No.731406 九番目の熾天使・外伝 ~短編その⑭~竜神丸さん 2014-10-20 14:48:59 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3071 閲覧ユーザー数:1091 |
『貴様の望みを言え。やれるところまで、叶えてみせよう』
最初に彼女と出会った際、確かに私はそう言ってのけた。
しかし、その返事がまさか…
「知人の皆さんに、ささやかな幸福を」
自分ではなく他人の為の願いを言われるとは、流石の私も想定外だったな…
海鳴市、タカナシ家…
「ルイ、留守番お願いね~」
「はい、姉さん」
長女―――ユウナ・タカナシが仕事で外出していく中、一人留守番を任された次女―――ルイ・タカナシは二階の部屋に戻ってから窓を開け、ユウナが出かけて行った事を確認してから窓を閉める。
「もう出て来て良いですよ、お馬さん」
『うむ』
ルイ以外に誰もいない部屋の中で、ルイは自分以外の誰かに声をかける。するとベッドに座っているルイの足元から白い砂が溢れ出し、それが馬と騎士の特徴を併せ持った怪人―――スレイプニルイマジンの上半身と下半身が逆の状態で形成される。しかし怪人が目の前に出現したにも関わらず、ルイは特に驚くような仕草は見せない。どうやら彼女は、彼の事を知っているようだ。
『今の彼女が、ルイ殿にとって姉上と呼べる存在か?』
「はい。他にも兄が三人いるんですが…色々あって、今は家にはいないんです」
『兄上が三人ほど不在、か……困ったな。それではルイ殿の望みを叶える事が出来ない』
「そ、そんな一片に全員分やろうとしたら大変ですよ! 一人ずつ、一人ずつで大丈夫ですから!」
『んむ、それもそうだな……しかし、本当に良いのか?』
「え…何がですか?」
『望みの事だ』
スレイプニルイマジンがルイに振り返る。上半身が床から出て下半身が上半身の真上に出ているものだから、その光景は見知らぬ人から見るとかなりシュールだ。
『もっと他に叶えたい望みを告げても良いのだぞ? 金持ちになりたい、欲しい物を手に入れたい、他にも叶えたい望みはあるだろうに…』
「楽してお金を手に入れても嬉しくありません。お金は自分で働いて稼ぐからこそ価値がある物だと、兄さん達から教えて貰いました」
『む、そうか…』
「それに」
『?』
「苦しい生活を送っていた私達を、必死に支援してくれた人達……昔の私達みたいに、まともな生活を過ごすのが難しい人達……そういった人達に、少しでも幸せになって欲しいって思ってるんです。理想と現実は違うものなのかも知れませんけれど……それでも、せめて知人の皆だけでも、恩返しをしてあげたいと思ってるんです」
『ルイ殿…』
「…やっぱり……駄目、ですかね…? こんな難しい願いは…」
『……』
ルイの言葉を聞いて、スレイプニルイマジンは思わず言葉に詰まる。
元々イマジンは、確定する前の未来からやって来た未来人とも言える存在だ。過去の歴史を改竄し、自分達の未来を手に入れる事がかつてのイマジン達の目的だった。
しかし、それはとある戦士達によって阻止される結果となった。
仮面ライダー電王。
仮面ライダーゼロノス。
その戦士達との戦いによって未来が確定し、かつてイマジン達のいた未来とは繋がらなくなり、それによってほとんどのイマジンが消え去る事となった。生き残ったのは電王やゼロノスに憑依していたイマジン達、そして時の砂漠と言われる特殊な空間に滞在していたはぐれイマジンのみ。
そしてスレイプニルイマジンも、そのはぐれイマジンの一体なのだ。
彼はとある理由からルイ・タカナシと接触し、彼女に憑依。契約する為の望みも、当初は適当に叶えようかと考えていた時期もあったスレイプニルイマジンだったが…
(この娘……そこまで、他人の事を思っているというのか…)
聞かされた望みの内容は、まさに他人の幸せを願うものだった。これがそこらの一般人ならば「お金持ちになりたい」「サッカーのレギュラーになりたい」などのような、自分の為の望みを告げるものだ。しかしルイはそんな望みは告げなかった。純粋に他人の事を思う彼女の強い意志には、スレイプニルイマジンも興味を持たずにはいられなかった。
『…強いのだな、ルイ殿は』
「え…?」
『分かった。ルイ殿のその望み、確かに聞き入れた』
するとそれぞれ逆に飛び出していた上半身と下半身が一致し、ようやく本来のスレイプニルイマジンとしての姿が実体化する。ルイとの契約を結んだ証だ。
『協力しよう。ルイ殿が言う、知人の幸せの為に』
「! …ありがとうございます!」
スレイプニルイマジンが望みを承諾し、ルイは彼に対して嬉しそうに頭を下げるのだった。
その後、スレイプニルイマジンはルイに憑依した状態で人助けの活動をする事が多くなった。
「お婆さん、荷物をお持ちしましょう」
「おやまぁルイちゃん、どうもありがとねぇ」
