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ALO~妖精郷の黄昏~ 第27話 新入生と暗雲の兆し

本郷 刃さん

第27話です。
今回はキリトとユージオが修剣士になったところから始まります。
やはり2人の順位を変えてみました。

どうぞ・・・。

2014-06-22 12:24:29 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:12575   閲覧ユーザー数:11914

 

 

 

第27話 新入生と暗雲の兆し

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

先輩たちが卒業したあとに行われた俺たち初等練士の進級試験。

筆記試験は答案用紙に全て書き込み、神聖術の試験は基礎の完成型であるが基礎通りに熟せばあっさりと終わった。

そしてある意味本命と言える剣術を使用する進級試合、

これは教官と戦うものなのだが俺の相手は周囲を驚かせる人物だった。

 

「貴女が相手をしてくださるなんて…光栄ですよ、アズリカ先生」

「言ったはずですよ、貴方の1年の成果を見せてもらうと。キリト初等練士」

 

俺としてはなんとなく予想していた。

というのも、彼女は7年前の四帝国統一大会においてノーランガルス北帝国第一代表剣士だった。

俺はつい先日卒業した当時の主席であったウォロ先輩を打ち破っているため、おそらく学院側がこの采配にしたのだろう。

やってくれると思った一方、面白いと思ってしまうのが剣士の性である。

 

「試験としての試合ですが、貴方自身の剣を見せなさい」

「勿論、本気でいかせてもらいます」

 

俺とアズリカ女史が剣を構えると周囲の空気が張り詰め、隣の試合場ではユージオも他の教官相手に剣を構えている。

既に互いに戦闘モード、ユージオもすっかりと剣士らしくなってきたものだ。

そして、俺たちの空気に応えるように、審判の教官が手を振り上げ…。

 

「始めっ!」

 

その言葉と振り下ろした手によって、俺たちは教官と剣を交えた。

 

キリトSide Out

 

 

No Side

 

――勇敢な少年だ…

 

ユージオと戦っている男性教官はそう思った。

彼は他の教師のように貴族や由緒ある家柄の人間ではない。

平民の出、それでも衛兵隊の末端として剣の腕を磨き、

運良く学院への推薦状を書いてもらい、勉学に励み、修剣士になって卒業することもできた。

その後、教師になるための資格を得て、この学院の教師になった。

彼らを見ているとそんな自分の姿と重なっているように見えるが、自分と彼とでは大きな違いがあった。

 

剣術の技術、この生徒は自分などでは到底及ばないほどの可能性を秘めている。

つい先日に卒業したウォロ・リーバンテインを超えるかもしれない、

そんな思いを抱かせるほど彼の剣は力強く勇敢である。

ウォロやソルティリーナのような貴族、平民にも等しく接する貴族は居る。

だが傲慢な者も当然ながらおり、そういった生徒は今年の生徒にも居た。

そんな中でも、彼らはめげずに自分達の力を揮っている。

それが素晴らしいと、そして羨ましいとも思う。

 

剣をぶつけ合い、ついに決着は訪れた。

ユージオが剣技を放ち、自身は奥義を放つがユージオの剣が自身の剣を弾き飛ばした。

見事な剣舞、彼は必ずや強い剣士になると、教官は感じていた。

 

 

――恐ろしい少年だ…

 

キリトと相対しているアズリカはそう思った。

かつて統一大会において代表剣士の1人として剣を振るった自分が片手間であしらうかのように遊ばれている。

いや、彼が遊んでいないことを彼女は十分に知っていた。

強いて言うならば、自分は彼に見極められている…そう考えるしかない。

 

それほどまでに教官であるはずの自分と初等練士であるキリトの差は激しい。

しかもそれは、自分は彼に決して届くことはないと、自覚させられるものだ。

だからこそ、最もたる高みに居る彼がどのような道を進むのか興味がある。その思いが剣を交わらせるのだろう。

 

だがしかし、その時間の終わりはすぐに告げられることになった。

奥義を以てしてキリトに迫るも彼は剣技で以てそれに応え、彼女が扱う教官用の剣を完全に破壊した。

彼は本気だった、それは間違いない……だが手加減され、決して全力ではなかった。

アズリカは思う。この少年の高みは、一体どれほどなのだろうかと…。

 

 

全ての試験が終わり、これらの進級試験を以てしてキリトたち初等練士はこの年の学業を終えた。

 

No Side Out

 

 

キリトSide

 

「よっと」

「おかえり、キリト。また窓からのおかえりだな」

「ただいま、ここが一番近道だからな……それで、間に合ったか?」

「ギリギリだね」

 

