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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百五十三話 祝勝会

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2016-04-21 23:33:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:8507   閲覧ユーザー数:7966

 「くえすが…………死んだ?」

 

 俺は優人から告げられた言葉の理解に脳が追い付かなかった。

 しばらく俺は呆けたまま突っ立っている状態で優人を見つめていた。

 

 「俺が……もっと俺が強かったら……」

 

 心底後悔してる表情を浮かべ、悔しさに震える優人を見てようやく俺は言葉を発する。

 

 「それって……何かの冗談か?」

 

 だってあのくえすだぞ?

 アイツの実力を直接この目で見た事はないけど、裏の世界では『黄昏の月』の異名を持ち、それなりに戦場の場数も踏んでいると思われる。

 何より現代に生きる鬼斬り役の面々の中では間違い無くトップクラスだと思う。

 鬼斬り役全員に会った事が無いので何とも言えんが、優人は元より、飛白さんや飛鈴ちゃんと正面からぶつかり合っても分はくえすにあると俺は見ている。

 

 「冗談じゃないんだよ勇紀」

 

 優人は首を左右に振って入れの言葉を否定する。

 じゃあ、コレ(・・)はどういう事なんだ?

 今この屋上には俺と優人以外にも複数の気配がある(・・・・・・・・)

 

 「じゃあ優人、聞くけどさ……」

 

 俺が尋ねようとした瞬間、複数の気配の内の2つが動く。

 

 「先日ぶりねえ、天河クン」

 

 その内の1つは屋上から校舎内に戻る出入口がある建屋の屋根からズブズブと現れ、宙ぶらりんの状態でコチラを見ていた。

 金髪のツインテールに軍服の様なデザインの服を着ている女性。

 けど雰囲気や気配は人間のモノじゃない。

 ……妖か。

 後、スカート穿いて宙ぶらりんなのに何故スカートは捲れていないのか謎である。

 重力ちゃんと仕事しろよ。

 

 「何だ、優人の知り合いの妖か?」

 

 「俺じゃなくて九尾の配下だよ」

 

 つまり敵って事ですね。

 そしてもう1つの気配も姿を見せる。

 

 タンッ

 

 静かにフェンスの上に降り立ち俺達を見下ろしているのは右目を眼帯で隠してるショートヘアーの女性。

 コチラも人間ではないですね。

 

 「ふむ…」

 

 正面の校舎内へ戻る建屋と、俺達の背後のフェンス上。見事に挟まれた形になっている。

 

 「実は貴方に聞きたい事があるのよね」

 

 「…………何だよ?」

 

 俺は優人と金髪妖の会話を静かに見守る。

 

 「九尾様をどうした?何処へやった?」

 

 「……………………」

 

 「アンタの返答次第では黒桜がこの学園の校舎を切り刻み、私が生徒達を撃ち殺す」

 

 おいおい、随分物騒な事言ってくれるじゃねえか。

 しかし黒桜……か。

 その名前を聞いて俺が思い浮かべるのは某運命な作品に出てくる巨乳なヤンデレキャラ。

 

 「玉藻前か……元気だよ」

 

 「へえ…じゃあ会わせてもらえるかしら?」

 

 仕える主との面会を望む妖に対し、優人は険しい表情を浮かべている。

 てかもう一度確認しておこう。

 

 「優人」

 

 「何だ?」

 

 「本当に、ほんっとーーーーーーーにくえすは死んだんだよな?死んだと勘違いして実は重傷ながらも生きてたって事はないよな?」

 

 「……心臓も止まってたよ。間違い無くくえすは……」

 

 「じゃあさ……」

 

 俺は宙ぶらりんになってる妖の建屋の上……貯水タンクのある場所を指差して尋ねる。

 

 「あそこにいる(・・・・・・)のは幽霊か?それとも幻か?」

 

 「へ?」

 

 間の抜けた声で返事する優人は俺の指差す方に視線を向ける。

 俺が指差した先にいるのは複数の気配の残り3人分の内の2人分(・・・・・・・・・・・)

 

 「さすがゆうちゃん。私の存在に気付いていたんですのね。後、私は幽霊でも幻でもありませんわよ」

 

 そこには確かにいるのだ。

 腰にまで届く銀髪を生やし、額には神宮寺家縁の三日月の紋様を宿した少女が。

 その少女こそ、優人が『死んだ』と断言した神宮寺くえす当人である。

 

 「へ?…………くえす?…………あれ?」

 

 優人は信じられないものを見てるかのように目を大きく開いた。

 明らかに混乱してるな。

 

 「くひひ…」

 

 そして何か見た事無い子がくえすの横に立っていた。

 誰あの子?

