今回のことは幸いだった。孫堅様が何故、生き延びろといったのか考えろ
兵が無謀にも死兵となり敵に突撃し、一時は退けたとしても
その後は、容易に想像が出来る。勝てると思うか?
いや、勝ち続ける事が出来ると思うか?
袁家に狙われ、鎮圧してきた宗教家たちに狙われ、我らは半年も持たずに無に帰しただろう
きっと、孫堅様は気がついておられたのだ
わが軍の欠点を
将も、兵も、いつの間にか強大な王の庇護の元にあったということを忘れていた
怒りよりも、恐怖が勝り、気がついてしまった。共に戦っていたのではない、護られていたのだ
袁術と何も変わらぬ
だが、お陰で生き残ることが出来た
お前がすることは、もう理解できただろう雪蓮
民と同じ、兵と同じ立場の王となるのだ
幸いな事に、お前はある部分で孫堅様と同じ気質を受け継いでいる。自由で、奔放な気質を
孫堅様は、線引をされておられた。だが、お前は民に溶け込め、兵と心を共にしろ
例え遠くはなれていても、民が、兵が、将が、お前の危機を肌で感じ、己の身の危険と感じる程に交じるのだ
孫堅が民と一線を退いていた真の理由とは、戦えなくなるのが嫌だったからだ
孫堅は優しすぎた。皆の母と言われるほどに、昭を捨て子を拾い育てるほどに、己の身一つで敵陣に突撃を繰り返すほどに
民と交わり、民と深くつながってしまえば、守ることばかりに気を割かれ、戦うことがいずれできなくなる事を嫌ったのだ
だが、孫策に対して周瑜が言ったのは、民が死ぬのが嫌なら死ぬ気で戦えであった
お前は、一人で戦い全てを守れるほどに強くは無いのだと
長沙より出た冥琳は、騎馬に揺られながら隣で同じように揺られ、遠くを見つめたままのまだ子供っぽさの残る友の横顔をみながら
己にも言い聞かせるかのように、感情は込めず、心を落ち着かせ淡々と言葉を零れさせていた
友とは、炎蓮の娘である孫策こと真名を雪蓮
母と同じく長身で、褐色の美しい肌と優しく艶やかな桃色の美しい髪を持つ女
「炎蓮様は、次代の王に託したのだ。生き延びろ、教訓とせよと」
「解ってるわ。そんなに気を使わなくても大丈夫」
「・・・雪蓮」
「皆が、自分も孫家だって思ってくれるように私は振る舞えばいいだけ。いつも通りに。それより、手が震えてるわよ
落ち着いて、軍師は今から貴女よ冥琳。私は、どうすればいい?」
努めて冷静にと心がけていた冥琳は、口調や表情とは逆に心の中が浮き出てしまっていたのだろう
見ぬかれ、自分の不甲斐なさに苦笑し、友の優しさふれて、震えなど治まってしまっていた
「昭の提案だ、寿春へと進む」
「寿春?陶謙にでも助力を願うの?確かに、兵力や将もなかなかのものだって話だけど」
「いいや、陶謙殿の元では、自立の際に陶謙殿自体が弊害となりえん」
「弊害ねぇ、ならどうするの?」
「先を見据え、袁術と組む。袁術ならば、何も遠慮は要らぬからな」
「遠慮?よくわからないけど、確かに袁術ちゃんは、同じ袁家から狙われて居るって言うのは知ってるわ
逃げるにしても、北は袁家だし西は劉焉、独立思想があっていい噂は聞かないし、逃げる場所は、空白地の寿春しか無いって事か」
その通りだと頷く冥琳。だが、それは普通の太守でアレばこその話。袁術は、色々と特殊な事情を抱えている
その一つが、まだ袁術は幼く、周りに祭り上げられ太守となっていると言う事だ
「逃げる場所が一緒なら、手も組みやすいって事でしょう?」
「いや、手を組むと言う図式は成り立たない。何故ならば、向こうは腐っても袁家。兵数で言っても役立たずとはいえ向こうが上
決して手を差し出すということはありえないだろう」
「・・・そういうこと」
「そういうことだ、頭を下げ、庇護下においてもらうということだ」
「遠慮は要らないって事の意味が今わかったわ。昭が何を思っているのかもね」
「先を見据え、子供を相手に本気で殺しにかかっている。昭の道を決めるのは雪蓮、おまえだよ。今は、まだ戻れる」
背後を振り向いた雪蓮の瞳に映るのは、古巣の長沙の大地
最早、巣立ちは済ませた。子供のままでは居られないと、時は己を急かしている
ならば何を躊躇うことがあろうものか、甘える時はもう過ぎた。今は、唯、天へ羽撃くのみ
視線を前に戻した雪蓮の横顔は、ほんの僅かな間で大人へと変わっていた
「じゃあ、その時まで耐えれば良いのね」
「命ずるのだな。文官の長、二代目張昭に」
「ええ、私を軽蔑する?」
