真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-
第百陸拾壱話 ~ 奏でる音に刃は砥ぎすまれん ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
一刀視点:
目を覚まして五日。華佗のおかげで何とか外を歩ける程度に回復した俺は、リハビリがてらの散歩で挨拶回りをと城に赴いたわけで。 毎度のこととはいえ、たくさんの人達に心配をかけただろうから、少しでも元気な姿を見せようと、さっそく前方から歩いてきた見知った顔へと明るく声をかけたのだけど…。
「よっ」
「………貴様は、ここで何をしている」
まるで親の仇を見るかのようなキツイ視線を返してくれるのは、鈴の音の甘寧こと思春。
彼女の場合、視線がキツイのはいつもの事だけど、なんか今日はいつもよりキツイ気が…。何か不機嫌になるような事でもあったのだろう。と勝手に判断して。
「見ての通り、顔を見せがてらの散歩」
「……ほう、そうか。貴様はよほど寝込みたいと見える」
「なんで、そうなるのっ!」
何故かいつものごとく腰の後ろから
ヒタリッ
「ちょ、ちょいまち」
むろん、病み上がりの俺にこの世界の達人達、…と言うか超人達から逃げるすべなどある訳も無く、
あっさりと、首下に剣を突きつけられると言うか……、
「……あ、あの、おもいっきり当たってるんですけど……、もしかして…本気?」
「……それは貴様しだいだ。 もう一度だけ聞いておいてやる。 私にこんなにも簡単に剣を突きつけられる程度の身体で、何をうろついている」
「いや、だから寝てばかりだと身体が鈍るから、こうして軽い散歩ついでに皆の顔を見たいなぁと思って」
「……ほう、……ちなみそれは貴様の判断か?」
「一応、華佗には短時間ならばと」
「……ふん、ならば最初からそうだと言え」
と、何とか理解をしてくれたおかげで剣を離してくれたのはいいんだけど、そんな暇がどこにあったのかと突っ込みたいけど此処は突っ込まいでおく。また余計にややこしくなる事くらいは学習したからね。
今のだって一応は思春なりに手加減をしてくれていると分かるんだけど、ごく普通の人間代表の俺としては十二分に恐い。
無理すればそれなりに動けなくはないけど。せっかく、くっつきかけている骨が折れたらたまらないと言うか、散歩に出かけて再骨折だなんてしたら、はっきり言ってただの馬鹿だもんな。
それにしても、いつも以上にきつかったよなと思いつつ、その分心配を掛けたのかも……ぁっ。
「もしかして、思春、心配してくれたんーーーーっ!」
ヒタリッ!
「……貴様は余程この首の上に乗っかかっている物がいらぬと見えるな」
「喰い込んでる喰い込んでる。肌に喰い込みかけてるってっ」
「……なに、少し髭があるようだから、剃ってやろうと思ってな」
「そ、そんなので剃られたら、髭どころか皮ごとになるから、ぜひともやめてもらいたいなぁと」
「……遠慮する事は無い。無精髭ごと醜いものが無くなって、さっぱりするかもしれんぞ」
「ならないっ。ならないからっ!」
「……ところで貴様、先程、何か寝言をほざいていたようだが」
「い、いえ。 思春が…って、最後まで言わせて、最後まで! 思春が、俺を心配してくれる人達のために嫌な役を引き受けてくれたんだな。と言おうとしただけです。はい」
「……ふん、まぁいい。」
今度こそ正真正銘解放されると共に、深~い溜息を吐き脱力する。
ああ…、照れ隠しにしても酷い目に遭った。 実際、剣を動かされた時は本気で心臓が止まるかと思ったよ。おかげさまで剃り残しの髭を何本か綺麗にできたけど。
むろん、俺だって黙って剣を突きつけられていただけでは無いぞ。ちゃんと思春に男らしく堂々と意趣返しはさせてもらってる。
俺は、心配してくれている人達と言ったんだ。むろん俺としてはその中に思春も含まれているので、思春はそれを認めた上で剣を引いた事になる。どうだっ! ………と、心の中で威張っても空しくなるので、止めておこう。くすん。
何とか誤解が解けた思春に『怪我人にうろうろされては邪魔だ』と言われたものを、脳内で勝手に『怪我人は怪我人らしく早く帰って寝ていろ』と変換しながら思春と別れた後、中庭の隅に佇む東屋に再び見知った顔を三人発見。 近づく俺に気がつく穏と亞莎の二人に、手で俺に構わず続けるように促すんだけど。