 

 「ふふん、この場はこのくえす様の新たなる幕開けとしてイタダキ♪ですわ」

 

 前髪をそっとかき上げながらポーズをとるくえすを見て俺は思う。

 

 「(…………白か)」

 

 スカートであんな高い位置を陣取ってたら、くえすより下の場所にいる俺からはスカートの中身……純白のパンティが丸見えです。

 ゴチですくえすさん。

 もっと眺めていたいがこのままガン見してたらくえすにDEATHられてしまうかもしれないので名残惜しいが気付かれない内に視線を優人に戻して俺は言う。

 

 「ほら、本物だって言ってるぞ。やっぱ優人の早とちりで勘違いだったんじゃねえのか?」

 

 「いや……でも確かにあの時……」

 

 未だ困惑している優人。

 

 「くひひ…。天国も地獄もつまらないから帰ってきたそうだよ」

 

 「当然でしょう。天国にも地獄にもゆうちゃんがいませんもの」

 

 『おーほっほっほ!!』と高笑いする様を見て俺は……俺と困惑から立ち直った優人は確信する。

 

 「「(あの言動……間違い無く本物のくえすだ)」」

 

 てか隣の子はマジで誰よ?一緒にいるって事はくえすの知り合いなんだろうけど。

 

 「ちょっと黒桜!!何が起きてる!?上になんかヤバそうな雰囲気を垂れ流してるのがいるっぽいんだけど!?」

 

 「……ほーーーぉ……」

 

 「っ!!恵香(エコー)、逃げて!!」

 

 「逃がさなぁい♪」

 

 くえすが貯水タンクから魔力を伝わらせて、恵香と呼ばれた宙ぶらりんの妖を無理矢理に落とす。

 

 ゴチンッ!!

 

 「ひぎゅっ!」

 

 うわぁ……後頭部からモロに落ちたよ。痛そうだなぁ。

 

 「っ!!」

 

 フェンスの上の妖が行動に出ようとするが

 

 「動くな!」

 

 それは優人の声によって遮られてしまう。

 優人の右手は光渡しを纏っており、拳を強化している。

 

 「学校(ココ)でこれ以上、揉め事は起こしたくないんだ。だからそのまま動かないでくれよ」

 

 優人、行動を制限するのは妖だけじゃないぞ。

 

 「くえすもそのままでいてくれ」

 

 「何故ですの?」

 

 首を傾げるくえすだが、理由は単純。

 

 「お前が動くと器物破損しそうだから」

 

 結界も張ってない状態での魔力ブッパは勘弁してつかぁさい。

 

 「むぅ……」

 

 少しむくれるくえすだが、俺の言う事を聞いて追撃をする様子は無さそうである。

 

 「黒桜に恵香と言ったか。白面金毛九尾玉藻前は俺の所で保護(・・)してるよ。けどアレはもうお前達の知ってる九尾じゃない」

 

 「???アンタ何言ってるの?」

 

 後頭部を擦りながらゆっくりと起き上がった妖に優人は俺に説明した内容と同じ事を教える。

 今の九尾は内に秘めていた妖力のほとんどを野井原に吸い尽くされた影響か精神が崩壊し、幼児退行してしまったという事。

 で、現在は高宮市のマンションの一室で優人達と共に過ごしているという事(天河家は九尾襲撃時に被害に遭い、跡形も無く燃え尽きた。表向きは放火魔の犯行とされている)。

 ……俺も一度見ておくか。危険が無いかどうか自分の目で見て判断しておきたい。

 

 「優人ー、ここにいるのー……って、何この状況?」

 

 そこへ姿を見せたのは九崎。

 優人を追い掛けて来たのだろうが、目の前の光景に理解が出来てなさそうである。

 