3階の自室の窓から部屋の中に入り込むと親友からお声が掛かった。

腕には紙袋を抱えているから、これで結構大変だったりする。

俺とユージオは居間が共同で同室、俺の寝室は301号室、ユージオの寝室が302号室となっている。

そんな時、俺たちの前に2人の少女が直立不動の姿勢で立った。

 

「キリト主席上級修剣士殿、ご報告します! 本日の掃除、完了いたしました!」

「ユージオ次席上級修剣士殿! こちらも本日の掃除、完了いたしました!」

「おつかれ、ロニエ」

「ご苦労様、ティーゼ」

 

緊張感が漲っているきびきびとした声が部屋に響き、俺もユージオも変わらない様子に苦笑する。

俺はともかく、1年前のユージオはこんな感じだったのを覚えている。

 

俺に報告した焦茶色の髪の少女はロニエ・アラベル、16歳で六等爵家の出であり、俺の傍付き練士でもある。

ユージオに報告した赤色の髪の少女はティーゼ・シュトリーネン、同じく16歳で六等爵家の出、ユージオの傍付き練士だ。

 

この2人は1年前の俺たち同様に成績を上位12位以内にし、傍付き練士の資格を得た。

俺とユージオは傍付きを選ぶことをせず、順番を最後に回してもらい、

残った2人であるロニエとティーゼをそれぞれ傍付きに指名したのだ。

早い話しがこの春に入学したばかりの新入生、学院で最も名誉ある上級修剣士、しかも主席と次席の傍付きだ。

ガチガチに緊張しても仕方がないし、まだ1ヶ月の内に慣れるのは大変だと思う。

俺みたいな図太さもないだろうしな。

 

「ほれ、ユージオ。『跳ね鹿亭』の蜂蜜パイだ」

「ありがと。ということはそっちは…」

 

紙袋から取り出したパイを受け取ったユージオ、俺も1つを口に加えてから、ロニエに蜂蜜パイが入った紙袋を渡す。

戸惑いながらも受け取る2人にパイを手で持ち直してから伝える。

 

「掃除ご苦労さん。今日はもう寮に帰っていいから、部屋のみんなと食べな」

「あ、ありがとうございます主席上級修剣士殿!」

「頂いた物の天命が減少しきる前に寮に戻ります! それではまた明日!」

 

2人は年齢相応の笑顔と歓声を上げたあと、姿勢を正してから初等練士寮へと戻っていった。

 

「ようやく笑ってくれたな、あの2人」

「仕方がないよ。去年の僕もあんな感じだったし、気持ちは分かる…」

 

俺は直葉を、ユージオはおそらくセルカを見ている気分だったと思う。

とはいえ、慣れてもらわなければ剣の稽古もままならないので、早々になんとかしないといけないな。

取り敢えず、いまはやるべきことをしておくか。

 

「俺は明日の上級神聖術の筆記試験と『凍素』生成の実技があるから復習をするけどお前はどうする?」

「僕は少し稽古をしてくるよ。終わったら夕食を持ってこようか?」

「それはありがたい。頼むよ」

 

そういって木剣を持ってからユージオは部屋をあとにした。

さて、苦手ではないが得意でもない神聖術の復習でもしますかね。

俺は上級神聖術の筆記試験のために勉強と『凍素』生成の練習を始めた。

 

キリトSide Out

 

 

 

 

ユージオSide

 

「アリス…」

 

自然と口から出たのは幼馴染である金髪の少女の名前。

初めてキリトに会った時、彼女のことを好きか聞かれたことを思い出す。

 

あの時はアリスを取り戻すって息巻いていたけど、心の何処かでもう彼女とは会えないと諦めていたことも覚えている。

そんな夢を見ても、子供の僕には何も出来ないって思っていた。

それをキリトが打ち破ってくれて、ギガスシダーを切る手伝いをしてくれて、剣術を教えてくれて、

一緒に街の衛兵隊になって、この学院に入学して主席と次席にまでなれた。

あの時、キリトが現れなかったら、きっと僕は何もしないでいまでも村で燻っていたと思う。

だから彼には凄く感謝しているけど、まだお礼は言わない…。

それは、きっとアリスを救いだしてから言うべきだと思うから。

 

それにあの時のキリトの問いかけの答え、僕はきっとアリスが好きだと思う。

それが家族や幼馴染としてのものか異性としてのものかははっきりと分からないけど、

彼女のことが好きなのは間違いない。

アリスに会えば僕はきっとその答えを見つけられるはずだ。

 

