第63話 一時の休息~アスナ編~
No Side
アースガルズの陥落、それに加えて午後5時を迎えたことでロキ軍のボス、及びMobの侵攻、並びにリポップは停止した。
これに伴い、次のロキ軍侵攻開始時間の午後9時までの4時間はプレイヤーへの休憩時間に当てられることになる。
その間のMobへの攻撃は通るものの、ボスへのダメージはシステム的に与えられなくなっている。
リポップするMobはともかく、無防備になるボスへの配慮ということだ。
学生においては夏休み期間、社会人に関しても日曜日ということもあって午前から多くのプレイヤーがフルダイブしている。
これまでに僅かな休憩はあったが、当然長い休憩も必要であり、休憩を取らせる為のものだ。
人によっては飲食やトイレ、風呂などを済ませるなどもしなくてはならないからである。
勿論、それらだけに時間を費やすこともない。
リアルでやるべきことを済ませたら早めにダイブして、装備やアイテムを整えるもよし、
他のプレイヤーと作戦や陣形を話し合うもよし、リラックスするために雑談するもよし、
戦闘の準備を行うもよし、やれることは様々だ。
それぞれは思い思いの時間を過ごしていく。
これは最終幕が上がる、最後の戦いの一時のことである…。
――アルヴヘイム・央都アルン
オーディン軍の最重要防衛拠点にして世界樹を守る最後の砦でもある央都アルン。
ここに各領地の領主一同が最後の戦いの防衛に向けて集結していた。
必要最低限の部隊を各自の首都防衛に置き、可能な限りの部隊を引き連れてきた。
理由としてはロキ軍のプレイヤーが全て撤退し、その行方をおそらくは自軍の拠点へと眩ましたからである。
小さな村などをオーディン軍から奪取したとしても、
この休憩中に奪還される可能性が高いと判断していたのか、ほとんどのところは奪われていない。
一方で、ウンディーネ領とレプラコーン領は占領されているため、
ノーム領とインプ領との境目ではロキ軍のプレイヤーの姿が目撃されている。
これらを総合して、世界樹さえ守り切れば首都は問題無いと各領主は判断し、精鋭達を集結させた。
侵攻が止まっているとはいえ、その直後はまだアルン付近にもMobがいたので到着した部隊と共にこれを殲滅した。
ウンディーネ領とレプラコーン領に居た者達に関してはほぼ全員とも言えるので人数はかなりの数に至っている。
また、各戦闘における成果と被害の報告が行われた。
ウンディーネ領とレプラコーン領の占領、高原四方戦のボス全滅、北部と南部での勝利、東部と西部での敗北、
アースガルズの陥落、2領を除く領地の防衛成功、暗い戦果の方が多いが、5体を除けばボスを倒すことができ、
その5体もHPゲージが1、2本なので勝てないことはない。
むしろ、バハムートが全快の状態なのを考えればいい方向だろう。
炎の出現が厄介な点ではあるが、全てのボスの制圧と深夜0時を迎えれば勝利だから。
これらを整理しつつ、交代でアルンを囲むように見張りと防衛を行う陣形を取ることが決まった。
また、レプラコーンには装備の調整を行ってもらい、プーカには戦闘時の音楽によるサポートを行うことになった。
その他にも細々としたことが決定して会議は終わった。
再戦闘前に最後の会議を行うことも決めたあと、各自はそれぞれの行動に移った。
会議にはアスナとシャインとティアも参加しており、3人も終わったことで会議場を後にした。
「シャインさん、ティアさん。ご同行ありがとうございました」
「どういたしまして。お役に立てて良かったです」
「気にしないでくれよ。キリトが傍に居ない間は俺達の役目だからな」
快く応じた恋人同士の2人。だが、実はこの2人が同行した理由は別にあった。
ティアは純粋にアスナを心配してのこと、彼女に起こった変化はティアも察していたからだ。
一方、シャインの理由はアスナの護衛だけでなく監視も含まれている。
『覇気』に覚醒したアスナは未だに自分の意思でのON/OFFが出来ない。