「しないさ。元々、薊様に育てられてきたのだ、同じ道を進む事を望みこそすれ、拒むことはない
ただ、お前が自分を責め続けやしないか、それが心配だ」
「無理よ、自分を責めないなんて出来るわけない。だからこそ、命じる事が出来る。自分の罪を忘れずに居られるから」
先頭に向けて馬を走らせる雪蓮を見ながら、冥琳は雪蓮と同じように長沙の大地を振り向き
少し眉根を寄せると、軽く唇を噛み締めて雪蓮の後を追った
頭からは、故郷とも呼べる大地の別れと孫堅の死、二つの哀しみは消え失せ
唯、戦略と策が頭を巡っていた
己は軍師、追撃よりも逃げる方が足が早く有利、早々にこの状況を有利にし、士気を上げる策を新たな王に献策せよと
袁成の兵が、体勢を整え逃げる孫家の残党を追い始めた頃、先行した周泰と入れ替わるようにして馬をとばした昭が袁術の治める地へと
荊州の南陽へ入っていた
「申し訳ありませんっ。お伝えしたのですが、聞き入れてもらえず・・・」
彼の目に初めに入ったのは、痩せこけ壁に身体を持たれかける民の姿
次に、景観を損ねるといって、兵達が枯れ木のような民の両脇を抱えて何処かに連れて行く姿
「帰ってこれんな。幼平、穏の元へ向かえ。民を寿春付近の土地に散らせるよう穏に伝えろ。なるべく、寿春に民を入れず
袁術の影響下に入らぬようにするのだ。それでもなお寿春に入る者は、覚悟せよと十分に脅せ」
「お、脅すのですかっ!?」
「ああ。袁術の反応次第で少しの間、民にも耐え忍んでもらう事になるかもしれない。ならば、先に言ってやるほうが良い
少しでも民に辛い思いをさせたくは無いのだ。わかってくれ、幼平」
「昭様・・・分かりましたっ!お任せください、必ず穏さまが寿春に入られる前に追いつき、お言葉をお伝えいたしますっ!」
「頼んだぞ、此処から先回りし穏に伝える事は至難の業だと解っている。だが、これはお前にしか頼めない。民の為、やり遂げてくれ」
深く頭を下げる姿と民を思う言葉に感動したのか、背筋を伸ばして笑顔を、そして強い眼差しを返す明命は
言いつけに従い馬を穏の元へと、軍から離れ遠回りで寿春へと向かう民の元へと向かい走り去っていった
「たいしては着いてこんだろうが脅してもなお寿春に入り、我らと辛苦を共にする者達であるならば
後に孫家にとっても重要な者達となり得る。民の選別も此処でしておく。使える人間と使えない人間ならば
使える人間を側においておくほうが良い。民であろうが雪蓮が望めば、二つ返事で死んでくれるヤツでなければな」
明命へと向けた優しく温かい顔は、直ぐに無機質な顔へと変わっていた
「袁術の圧政下で見えてくるだろう。雪蓮も汚れない、俺がするわけでもない。勝手に袁術がふるいにかけてくれる。有難いことだ
後の風評ですら勝手に良くなる。悪政を強いた鬼畜を殺した英雄だとな」
馬から降り身仕舞いを正すと、昭は再び仮面をかぶる。穏やかで柔らかな雰囲気を持つ仮面を
「失礼仕る。私、名を昭と申しまする。袁家の帝に対する忠節、今や広く大陸に広まり赤子ですら袁家の名を口にするとまで
言われておりまする。特に袁術様におかれましては、帝にお側仕えする宦官ですら袁術様を称えるほど。
この度は重要な命を授かって参りました。どうか、袁術殿にお目通しをお願いしたく」
足を政庁へと向け、衛兵にすら礼をとり、柔らかな笑みと、帝、宦官と強欲な者達の心に響く言葉を並べ立てれば
地位や名誉といったものに目がない王に使えている兵らしく、眼の色を変えて二つ返事を返し、政庁内へと招き入れた
【阿呆が、誰も帝の遣いなどと言っておらんだろう。少しは素性を疑う、調べるなどしたらどうだ
母様に護られ、警護すら杜撰になっているのか、雀躍しているのが目に見えて滑稽だぞ】
これが、一度話を断られた明命と同じく孫家の者であると言えば面倒な話を持ってきたばかりなのだ
袁術だけでなく、周りの者達も厄介者として再び訪問してくれば追い払え位は言っておいてあるに違いない
問答無用で門前払いされていたところだろう
阿呆と心の奥底で小さく呟きながら、涼し気な足取りで吸い込まれるように袁術の待つ玉座の間へと歩を進めていた
誰一人、昭を止める者は居なかった。警備の兵など、勘違いしたまま我こそが帝の遣いをお連れするに相応しいと
案内を取り合うほどだ。おおかた、王の元へと連れて行けば何かしらおこぼれに預かれるかもしれないなどと思っているのだろう
さらに、兵士らの勘違いを助長していたのは、彼の纏う雰囲気
