No.745459

Another Cord:Nines = 九番目の熾天使達 = 番外編 ディアリーズ×BB編

Blazさん

取り合えず完成したので投下。
そして一言。

それでも僕は悪くない。(ドヤ顔)

2014-12-24 11:35:08 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:893   閲覧ユーザー数:799

ツバキルート(エンドのみ)

 

 

 

 

 

 

自分が余生を過ごしたい。と言えば大抵は人は故郷を選ぶ。

だが、中には住めば都を探し世界を飛ぶ者も少なからず居る。

世界でなくても思い入れのある地。そんな場所で幸せな日々を過ごしたい。

そんな場所が人には良くも悪くもあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 冬木市 =

 

霜月の日、肌寒さが一層感じる日にその寒さから柔らかい女の様な肌を守る為に自分の肌で温められた毛布を全身に被り、ほどよい温もりを感じる闇の中で再び彼は眠りに付こうとしていた。

 

だが、それを妨げる物が突然鳴り響く。

昔ながらの金属を金属で鳴らすような音ではない。

今風に作られた電子音が際限なく響いていたのだ。

 

「んっ・・・」

 

五月蝿いな。もう少し寝かせてくれと言わんばかりに彼は嫌々ながらも毛布から手を出し、寒い外の世界に置かれている電子音の根源に攻撃をしかける。

しかし、根源に一歩とどかず、手はその真横に落ちる。一度で決めようとしていたのにと苛立ちを感じつつ、方位を修正。再び手を振り下ろす。

 

今度は成功したようで何かが押された音と共にその根源は音を鳴り止ませた。

してやったりとは思わないが、五月蝿い騒音が消えたのには変わりない。

騒音が消えたのをいい事に再び手を引っ込めると今度は暗い闇の中で目を閉じ、再び深い眠りに付こうとしていた。

もう安眠の邪魔をする物は無い。そう思い安心していたのか、その慢心で彼はある事を忘れていたのだ。

 

 

 

《 トットットットットッ・・・ 》

 

 

木材で出来た床を歩く音が聞こえる。布団と床との距離も綿を挟んでの距離の為に響く振動も感じた。足音も響く音も軽く、歩いている人の体重が軽いのが聞いて分かる。

それを聞くや、彼は見えない闇の中でしわと眉を寄せ直ぐ様眠りの準備に入る。『彼女』が来たらこのまどろみの時間は直ぐに終わってしまう。だから自分は最後の抵抗をするのだ。

 

直ぐに敗北してしまうのだが。

 

 

「・・・寒い・・・」

 

「当たり前でしょ。もう十一月よ」

 

勢い良く自分の最後の防衛線である毛布がアッサリと取り上げられ、眩しい朝日とほどよい暖かさから一転した肌寒さが彼の全身に襲い掛かる。

朝日を浴びての第一声。それは誰もが感じる肌寒さへの言葉だった。

だが、毛布を取り上げた彼女は其処まで寒そうにはしていない。防寒をしっかりとしているからだ。髪と同じ赤いセーターを着て下には黒のスカートとニーソックスが見える。

・・・ギリギリセーフと言う言葉が彼の頭を過ぎった。

 

「あと五分・・・」

 

「典型的なボケはなしよ。朝ごはんが冷めちゃうから、早く着替えて洗濯物を出して顔を洗ってきてね」

 

「・・・・・・分かった。分かったから・・・その・・・」

 

「・・・?」

 

 

 

「・・・見えるかもしれないから・・・」

 

「ッ!!!そ、それを早く言ってよ!!」

 

 

 

 

何時もこんな感じだ。肌寒い外を嫌い毛布を被るが、何時も彼女が起こしに来てくれる。いや、強制的に肌寒い世界に連れ出してくれると言った方が良いのだろうか。

不思議とその何時もの事に対して特に嫌気などを感じた事は唯の一度も無い。

どちらかと言うと嬉しいと言った思いが頭を過ぎる事が多い。

そして、その気分が頭に満たされた時。彼は彼女に朝の挨拶を言うのだ。

 