しかし、彼女はアルンに着いたことで一度気が抜けたのか、自然にOFF状態になっていた。
とはいえ、どんな変化があるか分からないため、彼は注意深く見守るために同行したわけである。
まぁ、それも杞憂に終わったというべきだろう。
「そういえば、ユイちゃんはどうしたんだ?」
「ユイちゃんならいまはイグシティの自宅で寝かせています。
戦闘が多く長かったせいか、少し負荷が掛かったようで…。いまはカノンさんが付いてくれています」
ふと、アスナとキリトの愛娘であるあの可愛らしい娘が居ないことに気が付いたシャイン。
彼女の答えにそういうことかと納得した。
あれだけの戦い、マシになったとはいえ未だに人の負の感情に敏感なユイはそれを感じていたのだ。
あの少女のことを詳しく知っている者ならば理解できることである。
「お二人はこれからどうするんですか? 一応、休憩だったはずですけど」
「やることは済ませようと思うから、俺は先にログアウトさせてもらう」
「私は家族揃っての夕食になりますので、少ししてからログアウトしようかと。時間までには戻ってこれますから」
「分かりました。それでは、またあとで」
シャインとティアは翅を使い飛び立ってイグシティへと向かった。2人の自宅でログアウトするのだろう。
アスナは自分のログアウトの順番が回ってくる前に状況確認を兼ねて散策を行うことにした。
まずは北側のテラスにやってきたアスナ。
北門から少し離れたところにあるこのテラスは静かなところであり、休憩するためにやってきた者が何十人も見受けられる。
空中にある浮島もあるため、その人数が多いとは一概には言えないだろう。
一応様子を見て周ろうとしたアスナは1人の女性を見かけた。
見た目でいえば自分と同じ年頃かと思ったが、
ここはVRMMOなので性別はともかく外見は年齢と多少離れることはあると考えた。
しかし、その女性が何処か物思いに耽っているのを察し、声を掛けてみた。
「あの、どうかしましたか?」
「えっ、あぁ、大丈夫で……あ、貴女は、【閃光】のアスナさん!?」
声を掛けた女性が自分のことを『【閃光】のアスナ』と呼んだことで彼女は察した、
この女性は『
ALOからアスナのことを知った人物ならば、まずは【黒白の覇王妃】か【バーサクヒーラー】のどちらかで彼女のことを呼ぶ。
対し、SAO時代からの彼女を知る者であれば【閃光】と呼ぶ。
よって、アスナはこの女性がサバイバーだと判断したのだ。
「す、すいません、私だけ名前を知っていて……私、ライって言います。アスナさんと同じ、サバイバーです」
「やっぱりSAOの…。それで、本当に大丈夫? 随分考え込んでいたみたいだけど…」
「は、はい、ちょっと、色々あって…」
気に掛けるアスナの言葉に頷き、また考えるライ。
「私に話せることなら、良かったら話してみない? 気が紛れるかもしれないし」
アスナの申し出にさすがにそれは悪いと思ったライ。人の生死の話ということもあり、重い話なのだ。
しかし、アスナは攻略組であったから慣れていると言い、クリア前後で何度か相談に乗ったことがあることも話した。
そこまで言われれば甘えてしまっても良いかもしれないと思い、簡潔にだが話し始めた。
SAOで親友が居たこと、彼女と共に支援組にいたこと、2人でフィールドに出ていた時にMPKをされたこと、
親友が自分の手で死んだこと、死に間際に言葉を遺されたこと、MPKを行った者が死んでいたことを話した。
ライはアスナの様子を窺い、彼女が少し憂いの表情を浮かべていることが分かった。
「MPKをした、レッドプレイヤーが死んだことは、どうして知ったの?」
「さっきの戦闘で他のサバイバーの人と戦ったんです。
その人が、そのプレイヤーは『嘆きの狩人』にPKKされたと、聞かされたんです」
「そ、そう、なんだ…」
アスナは動揺した。当然である、彼女も短い期間とはいえ、『嘆きの狩人』の1人だった。
しかし、自分が居た時にはキリト達はもうほとんど狩人として活動していなかった。
