一刀と愛紗を見送った稟達は、董卓の誘いもあり天水城内で一刀達の帰還を今か今かを待ちわびていた
心優しい董卓にとって、無関係の一刀と愛紗を自分達の戦いに巻き込んでしまった負い目を感じている董卓は、危ないので部屋にお戻り下さいと諌める部下の制止を振り切り、城門で帰りを待っているぐらいだ
董卓「大丈夫でしょうか・・・」
城壁に着いても落ち着いていられないのか、彼女はそわそわした態度を取り続ける。そんな董卓の姿を見て、明命が董卓の両手を握り、大丈夫です!と語りかける
明命「一刀様と愛紗さんの実力は、人間離れしているので心配いりません!むしろあの2人を同時に敵に回す事になった敵兵の方が心配と言いますか、流石に同情してしまいます」
董卓「そこまでの強さなんですか?」
一刀と愛紗の武を見た事がない董卓にとって、明命の口から語られてた内容は驚きを隠せない様子
確かに噂では聞いていたのだが、あくまで噂は噂。誇張されたり、噂が1人歩きする事など珍しくは無い、伝わってくる内容は噂だから信憑性の無いものだろうとしか思っていなかったが、たった2人で数万の軍勢に飛び込むなんて常人では決して真似出来ないこと
董卓は噂は誇張などではなく、すべて本当だったのかもしれないと思い始めていた
稟「董卓殿、ここにいらっしゃいましたか。董卓殿に引き合わせたい人物を華陀が保護いたしましたので、連れて来ました」
引き合わせたい人物が思いつかなかったのか、不思議そうにきょとんとした表情を浮かべる
その表情は同じ女である稟も蕩けさせるほどの可愛さ、純真さを兼ね備えており、主である一刀に見せたら暴走するだろうと確信が生まれた
賈詡「月!」
董卓「詠ちゃん!無事だったんだね」
賈詡「それはこっちの台詞よ!ほんとに心配したんだから」
董卓「ごめんね、詠ちゃん。でもこの人達に助けてもらったから大丈夫だったよ」
董卓と真名を呼び合う、それだけでかなり親密な関係だと伺える
稟は董卓と話ししている人物を見た事はないが、正体の心当たりならあった
華琳に仕える前に発生した反董卓連合軍、情報が少ない董卓軍の実態を調べようと諸侯の実力者達がこぞって間諜を洛陽に派遣したのだが、誰一人戻って来た者はいない
董卓側に懐柔されたのか、捕縛され拷問にかけられ処刑されたのかは定かではないものの、間諜狩りが1人の軍師による指揮だと云う情報を掴んだ
その軍師の正体こそ、董卓の懐刀であり、古の張良、陳平に匹敵する智謀の持ち主と称される”賈詡文和”だった
史実では天才軍師と称された郭嘉奉孝、晩年は三公まで上り詰めた賈詡文和
以前の外史、そして正史でも対面する機会が無かった両者がついに対面を果たしたのだ
賈詡「そう・・・あんた達には世話になっちゃったみたいね、月と天水の領地を護ってくれて感謝するわ」
稟「礼は私達では無く、一刀殿と愛紗に言ってあげてください。私と明命は何もしていませんので」
華陀は1人だけ別行動し、逃げ遅れ傷ついた住民や戦で怪我を負った兵士の治療を施している
治療する際に、大声で叫ぶのが五月蝿いからとの理由で、治療所は少し離れた広場に設置されている
賈詡「あんた達の仲間である医者には本当にお世話になってる。この件が落ち着いたら正式に謝礼を贈らせて。それだけの恩をボク達は受けたんだから、謝礼の断りなんて認めないわよ」
かなり上からの物言いだが、賈詡からは本気で感謝していると伝わってくる
稟はこの時、冀州に残っている桂花を思い出していた
素直になれず、自分の気持ちを伝えるのが不器用であり、一刀曰く天の国の言葉で現すなら”ツンデレ”
賈詡は桂花と同じ分類に分けられるかもしれないと、稟は内心で思っていた
賈詡「ところで…なんであそこで華雄が簀巻きにされてるのかしら」
明命「なんでも、張遼さんの撤退指示と助けに入った愛紗さんの説得に耳を貸さなかったので、愛紗さんが実力行使に出てボコボコにしたみたいです!縄は暴れないように施したと兵士さんから教えてもらいました!」
