第62話 覇王VS覇王妃
No Side
――アルヴヘイム・央都アルン付近正面側
各地で激戦が繰り広げられる中、防衛側は最重要事項である世界樹を守るべく世界樹とアルンを守るべく奮戦していた。
「絶対に奴らを央都の中に入れるなぁっ!」
「メイジも弓を使う奴も出来るだけ絶やすなよ!」
「HPが危ない人は下がって回復してください!」
「疲れた人も一旦下がって休憩してくださいね!」
各レイドリーダーやギルドリーダーなどが指示や激励の言葉を掛け、
それに応えるかのように各プレイヤー達も己の武器や魔法を用いてMobを倒していく。
狼型、蛇型、巨人型、アンデッド型とMobの種類も様々で数も多いが、倒し切れないというほどではなく、
タイミングによってはMobのリポップまでの時間を休憩に当てることも出来るほどだ。
それもオーディン軍のプレイヤー達が協力し合い、戦えている証だろう。
勿論、ソロプレイヤー達も自身の力を試すべく全力で戦っている者が多いため、
単独行動だが多くの敵を倒している者もいる。
その中でもアルンの正面側にて一際敵を倒している者が居た。
「せぇあぁぁぁっ!」
右手に鞭を持ち、左手に鉄扇を持つ変則的二刀流を行うスプリガンの男性、ヨツンヘイムでフェンリルと戦ったディーンだ。
彼は右手に持つ鞭を自在に振り回すことで複数の敵を纏めて吹き飛ばしてダメージを与え、倒していく。
接近してきた相手には鉄扇を盾代わりにして攻撃を防ぎ、鞭で相手を巻き付けてから地面に叩きつけている。
アップデートによって多くの武器が増えたALOだが、いまだに鞭などの武器は使い勝手が難しい。
けれど、それをものともせずに操れる彼の技術は相当だろう。
「お次はこれだ!」
素早くウインドウを操作し、武器を入れ替える。
新武器の1つで爪系統の武器、糸を操り戦うスピナーを装備した。
右手に鞭、左手にスピナーのこれまた変則二刀流である。
鞭で敵を薙ぎ払い、スピナーの糸で敵を切り裂き、
両方を使いMobを捕まえて振り回して他のMobにぶつけるなど、巧みな戦い方をしていく。
これらの戦い方から解る通り、ディーンは一対一も可能だが一対多の戦いも可能とする。
特に今回のような敵がそれなりに多い乱戦では力を発揮できるというものだろう。
「《惨劇・幻覚のレクイエム》」
そこでディーンは鞭とスピナーを巧みに動かし、技を放った。
右手の鞭で相手を巻き取り、そこへスピナーの糸で敵を切り裂く。
さらに鞭を解くと今度はスピナーで相手の動きを止め、鞭を相手に叩きつける。
その際にスピナーの糸の動きと鞭の動きで周囲のMobも巻き添えを受け、メインのMobと共に倒された。
これが《惨劇・幻覚のレクイエム》である。
「まだまだ行くぞ」
再びウインドウを操作して装備を入れ替えるディーン。
鞭とスピナーをストレージに収納し、聖属性を宿す
闇属性を宿す古代級武器の剣を、それぞれ右手と左手に持ち構えた。
使い手が増えてきた二刀流だが、それでもシステム的アシストが無い分、
これの扱いは難しいが変則を扱える彼ならば問題無い。
聖剣と魔剣を振るい、近づいてくる敵を迎撃して倒していく。
時には近くで戦う味方を助けるために斬り、次々とこの周囲の戦況を良いものへと変えていく。
しかし、そこに邪神型のMobである霜の巨人族が接近してきた。対し、ディーンはそれに立ち向かう。
「《聖魔幻狼斬》!」
霜の巨人族に接近し、ディーンは2本の剣を操り二刀流による8連撃の技を放った。
聖と闇の属性、2つの属性による連撃が巨人のHPを容易に削る。
ラグナロク仕様の巨人のHPであるため通常よりは低いはずだが、それでも一気に削ったのだ。
「続けて、《
さらに、地面を駆け抜けてからその勢いのままに巨人へ向かう。
両手の聖剣と魔剣を思いきり後ろに引いてから、勢いによって増した加速を利用して強烈な2つの突きを放った。
突きは見事に巨人の体を抉ってダメージを与え、そのままHPを0にして倒した。
「よし、これくらいで問題無さそう…って、よっと!」
