No.736130

『舞い踊る季節の中で』 第162話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 憎きもの。おのが主を誑かす極悪人。無限の性欲を持つ天の御遣い。
 おのが身の周りを容姿幼き者で固める変質者。
 音々は、音々は欺されたりはしないのですぞ!

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2014-11-09 17:14:04 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4072   閲覧ユーザー数:3166

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百陸拾弐話 ~ 蓮の咲く音に耳を傾けるは幼き魂 ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

 

 

 

 

 

 

 

 

音々(陳宮)視点:

 

 

 

「侯成隊が壁基礎を終えた場所に、高順隊は石を運び込むです。 ついで眭固隊は運び込まれた石を順次積み上げてくのですぞ。 其処っ!丁寧に順番なのです。 もし崩れたらやり直しになるのですぞ。それにその後に陶板を張る作業が待っているのです。此処で手を抜いたのなら後々に響くのです」

「陳宮様、水路の方が」

「構わないのです。工期の遅れに関係なく丁寧な仕事をするよう宋憲隊に伝えるのです。水路は此処だけで使う訳では無いのですぞ。多くの民の生活用水にもなる以上、丁寧に仕上げる方が重要ですぞ。 遅れている分は此方が進んでいる分、明日から人を廻すのです」

 

 建築中の建物を囲うように組まれた足場は、作業を安全に効率よくするためのもの。 なんでも丸太足場と言う天の知識の一つらしい臨時の櫓の上で、音々は全体の作業の状況を見ながら指示を飛ばして行くのです。

 戦でも鍛錬でもなく、労役と言う名の屈辱の作業を、音々達は歯を喰いしばってやるしかないのです。

 恋殿が孫呉には降らないと決めた以上、労役から解放される事は無く。 周瑜が言ったように孫呉とその民に対して、最低限の労役を示してみせねばならない。

 それは良いのです。良くは無いのですが仕方なき事。

 恋殿が決め。そして更紗達も武人としてこの仕打ちを受けいれた以上、音々に文句を言う資格は無いのです。

 あるとしたら……。

 

「くっ、面白くないのです!」

「は?」

「なんでも無いのです。此方の事ですぞ。 それよりも張楊殿の隊は?」

「予定通りと仕上がると連絡が入っております」

 

 伝令兵に元の部署に戻るように伝えてから、半月ほど前の事を思いだすのです。

 孫呉の玉座の場で、恋殿が正式にあの忌々しい男の臣下になる事が決まったあの日。

 

『じゃあ、君にはさっそく働いてもらおうかな』

『何で音々がお前の言う事なんか聞かねばならぬのです』

『そう言う訳で冥琳、彼女の軟禁は解除させてもらうよ。俺の臣下になるんなら構わないだろ?』

『ああ、好きにするがいい』

『聞くのですっ!』

『悪い悪い。別に無視していた訳じゃないんだ。

 それと、俺のお願いを聞くか聞かないかは、君が決めてくれればいいから』

 

 そう言って音々に突き付けてきたのは、恋殿達が労役に服させられている建築現場を指揮する事。

 

『君が指揮するのなら、きっと凄く作業効率が上がるだろうからね。 君のその力が在れば君の仲間達を早く労役から解放できるんじゃないかなと思っただけさ。 それに建物がきちんと出来た上に、工期が短くなるのなら孫呉としても助かるだろうしね。

 さっきも言ったけど、これは俺のお願いだから、むろん断ってくれても構わない』

 

 そう言われたら、音々に断れるわけないと知っていて。あの男は嫌みったらしく音々の自由にしろと言ってきたのです。

 むろん其処に下心などない事だけはなんとなく分かったのですが、像棋の時と言い今回の時と言い、まったくあの男は何を考えているのです。

 しかもこの話を聞いた恋殿は……。

 

『……ん、音々が来てくれた。力強い。 音々、寄越してくれたおにぃ、優しい』

 

 とあの男を疑う事どころか、あの男を称賛するですし。

 色々と話の分かる愛殿さえ……。

 

『なるほどね。無責任な噂の方はともかくとして、随分と面白い人物のようね』

 

