No.687273

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第030話

重昌「なぁザイガス」
私「なんだい重爺」
重昌「誰が爺だ、誰が!!私はまだたったの○○代じゃないか!!」
私「結構なお年じゃないか?結局、重爺って何人の奥さんがいるの?」
重昌「何人って、お前まだ『戦極†夢想』すら終わらせていないだろ。ここで言ってもいいものか?」

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2014-05-17 01:28:07 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:1395   閲覧ユーザー数:1270

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第030話「名王と覇王」

重昌や一刀が江陵にて白龍との同盟に持ち込んでいる間に、曹操と袁紹、両英雄の戦いの火が落とされようとしており、その口火を切るかの様に、袁紹は曹操の収める許都へと軍を進めようと準備をしていた。

「姫、次の相手は曹操ですけれど、いったいどれだけの軍を連れて行くつもりですか?」

サバサバした態度で主君に尋ねる文醜。

公孫瓉を追い出し、冀州・青州・并州・幽州の四州を掌握した後、袁紹は国力の安定もままならない状態であることは承知ですぐに行動を起こした。

猪々子(いいしぇ)さん、貴方も誇り高い袁家なら、もっと節操をわきまえればどうですの?」

竹簡に筆を走らせながら政務に取り組む袁紹は、取り組みながらも文醜に小言をはさみ、彼女も照れくさそうに頭を掻いて袁紹に頭を下げる。

袁紹は竹簡に走らせている筆の動きを止めて、ため息を一つついた後に筆を置いた。

「まぁいいですわ。逆に問いますわ。猪々子さん、貴方が私の立場でしたら、いったいどれほどの規模で華琳さんと当たればいいと思いますの?」

まさかの軽い気持ちで聞いたことが自分の問いとして返ってきたので、彼女は顔をしかめ頭を抱えながら、自らの頭の中の知性をフル回転させる。

「白蓮様を攻めた時は3万ぐらいで、今度の相手は曹操ですからねぇ、8万ぐらいですか?」

「……猪々子さん、考えが安直過ぎますわよ」

「まぁ、あたいは戦う専門なんで」

へへっと笑いながら言う文醜に、袁紹のそばで共に政務をこなしていた顔良もため息を吐いた。

袁紹は椅子に対し深く腰を入れて座り直し、自らの姿勢を整え直した。

「……猪々子さん、華琳さんの力を侮り過ぎではありませんこと」

「なら姫は次の戦、どれだけの軍勢を引き連れて行くんだ?」

「20万ですわ」

答えを聞いた瞬間、顔良は「ちょっと待て」と言いたげな顔で袁紹に問いかけた。

「ちょっと待って下さいよ麗羽さま、20万って言ったら、今私達が動かせる兵力の全てじゃないですか!?国力も安定していないこの時期に、それだけの大軍を動かすのですか?」

座っていた政務机の椅子も蹴り出して立ち、袁紹の前で机越しに直談判した。

「姫、いくらなんでもそれは多すぎやしねぇか?あたいは馬鹿だからそういったことは姫や斗詩に任せっぱなしだけど、それでも20万はやりすぎじゃね?」

「……斗詩さん、猪々子さん、よく状況をご覧なさい。私たちが徐州に乗り込んだ際、劉備さんは逃亡。同じく徐州に攻め込もうとしていた美羽さんは隙を突かれて孫策の謀反にあって行方知れず、肥えた徐州の土地の権利を私に奪われたくないと思い、華琳さんは着々と軍備を整えて徐州侵攻に乗り出している。つまり、華琳さんを叩くのは今しかありませんわ」