 

「・・・おはよう、ツバキ」

 

「・・・おはよう御座います、ウル」

 

 

 

十一月の寒さを肌に感じつつも彼は変わらない暖かさを持つ彼女に笑顔で挨拶をする。

それには彼女も自然と笑顔が零れ、彼に挨拶を返している。

彼が持つ何かが、何時も彼女に笑顔を与えているのだろうか。

 

 

 

起こされた『ウル』こと『ディアーリーズ』は、朝の冷たい空気と共に冷たい冷水をたっぷりと顔や頭に浴びせ、眠気を覚ます。朝の冷たさは彼に寒さと寝たさしか伝えないが、顔一杯に浴びる冷水は彼の目を覚まさせる位の程よさで、今の今まで頭の中に満ちていた眠気は冷水によって流されていく。

 

 

「ふうっ・・・」

 

顔を洗い終わったディアーリーズは首に掛けていた白いタオルを持ち、自分の顔を拭いていく。その中でディアーリーズは、そういえばと彼女との出会いを不意に思い出した。

彼等の出会い。それは本来起こることがない筈の『偶然』。その偶然がこの事象では運命となった。

 

 

 

階層都市での出会い、すれ違い、そして戦い。

様々な思いを交差させた二人はその場で別れた筈だった。

 

それから数ヶ月後のことだ。

ディアーリーズは思いでめぐりと言う事で一人冬木市に訪れ、以前使用していた別荘に入っていた。冬木の町でも彼は世話になった人も居るので、その人達にも久しぶりに会いたい。そう思い、彼はこの町に来たのだ。

 

が。彼がこの町に来て数日。その異変は突如として訪れた。

ツバキがこの世界に迷い込んでしまったのだ。

原因は彼女が言う限りの事をつなぎ合わせるとどうやら窯と蒼の力が原因らしい。

それに彼女の秩序の力も反応したと言う事でかなり状況が混沌としていたようで、何が起こっても可笑しくなかったようだと彼女は言った。

 

結果、ツバキはボロボロの状態でこの町に転移し、偶然彼に発見された。そして彼の元に身を置き、現在は失った秩序の力等々を回復する為に療養生活を送っていると言う事だ。

 

 

 

 

「お待たせ」

 

「大丈夫よ。今、出来たところだから」

 

和室のダイニングに入ったディアーリーズは、ほんのりと漂う匂いに腹を空かせる。

既にツバキが二人分の朝食を用意しており、彼女の得意な和食の料理がテーブルの上に並べられていた。

白く光る白米と味噌が良い感じに溶け込んだ味噌汁。その隣にはふんわりと柔らかそうな見た目の出し撒き卵が置かれており、朝日にはまだ半熟の部分が反射して輝いている。

そして、歯ごたえが良いキュウリの漬物とほうれん草のおひたしが一緒に入っており、その全ての料理の中心であり手前に置かれているのは焼きたてのアジの開きだ。

こんがりと焼かれたアジの開きは味噌汁と並び、和食の食卓に良い匂いを引き立たせておりその見た目と匂いだけでも彼は大満足だ。

 

 

「それじゃ、いただきます」

 

「私もいただきます」

 

食欲をそそられる匂いにディアーリーズは我慢しつつ両手を合わせて一礼する。朝のマナーと言う事でツバキに仕込まれた事の一つだ。

同時にツバキも両手を合わせ軽く頭を下げると、自分の箸を持ち味噌汁を手に取った。

ディアーリーズは箸を持つと最初に手を付けたのはこんがりと焼けたアジの開きで、開きの傍には小さな大根おろしが乗っているが、箸はその大根を後に先ずはメインの開きにゆっくりと沈んでいく。パリッと小さく表面の皮が破れる音がして中からほくほくと湯気の様に煙が立ち上る。中は白く火がちゃんと通っているのが分かり、身はしっかりと熱を帯びている。