 「おー九崎、実はかくかくしかじかで……」

 

 俺は今来た九崎に現状を説明する。

 

 「……成る程成る程。つまり九尾の現状を見せたらいい訳ね。じゃあ…………はいコレ」

 

 俺の説明を聞き終えた九崎は何度か頷いた後、携帯を取り出してポチポチと操作する。

 で、恵香とかいう妖に携帯の画面を見せる。

 

 「……何だこれは?」

 

 「何ってアンタ達が知りたがってた九尾の現状よ。一応写メで撮ってたんだけどね。他にも…」

 

 そう言って何度か携帯を操作しては画面を見せる行為を繰り返している。

 多分撮った写メのいくつかを見せているんだろう。

 

 「これは……」

 

 それらの画像を食い入るように見つめている妖。

 何気に黒桜と呼ばれていた妖も仲間の側まで移動し、覗く様に携帯の写メを見ていた。

 で、そんな画面を見て、妖から出た言葉は

 

 「CG加工か何かでしょ」

 

 である。

 

 「しないわよ。そんな無意味な事」

 

 九崎も真っ向から否定し、携帯の画面を閉じる。

 

 「………どうやら得られる情報はここまでか」

 

 妖達にとっちゃ九尾の情報が予想外だったんでしょうねぇ。

 

 「黒桜、退くわよ」

 

 ショートヘアーの妖が高く跳躍し、ツインテールの妖はショートヘアーの妖の腰にしがみ付いてこの場から離脱する。

 

 「次に会った時はメタメタのぺろぺろにしてやるわ鬼斬り役!あっはっはっはっはー!!!」

 

 捨て台詞を言い残し、その姿が小さくなっていくが

 

 「耳に障る笑い声ですわ」

 

 くえすが無情にも魔力弾を放ち、それが直撃して爆発を起こす。

 

 「あーーーーーーーっ!!!!」

 

 遠くから妖の悲鳴らしき声が聞こえた。

 もし俺が魔導師バビディなら『ナイスショーット♪』とでも言ってくえすを褒め称えるんだが

 

 「くえすぅ…何もしないでって言ったじゃーん」

 

 あの爆発誰かに見られてるよ絶対。

 

 「遠距離の的に命中させる練習になりそうでしたので」

 

 全然悪気を感じてねえなコイツ。

 くえすは貯水タンクの上から飛び降り、もう1人の少女は普通に下りてきて俺達の前に。

 

 「大体の話しは柩に聞きましたけど天河優人、貴方九尾を保護したんですって?」

 

 (ひつぎ)……そっちの子の名前だろうか?

 

 「やっぱりマズかったりするの?」

 

 「くひ、良くはないね。爆弾を抱えるようなものだし対外的にもマイナスポイントの加算にしかならないよ。早急に土御門の指示を仰ぐべきだね」

 

 土御門……鬼斬り役の序列第1位の事か。

 ここでその名が出るって事はこの子、くえすのただの知り合いじゃなく鬼斬り役か?

 

 「くひひ、けど九尾を手懐け、調教するのもまた一興」

 

 「どっちなのよ」

 

 調教って…。

 

 「そんな事より…」

 

 優人が一歩前に出てくえすに近付く。

 

 「くえす、一体どういう事なんだ?あの時…あの時くえすは俺の目の前で……」

 

 「天河優人、私は今確かにここにいる。幽霊でも何でもなく本物の私が。信じられないなら私に触れて実体がある事を確認してみたらどうで……」

 

 くえすが言い終える前に優人はくえすをギュッと抱き締めていた(・・・・・・・)

 

 「すか…………?」

 

 で、言い終えたくえすは突然の優人の行動に反応せず、抱き締められるがままになっていた。

 

 「んなっ!?」

 

 それを見た九崎は当然の如く、声を上げて反応した。

 

 「良かった……本当に…本当に良かった」

 

 そう言う優人の目元にはジワリと涙が。

 

 「おやおや、感動の再会シーンにボクらはお邪魔虫かねぇ?くひひひ」

 

 「(ぐっ!!堪えろ私。空気読め私。今回ばかりは目を瞑るのよ。優人から話しを聞いて本当に死んだと思ってたんだから。しゃーなしよしゃーなし!)」

 

 柩って子はニヤニヤと2人の様子を見守り、九崎は拳を握りプルプルと震わせながらも必死に何かを我慢している。

 

 「こ……ここ、この不埒者ーーーーー!!!!!」

 

 バッチーーーーーーーーーーンンンン!!!!!!!