 などと、何故か興味を持たれてしまうばかりか、何処からか聞きつけたのか、逆に音々があの男に蹴りつけようとした事を嗜められてしまったのです。

 真白は…。

 

『別に嫌な匂いはしなかったのですよ。

 愛さまと一緒で、ぽかぽかとあたたかい御日様の匂いだったのです』

 

 と良く分からない事で判断してくるし、更紗は…。

 

『恋殿は某達の事を含めて決断されたと某は信じている。

 むろん音々の言う通り警戒はしておくが、必要以上に警戒するのも判断を誤りかねん』

 

 と、杓子定規な性格通りの言葉で現状留置を示したのです。

 侯成と宋憲は判断材料が少なすぎる事と、恋殿が認められた事を理由に更紗と同じ意見。

 愛殿は張遼殿の所でも色々何かを聞いていたようですが、皆、警戒が薄すぎるのですぞ。

 此処の建築工事もあと数日もすれば目途が立つのです。そうすれば恋殿は初め、愛殿や更紗達をあの性欲の権化と噂されるあの男の近くで働かす事に、 かと言って恋殿達に何時までもこのような事をさせておくわけにも…。

 だいたい、あの気持ちの悪い笑みはなんなのですか。

 きっとあれで噂通り女を誑かせているに違いないのです。

 

 あんな温かい笑顔で……。

 無害を装った笑顔で……。

 恋殿と何処か同じ匂いで……。

 問答無用で此方を包み込むような雰囲気で……。

 

「音々は、音々は、そんなものに騙されたりしないのですぞぉーーっ!」

 

 

 

 

「……ん? 音々、壊れた?」

 

 

 

 

 

 

 

 やがて工事を始めてから一月という月日は流れ。

 

 

 

 

ざばーー。

「はぁ~~~~~~~~」

 

 身体を包み込む心地よい湯の熱さに、思わず声が漏れ出るのです。

 まだまだ色々と残ってはいるのですが労役の最後の最後になって、天の技術を使っていると言う【ぼいらー】とか言う湯を沸かす道具の大型化の試運転を兼ねて、こうして作業を労した音々達に解放するなど孫呉のれん中も粋な事を考えるのです。 ……もっとも、あの道具を設置した部屋の頑丈さからして、扱いを誤れば、危険な絡繰と言う事ぐらいは想像がつくのです。つまり音々達は安全に実用段階にまで動作させる事が出来るかどうかの実験台という処なのでしょうな。

 他にもなにやら色々と細かい決まりごとが在るみたいですが、こうして湯に思う存分に浸かれるのならそれも悪くないのですぞ。

 

「ん……気持ちいい」

「そうですなぁ、恋殿」

「あぁ……、それにしても……肩が凝った~……」

「更紗、年寄りくさいです」

「煩い。某はお前と違って重い石運びとか基礎作りとか、重労働ばかりだったんだ。これくらいは言わせろ」

 

 更紗の言う事は最もなのですが、幾らなんでもうら若き乙女が、風呂に浸かるなり言う台詞では無いですぞ。

 こう言うガサツな所が音々としては更紗を認めれない所なのです。

 

「それはともかくとして、髪くらいきちんと纏めるのですぞ。湯に髪が浸っているのです」

「うるせいな」

「決まり事とは理由があるからあるのです。

 自分一人がと言う甘い気持ちが、多くの者を規律を破らせる事になるのですぞ」

「……更紗、…決まりやぶる、…だめ」

 

 恋殿の言葉に大人しくなる更紗の赤く綺麗な髪を、手っ取り早く上で纏めてやるのです。

 むろん、幾ら更紗相手でも髪を乱暴に扱う事などしないのですぞ。

 髪は女の命なのです。せっかく恋殿に似た赤い髪を乱暴に扱う事などできないのですぞ。

 

「前もって髪と体を洗う事で、湯船をなるべく綺麗のまま他人に明け渡すのが目的。髪を湯船に浸さぬのも同じ事。次の者達が気持ちよく使える様に、と。脱衣所に大きく書かれていたですぞ」