それを一口、口に運んだディアーリーズはそのままでもしっかりと味のある美味しさに食欲が進んだ。

 

「はぁ・・・毎度の事だけど、ツバキは料理が上手だね。今日もかなり美味しいよ」

 

「向こうで仕込まれたし、それに箱入り娘だからって手は抜いてないわ」

 

「箱入り娘だからこそ・・・じゃないかな?外に出ても恥じさせないようにって」

 

「ん・・・そうかもしれないわね」

 

 

何にせよ、彼女の料理が美味なのは事実だ。

和食限定と言うウィークポイントがあるものの、それを除けば家事全般は勿論、性格が品行方正の為に周囲からも親しまれている。

正にほぼ完璧超人と言うべきだ。ほぼ(・・)

 

 

「・・・何か失礼な事考えていなかった?」

 

「い、いえ何も・・・」

 

これも完璧と言われる所以の一つ・・・なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終え、予てから予定していた外出の為にディアーリーズは外出用の服に着替え、玄関でツバキが来るのを待つ。

黒のダウンジャケットに紺色のジーンズ。典型的と言われるだろうが、生憎今の彼には持ち合わせが少ないのだ。資金的には問題ないという範疇だが、最近衣類を扱う店を通ると記憶の奥底に封印していた何かが蘇りそうで長い時間その場に居られないのだ。

その記憶が傍から見ればロクでもない記憶だろうが、彼にとっては最悪の記憶になりかねない出来事なのかもしれない。

どうして封印したかさえも忘れかけたその時、ツバキが用意を終えて現れた。

 

「お待たせ。ちょっと手間取っちゃって・・・」

 

「ん、大丈夫だよ。待つのは慣れてるから」

 

腰までの長さのロングコートを羽織り、動きにくいと思うスカート。スカートは歩く事は出来そうだが、走るとなるとかなり邪魔そうに見える。

黒のニーソックスを外出用のブーツの中に入れると、いよいよ出かける用意が出来る。

 

「で、今日はどちらに?」

 

「取り合えず貴方の服ね」

 

「お、おう・・・」

 

「正直、ウルの服は数が少ないし、怖がらずに服を見に行きましょ。私もついているんだし」

 

「いや、別に怖いって訳じゃなくて嫌な思い出が・・・」

 

「四の五の言わずについて来る。ホラ、行くわよ」

 

まるで母の様にブーツを履き終えたツバキはディアーリーズの手を握る。本来なら手首辺りなのだろうが、本人も知らない内に彼の手の平を握っていたのだ。

ゆったりとした赤いロングヘアーを揺らし、彼女は玄関の扉を開ると、外は冷たい風が吹くが丁度良い位の暖かさを太陽が放つ温度で、ディアーリーズは中を少し薄着にするべきだったかと後悔のようなものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《 ガサッ・・・ 》

 

 

 

「・・・ウル・・・アイツなにしてんのよったく・・・」

 

「粛清すべし・・・」

 

「アキ。落ち着きなさい。狩る時は今ではないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《 カシャ・・・カシャン カシャ 》

 

「んー・・・」

 

「・・・随分とご熱心というか・・・」

 

洒落た服が多くないか?と聞くのはどうもマズイかとディアーリーズは次の言葉を飲み込む。

現在、二人はデパートにある洒落たブティックに入っていた。

今回はディアーリーズの私服と外出用の服が目的で、特に外出用の服は現在数が限られているので急務であるらしい。

本人は使い分けたりそれなりにバリエーションがあるので大丈夫と言っているが、ツバキはそれでも心配だと言い。結果、現在彼女の主導で現在ディアーリーズの服が選ばれていた。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・なんでしょう・・・」

 

「女物もアリか・・・」

 

「ちょっとツバキさん。まさか女物を買おうだなんて・・・」

 

「経費の節約よ」

 