張昭こと、薊より授けられた動作の一つ一つは、見るものに風格と威厳を感じさせる
指先から爪先にまで神経を張り巡らせ、美しいというよりも流麗に歩き、視線は決して揺らがず前を
少しだけ遠くを見つめるように顎を上げ、背筋を伸ばすその姿は荘厳という言葉を文字通り表していた
まるで古くからこの土地に住まい袁術に仕えてきた重鎮であるかのように堂々としており
雰囲気に飲まれた者達は、ただ礼を返して彼を見送るだけ
すれ違う侍女ですら、昭を前に道を譲り頭を下げてしまっていた
「ど、どなたなのですか、あの方は?」
「知らないわ、でもあの風格はきっと高名な方に違いません。粗相がないように、お嬢様の恥となってしまいますよ」
「先ほど衛兵から、あの方は天子様からの遣いとのことです。流石は袁家ですね。私、中央からの遣いの方なんて初めて拝見いたしました」
衛兵からの伝達が素早く広まったのだろう。口々に昭を帝からの遣いと勘違いした言葉が零れ
羨望に似た眼差しが送られていた
それらを受け、萎縮すること無く傲慢とも思えるほど堂々とした様子で衛兵に連れられるまま、玉座の間へと足を進めていた
「此方でございます」
案内の衛兵に礼を一つ。そして、開かれた扉の先に見えたのは玉座に座る小さな少女
金色の衣装を身にまとい、ティアラのような髪飾りを着け、昭の姿を見るなり頬を緩め
次に咳払いをして入るが良いと小さな手で招いていた
「で、寿春に着いたけれどどうするの?城はもともと空城だし、城壁なんてボロボロ、篭って戦うなんて無理じゃない?」
問いかけるのは、右手に両鎌が付いた方天戟、腰には鋼を束ねて作られた弓を携えた活発そうな女
髪を編みこみ肩に垂らし、褐色の肌と翡翠のような色を持つ瞳の女は、遥か遠くに見える砂煙を見てどこか嬉しそうに笑う
女の名は太史慈、真名を梨晏。呉軍きっての武闘派にして弓の名手、戟の扱いにおいては神戟と呼ばれるほど
「策はできている。後は、袁術と合流するだけだが、間に合うか・・・」
少しだけ眉根を寄せる冥琳だが、雪蓮は逆に梨晏と同様に少しだけ微笑んでいた
「その時は、その時。何なら、梨晏と二人で袁術ちゃんが来るまで暴れまわるってのも有りよね」
「なんだよーっ、雪蓮がその気なら私、頑張っちゃうよ!まかせて、まかせてーっ!」
「頼もしい限りだ。まあ、来ないならば来ないで、策はある」
次第に近づいてくる砂煙。その大きさに、ひと目で万を超える軍団であると理解できた
孫堅を討った事もあり、兵達の士気は強大に膨れ上がり、兵達の咆哮は大地を揺るがすほどに
「大殿を討ち取ったからって張り切っちゃってさー。なーんか気に入らないよねー!」
兵達は、少々ではあるが怯えを見せていた。響く咆哮に肩を震わせていた
強大な王、孫堅を討たれ、庇護下にあった雛鳥はただ喰われるのを待つ
だが、そんな中で真っ先に怒りを露わにしていたのは梨晏であった
殺気をまき散らし、方天戟を左右に振り回し、最後に石突で大地を思い切り叩けば
ズドンッ!という音と共に、雛鳥たちが一斉に躰を縛る恐れから解き放たれた
「さて、まずは少し士気を上げるとしよう。梨晏、目標は先陣をきる敵将。狙えるな?」
「任せて。あの、先頭に立ってる奴でしょう?避ける暇なんてあげない、一撃で仕留める!」
戟を大地に突き刺した梨晏が腰に携えた弓を手に、一本の矢を限界まで引き絞り、放たれた矢は空気を切り裂き一直線に敵陣へと突き進む
矢は、先頭を走る敵将の頭蓋を貫き、後方に控えた兵の躰を貫き、梨晏は即座に第二射を構えた
「これくらいで敵の士気を下げられるなんて思ってない、だけどっ!」
敵将をたった一本の矢で討ち取った影響は大きい
「敵将なんて、大した事無い!大殿を討ち取ったのだって、蓮華を狙われたからだっ!私達が負けるはず無い、大殿が認めた
私達が負けるはずが無いだろっ!今こそ大殿の弔い合戦だ!今、奮い立たなくて何時立つんだ!」
梨晏の言葉に兵達は、只々槍を握りしめて、涙を流し、嗚咽を漏らし、一斉に咆哮とも言える声を上げていた
我らは護られていた。大きく、偉大なる母に見守られ、擁護され、只々生きてきた
強大な敵がいようとも、母は己が身を傷つけ、一人敵陣へと踏み込みその身を晒し
我らに笑みを見せ、何時でも、どのような時であろうとも、我らを護り我らを愛してくれていた
今更気がつくとは、なんたることであろうか