賈詡が指差した先には、全身縄で縛られ口には猿轡を噛まされている華雄の姿があった
普段であれば、華雄を慕う兵士達が縄を解くところなのだが、愛紗から”自分達の判断”で縄を外すのは禁止だと言い渡されていたので、黙って眺めるしかなかった
縛られてる華雄に興奮している兵士もいるみたいだが・・・・
賈詡「その真名の人物が誰か解らないけど、華雄をボコボコって・・・どんな怪物よ」
軍師である賈詡も華雄の事は猪突猛進だと思っているが、武の腕は一級品であり、大陸有数の武人だと評価していた
そんな華雄を一方的に下すなんて化物だと言い表す事しか出来なかった
董卓「詠ちゃん、なんでも戦場に飛び込んだのは関羽さんと呂珂さんで、2人の相手をしてる敵兵が可哀想な程実力差があるんだって」
董卓は親友である賈詡が知らない情報を教える事が出来たと、若干嬉しそうにしていたが、教えられた賈詡はそれどころじゃなかった
賈詡「ちょっと待って!いま関羽と呂珂って言った!?なんでいま大陸中で噂されてる連中がこんな辺境の地に居るのよ!」
董卓「旅の途中で天水に寄ったんだって。そしたら助太刀をしてくれたんだ。ちなみに華雄さんをあの状態にしたのは関羽さんみたい」
これまたなぜか説明するのが稟や明命ではなく、董卓だった
賈詡「そんな理由で・・・あんた達に関係ないじゃない、なのに……なんでボク達を助けてくれたの」
軍師であるがゆえに、一刀達が命の危険を晒してまで自分達を助ける理由に見当がつかないのだ
稟も賈詡の立場ならきっと同じ事を思っていただろう。しかし、理を捨てて情を選ぶ場面も存在する。
一刀にとって今がその場面だったのだ
稟「色々あるのですよ。それに、呂珂殿が戦う理由なら有りましたから」
董卓「呂珂さんが戦う理由とはなんですか?」
稟「それは私からは言えません。もうすぐ呂珂殿が戻ってきます、きっとその時に答えが解るかと」
賈詡「なによ、もったいぶらないで教えなさいよ」
明命「私もまだ教えていただいてませんので仲間ですね!」
愛紗や明命にも言ってない事情を董卓達に話すわけにもいかず、稟はお茶を濁しその場をやりきる
明命に変な仲間意識が芽生え始めているのも触れずにスルーしていた、魏の個性的な面子に囲まれ生活している間に、流す事を覚えたのだ。律儀に毎回付き合っても疲れるだけだとようやく学習しただけなのだが……
賈詡「そんなんの仲間に入れてもらっても嬉しくないわよ!てかあんたも教えてもらってないの?」
明命「知っている方が少数だと思いますよ?愛紗さん……関羽さんも知りませんし」
賈詡「むしろ誰が知ってるのよ、秘密主義もいいところじゃないの」
稟「事情を知っているのは私を含め3人だけです。もしかしたら4人に増えるかもしれませんね」
4人に増えると言った真意が解らず、一同は揃って首をかしげる
稟に意味を尋ねようとした時、疑問の答えを背負ってきた鴨が戻ってきた
稟「丁度良い時期に戻ってきましたね、時期を見計らっているのか疑いたくなりますよ」
賈詡「な!?」
董卓「詠ちゃん・・・私夢でも見てるのかな」
賈詡「安心して月・・・僕も同じ夢見てるから」
愛紗「一刀様にまた新しい女が…しかもあんなに密着して・・・これは夢だ」
董卓と賈詡は目の前の光景が現実だと受け入れる事が出来ず、主従揃って目の前の光景は夢だと現実逃避している。愛紗は別の意味で現実逃避しているが・・・
稟「まったく、霞が思い出した瞬間これですか。魏の種馬はどんな時でも力を発揮しますね。一刀殿!霞!こっちです!」
一刀「みんな、ただいま」
霞「一刀おろして~な~!みんなて見てるしめっちゃ恥ずかしいわ」
一刀「だって霞まともに歩けないでしょ?わがままいわないの」
霞「だからって・・・なんでお姫様抱っこなん!?他にも運び方なんていくらでもあるやろ!?」
董卓、賈詡、愛紗が目の前の光景を現実だと認識せず、稟が呆れた一刀と霞の戻り方
