No.823187

Free Trigger 第7話「悪しき光と正しき闇」

Nobuさん

ミロが本格的に動くきっかけとなった人物と出会います。

2016-01-05 18:27:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:325   閲覧ユーザー数:325

 従者と姉を人間の手から取り返したミロは、上機嫌で教会を歩いていた。

「ミロさん、すっかり元気になりましたね」

「当たり前よ!」

「ふふ、やっぱり家族思いですね、主様」

 クラウディアもその様子を見て笑みを浮かべる。

 

「……さて、もう出口は目の前だな」

「あ、そうですね!」

 現在、四人は地下一階にいる。

 ここの階段を上がれば教会から脱出できる。

「……あれ?」

 しかし、忘れている事が1つあった。

 他の吸血鬼達がどうなっているのか、だ。

 リィリイやクラウディアは救われているものの、他の吸血鬼達は生きているのだろうか。

 ミロ達はそれをすっかり忘れていた。

「ああ、家族の事ばかりですっかり忘れてたわ! 他の吸血鬼達は、人間に殺されてない!?

 ねえ、無事なの!? ねえ!」

「急に慌てましたね」

「無事だったら嬉しいわ! でも無事じゃなかったらとっても大変!」

「他の吸血鬼達は、無事だよ」

 すると、女性の声が聞こえてきた。

「な、なんで!?」

 その女性の正体は―

 

「私が助けたからさ」

 桃色の髪の、超能力者だった。

「といっても直接介入しちゃいけないからせいぜい吸血鬼達を導いたくらいだけど」

「……誰よあなた」

「どうやら私を知らなかったみたいだね。私はアーデルハイド、時空警察さ」

「ええっ!? 時空警察!?」

 時空警察とは、多数ある異世界を管理するもの達の事である。

 その時空警察が、ミロの目の前にいる……。

「まあ、放浪のエスパーでもあるけどね」

「……凄いですね。で、エスパーって?」

「エスパーは私の他にも4人いるんだけどさ、そのうちの1人は死去、2人も行方不明。

 だから実質の生き残りは私とあいつだけ。

 そもそもエスパーというのは、使命を果たすために精霊界から送り込まれた5人の精霊の事さ。

 でも、現世にいるには膨大なマナが必要だ。

 ただでさえマナが少なくなっているのに、そのまま現れたら存在自体が危うくなるよ。

 だから、降りる際に生身の肉体を纏って、必要なマナの量を抑えるのさ。

 ……能力は大幅に弱体化するし、疲れるけど」

 アーデルハイドは自分の身分である「エスパー」について長々と語り出した。

 あまりに長かったためミロ達は退屈した。

 

「……というわけで、エスパーというのは所謂『正しき者を導く者』って奴さ」

「あたしみたいな闇の者であっても?」

「当然。光も闇もエスパーには関係ないよ。正しい心を持っていれば、誰でもいいさ」

 アーデルハイドがそう言ってウィンクする。

「……で、あなたは何のために来たんですか?」

「……人間から君達を解放するためさ」

「そう……」

 どうやら彼女も、人間を嫌悪している様子だ。

「人間はなんて傲慢で、強欲なんだ。他と違うからといって、容赦なく迫害する。

 自分が生き残るためなら、平気で他人を裏切る。これだから人間は、嫌いなんだよ」

「……そう」

「さあ、とっとと人間を駆逐するんだ。もちろん、戦うのは君達なんだけどね」

 そう言って、アーデルハイドは後ろに回った。

 どうやらミロ達をサポートするようだ。

「……それと」

「何?」

「君も一応、吸血鬼なんだから、少しくらい、血を吸ってみなよ」

「嫌よ、誰がそんな麻薬吸うと思って?」

 武僧達を倒しつつ地上への道に向かう4人。

 そして、ついに4人は階段の前に辿り着く。

 彼らの目の前には、あの男がいた。

 