失い、ようやく気がつくなど後悔しか残らぬであろう
最早、母に恩を返す事など出来ぬのだ
出来るとすれば、敵を打ち滅ぼし残された娘に我らの魂を集わせる事以外に無い
母の大きく深い愛に気が付き、取り戻せぬと気がついた兵達の眼に殺意が宿る
それは、純粋で濁り無き殺意
「よし、敵兵が足を止めた!銅鑼を鳴らせ、兵を左右に展開!矢を回避するぞっ!!」
梨晏の一撃により、距離が射程内に入った事を知った袁成の軍は、一斉に足を止めて矢を放つ体勢に入った
しかし、敵の動きを予測してた冥琳の動きは早い
自軍を左右に展開させ、一斉に矢を構えさせていたのだ
空白の地に放たれる袁成の軍の矢
左右に展開させた自軍から放たれる矢は、敵軍である袁成の軍に雨のように降り注ぐ
鶴翼の陣を創りだした孫家の軍は、敵の挙動を敏感に感じ取る冥琳によって敵の次の動き
矢を放った後の突撃に対して、包囲殲滅を行う形へと既に変化していた
「次の動きは、槍兵による槍衾だ!横撃にて敵を討つ!梨晏、先陣を切れ、横撃で敵陣を崩す!」
「了解、了解っ!さーて、大殿の弔い合戦だ!思い知らせてやる!」
一斉掃射を行った後の袁成軍の動きは、冥琳の予想通りであった
鋒矢の陣に変化し、兵数による強行。力押しの作戦
袁成にも軍師はいるであろう。だが、兵数が圧倒的に多いことと、袁成に仕えている軍師ということもあるだろう
冥琳にとっては底が知れてしまっているのだ
「やはり袁家、兵数だけならば向こうが有利か」
だが、孫子にもあるように、兵数が圧倒的に多ければ力押しも愚策では無い
平地で、大軍が襲いかかっているのだ。陣形が整っていようが関係が無い
策など力ずくで破壊出来る。地の利がない平地では、軍力の差は、策を上回ってしまうのだ
接敵する孫家の軍と袁成の軍
士気の上がった兵たちは、恐れず怯まず敵に向かうが
「冥琳、出るわよ」
「もう少しだけ待て、まだ接敵しただけだ」
「待てないわ。私の勘がそう言ってる。接敵すれば、一気に喰われる」
「ああ、そうだろうさ。だがな、私は諦めてなど居ないのだ」
勘の鋭い友の言葉を遮り、遠くを見つめる冥琳
諦めては居ない。そう、彼女は、ずっと待っていた。約束をしていた。奴が約束を護らぬはずはないのだと
何かを求める冥琳の視線。それは、確信にも似たものであった
信頼や絆、そんな言葉では片付けることが出来ない確かな繋がり
そして、必ず果たされると言い切ることの出来る確信
「・・・来た。そうだ、お前は必ず私の、いいや私達の希望に応える。だから、炎蓮様はお前を信頼していたのだ」
それは、遥か北西の立ち上る砂煙が応えとなっていた
遥か遠方に見えるのは、袁家の牙門旗。立ち上る砂煙が、冥琳におおよそのの兵力を伝えていた
「よし、機は満ちた。鏑矢を放て、蓮華様の護衛に向かっていた祭殿と粋怜様を動かす!」
遥か後方にて現れたのは、袁の我門旗を掲げる軍勢
孫家の兵達は、一瞬敵の増援が現れたのかと顔をしかめるが
「援軍だっ!北西から来る援軍は、我らの援軍!恐れるな、梨晏、声を上げろっ!兵達を動揺させるなっ!」
覆いかぶさるように攻め立てる袁成の軍に、更に援軍かと思わせる後方からの袁の旗を掲げる軍勢
だが、冥琳の指示に梨晏は叫ぶ!友を、愛する友人の言葉に何の疑いがあろうか、彼女が信じるのならば、自分が信じるに値する
「後方の袁の旗は、援軍だっ!私に着いて来いっ!挟撃で一気に敵を潰しにかかるっ!!」
だから、皆も信じてくれ。いいや、信じろ!決して、窮地に立たされてでた妄言などではない!
我らが軍師を信じるんだ!そう、言葉にせずに己の行動にて示す梨晏
一人突出し、敵の横腹に方天戟を振るい突撃する姿に、兵達は奮い立ち動揺に声を上げ
鏑矢によって追いついていた祭と粋怜の軍が少数ながらも背面から→の形になり前方を見ていた袁成の軍の背後から襲いかかった
急に現れた背後からの敵襲に、槍衾にて構えていた兵達は驚き、方向転換など出来るはずも無く蹂躙されていた
「雪蓮、此処で宣言しろ。お前が王として、亡き炎蓮様の仇を討つとな」
視界に入る敵の大軍。接近し、飲み込まんとばかりに襲いかかる人の大津波
雪蓮は、冥琳の言葉に従い、中軍の先頭に立つ
「我が名は孫武の末裔、孫策!偉大なる英傑、孫文台の娘!我らが望むは江東の自由!民を想い民を護り続けた我が母は、
我らの自由を脅かす者と戦い、その魂を我らに捧げた!我らの母は、江東の母は、我らを護り命を落としたのだ!