1人で歩く事が困難な霞を一刀が両腕で支え、態勢が安定するように自分の胸で霞の体重を支える、所謂お姫様抱っこで帰還してきたのだ
霞も一刀と再開出来た喜びで、お姫様抱っこをされる事を承諾するが、それは2人っきりの場所で行って欲しいのであって、主君や部下達に見られてる今は羞恥心で顔が真っ赤なのだ
一刀「じゃあおんぶのほうがよかったかな?」
霞「・・・こっちでいい」
一刀「ならいまは大人しくしてること」
霞の抗議を真に受け、一刀はお姫様抱っこからおんぶに切り替えるか?と提案する
今更変えたとしても、不特定多数に見られたからには誤魔化すのは不可能。ならば恥ずかしさは捨て、一刀に甘えている方がいいと判断した
稟「やれやれ」
戻ってきてなお密着度が増した2人を見て、稟は今までで一番呆れた表情を浮かべ、2人に自重するように視線を向けるが……いまの一刀と霞にはなんの効力もなかった
賈詡「そんな格好で戻ってくるからどんな関係かと思ったら…あんた達夫婦だったの!?」
董卓「へぅ~霞さん大人です」
現実逃避からいち早く復活した賈詡が復帰早々爆弾発言を投下する
この発言には、周囲で状況を見守っていた兵士から大歓声が沸き起こる
霞「ちょっとまち!賈詡っち何言い出すん!?」
霞は慌てて賈詡の発言を否定しようとするが・・・周囲の兵士からは
張遼様、隠さなくてもいいじゃありませんか!
長くお仕えして参りましたが、張遼様のそのようなお顔見たことありません」
呂珂様は張遼様を救うべく単騎であの乱戦に突撃し、張遼様を救い出し敵将すべてを打ち倒しました!これはもう愛のなせる業にちがいありません!
呂珂様!張遼様をよろしくお願いします!
張遼様!お幸せに!
と言いたい放題だった
華雄もそうだったが、霞も部下の面倒見が良く、姉御肌な気質や優れた容姿も影響したくさんの兵士から慕われていた。
兵士から見れば霞への感情は”恋慕”では無く”敬愛”、その敬愛する将を全力で護り、愛してくれる男が現れたのだ。兵士等の喜びと興奮は凄まじいものだ
霞「お前ら~~~治ったら覚悟しとき!」
一刀「霞は俺とそういう風に見られるのは嫌?」
怪我で動けない事をいいことに、色々言いたい放題な兵士を必ずしばこうと決意し、兵士達を黙らせようとしたら、一刀が悲しそうな顔をしてきたので慌てて弁解を行う
霞「そんなことない!一刀こそ・・・うちとそういう関係に見られるの・・・嫌じゃない?」
一刀「何言ってるんだよ。霞とそういう風に見られて嫌なわけないだろ?今も・・・昔もな」
霞「あかん・・・一刀はどこまでうちを惚れさせるつもりや」
一刀「霞がずっと俺のこと好きでいてくれるように・・・・ずっとかな」
霞「さっきも言いうたと思うけど、うちはこずっと一刀の傍におるよ!一刀以外の男なんて目に入らんんもん!」
一刀「くすぐったいって」
一刀が甘い言葉を囁き、霞がどんどんふやけていき、抱かれている一刀の胸に猫のようにスリスリと甘えている
周囲がどんなに茶化したり囃したりしているが、2人の耳には全く入っていない
完全に2人だけの世界が構築されていた
それを見て更に周囲が沸き起こり
董卓と賈詡は驚きの許容限界を迎え目が点になってポカーンとし
明命はいいなぁ~と羨ましがり、稟は突っ込みを放棄
色々な反応を見せているが・・・
愛紗「我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢」
愛紗だけ暴走する嫉妬を抑えるのに全神経を注いでいた
この場で一刀と霞を止める事が出来るのは稟だけ
これ以上甘い世界を作られたら嫉妬神が降臨すると懸念した稟が止めに入る
稟の静止を聞いて正気に戻った霞は”ようやく”稟が自分の傍に居た事に気がついた
霞「およ?稟やん!久しぶりやな~元気しとったか?」
稟「今頃気が付いたんですか・・・霞も変わりないですね」
