No.731382

九番目の熾天使・外伝 ~短編その⑬~

竜神丸さん

獅子と玄武を見据える者

2014-10-20 11:54:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:854   閲覧ユーザー数:700

これは、OTAKU旅団のナンバーズメンバーがまだ17人しか揃っていなかった頃の事…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、目標の研究所は……マップ情報から見ても、あれですね」

 

「えぇ、そのようです」

 

今回、数日前に加入したばかりの新人―――ディアーリーズさんへの同行を言い渡された私。普段ならこういうのは私の仕事じゃないだろうと文句の一つや二つでも言いたいところだが、相手はあの団長なのでそこはひとまず我慢するしかない。そして現在、ディアーリーズさんが彼専用のデバイス……レオーネ、何でしたっけ? それに送られていたマップ情報を参考に、目的の違法研究所まで到着したところである。

 

「あんなに大規模な研究所……バックはやはり管理局ですね。人体実験ですか…!!」

 

「そんな義憤に燃えていても仕方が無いでしょう、ディアーリーズさん? 貴方が今行うべきは任務の遂行ですよ」

 

「…分かっていますよ、竜神丸さん」

 

今回、私が言い渡されている任務は二つ。一つ目は先程言った、ディアーリーズさんの任務への同行。そして一番メインとなるのが二つ目、彼の特徴や戦闘データなどを一通り調査する事だ。

 

ナンバーズメンバーとなった彼に対して、何故わざわざそんな事をしなければならないのか?

 

その理由は至って単純。彼は他のメンバーとは違い、okakaさんによる調査を一切受けていないからである。

 

私とロキさん、そして団長の三人で行動していた時の事だ。任務で潰す筈だった時空管理局の違法研究所が到着した頃には既に壊滅してしまっていた。その元凶は他でもない、その研究所に捕らわれていたディアーリーズさん自身だ。虫の息の状態だった彼に一体何を感じ取ったのか、団長が彼を連れて帰ると突然言い出し、その後も彼の仲間である少女達と対立するなど色々あったものの、結果としてディアーリーズさんは旅団のナンバーズメンバーとして加入する事が決定したのだった。

 

そんな事情もあって、今回の彼の任務に同行する私が、彼の事を一通り調査しておかなければならないという訳なのだ。それはあくまで任務の一つであるという事は、私も頭で充分に理解していたつもりではあったのだが…

 

(若さって奴ですかねぇ……本当、虫唾が走る)

 

目的地に辿り着くまでに分かった事を確認しよう。

 

まず彼の性格だが……極端とも言えるくらいに純粋、そしてあまりにも正義感が強過ぎる。彼が違法研究所に捕らわれていた頃は、管理局の連中によって様々な違法研究の実験台に利用されていたようだが、それを除いたとしても彼の性格や言動には、他人の為に命がけで戦おうとする、他人の為なら自分が被害を受けても構わない、などのような強い正義感が垣間見える……しかし私からすれば、そういった動機は戦闘を行うのには不必要だ。若さ故、思考が実に安直過ぎる。他人の為なら自分は死んでも良いとでも言うつもりでしょうか。

 

「…? 竜神丸さん、なにかおかしく無いですか?」

 

「? 研究所ですか? そうですね。警備の人間やガードロボが見当たらないこと以外は、特に何も…」

 

「それですよ! こういう所が警備を怠るなんて考えられません。考えられる可能性としては…」

 

「既に何者かが潜入している、ですかね」

 

私がそんな考え事をしている間に、彼は研究所の様子が何やらおかしい事に気付いた様子……しかしそんな事は一目見れば時間をかけて考えずとも分かる話だ、何せ到着した時点で研究所の周囲には誰もいなかったのだから。むしろそんな簡単な事にもすぐに気付けない彼の愚鈍さには、流石の私でも本当に呆れさせられる。こんなのを旅団のナンバーズメンバーに加入させるとは、相変わらず団長の思考は上手く読み取れない。

 

…と言っても、研究所の様子がおかしい理由は私も前から知っていますけどね。

 

「竜神丸さん、先に行っています!」

 

「あ…」

 

その理由を説明しようとした途端、ディアーリーズさんは私の説明も聞かないまま研究所まで向かって行ってしまいました……全く、人の話くらいちゃんと聞いてから向かうべきでしょうに。

 

「おやおや、血気盛んなことで……本当にアホとしか言い様がありませんね」

 

おまけに単独で行動するなど、余程の実力者でなければ自殺にも等しい行為だ。研究所の内部構造は、私が所持している最新型タブレットのおかげで既に解析済み。これを見ればトラップの位置や扉の暗証番号なども簡単に分かるというのに、彼の後先の考えなさには呆れて物も言えない。

