 

 俺も激しい頭痛に見舞われるが、魔力で自身を保護して何とか痛みを和らげる。

 コイツは……妖力か。それもおそろしく巨大で邪悪な。

 

 「うっ……痛たたた……」

 

 ほとんどの連中が倒れ、意識を失う中、九崎だけが辛うじて意識を保っていた。

 

 「九崎、大丈夫か?」

 

 俺は九崎にも魔法で保護してやると苦痛で歪めていた九崎の表情が和らいで行った。

 

 「あ、ありがとう長谷川君」

 

 「おう。しかしあの妖力の重圧に耐えるとはなぁ」

 

 「あはは……いつの間にか私ってば妖力に耐性が出来てたのかしら」

 

 多分そうだろうな。

 ツインエンジェルの遥や葵でさえ意識を失っているというのに。

 俺はすぐさま見聞色の覇気で他の場所の様子も探るが

 

 「……意識があるのは俺達だけみたいだな」

 

 他に動いてる気配は感じない。

 ……いや

 

 「……3つの気配があるな」

 

 「3つ?それって…」

 

 九崎が聞き返す中、俺は静かに頷く。

 邪悪だけど、間違え様の無いこの気配……

 

 「野井原と……後2つは九尾の部下達のものだな」

 

 確か恵香と黒桜だったよな?

 気配のする場所を確認して俺は立ち上がる。

 

 「九崎、俺は野井原の元に行く。お前は……」

 

 「私も行くわ長谷川君」

 

 「……危険だぞ?」

 

 「分かってる。けどあのバカ猫に一言言ってやらないと気が済まないから」

 

 九崎の力強い瞳が俺を見据える。

 俺が待ってろと言っても勝手に行きそうだなこりゃ。

 

 「…分かった。とりあえず野井原の元に行くまでは俺の側から離れるなよ。道中何があるか分からんから」

 

 「了解」

 

 俺は次に学校全体を覆う妖力の重圧を消すため、広域に結界を展開しようとするが

 

 「……チッ。思ってるより妖力の密度が濃いな」

 

 多少重圧を和らげる程度しか展開出来なかった。

 それでも苦しげな生徒達の表情が若干和らいだだけでも充分か。

 唯我独尊(オンリーワンフラワー)を使えば消せるだろうけど、この結界、おそらくは人払いの効果もあると見た。

 結界を解いちまったら、外界に現状が漏れて面倒になる可能性がある。

 それに唯我独尊(オンリーワンフラワー)を発動、解除して結界を張る前にまた妖力の結界を張られたら意味ないし。

 なら妖力の大元をまずどうにかして、それから証拠隠滅の工作にでも取り掛かれば良い。

 そのためにも…

 

 「野井原を抑えるとするか」

 

 優人も必ず来るだろうし、それまで野井原を抑え、ここから逃がさない様にしておく。

 それと万が一とか予想外の事態が起きるかもしれないから

 

 「ダイダロス。あの人(・・・)にメールで連絡頼む」

 

 「了解だよ」

 

 俺はダイダロスに指示を飛ばす。

 携帯は当然ながら使えない。けどデバイス経由ならメールを送れる。

 あの人が来れるか、到着に間に合うかは分からないが戦力としては申し分ない。

 俺はメールが送信されたのを確認して、バリアジャケットを纏う。

 

 「ええ!?腕輪が喋った!?」

 

 九崎が驚く。俺が変身した事にでは無く腕輪が喋った事に。

 そういやダイダロスの紹介とかした事無かったな。

 

 「九崎。コイツが俺の相棒のダイダロスだ。デバイスと言ってまぁ…魔法使いの杖の様なものだと思ってくれ」

 

 「へぇ~、これが杖の役割なんだ」

 

 「初めまして。ダイダロスだよ。よろしくね凜子ちゃん」

 

 「あっ、よ、よろしくお願いします」

 

 俺の腕輪にペコペコと頭を下げる九崎。

 …何かやけに低姿勢だな。それに敬語だし。

 少し疑問に思うが今は現状とは関係無いから、頭の片隅に追いやり、教室のドアを開ける。

 俺と九崎は教室を飛び出し

 

 「「待ってろよ、野井原!(待ってなさいよ、バカ猫!)」」

 

 廊下を駆け、野井原がいると思われる場所へ向かうのだった………。

 

 ~~あとがき~~

 

 あっちでチュッチュッ、こっちでチュッチュッなキスイベント多発と遂に緋鞠が闇堕ちしたという今話でした。

 キスイベント書いたのは久しぶりだし、勇紀以外の男性キャラのキスイベントは初めてです。

 おまひま編もいよいよクライマックス。今回は勇紀も参戦なので原作との展開が多少変わります。

 コイツさえ乗り切れば後は日常編を書くだけ書いていよいよSts編突入です。

 後余談ですが勇紀がとある宝具(・・・・・)を使えばくえすを人間に戻す事が出来ます。

 くえすが受けたのはあくまで『呪いの様な魔術(・・)』ですので。

 もっともその魔術を解けばくえすは不老不死じゃなくなり、銀髪が黒髪に戻りますが、それを実行するかどうかは今のところ未定です。

 また凜子がダイダロスに低姿勢気味なのは……そらのおとしものの原作から察して下さい。

 

 


 
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