今まで自分の存在を認識してなかった事に少しいらっとした稟だったが、言っても流されるだけだろうなと思い文句を言うのは諦めたようだ
一刀「そうだな・・・重要な人達はみんな揃ったし、詳しい話を始めようか」
一刀「援軍で来てくれた西涼軍の将はどこにいるのかな・・・ここで名乗りをあげるものがいるか!」
本来であればこの場で一番地位が高い董卓、もしくは董卓の軍師である賈詡が話しを進める場面なのだが、霞のインパクトが脳裏に浮かんでいるために、正常な判断が出来るか不安になり進行役を一刀に任せる事にした
任せられた一刀は、まず自分と同じく援軍に駆けつけてくれた西涼軍の将も話しに加わって欲しかった。しかし闇雲に捜しても時間を浪費するだけ、ピーン!と思いついた台詞を周囲に聞こえるように大声で叫ぶ
叫んでおいて、こんな方法で現れるなんて事はないよなと思ったその時
??「ここにいるぞぉお!」
背後から鳴り響く登場音と共に現れた1人の少女
いま鳴り響いた音や、どこから登場したのか、聞きたい事は多々あるが、突っ込みたい一心をグッと堪え登場した少女に話しかける
一刀「俺の名前は呂珂だ。え~と…君の名前きいてもいいかな?」
馬岱「がさつな西涼に咲く一輪の華!馬岱だよ!よろしくね!」
・・・・・
いきなりぶっこんで来た馬岱の挨拶に誰も反応が出来ない
普段はこれに乗っけてくるであろう一刀ですら呆気に取られている
馬岱「あれ?今回の台詞外しちゃったかな?次回に向けて改良しないと」
これに懲りず、機会があればこの登場台詞を言うと決めた馬岱
変な所で前向きというか・・・チャレンジャーな女の子である
馬岱「それはそうと、わたし達馬一族と、韓遂の争いに巻き込んでごめんなさい。今日は董卓さんの救援と、おば様からの謝罪の使者として派遣されました。」
馬騰は自分と韓遂の闘争に董卓を巻き込んでしまった負い目を感じていた
本来であれば自ら軍を率いて韓遂討伐に赴きたかったのだが、病気を患っているために長旅は出来ない・・・
長女の馬超は涼州では神威将軍と称えられる武を持ち、その場に存在しているだけで外敵の抑止力となるために本国から動く事が出来ない。そこで甥の馬岱に名代の白羽の矢が立ったのだ。
馬岱は馬騰から預かっていた書簡を董卓に手渡す
書簡には韓遂の暴走に対する謝罪やこの件に関するお詫びをさせて欲しいと書かれていたのだが、文の後半からは董卓の事を心配する”親バカ”のような内容が綴られていた。
馬騰は董卓がまだ小さい赤子の時から面倒を見ていた経緯があり、董卓を自分の娘だと思って接しているのだ。その溺愛っぷりは実の娘である馬超からも”実の娘”である自分にももう少し優しくして欲しいと愚痴を言われるほどだ。
手紙を読み進めていた董卓も馬騰から溺愛を受けている事は自覚しており、少し過保護すぎです。と内心思いながらも頬は嬉しさで緩んでいた。
それと同時に、馬騰をここまで心配させてしまった自分の失態を悔いていた。
馬騰は”巻き込んだ”と言ってくれたが、天水本城の護りを手薄にした自分の失態。太守となった身ならば、その地に住まう民を護る責務を負う。しかし戦を嫌う性格から軍備も最低限しか整えいなかった所を”付け漬け込まれた”のだ
たくさんの人が傷つく戦は嫌いだ
たくさんの人が不幸になる戦は嫌いだ
たくさんの大地に傷跡を残す戦は嫌いだ
彼女の民を愛する心は本物、治世の世ならば彼女のような指導者は光り輝く
そんな光に影を差すのが乱世という闇である
自分の器量ではこの先の動乱に流され、愛する民を失ってしまうかもしれない…
そう悟った彼女は大きな決意を心の中で固めた
手紙を読み終え、再び彼女が口を開きかけた時・・・簀巻きで放置されていたあの武将が意識を取り戻す
華雄「貴様ら!私を開放しろ!このような辱めをされ、黙っていると私だと思うな!」
・・・・華雄を放置していたのをすっかり忘れていた
華雄は諸将の”そういえば居たね…”との視線を浴びる。その視線を送る人の中には、華雄が敬愛する董卓の混ざっていた