 

「さて……こうなると、後で説明するのも面倒ですねぇ」

 

ここまで身勝手な行動をされると、もはやいちいち事情を説明するのも面倒になってくる。こうなれば、ディアーリーズさんよりも一足先に研究所に潜入している、彼に任せるとしましょうか。

 

「任せますよ? げんぶさん」

 

私の話も碌に聞かない罰です。ディアーリーズさんにはちょっとばかり、灸を据えられて貰いましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう一度聞きます。そこの子供達を殺したのは、貴方ですか?』

 

『否定はしない』

 

…内部の監視カメラ映像をタブレットに映してみれば、何ですかこの状況は。

 

「…また厄介な事に巻き込まれちゃいましたねぇ、げんぶさんも」

 

ディアーリーズさんとげんぶさんは割と早いタイミングで合流出来たようではありますが、何やら見た感じだと二人の雰囲気が明らかに穏やかでない。ガンダムに変化しているげんぶさんの足元には、合成獣(キメラ)の実験台にされたであろう子供の遺体……あぁ、なるほど。合成獣(キメラ)となった子供とげんぶさんが戦っていたところを、ディアーリーズさんはげんぶさんが無実の子供を殺害したと思い込んでいる訳ですか……いやいや、その認識は明らかに単純過ぎるでしょうに。そもそもげんぶさんはこちら側のメンバーなんですけどね。

 

『一応言っておくが、その子供達は合成獣(キメラ)だぞ?』

 

『貴方の言っていることは信じられませんね。第一、証拠が無いじゃないですか』

 

『…うん、まぁ証拠は無いな。研究所からデータを抜き出して来なかったからな』

 

証拠となるデータ?

 

とっくに私のタブレットの中に存在してますが?

 

その研究所で製造されている合成獣(キメラ)は早い話、もう人間としての再起は完全に不可能だ。人間として生きていた頃の理性は完全に殺されており、動物としての本能と主人に従う従順さ、それ以外は全て記憶操作で消去されてしまっているのだ。そんな状態で生かしたところで、結局は動物としての扱いになるだけだ。それならいっその事ここで始末しておいた方が合成獣(キメラ)にされた子供達の為にもなる……普段から違法研究ばかり繰り返してる私が言うのも何ですが。

 

しかしディアーリーズさんがその考えに辿り着く事は無いでしょう。何せ私の話も碌に聞かずに飛び出して行ったものですから、そういった情報を頭に入れていない、故にげんぶさんを敵と誤解するという結果に至ってしまっている。彼の事です、どうせ助けられる命は助けたいとでも考えている事でしょう……本当に無意味な頑張りだ。

 

『御託はもう良いです……そろそろ死んで貰います』

 

『短気だなぁ…』

 

本当ですよ。げんぶさんの言葉に思わず賛同してしまった私ですが、そんな事を知る由も無いまま二人は戦闘を開始してしまいました。本当なら止めるべきなんでしょうが……正直、ディアーリーズさんの愚直さには呆れ果ててますからね、あまり止める気になれません。このままげんぶさんに盛大にボコられて貰いたいところ…

 

「む?」

 

…どうやら、そういう訳にもいかなくなったようです。

 

「時空管理局だ、動かないで貰おう」

 

研究所から少し離れた位置にある崖の上。そこでのんびり寛いでいた私ですが、見事に管理局の魔導師部隊に見つかってしまいました。モチベーションが下がっていたからとはいえ、これは私の失敗ですね。

 

「貴様、アルファ・リバインズだな。合成獣(キメラ)研究所の方には既に隊長達が向かっている、貴様は副隊長である私が捕縛するとしよう」

 

ふむ、部隊は二手に分かれているようですね。副隊長の率いるチームが私を、隊長の率いるチームが研究所にいる二人を捕らえようという魂胆ですか。一体何処から私達の情報を仕入れているのやら、やれやれ。

 

「はぁ、面倒ですねぇ…っと」

 

「勝手な発言は慎んで貰いたい。大人しく我々に同行し―――」

 

それ以降、魔導師部隊の副隊長が喋る事はありませんでした。何故なら…

 

 

 

 

 

 

毘沙門・叢(びしゃもん・むら)

 

 

 

 

 

 

私が発動した神刃(カミキリ)で、部下もろとも首を撥ねちゃいましたからね。一人残らず魔導師達を殺害した後、私はタブレットに映っているげんぶさんを見ながら、彼の脳内に直接テレパシーを送る。