かたっ。
「ぬぉっ! …………ぐぐぐっぐっ、ないのです」
穏が盤上の手を無造作に動かしたかのように見えたと共に、もう一人……陳宮が奇妙な叫声を上げたと思ったら自ら悔しげに己が負けを認めたところだった。
なるほど像棋か。 趣味をかねて軟禁中の陳宮の暇潰しに付き合っていると言ったところか。
「もうよろしいので?」
「おかげさまで、散歩に出るくらいは何とか。心配を掛けたね」
「い、いえ。ゎ、私なんて、特に何かが出来たわけではなく……そ、その一刀様が、早くお元気になる事をお祈りするくらいしか。……はぅぅ……」
「うん、そう言う事が嬉しいなと思ってさ」
「はわわわわっ」
二人の勝負が付いた事を見計らって、声を掛けてくれる亞莎の嬉しい言葉にとびっきりの笑顔で応えながら、穏にも心配してくれた事をお礼の言葉を言うと…。
「いえいえ、どういたしまして〜。穏としては何もお役に立てませんでしたし、こうして一刀さんが快復に向かわれたのなら何よりですぅ〜」
「いやいや、そんな事ないって」
「そうですかぁ? なら、穏としては、一刀さんが書かれた本の一つでも目を通させていただければ」
「うん、それ無理」
「って、そんないきなり殺生じゃないですかぁ。少しぐらいは考えてくださいよぉ」
「いや、だって冥琳と翡翠から、穏に本を直接渡したり見せたりするなって、厳重に言われてるから」
「其処を曲げてお願いしようとしたんじゃないですかぁ。 くすん。一刀さんの意地悪。いけず。不能。へたれー」
引っかかる言葉があるものの、可愛く拗ね始める穏を何とか宥めながら、盤上を眺めると、其処にはだいたい四十〜五十手目くらいで終わっているのが目に付く。それにしてもこの駒の配置。ふ〜ん……、なるほどね。
「で、戦績は?」
「くっ!」
「えーと、私が四勝一敗ですぅ〜」
「わ、私は、三勝一敗一分けです」
「一分け?」
「そ、その、途中でお仕事が入ってしまったので」
俺の言葉に苦々しく睨み付ける陳宮を余所に、穏と亞莎が律儀に答えてくれながら、そんなものかもなと何となく納得。俺としてもこの残された駒の配置からして、陳宮に興味を持ち。
「俺と一つお手合わせ願い出来るかな?」
「何で音々がお前などと、やらねばならぬのですか」
うん、嫌われたもんだな。
でもこれくらいで引っ込むくらいなら、最初から言いだしたりしない。
十手で構わないから、つきあって欲しいとしつこく願うと。それで俺を追い出せるならばと思ったのか陳宮は承諾してくれる。
……結果は言うまでもなく引き分け。ルールすらも知らないずぶの素人相手にならともかく、流石に十手で勝負が付くはずもなく、こうなる事は最初から目に見えていた事。 陳宮もこれ以上俺につきあっていられないとばかりに席を立とうとするが、俺はそれを再び引き留める。
「二人に一つ面白い頭の体操を教えてあげようと思うんだけど、陳宮には少しつきあって欲しいんだ。ほら、君に付き合あってくれた二人のためと思ってさ。俺は少し離れて観戦しているだけだから」
ほとんど強引に巻き込むように告げてから、俺は庭の隅にいる守兵さんを一人呼びつけ、一つ簡単なお願い事をする。
別にたいした事をやるわけではない。像棋のルールに少し付け加えるだけ。変更点はこんな感じ。
● 兵士さんは三つ数える毎に次の手を打つ。
● 打ち手は其れまでに、駒を動かして手を離さなければならない。
● 手が鳴るまでに駒から手を離させなければ、その駒は元の位置に戻して、その回は駒を動かさずに終わる。
早い話が像棋の早打ち。事前に相手の打つ手を全て予測しておいて打てるような、とんでもない人間もいるけど、その時は直前に審判の人に駒を一つずつ無作為に動かしてもらった処から始めるだけの事。
「では始めます」
ぱんっ
兵士さんのかけ声と共に始まった勝負。
結果は先程の戦績とは全く逆。穏が十七手目で判断が遅れて一手飛ばされたのが原因で…。元々武人であった亞莎はついて行けたものの二十四手目で手詰まりで投了してたけど。 実質はその二つ手前で詰んでいた。
こうなった理由は単純。このルールでは常套手段な手ばかりならともかく、少し変わった手を打たれた時に思考する時間は一秒未満。即決即断で何処まで幾通り先を読めるかに掛かってくる。