「マジでお考えでいらっしゃる!?」

 

 

 

「・・・・・・。」

 

「・・・まだ何か?」

 

「・・・いいえ。しいて言えば・・・もう少し髪を伸ばして後ろで括るって言うのもありかなって」

 

「そうかな?」

 

「意外と貴方ってそつなく似合う顔立ちしているし、本当に髪を伸ばしたら良いんじゃない?中性的でいいと思うけど」

 

「勘弁してください。唯でさえ昔色々(メイド服・女体化・R-18一歩手前)とあったから・・・」

 

「そこはあえて聞かないで置くわ。何か怖いから・・・」

 

傍から見ればすっかりカップルか夫婦の様な空気を作る二人。

ディアーリーズは色々と昔の事を思い出して青ざめていたが、その表情は直ぐになりを潜め、ディアーリーズは彼女の横顔を見つめる。

苦笑していたツバキだったが、再び服を選び出すと真剣な眼差しでハンガーを取っては戻しを繰り返す。

その中で彼に似合うかと思う物があったのでディアーリーズの方に顔を向けると、その彼は優しい表情で自分を見つめていた。一目でツバキはその顔に心打たれ、頬を薄く桃色に染める。

 

「・・・な、何?」

 

「あ、いや別に・・・」

 

「・・・・・・。」

 

我を取り戻したのか、ディアーリーズはまた何時もと変わらない少し焦った顔になる。

すると、その顔を見てツバキの熱は冷め染まっていた頬はまた白く元の色を戻す。

 

 

 

「・・・良い顔だったのに・・・」

 

「え?」

 

「・・・なんでもないわよ。行くわよ」

 

「え?え??」

 

不満そうな顔をするツバキにディアーリーズは一体どうしてかと思うが、その思いは彼には届かず、ツバキはその届かない思いを胸にしまい一人で先に移動する。

自分が一体何をしたのかと考えるディアーリーズは考えるのに時間を費やしたので僅かに遅れ、直ぐに彼女の後を追う。

 

正にカップルの様なその姿を遠目試着室から見る目があったと知らず・・・

 

 

「ぬぬぬぬぬ・・・品行方正、大和撫子とはあの事か・・・くっ」

 

「・・・。お前らあきねぇな。ちったあアイツの幸せも考えてやれっての」

 

試着室から覗くこなたは奥の鏡に背を預けるBlazに呆れられ、彼から正論を言われていたのだが、彼女にとっては正論とは言いがたかった。

 

「ふん!幾ら相手に尽くしてくれる女だからって実力的に強くないと・・・」

 

「実力あるじゃねぇか。少なくともお前よかぁ!?」

 

こなたの強がりに即答で答えたBlazは彼女から八つ当たりのカカト落としを喰らい、顔面を床とキスさせることになった。

一方そのカカト落としをした本人はその正論を受け入れようとせず、未だに強がりを言っていたが。

 

「あのイザヨイって姿になったらの話でしょ!普通の状態じゃアタシ達にだって勝てなかったじゃない!つまり!素のままでも強いという点が無いから・・・」

 

「無いから?」

 

「無いから・・・・・・ナイ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無くて悪かったなコンチクショォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!」

 

「アブハジアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 

 

 

 

 

昼下がりの時間。

一通りの買い物を終えた二人は近くにあるカフェで軽いティータイムを楽しんでいた。

最近流行のカフェチェーン店らしくコーヒーや紅茶、それにあったケーキの他にもマグカップでだが緑茶も飲める。紅茶は飲めるが強いていえば飲む気があまり無いツバキにとっては有難い事だ。

一息を入れる二人の前にはそれぞれが注文したドリンクとケーキがちんまりと置かれており、何処か絵になりそうな風景でもあった。

 

「はぁ・・・取り合えずこの位かしらね」

 

(・・・まぁ・・・(ラヴァーズ)よりかは少ないか・・・)

 

