No.694138

ALO~妖精郷の黄昏~ 第26話 先輩たちの卒業

本郷 刃さん

第26話です。
キリトVSウォロになりますが、結果は原作と異なり・・・。

どうぞ・・・。

2014-06-15 12:41:50 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:9557   閲覧ユーザー数:8813

 

第26話 先輩たちの卒業

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

学院に戻ってきたところでゴルゴロッソ先輩の部屋に行くと言ったユージオと別れ、

俺は武器の持ち込みを申請する為に初等練士寮の事務室へと足を運んだ。

扉は開いているが礼儀もあるので扉をノックし、それに気付いたアズリカ女史が声を掛けてきた。

 

「どうかしましたか、キリト初等練士」

「失礼します……私物の剣の持ち込み許可を頂きにきました」

 

一礼してから入室し、アズリカ女史の側に歩み寄って用件を伝える。

この世界の武器は僅かずつであるが周囲の神聖力を常時吸収している。

周囲に無用な影響を及ぼさないために、学院内における武器の持ち込みは1人1つまでと決まっている。

勿論、学院の訓練で貸しだされる物は別であり、他の俺の剣たちも空間に収納されているため扱いは別だ。

 

そういった事情があるため、こうして寮監であるアズリカ女史に許可を取りにきたのだ。

それを悟ったのか彼女は1枚の書類を取り出して俺の前に置き、必要事項を記入するように告げてきた。

記入欄は名前、生徒番号、剣の優先度(プライオリティ)のみの簡単なものだったので、

ペンを使い“キリト”、“1”、“46”と書き込みアズリカ女史に渡した。

女史は書類に目を通すと一度沈黙したあと、確認ということで剣の提示を促してきたので応じる。

麻布から出た剣を見た女史は優先度を確認した時、珍しくも両目を見開き驚きを示していた。

 

「キリト練士……貴方には、その剣の記憶が…」

「“剣の記憶”…?」

「あ、いえ……なんでもありません…」

 

“剣の記憶”、そんな言葉を残した女史を問い詰めようかとも思ったが、

彼女は表情をいつも通りのものに戻してしまったので付け入る隙を無くしたので諦めることにした。

シャーロットならば何か知っているかもしれない、後で聞いてみよう。

 

保有申請は受け入れられ、検定試験と集団稽古等では用いないことを注意され、

個人的な鍛練のみに使うように言われ、それに返事をしてから事務室を後にする。

寮の外に出ると午後3時を告げる音色が学院の鐘楼から聞こえてきた。

リーナ先輩との約束時間は午後5時だから、それまでにもう少し剣の試し振りをしたいところだ。

しかし、今日は安息日で稽古は禁じられているから、そうだ試し振りということにしよう。

幸いにも今日の学内は人も少ないから丁度良い、それに東の森は遮蔽物も多くて隠れやすいからいいかもしれない。

そうして俺は学院の敷地内にある東の森へと足を進めた。

 

 

森へ向かう間、俺はシャーロットに先程アズリカ女史が口に出した“剣の記憶”について聞いてみることにした。

 

「なぁシャーロット。アズリカ先生の言っていた“剣の記憶”ってなにか分かるか?」

「ええ。“剣の記憶”とは、文字通りその剣の記憶になります。

 正確には“武器になる前の記憶”と言った方がいいかもしれませんね」

「それは、この剣ならギガスシダーがそれにあたるのか?」

「そうです。“剣の記憶”を知り、使い手の実力が伴い、その心が強ければ強いほど、武器は使い手に応じて力を発揮します。

 特に強い力を“武装完全支配術”と言い、“強化”を行う『武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)』、

 力を“解放”する『記憶解放(リリース・リコレクション)』の2段階に分かれています。整合騎士たちの多くがこの力を使いこなしています」

 

そんな力があるのか……この世界を外側から見ていた者である俺でさえ知らなかった。

だがその力をこの段階で知れたのは僥倖だ。

仮に整合騎士と戦う事になったとして、その時に知るよりかは対処が出来るからな。

 