やられる前にやる。

今ならば曹操も軍備を整えている最中。

完全に臨戦態勢を整えられて戦うより、今の方が数倍ましであった。

他にも彼女は言った。

曹操は今皇帝である劉協の信頼を買おうと軍備では無く内政に力を注いでいるため、連合以来軍備強化に力を強く注げていない。

仮に自国の軍備を完全に整え曹操を攻めるとなっても、その頃には優秀な人材が揃う曹操陣営は皇帝の信頼も徐州侵攻の為の軍備強化も完全に整え終えている。

そうなってしまえば、曹操より大義名分も国力も軍備もいずれ下回ることとなり、戦わずに敗れる事態も想定しなければならない。

なればこそ公孫瓉、劉備を追い出した今の勢いを維持して、僅かに上回っている名声と国力で曹操を飲み込むしか手は無いのだ。

また幾戦を得て顔良、文醜を含む他の将の武力は上がっており、曹操に属する夏侯惇や夏侯淵の武将には対抗出来るが、如何せん袁紹軍には”軍師”がいないのだ。

いや、正確には一人いないことも無いが、如何せん袁紹が留守にする間に、彼女の代わりにこの土地を守れる知恵者がその者しかいないので、なかなか戦場へと連れ出せないのである。

連合以来袁紹は袁家の倉庫に踏み入り袁家が行った過去の戦歴や私塾で学んだ書物をあさり読みふけった時期もあったが、”知”の合戦となればとても曹操陣営の軍師に勝てる自信も無かった。

なればこそ、足りないのであれば数で補うことにし、引き連れるだけの軍を引き連れて当たることにした。

「正直な話、これでも華琳さんに勝てるかどうか自信がありませんわ。国力の安定していない今、勝てば権威を示す結果になり一気に国は安定しますけど、負ければ地方の豪族達は逆に反旗を翻して私は国を追われる結果になります」

両手の指を絡ませて二つ手で拳を作り、その拳を額に当てて沈んだ声で話す袁紹を見て顔良は何とも言えなそうな表情を作ってしまうが、文醜は袁紹の手を掴んで言った。

「そんな顔すんなよ姫、難しいことはわかんないけど、姫の前に立ち塞がる奴はあたいが全てぶっ飛ばしてやるからさ。それにもしどんなことになっても姫はあたい達が守るからさ」

「そ、そうですよ。私たちはいつでも麗羽さまの傍に居ますから」

「猪々子さん、斗詩さん」二人に励まされて改めて彼女達の真名を呼ぶと、袁紹はおもむろに立ち上がり金色の扇子を取り出した。

金色の扇子と聞けば、貴族が道楽で持っている様な腕程長い羽毛が付いた華やかな物を連想するだろうが、そんなものではなく、本当に手で軽く仰ぐ感じの物であり、実際金が使われているのは中骨や親骨辺りだけだ。

これでも結構耐久性はよく、軽くて使い勝手がいい。

開いた扇子を頬に寄せて、彼女は高らかに笑い挙げた。

「おーほっほっほ、ワタクシが華琳さんなんかに負けるわけありませんわよね。斗詩さん、猪々子さん、直ぐに軍備を整えますわよ。袁家の名誉にかけて華琳さんを華麗に雄々しく踏み潰しますわ」

「「あらほらさっさー」」

袁紹は謎な掛け声を挙げた二人を引き連れて、かつて私塾で共に学んだ強敵(とも)との戦いに胸躍らせた。

【華琳さん、ワタクシはこれからより高みに上らなければなりません。せいぜい私の踏み台になっていただきますわよ】

一方その頃曹操陣営では、袁紹が曹操の収める許昌に攻め込む準備をしており、その規模20万が押し寄せるかもしれないとの報を受けて、軍議を開いていた。

「敵は20万。先鋒は張郃、高覧。それに続き沮授などの将が続き、袁紹周辺は顔良と文醜らに固められています」

メガネのツルを弄りながら郭嘉がそう答えると、円卓に広げられた官渡に隣接する許都辺りの地図を曹操は刺した。

「なら私たちは先鋒の張郃、高覧部隊の侵入を迎撃し、そして後から来た麗羽は官渡で叩く」

配の駒を滑らせて説明しながら、曹操は地図に目を落とした将を改めて見た。

「風、桂花、軍の編成はどうしましょうか?」

「はい。敵は20万と言っても、華琳様の崇高な兵に比べれば取るに足らない烏合の衆。2万もあれば十分に迎撃出来るかと」

少し軍議に似つかわしくない恍惚な表情になりながらも、荀彧は淡々と答え、改めてその話題を程昱にふるが――

「………ぐぅ」

「寝るな!!」

「おぉ!」

夢の世界に旅立つ寸前であった程昱を郭嘉が起こして、再び話題を呼び起こす。

「桂花ちゃんの認識は少し甘いかと。確かに以前の袁紹さんでしたらそのぐらいの兵力で足りましたけど、今袁紹さんの所にいるのは顔良さんや文醜さんだけではなく、張郃さんや高覧さんもいますからねぇ。決して油断出来ないと思いますよ」