肉体は滅んだ、しかし魂は、志は永久に滅ばず!我らに受け継がれ、我らに託された!」
託された南海覇王を鞘から抜き取り敵へとその切っ先を向け
「私欲に走り、豫州だけでは飽きたらず、我らが守護する荊州にまで手を伸ばす強欲さは天に唾する行為に他ならない!
帝がこのような事を望もうか、天がこのような事を望もうか!民を苦しめ、欲を貪る悪獣に大義無し!
いかに袁家であろうとも大陸の平穏を望む帝の意思に反する逆賊に他ならない!」
母、炎蓮とは対極に大義を口にした雪蓮。それは、彼女の野望の大きさを示唆していた
「此処に宣言する!私、孫策伯符は、悪獣、袁成を打ち滅ぼし、江東の母の弔いとする事を!
今こそ巣立ちの時だ!怒りと言う名の剣をとれ、嘆きの槍を持て、哀しみの矢で空を埋め尽くせ!
此処に我ら、孫家在りと」
宣言と共に一気に膨れ上がる士気。後方に見えた祭と粋怜の軍が作り出す袁成軍の阿鼻叫喚と袁成軍に突撃を開始する袁術の軍に
兵達は、軍師周瑜の言葉に従い、己の純粋なる殺意を爆発させていた
それは、王である孫堅の下では発揮されることが無かった兵達の純粋なる生きる意思
自由を改めて掲げた新たな王、孫策の元で現れた巣立ちとも言える兵達の意思
「これでいい?」
「ああ、ようやく我らは踏み出したのだ。炎蓮様の懐から、暖かく包まれた母の腕の中から」
「じゃあ、もう良いわよね。母様の仇を討っても!思いっきり暴れてもっ!」
大将である雪蓮を軍勢に突撃させるなど愚かな事であるが、母ゆずりの武力に冥琳は拒否するはずもなく
頷く冥琳の首が戻る間もなく、雪蓮は抑えていたもの全てを開放、爆発させるが如く
腰の剣を抜き取り、咆哮ともいえる声を上げて地面を舐めるように大地を剣で削り剣山のように突き出された槍へと突き進んでいった
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
後方より軍を見出され、両翼にて包まれ、動揺する袁成の軍の正面から一匹の獣が地面を抉りながら荒々しい殺意をまき散らし
突き出される槍を一振りでなぎ払い、敵陣へと潜り込み次々に兵を切り裂き、舞うように前へと突き進む
兜ごと頭を叩き割り、横薙ぎで首を切り裂き、胴への一撃は躰を二つに切断し、雪蓮は只々溢れる感情のままに剣を振るっていた
平然としていたのは、兵に動揺を与えぬように必死に堪えていただけ
冥琳まで動揺させるわけにはいかないと
だが、敵陣に居るのならば、仇を前にしているのならば、何も遠慮などいらない
何も、耐える必要など無い
振るえ、剣を!薙ぎ払え、敵を!血と肉で贖わせるのだ、己の母の無念を!恨みを!
仇敵の魂をもって弔いはおこなわれるとばかりに、雪蓮は鬼神の如く、母、孫堅を彷彿とさせる虐殺とも言える戦いぶりに
孫家の兵達は、更に士気を上げていく。王、孫堅は死んだわけではない。此処に継ぐものが、孫堅の意思と闘争を引き継ぐ者がいる
ならば今度こそ、今度こそは応え付き従い、戦う時なのだと兵は声を上げた
感情を溢れさせる孫家の兵達に気圧された袁成の兵達は、先程まで孫堅を討ったことで上がっていた士気が崩れ落ち
包囲され、蹂躙されつつある現状に怯え初めていた
「兵の巣立ちは済んだようだ。炎蓮様の時とは違う、真に雪蓮の兵と成った。ならば、これ以上の戦は無意味。兵を死なせては
後に立て直しが効かなくなる。北を、右翼側を後退させろ。敵が逃げる道を作るのだ」
兵の意識が変わる様子を感じ取った冥琳は、後方と前方から突き進み、怯える袁成の眼前まで進む雪蓮と祭、粋怜の様子を見て
右翼を僅かに後退させ、退路をわざと作り上げていた
目の前で獰猛な虎のように暴れ回る雪蓮に心底恐怖した袁成は、敵右翼に穴があるとの報告を受けて直ぐ様北へと進軍を指示した
「逃すかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
殺意に彩られた瞳を持つ雪蓮は、退却をしようとする袁成を追い立てようとするが
「雪蓮っ!追うな、此方が不利になるぞ!」
「止めるなっ!母様の仇をっ、奴の首をっ!」
「祭殿っ!粋怜様っ!!」
「放せぇっ!何故、何故、母様が殺されなきゃいけないっ!なんで、なんでよっ!賊や変な宗教家を殺したけど
殺されて同然の人間だった!獣と同じ、人に戻れない人間だった!なんで母様が、皆を一人で守ってきた、泣き言なんか一言も
私達に言ったことは無かった、ただ皆に自由を皆に普通の生活をって。どうしてよ、どうして?」
敵をなぎ払い、退却を開始する袁成を眼に映した雪蓮は、冥琳の制止を聞くこと無く走りだしたが