 

そうこう考えていると、寮から専用修練場までついた。

ふと、嫌な臭いを感じながらも中に入ってみると、予想通りに嫌な奴らがいた。

ライオスとウンベール…2人は僕に気付くと露骨な渋面を作った。

 

「おや、ユージオ……次席、修剣士。今夜は1人なのかな」

「こんばんは、アンティノス修剣士、ジーゼック修剣士。ええ、同室の彼は勉学の方で…」

 

僕の名前と次席修剣士の間にワザとらしく間を置いたのは姓を持たない僕への嫌味だろうね。

まぁこちらも応えないわけにはいかないので挨拶を返せば、ウンベールの方は明らかに屈辱そうな表情を見せた。

それはそっか、姓も持たない平民が貴族である自分たちを差し置いて主席と次席の座にいれば、

彼らにとっては不快だろうね。

だけど言葉を荒げないのは逸礼行為にならないようにするためかもしれない。

 

学年が上がる前にキリトに聞いたっけな。

同じ貴族で同じ流派であっても、ウォロ先輩とライオスはまったく別の思いを剣に乗せているって。

ウォロ先輩は誇りを、ライオスやウンベールは自尊心を乗せているとキリトは言っていた。

その時の僕は誇りと自尊心は同じ意味だと思っていたけど、彼から聞いた話では「似て非なるもの」らしい。

“誇り”は自分自身に対して証明し続けるもの、“自尊心”は自分を尊重し続けるもの。

難しいと思ったけど、要はウォロ先輩と彼らという風に見ればいいと言われ、納得した。

その誇りや自尊心もあるけれど、他にも思いの強さや夢や希望は良い方面、他にも悪い方面のものはあるって聞いた。

キリトが言うには誰かを守りたいっていう気持ちが一番良いとも聞いたなぁ。

 

そう考えながらいつものように丸太に木剣を打ち込む稽古を繰り返す。

しかし終わったところで彼らの嫌味や皮肉が聞こえてきた。

そこから言葉の応酬に似たものになって、僕とウンベールが木剣による立ち合いを行うことになった。

彼としてはここで僕を負かして、あわよくば偶然(・・・)の怪我を負わせようとしたのかもしれないけど、

そんな意図を読むことが出来たのもあって、立ち合いは僕が剣を弾き飛ばすことで勝利することができた。

 

僕が剣に込める思いは“アリスを絶対に救いだす”、

キリトには相手の重さを気にするよりもとにかく集中して自身の思いを強く込めろと教わっている。

それが、功を成したんだ。審判を務めたライオスが僕の勝利を告げることも皮肉気にいったけれど…。

 

「剣を振りまわすばかりが戦いではないことを覚えたまえ、無性の輩」

 

去り際にそう言われ、僕の心の中にそれが強く残った。

そのあと、僕は食堂に行って自分とキリトの分の夕食を注文して、部屋へと持っていった。

 

 

あの立ち合いから1週間が経過したけれど、彼らの嫌がらせは僕にもキリトにもされていない。

元々キリトには卒業前以来皮肉や嫌味を言うこと自体なくなっていたけど、

僕に対して言っていた皮肉や嫌味でさえもなくなっている。忌々しげに睨みつけてはくるけど。

 

キリトともそれについて話しているけど、禁忌目録はもちろん院内規則に接するような行動を彼らは取らないと言っている。

そんなことをする度胸はないはずだって。

おそらくこちらを気疲れさせるとか、或いは院内規則に接するか接しないかのギリギリを狙ってくる可能性もあると言ってる。

『懲罰権』の行使、それを手札に使ってくる可能性が高いとキリトは考えているみたいだ。

禁忌目録と学院則に触れなければなにをしてもおかしくないとまで、言ってきたけど…。

 

そんな風に話していると夜10時の鐘が鳴りそうな頃合いになってきたので、今日はお開きになった。

明日の休息日はロニエとティーゼと親睦を深めるために学院敷地内の森で野遊びをすることになっている。

それもあるから僕たちは眠ることにした。

 

自室に入ってベッドに横になった時、さっきの話について考えた。

学院則の抜け道をキリトと模索して挑んだことはあっても、禁忌目録に挑もうとしたのは昔の一度きり。

アリスが整合騎士に連れていかれる時、斧を持って斬り掛かろうと考えても、恐怖と混乱で結局できなかった。

その時も、それを思い出しているいまも、右眼が疼いている。これは何かの警告なのだろうか…?