「アズリカ女史が口にしたということは何かしらの方法で知っていたとして、

 俺に対して“剣の記憶”と言ったのは俺も扱える位階にいるかもしれないということか?」

「私の考えでは、貴方はいつ扱えてもおかしくないかと…。それに、おそらくユージオも」

 

なるほど、彼女の見立てではそうなのか。

まぁ、俺もユージオならば『青薔薇の剣』の力を使いこなせるかもしれないと思う。

 

「知りたいことも知れたし、そこら辺は後々に考えよう。どうせ今は目立った訓練は出来ないからな」

「それもそうですね………しかしそれよりも、です」

「どうした?」

「今日は安息日なのですよ。稽古は禁じられています、それを…」

「試し振り、だ。現にさっき店で剣を振ったことは禁忌目録に触れていない。それなら、少しの試し振りは問題無いだろう?」

「はぁ、もういいです…。どうなっても知りませんからね」

 

シャーロットはそう言うと俺の髪に潜り込んでしまった。

俺は麻布の包みを解いて中から剣を取り出し、柄を握って刀身を抜き放つ。

風を切る音と共に現れた剣はやはりというか、さすがの名剣であることが改めて理解できる。

 

そこで俺はもう1つのことを考える。

細工店で試し振りをした時に起きたあの現象、ただの縦斬りが5メル(5m)ほど離れたバックラーを切り裂いた。

その際に感じたものと僅かに確認した刀身の発光、それは何を意味するのか。

おそらくはそれも『武装完全支配術』に関係しているのかもしれないが、あの時の俺には強いイメージがあった。

強くイメージし、集中を途切れさせず、ただ自然のままに持てる力を出して剣を振るった。

結果、斬撃が発生し、それがバックラーを切り裂いた可能性が高い。

そしてそれはソードスキルではなく、ただ心の思い描くままに剣を振るったからこそ、その技が出来たのかもしれない。

名付けるとするならば、『心意(インカーネイト)システム』か…。

 

「ま、あまり考えすぎるのも難だし、早いところ試し振りを済ませるか」

 

そう考えてから剣を構え、順番に片手剣のソードスキルを発動していく。

 

単発斜め斬り《スラント》、次に真上からの斬り下ろしと垂直への斬り上げによる2連撃技《バーチカル・アーク》、

次いで左水平斬りからの右上斬りに踏み込んでの前斬りという3連撃技《サベージ・フルクラム》、

そして上段斬りからの下段斬り、繋ぎの前斬りを行って全力斬り下ろしの4連撃技《バーチカル・スクエア》。

 

そこまで終えたところで心地良い集中力を感じたので5mほど離れた木の枝を仮想ターゲットに定め、

剣を振りかぶり、切っ先が真上に差し掛かる直前に右脚を前に出す。

体重移動のベクトルと捻転のモーメントで剣を引くイメージを作り上げ、

蓄積された全エネルギーを鋭い踏み込みと気合いに乗せて解放。

 

「ハァッ!」

 

黒い光が一直線に奔り、空気は切り裂かれ、斬撃か剣風なのか地面が抉れ、土と草が舞う。

放たれた斬撃の先にあった木の枝は見事に斬り落ちていた。これは、成功したみたいだな。

 

しかし、気配を感じてそちらを向いてみると1人の生徒が歩み出てきており、

その服に向けて俺が飛ばした土が衝突してしまった。

見られてはいないはずだが、やってしまった…。

そう考えながらその生徒に対し謝罪すると、言葉を放ってきた。

 

「お前は確か、セルルト修剣士の傍付きだったな」

 

その生徒は、この帝立修剣学院の首席上級修剣士であるウォロ・リーバンテインだった。

これは、面倒なことになるな…。

 

 

 

 

予想した通りと言うべきか、俺にとっては大きな問題とならなかったが少々の騒ぎへとなっているのは確かだ。

安息日に剣を振っていたことは試し振りということで不問とされたが、

ウォロ主席に付着した泥については見逃されず、懲罰として彼と立ち合いを行うことになった。

しかも木剣ではなく互いに真剣で、というものだ。

彼ならば泥を避ける事など他愛もないはずだが、俺としてはワザと当たったと考えている。

剣を交えることを目的としているのだろう……ならば上等、叩き潰すまでだ。

 