なら、それ以前に他のメンバーが狩ったのだと考えた。
複雑な思いが巻き起こるが後々キリトらに聴くことを決め、ライに問いかけた。
「それを知って、貴女はどうしたいの?」
「戦っている時は恨みも全部前に進む為の力に出来たんですけど、休憩になって落ち着いたら、力が抜けちゃって…。
いざ前に進むもうと考えても、どうしたらいいのか分からなくなって、目標でもあればいいんですけど…」
「それなら簡単だよ」
「え?」
簡単だと言ったアスナにライは目をパチクリさせ、それに微笑んでアスナは言葉を送る。
「その娘のことを忘れずに幸せになれば良いんだよ。その娘もきっとそう望んだと思うの。
そうじゃなかったら、自分の分まで生きてなんて言えないもの」
「あっ……そっか、そうだったんですね…。私、難しく考え過ぎたのかな…」
「考えて良いんだよ。考えて考えて、何度も何度も、そうやって道を決めればいいの」
「はい。アスナさん、ありがとうございました。私、頑張って幸せになります!」
表情が穏やかになり、笑顔を浮かべてアスナにお礼を言うライ。
「良かった、力になれて。それじゃあ、9時からの戦い、お互いに頑張ろうね」
「はい! 一生懸命、頑張ります!」
1人の少女の心の氷を完全に解かしたアスナ。そろそろ次の場所も見てみようと思い、
ライと別れて移動した。
次にアスナが向かったのは西側のイベント広場近くだ。
プーカ領側の西側門近くにはイベントを行う広場があり、主にプーカがアルンで音楽イベント行う時に使用する。
他のイベント時もここを使われることがあるが、いまの時間はどうやら集団休憩場所や訓練場所となっている。
ギルドで纏まって休憩や作戦会議をしている者がいる他、空いている場所で戦闘前の訓練をしている者もいる。
その中でアスナは訓練をしている2人に目が留まり、訓練の動きが止まったのを確認して声を掛けることにした。
「こんにちは、タクミさんですよね?」
「お、確かアスナ、だったよな?」
アスナが声を掛けた2人の内の1人はタクミだった。
アスナとタクミは現実世界において先日に顔を合わせたことがある、キリト達の武術を通してだ。
現実世界と顔がほぼ同じだから気付いたのだが、どうしてほぼ同じなのか聞いてみると、
リアルマネーは必要だが顔などを変えることが出来るため、それを利用してほぼ同じ顔にしたという。
「タクミさん、そちらの方は…?」
「俺のダチだよ。ほら、自己紹介」
「トキトだ、よろしく。【黒白の覇王妃】殿のことは聞いているよ」
「アスナです。こちらこそよろしくお願いします」
自己紹介と共に握手をした2人。アスナは2人に先程の戦いは何処で戦っていたかを訊ねた。
それに彼らはアルン高原西部でレオとフカヒレを相手に戦ったことを話した。
「あの2人はロキ軍なんですね」
「ああ。とはいえ、フカヒレはオーディン軍に居辛いからロキ軍を選んで、レオはそのお守りというか見張り的な感じだ」
「レオには貧乏くじを引かせちゃったけどな~」
「あはは、フカヒレ君は相変わらずなんですね…」
先日に出会った2人を思い浮かべ、その内の1人の発言や行動を思い返して苦笑するアスナ。
タクミとトキトもレオに同情気味だが、お守りが自分達じゃなくて良かったとも思う。
「今度はレオと決着をつけたいけど、世界樹防衛が目的だからな。そこもちゃんとさせてもらうぜ」
「タクミとレオが戦う間は俺がフカヒレを見張る…ゴホン、フルボッコにするから安心してくれ」
タクミはレオとの再戦に思いを馳せ、トキトは何やら不穏なことを言っているが対象がフカヒレだから問題ないだろう。
「次の戦いも大変ですけど、頑張ってください」
「そっちも頑張れよ」
「それじゃ、俺達はもうちょっと訓練続けるわ」
2人は訓練を再開し、アスナは次の場所へと向かった。
続いてアスナが訪れたのは南方のメインストリートだ。ここには武器屋や道具屋など、様々な商店が集っている。