「面白いだろ? ゆっくり考える事によって思考の枠を広げる像棋と違って、思考方法が異なってくるし、思考の圧縮の練習にもなる」
「うぅぅ……こんなの像棋じゃないですよぉ〜」
「反射的に凡手を打っていては、反応できる相手には勝てなくなります。 単純なようでいて奥が深いですね」
穏も亞莎も感想はそれぞれだけど、自分の勝負をさせてもらえずに負けては面白くないはないよな。
そして、勝った方もまた。
「なんの、つもりなのです。音々に媚びでも売ろうとでも言う魂胆ですか」
…まぁそう思われても仕方ないか。
「まさか、ただ単にもったいないと思ってさ。
穏も亞莎も、せっかく自分達とは違う天才が目の前にいるのに、その相手の土俵で学ばないのはね」
それだけ言って、今度こそそうそうに東屋を後にする。
これ以上、長居して嫌われたくないと言うのもあるけど、渡り廊下から此方を睨んでいる眼鏡の麗人をこれ以上放っておくと後が怖いからね。
「大方、動けるようになったから、散歩のついでに我等に挨拶に来たと言うとこか」
「話が早くて助かります」
黙って冥琳の執務室に連れて行かれるなり、開口一番に仰られる事は流石は冥琳。 何処かの赤い人と違って剣を喉元に突きつけるどころか、何も言わなくても此方の状況を把握してくれる。
うんうん、此方の労力も減るし、時間の節約、エコロジー。 特に俺の心が擦り減らないところがポイントが高い。地球にも俺にも優しいな冥琳は。
「であれば、本来でならば王である蓮華様や、総都督である私の処に真っ先に挨拶に伺うのが筋の処を、遊び歩いていたとか、まさか言うまいな」
………うん、気のせいでした。
こっちの赤い人も、エコロジーさはともかくとして、俺には優しくないよな。と、わずか三秒の心変わりの冗談はともかく、俺の心が擦り減る事には違いないわけで。
「そのつもりだったんだけど、つい寄り道をね。
あははは、悪気は無かったんだ。と言う訳でごめんなさい」
これ以上は擦り減りたくないので、素直に頭を下げて謝っておく。
そこっ、ヘタレ言うなかれ。もともとそのつもりだったんだし、自分に非があると認めたら素直に謝罪するのも大切な事なの。 何かを背負っているならともかく、それで事が丸く収まるなら安いものだしね。
「まったく。雪蓮にも、お前の百分の一でも素直さが在れば、少しは楽が出来るというのに」
「それはそれで物足りなくなるんじゃないの?」
「否定はしないでおこう。 それはいいが、その辺りの返しが雪蓮に似てきたぞ」
「うそっ!」
我ながら雪蓮に失礼だと思わなくもないが、それ以上に冥琳の言葉に我ながらショックを受ける。
だって、あの我儘ハチャメチャ食っちゃ寝酔っぱらい元王こと雪蓮に似てきた。と言われれば誰だって衝撃を受ける。むしろ受けるなって言う方が無理と言うものだ。 うん、冥琳なりの冗談かもしれないけど、一応は気を付けておうっと。
って、そうそう、そう言えばその話に出てきた雪蓮はと聞くと、生憎と街の方に出ているとの事。
蓮華や祭さんも近くの街に出かけており。 翡翠と深月(魯粛)さんは、街のお偉方々と大事なお話し中らしくまだ時間が掛かるらしい。 シャオは美羽と七乃と共に荘園に行ってくれているらしい。…もっとも勉強から逃げる口実も兼ねてらしいけど、其処は七乃がきちんと美羽や春霞を使って互いを刺激しているらしいので、冥琳達としては、こっそりとは言え自分から勉強しているならばと黙認中。
明命も外に出ているらしいけど家でも会えるので良いとしても、此処までいなかったり手が離せないとなると運が悪かったとしか言いようがないな。 そして、冥琳は冥琳で……、
「私は門兵から、貴様がノコノコと顔を出したと報告があったのでな。
今日の所は邪魔だと追い返しに行っただけだ」
「ひどっ! いや、…勝手に遊びに来た俺も悪いけど、もう少し相手をしてくれても良い気がするんですが」
「今回は怪我で免除してやってるが、戦の後は色々と忙しくなるのは知っていよう。ただでさえ多忙なのに加えて戦後処理で忙しい私に何を期待している?」
「すみませんでした。 直ぐに帰ります」
失敗したなぁ。ここ数日は寝て起きての繰返しだったから、すっかり忘れてたと言うか惚けてた。そう言えば、こういうのも寝惚けてた事になるのかな?
