No.666924

九番目の熾天使・外伝 ~短編その⑨~

竜神丸さん

喰らう凶獣

※グロが苦手な方は要注意

2014-02-28 23:00:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2000   閲覧ユーザー数:800

旅団一の問題児、OTAKU旅団No.13―――ZERO。

 

“凶獣”の二つ名を持つ彼の目的は、喰らう事。

 

そして喰らう為なら、彼はどんな知恵だって使ってみせる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ海上、とある船…

 

 

 

 

 

「おい、そっちにはいたか!?」

 

「こっちにはいねぇな……くそ、あのガキ何処に隠れやがった!!」

 

船内は慌しい状況となっていた。船内の警報が鳴り響き、黒服の男達が必死に何かを探し回っている。

 

「何としてでも探し出せ!! ボスにバレたら、いくら俺達でもタダじゃすまねぇっ!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、とある貨物庫…

 

「はぁ、はぁ…」

 

一人の少女が、積まれている荷物を利用して上手く隠れていた。着ている服はだいぶボロボロで、彼女の首元には鋼鉄製の首輪が付けられている。

 

「おい、こっちも探せ!!」

 

「ッ…!?」

 

黒服の男達の声が聞こえてきた。どうやらこの貨物庫も探索しようとしているようだ。見つかりそうな恐怖に身体が震えつつも、少女は必死に自身の声を押し殺す。

 

その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だテメェ…ギャァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

「なっ!? ま、まさか貴様は…あがぁっ!?」

 

「や、やめろ、死にたくな…ごぶっ!!」

 

「ヒギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…え?)

 

男達の断末魔と共に、肉の潰れる音や切り裂かれる音、骨の圧し折れる音などが聞こえてきた。しかしそれが続いたのはほんの数分間だけでその後は何も聞こえなくなり、警報すらも聞こえなくなる。隠れていた少女は恐る恐る顔を出し、外の様子を見に行こうとする。

 

-ギィィィィィ…-

 

「…!?」

 

貨物庫の入り口が開かれ、少女はすぐに身を隠す。

 

「チッ……どいつもこいつも、雑魚ばっかりか」

 

「…!」

 

ドスの利いた低い声が聞こえてきた。白髪の混ざった黒髪、頬の一本傷、そして頑丈な義手となっている左腕。いかにも凶暴そうな雰囲気を持った男だった。

 

「…で、そこにいるのは誰だ?」

 

「!?」

 

少女が隠れている事は匂いで気付いていたのか、男は積まれている荷物を片手で強引に退かし、隠れていた少女を見つける。

 

「管理局の連中……じゃねぇな。ここに捕まってた奴隷って奴か?」

 

男の服装は、黒服の男達のとは明らかに違っていた。おまけに服や左腕の義手、そして頬などが返り血で赤く染まっている。その事から、少女はすぐに把握出来た。

 

目の前にいる男は、この船の関係者じゃない。

 

「ッ…!!」

 

そうと分かった途端、少女は…

 

「…あ?」

 

目の前に立っている男―――ZEROの右腕にしがみ付き、離そうとしなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽園(エデン)二階、カジノフロア。

 

その日の任務が無いメンバー、もしくは既に任務を終えたメンバーなどがここに集い、このフロアで賭け勝負に励んでいる。スロットやルーレット、トランプゲームなど種類も豊富だ。

 

「何、また不正転生者ですか?」

 

「平たく言えば、そういう事になるな」

 

他のメンバー達がルーレットで賭け勝負をしている中、デルタとUnknownはコーヒーを飲みながら何枚かの書類に目を通していた。書類には銀髪にオッドアイという、派手な特徴を持った美形男性の写真も載せられている。

 

金剛竜輝(こんごうりゅうき)一等空佐……レアスキル持ちの魔導師として今の地位まで出世。上層部にコネがある他、その権力を使って自分にとって邪魔な人間を次々とクビにしていき、裏では人間屋(ヒューマンショップ)の連中とも繋がりを持っている……自称“正義の組織”とやらは、もはや何でもありなんですかねぇ?」

 

人間屋(ヒューマンショップ)では、主に自分が綺麗だと思った女ばかりを次々と買い取り、奴隷として扱っているらしい。噂を知っている局員もいるはいるんだが、奴が上層部と繋がっている以上、下手に詮索が出来ないでいるようだ」