冷えた外の寒さにマグカップに注がれたホットドリンクが身体の芯までに伝わり、その温もりが一時のまどろみを見せてくれる。

ディアーリーズの前にはブラックのコーヒーとチョコレートケーキのポピュラーな二つ。

反対側のツバキの前には両手にその温かみがしっかりと伝わるマグカップに入れられた緑茶と抹茶風味のモンブランと言う抹茶づくしのラインナップだ。

 

ほんのりと苦味がある暖かさの抹茶を口に入れるとツバキはそれをするりと喉の奥へと流し込む。暖かい抹茶が喉を伝い身体の全身へとその温もりを伝えているのが良く分かる。

肌寒さにかじかんでいた彼女の顔はその小さな温かさに頬を緩ませていた。

 

「・・・こうしてのんびりとお茶をするのも久しぶりね・・・」

 

「え?そうかな?」

 

ポツリと呟いたツバキの言葉にディアーリーズは時折こうしてティータイムを過ごしていたので久しぶりと言う程でもない筈だと思っていたが、直後に彼女が静かに顔を横に振って話を進めた。

 

「ううん。昔の事をね・・・」

 

「あ・・・」

 

 

「フフッ・・・昔はこうして友達二人とよくカフェでおしゃべりしていたの。時間を忘れて、色んな事をね・・・」

 

「それって・・・確かノエルって子とマコトって子のこと?」

 

「そうって知っていたの?」

 

「前にイカルガで。けど、ノエルって子とは会話と言う会話も無かったし、マコトって子とは顔合わせとかぐらいかな・・・」

 

「・・・。」

 

昔の思い出。ディアーリーズにとっては激動の人生で思い出と言う言葉を聞かれても恐らく他人との定義が違い、ズレが見えるだろう。しかも余りいい思い出と言うのが彼には無い。あるのは自分の身の危機が色々とあった思い出だけだ。

 

「今度は・・・みんなで来れると良いね」

 

「・・・ええ」

 

 

 

 

 

 

「・・・中々いい感じになってんじゃないのよ・・・」

 

「アスナ。目ぇ怖くなってんぞ」

 

それを遠くから変装して見るアスナと普段着の姿でコーヒーを飲む支配人。

支配人は注文したブラックのコーヒーを優雅に飲んで楽しんでいるが、その反対側では典型的な変装をしたアスナがサングラス越しに楽しむディアーリーズとツバキを見ていた。

一応変に思われないようにと紅茶を注文したのだが、彼女の視線の先に居る二人に夢中で一口も口をつけていなかったのだ。

 

「いい豆使ってるな・・・今度試すか」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・あのさ。そうやってずっと見ている方が怪しいと俺は思うのだが・・・」

 

「何でよ。別に怪しくないじゃない」

 

「いやさ・・・・・・視線がメッチャ痛いんだよなぁ・・・」

 

「・・・・・・。」

 

今更になって周りからの目線に気づいたアスナは改めて周りに気を配ると至る所から彼女を見て小声で話す客の姿が見えた。彼女の行動に変な人だと思い込む熟年の客。その姿がどこか綺麗だと思い、寧ろ好意の目で見る若者。老年の客はその姿を見て微笑ましく笑っている。

その視線に気づき、自然と頬を赤らめるアスナは恥ずかしそうにテーブルに向き合い、もう冷め切った紅茶をすするのだった。

 

「な?」

 

「・・・・・・。」←恥ずかしくて何も言えない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は更に過ぎ、戌の刻こと午後八時。

日もすっかり落ちてしまい、空には白く輝く月が替わりに夜を照らしていた。

月の光によって作り出された幻想的ともいえる世界は静寂に満ち、日の光とは真逆の世界を見せる。

買出しを終えて帰宅途中のディアーリーズとツバキは帰路の途中にある小さな公園で、唯一つのベンチに腰掛けていた。

 

 

「はぁぁ・・・久しぶりに結構買い物したわね」

 