聞けば、穏も亞莎もいったん部屋に仮眠を取りに行く前に、軟禁中の陳宮の相手をしてやっていた所だったらしい。
「まぁ良い。茶の一杯分ぐらいは休憩したいと思っていた所だ」
帰ろうと背中を向けた所へのお優しい言葉。うんうん、なんやかんやと優しいなぁと思いつつ本気で長い禁物だなと、心の中に留めながら、さっそく冥琳が淹れてくれたお茶を啜る。うん、人の淹れてくれたお茶って、どうして美味しいんだろうな。きっと、淹れてくれた人の心が美味しいんだろうなぁと、我ながらクサイ事を考えていると。
「それにしても嫌われたものだな」
「……ん~……、もしかして陳宮の事?」
「他にも心当たりがあると?」
突然の話の持って行き方に戸惑いつつも、心当たりがあるかと聞かれたら……そんなに無いわけで。
逆に陳宮に嫌われる心当たりはと聞かれたら、………まぁ、無い事は無かったりする。
「あの戦では、まったく軍師の役割をさせてもらえなかったのだ。 そしてそのせいで自分だけでは無く、己の主や仲間達を敗軍と言う目に遭わせてしまった。 しかも貴様の指示でそう貶められたと知れば当然だろうな」
…やっぱりそうなんだ。
くだらない事を誰かが吹き込んだとか言うつもりはない。どうせ早かれ遅かれ知られる事にはなる。
あの戦、将兵にはまだ武人としての誇りがあった。でも彼女のような軍師が軍師たらしめているのは、周りに手足となる将兵がいてこそ。 その手足となる部隊を分散させられ、陳宮と恋の直属部隊も冥琳と七乃が指揮する北郷隊に動きを封じられたなら、非力な彼女に出来る事など何もない。
それは彼女にとって、あの戦においては戦えなかったも同じこと。おそらくは、かなり悔しい想いをしている筈。
「あやまるなよ。 それが戦と言うものだ」
「……あぁ、分かってる」
彼女なら、その悔しさをバネに出来るだろうしね。冥琳の忠告にそう答えながら、彼女の淹てくれたお茶を呑み込む。その想いと共に…。
結局、あの後は早々に帰宅。おまけに冥琳に…。
『街や市場で、貴様がうろついていると言う報告が届いた時は、分かっているな?』
と、ありがたい御言葉をいただいたら大人しく帰るしかないわけで。一応、明日なら蓮華達も時間が取れるらしいと言うか、動けるようになったのならなったで話があるらしく、そのために時間を作ってくれるらしい。 ……なんだろうな。この手のパターンって、どうも嫌な予感しかしないんだよな。
えーい、今は嫌な事を考えていてもしょうがない。まずは怪我に支障がない程度に体力を取り戻さないとな。 この無駄に広い屋敷の敷地を散策するだけでも、今の俺にはちょうど良い運動にはなる。
それにしても、門から門へと繋ぐ道に並べてある木々には、季節季節には綺麗だろうなぁ。表門から順に梅、桃、銀杏、そして桜。 でもこの桜って、どうみてもこの辺りにある山桜とかじゃないよな。何というか見慣れた桜の木に近い気がするんだけど。 ……まさか、以前に話した島まで、わざわざ採りに行ったとか言わないよね?
「うん、考えるのやめ。 かかった費用を考えたら怖い」
こういう木々や花は愛でるものであって、かかった費用を金額換算するものじゃない。此処まで来たら職業病かと疑いたくなる考えを、無理やり振り払うように。
おぉー、この木なんかあの枝の張り方が良い具合だなぁ。広場みたいになっている庭への立ち位置といい。高さといい。上に登って背中を凭れさせながら寝るのにちょうどいい感じだ。
では早速、大自然の背凭れの具合を確かめに……。
……はい、怒られました。
正確には庭師さんに泣かれてしまったんだけど。
怪我人であり天の御遣いである俺が木登りしているのを黙って見ていたと知られたら、管理不行き届きで此処を追い出され一家揃って飢え死にするしかないと言われては、聞き入れるしかないわけで。 ……そのかわり、怪我が治ったらぜひとも利用してくださいと言ってくれる。
うん、この庭師さん遊び心と言うものを判ってる。 というか、そもそもこのいい感じに張り出た枝も庭師さんの仕事かもしれないな。
この無駄な広さにはどうにも慣れそうもない屋敷だけど、こうして親しみが一つずつ増えてゆくのは良い事なんだよな。 たぶん。
【翌日】
「……はい?」
案内されるままに向かったのは、何故か蓮華の執務室ではなく玉座の間。
孫呉の御偉方の面々が並ぶ中に、いきなり放り込まれて泡をくったし、そのことを知った面々が笑みを浮かべていたのは良くはないが、まぁそれはよしとする。
怪我があるから、戦後の事務処理の手伝いの免除も気が引けるものの、心の中では諸手をあげれるから問題は無い。
戦勝祝いと言う名目で、俺が迷惑を掛けた方々に俺主催で宴をあげるのも自業自得だから我慢するし、祭さんとの約束もあるから此方から話を振らないと思っていただけに、そう言ってもらえるのはむしろ有り難い。 準備に巻き込まれるであろう七乃達には悪いけどね。
問題は……。
「蓮華、もう一度言ってくれないか?」
「今一度言おう。 先の戦で我等に投降した呂布達だが、一刀の所に行く事になった。
言っておくが、朱然達ような北郷隊とは意味は違うぞ。あやつ等は北郷隊であっても、あくまで孫呉の家臣だからな」
「……つまり、俺の部下では無く、家臣と?」
「そうだ」
「無理っ!」
だってそうだろう?
ただでさえ天の御遣いとか意味不明な立場で、あんな無茶苦茶広い屋敷を与えられて戸惑っているのに、呂布を始めとする将兵って言うと、五千人近くいるのに、いきなり其れが俺の家臣なったから、後は任せただなんて言われて、そう簡単に納得できるわけがない。なりより俺にそんな度量も資格もない。
そもそも……。
「どこをどうなって、そうなったかは知らないけど、何でそんな話になってるんだよっ!