合流した祭と粋怜に両腕を掴まれ、それでも暴れていたが、地面を引きずりながら追い付くことが出来ないと理解したのか
膝をついて、両手を地面に着き瞳から涙をボタボタと落としていた
握りしめられた拳が振るえ、無念の悔しさがにじみ出た口元からは、噛み締められた歯から血が溢れていた
押さえつけ、封じていた感情は爆発し、ついにはその捌け口が眼前から遠ざかり
口惜しさに哀しみで染まる雪蓮は、兵の前で感情を隠すことすら出来ては居なかった
「今の私は、あいつを殺すことすら出来無い。ごめんね、ごめんね母様。私、仇も満足に討てなかった。
昭にも、二代目なんか頼む事に・・・」
何度もうわ言のように謝り、地面を涙で濡らす雪蓮を皆の眼に映らぬよう両側に立つ祭と粋怜
剣を落とし、両手で顔を覆う雪蓮には、普段の飄々とした様子など微塵も無く
心配し、顔をしかめる梨晏が兵に距離を置かせ、退却する袁成の軍を威嚇していた
「逃がす理由を一応、聞いておこう」
「此処で潰せば、自国に残した袁紹が弔いの軍を送るでしょう。ですが、逃しておけば時間は作れる。一度、恐怖を刻み込んだなら
容易に此方に軍を動かす等という愚行を行う事はありませんからね」
「時間を作り、此方の軍を整えるのね?袁術は、そのための隠れ蓑。あの子が、苦労して袁術を連れてきたんだもの。ちゃんと利用して
あげなきゃ。そうでしょう、祭」
祭と粋怜の問は、周りを納得させるためのものであった
そう、本国に戻ればまだ兵は居る。ここで討ち滅ぼせば、報復の兵が押し寄せるのは確実
だが、これだけの恐怖を刻み込めば、そうそうに討ってでる事は出来ない
なにせ、敵はもうひとつの袁家である袁術を味方に引き入れたのだ
孫策の演説は、もう一つの袁家を引き入れることで真実味を帯び、広がる風評は袁成の評価を落とし
再び、攻め入ろうものなら今度は近隣の勢力が孫家に助力することは間違い無いのだから
「冥琳、本当に駄目?私一人でも、今から追えるよ」
「駄目だ、お前が雪蓮を思って言っているのは理解る。だが、今は将一人欠わけには行かん」
「そう、解った。雪蓮、絶対に、ぜっったいに仇は討とう!私、頑張るから!」
両手で雪蓮の手を包むよう握りしめる梨晏は、誓いを立てるように雪蓮の眼を真っ直ぐに見て力強く宣言していた
雪蓮は、そんな梨晏を見て心配させてしまったと、弱気になっていた心を立て直すように瞳にあふれた涙をふき
「うん、その時はお願いね。みっともないとこ見せちゃったわね、さて城に引き上げましょうか」
泣きはらした瞳は、まだ弱々しい光を灯すだけであったが、冥琳達にはこれで十分であった
母を亡くし、仇すら討てず止めてしまった者達には、それ以上を望むことなど出来はしなかった
そして、更に追い打ちをかけるように、友に耐えること強いなければならない冥琳は、眉根を寄せて厳しい顔をしていた
「まだだ雪蓮。我らは、我らの求めに応じ、この地に馳せ参じて下さった袁家の方達を向かえねばならん」
冥琳の言葉に従い、袁術を感謝とともに迎え入れようとする雪蓮の眼に映ったのは
地面に手足を着いて、馬のような格好をさせられた昭の姿
更には、その背にまたがり、手綱代わりに掴んだ髪を引き、雪蓮の前で止めさせる袁術であった
袁術に何の言葉も通じはしない。何故ならば、無知であり側近の文官達の言葉でおだてられ
何の危機感も無ければ、己の土地が危機にひんしているなど考えもしないからであった
だからこそ、初めは文官達を説き伏せようとしたが、途中で思いとどまった
無理に此方の知恵を見せつけ、脅威と感じさせる事は簡単ではあるが、そんなことをすれば
不利を感じた同じ袁家の袁成が、袁術に仕える文官が、佞言を口走り騙され、合流してしまうかもしれない
ならば、思い切り謙り、袁術が孫家と共に戦えば袁成など恐るるに足らぬ、それどころか利が大きいと信じこませた方がいい
そう判断した昭は、袁術に謙る道を選んでいた
「帝の遣いでは無かったのか。では、用など無いの。下って良いぞ。妾は、お主のような者と言葉を交わす時間など持ちあわせておらぬ」
「今、袁成殿の軍を抑えておかねば、必ずしやこの地に兵を送り込んで来ることでしょう」
「文官達は、言うておるぞ。同じ袁家である妾を襲うはずなど無い、むしろ今まで孫堅の妨害で交流を深められなかったと」
袁術は、孫堅に護られていたことすら文官達に正確に伝えられて居なかった
側に居る張勲はと言えば、先程から袁術を褒め称える言葉ばかり
文官の良いように操られているというわけではなく、主君可愛さに盲目になっているだんもようであった