「ノヴァ……!」

 そう、吸血鬼達を幽閉した張本人である。

「ここを脱出しに来たのか」

「……そうよ。あんた達人間から逃げるためにね」

 ミロが毅然とした表情でノヴァを見る。

「ボク達は戦うつもりはありません。お願いします、ここを今すぐ退いてください」

「駄目だ」

「ひっ!」

 そう言って、ノヴァは剣を振るった。

 ユミルは怯えながらミロの後ろに隠れる。

「大丈夫よ、ユミル……あたしが守るから。

 ……ノヴァ、どうしてあんた達の家系はあたし達吸血鬼を憎んでいるのかしら?」

「世界の毒だからだ」

「世界の……毒?」

 ノヴァが言うに、吸血鬼は世界の毒であるという。

 何も言えないミロ達をよそにノヴァは話を続けた。

「吸血鬼を生み出した真祖は、本来結ばれてはならなかった、人と神が結ばれた事によって生まれた」

「は?」

「故に、世界の毒である真祖から生まれた吸血鬼も、世界の毒である!」

 そう言って、ノヴァは目の前に剣を突きつけた。

 真実を知らされたミロは愕然とする。

「嘘でしょ……! これが、真実……!? あたしの信じていた、真実って……」

「しっかりしてください、ミロさん!」

「主様、挫けてはなりません」

 倒れるミロを支えるユミルとクラウディア。

「ごめん……ごめんね、ユミル、クラウディア……。

 でも、あたしがそんな種族だったなんて……全く、知らなかったのよ……」

「知らなかったのではない、知らないようにされていただけだ。世界の毒め……この世から消え失せろ!」

「!!!」

 ノヴァは剣を持ち、ミロ達に向かっていった。

 あまりの迫力にミロは動けず、そのまま彼女は剣に刺されてしまった。

「「ミロさん(主様)!!」」

 ミロの身体から大量の血液が溢れ出る。

 さらに、刺された部分から白く輝く線が放射線状に広がった。

「この剣には吸血種を殺す力が含まれている。あと数時間すれば、貴様の命はないだろう」

「う……うぐっ……うぁぁぁっ……」

「大丈夫ですか! ド・オヴァ・デ・シー!」

 ユミルがミロに回復魔法を唱える。

 だが、ミロの傷は治らなかった。

「なんで治らないんですか!?」

「呪詛の類だからだ」

「呪詛!?」

 そう言い、前に出たのは、あの男だった。

「恐らく、あの剣には吸血鬼の再生能力を阻害するための呪詛が含まれているだろう。

 故に、通常の回復魔法では治す事ができない」

「そんなっ……!」

「さあ、見るがいい。この者が力尽きる姿を!」

 ノヴァがそう言い、呪詛を発動させる。

 すると、ミロを覆っていた白い線が、彼女の全身を覆い尽くすまでに広がった。

「うあああああああああああ!!」

 ミロが大声で叫んだ後、彼女は倒れた。

「ミロ……さん? ミロさん……!?」

 ユミルが、床に倒れたミロに声をかける。

 だが、彼女はユミルの声に反応しない。

「ミロさん! ミロさん!!」

 ユミルがミロをゆするが、やはり反応しなかった。

「……主様」

 クラウディアも悲しむように呟く。

 彼女の目には、涙が浮かんでいた。

 ミロの死が、余程信じられないようだ。

「私は主様に仕えてまだ250年しか経っていません。こんなに短すぎる主従人生なんて耐えられません。

 それに、主様は真実を打ち砕かれても、こんなところで挫けるはずがありません。

 『どんな真実にも耐える事ができる』……それが、主様の真実だと思うんです……。

 それなのに、ここで折れてしまうなんて……そんなの、主様じゃありません!!」

 クラウディアの涙が、ミロの身体にかかる。

 すると、ミロの身体が突如黒く輝き出した。

「こ、これは……!?」

「く……眩しい……!」

 さらに、その光はミロから広がっていき、しまいには教会全てを覆い尽くすまでになった。

「何なんだ、これは……!」

 ノヴァはその光を見て戸惑っていた。

「凄い……光です……」

「まるで……闇のような光だ……。俺達吸血鬼を、祝福するかのような……」

「まさに、奇跡の光ですね……」