「そうだね・・・まさかここまで時間かかっちゃうなんて、時間が経つのははやいもんだ」

 

昼前に出かけた二人は買い物やティータイムを楽しんでる内に、またも買い物やココに行ってみようなどと好奇心に身を任せた二人は、時が経つのを忘れたかのように楽しみ満足げな顔で腰を下ろしていた。

二人の手には大小様々な大きさの袋があったがそれは今足下やベンチの端に置かれている。

衝動買いをしたので約一名(ディアーリーズ)の財布は末期突入だがそれも今は楽しさで紛らわせて忘れていたのだ。

 

「にしても、結構ツバキ他にも欲しい物があったんじゃないかな?」

 

「あるにはあったけど、その時に必要かって聞かれたらまだ必要ないって思って今回は止めといたわ。そう言うウルは?」

 

「まぁ・・・似たような物かな?」

 

「それにしては懐が冬景色のようですが?」

 

「・・・言わないで下さい。忘れたいので」

 

明日の食費が不安なディアーリーズは涙を流すかのような顔で遠くを見つめており、現実逃避の顔をしていた。一応は気づいていたのかとツバキは横から聞いてはいけなかったと言う顔でその話が無かったかのように目をずらした。

 

「あ・・・そういえば・・・」

 

「? どうかしたの?」

 

「いやちょっと・・・あった!」

 

ふと何かを思い出し、ディアーリーズは今日の買い物の袋の中から何かを漁りだした。

随分と小さいのか中が複雑になってしまっているのか少し手間取っていたが手に感触を感じ取り、それをしっかりと握ってすくい上げた。

彼の手には小さな箱が持たれていた。

 

 

「これ。ツバキに渡そうと思って」

 

「・・・私に?」

 

「うん」

 

「・・・・・・開けても?」

 

「いいよ。そのために買ったんだし」

 

小さな箱を手渡されたツバキは少しかじかむ手で受け取り、箱のふたをゆっくりと開ける。

その中身を見た瞬間、彼女の目は大きく見開いた。それは彼女も驚く品が入っていたからだ。

 

 

「これ・・・髪飾り・・・それにこの花って・・・」

 

「うん、椿の花。丁度いいのがあってさ。ツバキに似合うかなって・・・どうかな?」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・ツバキ?」

 

「あ・・・」

 

「あ?」

 

 

 

 

 

 

「・・・あり・・・がとう・・・」

 

 

頬を赤らめ、激しく振動する心臓の鼓動を感じつつ、ツバキは恥ずかしそうな表情で目線を下げる。早まる鼓動の所為か異様に頭が熱いのを感じ、正常な思考が余り出来ないと心の中で混乱する。

 

(どうしてだろ・・・ただ貰っただけなのに、心臓が・・・)

 

 

「・・・ツバキ?」

 

「ふぇっ!?あ、えっ・・・何?」

 

「いや、突然止まっちゃったから大丈夫かなって・・・」

 

「だ、大丈夫!大丈夫だから!!」

 

「・・・本当に?」

 

「ええ!本当に大丈夫だから!思考もしっかりとしているから!!」

 

 

「・・・そっか。じゃあ、それ僕が付けてあげるね」

 

「・・・・・・ふえ?」

 

 

爆弾発言を投下したディアーリーズにツバキは赤面の顔で答える。

最早何がどうなっているのかと言うよりも、彼の思考が一体どうなっているのかと頭がショート寸前の状態で正常な判断が出来ない瀬戸際までに混乱していた。

 

「え。だって、他の人に付けて貰わないと髪とか傷めちゃうと思うから・・・」

 

「えっ・・・あっ・・・その・・・あえっ・・・」

 

天然と言うよりも狙っているだろうという言葉をサラリと発言する彼に、ツバキの頭はオーバーヒートを起こしていた。別に帰ってからでも良いのではないか?と思いたいが今の彼女に其処までの思考をする余裕は無い。