彼女の好物である飴玉を咥えながらそう話すが、『甘い』と言われてカチンときたのか、荀彧が程昱に反論する。

「あら、それだったら華琳様の所にも季衣や流琉、凪、真桜、沙和がいるわ。それに加えて顔良や文醜に秋蘭達が遅れを取るとも思えないし、そこまで悲観的な見方をするつもりはなくてもいいんじゃない?」

「まだまだ甘いな。曹軍の軍師共は」

入口の扉が大胆に開かれると、紅紫の鎧を着た銀が入ってきた。

その鎧の所々に炎が燃えているように見える赤い柄が描かれ、背中には『悪鬼』と書かれている。

入ってきた銀を待ちわびた様に曹操は軽く頬を上げた。

「待っていたわ。貴方がいなければ何も始まらないもの」

「俺だってまだ死にたくわないからな。だから助太刀に来てやった」

気だるそうに肩を鳴らしている銀に、荀彧が食いついた。

「ちょっと貴方、華琳様にその態度は何!?華琳様に近づくことに飽き足らないの!?それに私が無能!!?これだから男は嫌いなのよ」

騒ぐ荀彧に銀は彼女の頭にその手を伸ばした。

彼の190はあろう身長と、その大きな体格に圧倒され何かされるのかと一瞬恐怖したが、銀は何かをすることなく、ただ彼女の頭に手を置いただけであった。

「まぁ落ち着けよ桂花。そんなにピリピリしてると胸も身長も成長しないぞ」

荀彧の少し小柄な体型と銀の大きすぎる体型のせいで、銀が頭を撫でている姿は大人が子供をあやしている姿にも重なり、張遼や李典、夏侯惇などは高らかに笑っており、荀彧は必死に抵抗していた。

「確かに”以前の”袁紹ならこの軍にとって取るに足らない存在だったかもしれない。しかし連合解散後、袁紹は軍備改革と内政革新を頻繁に進めてきている。そもそも袁紹の持つ冀州や青州は元々肥えた土地だ。故に税もそれなりに徴収出来ているに加え革新してから軍費は余りある。そして気前のいい袁紹の噂を聞きつけて、彼女の下で旗を挙げんとこぞって人材が集まってくる。そういう奴らは扱いに困るが、奴らは名を挙げることに必死だから、逆に扱いきることが出来れば一国の精兵より力を発揮する。そんなならず者達を統率しているのだ。それにこれを見ろ」

そう言って彼が取り出したのは一枚の紙であった。

その紙を広げてみると、そこにはとある3カ条が書かれている。

一、手柄を挙げれば報酬を出す

二、人に敬われる者になれば地位を与える

三、罪を犯せば殺す

この3カ条は、袁紹が手に入れた土地には必ず掲げられるものであり、銀はお忍びでその土地を訪れた際にこっそり持って帰ってきたものだ。

「……銀殿、こんなことは子供でもわかります。そんなことを教えられている袁紹軍が、我が曹軍に勝っているとも思えないのですが?」

「禀、その考えも浅はかではないか?例えば、文字も読めないような子供に孫子の書物を与えれば、その子供は頭が良くなるか?」

「そ、それは無理ですが……」

「俺たちのいる許の民は、先代の曹嵩より善政が続いている影響で、多くの子供達にも文字が普及しているが、袁紹の収める州は、北からの流民や馬賊達などのならず者が多くいる土地だ。その一生を文字が読めないまま終える者も少なくはない。その者達にいきなり『兵法の何たるか』を説いても理解出来ると思うか?」