だいたい家臣っていう事は、俺が食わしていかないといけないと言う事だろ? 言っておくけど、俺にそんな甲斐性なんてないぞ。小遣いを確保するのにも七乃に縋っているくらいだからな」
自分で力いっぱい力説しておいてなんだけど、我ながら理由が情けなくなるな。
けど、こればかりは本当の事だから仕方がない。
「はぁ……。 一刀の小遣いの事はともかく、私とて無茶を一刀に言う気はないわ。そうね、このことはお姉様から説明を聞いてもらった方が話が早いわね」
「そうそう、あまり私の可愛い妹を見くびってもらっては困るわ。
一刀には、ちゃ〜んとあの娘達を養える力があるから、そうなったのよ。 一刀覚えてない? 製塩のために土地を使いたいって以前に言ってたこと」
いや、忘れてないよ。でも幾ら何でも、あの製塩所の儲けだけで五千もの将兵を養える訳がないし、そもそもあそこの利益は美羽達の活動の資金源にもなっているから、一時的というならともかく、永続的ともなると、はいそうですかと簡単に引き受けるわけには行かない。
「だから、あのときにあの辺りの土地を全部、貴方の物にしていたのよ。
後々面倒くさい事にならないようにね」
そう言って、雪蓮が見せてくれた証文と権利書、それに地図………はい? ……あのすみません、これ伊豆半島くらいの大きさがありませんか? 俺が使わせてくれなんて言った土地なんて、これに比べたら本当に爪先の垢みたいな物なんですけど。
「あの時に一刀に話しておいても良かったんだけど。 一刀の事だから絶対に腰が引けて文句言われそうだったから、いっそのこと黙っていたのよ」
「あっ、あっ、あっ、あたりまえだーーーーーっ! 何を考えてるんだ、お前はーーーーっ!」
「でも安心して良いわよ、管理はウチの子達にやらせているから問題ないし、手数料はちゃんともらってるもの」
「そう言う問題じゃないって言ってるんだっ! …っ、痛ぅっ、てててて」
「言っておくけど、あんまり元気一杯に叫ぶと、怪我に響くわよ」
遅いわっ!
身体全体で叫んだおかげで傷に走った痛みに耐えながら、雪蓮を睨み付けてやる。 ……が、いかん面白ろがっているだけだ。
これ以上この歩く非常識人間と話していてもラチがあかない。此処は常識のある人間に。って翡翠。何で其処で横を向くんですか? と言うか考えてみたら翡翠がこの件に噛んでいないわけないよな。そう言う意味では冥琳達も同類か。 そもそも、こうして玉座の場で王の意見として話を通した以上まともに取り合ってくれる奴はそうそういやしない。
くっ、ならば。部屋の隅に目を向け。
「恋、君は其れで納得できるのか?
絶対に俺なんかより、孫呉の下にいた方が絶対にお得だぞ」
きっと、このためにだけにこの場に呼ばれたであろう恋と陳宮に武威五将軍達。その先頭に立つ恋に俺はうったえる。 恋は言っていた。恋には守るべき家族が居ると。ならば、孫呉にいた方が守りやすいはず。俺の臣下になったところで、何も良い事なんてないぞ。…たぶん。
「ふるふる。 恋、おにぃ守る。
……それに、恋、約束したのはおにぃと。
……恋、おにぃには負けたけど、あっちの人達には勝った。だから降るならおにぃ」
ぎしりっ。
そう言って、恋が指差したのはよりにもよって明命を含む雪蓮達四人。……うわぁ、恋さん。こういう場でそういう事をやられると。後々、俺が非常にまずい事になるんですけど。
うん、見たくない、見たくない。この広い玉座の間の空気を一瞬で軋ませる事が出来る原因を発している人達を見たくないです。 …でも、見ないわけには行かないんだろうなぁ。そうでないときっと後でもっと酷い事態を引き起こしそうな予感がするし。
………うん、やっぱり見るんじゃなかった。
だってね。言わなくても分かるでしょ?