「某は文字が読めねぇって知ってるだろうが」

「大きく絵でも描かれていたですぞ」

「……それは気が付かなかったなぁ」

 

 つい先ほどまで、絵のとおりにしていたと言うのに往生際が悪いのです。

 大方、久しぶりに髪と身体をお湯で思う存分と洗った気持ちよさに、つい失念してしまったと言う所でしょうな。

 そんな事よりも、今はこの湯の気持ちよさを堪能すべき時。 まだまだ後が(つか)えている故に、早く出るべきなのでしょうが、もう少しだけ、この広い湯船を堪能したとしても罰は当たらぬのです。 恋殿が教えてくださったように、百を数えるくらいは許されてもいいはずなのです。

 そうしてゆっくりと六十まで数え終えた頃、広い浴室の外。 脱衣所が必要以上にざわついている事に気が付く。何事かと眉をしかめた時。

 浴室の扉を開けて入って来たのは、長い桃色の髪を高く結わえて纏め上げた褐色の肌の女性と…。

 

ざばっ!

 

「てめぇ、何しに来た」

「……風呂場に何しに来たもあるまい」

 

 もう一人の姿を見るなり湯船から立ち上がる更紗は、浴室に足を踏み入れた甘寧を睨みつける。

 

「……それよりも、少しは前を隠すくらいはしろ。 幾ら女同士とは言え、大股で身構えるものではあるまい」

「ちょっ! てめぇ何を見てんだっ!」

 

じゃぼんっ。

 

 もっとも甘寧の溜息交じりの言葉に、顔を真っ赤にして慌てて音を立てながら湯に潜る嵌めになったのですが。 ……まったく何をしているのですかと思いつつ。甘寧の言葉にしろ、更紗が大人し…くはともかく、湯に浸かり直した所を見ると、相手にその気はないのは確か。更紗の性格はともかくとして、そういう所は信頼出来るのです。

 その証拠に相手も…孫呉の王である孫権も丸腰どころか音々達と同様に服すら身に付けていない。

 

じゃばー。

 

 なにより己が身体を何度か湯掛けをするなり、無防備にかつて敵対した音々達のいるこの広い湯船の中で、態々音々達の目の前に入ってこようとするのです。

 

「……駄目、先…身体洗う」

「心配するな。ここに来る前に一度水浴みをしてきた」

 

 そうして恋殿の言葉を無視するのでもなく、我等に断りする事も無く湯に浸かり。

 

「ふぅ…………、良い湯だな。

 城の物の何倍もある広さが、また心地よい」

 

 無警戒も程がある程に力を抜き、弛緩させながら天井を仰ぎ見上げる。

 

「何のつもりなのです」

「なに、こうして、貴様等と共に同じ湯に浸かり、話をしてみたいと思ってな。

 知っているか? 天の世界では、このような共同の浴場では、身分も何もないそうだ。

 王も……、将も……、兵も……、民も……同じ人間。

 この中では同じ湯に浸かり、一日の疲れを落とす。

 そして明日のために、その心と身体を癒すために、他愛もない事を話をし、そして笑い合う。

 天の世界では、それを裸の付き合いと言うそうだ」

 

 それは此の浴場の入口に大きく書かれていた【この建物中に置いて身分も上下関係も捨てるべし】の言葉の元になったものなのでしょう。 そして同時に書かれていたのが【一切の諍いを禁じる】の言葉。

 なんとも呑気で…そして平和な惚けた考えだと思いつつも、そんな考えが浮かぶことが羨ましいと思えなくもないのです。

 結局は何が言いたいかと言うと、この女は此処に争いを持ち込む気も無く、同じ目線で持って音々達に会いに来たと言っているのです。

 

「まずは一つ伝えておこう。

 今をもって、貴様等をこの労役の任から解放する。今日まで大義であった」

「どういうつもりなのです。まだやるべき事は残っているのですぞ」

「必要ないな。見たところ残っているのは細々とした事や仕上げのようだしな。

 これ以上、本職でもない貴様等に、雑な仕事をされてはかなわぬ」

 