銀の最もな問いに郭嘉は黙ってしまった。

「それになんと言っても、袁紹はこの3カ条を身分関係なく公平に実行しているからな」

彼が何を言いたいのか、皆首をかしげてしまう。

「秋蘭、お前が今いる面子の中で物事を一番明確に判断出来るはずだ。例えば、お前の部下が軍法違反を起こすとしよう。その物をどうする?」

「そんなこと決まっているだろう。違反を犯した者は軍法に応じて裁きを下すさ」

腕組をしながら答え、彼女の豊胸がより目立たされる。

「ならば夏侯淵軍を立ち上げた際からいる、最古参の兵が行えばどうする」

「む、それは口惜しいが、やはり軍法に応じて裁きを下す」

彼女の最初の小さな間を指摘しつつ、銀は言った。

「袁紹はどんなものであろうと、迷わずに裁きを下す」っと。

「桂花、淳于瓊(じゅんうけい)って知っているか?」

荀彧は曹操軍に来る前に一時期袁紹の陣営にいたことがある。

よって袁紹陣営の内部事情はそれなりだが知っているのだ。

「あぁ、あいつね。いつも『袁家の最古参』だとか言ってふんぞり返っていたわ」

「そいつ、先日袁紹の手によって斬首になったぞ。罪状は酔った勢いで町民を斬り殺したことらしい」

「………はぁ!?ちょっと待って、私の記憶じゃあいつ、袁紹の先代から使えている将でかなりの手練って聞いていたわよ。これから私たちと戦うにも関わらず、将が一人減ることも厭わないなんて!!」

「だから言っているだろ。身分関係なく『平等』だって。それに淳于瓊を切ったことにより、皆改めて3カ条の重みが伝わり、それに対して恩賞への期待もより持てる様になったぞ。それに官位や位を求めて兵は皆に好かれる立場にならん為、町の慈善業務に積極に取り組み、街の警邏なども誰に言われるわけでもなく。ましてや仕事としてではなく、兵士は各個人で行っている。民と兵士の意思疎通で内政に支障はなく、民から兵士に対する不満の声も少ないから反乱も殆どない」

昔から農民が反乱を起こす原因は、その地を収める当主の悪政が殆ど。

その主な理由は度重なる戦での税の徴収や、兵士の横暴や重すぎる法律など。

袁紹は3カ条を挙げた時点で法に縛られた民の心を開放し、横暴しそうな兵士を睨みつけ、慈善業務により民と兵士との壁を取り除き税の徴収もしやすくした。

結局は税を徴収する役割は兵士であり、民と兵士の関係が良好であれば、民も徴収に応じやすくなる。

「俺たちの国の兵士や民は華琳に対する絶対的な忠誠心でまとまっている。それに対して、袁紹は自由と平等を糧にして民と兵士の心を完全に掌握して我々に対抗している。連合が解散して以降のこの期間で、それらを打ち出す袁紹を以前の彼女と思って当たれば必ず負ける」

「だったら銀、うちにあって、麗羽にないもので対抗すればいいのではないかしら?」

銀の話の終わりに、曹操は間髪を容れずに問いかけた。

「武力、財力、統制力。どれも向こう側は我らと同等、もしくはそれ以上を持っていると考えて、今の彼らにないものは一体何か?」

皆それぞれ自分の考えを巡らせていると、一番最初に声を上げたのは楽進であった。

「知力……でしょうか?」

「ほう、それは何故だ?」

「はい、仮に袁紹軍の文醜らが春蘭様達と同格としましょう。それなら将は足りています。内政の改善で民の心をつかみ、今回我らに攻め入る20万を容易く動かすのですから、財力も統制力もあります。しかし袁紹軍には、名を馳せた軍師がいません。それが我々との決定的な違いです」

銀は楽進の意見に感服し拍手を軽くして答えた。

「そう。だから今回袁紹は足りない分を数で補うために、20万の大軍を繰り出したのだ。公孫瓉を滅ぼしてまだ間もない。北の民族の脅威もある中なら、動かせる限りの軍だろう。我らに勝てばたちどころに名声を手に入れ、それで皇帝陛下を保護下に置ける。負ければ権威は失墜し、国から立ち所に反乱が起きて、自身は国を追われる。まさに”背水の陣”だな」