「はぁ……、疲れた」
結局、一触即発かと思われるほどに一方的に高まった人達を治めるには、俺が泣く泣く折れるしかなくなり、あの場を無事に収めた後。 改めて蓮華の執務室で淹れてもらえたお茶で、渇いた喉と共に心も癒したいと思っても罰は当たらないと思う。ついでに反省。
「………で、結局、俺はまんまと踊らされたという訳ね」
「お前が本調子ではない病み上がりならば、付け入れれるだろうと思ってな」
悪気たっぷりな事を言いながらも、悪気はないとばかりに肩を竦めながら笑みを称えている冥琳に、俺は自分の迂闊さと馬鹿さ加減に心の中で悪態を吐く。むろん、先程の玉座の場での出来事のことでだ。
恋達はともかく、蓮華達側は最初からグルで、恋の言葉に激高して見せたのも芝居。まぁ半分は本当に怒ってはいただろうけど、あの四人の性格からしたら怒るとしたら自分自信にだろうね。
その本人も、今は軟禁中の陳宮を残して武威五将軍達と共にこの場にはいない。彼女達は彼女達のやるべき事を果たすためにね。
まったく病み上がり早々に、これだけ問題を山積みされたら、誰だって溜息だって出るさ。そんな俺に蓮華は…。
「一刀、黙って事を運んだのは悪かったとは思ってるわ
ただ、一刀にはそろそろ責任ある立場になってもらおうと思ったのよ、今回はその良い機会だと思っただけの事」
今まででも、十分に責任ある立場だったさ。
「一刀はもっと、大きな事が出来ると思っているわ」
雪蓮の時と良い、蓮華と良い、姉妹揃ってとんだ過大評価だ。
俺はそんな器じゃない。
「そう思っているのは私だけじゃないわ。皆が貴方なら民を…いいえ、多くの人達を幸せにする事が出来ると信じているわ。 そうでなければ、皆がここまで協力してくれるわけがないもの」
ただ、この世界より進んだ知識を持っているだけだ。
しかも中途半端で使えないものばかり。それを皆が補ってくれているおかげで、何とか形になっているだけに過ぎない。
「それにね一刀。今までも確かに重責だったかもしれないわ。 でも、それだけだったのかしら? 民を幸せにしなければならないと言う重みだけじゃなかったはず。 嬉しい事も楽しい事も其処にあったはずよ」
それは否定しない。
辛いとか、悲しいとか思う以前に、逃げ出したいと思った事なんて何百回だってあったさ。
でも出来なかった。明命の事や翡翠の事もあるけど、そんなものは言い訳でしかないって知っている。
楽しかったさ。街を歩くたびに活気づいて行く事が…。
嬉しかったさ。耳を傾けるたに楽しげな声が聞こえてくるが…。
もっと頑張ろうと思えたさ。みんなの笑顔が増えて行くたびに…。
なにより、守って行きたいと思ったさ。大切なものが増えるたびに…。
「だから、一刀にはもっと羽ばたいて欲しいの。孫呉とかそう言うのは関係なしにね。
私達は示しただけ。彼方が、彼方の思うままに羽ばたける場所をね」
「はぁー……、それで、あんな広大な土地の管理と、五千もの家臣と数万人もの民の命と生活への責任か。
どれだけ期待されているんだよ。俺は…」
「あら、これでも小さいくらいよ。
もっと広大な土地をと言う意見もあったくらいなんだから」
そう言って蓮華は地図に上がった候補の土地を指さして教えてくれるのだけど、それはどうみても房総半島や四国くらいの面積が在ったりするし。 中には、海を東に少し渡った大きな島だったりと、俺の常識の範囲を軽く超えてくれる。
「でも姉様や翡翠が一刀の性格を考えたなら、まずは此れくらいにしておかないと、夜逃げしかねないと言うものだから」
前半はともかく、後半は絶対あの突発性悪戯発生症患者の元王様に決まっている。
蓮華も頼むから、あんな人間の言う事を真に受けないでくれと言いたいけど、今回ばかりは助かったと言うべきなのかもしれない。 ……が、事の元凶はそもそもあの傍迷惑な元王様が原因なのだから、一欠片も感謝の意は浮かばないけどね。
「蓮華の想いは分かった。
で、冥琳はどう言うつもりだったんだ?」
何の事だと惚けようとする冥琳だけど、アンタがそんな程度の訳けないだろが。
蓮華とは別に俺に逃げられないように企んでいる筈。違うかと問い詰めてやるとあっさり白状した。と言うか、俺に留め刺す気満々だよな、あの目は…。 前々から思っていたけど、冥琳って絶対Sだよな。 鞭も持っているし、むしろ女王様か。
「一つ目は、人材の問題だ。 先の戦であの街を管理していた者達の多くを文字通り首を挿げ替えることになったわけだが。 その人材を確保するために、北郷の土地を仮初に管理していた者達から起用するためもある」
「人手不足だからにしては理由が弱いな」
「二つ目は、天の知識をどう使って街を管理するかを見て見たいと言う意見もあってな」
「……実験場か。身も蓋も無いな。 民が知ったらどう思われるか考えた事は?」
「確かにそう言う側面も無いわけではないが、北郷がそう言うつもりで政をやる気はあるまい。
民の幸せを望んでの事だと言う事は信じられるからな。なら、それで構わぬではないか。 民とて、為政者が自分達の幸せを祈ってる者ならば歓迎こそすれ、嫌がりはせぬもの。 我等はより良い方向があるならば、それを知りたいと思っているだけの事だ」