 その光は、深い闇のように黒かったが、まるで、傷ついたミロ達を祝福するかのような、

 そんな「闇の光」が、教会やミロ達を包んでいた。

「……あれ?」

 しばらくした後、ミロが起き上がる。

 彼女の身体にあれほどあった傷が嘘のように消え失せており、出血も治まっている。

「主様……生き返ったのですね……」

「奇跡が……起こったんだ……」

「……どうしたの、みんな? あたし、今まで何をしていたの? ここ、一体どこなの……?」

「記憶が混乱しているようですね。……では!」

 そう言って、クラウディアはミロに向かって平手打ちをした。

「いったぁ……! 何するのよ!」

「主様、ここは教会ですよ。あなたはあの男に刺されてしまったんです。

 ですけど、私が生き返らせたのです。分かりましたか? あ・る・じ・さ・ま」

「え? え? え~~~?」

 凄い早さで状況を話すクラウディアに、訳の分からない様子で混乱するミロ。

「……とにかく、私達と一緒に、あの男を完膚なきまでに叩きのめしましょう!」

「何気に怖い事言うわね……分かったわ」

 

「ふん、たとえ生き返ったとしても、この呪詛を纏った剣に勝てるはずがない」

「それはどうでしょうか?」

 そう言ったのは、ユミルである。

「まさか、貴様は……!」

「……そう、ボクはまだ吸血鬼ではありません。

 あなたの剣の呪詛は『吸血鬼であるならば』消滅させる事ができますよね?

 ……ですから、ボクが前に出れば、呪詛を気にせずに戦う事ができます」

「ユミル! 大丈夫なの!?」

「平気ですよ、ミロさん。……あなたを2回も死なせてしまえば、生き返った意味が、なくなりますからね」

「ユミルーーーーーーーーー!!」

 そして、ユミルはノヴァに突撃した。

 ノヴァも己の信念を貫くために剣を向ける。

 

「死ね、悪しき吸血鬼よ……!」

「死ぬのはそっちの方ですよ、悪しき人間……!」

―ドゴォォォォォォォン

 そして、一際大きな爆発が起こった。

 爆発と共に、砂煙が巻き起こる。

 思わずミロ、クラウディア、男は目を瞑った。

 

「この威力……元人間とは思えないよ」

 アーデルハイドはそう呟いた。

 しばらくして、砂煙が収まる。

 3人はそっと、目を開ける。

 そこに立っていたのは―

 

「……さよなら」

 ユミルの方だった。

「お、おのれ……吸血鬼め……!!」

 崩れるように倒れていくノヴァ。

 彼は、死んだのだ。

 

「やった……勝った、んだ……」

「おっと」

 へなへなと崩れるユミルを支えるミロ。

 その彼女の表情には、笑みが浮かんでいた。

「ミロ、さん……」

「お疲れ様、よく頑張ったわね。……あら?」

「ひっ……!」

「うわ……!」

 ミロが辺りを見渡すと、武僧達はミロ達の実力に恐れ戦き動きを止めている。

「どうやらこいつを殺した事によって、武僧達がバラバラになったようね。

 さあ、後は雑魚掃除よ! 頑張りなさい!」

「はい!」

「ええ!」

「ああ!」

 

 ノヴァが倒された事により統制を失った武僧達。

 必死に抵抗して武器を振るうが、力を付けたミロ達にとっては雑魚同然だった。

 そして、ついにミロ達は人間勢力を全滅させる。

 

「さあ、後は脱出するだけね!」

「ええ、主様。いよいよこの日が来たようです……」

「行きましょう、ミロさん。立ち止まってはいられませんから」

「……俺も、最後まで同行しよう」

「みんな……」

 今、ミロの目の前には己を慕うユミルがいる。

 最愛の従者、クラウディアがいる。

 そして、ダンピールの男がいる。

 皆、彼女を信頼して、付いて来た事が分かった。

「……ありがとう……」

 ミロは3人に感謝し、教会の扉に手を掛ける。

 そして、扉が開かれ、彼女達は先へ進んだ。

 

「やあ」

「え?」

 4人の目の前には、アーデルハイドがいた。


 
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