 

 「ぶぐふぅっ!!?」

 

 突然くえすが優人を引き剥がしたかと思うと、間髪入れずにビンタをブチかます。

 勿論魔力による強化付きで。

 強化ビンタを喰らった優人は屋上の隅まで吹っ飛ばされた。

 

 「いきなり抱き着くなんて破廉恥極まりないですわよ!!」

 

 そりゃないだろくえすさんや。アンタさっき『私に触れて確認してみなさい』っていう風な事を自分で言ったじゃんか。

 

 「普通は手を握るぐらいの行為で済ませるでしょう!乙女の肌を何だと思ってるんですの!!」

 

 俺の意見も聞かず、くえす様はプンプンです。

 

 「優人!!……ちょっとくえす!!優人に何すんのよ!!」

 

 「黙りなさい胸の薄い一般人!!今のは天河優人が悪いのですから自業自得ですわ!!!」

 

 「薄いって言うなーーーーーー!!!!!」

 

 …どうしてこう九崎とくえすが顔を合わせるとこのやり取りが行われるんだろうか?アイツ等なりのコミュニケーションなのか?

 

 「くひひ、真っ向から相手の気にしている事を臆面も無く言えるのはくえすの美点の1つだよね。ところで……」

 

 少女が俺に向き直る。

 

 「君が噂の長谷川少年だね?こうして会うのは初めてだから自己紹介しておくよ。ボクは夜光院(やこういん)(ひつぎ)。鬼斬り役十二家の序列第11位、『夜光院家』の現当主で鬼斬り役の他に探偵としても活動中さ」

 

 やっぱ鬼斬り役だったか。

 夜光院家……戦闘能力は十二家の中で最も低いが、確かが出来る一族だった筈。

 しかも探偵を兼業でやってるのか。どうせなら探偵じゃなく武偵になったら良かったのに。

 鬼斬り役の中では最弱でも、一般人よりは強いだろうに。

 

 「くひひ、ボクは病弱だからね。武偵には向かないよ」

 

 「心読むなよ……」

 

 「くひひ……」

 

 「ま、ソッチは俺の事知ってるみたいだけど、名乗られたからには名乗っておかないと。長谷川勇紀です」

 

 「今後ともよろしく。くえすや各務森の巫女みこシスターズが気に掛けている君と直接会えたのはボクにとって今日一番の収穫だよ」

 

 「そいつぁ喜ぶべきなのかねぇ」

 

 「それは君にしか分からない事だよ。あくまでボクからすればラッキーってだけさ。ボクの能力を使うには何と言っても対象の情報がいるからね」

 

 「……未来視の能力の事か」

 

 「正確には限りなく未来視に近い『未来予測』……得られる情報全てを瞬時に分晰、解晰して論理的に組み立てる超速思考。更に『完全空間座標知覚』と『時間座標把握』も含まれるんだ。そうしてボクは世界そのものを検索し(・・・・・・・・・・)、一番都合のいい未来を選べるんだよ。故に相手の行動は読めてボクの行動は読まれない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)って訳さ。もっともこの能力(チカラ)を使うと脳細胞が早く死滅するからあまり乱用はしたくないけどね」

 

 「……………………」

 

 わざわざ自分の能力を明かしてくれてなんだけど、彼女の能力って俺の高速思考(ハイパーハイスピード)とソックリだよな。

 けど俺は未来予知としては使わないな。未来予知なら論理回路(ロジカルダッシュ)時間航行(ラグナロク)があるし。

 

 「てかそんな事より君等、学園に入校許可取ってないんじゃねえの?」

 

 「くひひ……取ってないよ。けどそんなのはささいな問題じゃないか」

 

 いや…ささいな問題じゃないでしょうに。

 こうして昼休みの間は昼食を食う事無くチャイムが鳴るまで屋上で過ごす事になるのだった。

 屋上には後1人の気配(・・・・・・)が貯水タンクの上から、くえす達がこっちに下りてきた直後に同じ場所から感じていたが、それが野井原の気配だと分かっていたので気にも留めず特に振り向いたりしなかった。