華雄「董卓様も・・・私の事を忘れていたの・・・ですか?」
董卓の視線を受け、華雄は恐る恐る主である董卓に尋ねる
董卓は華雄の問いに気まずそうに顔をそむける・・・その行動が答えだった
ショックを受けた華雄は茫然自失となり、口から魂が抜け落ちたように真っ白な状態になる
賈詡「月もたまに酷いわね」
董卓第一に考える賈詡ですら、親友である董卓がトドメを刺した事で若干顔が引きつっている
しばらく気絶後、話しを進めたいために霞が無理やり叩き起す
一刀は自然に起きるまで待っても良かったのだが、霞が華雄に時間を割いて一刀といちゃいちゃする時間が減るのは嫌だと、男心をくすぐる台詞を言われたため、霞の行動に異論を挟む気は無くなっていた
一刀「華雄さんだっけ?霞と愛紗から話は聞いている。なぜ味方の指示と君主からの指示を無視して戦い続けたんだ」
華雄が話せる状態になったと見るや、すぐに本題をぶつける
主命や友軍の制止を無視した事は軍法違反に当たる。それでも、手柄を立てれば罪に問われない不文律は存在するが、華雄は何も手柄を立てていない
流石の華雄も交渉する材料が何もない事には気がついており、悔しそうな表情を浮かべるだけで無言を保っていた
霞「一刀、聞くだけ無駄やで?どうせこいつの頭の中には自分の武に対する誇りしかない。大方、敵に舐められっぱなしに腹が立っての暴走やろ」
一刀「つまり・・・はっきり言うと」
稟「春蘭様と同様に、ただの猪でしょう」
華雄「貴様ら!この私に向かってよくも言いたい放題いってくれるな!私が討ち取ってやる!」
一刀の言葉を引き継ぐように、稟は華雄をただの猪だと斬り捨てる。
自分を獣と一緒にされた事に激怒するが、いまだ拘束は解かれておらず、簀巻き状態のままで怒鳴るという全く迫力も感じられず、誰も相手にしなかった
霞「ぐるぐる巻きにされてる状態で凄まれてもなあ~」
馬岱「正直笑っちゃうよね~」
華雄「おのれ~貴様らまだ言うか!そこになおれ!私の武の餌食にしてくれる!」
とうとう怒りが限界を迎え、縛られていた縄をぶち切り、散々扱き下ろしていた一刀達を討つべく走り出す
董卓が矛を収めるように華雄に命を出すも、頭に血が昇っている華雄の耳にその声は届かない。
華雄を倒す事は簡単だが、疲れた状態で更に戦うのは避けたい一刀は、自分の隣にいた馬岱に耳打ちをしてその場を離れる。華雄は逃がさんと一刀を追うが、華雄の進行方向に馬岱が進路を阻むように乱入する
馬岱「そこの影の薄いお姉さん!たんぽぽが相手だよ!」
華雄「この期に及んでまだ言うか小娘!それに私は影薄くないぞ!?」
なぜだか解らないが、影が薄いと言われるのだけは許容する事が出来なかった
馬岱「・・・そうだよね・・・言わないのが本人のためだよね」
華雄「天下無双の武を持つこの私が影が薄いなどありえん!貴様のような小娘には一生訓練を重ねてもたどり着けない力を持っているのだ!」
戦場で愛紗に一撃に伸されたのを完全に忘れ、自分の武の極みを高らかに宣言する
しかも馬岱を小娘だと一蹴し、武の頂きまで昇華する事はないと断言したのだ。恋や一刀から見れば華雄も”今の状態”では決して武の頂きにたどり着く事はないのだが、相手が馬岱のため完全に調子に乗っていた
西涼の雄と呼ばれる馬騰、神威将軍・西涼の錦と称される馬超と比べ、自分の武勇が劣っている事は自覚している。それでもいつかは追いついてみせると努力を重ねている馬岱にとって、この発言は聞き逃せる内容では無かった。
馬岱「力ってあれ?猪みたく突進することしかできない無駄力?そんな力しかないから影薄いんだよ?なんでわからないのかな?・・・あ、そっか!猪だから理解できないんだ!ごめんね難しいこといって」
売り言葉に買い言葉
華雄同様に完全に頭にきた馬岱が口撃を発した
賈詡「ちょっとちょっと!なに煽ってるのよ!?これじゃああの馬鹿止まらないじゃない!」