曹操はしばらく考えた後、荀彧に問いかけた。

「風、今我が軍で動かせる兵士の数はどれくらい?」

「そうですねぇ、多く見積もってもせいぜい6万ってところでしょうか?」

「それじゃ足りないわ。8、いえ10万揃えなさい」

「か、華琳様、それでは民の反感を買ってしまいます」

「そうです。仮に我らが負けるようなことになれば、袁紹は勢いそのままに洛陽を奪取し陛下を手中において、我らは遠からず公孫瓉と同じ道を辿ることになります」

荀彧と夏侯淵は揃って曹操に意見するが、曹操はそれを一蹴した。

「皆の者、跪けい!!」

その声により銀や荀彧を含む将も軍師も揃って片膝を付き、頭を垂れた。

「張文遠、我が名を言ってみよ!!」

「はっ、曹孟徳であります」

「夏元譲、我の存在意義とはなんぞや!?」

「はっ、孟徳様の存在意義とは、この乱世の世を終焉させ、新しき世に導くことです」

「郭奉孝、我と運命に共にする気はあるか!?」

「孟徳様と共に死せた時は、我が才で閻魔大王を騙し、孟徳様だけでも現世(うつせ)に戻してみせます。よって運命など共にする気などありません」

「皆の者よく言った。今度の相手は三公を輩出した名門、袁家の末裔袁本初。向こうが背水の陣でくるのであれば、こちらもそれで応じるが礼儀。我はまだ滅びぬ。この戦に勝ち、曹家の戦いの歴史に”勝利”の文字を刻んでくれん。皆の者立てい!!その知で我を助けよ。その武で我が眼前の敵を薙ぎ払え。我は勝ち、大陸中に『曹孟徳ココにあり』と詠わせて見せん!!」

彼女の高らかな宣言と共に、今ここにいる曹軍の将校達はその宣言に答える如く、立ち上がって咆哮した。

それからというもの、戦の準備に慌ただしくなり、戦に際して曹操は袁紹討伐の許しを貰うために、たまたま許都に来ていた劉協を訪れた。

「曹操、よく来てくれました」

とある一室で劉協は寝具の上に座りながら答えた。

「はっ、陛下のためならば、いついかなる時にでも駆けつける次第です」

「そうですか……済まないがお前たち、席を外してくれないか?どうしても二人で話さねばならないことがある」

そう劉協の近くに付いていた侍女を部屋より出すと、劉協は微笑んで自分が座っている寝具を叩いた。

「ささ、華琳。こっちに来て」

「……それでは失礼します……陛下」

「違うのだ。二人でいるときはそうではないのだ」

「そうだったわね……白湯(パイタン)

曹操が劉協の隣に座ると、彼女は曹操の胸にその体を預けて甘える。

実を言えば、まだ曹操の祖父である曹騰が健在であった頃、『自分の養子の子供』ということで劉協に曹操を紹介しており、何度か一緒に遊び、こっそり真名も交換しているのであった。

「……む!?華琳よ、少し胸が大きくなったんじゃないかえ?」

曹操の胸を揉みくだしている劉協を怒るわけでもなく、彼女は「わかります?」などと嬉しそうに答えていた。

最近、曹操は様々な豊胸器具を試しており、一向に胸の成長が芳しくないことを感じ、諦めて開き直ると、なんと少しであるが胸が成長していたのだ。

このことを一人喜んでいたのだが、何故か閨では荀彧に口では賞賛の言葉を貰うも、少し納得していない表情をされて、夏侯姉妹については気づいてすらいないのだ。

この成長の喜びをわかってくれる人がいることに喜んでいると、劉協の身に付けている衣類の袖から見えた傷跡に心を痛めた。

この傷跡は、今は亡き少弁帝である劉弁に付けられた傷跡だ。

人を傷つけることと女性を屈服・陵辱することで快楽を得ていた劉弁。

実の妹である劉協もその犠牲者となり、彼女の女性の操に関しては、ことがバレれば完全に隠し通せることが出来ないので、なんとか奪われず済んだものの、彼女は不浄の穴で快楽を貪られていたのだ。