俺はウォロ主席のあとに続いて大修練場へとやってきた。

道すがら、俺と彼が共に歩いて修練場へ向かっている様子を見ていた生徒たちが他の生徒に知らせに行く場面もあった。

時刻は午後4時、安息日の門限は午後7時であるため約半数の生徒は既に学院内に戻ってきているはず。

観衆が多かろうが少なかろうがあまり気にしない方だが、

そろそろ“本当の剣士の一端”を見せつけるのもいいかもしれない。

 

そうこうしているとユージオがリーナ先輩と共にやってきた。

彼女はウォロに経緯を聞き、その間に俺はユージオと言葉を交わした。

食堂に居たところ他の傍付きから話しを聞いて先輩に話して一緒に来たとのことだ。

俺とリーナ先輩で話しているところにウォロ主席がルールを告げてきた。

寸止めの立ち合いではなく、完全な1本先取制。

場合によっては血を流すが、禁忌目録に定められていてもこれは合意さえあれば、軽い怪我ならば問題無いという。

対して俺はそのルールを呑み、立ち合いが合意された。

 

教官が3名来ており、その内の1人はアズリカ女史だ。

生徒は既に50人を超えており、その中にはニヤニヤと嫌味たらしい笑みを浮かべているライオスとウンベールの姿もある。

俺がウォロ主席に斬られるところを見たいようだ、物好きめ。

 

「キリト。私はお前の強さを知っているから信じているし、それほどの心配はしていない。

 だが一応、伝えておかなければならないと思ってな」

 

リーナ先輩の言葉、なんでもリーバンテイン家には剣を強者の血で濡らせという家訓があり、

それによって強くなるというものらしい。分からなくはない家訓だな。

 

「そういうことだから気を付けるように。それと、昨日私とした約束だが、ここで果たしてくれないか?」

「いいんですか? あとでリーナ先輩だけに見せても構わないんですが…」

「構わない。むしろ、ここで盛大にお前達を馬鹿にしてきた奴らに目に物を見せてやれ」

「ははは……了解です」

 

俺と彼女は互いに笑みを浮かべ、リーナ先輩は離れる。今度はユージオと小さく話す。

 

「キリト、僕は心配だ…」

「心配してくれるのか?」

「うん、ウォロ先輩の身の安全をね」

「言うようになったな……しかもそれ、主席が負けるのを確信しているな?」

「こう言っちゃあれだけど、キミが負けるはずないし」

「お前、俺に似てきたんじゃないか…」

「僕もそう思うよ。それじゃ、先輩に怪我させないようにね。あと、あの2人に目に物見せてあげなよ」

 

苦笑しながら離れたユージオ。

純真だったあのユージオが随分と腹黒くなって……だが責任は取らん、その方が面白いからな(黒笑)

 

右拳で左胸を叩く略式の騎士礼を行い、ウォロ主席と同時に試合場に踏み込み、開始戦に達する。

主席は左腰から金茶色の柄を握って磨き上げられた刀身を抜き放ち、俺は背中の鞘から漆黒の剣を抜き放つ。

 

「辺境では剣に墨でも塗っているようですな、ライオス殿」

「そう言うな、ウンベール。傍付きだから剣を磨く暇がなかったのだろうさ」

 

相も変らぬ2人の言葉に周囲の貴族出身生徒達も失笑するが、既に俺は臨戦態勢にある。

俺の異様さを感じたのか主席は僅かに汗を滲ませながら、長めの刀身を持つ剣で大上段の構えを取った。

対して俺は右手の剣を前に出し、左半身を僅かに引かせる普段通りの構えを取る。

相対して分かるのは命懸けの戦いを行った事がない者にしては良く出来た圧力(プレッシャー)である。

 

だが、それ故にただプレッシャーを放っているだけとしか言えない。

『神霆流』然り、アスナ然り、ヒースクリフ然り、

真に命懸けで戦ってきた者達のプレッシャーは研ぎ澄まされているからな。

主席のは荒々しいだけともいえる。そして、俺たちは剣をぶつけ合った。

 

キリトSide Out

 

 

No Side

 