これ以上の罵りあいは不味いと悟った賈詡は話しが通じる馬岱になんとか落ち着いてもらおうと説得を開始する
霞「さすが華雄やな~沸点低いでほんまに」
稟「そうですね、いい反面教師になります。自軍にいたら規律を乱す邪魔者でしかありませんが」
霞と稟の言葉に愛紗と明命は『うんうん』と完全に同意していた
華雄が激情している事に全く意を解さない4人に対し、賈詡は完全に焦っていた。
救援として駆けつけてくれ、親交の深い馬岱を傷つければ関係悪化は免れない、更に自分達に加勢してくれた呂珂達を敵に回せば自分達の存続に関わる・・・賈詡は顔面蒼白状態となっていた
そんな状態の賈詡に気がついたのか、霞がその心配は杞憂だと伝える
賈詡「ねぇ・・・霞、華雄はなんで落とし穴に嵌ってるのかしら」
馬岱「それはねぇ~!たんぽぽが猪さんを挑発してる間に、呂珂さんが落とし穴を掘っててくれたの!」
そう、先ほど一刀が馬岱に耳打ちした内容・・・馬岱が華雄を罵ってる間に一刀が穴を掘り、罠に嵌める事だった
悪戯が大好きな馬岱はすぐに一刀の提案に乗り、華雄と相対していたのだ。華雄から言われた言葉が馬岱の心に突き刺さっていたのは事実だが
愛紗「それで一刀様、”あれ”はどうしますか?」
一刀「あれねえ・・・董卓さん、大人しくするように説得出来ますか?」
董卓「そうですね・・・無理かもしれませんが、やってみます」
賈詡「むしろここまで挑発したのあんたらじゃないの!」
賈詡の適切な突っ込みがその場に轟く、賈詡がツッコミ属性を見せているために一刀と馬岱の悪ふざけが始まったとも言い換えられるが・・・
その後董卓の必死の説得により、なんとか華雄は落ち着きを取り戻し対話に応じる姿勢を見せた
一刀「話しを戻すが、なぜ味方からの2度に渡す撤退を指令を無視した」
華雄「しれたことよ!劣勢だろうが私の武にてすべての敵をなぎ払うたにめ決まっている!」
一刀「ふざけるな!お前のその行動で、死ななくて済んだはずの兵士がどれほど居たと思ってるんだ!その突っ走った結果、お前は敵将の1人でも打ち倒したか!?包囲され、あのまま戦っていたら貴様を待っていたのは”死”だ!」
一刀「自分の武勇を誇りたいのなばら1人で敵と戦え、兵士はお前の自尊心を満たすためにいるのではない。そんな武を奮ったところで、それは蛮勇でしかない、将の役目は敵を打ち倒す前に、自軍の兵士の命を1人でも多く守ることだ。兵の命を省みない将に兵はついてこない。華雄はそれを学ぶべきだ」
護るべき対象を見失い、自分の武の事ばかり考えている華雄に対し、一刀の堪忍袋が切れた。
兵士にも自分の帰りを待ってくれている愛すべき家族が居る、そしてその兵士が無くなったら悲しむ家族が居る事を華雄に思い出して欲しかった
一刀「董卓さん、華雄の身柄預かってもよろしいですか?」
董卓「それは構いませんが・・・どうするのですか?」
一刀「南陽太守・袁術殿の配下に知り合いがおりますので、その人物に心身を鍛えてもらおうと思っています。あそこの土地は豊かで各地の諸侯から狙われやすいですから、1人でも多く将がいる場所です」
豊かな大地を狙って攻め込んでくる外敵を退け、自分の武のためじゃなく『誰かを護るための武』を覚えて欲しい。そうすればきっと華雄は武の頂きに登ってくる器だと一刀は見抜いているのだ
華雄「董卓様、私はこの男を見返すためにも・・・私は南陽に行き、鍛錬に励みたく思います。董卓様の下を離れてしまう不忠をお許し下さい」
董卓「華雄さんが本心で行きたいと仰るのならば、私に止める事は出来ません。今まで私を護ってくれた事は忘れません、南陽に行っても元気に過ごしてください」
華雄「董卓様ありがたきお言葉にございます・・・張遼、董卓様の事はお前に任せたぞ」
董卓は永らく自分の事を護ってくれた華雄が居なくなる事に寂しさを覚えるが、このまま天水に縛るよりか、広い大陸を自分の足で見て回り、色々な経験をして欲しいと願い、自分の下から離れる事を許可を出す