巨人がポリゴン片となって消滅したのを確認して一息吐こうとした時、背後からの攻撃を避けた。
新たな巨人、炎の巨人族が接近して拳で殴ろうとしてきたのだ。
折角一息できると考えていたディーンもこれにはやや苛立つ。
「いいぜ、一気に決めてやるよ」
ここでディーンはもう一度ウインドウを操作し、地面に2本の剣を出現させた。
その輝きはキリトの持つ
1本は黒い輝きを放ちながらもその中に微弱ながら白い輝きを持つ伝説級武器『壊剣アロンダイト』。
かつては聖剣でありながら魔剣へと堕ちた剣であり、その付加効果は闇属性と割合は低いが聖属性である。
2本目は赤い血のような輝きを放つ伝説級武器『血剣フルンディング』。
血を啜ることでより強固になっていくという剣であり、付加効果もそれに倣っているのかモンスター、
またはプレイヤーを倒す毎に攻撃力と耐久値が増加する。
なお、一度でも鞘かストレージに収納すると効果はリセットされる。
その2本の剣を出現させて地面に刺し、詠唱を始める。
詠唱を終えると幻影魔法を発動させ、突き刺した2本の伝説級武器を空へ放り投げ、ムスペルに向けて駆け出した。
「《幻覚・極総集奥義・霧雨月歌》」
両手に持つ聖剣と魔剣を振るい、ムスペルの体を縦横無尽に飛び回りながら斬り裂く。
四肢を、胴を、頭を、様々な箇所を順序すら無視して斬り続ける。
その時、宙に上げた2本の剣が落下してきた。瞬時に聖剣と魔剣を宙に上げ、アロンダイトとフルンディングを左右の手に持つ。
先程と同じように無数の斬撃を放ち、ムスペルのHPは無常にも0へと近づいていった。
そして、アロンダイトとフルンディングで大きく斬り裂いた後、2本をムスペルに突き刺し、
落下してきた聖剣と魔剣を掴みとってこれもムスペルに突き刺す。
幻影魔法による分身で本体の判別をつき難くし、本体は4本の剣を自在に操り、霧雨の如く降り注ぐ斬撃、
最後には円を描くように斬る、円を描くように斬った箇所の中央に4本の剣を突き刺して止めをさしたのだ。
「ヨツンヘイムではフェンリルに遅れを取ったし、守りきれなかった。だけどさ、今度もやらせると思ったら大間違いだ」
自身の持てる力をぶつけ、今度は負けないように、奪われないように全力で戦うディーン。
その彼も武器を回収すると一度アルンに向けて撤退した。
休憩は重要だ、集中力を途切れさせないためには特に。
それに彼はアルンに戻る直前、高原を囲む山脈の手前からこちらに向かってくる軍勢に気付いていた。
勿論、それが味方の、各種族領の領主達であることに気付いたからだ。
だが、同時に炎が迫ってきている。戦いの幕は再び移り変わろうとしていた。
――アースガルズ・主要都市ユーダリル
「ふぅ、はぁっ! せぇいやぁっ!」
ギルド『キリアス親衛隊』の突撃分隊分隊長を務めるリョウトウが己の武器を振るって敵を倒していく。
両手剣『ツヴァイハンダー・インフェルノ』と彼の高い攻撃力が相まって、
並みのオーディン軍プレイヤーは次々と一撃、または二撃でHPを削り切られて倒されていく。
仲間を守ることに重きを置いている彼は後ろや周りに仲間がいる時は特に力を発揮する。
ギルドメンバーは当然として、いまはロキ軍の戦友達もいる、それにより彼の本領はさらなる力を出す。
そんなリョウトウに応えるかのように、ギルメン達はHPを消費していく彼のHPを魔法で回復させ、
遠距離攻撃や魔法で援護し、接近戦はフォローを行う。
「うおりゃぁぁぁっ!」
「くっ!? ギルド、『風林火山』のギルマス、クラインさんか…!」
「オレのことも知ってくれてるのか、嬉しいぜ…!」
「最前線攻略組の1つですからね、少数精鋭のギルドともなれば尚更です…!」
両手剣を振るうリョウトウの動きを止めたのは刀を持つクラインだった。
2人は同じサラマンダーであるため、どちらも攻撃力は高い方だが膂力はリョウトウの方が上だ。
互角に渡り合っているようにみえるが、攻撃力で勝るリョウトウによって徐々に押されていくクライン。
だが、彼を守るように刃がリョウトウに向いた。
「クラインさん、手伝います!」
「カノン! 助かったぜ!」