曹操が個人的に劉協と再開した時は、かつてのこの様に明るく振舞っていた彼女の姿は無く、何事にも無気力で流されるままの彼女がそこにいた。

曹操は同じくかつて劉協と共に遊び、こっそり真名を交換した仲であった袁紹と共に献身を続け、その結果かつての明るさを取り戻させることに成功している。

「……華琳、やはり麗羽と刃を交えるのか?」

曹操の膝に寝転がる劉協の背を、曹操は優しく摩る。

それは姉が妹をあやす光景にも見え、実際劉協自身も曹操や袁紹のことを姉の様に思い、曹操も二人の時は彼女を妹の様に感じ、そう思う気持ちは袁紹も同じであった。

「そうね白湯。私たちは戦わなければならない。貴方を守るより大きな力を手に入れるために。麗羽も同じことを考えていると思うわ」

「それなら華琳。二人で妾を支えてくれれば良いではないか?」

劉協は皇帝に即位してから、日頃は”朕”という一人称を使うが、曹操といる時はこうして”妾”を使っている。

「それなら貴女に喧嘩した私たちを止めることが出来る?昔みたいに貴女が泣けば止まる程、私たちは子供ではないわ」

膝の上から曹操の顔を眺めていた劉協は、図星を突かれたのか彼女と目があった瞬間に逸らしてしまった。

劉協自身も判っていた。

曹操と袁紹という水を注ぎ込める程の大器が、今の自分にないことを。

それに彼女は知っている。

昔から曹操と袁紹は馬が合わない。

私塾ではいつも一位と二位を争いあい。

顔を合わせれば直ぐに喧嘩。

劉協にそれを嗜める力が無い故に、いつも喧嘩が収まる原因は劉協が泣き出すこと。

そんな昔のことを思い出しているのを見透かしたように、曹操は劉協に訪ねた。

「だから貴女は自分の傍に私や麗羽じゃなくて重昌を置こうとしたのね」

劉協は寝返りをうって曹操に向き直り、「重爺と真名を交わしたか」っと嬉しそうに言った。

「重爺は妾の恩人じゃ。あのまま重爺が助けてくれなければ、妾は自害していやもしれぬ」

握り拳で両目を抑える劉協の姿を見ながら、曹操は少し嫉妬していた。

劉弁の暴挙の噂は僅かながら耳に入れていた。

また劉協もその毒牙にかかっている可能性も考えなかったわけではない。

なんとか劉弁の悪行の決定的な証拠を探っていても全く見つからず、劉協が毒牙に犯され続けている間も何も出来なかった。

幼馴染である自分たちが必死になって正そうとしたことを、突如現れた影村なる者はそれをあっさりやってのけて、それ程知るわけでもない劉協を助けてみせたのだ。

いや、それ以前に曹操は恐かったのだ。

例え証拠を手に入れたとしても相手は皇帝。

負ければ劉協を助ける以前に、自分の積み上げてきたもの全てを失ってしまうことが。

そんな劉協に対する罪悪感を思いながら彼女の頭を撫でて、力のない笑顔を見せた。

やがて劉協を自分の膝から除けて立ちがり、白湯に言った。

「………白湯、今回の戦はどう転ぶか判らないわ。少なくとも敗れた方は土地を追われることになる。でもね……麗羽と約束したの。生き残った方が、白湯を守り続けるってね」

そう言い残して曹操は手をヒラヒラさせて劉協の部屋を後にした。

残された劉協は、鳴き声を押し殺しながら静寂の部屋で一人泣いているのであった。

【………麗羽、決着をつけましょう。貴女を踏み台にして、また覇王としての一歩を踏み出すわ。白湯は………私が守る!!】

名門の出で天運を味方に引き寄せる名王『袁本初』。

宦官を祖父に持つも、自身のカリスマ性と知性で全てを支配する覇王『曹孟徳』。

二人の王がぶつかり合う(とき)が、今刻々と近づいてきた。

 


 
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