 だからこそ……

 

 「……………………」

 

 俺達を見下ろしている野井原の表情には何の感情も無く、その瞳には僅かな狂気が孕んでいる事に俺はこの場で気付く事が出来なかった………。

 

 

 

 「それではー、今回の戦いに勝利した事を祝して今日は存分に愉しんで下さーい」

 

 「「「「「「おーーーーーっ!!!!」」」」」」

 

 夜……。

 翠屋を貸切にして酒呑を討伐、九尾を無力化した祝勝会をする事になった。

 参加メンバーはこの戦いに参加した鬼斬り役である優人と、コチラ側についていた妖達、で、巻き込まれた九崎である。

 更に……

 

 「俺が参加して良いんだろうか?」

 

 俺は全く参戦すらしてないというのに。

 

 「無礼講ですよ無礼講。私も戦ってませんし、そもそもそんな戦いが起きてる事自体知りませんでしたから」

 

 えっへんと胸を張ってリズが答える。

 まあ、事件が起きたのが海鳴市じゃなく高宮市だったからねぇ。リズが気付かなかったのも無理は無い。

 

 「美味しイ美味しイ♪」

 

 「むむむ…ここまでの料理はわちきでも出せない。この料理を作った奴は正に天才だな」

 

 「緋鞠様達はズルいです。これ程の料理を好きな時にやって来て食べる事が出来るなんて羨まし過ぎます」

 

 ガツガツと料理を食う沙砂に、料理を口に運んでその味の美味さに絶賛してる俺とは初対面の2匹の妖。

 それぞれ名を『加耶(かや)』『(あや)』と言い、加耶は『座敷童子』で文は『文車妖妃』らしい。

 

 「しかし祝勝会は大いに結構なんだが、今日の支払いは誰がするんだい?」

 

 「「「「「「……………………」」」」」」

 

 士郎さんの一言で皆が一斉に黙る。そして露骨に視線を逸らしていた。

 

 「あー……士郎さん、今日は俺が全額持ちますんで」

 

 「「「「「「ゴチになりまーーーーーーーーーっす!!!!」」」」」」

 

 この変わり身の早さには脱帽もんだよ。

 皆、先程と一転して実にイイエガオを浮かべているじゃないか。

 九尾、酒呑戦に参戦してないのにこの場にいるんだからせめて支払い位は受け持ってやらないと。

 沙砂がいるから果たしてどれぐらい支払う事になるのやら…。

 

 「…ってか沙砂と明夏羽も参戦してたんだなぁ」

 

 これも全く知らなかった事だ。

 

 「直接九尾達と戦った訳じゃないわよ。アイツ等の下僕に成り下がった妖達を足止めしてたぐらいだし」

 

 数の暴力に襲われずに済んだのは明夏羽達の尽力あっての事。

 

 「俺も私用が無けりゃ力添え出来たんだが」

 

 その辺は申し訳なく思う。

 

 「しょうがないでしょ。アンタにはアンタの事情があったんだし」

 

 ちなみに沙砂と明夏羽には管理局云々の事を話してある。我が家に住んでる以上、俺が偶に家を空ける理由位は話しておかないといけないと思ったからだ。

 沙砂はその話を疑う事無く信じ、明夏羽は訝しんだものの、デバイスや管理世界の技術をいくらか見せた事で信じてくれるようになった。

 勿論他言無用をお願いしている。

 

 「そういや委員長は?」

 

 彼女は九尾に操られ、尚且つ巻き込まれた人間

 

 「いいんちょは遠慮しとくって言ってたわよ」

 

 九崎が答えてくれる。

 まあ、操られていたとはいえ、一時は共に過ごしていた九尾に何か思う所があるんだろう。

 委員長には少しばかり時間が必要かもな。

 

 おいリズ。祝勝会を催すのは良いが何故私が給仕側なのじゃ?」

 

 そこへリズと同じメイド服を着た野井原がお盆を持ち、不快な表情を浮かべて立っていた。

 このメイド服、用意したのは桃子さんである。リズのメイド服を見て、全く同じデザインで縫い上げたのだ。

 桃子さんは裁縫スキルもマジパねぇ。

 