 その話はそれで終わりだ。と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ。

 

「何故、この仕事を貴様等にやらせたか分かるか?」

「そんなもん。ちょうど良い重労働・」

「天の技術の流出を最低限に抑えるためですか」

 

 更紗のお馬鹿な言葉を遮って、音々は答えるのです。

 湯が地の底から湧き出しているでもなしに湯治場を作るとなれば、大量の湯が必要。そしてその大量の湯を沸かす事の出来る【ぼいらー】とか言う技術だけでなく。この建物に使われている手法や作業の行程、そればかりか水路に使われている石積みや、その切り出し方法に至るまで、音々の知識に無い物ばかり。

 これだけ大規模な建物となれば、その天の技術の秘密を守るのは厳しいのです。必要と在れば関わった者達を全員処分する事もいとわない者達を使うのが最良の手段。

 その可能性を睨んでいた音々は、順番を待つと言う名目で、愛殿達に何時でも動けるようにお願いしていたのです。音々に油断は無いのですぞ。

 

「違うな。 その程度の事なら、態々誇り高き将兵たる貴様等にやらす必要などなかった」

 

 音々の考えを見抜いた訳でもないですね。

 話が僅かにずれているのです。

 ただ、孫権は王としての目でもって、此方の警戒心を見極めただけなのです。

 

「この浴場は、一刀の建策でもって成された政策の一つ。

 それを貴様等に身を持って知ってもらうためだ」

 

 そうして、孫権は語るのです。

 この浴場が、民に何を齎すのかを。

 身体を洗い身を清めるだけでは無い事を…。

 民がこの浴場を切っ掛けに少しでも心が安らぐように…。

 明日へ生きるための希望を失わずに済むように…。

 あの男が、此処に使われた技術を民の目に晒される事を惜しむ国が、いったい何を目指すのかと皆を説得していた事を…。

 

「ですが、その話には大きな矛盾があるのです。

 この街の全ての人間が、この施設を使えるわけでは無いのです。

 使えるのは、それだけの余裕がある者達だけですぞ」

「ああ、その事か。 ならばその心配はない。 金をとる気などないからな」

「……は?」

 

 孫権の言葉に音々達だけではなく。 聞き耳を立てていた周りの者達まで、その言葉の意味に驚き、迂闊にも振り返るのです。 浴室中の人間の視線に気にする事も無く、孫権は話を続け。

 そもそも、金をとらなくとも、孫呉にとって恩恵と見返りは十分にあると。

 民が身体を清めることで、病の発症を抑えたり広がる事を減らす事が出来るだけでなく。そのことで街全体の生産性を高める事が出来る。

 なにより、こう言った共同の施設を使わせる事によって、学の無い民に最低限の道徳と礼節を教える事が出来ると。

 建物の前にあった文字と絵だけでなく、浴室の壁一面に描かれていた浴場の使い方と決め事の壁画。

 むろん口頭での説明もして行くとの事。それが口から口へ伝わって人にゆけば良いと。

 そうする事が当たり前なのだと、思えるようになるまで…。

 そうして行く事が大切なのだと、思えるようになるために…。

 

「湯に入るのは楽しかろう。 私とて楽しいし、貴様等とてその思いは同じであろう。

 だが、その楽しみを皆が堪能するためには、皆が其れを守る事が必要だ。

 そして、それはこの湯だけでは無い。多くの事に其れが存在する。

 この湯に浸かってくれた民が、少しでも其れに気が付いてくれれば、我等にとって十二分に見返りはある。

 人が人であるために……。人が助け合って生きて行く事を忘れぬように……。 なにより人が獣に落ちにくくするために……。一刀はそう言って皆を説得して廻った。

 お前達は、そうした一刀の心を知る義務がある」

 

 恋殿があの男の目覚めを待つと言った時から、恋殿が孫呉では無くあの男に降る事を周瑜が予見した折から決めていたのだと。

 どんな無責任な噂が在ろうと、音々達が仕えるべき男が、どういう男なのかを知っておくべきだと。

 自分達の主である恋殿が信じた人間が、どんな事を成さんとする人間なのかを……。

 そして……。

 