「周りは俺達に任せてください、リーダー!」
「オメェら……頼むぜ!」
ツヴァイハンダー・インフェルノの刃を受け止めたのはクラインの恋人であるカノン。
彼女はSAO時代の愛剣『ヴァントゥール』を用いて再び戦いに臨んでいるのだ。
キリトが本気で来ていることを知った、故にこちらも本気で行かなくてはならないと。
他の風林火山の面々もクラインをカバーするべく、周囲のキリアス親衛隊と武器を交えていく。
「二対一だけど、文句は言わないんだな?」
「これは戦争ですよ。暗黙の了解はあるけれど、そこにルールはない。文句なんかあるわけがない」
「それなら、2人で全力を出させてもらいますね!」
クラインが先に前に出て刀を振るい、それに合わせてカノンが後から行動し、2人が息を合わせて斬撃を繰り出す。
クラインが刀を振るい、それをリョウトウが両手剣で防げば、続けてカノンが細剣で連続突きを行う。
カノンの攻撃が終われば即座にクラインが攻撃を繋ぎ、刀と細剣による連続攻撃の剣舞がリョウトウを襲う。
「これ、は……これが、《接続》か!?」
『(お、気付いたみたいだぜ)』
『(私としては《接続》のことを知っていることが驚きだけどね)』
リョウトウは2人が言葉も視線も合図も交わすことなく連携を見せることから打ち合わせをしていたと思った。
だが、打ち合わせをしていようとも必ずやタイミングを合わせる為に合図などが必要である。
それをせず、動きを完璧に合わせている2人を見て彼は察した。
噂は聞いたことがある、キリトからも注意するように言われていた、俺の仲間の恋人同士は《接続》を使える極致にいると。
さすがに状況が悪くなってきた。けれど、リョウトウとて1人ではない。
「援護するぞ、リョウトウ!」
「バックアップは任せろ!」
軍楽分隊長であるプーカのサージが角笛の『ヘルズホルン』を構えて後ろに付いた。
サージはすぐさま音楽を奏で、2人のステータスUPを行った。
リョウトウのツヴァイハンダー・インフェルノをクラインは刀で受け流し、
コマンダーのリスニルとカノンのヴァントゥールが打ち合う。
一見すれば互角に戦っているようにみえるが、ほんの僅かだがリョウトウとサージが押している。
先程までは連携で二対一だったということもあり、一対一のいまは少しでも気を抜けば致命傷を受けるだろう。
だがそこへ、斧を振るって1人のノームが介入した。
「なら、三対三でも大丈夫そうだな」
「エギルか、頼むわ」
「心強いです」
クラインとカノンの加勢にとエギルが斧を持って参入したのだ。
エギルが斧でリョウトウに斬り掛かるが、彼はそれを避ける。
しかし、斧の勢いを利用して続けざまにコマンダーを斬り掛かり、これも回避された。
2回とも攻撃は避けられたが間違いなく味方を助ける結果となった。
これで三対三、どちらの3人もSAO時代の元前線組、決定的な差は無いため拮抗しそうだ。
そして6人は武器を構え、戦闘を再開した。
ギルド『月夜の黒猫団』も戦闘を行っていたが、戦闘相手の強さがあまりにも予想外で苦戦を強いられていた。
「この人、とにかく強い…!」
「いまのキリト達ほどじゃないけど、アスナ以上じゃないかな…?」
「現実でもきっと化け物みたいに強いんだろうな…!」
「キリト達っていう前例があるしな…!」
「勘弁してほしいよね、こういうの…!」
ケイタ、サチ、テツ、ロック、ヤマト、5人が揃って顔を顰めるほど戦っている相手は強い。
「貴方達の戦い方には迷いが見えます。
私の戦い方に動揺しているのもあるのでしょうが、やはりキリトさんの行動が貴方がたに迷いを起こしたのかもしれませんね」
5人に言葉を投げ掛けたのはいままさに戦っている男性だった。
彼の名は『サイト』、種族はインプ、短髪に白髪で丸眼鏡を掛けた容貌の男性で、その身はカソックを纏うなど神父姿と言える。
ただ、彼の種族がインプであるのでその有り様は矛盾しているようにも見える。
「ですが、心配する必要はありません。彼は何時でも己の信念通りに戦っています。