最後の戦いに向け、大勢のプレイヤーが武器の調整やアイテムの調達に来ている。
その中で少しばかり目立つ服装の女性が居り、何度か会ったことがあるので声を掛けるアスナ。
「メラフィさん、休憩ですか?」
「アスナさん。はい、武器の調整はウチの鍛冶師に任せていますし、アイテムも支援担当が済ませてくれましたから。
領主様とユージーン将軍への報告も済ませたので、いまは気分転換を兼ねてお店を見て周っていました」
声を掛けたのはメイド服に身を包んだサラマンダーの女性のメラフィだ。
彼女は以前、キリトに手合せを願い出て彼を相手に戦ったことがある、トラウマ寸前となっているが。
アスナは折角なのでヨツンヘイムやアルンでの戦いについて訊ねた。
「中々大変でした。ボスもプレイヤーの方も強くて、【烈火の戦姫】と謳われようともまだまだ未熟。
これからも精進しなければなりません。アスナさんこそ、キリトさんを相手に互角に戦っていたとか、凄いです」
「いえ、そんな。結局、彼も枷が外れながらとはいえ加減をされていたみたいですし。次も同じように戦えるかどうかは…」
お互い謙遜し合うが、どちらもかなりの功績なのは周囲が認めている。
そんな話をしていた2人だが、折角なので一緒に店などを見て周ることにした。
グランド・クエストである戦いの最中だが、アルンの商店は何処も賑わっており、プレイヤーの商売魂が窺える。
そこでメラフィが1人のプレイヤーに声を掛けた。
「ロストさん。お疲れ様です」
「お、メラフィさんか。そっちもお疲れさん…って、アウトロードのアスナさん!?」
メラフィが話しかけたのはヨツンヘイム南方、アルン高原南部で共に戦ったロストだった。
その声を掛けられた彼はアスナの存在に気付いて驚いた反応をし、アスナは微笑を浮かべる。
やはりこういったやり取りが何度もあれば笑みが零れるのだろう。
「初めまして、アスナです。【鮮血の鬼神】ロストさんですよね? よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。【漆黒の覇王】キリトの奥さんに会えて光栄だよ」
「そんな、奥さんだなんて///♪」
「ふふ、相変わらず仲がよろしいみたいで羨ましいですわ」
「(ただのバカップルなだけだろう……いや、バカ夫婦か…。どちらにしても性質が悪い)」
ここにキリトが居れば間違いなく砂糖を吐き出す被害者が続出したのだろう、彼が居ないことが不幸中の幸いか。
すぐに戻ったアスナは少し気になったことを聞いた。
「そういえばお二人は知り合いなんですね?」
「お互いに異名持ちだけど、知り合ったのはさっきの南部戦の時だ」
「こういう機会だと結構知り合うことが多いですからね」
アスナは確かにと思った。
大規模なイベントやクエストの時は他種族や普段はあまり会うことのないプレイヤーとの交流する機会が増える。
そういった時にフレンド登録や人脈の構成を行う者もいる。
アスナもそうしているし、キリトもアレでかなりの人脈を持つ。
「俺はいま行きつけの武具店で装備の調整を済ませたところなんだ。これから一度ログアウトして、休憩に入る」
「そうですか。ゆっくり休んで、あとの戦いも頑張りましょうね」
「おう。それじゃあな、お二人さん」
ロストはログアウトするために自身の取っている宿に戻っていった。
「それではアスナさん、私も休憩に入ります。健闘をお祈りしています」
「メラフィさんもご武運を」
メラフィもその場を離れていき、アスナはまた別の場所へと向かった。
アスナが次にやってきた場所は東側の池がある場所だ。
東部側はウンディーネ領側ということもあり、池が作られている。
ここも北側のテラスや浮島と同じで静かな場所なので、休憩に訪れた者やウンディーネの姿も見られる。
その時、アスナは1人のプレイヤーの姿が目に映った、袴を着たシルフの男性だ。
彼は弓に矢を番えており、それを引き絞ると放った。