頭では何かこの状況を打破する策を考え、それを口にしようとしているのだが口がそれを頑なに許さないかのように開かず、手も止まっていた。

 

考える事も出来ず頭が混乱している中、ディアーリーズはそっとツバキの手から髪飾りを取りそれを彼女の髪に付けようとしている。

混乱していた彼女はいつの間にか彼が自分の目の前に現れた事に驚き、より心臓の鼓動が速くなっていく。

こんな感じは始めてだ。と、どうするべきか考える彼女の頭の中でふと、その言葉が浮かび上がった。恋の気持ちはあった。しかし、ここまでの事をあの人はしただろうか。

それを思うと混乱していた気持ちが少し和らぐが、少し悲しい。

禁断ともいえる二人への思い。複雑といえる感じがあったが、それでも嬉しいという感情があるのは事実だ。

 

「っと・・・これでいいかな」

 

すると、ディアーリーズの声で現実にへと意識が戻りハッとしたツバキは前を見る。

其処にはかなり近い距離でディアーリーズが居たので驚きの声が出る、かと思われていたが不思議と彼女の口からは驚きの言葉は一つも出なかった。自分でも不思議な事だと思うツバキだったが、余りにも近い彼との距離に再び心臓の鼓動が速くなのるを感じた。

先ほどよりも速く、そして強い。彼からの汗っぽくもさっぱりとした匂いに刺激され頬が真っ赤に染められる。

その彼女の心境を知りもしないディアーリーズはツバキに髪飾りの位置が正しいかを尋ねた。

 

「ツバキ、一度髪飾りを触ってそこで合っているか確か」

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

「・・・大丈夫。貴方が付けてくれたんですもの」

 

「えっ・・・けど・・・」

 

即答したツバキにディアーリーズは困り顔で彼女の行為を受け取るべきかと考えていた。

そして少しの間を空けて彼女の言葉を信じようと決め、彼なりに納得した顔で小さく顔を肯かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ねぇ」

 

「なんだーい、アキちゃーん」

 

「あれ・・・カップルですよねー」

 

「そうだねー・・・」

 

「・・・よし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○すか」」

 

 

目のハイライトが消えたアキと蒼崎の二人はディアーリーズ達の姿が見える距離で隠れて二人を観察していた。いや、観察と言うよりも隙を窺っていると言ったほうが良いか。

最早二人は完全に獲物を狙うZEROの状態だ。

その二人が手持ち方のレールガンと多連装ミサイルを持って本気で殺りに行こうとしている。

片や好意を持っている男が他の女と付き合っているから。そしてもう片やは狙っていた女を取られたというしょうも無い理由ではあるが二人には十分な理由だったらしい。

しかし、その二人を後ろから誰かが服の襟と首根っこを掴んでディアーリーズ達への襲撃を止め、一体誰がと一瞬思った蒼崎たちだったが、その正体はこなたとアスナに付き合っていたBlazと支配人の二人だった。

 

「待てい其処の二人」

 

「お前ら性懲りにもよく良くやるなオイ・・・」

 

「何を言ってる。お前らだってあんなのを見せ付けられてムカつくと思わんのかね」

 

「別に」

 

「他人の色恋沙汰に首突っ込むほど暇じゃねぇしな」

 

元より他人の恋愛に介入する気の無い二人は蒼崎とは見方が違っていた。

彼がそれで満足しているのならそれで良し。悪ければ手助けするだけ。キューピットとまでは行かないが彼等もそのことに関しては大人の対応をする。

しかし、自分好みの女性と言う範囲が広い蒼崎にとっては、特別な意味が無い限りその女性について諦める事はしない。今回がその一例だ。

イカルガで自分の心を射止めた彼女に彼は過去何度かアプローチをかけたがいずれも失敗。

彼女の事情を知らないからか、それとも単に諦めが悪いのか。

止める二人からすれば蒼崎は後者だと思うだろう。

 

 