少なくとも、直接話しをさせていただいた私にはそう感じました。故に、貴方達も迷う必要はありません。
みなさんも自身の信じるままに戦うのです」
「……えっと、神父さん、ですよね?」
「ええ、通りすがりの武装神父ですがね」
「「「「「(武装神父ってなに!?)」」」」」
相手の姿と如何にもな言葉によって現実世界でもそうなのかもしれないと思い、
ケイタが代表して聞くも返ってきた武装神父なる言葉に5人は心の中で同時にツッコミを入れた。
「さぁ来なさい、迷える子羊達よ! 貴方達の思う道を、どうか私に示してください!」
彼は両手に同じ種類の直剣を持つがそれだけではなく、
ストレージを操作して周囲にもまったく同じ直剣を10本、地面に突き刺して出現させた。
加えて、ケイタ達の周りには先程までの戦いでサイトが投げた直剣が無数に突き刺さっており、異様な光景に見える。
「腹を括るぞ! 行こう!」
「「「「了解!」」」」
ケイタが気を引き締めるように言ったことで4人も表情が引き締まった。
簡単なフォーメーションだが前衛に片手剣と盾を持つテツとロックが、両手棍を持つケイタが遊撃、
槍を持つサチが前衛2人の援護、そして短剣を持つヤマトが後衛を担当してアイテムと魔法の準備を行う。
サイトは堂々と正面からテツとロックに向かった。
直剣2本を振り回し、2人は剣と盾で防ぐがサイトの連撃に対して反撃が出来ない。
そこへ中衛のサチが2人の間である後ろから槍で攻撃を仕掛け、
ほぼ同じタイミングでサイトの背後に回っていたケイタが攻撃を行った。
サイトは直剣2本で止めたが、ヤマトの放った攻撃魔法が飛来したために直剣を手放してその場から離れた。
「見事な連携ですね、さすがはSAO時代からのギルドメイト…いえ、現実世界での友人達というところですか。
特に、そちらのケイタさんとサチさんは素晴らしい、やはり恋人同士ということですかな?」
「「な、なな…///」」
何故知っているのか、というようにツッコみたいのだろうケイタとサチだが戦いは続いている。
サイトは手放した直剣を回収する素振りを見せず、
そのまま突き刺さっている別の直剣を持ち、黒猫団の5人に向けて次々と投げた。
回避した5人だが、そこへ再び直剣を2本携えて接近した。
「なんて、無茶苦茶な戦い方を…!」
「こういう性分でしてね。貴方達こそやはり素晴らしい……さぁ、もっとその道を魅せてください」
月夜の黒猫団は相手の実力が自分達5人より上だと感じたが、負けるわけにはいかないと一層気を引き締めた。
それを嬉しく思ったのか、サイトも気を引き締める。彼らの戦いも続いていく。
ユーダリルに攻撃を仕掛けているのは彼らやMobだけではない、途中から合流してきたプレイヤーも相当な戦いを行っていた。
「ギルド『スリーピング・ナイツ』、眠りの騎士団とは洒落た名前だな…。
実力は知っていたし、キリトからも聞いていた通りだ。来い、もっと俺を楽しませな」
ユウキが亡くなり、最高位の剣士が欠けたとはいえ、スリーピング・ナイツは未だに最高クラスのギルド。
その5人を相手に神門から駆け付けたベリルは『ギガッシュ』を片手に優位に立っていた。
笑みを浮かべ、この戦いを楽しむように。
「貴方が強いのは、戦っていればよく解ります。それでも…!」
「俺達、スリーピング・ナイツは負けるつもりはない!」
「ユウキが大好きだったこの世界を守るんだ!」
「ユウキとランさん、クロービスとメリダさんが遺してくれたこのギルドで…!」
「アタシ達は勝つ!」
遺された者として、生きる道を進むため、眠りの騎士団は相手がどれだけ強くあろうとも立ち向かう。
シウネーは杖を持って仲間を癒す回復魔法の詠唱を行い、ジュンは
テッチは
ノリは
強者と戦うことを目的とした者、生き続ける為に戦う者達、両者の戦いは激しいものだ。
前衛の者が刀で斬りつけ、後衛の者が二丁のボウガンで彼女達を狙い撃つ。
「強いな…だが、俺は斬るだけだ」
「どんどん狙い撃たせてもらうぜ。
なにせ、ギルド『アウトロード』のチーム『
ベリルと同様に神門からユーダリル攻めに参加しているシラタキとゼウス。