先制、その言葉通りにウォロ・リーバンテインはハイ・ノルキア流奥義《天山烈波(てんざんれっぱ)》を使用した。

多くの相対者を斬り裂き、己の剣にその者の血を染み込ませ、

勝利し続け、流派に誇りを持ち、絶対的なイメージを彼は持っていた。

しかし、それは相対する後輩によって打ち止められた。

 

「アインクラッド流《ソニックリープ》」

 

先制、その言葉通りにキリトは己の力を以てして、ウォロの一撃を容易く受け止めた。

僅かに衝撃波が起こったものの、互いに健在。

上級主席剣士の奥義を片手で止めた、その事実にユージオを除く観衆は呆然と驚愕、そして絶句した。

最も驚愕しているのは他ならぬウォロ自身、己の全てを込めた一撃を片手で容易に止められたのだから当然か。

だが即座に意識を移したウォロはすぐさま上段斬りを連続して行う。

けれど、それさえもキリトに対しては猛威とならず、キリトは全てを剣で防ぐかいなすのみ。

 

そこでキリトが反撃を行うが、ウォロは瞬間的に脅威を感じとり、身を固まらせる。

直後、キリトが剣を振りおろし、その衝撃波が彼の隣を駆け抜けた。

衝撃波はウォロの後ろを突き抜け、丁度彼の後ろの位置で観戦していたライオスとウンベールに直撃、2人諸共生徒が倒れた。

静まり返る大修練場、呆然とする生徒達、

体勢を戻しながらも青褪めているライオスとウンベールと倒れた生徒、絶句する教官。

 

この時点で戦いを止めるべきなのだろうが、

これは懲罰試合なためにキリトが降参する以外には決着も付いていないのに止めるべきではない。

寮監であるアズリカはそう考えた。

 

「ウォロ先輩。貴方の全力を、俺に見せてください」

 

挑発とも取れる言葉、だがウォロは気を悪くすることはなかった。

むしろ喜んでいた、己を優に凌駕する存在がここに居たことに。

彼を乗り越える事が出来れば、間違いなく強くなれると、そう考えたからだ。

 

だからこそ、彼は再び奥義の構えを取り、キリトも剣を構えた。

互いの剣が発光し、大修練場の空気が張り詰める。そして、誰かが息を呑んだ瞬間。

 

「カァァッ!」

 

ウォロが裂帛の気合いを迸らせ、雄叫びと共に動いた。

彼にとって今までで最高の《天山烈波》が放たれる。

思わず観衆はキリトの敗北かと考えた…ただ1人、ユージオを除いて。

 

「敗北を知れ……アインクラッド流六連撃技《ファントム・レイブ》」

 

キリトはOSS(オリジナル・ソードスキル)を除いて片手剣の最大連撃技である《ファントム・レイブ》を繰り出した。

3撃で《天山烈波》を止め、4撃目で剣を弾き飛ばし、残り2撃はウォロの両頬をそれぞれ僅かに斬り掠めた。

 

「……私の負けだな。キリト練士の懲罰はこれにて終了とする」

 

ウォロ自身の言葉により、懲罰試合は幕を閉じた。

 

No Side Out

 

 

 

 

キリトSide

 

「ありがとうございました、リーバンテイン殿」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。今日の敗北を以て、私はまだまだ強くなれることを知った。

 敗北で強くなれることを教えてくれたこと…礼を言うぞ、キリト練士」

「どういたしまして。強くなってください、必ず」

「うむ、約束しよう。今後は誰かに泥をぶつけぬようにな」

 

立ち合いを終えて言葉を掛けあったあと、そう言い残してウォロ主席は教官の1人を連れて大修練場をあとにした。

次の瞬間、修練場内が大歓声と拍手によって包まれた。

何時の間にか観客は100人ほどになっており、みながみな盛んに両手を打ち鳴らしている。

その中にユージオと彼の指導生であるゴルゴロッソ先輩の姿を捉え、笑みを向け合う。

すると、リーナ先輩が珍しくやや興奮気味に走り寄ってきた。

 