「その通り、袁術様と同じ袁家の者が、何故この地を襲おうとするのか。この地を狙っておるのは袁成殿ではなく
孫家なのではないのか!?」
追従するように発せられる文官の言葉に昭は、直立し抱拳礼をとり
しゃがみ込み、頭を深く下げて三跪九叩頭の礼をとっていた
昭は、先に言葉を被せてきた文官に対し、袁成と何かしら繋がりがあると見ていた
嘘だとバレるのを防ぎたいのがまるわかりである。今の奴に誰も反論しない所から他の文官も同じ穴のムジナというやつなのだろう
この状態で、この現状で危機を感じぬ者など居るはずがない、自分たちは安全だと確信しているからであった
帝にのみ送られる特別な礼を取る昭に、文官たちは初め驚き、次にニヤニヤと見下した笑みを浮かべ始めていた
昭が取った行動は、思い切り謙り頭を下げ、客将としての立場を手にいれ隠れ蓑とさせてもらう狙いだ
下手に突いても周りも嘘がばれぬよう、一斉に昭をを叩くはずである。誤解を説いていては時間が掛かり過ぎてしまう
なにより文官とやりあえば今後、うまく操れない
彼に薊は言っていた。急いては事を仕損じる。怒りや憎しみに感情を動かされるな、先を見るのだと
【気に入られ、懐に入り込み、袁術の連れる兵を、民を、全て孫家に組み込んでやる】
それは、袁術も同様であり、張勲も同様に王を討たれ力の亡くなった途端に頭を下げるのですか無様ですね
孫家の文官に礼をとらせるなんて流石、美羽様と褒め称えていた
「流石は、袁家でも知慧に優れると云われた袁術様でございます。仰る通り、孫堅様の妨害でございました」
「そうであろう、そうであろう」
「貴女様の慧眼に見通せぬモノなど無いのでございましょうな」
「褒めるが良い、もっと褒めるが良いぞ!妾に見通せぬモノなの何もないのじゃ!」
「そんな袁術様には、私が話さぬとも見えておられるのでしょう。今、袁成の軍を攻めておけば、民衆の支持を得られる事を」
胸を張り、満面の笑みで笑い声を響かせる袁術であったが、昭の言葉に眉根を寄せた
位や権威、栄光に強欲な文官達も同様に視線を昭へと集中させていた
民衆の支持、それはすなわち新たな税収源、支持ある君主に民は集まるもの
それらを肌で敏感に感じ取った昭は、周りに見えぬように抱拳礼で隠した口元が笑っていた
「確かに、孫堅様の妨害で交流はございませんでしたが、袁術様にとって袁成様の軍勢はそれほど心地よいものではなかったはず」
「う、む。確かにの、書簡で土地をよこせと何度も送られて来るのはあまり気持ちの良いものでは無かったの。
土地を用意してやる、この土地は年端も行かぬ妾には手に余る。管理をしてやろうなどとの」
「ええ、ですから見せて差し上げれば良いのですよ。袁術様には、十分に力があると。今、孫家の軍に侵攻している袁成様の軍に攻め入り
力を示されれば、そのような無礼な書簡は二度と届かぬ事でしょう。何より、孫堅様は土地を荒らすものから民と土地を護ってきた
こともあり、帝からは功績は認められてきました。ですから、孫家と争った事は帝のお心から遠く離れた行為
民衆の支持は、袁成どのから弱者である孫家を救った袁術様、貴女様に注がれることでしょう」
側に仕える文官たちは、何を言うかそんな事をすれば、退けたとしても再び袁成の軍が攻め入ってくる
袁成との交流も今後一切望めない。それ以前に、この土地から離れ、攻め入ったいじょう
一度寿春で政を行わねばならぬでは無いかと声を荒げるが
「好都合でございましょう。今まで袁成殿と交流が無くとも十分やってこれた。この土地は、既に疲弊し尽くしておりますれば
これ以上の税収は見込めませぬ。新たな土地、寿春にて税を取り、頃合いを見てこの地に戻り再び今までと同じ税収を望めば良いのですよ」
袁成との交流を無理にしたいといえば、流石に側仕えする張勲もそこまで繋がりたいのかと気がついてしまう
書簡を忌々しいと思っていた袁術の機嫌も損ねることは間違いないため
文官たちは、袁成との交流について何も口出しが出来ずにいた
「ふん、寿春にこの地ほど人口は無い。どうするというのだ!」
来た時に見かけた枯れ木のような民の姿を文官達に話せば、苦い顔をして見せていた
図星なのだ、圧政を強いていたがために、民の限界は既に超えていた
彼には見えていた。袁成との繋がりがあったのならば、袁術を騙しこの土地の民を疲弊させていたのは、袁成が攻めやすいように
力をそぎ落として居たからだ。無論、自分たちの欲を満たす為でもあったのだろう。だが、今はどうだろうか
新たな税収源、孫家の民がいる。遠慮は要らぬ、恩を盾に絞れるだけ絞れば良いのだ。うまみしか見当たらない
袁成も、背後から襲えば至極簡単に退けられると思っているはずであり、その通りであった