「呂布よ。 貴様が何も企んでいない事だけは信じよう。

 一刀を義兄と慕うのならば勝手にすればよい。 だが、これだけは覚えておくがいい。

 その一刀の優しさに付け込み。 想いを裏切り。 もしも一刀とその家族を本気で泣かせるような事があるならば、我等孫呉、全兵をあげて貴様等を討つ。たとえ何処に逃げようともな」

 

 肌が一瞬にして泡立つのです。

 温かい湯に入っていると言うのにも拘らず、凍てつくような冷水の中にいる錯覚に陥る。

 孫権、彼女は言った、この湯の中では身分など関係ないと。

 そしてその通り彼女は王と言う衣を脱ぎ捨て、同じ湯に浸かり同じ目線で持って語っていた。

 なのに今の一瞬、確かにこの湯どころか、この浴室そのものを目の前の女が呑み込んだのです。

 例え剣を置き、いくら王と言う衣を脱ごうとも、この女は王なのですな。 自ら王であらんとした時、その心と魂を光らせた時、幾ら装飾を捨てていようと、たとえ薄汚れた出で立ちをしようと、王気を隠せるものではないのです。

 たとえ音々が知っている者達に比べ、未熟であろうともです。

 

「……恋、おにぃ護る。

 ……恋、おにぃの代わりに戦う。

 ……だから、その心配、必要ない」

 

 そして恋殿には、そのような事は無意味。 恋殿は何事も無かったかのように、その御心の中の断片を孫呉の御王に告げる。

 恋殿の(あるじ)は恋殿自身。 そして我等の主が恋殿である以上、恋殿への忠義の魂が音々達を守ってくれるのです。

 そう。恋殿があの男を守ると、そう決めたのなら我等はそれに従うのみ。

 恋殿があの男の剣なると言うのならば、我等は弓となり矢となり騎馬とならん。

 あの男を守るために盾となると言うのならば、我等は敵兵を寄せ付けぬ城壁へと。

 恋殿があの男を(あるじ)とするのならば、我等は全身全霊を持って、って違うのですぞっ!

 恋殿は王なのです。決して、決して、あのようなヘラヘラと笑うだけが能のような男が、恋殿の主などと認められぬですぞーーっ!

 まったく、あの男が絡むと、どうにも調子が狂うのですね。

 今は目の前の事に集中すべき時。

 

 注目すべき事は幾ら武具を取り上げられ文字通り丸裸だとは言え、護衛の人間をたった一人だけで、殆ど単身で敵の中に乗り込んでくる豪胆さ。……ではなく、その中であって尚も毅然とし、輝きを失わぬ王としての魂。

 ……なるほど。これが孫呉の新しき王ですか。

 武の腕は愛殿にすら及ばず。

 名声たるは、その姉たる孫策や、母たる孫堅に比べるまでも無く。

 経験も、一族を纏める力すらも未熟。

 

 ………ですが、此れは伸びるですね。

 

 虎牢関の時は目を向けるまでも無かった。

 先の戦での会談の時は、勢いに乗れば厄介かもと思う程度。

 ですが、先日。そして今、目の前。

 彼女から発する覇気からして違うのです。

 愛殿との戦いが彼女を成長させたのか……。

 あの男が重傷を負った事で成長せざる得なくなったのか……。

 それは分からぬのですが、……これは、あの領主が見誤ったのも無理はないですな。

 かつて官軍として、多くの王や野心ある者達を見てきた中で、彼女のような積み上げて行く事で大きく成長してゆく人間は、早々に潰されてきたのです。

 それが此処まで国が大きくなるまで守られてきたというのは、彼女の才覚に逸早く目を付け。その眠れし才能に嫉妬を抱く事無く、守り続けて来た者がいたからこそ。

 

 ……見事ですな。

 

 音々が素直にそう感嘆したのは、問われるまでも無く目の前の相手では無く、後者。

 この乱世の中に置いて、王になれるほどの器を持ちながら、その能力と天運を味方にせし者に。

 生き残るだけでも必死な世の中に置いて、国を建て、国を大きくし、太平の世を目指しながらも、その更に後の世を見据える事の出来た人物に。

 