すると、放たれた矢はアルンの外に向けて飛び、外部のMobに直撃すると魔法を放ち、Mobを倒した。
「いまのでラストか…。ま、周辺のMobは完全に殲滅できたし、よしとするか」
彼の独り言にアスナは少し驚いた。どうやらあの男性はずっとこの場所でアルン外部の敵に向けて攻撃していたらしい。
次の戦いに向けて場を整えていたということだろう。
また、見慣れない矢を使っていたこともアスナの気を引き、思い切って訊ねてみることにした。
「すいません。いま使っていた矢について教えてもらってもいいですか?」
「ん? ああ、構わないよ。俺はガルム、アンタはアウトロードのサブマスのアスナだよな?」
「あ、はい、そうです。あの、もしかして【殲滅魔導士】って呼ばれていませんか?」
「大仰な呼び名だろ? ま、それ相応の動きはしているけどな」
苦笑するガルムにアスナも似たような表情を浮かべる。
彼女としてもガルムの気持ちは理解できる、
アスナにとっても【黒白の覇王妃】という通り名は誇らしくもあると同時に大仰な気もするのだ。
取り敢えず、アスナは気を取り直して先程の矢についてガルムに訊ねた。
あの矢はレプラコーンのマスタースミスしか作れないアイテムの一種で『魔法矢』というもの、
魔法を込めて着弾すると魔法が発動するというもの、上位魔法は込められないなど、
知らないことを知ることが出来て彼女は有意義な時間を過ごせた。
「ありがとうございました。結構ALOをやっていますけど、まだまだ知らないことがたくさんです」
「それは俺もだよ。んじゃ、俺はまた魔法矢を作ってもらわないといけないから行くよ。お互い頑張ろうぜ」
「はい、ガルムさんも頑張ってください」
ガルムは知人の鍛冶師の下へ向かい、アスナもそろそろ世界樹に戻ろうと考えた。
世界樹の麓、アルンの中央部にやってきたアスナ。
ここからイグシティに向けて飛ぼうと思った時、音楽が聞こえてきた。
音のする方へ歩いていくと1人のスプリガンの男が楽器、ギターを使い音楽を奏でており、
疎らだが10人ほどの人がそれを聞いていた。
アスナは歩み寄ってその音楽を聞き、奏で終わったのか男は一礼をした。
聞いていた全員が拍手をし、それぞれにまた別の場所に移動していった。
「良い音楽でしたよ」
「お、ありがとな。キリトの嫁さんに言われると自信が付くよ。
俺はディーン、一応キリトと何度か顔を合わせたことがある」
「アスナです。どうぞ、よろしくお願いします」
そのままディーンから聞いた話によると、彼とキリトはスプリガン限定のクエストなどで会ったことがあるとのこと。
そういうクエストにキリトが行っていたことやどういう内容だったかを聞いたことはあるが、
他の人からそういった話を聞くと恋人として少し嬉しく思うアスナであった。
「キリト君も音楽を聞いたんですか?」
「まぁな。また今度聞かせてくれって言われたよ」
「そうですか。それなら、その時は私と娘とキリト君の3人で聞かせてもらいますね」
「ああ、喜んで」
娘と聞いても特に思うことなくOKしてくれたディーンに感謝するアスナ。
そこで彼女は思い出した、ディーンが【ミスト・ナイトメア】と呼ばれる強者のプレイヤーであることを。
他にもガルムと同様に2本の伝説級武器を持つことも。
自分の恋人で婚約者であるキリトの人脈はやっぱり凄いなぁと思い至るアスナだが、
そのアスナ自身も現実ではレクトのお嬢様であることを本人はあまり自覚していない。
「このあとは色々とゴタゴタすると思うけど、落ち着いたら俺の店に来てくれよ。
スプリガン領首都と領地内の浜辺で海の家をやっているんだ。そこで親子3人に演奏してやるからさ」
「その時はお願いしますね。それでは、また…」
「おう、じゃあな」
首都の喫茶店と浜辺の海の家の場所をアスナに教えてからディーンはその場を去っていき、
アスナもイグシティに向けて飛翔した。
飛行してイグシティに戻ってきたアスナはここの自分の家に帰ろうとした最中、シリカとピナの姿を見かけた。