「お前なら勝つと信じていたが、本当に驚かせてくれる……まさか、六連撃の技とはな。

 独り占め出来なかったのは残念だが、キリトが彼に勝ってくれたお陰で私は自分に自信を持てそうだ」

「そう思っていただけるのなら俺も嬉しいです」

「門限までにはまだ時間がある、私の部屋で祝杯を上げよう。

 ユージオ君も呼ぶといい…ああ、折角なのだから彼の指導生も招こう」

 

その言葉に笑みを浮かべて頷き、観客席のユージオとゴルゴロッソ先輩に対して指で出口を示し、

リーナ先輩の後に続いて俺も歩き出す。

そこで俺は異様な悪意ある視線を感じ取った、あぁアイツらか…。

 

「シャーロット」

「どうかしたのですか?」

 

俺は周囲にもリーナ先輩にも聞こえないように髪に隠れているシャーロットに呼びかけ、彼女にある頼みをしておいた。

 

 

大修練場を後にした俺たちはリーナ先輩の部屋を訪れ、彼女秘蔵のワインを頂く事になった。

この世界の酒はちゃんとと言うべきなのか、酔うことが可能となっている。

まぁ“理性を失わない程度の陽気”なのでまったく問題はない……俺は元より強いのだがな。

 

酒の席ということもあり、俺たちの会話は明るいものである。

まず始まったのがロッソ先輩による剣技や流派の薀蓄だ。

良く知られているものからマニアックなものまで、色々と知っていたので聞いていて面白かった。

SAOの時はそういう設定すらなかったが、このUWでは各流派の剣技などの成り立ちを知れたのが良かった。

 

次は俺たちの進級試合の話になったがリーナ先輩は俺が、ロッソ先輩はユージオが1位になると予想し、

対して俺は自分が1位になってみせると言い、ユージオは「なら僕は2位になる」と言った。

そこは1位を目指せよと先輩と3人揃って思ったはずだが、そのあとユージオだけでなく、

先輩たちからも難しい目で見られ、納得された……解せぬ。

 

次いで卒業試合の予想となり、俺はリーナ先輩を押し、ユージオはロッソ先輩を押した。

先輩たちも、今度の試合こそは1位になってみせると強い意志を示した。

そんな時だった…俺は窓の外にシャーロットが居るのに気付き、席を立つ。

 

「すみません。飲み過ぎたみたいで、少しだけ風に当たってきます。すぐに戻りますから」

「分かった。だが早めに戻れよ、時間が無くなってしまうぞ」

 

リーナ先輩の言葉に苦笑してから部屋を出る。

そして、上級修剣士寮を出た俺は、シャーロットから事情を聴きながら全力を以て駆け出した。

 

 

初等練士寮の中庭にある花壇、俺はその奥の『ゼフィリア』を育てているプランターの傍で闇に気配を溶け込ましていた。

また、別の物陰にはもう1人が潜んでいる。

そして僅かも時が経たない時だった。中庭への扉を潜り何者かが入ってきた、人数は2人。

 

「平民風情が、我らを一体なんだと思っているのか…!」

「そういきり立つな。だが、無性の輩に示さなければならないのは確かだ。平民は我々に従うべきだと」

「その通りですな。だれが支配者であるのか、その心に刻んでやりましょう」

「では、やろうか…」

 

その2人は俺たちに気付くことなく、スコップを持ちプランターの前にやってきた。

そして、スコップを振りかぶり振り下ろそうとした瞬間。

 

「そこまでだ」

「「っ!?」」

 

声を出しながら2人の持つスコップを掴み、動きを止める。

俺の出現に困惑する両者、まったく…ここまでするとはな。

 

「俺に何かをするのならともかく、無関係な植物に手を出そうとするとは……随分と捻くれた根性だな、

 ライオス(・・・・)ウンベール(・・・・・)

 

名を呼ばれ、あからさまに動揺して体を揺らした2人。

 

「い、言いがかりは止めてもらおうではないか、キリト練士!」

「そうだとも。これは貴族として平民の雑草抜きの手伝いをしようと思ってのことだよ」

「ほぅ……だ、そうですよ、アズリカ寮監(・・・・・・)

「言い訳がましいですよ。ライオス初等練士、ウンベール初等練士」

「「なっ!?」」

 