戦に疎い文官たちでも十分にでも理解出来ていた
なにより、先ほど昭が言った民からの支持を得られることが何より大きかった
この地で行ってきた政は、この地を訪れるものから諸国に少なからず流れていた
自分たちの名声に傷がつきつつある事にも恐れていたのだ
僅かな間で文官達のなかで粗方、算段が決まったのだろう。苦い顔をしながらも、その口の端は僅かに上がっていた
その隠しきれぬ醜悪な笑みを昭が見逃すはずもなく
文官の物言いに、内心で強欲爺めと罵りつつも周りに同調するようにわざと同じような醜い笑みを浮かべて答えていた
「孫家の連れた民から徴収すれば良いのですよ。どうせ、袁家の治める地の民ではない、苦しめるだけ苦しめれば良いのです
なにせ、交流をなくさせ、袁術様の力を示す機会を失わせた者達なのですから。同じ袁家に攻め入らねばならぬのも
孫堅様の妨害なのですから」
彼らの苦い顔を笑みに変えるため、袁成との繋がりもまだ保てると希望を持たせていた
最悪、袁術が勝手に動いたと言えば良いのだ、昭の口車に乗せられたと
そして、凱旋するように頃合いをみて、戻れるのだ。再び力を取り戻したこの人口が多い空白の地に
彼らがが手に入れられるのは実に多い。立て直した土地からの富と弱者となった孫家を救ったという名声なのだ
「その口ぶり、孫家が袁術様に降ると言うことか?!」
「孫家は、私が今目の前で礼を取ったように袁術様の軍門に下らせましょう。今の孫家は、首の皮一枚で繋がれているようなもの
決して断りはしません。さすれば、袁成殿が兵力の上がった此方を再び攻めるなどということはそう簡単にはしませんでしょう」
「・・・なぜ、そのような事を。貴様、孫家の者では無いのか?」
「はい。ですが、恨みこそすれ感謝等何もございません。滅べば良いと思っております」
疑うのは当然だ。だからこそ、俺は言葉に真実と感情を乗せる。今、戦場で俺と同じ感情を耐えている雪蓮の代わりに
驚く袁術達に、昭は感情を露わにして怒りの眼差しを空に向けていた
細く、細く、鋭く細められる瞳、額に寄せられる皺、握り締められる拳には血が滲んでいた
「愛する者を守ることすら出来ず、簡単に死なせてしまう者達に恨む以外の何を思えというのでございましょうか」
「そち、親しい物を、殺されたのかえ?」
「はい、小さき頃から深く愛され、此処まで生きることが出来ました。愛するものは、孫家の者に・・・」
袁術の憐れむような瞳、昭がいう言葉は嘘ではない、孫家を袁家と変えればだ
再び地面に頭を着ける昭は、溢れる感情を戦いにではなくこの場に叩きつけた
「どうか、私めを貴女様のお側に仕えさせてください。張勲様のように、必ずやお力に」
地面に頭を着ける昭の姿に、恐ろしいまでの殺気に、孫家に対し復讐心を抱いてい居るのだと感じた文官達は
完全に信じぬまでも、話に乗る事を決めていた
袁成との関係も続けられ、己にはあらたな富がてに入る。最悪は、この小さな君主に何もかも押し付け
逃げてしまえば良いのだからと
「ふむ、なるほどの。お主の申すことは、妾も理解した。じゃがの・・・」
袁術は、玉座から降りると階段を一づつゆっくりと降り、跪く昭の前で見下ろしたかと思えば、昭の背に跨ったのだ
「お主は、文官であろう?文官とは、容易く裏切り欺くものじゃ。信用に足るまで、お主は妾の馬じゃ。良いな」
背に乗られた昭は、一瞬、血が逆流するかと思うほどの怒りを覚えた。母を殺し、己の愛する者を殺した袁家の者に
このような仕打ちを受け、なお媚びへつらわねばならぬのかと
【慌て、感情のままに決断するものに勝利はない】
だが、脳裏で囁かれる薊の言葉に、昭は頭を下げたまま誰にも悟られぬよう唇を噛み締め
張勲が耳打ちし、知恵を与えたのだと判断していた
「承知致しました。貴女様の信用を得られるまで、私めは貴女様の馬となることをお誓い致します」
「フフ、良いぞ良いぞ!では、出陣の用意をいたせ。良いな七乃」
「はい、畏まりましたお嬢様ー!」
文官達も、袁術が背に跨る姿を見て納得したのか、一斉に動き出していた
その様子を見ながら、昭は、地面を強く握りしめ、己の感情を必死に押し殺していた
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お久しぶりです。なかなか投稿出来ず申し訳ありません。
いつもの通り、楽しんでいただければ幸いです。
眼鏡無双の方は楽しんでいただけたでしょうか?
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