蒼天の御遣い ~第一席~
「さてさてさて、今度は一体どこだ?記憶リセットったって、ここは三国志の世界だろ?えーと……曹操、劉備、孫権……」
新たな外史に派遣される直前、外史の狭間で貂蝉がいった、記憶のリセット。
しかし、場所はわからなくても、これが三国志の世界で、武将はほとんどが女性である、なんていうことはわかる。たしか、真名ってのもあったな。勝手に呼ぶと殺されても文句は言えないっていう……。ま、俺に真名を預けている人は誰もいないけど。
一刀は、まだ、記憶がリセットされていることには気づかない。思いつく限りの武将を挙げるが、彼女たちから一度は、別の外史で真名を預かっていることなんて覚えていない。
つまり……生まれてからずっとここに住んでいるような感覚で、一応の常識は身についているのである。
正直、ここがどこかもわからず、近くに町がある気配もない。
とりあえず川に沿ってぼんやりと歩いてみる。
「あ、誰かいる」
川のほとりでうずくまっている少女がいた。見た目、年は一刀と同じくらいである。
「すいません!この辺に街はありませんか!」
川の葦の陰にいた少女は、ビクッと体を強張らせ、ゆっくりと振り向いた。
「誰だ?」
「あ、これはすみません。北郷一刀と申します。どうも、道に迷ったようで、この辺に街はないかと……」
少女は、自分がどこにいるのか確認するようにあたりを見渡したが、一刀の問いに答える前に一刀を葦の茂みに引っ張った。
「静かに」
訳が分からないまま、一刀が息をひそめていると、土手の上を走っていく数人の兵がいた。
「行った……か」
「あれはなんだ?君は追われているのか?」
少女はうなずいた。
「一体誰に……?」
「……何進」
「何進!?」
一刀がうっかり大声で聞き返したときだった。
「そこに誰かいるのか!?」
土手を駆け下りてくる数人の足音が聞こえた。
「……っ!」
少女の顔がみるみる青ざめていく。
一刀は足音を数えた。
1, 2……6人である。
一刀は刀を2本とも抜き、少女のほうを見た。
青ざめた少女と目があった。藁にもすがりたいという目で一刀を見返していた。
「そこにいたか!張譲!何進大将軍のご命令である!神妙にしろ!」
兵の一人が叫んだ。一刀はゆっくりと刀を構えた。
「生憎だけどね。彼女は俺が守る。なに、うっかり川に落ちて取り逃がしたとでも報告しとけばいい」
「どけ、小僧。大将軍の命令なのだ。貴様も逆賊となるぞ」
「どっちが逆賊かは知ったことじゃない。勝てば官軍、負ければ賊軍……っと、時間かけるとやばいから……死ね」
後ろの一人が反対側から回り込もうという動きを見せたので、一刀は自分から、兵にとびかかっていった。
刀の切れ味すさまじく、骨をも滑るように斬る。通り過ぎるたびに兵の首が落ちる。もちろん、一刀の腕、速さも素晴らしいもの。6人の兵は何も言えないままに絶命した。
「大丈夫かい?君はほんとにあの張譲なの?」
茂みから出てきた少女に一刀が振り向く。
「そうだ……」
張譲はやや、顔を赤くしている。
「十常侍は宦官って聞いたけど」
「僕は一応宦官だよ。……女じゃない。悪いことをしたな。この歳でアレを切り落とすのは勇気がいったよ……顔と声は変わらないと思ったんだが」
顔も、声も、仕草も、完全に女のそれである。
「どっちかなんて関係ないさ。追われて、ふるえてたから助けただけだよ」
「べ、別にふるえてなんか……!」
「それはそうとして、街はどっちだって?今日の宿も探さなきゃいけないし、できれば案内してくれるとうれしいんだけど」
「北郷……やけに態度が大きいな。……ま、助けてくれたんだから、しょうがないか。……ねえ、さっきの戦いぶり、どこかに士官していたのか?それに、その服は……」
「何処にも。じいちゃんに小さいころから仕込まれた。この服は、聖フランチェスカ学園の制服だ。……2千年後……ぐらいかな。東の島国にある」
張譲は、いまひとつピンとこないようだ。当然である。
「なら、お前があの、『天の御遣い』なのか?」
「なんだ、それ?」
「管路の予言だ。『天より飛来する光に乗りて、一人の青年が降り立つ。その者こそ大陸に安寧をもたらすであろう』と」
「ふーん。……俺はそんな大した人間じゃない。それに、天なんて名乗れるわけがないだろ」
張譲は、少し黙っていたが、やがて口を開いた。
「なら、天を名乗れるまで、やってみたらどうだい」
「何を?」
「漢室は腐れきってる。十常侍の僕が言うのもなんだけど。もし本当に漢に安寧をもたらすのなら、やってみようよ。僕が手伝う」
「手伝う、って?」
「北郷の武は、先ほど見せてもらった。それに、本当に2千年後から来たのなら、漢の未来も、諸侯の動きも知っているはずだ。北郷が協力してくれれば、僕は何進を倒せるかもしれない。そうすれば北郷、君の出番だ」
一刀はしばらく考えていた。さっきも言ったが、どっちが逆賊かなんて知らない。しかし、一刀の知っている三国志の十常侍は、私腹を肥やして、皇帝に偽りを述べ、漢の滅亡を招いた元凶である。しかし、目の前の少女……いや少年は、そんなことを考えている様子ではなかった。むしろ、天の御遣いという予言に頼っても、大陸に安寧をもたらそうとしている。
一刀は刀を鞘に納めて、張譲に向き直った。
「わかった。やってみよう。俺は絶対張譲を守る。張譲も死んではいけないよ。民の安らぎを確かめるまで」
張譲は満足げにうなずいた。先ほどより、顔の赤みが増した気がした。
「では、今日から僕の家に住みなさい。さっきも追われてたけど、僕の身は安全じゃない。図々しいけど、僕が死んではいけないのなら……守って」
一刀は自分の武が、どこまで通用するのか、分からなかった。
「俺の武がどこまで使えるのかわからないけど、絶対に」
「ありがとう。僕の真名は
「勿論だ。改めて、俺は北郷一刀。真名はないから、一刀と呼んでくれればいいよ」
二人はガッチリと握手を交わした。
どうも。中心軸最新話を投稿する前に、ちょっと一息……的な感じではじめてしまいました。
正直、見切り発車です。
乙女大乱の張譲がめっちゃ可愛かったので、宦官だと知りつつ、書いてしまいました。
アニメでは微妙に胸があった気がするんだけどなぁ……。
中心軸の合間に執筆するので、めったに蒼天最新話が投稿されないかもしれません。
その点は、ある程度ご承知おきください。
中心軸最新話は、今日の20時頃投稿する予定です。
いきなりですがすいません。
一刀の双剣(刀?)の銘をどなたか考えていただけないでしょうか。
コメント欄にでもちょこっと。お願いします!
張譲の真名は勝手につけさせていただきました。
「またオリキャラ物かよ!」
というコメントは、ちょっとお控えください。
今作は、オリキャラといっても、アニメに出てきた者しか使いません。
つまり、多くても……7人ぐらい?
まあ、孫静とかは予定にありません。何進は確実ですねw
その分、一刀にはやっぱりチート補正かけさせていただきます。
とりあえず、長い目で読んでいただければ幸いです。
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中心軸の合間にちょこちょこと書いていこうかな、と。
中心軸とは一切のクロスはありません。
ご了承ください。
※追記:タイトルを変更しました。すいません、結構即席です。
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