「それによ。其処の親衛隊娘もそこまで躍起になるこたぁねぇんじゃねぇか?」

 

「・・・一理あるわね。けど、私達には一応暗黙のルールって奴があるのよ」

 

「暗黙のルール?」

 

「そう。ウルにアタックしていいのはアイツと特別な関係がある女だけ。つまり!私達はそれに該当してあの女はそれに該当しないって事よ!!」

 

「イカルガの騒動で巻き込まれていただけの奴に言われたかねぇ言葉だな」

 

「ついで助けてもらったのてディアーリーズじゃなかった気がぶほあぁ!?」

 

「ッ!?」

 

「うっさいア○シン!!」

 

「別ゲーじゃねぇか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何だろ。何か騒がしいような・・・」

 

「・・・誰か近所でパーティでもしているのかしらね?」

 

「ハロウィンも終わったし・・・クリスマスにはまだ早いんじゃ・・・」

 

かなり早い忘年会でもしているのだろうか、と余り遠くからの叫び声を気にしないディアーリーズとツバキ。それが二人について騒いでいる事だというのはもう少し近い距離でなければ聞き取れない事だろう。

その遠くからの声を耳にしていた二人の耳は血が余り行き来しないからか頬よりも冷たい。

今までよりも特に寒い夜だなと思っていたディアーリーズはふと空を見上げる。

白い月が夜を照らし、満面の星・・・とまでは行かないが星々が夜空にちらほらと点在している。そして、その空から小さな贈り物が降り始めた。

 

「・・・雪」

 

「ホントだ・・・もうそんな時期か・・・」

 

白く冷たい雪が天高くからゆっくりと降り始めたのだ。

今年の初雪が見上げた空からは白い雪が降り注ぎ、冷たい夜の中の暗い世界をその白さで景色を変える。暗く静寂だけが満ちていた幻想の世界は白い粉雪が散りばめられ、現実からは遠ざかった美しい世界を見せる。小さな雪が降るだけで世界はこんなにも違う。

雪を見つめていたディアーリーズの口は寒さで強く閉まっていたが、その雪を見ている内に緩み、小さく微笑んだ。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・?どうかしたの?」

 

「ううん。もうそんなに経つのかってね・・・」

 

「・・・。」

 

 

 

 

 

時々何処か遠くを眺めるような顔をするディアーリーズ。

何を思い、何を考えているのか。それは彼女には分からない。

ただ、ココではない何処かを。ココではない何時かを見ているかのようで、その場に彼は居なかったかのように消えていくような感じが、ツバキの脳裏を過ぎった。

 

 

まるで『この世界全てが嘘の様で』

 

彼が『彼の現実の世界にへと戻りたがっているかのような』

 

 

本当に彼がそこに存在していないかのような。

 

「・・・・・・。」

 

そう考えるとツバキは指先が冷たい手を強く握り締める。

嫌だ。そんなのは例え死んででも断る、と彼女の手から血が流れるかと言うぐらいの力が込められ過ぎる考えを否定した。

自分の前からもう誰も消えさせたくないと。一人になるのはもう嫌だと。

独りよがりにも思えるその思いが待ち足りた時。ツバキの心に小さくも強い決断が下された。

 

 

 

 

「ウル・・・」

 

「えっ、何・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「・・・・・・。」」」←目を大きく見開くラヴァーズ

 

 

「あ。」

 

「ん?おっ」

 

「・・・・・・。」←口をあんぐりとさせる蒼崎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘でもいい。この世界が偽りでもいい。

ただそれでも、確かな今を大切にしたい。

確かな答えを信じたい。

 

だからこそ、彼女はその思いを確かな物にした。

今を示す小さな口付けを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「・・・さて。これで先ずは、あのイザヨイの物語はおしまい。次は・・・マコト=ナナヤ辺りかしらね。フフフッ・・・」

 

団長「たまにはこういうラブコメもありかも知れんな」

 

 

 

 

 

 

 


 
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