物陰に隠れていたもう1人の人物、それこそアズリカ女史である。

俺以上の予想外の人物である彼女の登場に呆然と、愕然としている2人はもはや対処しきれなくなっている。

 

そもそも、何故アズリカ女史が付いてきたのか…それはこの2人が話していた会話を教えてくれた人物がおり、

その対処のために付いてきてほしいと俺が頼んだからであるが、勿論伝えてくれた生徒など存在しないがな。

 

「この花たちはキリト初等練士が本来必要のない私の許可を貰ってまで育てているものです。

 用途に関しては近日中に明かされますので言えませんが、学院公認である正式な花々です。

 それを私情で傷つけようなど、言語道断もいいところです。2人とも私に付いてきなさい」

「「は、はい…」」

 

顔を青褪めさせながらアズリカ女史に連れられていったライオスとウンベール。

取り敢えず、これで一時は大丈夫だろう。

 

「彼らはどうなるのですか?」

「今のところは注意だけで済ますようにしてもらっているが、どうなるかな…」

「何もないといいですが…」

「だな……さて、俺はそろそろ戻るけど、シャーロットも付いてくるだろう?」

 

シャーロットは頷いてから俺の髪に戻り、俺も上級修剣士寮へと走って戻った。

 

 

リーナ先輩の部屋の前に戻った時、ある人物と会ったのでその人も連れて戻った。

 

「遅かったではないか、キリト……リーバンテイン殿!?」

「途中でもよおしてしまいまして。彼はお客人です」

「失礼するよ、セルルト殿」

 

思わぬ人物の登場にリーナ先輩だけでなく、ユージオとロッソ先輩も驚いている。

しかも、その手にはなんと未開封のワインボトルと綺麗なグラスが握れているのだから、余計かもしれない。

 

「私も混ぜてもらおうと思ったのだよ。まぁ無礼講というやつだ」

 

予期せぬ客人の予期せぬ言葉に、俺たちは苦笑するも大いに歓迎した。

 

 

 

 

ウォロ先輩(今更かもしれないがそう呼ぶように言われた)も加わり、

新たに上物の酒が入ったことで俺たちは盛り上がっていた。そんな時、ウォロ先輩が語り出した。

 

「今だからこそ言うが、キリト練士。私は当初、キミを傍付きにしようと思っていたのだ」

「「……えぇっ!?」」

 

思わぬカミングアウトに俺とユージオは揃って叫んだ。いや、さすがの俺も驚くぞ…。

 

「むしろ当然だと思うが…」

「そうだな。キリト練士でなくとも、ユージオにするという考えもあったのではないかな?」

 

逆にリーナ先輩とロッソ先輩は落ち着いて応えているが…お二人さん、グラスを持つ手が震えていますよ。

 

「2人の言う通りだ。だが、騎士団剣術指南を任せられる二等爵家の者として、どうしても憚られたのだ。

 名誉あるリーバンテイン家の者が、禁令持ちになるというのは…な。

 あぁ、勿論セルルト殿のことを悪く言っているのではない、私にその度胸が無かっただけだ」

 

なるほど。ライオスとウンベールとは違い、正しき誇りを持つ者として、家を継ぐ者として葛藤があったのだろう。

だからこそ、傍付きに俺を指名するのをやめたのか。

 

「だが同時に後悔もあった。キリト練士を傍付きに指名したセルルト殿は戦うたびに強くなっているのを感じた。

 自分が指名していれば、いまよりもさらに高みに入れたと思うからな」

 

それを聞き、俺は可能性だったのが確信へと変わった。

 

「それでは、俺が跳ね上げた泥に当たったのはワザとなんですね?」

「その通りだ。面倒事にしてしまったのは申し訳ないと思うが、同時に好機だと思った。キミと戦える最後の機会だと」

 

その言葉に他の3人は感嘆の息を吐いている。

 

「だからこそ、言わせてもらう。キリト練士、私と戦ってくれてありがとう」

「こちらこそ、良い経験になりました」

 

そうして俺とウォロ先輩は握手を交わした。それから再びワインを飲み交わし、時間ギリギリまで過ごした。

そしてお開きになる時、卒業を控える先輩たちが言葉を交わした。

 