 

「やりたい放題って訳ですか。いやはや、自分の欲望に忠実な事で…」

 

「だぁぁぁぁぁぁまた負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「よぉし、また俺の勝ちだぁっ!!」

 

「「ごめんちょっと黙って」」

 

「「へぶぅっ!?」」

 

ルーレットの賭け勝負で騒いでいたロキとkaitoの二人が、デルタとUnknownの振るったハリセンによって沈黙させられる。

 

「…それで、この不正転生者についてはどうするんですか?」

 

「情報によると、奴は船を使って奴隷を護送しているとの事らしい。そっちの方にはmiriとディアーリーズの二人を向かわせた。金剛竜輝の後始末などに関しては、その奴隷を救助した後からでもまだ問題は無いだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 今度は勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「畜生、良い線いってると思ったのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

「「だからうるさいんだっての」」

 

「「あんびしゃすっ!?」」

 

再び、ロキとkaitoの後頭部にハリセンが炸裂するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、海上の船…

 

 

 

 

 

「ムグムグ、ゴクン……ふぅ」

 

貨物庫にて、ZEROは楽園(エデン)の冷蔵庫から勝手に持ち出した大量の食料を次々と食していっていた。デビル大蛇の肉や宝石の肉(ジュエルミート)、更に水筒に溜めたセンチュリースープを酒のように飲んでいく。その横で、少女は体操座りのままZEROの食事を眺めていた。先程から無言のままだが、ZEROが食べている食料を見てからはずっと涎が垂れている。

 

「……」

 

それを見かねたZEROは彼女に対してある物を投げ渡し、少女はそれを慌てて両手でキャッチする。

 

「あ、えっと…」

 

投げ渡されたのはフグ鯨の刺身が入ったパックで、ご丁寧に割り箸までセットで付いていた。それを見た少女は驚き、ZEROの方に視線を向ける。

 

「…喰いたきゃ喰え」

 

「!」

 

そう言って、ZEROはまたデビル大蛇の肉に齧りつく。少女は未だ戸惑いを隠せずにいたが、数秒経ってからようやくパックの蓋を開け、割り箸を割ってから醤油漬けにされているフグ鯨の刺身を一口目からゆっくり食べ始める。

 

「…!!」

 

食べた事のない味と食感に、少女は一瞬で目に輝きが戻った。すぐさま二口目も口に入れ、三口目、四口目と刺身をどんどん食べていく。その際、目から何粒もの涙を流しながら。

 

「……」

 

そんな彼女の食事を横目で見た後、ZEROは無言のまま水晶コーラを飲み干していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人のいる船から、かなり遠く離れた海上では…

 

 

 

 

 

 

 

「ディアーリーズ、目的の船まであと何キロだ?」

 

「まだ30キロあります。

 

miriは海上を地面のように走りながら、ディアーリーズは魔法で宙を浮かびながら目的の船まで向かっているところだった。彼等は人間屋(ヒューマンショップ)に囚われている奴隷の救助を目的として、その船まで向かっていたのだが…

 

「あぁ畜生……ZEROの奴、さっきはいきなり俺達を突き飛ばして行きやがって」

 

「その所為で、思いっきり後頭部ぶつけましたもんね……あぁ痛い」

 

実は先程、二人は任務に向かおうとした際にZEROによっていきなり突き飛ばされてしまったようだ。しかもその時に後頭部をぶつけてしまったらしく、二人はその時のダメージがまだ完全には抜けていないようである。

 

「あんの暴食馬鹿、本当にただの迷惑野郎でしかねぇな…!!」

 

「アハハハ……あれ? そういえばZEROさん、あれから何処に行っちゃったんでしょうか。僕達が任務に向かおうとした途端、いきなり僕達を突き飛ばして行っちゃいましたけど」

 

「さぁな、アイツの考えてる事なんざ俺にも分からん。それよりもさっさと任務を終わらせるぞ」

 

話している内に目的の奴隷船まで到着したらしく、二人はそのまま船の甲板に着地する。

 

「…!」

 

その時、miriは何かに気付いた。

 