賈詡「あんた大人しそうだと思ったけど、意外と激しいのね」
一刀「どうしても見過ごす事が出来なくてね・・・董卓さん、完全に内部の問題に口を挟んでしまって申し訳ない」
いくら窮地を救ったとは言え、旅人である一刀にが口を挟める権利はなく、完全に行き過ぎた行為であることに違いはない。華雄には偉そうに説教をしたが、自分もやりすぎだったと董卓に謝罪を入れる
董卓も自分では正す事が出来なかった華雄を導いてくれたのと、天水を救ってくれた恩人に対しとやかく言う事はしなかった。お咎めなしの判断に再度お礼を入れ、今度は馬岱に顔を向ける
一刀「馬岱さん、馬騰さんの事で聞きたい事があるんだけどいいかな?」
馬岱「おば様のことで?何々、おば様に興味もっちゃった!?」
一刀「そういう事じゃなくてね、馬騰さん体悪かったりするかなと思って、思い過ごしならいいんだけど」
馬岱「あれ、なんで知ってるの?たんぽぽ呂珂さんに言ったっけ?」
馬騰の病気は身内と手紙を読んだ董卓しか知らない重要案件、なんで一刀が知ってるのか問いたそうにしている馬岱を尻目に、なぜその結論にたどり着いたかを説明する
一刀「馬騰殿が健在なら馬騰さんが五胡に睨みを利かせ、馬超さんと馬岱さんが救援に来ると思うからね。馬超さんも来てないから、馬騰殿が体調不良で馬超殿が五胡に睨みを利かせてるのかなと思ってね」
以前の外史での知識で、馬騰に病魔があると知っていたとは言えず、それらしき言葉を並べて誤魔化す事にした。
馬岱「呂珂さん本当に武だけじゃなくて頭もいいんだね!呂珂さんの言う通り、おば様の体調が良ければおねえ様も来れたんだけど…」
医者にも見てもらったが手の施しようが無く、日々衰退していく体に長旅は難しく、西涼から動けないと馬岱は教えてくれた。
医学がまだ発達してない時代ならば、こういったケースも珍しくは無い。しかし、一刀の親友にはこの時代のスーパードクダーと呼ばれたあの男がいる、丁度タイミング良く、兵士の診察を終えた華陀がこちらにやってきた
一刀「華陀、いきなりで悪いんだが、馬岱さんと一緒に西涼の馬騰さんの診察に行ってもらえないか?馬騰さんの体を蝕む病魔はお前にしか治せない程強大らしい」
華陀「なに、そう聞いては見過ごせん!すぐに西涼に行き、診察しなければ!安心しろ一刀、後は俺に任せろ!」
愛用している針を高らかに上げ宣言する
決意表明を咎める気はないのだが、暑苦しい・・・女の子達の見解は一致した
馬岱「韓遂だけじゃなく、医者まで斡旋してくれるなんて…呂珂さん、本当にありがとう!何かあった時は必ず呂珂さん達の力になるからね!」
一刀「その時は遠慮なく頼らせてもらうよ、馬騰さんの体が心配だし、早く行ってあげて」
おば様が治るかもしれない、そんな希望を持たせてくれた一刀に目を輝かせながらお礼を言う馬岱。そんなお礼倒しに恥ずかしくなったのか、一刀は早く戻って華陀を会わせてあげなと促す。
その事を察した馬岱は最後に天真爛漫な笑顔を浮かべて西涼に戻っていった
一刀「あの子とはまた会いそうだな・・・さて、俺達の今後の行動だが」
董卓「お待ちください・・・呂珂さん、あなたに頼みたい事があります」
頼みたい事の内容を、天水に留まり力を貸して欲しいと予測した一刀は少し身構えるが、董卓の頼みはそんな予想を上回る内容だった
董卓「私の変わりに…天水太守となっていただけませんか」
この場に居る全員に衝撃が走る、太守の座を初見の人物に譲ろうとしているのだから驚かないはずがない。特に賈詡の動揺は激しく、主君である董卓にどういうことよ!と言い寄っていた。
流石の一刀もまさか太守の座を譲るとまでは一切予想しておらず、返答を求める董卓の声は耳に入らず、呆然と立ち尽くしていた
稟「董卓殿、あなたと一刀殿は今日始めてお会いしただけの、言わば赤の他人。そんな一刀殿になぜ太守の座を譲ると発言されたのですか?」
