No.820309

Free Trigger 第2話「不思議な人間」

Nobuさん

2話目。ここでミロは、彼女にとって重要な人物に遭遇します。

2015-12-23 13:44:15 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:310   閲覧ユーザー数:310

 ここは、美しい庭園。

 たくさんの花、豊かな自然。

 そこに少女はいた。

 

「ん~っ、今日もいい気分ですね~」

 少女が気持ちよく背伸びし、庭園を歩く。

 

 ……しかし、ここは地上ではない。

 全てが作り物の、偽りの楽園。

 「悪」を幽閉する、「最悪」の世界。

 少女はまだ、その事を知らない。

 

 そんな少女のところに、二人の人物が現れた。

 ミロと、ダンピールの男である。

「どうしたんですか?」

「……お願い、ここから出ていって」

「あの、いきなりどうしたんですか? 美しい花、豊かな自然……まさに楽園ですよ?」

「いいえ、ここは本当の楽園じゃない。あなたを逃がさないようにするための牢獄よ」

「そんなわけ、ありません! だって、食事とかも、全部、ここで、用意してくれていますし……」

「これでも?」

 なかなか真実に気付かない少女。

 そんな少女を気付かせるために、ミロは庭園の花を殴った。

 すると、庭園の花はあっという間に崩れた。

 それを見た少女は愕然とした。

「う、嘘でしょう……!」

「嘘なんかじゃないわ。……いえ、ここが嘘よ。本当の楽園は、教会の外にあるわ」

「そんな事、あるわけ……」

 現実を受け入れられない少女。

 そんな少女に追い打ちをかけるように、ミロは次々と庭園の花を崩していく。

「どう? これでも?」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ……! 楽園を崩されるなら、死んだ方がマシだ……!」

 そう言って、少女は懐から短剣を取り出した。

 そして、自分の心臓に突き立てた。

 

「……あーあ、脱出できずに死んじゃって」

 倒れている少女を見て呟くミロ。

「しょうがないわね、大きなお世話だろうけど」

 ミロは少女から短剣を取り、腕に突き刺した。

 身体から血が吹き出て、少女にかかる。

 すると、倒れていた少女は息を吹き返した。

「ボクに何をしたんですか」

「……生きていてほしい、それだけよ」

「おい、何故こいつを生かした? こいつは人間だろ? 人間の命など……」

 しかし、ミロは平然とした様子でこう答えた。

「なんか、放っておけなかったからよ。

 あなたは吸血鬼として生きてるから、人間の命なんて、どうでもいいんでしょ?

 ……でもあたしはこいつを放っておけない。何故かは知らないけど……ね」

「ふん、仕方ないな」

「ありがとうございます。あなたの名前は……なんて言うんですか?」

「あたしは、ミロよ。そっちこそ」

「……ボクは、ユミル・ハーシェルといいます」

「ユミル、いい名前ね。一緒に行きましょう」

「いいんですか!?」

「おい、こいつを連れて行くのは……」

「いいのよ、旅は道連れ世は情けってね」

 

 こうして、ユミルはミロ達と共に、この教会からの脱出を図るのであった。

「へえー、そんな理由があったんですか」

「うん。で、あたし達は人間を憎んでるわけ。

 でも、ユミルはもう人間じゃないわよ? だって、あたしの血で生き返ったんだから」

「……まあ、そうでしょうね」

 ミロ、ユミル、男は楽しく話をしていたが、その話の中には人間に対する憎しみがあった。

 

「さあ、人間の世界から脱出するわよー!」

 張り切って先へ進むミロ。

 しかし、途中で転んでしまった。

「あいたたた……」

「張り切り過ぎないでください、ミロさん」

「はいはい……」

 

 教会を歩いていく三人。

 まだ地下三階なので警備は手薄だが、

 階を上がるに連れて徐々に厳しくなるため、一切気は抜いていない。

「教会の武僧達ってそんなに強いんですか?」

「まあな」

「こいつに『戦うな』って言われちゃって」

「……うるさい」

 この男とミロは、仲が悪い。

 その様子を見たユミルはくすくす笑った。

「何がおかしいのよ、ユミル」

「いや、やっぱり吸血鬼らしいなー、って。ほら、吸血鬼って傲慢で自己中で……」

―ぽかっ!

「あいたたた」

 余計な事を言うユミルを、ミロは殴った。

 

「そんな茶番はいいから早く脱出しないのか?」

「「……あ」」

 男に言われ、二人は地下二階へ向かうのであった。

 

 地下二階へ行く階段には、たくさんの武僧がいた。

「うわあ、随分と警備が厳しいわね」

「当たり前だ。俺達の脱獄を防ぐためにいるからな」

「……どうします? ミロさん」

「そうね……いくら力は落ちているとはいえ、相手は人間だし、素手でも大丈夫かしら?

 あなたに任せるのも、癪だしね」

「いいのか? 本当に」

「ええ、分かったわ! 行ってくる!」

 そう言って、ミロは武僧達に向かった。

 

「誰だ貴様は……脱獄者か!?」

「はあっ!」

「ぐわっ!」

 ミロが武僧Aを蹴り、攻撃する。

 今度は、武僧Aが怯んだ隙に爪で切り裂く。

「しばらく寝てなさい」

「くっ、だがこっちにはまだ三人いる!」

「ふんっ」

 武僧Bが鈍器をミロに向かって振り下ろすが、ミロはこれをかわし、武僧Bの懐に入り込む。

「でやあっ!」

「うわあ~!」

 そして、武僧Bを投げ飛ばした。

 武僧Cはその様子を見て慄く。

「こ、こんな女に人間が負ける事など……!」

「あり得るのよね~」

 そう言って、ミロは爪で武僧Cを切り裂いた。

 急所は外しているので、死んではいない。

 

「す、凄いです、ミロさん……!」

「……力が落ちているとはいえ、流石は真祖の娘。俺以上の身体能力の持ち主だな」

 

「さあ、後はあなただけよ!」

「ち、畜生っ! こうなったら破れかぶれだ!」

 そう言って、武僧Dが鈍器でミロに襲い掛かる。

 だが、出鱈目に振り回しているので、素早いミロに命中するわけがなかった。

「はい、おしまい」

 そして、ミロは武僧Dの首を締めた。

 

「これで大丈夫ね」

 見張りを全員倒したミロは、ふう、と汗を拭う。

 ユミルは彼女の活躍を見て拍手した。

「凄かったですね、ミロさん! 素手で、武装した人間を全員倒すなんて」

「……ははは」

「だが、護身程度に武装はした方がいい」

「まあ、あなたの言う事も一理あるけど、あたし、武器って使った事がないのよね」

「ならば今度、教えてやろうか?」

「えーと、考えておくわ」


 
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