シラタキは刀の『四神刀・青白朱玄』を振るい、ゼウスはボウガンの『ガリュウ』と『ホウスウ』で矢を放っている。
その2人と相対するのはアスナとカノンを除くアウトロードの女性陣だ。
「あたしよりも、アスナさんとカノンさんの方が強いんだけどね…!」
「リーファ、カバーは任せなさい!」
「あたしとリズさんとピナでなんとかします!」
「きゅ~!」
「あの二丁ボウガン使い、相当なやり手ね…!」
「シノンさんの弓と私の《投擲》スキルでギリギリですね…!」
「サポートは僕に任せてよ!」
リーファは愛刀である長刀『シルフィル』を手にしてシラタキと打ち合い、
リズがメイスで、シリカが短剣でカバーし、ピナが回復のブレスでリーファを回復させる。
ゼウスによる矢の連射にはシノンが弓で、ティアが投擲アイテムを用いて2人で的確に迎撃する。
リンクは竪琴を奏で、音楽魔法によって仲間のステータスをUPさせてサポートする。
人数の差を物ともせずに立ち向かってくるシラタキとゼウスに全力で相対する女性陣。
彼女達も諦めない、押されていようとも負けるわけにはいかないから。
外部も内部も荒れていくユーダリル、そこへ黒き覇者が舞い降り、その前に水色の姫が立ち塞がる。
2人は距離を開けながらも見つめ合い、笑みを浮かべてから言葉にした。
「会いたかったよ。アスナ」
「うん、わたしも会いたかったよ。キリトくん」
それだけなのだが、2人の周囲は静まり返って空気が張り詰めている。
キリトは《二刀流》を用いるようで、なんとSAO時代の愛剣『セイクリッドゲイン』と『ダークネスペイン』を持っている。
それを驚くこともなく見ていたアスナもSAO時代の愛剣である『クロッシングライト』を抜き放つ。
「アスナ、1人で大丈夫なのか?」
「平気だよ。ハクヤ君達は他のプレイヤーやみんなの援護をお願い」
ハクヤはアスナがキリトを相手に1人で戦うことを見抜いて聞いたが、彼女は悠然として即答した。
彼はそれを信じ、彼女の言葉に力強さを感じ取ったヴァル達も頷いてからその場を離れ、仲間達の援護に向かった。
「良かったのか、アイツらを他に向かわせて。俺が言うのもアレだけど、1人で俺を抑えきれるとでも?」
「何時もなら一切思えないんだけど、いまは何故か“抑えられる”と思えるの」
アスナが断言したことでいまの彼の状態に珍しい驚きの表情を浮かべた。
けれど、キリトはすぐさまアスナを見つめ直し、彼女のその姿から
「なるほど、そういうことか……ハクヤ達は気付いていなかったが、アスナは気付いているんだな…。どうだい、
「五感だけじゃなくて第六感まで冴え渡っている感じかな。キリトくん達は何時もこれを感じていたんだね」
「それのON/OFFが出来て初めて完全というんだけどな」
2人だけにしかわからないような会話、アスナの胸ポケットから顔を覗かせているユイは首を傾げているのだから。
「話しはここまでにして、始めようか」
「ええ。私達だけ戦わないのはいけないものね」
セイクリッドゲインとダークネスペインを持ち自然体な構えを取るキリト。
クロッシングライトを持ち流麗な構えを取るアスナ。心繋がりし恋人同士が、剣をぶつけ合った。
―――速い
キリトはアスナの剣捌きを受けてそう感じた。
いつも前で、隣で、後ろで、色々な角度で彼女の戦いを見てきたが、いままで以上の速度の剣と彼女の動き。
絶対的な速度であるヴァルよりかは劣るが、それでも自分以上の動きで最速の連撃を行ってくる。
力と連撃は自分の領分だったはずが、彼女によって連撃を押し留められている。
アスナの成長が嬉しくもあるが、いまは厄介だと感じる。
「俺が防戦一方とはな…!」
「よく言うよ。全部捌いて、しかも時々反撃してくるくせに…!」
確かにアスナが攻めており、キリトは防戦にしか見えないが実際には全てを防ぎ、躱すなどして捌いている。
さらに、彼女の攻撃の隙を突いて空いた方の剣で一撃を行うなどしている。
全ての攻撃が当たらないことにアスナは小さく頬を膨らませて拗ねた様子を見せる。