「聞いてのとおりです。

 恋殿がそうだと決めたのならば、我等は通すべき筋は守るのですぞ。

 孫呉の王よ。見誤るななのです。恋殿は誇り高き英傑。其処らのような似非英傑と同じに語るなど、無礼にもほどがあるですぞ」

 

 ならば音々達も応えてやるのです。

 例えこやつらが危惧するような事があるとしても、それ相応の筋は通す事を。

 いつの日にか恋殿が目を覚まし、この地を去る事になる時ですら、天下無双たる英傑たらんとして見せると。

 立ち上がりながら……。

 恋殿を掲げながら……。

 その事に嘘も偽りも無いと……。

 胸を張って言って見せるのです……。

 

「なに、無い胸張ってるん・」

げしっ!

「ぐぼっ」

ばしゃーーんっ

 

 なにか更紗の寝言が聞こえたようなのですが、黙らせたので問題ないのです。

 寝言と共に更紗にあの男の顔を重ねたら、身体が思わず反応したのです。 だいたい胸の事で同じような更紗に何かを言われたくはないのですぞ。

 その更紗で、先程の甘寧の言葉を思い出し、足だけは座って湯船に隠しながら、何事も無かったかのように左手で恋殿を掲げてみせるのです。

 

「……今の蹴りは、恋でも避わすのが難しい」

 

 れ、恋殿ぉぉ……。そ、其処は黙って音々に合わせてくれるところですぞ。

 せっかく音々が盛り立てようとしている所に、どんな時でも平常心を失わない恋殿の発言に、心の中で涙を流しながら耐えるのです。

 って、何を笑ってるのですかっ!

 音々の刺すような視線に、笑いを殺しきれていない孫呉の王は咳払いをしながら……。

 

「お前達の様な者達の方が、仲間としては一刀に合うのかもしれんな。

 それが分かっただけでも、こうして足を運んだ甲斐があった」

 

 そうして立ち上がった姿は、………ぐっ、悔しいですが、完璧なのです。

 王としてなど恋殿と最初から比べるまでも無き事。

 完璧なのはその女性の象徴とも言うべき胸に、腰、そしてお尻への曲線。

 隠そうともせずに堂々と立つ姿が、よりそれを完成度を上げて魅せるのです。

 恋殿や愛殿もそう言う意味では決して負けてはおらぬのですが、此ればかりは流石の恋殿も危ういのですぞ。

 とくにお尻の曲線が、大きすぎず小さすぎず。それでいてツンと上がっていて、将来においても少しも垂れる事など予想だに出来ない曲線。

 

「……ところで其処の其れ、そろそろ引き上げてやらんでも良いのか?」

「は?  って、更紗ーーっ。お前は何をやってるのです!」

 

 ついでとばかりの甘寧の言葉に、慌てて湯船の中に沈む更紗に気が付き。慌てて引き揚げて両頬を叩きながら、呼び覚ますのです。

 

「邪魔をしたな」

 

 なにか後ろから聞こえてくるのですが、今はそれ所では無いのです。

 

「更紗、起きるのですぞっ!

 そんな所で寝たら死ぬのですぞっ!」

 

びしっ。

ぱしっ。

 

「うっ、」

「更紗! 起きるのですっ!」

 

 何度目かは知らぬですが、手がいい加減痛くなって来た頃、更紗の呻くような声に滲んだ視界が吹き飛ぶのです。

 

「そ、某は……あぁ……、どうしてたんだ?」

「湯に逆上せたのですぞ」

「そ、そうか……、いい加減疲れていた所に長湯だったからな」

「さぁ、とにかく湯から上がるのです」

 

 色々と素っ飛ばした説明などより、今は逆上せた頭と体を冷やすべき時と、更紗に肩を貸してやるのです。

 真水を被せ素早く水気を拭き取った後、着替えを手伝ってやるのです。幸いな事に、更紗は大草原どころか、草一つ生えぬ荒れ地のようなお子様体型なので、何かに引っかかるような苦労も無く簡単に終わらせれるですぞ。

 そして着替えを終わらせれた頃には、外に待機していた愛殿が駆け付けてきてくれたのです。

 更紗が湯あたりした事だけ(・・・)を簡単に伝えると共に、

 

「皆、聞くのですっ!