其処に、そこそこ能力があってと言う条件が抜けている。幾ら周りの者が能力が在ろうとも、配下の者達の不正や失敗を見抜けない程の無能や、踊るだけならともかく踊らされるだけの人間では意味が無い。
「三つ目は、お前の所の二人の事だが。
我等に隠れてコソコソしている件を、なるべくそっちでやってもらいたい。あまりこの街や周辺でやられては、我等も誤魔化しきれなくなる」
「……まだ問題になる程やり過ぎてはいないはずだが」
「ああ、だが五月蠅い者達が多いのも事実だ。それは分かってほしい」
怨敵だの、奴隷の分際だのは隠れ蓑の口実で、本音は利権とか天の知識の独占とかか。そのままでは使えないものばかりと言う事も理解できずに、天の知識と言う名前だけで飛びつく連中か。
肝心の事は洩れてはいないだろうが、噂そのものは防げやしないか。 翡翠達にも迷惑はかけているだろうなと思ってはいたし。 俺自身、七乃に頼んで色々とやってもらっている事があるから、其処を突かれると痛いな。
冥琳としては、その方が此方としても、やりやすくなるはずと言ってくれているだけの事。
「四つ目が」
「まだあるのか」
「お前にとっては、此方の方が気になるだろう事だ」
「……恋、呂布達の事か」
「ああ、我等が呂布の意見をそのまま受け入れたのには、それなりの理由があったと言う事だ」
「だろうな。王として、武人としての誇りがある蓮華はともかく、アンタがそんな甘い判断を下すとは思えなかったしな」
「酷い言われようだな。 だが、それは私への信頼とも取れる」
「言ってろっ」
「呂布達の力に関して言えば、我等としては必要な時に使えれば良いだけの事。 その問題はお前に協力を仰いだ形をとれば問題にならない。ならば本人達が望むようにしてやる方が後々使いやすいと考えただけだ。それにな、お前なら巧く使えるだろうと言う信頼もある。
まぁ他にも理由はあるが、言葉にするなら、そんなところだ」
つまり冥琳的には、恋や陳宮の性格を考えたならば、自分達の所で厄介事を引き起こされるより、恋の望み通りに俺の所に置いた方が、問題が少なくする事が出来ると考えた。と思えば良心的な解釈だろうな。
信頼どうこう以前に、呂布を仲間として迎え入れたのはいいが、蓋を開けたら扱いが難そうなので俺に押し付けた感が満載だ。むろん、それさえも建て前だろうけどね。 まったく……。
「そんなところ……ね。よく言うよ」
「大分、目が覚めてきたようだな」
「おかげさまで、怪我を理由に寝惚けていたらこれ以上、何を背負わされるか分かったものじゃないと痛感したばかりだからね。嫌でも目が覚めるさ」
所詮、今回の事なんて切っ掛けに過ぎない。
領地の事は遅かれ早かれ俺にやらせようと決まっていた事に違いないだろしな。 買い被りもいい所の傍迷惑な行為だと思うが、俺に拒否権が無いのは今に始まった事では無い。 精々、皆を巻き込みながらやらせてもらうだけだ。 特に押し付ける気満々だった冥琳とか、周瑜とか、公謹とかを徹底的にね。
問題なのは……、
「一応確認しときたいんだけど、君等はそれで良いのか?」
「良い訳がある訳ないのですっ!」
おぉ~見事に言いきった。清々しい程の反対っぷりの陳宮の言動に、思わずいつもの調子を取り戻して行くのが分かる。
「なんで、なんで、音々達がこんなっ!こんなっ!こんなっ! 碌でもない噂ばかり立つエロ変態の底無しの性欲の御使いと言われるコレに仕えねばならぬのですかっ!」
うわぁ~、嫌われているのは覚悟していたけど
コレ扱いの上、此処まで言われちゃうか…。覚えのないよく聞く噂の方はともかくとして…。
「だったら、恋を説得・」
「貴様如きが恋殿の真名を気安く呼ぶのではないのですっ!」
此方も無理やり呼ばされるようになったんだけど、これを今の陳宮に言っても仕方ない事なので、とりあえず今は呂布と言わせてもらって話の続きを促すと。
「音々とて、音々とて、恋殿を説得したのですぞ。 ですがそれでも恋殿が『恋の
うん、本気で悔し泣きしながらそんな事を言われると、俺がこの娘を泣かしているみたいで気がひける。翡翠や美羽の例があるから実年齢はともかくとして、少なくとも見た目が小さな子を泣かせると言うのは俺の心を深く抉ってくるわけで。
『わぁ、おにいちゃん、女の娘を泣かすなんて最低だよ』と言う妹の声が…。
『女の娘は優しくしないと駄目よ。たとえ相手が悪くても其処を我慢して、相手に納得してもらうように努力するのがカッコいい男の子なんだからね』と子供相手に何を諭していたんだと思う姉弟子達の言葉が…。
良心の呵責に苛むんだけど。耐えれたのは、あまりと言えばあまりの俺への悪口だったりするのは、この際はおいておくとして。
「其処まで思うんなら、俺からもう一度説得してみようか?」
「何を言うのです! 恋殿の熟慮の上の判断を、貴様程度が文句を言うなど千年早いのですっ!」
うわぁ、程度呼ばわりされちゃったよ。 まあ、それは半分あっているから別にいいけど、それなら俺にいったいどうしろと?
「だいたい、恋殿に数合も持たずに地面に這いつくばるしかなかった連中や、
はぁ………、なぁ冥琳。本気で押しつけたわけじゃないよね?
って、なんでそこで我関せずとばかりに窓の外を見るの? その態度も冗談ですよね?