その彼女の様子に先程まで獰猛な笑みを浮かべていたキリトも思わず微笑を浮かべた。
「とはいえ、俺も防戦は趣味じゃないからな。
「っ、くぅっ…!」
直後、キリトの剣捌きが変化した。
荒々しくも流麗さを魅せる剣と彼の動き、いままでとは違い、特に荒々しさが顕著になっている。
振るわれる剣を避ければ凄まじい風が起こり、地面に当たれば抉れるかのように爆発する。
それでいて彼の連撃は無駄がないほどに綺麗に繋がり、アスナ自身へと襲い掛かる。
―――強い
アスナは何時も以上にそう感じた。
まるで1つの黒い暴風のように、キリトはアスナの周囲を破壊していく。
直撃すれば一溜まりもなく一撃で終わらせられてしまう、そう感じずにいられない。
それでも彼女は動揺することなく、その様のキリトを受け入れて、冷静に細剣でいなし躱して時折反撃の一手を行う。
先程と攻守が入れ替わったようにも見え、しかしアスナも連撃を行うべき時には行い、キリトは二刀流で防ぐ。
両者、スキルを使用する間もなく凄まじい戦いを行っていく。
「俺と居た時間や《接続》時間が長かったからか、
どちらかなのかそれとも両方なのか……いや、最早《接続》ではなく《同調》というべきかもな…。
だが、それらがキミの成長を促したのは間違いないと思う」
「どういうこと?」
「《接続》、または《同調》によって俺とキミは何度も繋がった。心を、意思を、それに体も繋がり合わせた。
俺のあらゆる状態、覇気を扱う時や戦う時の情報がキミに渡り、
それらの情報がキミ自身に蓄積され、成長を一気に促進させた。
それが俺の考えたキミが至った『狂気』という覇気への仮説だよ」
「そっか……うん、それなら、納得がいく気がする…」
戦い合う中で語られたキリトの仮説をアスナはすんなりと理解し、納得した。
思えば、彼女には幾つも思い当たる節があった。
自身のキリトへの想いと思い、彼を失うことへのあまりにも大きな恐怖、極度の依存、彼を失ったと思った時の絶望、
彼を傷つけられた時の怒り、彼が居ない時の枷の空虚感、全てを繋げてみれば自ずと受け入れられた。
けれど、それだけでは『狂気』と成りえないのでは、とも思ったが《同調》したキリトが続けた。
「それはそうだ。いまのアスナの前には俺が居る、傍に居なくとも俺が確かに存在している。
けれど、それが不確かなものになった時、果たしてキミは正気でいられるか。
それに、俺にとっては心の底から喜ばしいキミの慕情は果たして周囲から見ればまともなものか。どうかな?」
その通りだ、キリトの言葉通りなら全ての辻褄が合う。
「全部、納得できた。そうだね、わたしのキリトくんへの想いは、確かに『狂気』にも見えるね。
でも、そんなことはわたしには、わたしとキリトくんには関係の無いことよ」
「そう、俺達にはそれがなんであろうと関係無い。
例え狂っているように見えようとも、例えそれが事実であろうとも、俺達には意味の無いことだ。ただ1つ言える事は…」
アスナにとっても、キリトにとっても、答えを見つけたところでそんなものに意味は無い。
「俺はアスナを愛している!」「わたしはキリトくんを愛している!」
二重の連撃と最速の連撃がぶつかり合う。
キリトもアスナも翅を巧みに動かして地を、宙を、縦横無尽に動き回って無数の連撃を行っていくのだ。
それを見ていた者達はあまりの光景に絶句し、2人の戦いに巻き込まれないように逃げ出す始末。
逆にその光景を目に焼き付けようとする者達も居る。
リョウトウ、コマンダー、サージ、サイト、ベリル、ゼウス、シラタキ、それにキリアス親衛隊の面々。
ロキ軍に属する者達がキリトを見守る。
キリトを除いたアウトロードのメンバー、風林火山の面々、黒猫団にスリーピング・ナイツ、エギル。
オーディン軍に属する者達はアスナを見守っている。
苛烈を極める2人の戦い。
アスナが押されるとばかり思っていた面々はキリト相手に互角と思われるほどに戦う彼女に驚く。
時折アスナのクロッシングライトがキリトの体を浅く斬り、ダメージを与える。
キリトの二刀流によりアスナも体の節々に小さい無数のダメージエフェクトが残る。