いち早く動揺から立ち直った稟が董卓の真意を聞くべく話しを切り出す
華琳の下で様々な案件を処理してきた稟だからこそ立ち直ることが出来たのだ
董卓「今回の件で、私は一国を護るには力不足を痛感しました。詠ちゃんにも霞さんにも・・・華雄さんにも色々な人に迷惑をかけてしまいました。だからといって逃げ出すわけにはいきません。でも私ではいずれ時代の濁流に呑み込まれ、護りきれなくなってしまいます。そうなる前に呂珂さんに天水を・・・私の愛する民達をお願いしたいんです。初対面で失礼なのはわかっていますが・・・呂珂さんお願いします」
そう言って董卓は頭を下げ一刀に願う
責任放棄と言われればそれまでだが、強者に国を任せた方がいいのは自明の理
このままいけばまた天水は他国に攻め込まれるかもしれない、もしその時破れ、韓遂のように野望高き人物に支配されるぐらいならば、話しを重ね信頼出来ると踏んだ一刀に国を任せたいと思っている
ようやく動揺から立ち直った一刀は、容易に返答していい内容ではないため、どうするべきかと悩みだす
稟「今後どう動くにしろ、我々には拠点となる国が必要です。この天水は中原から離れていますが、西涼の馬騰殿とは友好な関係が築けると思うのと、前漢の始まりの地である長安が目と鼻の先です」
私が助言するのはここまで、後は一刀殿が決める事だと伝え一刀の傍から離れていった
半ば受託するように仕向けているのだが、稟は直接的な答えは言わない。受けるにしろ、受けないにしろ、この返答は一刀自身から言うべき内容だと理解しているためだ
一刀「そこまで言っておいて、最後は俺に任せるって・・・稟は厳しいな」
稟「当たり前です、これも一刀殿を思う一心からの発言です」
一刀「まだまだ稟には敵いそうにないな・・・董卓さん、あなたの申し出……受けさせていただきます」
ずっと頭を下げていた董卓はがばっと顔を上げ、見る者すべてを癒すような満面の笑みを浮かべた
これには一刀も見惚れていたが、稟がゴホンと咳を入れ、話しを進めろと目で訴える
一刀「俺は一旦冀州に戻り、準備を整えて再度天水に戻る予定だ。その間の統治は今まで通り董卓さんにお願いしたいんだけど…やってもらえるかな」
董卓「わかりました。こちらが無理を言ってお願いを聞いてもらった立場です。呂珂さんが不在の間は必ず私が護ってみせます。それと改めて名乗らせてください、私の名前は董卓。字を仲穎、真名を月と申します」
賈詡「僕の名前は賈詡、字は文和、真名は詠よ。多分郭嘉には敵わないと思うけど、軍師やってるからなにかあったら言いなさいよ」
董卓と賈詡が自己紹介と真名を明かす、それに続くように今度は一刀、稟、愛紗、明命が自己紹介と真名を伝え、最後に霞と続いた
一刀「それじゃあ俺は一度冀州に戻ります。愛紗は天水に留まり、霞の怪我が悪化しないように見張って欲しいのと、外敵から護ってくれ」
愛紗「そう言われると思っていました、張遼殿と董卓軍の事は任せてください。私が睨みを利かせ、賊などの外敵から護ってみせます」
霞「え!関羽残ってくれるの!?一刀太っ腹~~!」
愛紗ならば安心して任せられる、そんな一刀の心が伝わったのか愛紗は喜んでその任を引き受ける。
そんな愛紗とは別に、以前から愛紗大好きだと公言している霞の喜びは凄まじく、怪我を忘れて跳ね回り、痛めた箇所から鈍痛が響きその場に蹲ってしまった。そんな霞を見かねた愛紗が看病を始め、霞は恍惚の表情を浮かべて看病されていた
一刀「霞の愛紗好きも変わらないな・・・稟、明命行くよ」
稟「はい」
明命「了解です!」
新しい仲間とかつての仲間を得た一刀は意気揚々と桂花等が待つ冀州へと足を進める
これで一刀の旅は終りを告げ、本格的に行動を開始する事になる
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董卓の願いと決意
2016/1/30 手直し完了