「miriさん、どうかしましたか?」

 

「…血の匂いだ」

 

「え?」

 

「それだけじゃない、この匂いは……まさかとは思うが」

 

「え、ちょ、待って下さいmiriさん!」

 

miriは忍者刀を構えて船の内部に突入し、ディアーリーズも慌てて後を追っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ!!」

 

「「!!」」

 

一方、食事をしていたZEROと少女の前に魔導師の部隊が姿を現した。少女はすぐにZEROの後ろに隠れ、ZEROは魔導師部隊の面々をジッと睨みつけている。

 

「ふん。緊急事態だとの連絡を受けていざ来てみれば、相手はたった一人ではないか」

 

「…何だ? お前等」

 

「その娘をこちらに渡して貰おう。逆らうのであれば、その時は容赦しない」

 

部隊のリーダーらしき魔導師が指を鳴らし、部下の魔導師達が一斉にデバイスを構える。

 

(…いや、ちょうど良いな)

 

ZEROは食していた肉を飲み込んでから、足下に落ちていた酒ヤシの実を手に取り…

 

 

 

 

-ガァンッ!!-

 

 

 

 

「な…ほがぁっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

魔導師一人の顔面に向かって投げ当て、昏倒させる。

 

「き、貴様、それは敵対意思と見て良いのだな!!」

 

「はん、雑魚が一体何をほざくかね…」

 

「おのれ……構わん、その男も引っ捕らえろ!!」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

リーダーの指示で、魔導師達が一斉にデバイスから魔力弾を発射。それらが全てZEROに向かって飛んでいき、大爆発が起こる。

 

「ハハハハハハ!! 馬鹿め、我々に歯向かうからそうなるのだ!!」

 

リーダーの魔導師が下卑た笑い声を上げ、少女は絶望したかのような表情になる。

 

「さぁて、これだけ魔力弾をぶつけたんだ。奴もただでは済むまい―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たく……クソ不味い魔力弾ばっか撃ちやがってよぉ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

その直後だ。魔導師達が一斉に喉を押さえて苦しみ出し、次々と床に倒れていく。

 

「な、お、おい!? どうしたお前等!!」

 

残ったのは魔導師部隊のリーダーのみで、部下の魔導師達は全員が絶命してしまっていた。想定外の事態にリーダーの魔導師は慌て出す。

 

 

 

-ガシィッ-

 

 

 

「あが…!?」

 

その時、煙の中から出てきたZEROの右手がリーダーの首を掴んだ。しかもその右手から右肩まで、黒と紅色で彩られた籠手で覆われている。

 

「おい」

 

「ひぃっ!? ま、待ってくれ、殺さないでく…ぐぇっ!?」

 

ZEROはリーダーの首を更に強く握り、耳元である事を告げる。

 

「通信を繋げろ……金剛竜輝とやらに用がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、管理局地上本部。

 

そのとある一室にて…

 

 

 

 

 

 

 

 

「んちゅ、はぁん……竜輝様ぁ…♪」

 

「お前は本当に良い女だなぁ、ポーラ…」

 

デスクにて、不正転生者―――金剛竜輝(こんごうりゅうき)はポーラという女性と激しく愛し合っていた。ポーラは頬が赤い上に目がトロンとしており、完全に金剛の虜となってしまっている。

 

「あぁ、竜輝様……もっと私を愛して下さい…」

 

「よしよし、分かった。ポーラは本当にワガママだなぁ?」

 

「あん♪」

 

ポーラは着ていた服をビリビリに破かれ、下着姿のまま近くのソファに押し倒される。金剛によってそのふくよかな胸を揉まれるたびに、ポーラの喘ぎ声が高く上がる。

 

「ふぁっ♪ あん♪ りゅ、竜輝様ぁん…♪」

 

「ほらほら、もっと気持ち良くしてあげるよ(ククク……ここまで女共を自由に出来るなんてなぁ。本当に溜まらんぜ、転生者ってのはよぉ…?)」

 

ポーラの身体を使って楽しみながら、金剛は下卑た笑みを浮かべる。

 

実はポーラも、元は人間屋(ヒューマンショップ)で商品として扱われていた奴隷だった。しかし買われた後に金剛による洗脳を受け、現在は金剛に自ら身体を捧げる性奴隷と化したのだ。そして彼女以外にも金剛に奴隷として買われた女性は複数おり、その全員が金剛の洗脳を受けてしまっている。

 

(もうじき、俺の部下共が人間屋(ヒューマンショップ)で買った女共を連れて来る。楽しみだ、楽しみで仕方ねぇぜ…!!)