その傍には見知らぬケットシーの少女と白い狼、同じくケットシーの青年と三本脚の烏の姿も目に入った。
興味が湧いたアスナは3人と3匹に歩み寄って話し掛けた。
「シリカちゃん、まだ休憩は良かったの?」
「アスナさん。はい、この前のケットシー限定クエストで知り合った人達と会ったから、話しをしていたんです」
「きゅっきゅ~」
シリカはアスナに気が付くと嬉しそうに話し、ピナも彼女と同じく嬉しそうな様子だ。
「こちらはリオちゃんと相棒のハク、男性の方がファルケンさんと相棒のヤタです」
「は、はは、初めまして! あの、アスナさんにお会いできて、嬉しいです!」
「緊張しすぎだよ、リオちゃん。同じく初めましてだね、アスナさん。ファルケンです」
「ふふ、よろしくね。リオちゃん、ファルケンさん」
シリカが2人を紹介し、リオはALOで有名なアスナが相手ということで緊張した様子を見せ、
ファルケンはリラックスしていつも通りに挨拶を交わした。
2人への挨拶を終えたアスナは1匹と1羽にも優しい視線を向ける。
「ハクとヤタもよろしく」
「ウォンッ」「カァッ」
アスナに声を掛けられ、ハクとヤタは同時に嬉しそうに声を上げた。
それにしても、キリトといいシリカといい、同じ種族の人と交友関係を持っていることが多いと再認識したアスナ。
とはいえ、彼女もウンディーネ限定クエストやイベントの時に知り合った人達と人脈を形成していたりするのだが。
そうして話しているとリオは先の戦いで北部を、ファルケンは東部を担当していたことを知り、
リオはライと共に戦い、ファルケンはガルムと共に戦ったことを知った。
「ライさんとなら、さっき会ったよ。悩んだり考え込んだ様子だったけど、いまの様子なら吹っ切れたと思うよ」
「そうですか。良かった、ライさん」
共に戦っていたリオはライが何やら悩んでいることを察していたが、今日出会ったばかりなので聴けずにいた。
それでも彼女の悩みが解消され、ホッとした様子をみせる。
「リオちゃんは良い子だな」
「そうですね、良い子ですよね」
「うん、良い子だね」
「ふぇっ!? そ、そうですか…///?」
三者揃って同じことを言われ、照れた様子のリオ。確かに良い子だと思う。
「それじゃあ私はそろそろ行くね。ユイちゃんの所に戻らなきゃ」
「はい、またあとで」
アスナはシリカにそう告げ、家へと戻った。
帰った時に丁度ユイが目を覚ましたが、アスナはもう少しだけ愛娘を寝かしつけた。
その間にログアウトし、済ませるべきことを済ませる為に。
リアルで食事や風呂、着替えなどを済ませたアスナは再びダイブした。
ユイも負荷がなくなったようでいつもの元気な様子に戻っており、2人で最後の確認を行う。
武器の『クロッシングライト』はルナリオの調整済みであり、アイテム類も必要な物は揃えた。
ほどなくして仲間達も全員が揃い、時間も8時55分となり、アスナが号令をかける。
「みんな、これからロキ軍はこの世界樹の陥落を目的として攻めてきます。
ボスだけではなく、Mobやプレイヤー達、なによりキリト君も向かってくるはずです。
私達がやることはただ1つ、世界樹を守ることよ。全員、全力を出し切り、この戦いに勝つわよ!」
「「「「「「「「「「おぉっ!」」」」」」」」」」
意気揚々と応えた仲間達を率い、アスナ達は戦場へと赴く。
No Side Out
To be continued……
あとがき
前回の予定とは違ってみなさんのアバターとの交流話である休憩回を2つにわけることにしました。
オーディン軍側のアスナ編、ロキ軍側のキリト編となりますのでキリトとロキ軍の方は次回で。
予定ではあと5,6話で完結すると思いますので、気を引き締めて頑張っていきます!
それでは次回もお楽しみに~・・・。
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第63話です。
今回は休憩回でアスナ編、アバターとの交流になります。
どうぞ・・・。