 

それに、ライオスやウンベールが禁忌目録に触れていなければなんでもしていいと考えているのなら…。

そんな考えはありえない、至高の法典に逆らうはずがない、そう思うけど、不安は拭われることはない…。

ちくりと疼く右眼、瞼をつぶり無理矢理眠りに身を任せた。

 

 

翌朝、9時に迎えに来てくれたティーゼとロニエと一緒に僕たちは学院内の森の傍にきた。

キリトはロニエと話していて、僕はティーゼと行動している。

自分の故郷では見たことがない動物の話、彼女から聞いた複雑な貴族社会の話、

ティーゼと彼女のお父さんの心遣いを話して、

それに僕が衛兵隊からの推薦枠で入学していまは学院の2位の座に居ることを凄いと言ってくれた。

むず痒く感じながらもありがとうと返しておいたけど、これだけは知っておいてほしかった。

 

「ティーゼがそう言ってくれるのは嬉しいよ。

 でもね、僕も衛兵隊に入るための大会や学院入学の試験の時は凄く緊張した。

 合格できたのも、次席修剣士になれたのも、キリトが色々と教えてくれたからなんだ。彼は僕の師匠だからね」

「えぇっ!? キリト先輩って、ユージオ先輩の師匠なんですか?」

「そうだよ。剣術も、剣士としての在り方も教えてくれたのはキリトなんだ。

 彼は色々なことを努力して手を抜かないから、主席修剣士になってる。

 僕もそれに付き合って、キリトの努力を一緒に学びたいって思ったから、次席修剣士になれた」

「凄いんですね、キリト先輩…」

「うん。親友だけど、憧れなんだ…」

 

2人でキリトとロニエの方を見て聞こえてくる話を聞いてみれば、

ハイ・ノルキア流に対処する方法だったことには苦笑した、キリトらしいや。

それから池のほとりで昼食を食べることになった。

 

 

 

 

ティーゼとロニエが作ってくれたお弁当に舌鼓を打って食べる。

豊富な材料を買い集めるのは大変だったんじゃないかって思ったけど、

どうやらキリトが昨日の代わりに買いにいったらしい。

彼は昔からこういうところに良く気が付くなと思う。

 

「キミはホントにこういうところは気が利くよね。彼女さんのために良くやったのかい?」

「そんなところだな」

「えっ!? キリト先輩、恋人さんが居るんですか!?」

「どんな人なんですか?」

 

キリトの恋人がいる発言にロニエとティーゼが驚いているから、ロニエも知らなかったみたいだね。

年頃の女の子な2人はキリトにその恋人、アスナさんの話しを聞いている。

優しくて凛々しくて美人で、料理や家事が上手で剣術の腕前も凄くて、

そんなに出来た人はいないだろうって思うかもしれないけど、

キリトも十分に凄くて出来ている人だから嘘じゃないっていうのが分かる。

もしかしたら早い内に会えるかもしれないって聞いて、僕も2人もそれを楽しみにしている。

 

「キリト先輩は確かに少し怖そうに見えますけど、本当は優しい人だって解ることが出来ました」

「勿論、ユージオ先輩もですよ」

 

ロニエとティーゼの言葉と笑顔に僕たちも軽く笑った。

だけど、デザートを食べ終わった頃、ティーゼたちが真剣な表情で話し始めた。

 

なんでも彼女たちと同室のフレニーカ・シェスキという傍付き練士の子が指導生の変更を願い出たらしく、

僕たちに学院管理部にその口添えをしてほしいとのこと。

確かに次席の僕と主席のキリトが口添えをすればそれは通るかもしれないけど、どうしていきなり…。

 

「フレニーカ・シェスキか……なるほど、その子が変えてほしいと頼むのも解るな」

「どういうことだい、キリト?」

「フレニーカ・シェスキ傍付き初等練士、彼女の指導生はウンベールだ」

「はい、キリト先輩の言う通りです……あの、フレニーカとお知り合いですか?」

「いや。学院の教師と生徒の顔と名前、いまの状況とかは全部覚えているだけさ」

 

ああ、やっぱりという僕の反応に対し、2人はキリトの記憶力に驚いている。

それはいいから話しを進めようというキリトの言葉に頷き、ティーゼは続きを話した。

 

フレニーカは真面目で一生懸命、剣が強いけど少し控えめな娘という。

そんな彼女の指導生であるウンベールは厳しいらしく、特にここ数日はちょっとした粗相でも長時間の懲罰を課せ、

不適切な世話までさせているようで、フレニーカは相当辛い思いをしているとのこと。

院則に接しない範囲での、違反にならないでも女性としては耐え難いようなことをさせているようだ。

キリトが言った通りだ……禁忌にならないで、院則にも触れないことを平然とやってのけるなんて…。

 