ある時は、重い荷物を運んでいた老人の為に荷物運び。スレイプニルイマジンが憑依すれば重い荷物も簡単に持ち運べる上に、基本的にイマジンが憑依しても憑依されている契約者の声は変わらない為、周囲に怪しまれる事も無い。
「うぇぇぇぇぇん…お母さん何処ぉ…?」
「む、迷子か。どうしたのだ?」
ある時は、迷子になっていた子供の親を一緒に捜索。無事に親と再会出来た後、子供からは嬉しそうな表情でお礼を言われた際はスレイプニルイマジンも不思議な感覚だった。
「痛ででででで!? す、すみません、俺達が悪かったです!!」
「これに懲りたら、二度と悪さはしない事だ」
『あわわわわわ!? だ、駄目ですお馬さん!! やり過ぎですよ!!』
ある時は、そこらの学生からカツアゲしようとしていたチンピラ達を容赦なく成敗。ただしこの場合は必要が無いにも関わらず暴力を振るい過ぎたのもあり、事が終わった後にスレイプニルイマジンはルイから盛大に怒られてしまい、落ち込むと同時に深く反省する事となった。
そういった活動を何日も行い続けてきたルイとスレイプニルイマジン。しかし、そういった活動をしている内に彼女達(正確にはルイだけだが)が人助けをしているという噂が、近所に広まっていってしまったが為に…
「…さて。どういう事なのか、きっちり説明して貰うわよ?」
「は、はい…」
『う、うむ…』
姉のユウナにも、その噂がしっかり行き届いてしまい、二人の秘密がバレてしまった訳である。
場所は変わり、時の砂漠。
真っ白な砂によって形成されたこの砂漠を、行き来している者が約1名…
「一体、何処まで歩けば良いんだ…?」
支配人だ。彼は手に持ったコンパスを頼りに、ずっと砂漠の上を歩き続けていた。しかしなかなか目的地に辿り着けないでいる事から、彼の両足もだいぶ疲れていた。
「竜神丸の奴、チケットだけ寄越して俺を砂漠に放り出しやがって…」
竜神丸から受け取っていた一枚のチケットを見て、溜め息をつく支配人。
時の砂漠に突入する前、竜神丸は「はぐれイマジンを討伐して欲しい」と支配人に頼み、支配人もそれを断る事も無く応じた。しかし応じた途端に竜神丸はチケットとコンパスを寄越した後に「扉を出た位置からずっと北に進んで下さい」と告げた後、他には何も言わないまま彼をさっさと時の砂漠へと移動させ、そのまま帰り道となる扉を閉じてしまったのだ。この時の砂漠という空間は11時11分11秒や0時0分0秒などの時間、分、秒がきっちり揃った時間帯でなければ現実世界と出入りする事が出来ない為、支配人は一度入ってからずっと砂漠を歩き続けていた訳である。
「ユイは他の任務で不在だし、フィアレスには夕食の調理を任せっきりだし、ヴァニシュは今も孤児院で子供達の面倒を見てるし、ユリスとフレイアはバイトで忙しくしてるし、シグマは相変わらず単独行動取りやがるし、任務を終えたばかりで回復してない魔力を無駄に消費する訳にもいかないし……はぁ。誰か他のメンバーも一緒に連れていけば良かったか」
溜め息をつく支配人だったが、今更文句を言っても仕方ない。疲れの溜まっている両足を頑張って動かしつつ、支配人は目的地に辿り着く為に歩き続ける。そうして歩き続けている内に…
「…お?」
支配人の視界に、何かが見えてきた。
「あれは……ターミナル?」
支配人の視線の遥か遠い先には、巨大な赤いコブラのような形状な駅の並んだターミナル―――キングライナーが少しずつ見え始めていた。ようやく目的地に辿り着けた事に安堵する支配人だったが、ここでまた別の疑問が浮かび上がる。
(ところで、何でターミナルなんだ? 電王に関する知識はあるっちゃあるが、電王のライダーシステムは俺も所持してないぞ…?)
そんな風に考えながら、キングライナーまでやっとの思いで到着出来たその時だ。
「待っていたぞ、支配人」
「団長!?」
支配人の前に、彼がよく知る人物―――クライシスが姿を現した。
それから数分後、キングライナー内部にて…
「…おほん。では、始めましょうかねぇ?」
「えぇ、そうですねぇ~♪」
「ふむ、今回で何年ぶりの勝負になるだろうか…」
「……」
時の列車デンライナーの所有者―――オーナー。
キングライナーの管理者―――駅長。
OTAKU旅団の団長―――クライシス。
OTAKU旅団No.14―――支配人。
この4人が座るテーブルの中央には、巨大な皿に積まれたチャーハンが存在していた。そのチャーハンの頂上には一本の旗が立てられている。
「……どうしてこうなった?」
思わずそう突っ込んでしまう支配人だった。
場所は戻り、海鳴市…
「はぁ、はぁ、はぁ…!!」
とある公園にて、眼鏡をかけた少女が腰を抜かしていた。そんな彼女に対し…
『お前の望みを言え、どんな願いでも叶えてやる…』
象の特徴を持ったイマジンが、自身との契約を迫っていた。
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歌姫と守護騎士 その1