 「そりゃあ、私と美由希さんだけだと大変ですし、ネコの手も借りたいって言うじゃないですか。緋鞠さんネコの妖さんですし、この言葉に当て嵌まると思いません?」

 

 「本体(カップ)割るぞ貴様」

 

 更に不快度が上がった野井原の気迫にリズが『ぴいっ!』と小さく悲鳴を上げた後、俺の後ろに隠れる。

 俺の後ろに隠れても本体守れなきゃ意味ねー。

 

 「あはは…私とリズだけでもやれない事はないから緋鞠も給仕せずに参加してくれてても良いよ」

 

 美由希さんが空になった皿と新しく盛られた料理の皿を取り換えるためにやってきたのと同時に言った。

 

 「そうですか?ではお言葉に甘えさせて頂きます」

 

 野井原は給仕を止め、祝勝会に加わる。

 皆、楽しそうにワイワイ騒いでるが、どうにも優人の表情に陰りが見られる。

 

 「なーにシケた(ツラ)してんのよ」

 

 そこへ明夏羽が絡みに来た。

 

 「シケた面って……そんな表情(かお)してた?」

 

 うん、してた。

 

 「まあ、私は大体考えてる事分かるけどね」

 

 「凜子……」

 

 「どうせ『やるかやられるかの戦いをして、勝ち残ったからといって祝勝会なんてしていいのかな?』とか思ってるんでしょ?」

 

 「……鋭いな凜子は」

 

 どうやら九崎の考えは当たっていた様だ。

 流石幼馴染み。優人の事をよく理解し(わかっ)ている。

 

 「はぁ?そんな事で?」

 

 明夏羽は『アホくさ』とでも言いたげだ。

 

 「けど俺にはそんな事を言う資格は無いよ。むしろ俺は皆を労う立場だ」

 

 優人は周りを見渡して言った。

 

 「ふーん……ご立派なもんね。天河家当主の顔ってヤツ?」

 

 「……俺は何の役にも立たなかった。戦うって決心をした筈なのに心のどこかでまだ迷ってる自分がいるんだ。こんな事じゃ酒呑の言うようにいずれ誰かが俺のせいで危険な目に……」

 

 「優人……」

 

 心中を吐露する優人に九崎は心配そうな視線を送る。

 

 「そこまで気ぃ張るんじゃないわよ面倒臭い。大体アンタにはズルさが足りないわね。ガキっぽくていいからもっと自信持ちな」

 

 「明夏羽………」

 

 「私も今回はそこの飛縁魔と同意見…なの」

 

 「静水久…」

 

 お?

 さっきまでいなかった静水久がいつの間にか翠屋に来てた。

 

 「お前は共存を意識するあまり、敵を敵と認識するのに余計な時間が掛かっている…なの」

 

 それは優人の欠点とも言えるなぁ。

 

 「そして私は敵であった九尾のご飯を作るのがすっごく不愉快…なの」

 

 「「「それは何と言うか…お疲れ様です」」」

 

 静水久の愚痴に対し、俺、優人、九崎の言葉が重なる。

 静水久が遅れた理由…それは優人が保護してる九尾に睡眠薬入りの料理をたっぷり食わせて眠らせるまで時間が掛かったらしい。

 

 「あのバカ魔女は身体を張って酒呑を倒し、死んだ……なの。なら九尾は私が……」

 

 あら?静水久もくえすが死んだと思ってんの?

 

 「あー…静水久。そのバカ魔女(くえす)の事なんだけど…ね」

 

 九崎が説明しようとした時

 

 「ほーっほっほっほっほ!!何ですの、祝勝パーティーと聞いて参りましたのに、この妖共の吹き溜まりみたいな空間は!私のドレスにニオイがついてしまいますわ!」

 

 噂のバカ魔女(くえす)様ご来店である。

 その姿を確認した静水久は

 

 ブンッ!!

 

 一瞬で俺達の側からくえすの眼前に移動し、拳を振るう。

 くえすもくえすで静水久の一撃を軽く打ち払う。

 

 「どの(ツラ)下げて帰ってきやがった……なの」

 

 「ご覧の通り美しい(ツラ)下げて帰ってきましたわ」

 

 怒り気味の静水久と不敵な笑みを浮かべてるくえすだが

 

 スパアンッ!!スパアンッ!!