「セルルト修剣士、リーバンテイン修剣士、卒業試合は俺が勝たせてもらうぞ」

「ふっ、今度も私が勝つさ。そして、1位の座も勝ち取ってみせる」

「2人と再び交える剣、楽しみにさせてもらう」

 

ロッソ先輩、リーナ先輩、ウォロ先輩、3人の宣言に俺もユージオも良い物を見せてもらったと思った。

 

その後、酔い気味のユージオに肩を貸しながら、俺たちは初等練士寮に戻った。

部屋のベッドにユージオを寝かせてからもう一度中庭へ行き、今度は水を与える。

強くイメージし、心からの祈りを捧げる。

水やりを終え、寮の入り口に戻った時、俺は央都の中央にある塔を見た。

そこに見えたのは光、それは徐々に塔を離れていく、あれは…!

 

「飛竜…! ということは、整合騎士か!」

 

この世界で飛竜に乗るのは整合騎士のみ。

俺の敵であるアドミニストレータの忠実な尖兵……に、されてしまったこの世界の民、それが彼らの正体。

ユージオは今のアリスの真実を知ればどう思うだろうか、そう考えてから詮無いことだと思い、寮の中へ戻る。

 

 

 

それから時が流れ、3月末。

最後の対戦となる卒業トーナメントが行われ、ロッソ先輩は準決勝でリーナ先輩と戦い敗北。

決勝戦はリーナ先輩とウォロ先輩となり、見事リーナ先輩はウォロ先輩を破って優勝してみせ、1位となった。

 

翌日の卒業式にて、修剣士と高等練士の先輩たちは卒業した。

式は厳かに行われたがそのあとは範囲外ということだった。

俺は見事に開花した『ゼフィリア』の鉢植えを持ち、先輩たちの前に姿を出した。

 

「俺が育てたゼフィリアの花です。卒業おめでとうございます、ソルティリーナ・セルルト主席修剣士殿」

「っ…あぁ、あぁ、ありがとう、キリト…!」

 

彼女は満面の笑顔と共に涙を流しながら喜んでくれた。

 

「卒業おめでとうございます。ゴルゴロッソ・バルトー修剣士殿」

「ありがとう、ユージオ!」

 

ユージオも俺が渡した鉢植えをロッソ先輩に渡し、彼は男泣きしながら笑顔を浮かべる。

他の傍付き練士たちも俺が渡したゼフィリアの鉢植えを持ち、それぞれの指導生に渡していく。

卒業生たちはみな喜び、嬉し泣きする者もいる。

そんな中、俺はもう1つの鉢植えを持ち、アズリカ女史の前に立ち、彼女は首を傾げている。

 

「どうぞ、アズリカ先生」

「私に、ですか…? 何故…」

「迷惑を掛けてしまったことが多いですが、1年間俺たちの寮監を務めていただき、ありがとうございました」

「……まったく、貴方という生徒は…。教官としては、来年も厳しくいきますよ」

「それは勿論ですよ」

 

目尻に少し涙を滲ませながら、アズリカ女史は鉢植えを受け取ってくれた。

こうして、先輩たちは卒業していった。

 

そして、今度は俺たちが先輩となり、後輩を導く年が訪れた。

だが、それはこの世界での旅の終わりが近くなっているのだと、この時の俺は思ってもいなかった。

 

キリトSide Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

原作におけるキリトVSウォロ、本作ではキリトが勝利しました。

 

さらに本来は無残な姿にされるはずだった『ゼフィリア』の花々もキリトの指示に従ったシャーロットにより無事です。

 

未遂で終わったとはいえ、アズリカの説教はきっと長かったでしょうね・・・w

 

そして酒宴にはウォロも加入、本作のキリトだからこその人を惹きつける才能ゆえですね。

 

先輩方の卒業式、ゼフィリアの花が無事なために卒業生全員と1年間お世話になったアズリカにも渡しました。

 

さて、UW編はもう少し長くなることになってしまいますが、キリトさんの活躍をお楽しみに。

 

黄昏も楽しみにしていただけると幸いです、こっちが本命ですからね(苦笑)

 

では・・・。

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
14
6

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択