 

『どうも、げんぶさん』

 

『! 竜神丸か』

 

『ええ、苦労しているようですね』

 

『…もしかして、こいつ連れてきたのお前か?』

 

何処ぞのアホと違って、げんぶさんは理解が早くて助かりますね。

 

『そろそろ顔合わせも終わった事でしょうし、彼を回収したいのですよ』

 

『それはお願いしたいところだが…』

 

『私の所へ転移させるのに少しばかり距離があるので、吹き飛ばすなり殴り飛ばすなりして下さい』

 

『了解した。彼の方も大技を出す気だからな、その隙を突く』

 

『お願いします……あ、そうそう。管理局がそちらに向かっているそうですから、早めにして下さいね』

 

『ちょっと待て! 何故それを言わな…』

 

げんぶさんが言い切る前にテレパシーを切る。タブレットの映像を見た感じだと、恐らくガンダムの仮面の下では面倒臭そうな表情をしている事でしょう。しかし文句を言うのであれば、先程から勝手な勘違いであなたを攻撃しているディアーリーズさんに言って貰いたい。私は知った事じゃありません。

 

『契約に従い、我に従え風の帝王。来たれ全てを切り裂く凄烈なる暴風。吹き荒べ。巻き上げよ。轟々たる滅びの風神。永久の烈風』

 

と、何やらディアーリーズさんが巨大な竜巻みたいなのを繰り出し始めましたね。あれ、合成獣(キメラ)の子供達はもう完全に無視ですか? 自分で許せない的な雰囲気を出しといて、いざとなれば研究所ごと吹き飛ばそうとかそれはちょっと身勝手過ぎません? なんて言ってる間にげんぶさんが攻撃を受けちゃいましたが、本人はほとんどダメージが無い上にまた別の姿に変化した様子。

 

『なっ!?』

 

これにはディアーリーズさんも想定外だった様子で。しかし余程自身満々だったんでしょうねぇ、私からすればざまぁ見ろって感じですが。まぁそれはさておき、そろそろ転移の準備をしなくては。

 

『フンッ!!』

 

『が…!?』

 

別の姿に変化したげんぶさんが、驚いているディアーリーズさんを蹴り飛ばす。今ですね。

 

「ほっと」

 

『!?』

 

私のテレポート能力があれば、私の近くに人を転移させる事など屁でもありません。無理やり転移させられたディアーリーズさんは何やら納得がいってなさそうな表情でこちらに掴み掛かって来ましたが。

 

「竜神丸さん! 何で僕を転移させたんですか!? まだ勝負は付いていなかったのに…」

 

「いえいえ、あのままだとお二人とも、強制的に勝負を中断させられていましたよ…管理局によってね」

 

「…!」

 

「見てみますか? 彼と管理局の戦いを」

 

タブレットの映像をディアーリーズさんに見せる。映像ではちょうどげんぶさんが…エクシアでしたっけか、それに変化したまま魔導師部隊の連中を次々と斬り捨てていく光景が映っています。さて、彼の反応は…

 

「な、何なんですか、彼の強さは……一体…」

 

あぁ、やっぱり察しが悪いみたいですね。まぁ情報を前もって仕入れてないのだから当然でしょうけど。

 

「あの人―――げんぶさんは私達の『旅団』のナンバーズ。貴方の先輩ですよ、ディアーリーズさん?」

 

私がそう告げた事でやっと理解したのか、ディアーリーズさんは物凄い唖然とした顔をしております。人の話を聞いてない癖に、今更そんな顔をされましてもねぇ?

 

そんな事を思いつつ、私とディアーリーズさんは楽園(エデン)へと帰還する事にしました。ちなみに少しした後にげんぶさんも楽園(エデン)に帰還したようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼がげんぶさんですよ、ディアさん」

 

「え、あの人が!?」

 

私達が楽園(エデン)に帰還した後、少し経ってからげんぶさんも帰還して来ました。せっかくなので、ここで少しディアーリーズさんをおちょくるとしましょう。

 

「ええ、それに彼は若干短気でして……味方に襲われたとなると、相当に不機嫌でしょうねぇ?」

 

そう言うと、ディアーリーズさんの表情がみるみる青ざめていきます。まぁげんぶさんが短気だという情報は適当についた嘘なんですが、彼に対しては充分効果は覿面だったようで…

 

「申し訳ありませんでしたぁっ!!!」

 

「ッ!?」

 

げんぶさんに対し、華麗なスライディング土下座を決めるという状況に至りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…驚いたげんぶさんの表情が異様に面白かったのは内緒ですよ?

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
3
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択