 

 直後に妙に景気の良い音が響いた。

 

 「いくら無礼講とはいっても今この時に限り諍い、争い事は無しじゃたわけ!」

 

 お盆を持ってる野井原がギロリと1人と1匹を睨む。

 どうやらあのお盆で静水久とくえすは頭をはたかれたようだ。

 

 「すみませんでしたわ」

 

 「申し訳ない……なの」

 

 くえすと静水久は素直に謝る。

 野井原の剣幕に圧されたな。

 

 「やれやれ…」

 

 そう言葉を零す優人の表情は先程までと違い、どこか嬉しそうで

 

 「何じゃ若殿。ニヤニヤしおって」

 

 「え?俺そんなにニヤニヤしてる?」

 

 この光景と雰囲気に心地良さを感じているようだった………。

 

 

 

 「んで、俺に話って一体何だ?」

 

 翠屋での祝勝会が盛り上がる中、俺はくえすに呼ばれ、翠屋を抜け出して共に夜の住宅街を歩いていた。

 特に何か語るでもなくくえすの後を追うように、彼女の後ろを歩き、やがて誰もいない公園に辿り着いてようやく立ち止まったくえすに俺は尋ねた。

 くえすは俺に背を向けたまま喋り出す。

 

 「……ゆうちゃんは私と酒呑童子の戦いについてどれだけ知ってますの?」

 

 くえすと酒呑童子のバトル?

 そりゃ優人から聞いた内容ぐらいしか知らんなぁ。

 

 「あの戦いで私と酒呑童子はお互いに一歩も引かぬ攻防を繰り広げていました。流石は古来より生きる鬼の妖。並大抵の実力ではありませんでしたわ」

 

 くえすの視線は夜空に浮かぶ満月の方を向いている。

 

 「しかし私も神宮寺の名を背負う者。いくら一進一退と言えど負けるつもりはありませんでした。鬼如きに遅れを取るなど神宮寺家の名折れですから」

 

 いやいや、相手は酒呑童子。別に苦戦しても可笑しくはないよ。

 俺の顔見知りで酒呑童子を圧倒できる退魔師関係と言ったら久遠(大人形態)と薫さんぐらいじゃねえの?

 退魔師というカテゴリを除外すれば父さんを始めとする警防隊の隊長陣とかも入るな。

 

 「多少の傷を負ったとしても勝算はあった。けど、何事も上手く事が運ぶのはいかないものですわ。あの戦いに乱入者が現れたのですわ」

 

 乱入者…それって……

 

 「酒呑童子に従う下級の妖。それは街に被害が出ない様、結界を張っていた蛇を狙ったのですわ」

 

 蛇……静水久か。

 彼女が張った広域結界は発動中に術者自身が無防備になるものだと俺は翠屋で静水久本人から聞いていた。

 

 「正直、私にあの蛇を助ける義理なんて無い……そう思っていたのに……気付けば私は蛇を守る為に、下級の妖を滅し、結果として酒呑童子に対して隙だらけの所を狙われ、私は致命傷を負ったのですわ」

 

 「けど、お前は酒呑童子を倒したんだろ?」

 

 「ええ。けど私が受けた傷は治癒の施しようが無い程で、それはあの蛇や途中で引き返してきた天河優人もしっかりと見ていますから。そして私はそのまま……」

 

 「死んだってか?冗談言うなよ。お前は現に俺の目の前に存在してるじゃないか」

 

 ひょっとしてくえすもからかってるのか?

 と、俺は思っていた……が

 

 「それに対する答えはちゃんとあるんですのよゆうちゃん。私は…」

 

 くえすが俺の方をゆっくりと向き

 

 「私は……もう死ねない身体になってしまっただけですから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 俺の予想だにしてなかった答えを言うのだった。

 振り向いたくえすは自嘲的な笑みを浮かべたまま語り出す。彼女の身に起きている事を………。

 

 ~~あとがき~~

 

 これ以上書くと長くなりそうなので一旦区切ります。

 


 
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