それでも戦いは長く続くわけではなかった。
突如として周囲に轟音が鳴り響き、キリトは残念そうな表情を浮かべて言う。
「もう少し戦っていたかったけど、今回はここまでのようだ。アレを見るといい」
「……っ、フェンリルとヨルムンガンド!? そんな……それに、炎が…」
彼に促されてアスナが見た先にはこのユーダリルに向けて進んでくる巨体を持つ2体のボス、それに大量のMob。
加えて周囲には炎が広がっていた、見ているとどこか悲しみを覚えるその炎はアースガルズを焼き尽くしていく。
「落ちつつある街を守る為にデスペナルティを犯してまで戦うか、次の戦いに備えて少しでも疲労を癒す為に撤退するか。
アスナならどうした方がいいかは分かると思うが」
「確かに、ここまでみたいだね……でも、ただで撤退するつもりはないよ」
アスナはクロッシングライトをストレージに収納すると今度は杖を取り出し、その杖を見てキリトは思わずギョッとした。
伝説級武器『神杖ケリュケイオン』、それによって強化された魔法の威力は相当なものである。
「撤退しながらだけど、痛い目みてね♪」
その言葉の直後に高速詠唱が行われ、水属性魔法の波が襲いかかってきた。
次々とこちらに向かってくる魔法の雨霰に、さすがに回避と防御に専念するキリト。
キリトは察した、アスナが怒っていることを。いや、薄々と感じ取ってはいたのだ。
例え事情を説明し、理解を得て、納得をしてもらっても、一番重要な感情がそれを許してない。
傍に居ると、背負い合うと、誓ったのに関わらず自身で解決しようとする。
そんな自分にアスナは怒っているのだと、本当の意味で悟った。
「(あ~、全部終わったらご機嫌取りに専念しよう…。
まぁ、さっきの戦いのお陰で俺の枷もほぼ戻ったようだし、次は本当に全力を出して相対しよう)」
苦笑しながら考えたキリトはアスナの魔法がストップしたところで体勢を整え、構えを取った。
アスナは既に仲間達と共に迎撃を行いつつ撤退しており、
それに微笑みかけたあとで自身もロキ軍の戦友達と共にユーダリル攻めを行った。
フェンリルとヨルムンガンドも合流し、それからしばしの時の経過に伴い、ユーダリルは陥落。
アースガルズの全ての拠点は炎によって燃え尽き、アースガルズそのものが落ちた。
ヨツンヘイムに続きアースガルズも陥落、舞台には一時の休息が訪れる。
オーディン軍は央都アルンに集結し、ロキ軍は炎によって燃え尽きた各拠点に分散している。
これにて第二幕は終わり、ついに神々の黄昏は最終幕へと移行する段階に入る。
『現在の時刻、午後5時をお知らせします。アースガルズ陥落に伴い、モンスターの侵攻・リポップが停止します。
4時間後の午後9時よりモンスターの侵攻・リポップが再開します。各プレイヤーは休息を推奨いたします』
No Side Out
To be continued……
あとがき
今回も間に合った~、なんとか今日も投稿できました、応援してくださるみなさんに感謝感謝です。
さて、まずは今回で第二幕は終了となりました、次回は一旦戦いのない休憩回になります。
アバターキャラ達と原作キャラ達の絡みを書くのでみなさんお楽しみに。
そしてキリトとアスナの会話でご理解できたと思いますがアスナがこの作品における覇気に目覚めました。
キリトとの《接続》がそれを速めたということであり、この作品におけるアスナの『狂気』にも似た愛情はこれが理由です。
ただ単に超デレデレ化したと思いましたか? フラグなんですよ、ここで回収するための(ニヤリ)
そして《同調》という単語ですが、これは一応次回で説明しようかなと思っています、キリトの口からw
覇王キリトと渡り合うとかアスナさんチートじゃね、ですか? キリトと《同調》しているんです。
詳しいことは次回のキリトさんでw
それではまた~・・・。
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第62話です。
今回はタイトル通りの展開、アースガルズの戦いも含みます。
どうぞ・・・。