「前にあった俺とのいざこざ、この前のユージオとの立ち合いに負けた腹いせ、か…」

「やっぱりそうなのかな…」

 

キリトと僕の言葉にショックを隠せない様子の2人。

ティーゼ達にとって貴族は誇りある人たちで、平民を守る為に頑張っている存在らしい。

そんな貴族が平民を、しかも女性に辱めを与えるようなことをさせていることが、悔しいみたい。

禁忌にも、院則にも触れていないけれど、人を不幸にして、女性を泣かせているなんて…!

 

そこでキリトは涙を浮かべているティーゼに向けて言葉を掛けた。

 

「ティーゼのお父上は

 『貴族は特別な権力を与えられる代わりに、平民を守る為にその力を揮わなければならない』、そう言ったんだよな?

 それは“貴族の誇り”といって、神聖語で言うなら『ノブレス・オブリゲーション』というものだ。

 これは貴族に限らず、人が生きる上で大切にしなければならないもので、時には法律や規則よりも大切なもの。

 法で禁じられていなくともしてはいけないことがあり、法で禁じられていてもやらねばならないことがある。

 正しくない法は法に非ず、強き・法・権威といえども盲信してはならない」

 

キリトが話している間、僕たちは彼のその威風堂々たる姿と深い落ち着きを宿している眼に魅入ってしまった。

話す言葉一つ一つが心に響いてくるほど、キリトの声には重さがあった。

 

だけど、正しくない法があるわけがない、公理教会は正しく導いてきたはずだと思う。

そんな思いも込めてキリトを見てみるとその考えを読まれたのか、彼は少し寂しげに僕を見返した。

その時、僕の中でアリスが連れて行かれる時の風景が過ぎって、

あの時に僕が動かなかったことはホントに正しかったのだろうか、と思った。

 

そしていつもは大人しいロニエが言った。

禁忌目録に書かれていない大切な精神とは、ただ法に従うんじゃなくて、考えることが大切な、自分の正義だと…。

そうか、あの時に少しでも動こうとした僕の思いは、自分の中の正義だったんだ…。

ロニエは解ったのにもう2年以上も一緒に行動している自分が理解しきれなかったことが、

僕もまだまだだなって実感させられた。

そんな僕をキリトが苦笑して見ていることには気付かなかった。

 

 

ティーゼとロニエを初等練士寮まで送ってから、僕たちは修剣士寮に向けて歩き始めた。

 

そこでキリトとウンベールのことで話すことにした。

僕もキリトもウンベールに注意をしても素直に聞く奴じゃないことは理解してる。

それに同室のライオスは馬鹿じゃない、何かを狙って…それこそ僕たちの訪問を狙っている可能性があるとキリトは言った。

彼がそう考えるなら、確かにその可能性は高いかもしれない。

でも、ウンベールがフレニーカを苛めているのは確かで、その原因が僕との立ち合いも一因だ。

 

「アイツらが何かを企んでいたとしても、いまの僕たちに出来るのはまず口頭で注意することだ。

 それで無理なら、管理部に要請しよう……それに、もしもの時は僕だって…」

「分かった、今回はお前の案でいこう。だからまずは落ち着け、そんな様じゃ奴らの思う壺だぞ」

「っ……ごめん。それとありがとう、キリト」

「どういたしまして。まぁ個人的に思うところがあるし、なにより既視感(デジャブ)るんだ」

 

キリトの言う通りに心を落ち着かせる。

怒りに呑まれることがあってはいけない、キリトは何度もそうなって、

その度に恋人のアスナさんに止めてもらったと聞いた。

意外だと思ったけど、彼は自分もまだまだ未熟だって苦笑している。

 

怒りはある、だけど落ち着いている。

それをちゃんと理解して、僕たちは自分たちの上級修剣士寮に戻り、ライオスとウンベールの部屋に向かった。

 

ユージオSide Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

はい、今回はユージオ視点を中心に原作の説明回的な話しになりました。

 

原作と違う点を挙げるのならば、やはりキリトとユージオが主席と次席にいることですね。

 

優秀なキリトに学ぶ形でユージオも次席にいるということです・・・ライオスとウンベールざまぁw

 

あとの流れは特に変わることもないので今回はここまでです。

 

次回はユージオとロニエとティーゼの危機、ついにキリトの怒りが爆発します・・・!

 

ではまた・・・。

 

 

 

 


 
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