 長きに渡った辛苦な日々によく耐えてくれたのです。

 我等は、今日、この時より、栄えある呂・奉先殿の軍へと還る時が来たのですぞ!

 聞くがよいのです。 我等は敗軍の悔しみと悲しみを乗り越え、たった今この労役の任より解放されたのですぞ!」

 

 手直にあった椅子に乗り上げ、声高々と皆に宣言するのです。

 例え腰の下着一つと言うはしたない姿と言えども、皆に少しでも早く伝えてやるのです。

 どうせ此処は女湯なのですし、もう一つの腕で胸は隠してある以上、無用な心配は無用です。

 ただ、音々が不甲斐ないばかりに此処まで苦汁の日々を味あわせてしまった皆の心を、少しでも早く解放手やりたくて…。

 誇りある恋殿の将兵らしく、敗軍の責務を無事に果たしきった事を誇りとして持たせたくて……。

 最後の最後まで気を抜く事は出来ぬのですが、それでもこの一瞬を伝えたくて、音々は力強く声と手を空高くあげるのです。

 何処までも声が届くように…。

 上げた手は何かを掴みとるかのように…。

 今、此処に音々達が解放された事を…。

 

 湧き上がる将兵達の喜びの声。

 すでに着替え終えた者か、それとも着替える前の何人かが外へこの事を伝えに走って行くのです。

 皆、思いは同じなのです。

 湧き上がる喜びを一人でも多く、そして少しでも早く伝えたくて…。

 その喜びを一人でも多く分かち合いたくて…。

 皆手を振り上げ、顔をくしゃくしゃに破願し、喜びの声を上げるのです。

 そんな中、詳しい事は後でとだけ言い残し、愛殿は更紗を涼しい所へと運んで行くのです。

 

 

 此れで更紗の事は一安心なのです。

 色々な意味で一安心なのですぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

あとがき みたいなもの

 

 こんにちは、うたまるです。

 第162話 ~ 蓮の咲く音に耳を傾けるは幼き魂 ~を此処にお送りしました。

 

 今回は、先の戦で見事に敵の策に嵌って、軍師らしい事は何もさせてもらえなかった恋姫こと音々音ちゃんの視点から物語を描いてみました。

 最期の方にお笑いがあるのは、恋姫の世界らしさと言えば聞こえは良いのでしょうが、単なるシリアスになれない私の作品の仕様です(マテw

 そんな訳で、音々ちゃんの受難はまだ続いたりします。

 

 さて、私事ですが、今回の第三章-群雄割拠- 第三部-呂布編はある程度纏まってからの発表となったため、連続して投稿する事が出来ましたが、この辺りからまた書き溜めては投稿したりと、更新が遅れることとなりますが御容赦ください。魏VS袁はたぶん、そのまま執筆と投稿と行けそうですが、三国決戦はまず間違いなく決戦終了まで書き溜めてからの投稿となります。 ……ぶっちゃけて言えば、話の辻褄合わせだったり執筆力不足に陥るだけだったりするんですけどね(汗

 それと、この度、執筆に使っているPCを買い替える事にしました。高校の入学祝いの一つとして買ってもらったPCですが、なんやかんやと五年近くの月日が経ち、スペック的にはまだまだ問題は無いのですが、怪しい症状がチラホラと見え隠れし始めたのもあり、どうしようかと思っていた所へ某林檎印が二年半ぶりの更新を発表をしたのを機会にPCの更新を決めました。もともと大学の合格祝いに同社のAIRを親に買ってもらってはいたのですが、執筆するのならばデスクトップ環境が気分が乗るんですよね。 何より、ノートは首が痛くなるんですよね。 そう言う訳でPCの環境移行と習熟のため更新が余分に遅れるかもしれません。

 

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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