と、答えなんて聞かずとも分かっている事を、自分の中で突っ込みながら心を落ち着かせ。
「……結局のところ。 俺に仕えるのは不満アリアリだけど、孫呉に仕えるのはもっと嫌だから仕方ないから仕えてやると言う事でいいのかな?」
「良い訳があるかなのですぅ!」
ごすっ
「うごぉっ!」
突然の陳宮の飛び蹴りを、何とか腹に受けるギリギリの所で右の掌で受けたけど、衝撃まで完全に殺す事が出来ず痛めた肋骨と身体に響く。
体中に走った痛みに苦悶の声をあげるが、それでも骨がくっ付き掛けた左手で皆に問題の無い事を示す。
これは、俺とこの娘の問題だ。関係無い奴は手を出すな。…と。
それにしても、今どうやったんだ? いきなり飛んで来たぞ?
予備動作とか”氣”の動きとか一切なしに、気が付いたら飛んでくるなんて、どんな出鱈目だよ。
このとんでもない世界の武将達でも、今みたいなのは見た事がないぞ。
「音々達の仕えるのは恋殿であり、貴様では無いのですぞ。
恋殿が仕える者だから、いやいや聞くだけに過ぎないと言う事を忘れるななのです」
……なるほど、それは確かに正論だ。蓮華達にとっての正論なんて、この際関係ない。
少なくとも君達にとって大切な事なんだと思う。 だが、それでいいのかもしれないな。
「ああ、忘れないさ。
それでも働いてくれるんだろ。
君の主である呂布や、その家族を守るために……。
君達の家たる領地を守るために……、
俺に力を貸してくれる。
君はそう言ってくれているんだろ」
戦に負けたから仕方なくではなく。
自分の信じた主が決め。その主に何処までもついて行く事を決めた君達が、自分達のために俺に力を貸しても構わない。そう言ってくれる方が、何万倍も嬉しいさ。
少なくとも、こんな天の御遣いとか言う怪しげな立場の俺を、はいそうですかと信じるやつより、よっぽど信用できるっていうものだ。
「ち、調子に乗るななのです。
貴様が恋殿の主と言うのなら、恋殿の主に相応しくないと思ったら、今みたいに幾らでも蹴ってやるのです。覚悟をするのですぞ」
「あははっ、それは心強いな。
だって、それって俺が間違っていたり失敗したら、容赦なく叱ってくれるって事じゃないか」
俺みたいないい加減な性格の奴には、それくらいの方が頼もしい。
俺を甘やかしてくれる人ばかりだと、俺は直ぐ甘えちゃいそうだから……。
天の御遣いとか、訳の分からない立場に変な気を遣ってこられるより、その方がよっぽど気が楽というもの。
だから、俺は態度や汚い言葉とは裏腹に、信頼できると思えたんだ。
自分の信念をきちんと持ち、それに頼るのでも盲信するのでもなく、自分の立つべき足場と考えれるこの娘を、心強い仲間と受け入れられる。
だから俺は笑う。
此れからよろしくと。
頼りない俺だけど力を貸してほしいと。
仲良くなれるかの自信はさすがに今は無いけど、上手くやっていける自信だけは湧く。
だから笑える。今精一杯の笑顔で、この頼もしい娘達の主になる事を。
「な、な、な、何なのですかっ、この変な生き物は!?」
なのに何故か、俺を指さして冥琳達に助けを求める陳宮。
しかも何故か『諦めるんだな、見てのとおり、こう言うやつだ』と、陳宮の失礼な言葉に同意する冥琳。
そして、その言葉を受けて陳宮は…。
「き、気持ち悪いのです」
「気持ち悪い言うなーーーっ!」
はい、流石に突っ込みます。
他の悪口や無責任な噂の結果はともかく、気持ち悪いとかは勘弁してほしい。
こう自分がナメクジとかになった気分になるからね。
いえ、別に何処かのナメ●ク星人とかの事を言っているわけじゃないですよ。
こうアジサイの葉の裏とか、ジメジメしたところにいるアレですよ。 十匹でも纏まっているのを見かけたら寒気が走るアレの事です。 俺的にはGよりよっぽどあっちの方が気持ち悪い。
「気持ち悪いから気持ち悪いと言ったまでなのですぞっ!」
「挨拶代わりの笑顔を見て、そんな事言うやつの方がよっぽど気持ち悪いわ」
「音々の何処が気持ち悪いと言うのです。
って、それ以上近寄るななのです。音々を孕ませるつもりなのですかっ!」
「孕むかーーーっ!」
……うん。
さっそく幸先が真っ暗になってきた気がするのは気のせい……だよな。
つづく。
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第161話 ~奏でる音に刃は砥ぎすまれん~ を此処にお送りしました。
こんにちは、今回は今後の一刀の立場を描く話を描いてみました。
こうして描いてみると、恋の部隊って問題だらけですよね。
恋は鍛錬以外の仕事しないと言うかできないし。
音々は七乃達とは別の意味で問題を引き起こす天才ですし。
ごく一部を除き、生真面目な人達が多い孫呉の既存部隊の中に溶け込めないでしょうね。
と言った理由で、宣言通り恋ちゃん達には孫呉では無く、一刀君の所に降ってもらいました。
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
復調しつつあるも未だ怪我人である一刀に新たな試練が襲いかかる。
其れは魏の強襲か、それとも蜀の裏切りか。…いやそのどれでもない。
一刀をおそう新たな災厄、それは……。
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