 

その時…

 

「…ん、通信?」

 

金剛の前に、通信による映像が出現した。

 

『こ、金剛一佐…』

 

「俺だ。どうした、何かあったか?」

 

『じ、実は…ッ!? あ、はが、ぁ…』

 

「!?」

 

映像に映っていた魔導師部隊のリーダーが、突然苦しみ出してその場に倒れた。その後、今度はZEROの素顔が映像に映る。

 

『よぉ、金剛竜輝。聞こえるかぁ?』

 

「テメェ、誰だ?」

 

『誰だって良いさ……残念だが、テメェの奴隷は俺が預かった』

 

「!? おい待て、ふざけんなよテメェ!! モブ如きが俺の所有物に手ぇ出すんじゃねぇ!!」

 

『クハハハ……返して欲しいなら、テメェが直接出向いて来やがれ。分かったな?』

 

「おい!! まだ話は終わってな…」

 

金剛の声も無視して、ZEROは通信を切った。金剛は怒りのあまり、壁を思い切り殴りつける。

 

「許さねぇぞ、あのモブが……俺がこの手で潰してやる…!!」

 

「あぁ、竜輝様…」

 

「どけ、邪魔だ!!」

 

「ひゃん!?」

 

ポーラの事すらも強引に押し退け、金剛はデバイスを起動してすぐさま転移する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、海上の船では…

 

 

 

 

 

 

「「…うわぁ」」

 

miriとディアーリーズの目の前には、黒服の男達の死体があちこちに転がっていた。全身の肉がぐちゃぐちゃに引き裂かれて肋骨が突き出ている死体もいれば、全身の肌が黒く変色したまま白目を向いている死体もある。このあまりにグロテスクな光景にディアーリーズは思わず口元を押さえるが、これくらいは見慣れているからかmiriは平気そうな表情だ。

 

「おうおう、こりゃまたひっでぇ状況だ」

 

「ッ…これ全部、誰かがやったって事ですか?」

 

「それ以外に無ぇだろうよ。問題はこれを、一体誰がやったのかって話になる訳だが…ッ!」

 

黒く変色した死体をmiriが忍者刀で軽く突っついていたその時、二人の近くに魔法陣が出現する。突然転移してきた金剛に驚くmiriとディアーリーズだったが、二人は金剛の顔に見覚えがあった。

 

「くそ、モブが俺に楯突きやがって…!!」

 

「「金剛竜輝!?」」

 

「あぁ!? 邪魔だ、テメェ等に構ってる暇は無ぇ!! それより今はあのモブだ!!」

 

「? あのモブ…?」

 

「お前、誰か人でも探してんのか?」

 

「俺の物に手を出すなんざ絶対に許さねぇ、洗脳して一生椅子代わりの奴隷として扱ってやる…!!」

 

((あ、駄目だ。全然聞いちゃいない))

 

miri達の呼びかけも無視し、金剛は船の内部へと進んでいく。

 

「というか、何でアイツがここに?」

 

「どうだって良いさ。どの道アイツも不正転生者なんだ、ちゃっちゃと始末するに限るだろ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ドゴォォォォォォォォォンッ!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

「ごはぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

二人の目の前に、金剛が壁を破壊しながら吹っ飛ばされて来た。

 

「ぐ、がは…!!」

 

「クハハハハハ……待っていたぜぇ、金剛竜輝…!!」

 

破壊された壁の中から出てきた人物を見て、miriとディアーリーズは驚愕する。

 

「「ZERO(さん)!?」」

 

「クハハハハハハハッ!!」

 

「な、ぬごぁっ!?」

 

ZEROは狂喜の笑い声を上げながら金剛の首を掴んだまま甲板へと飛び出して行き、甲板に着いたところで金剛を乱暴に放り捨てる。

 

「ぐ、テメェ…!!」

 

「知っているぞ? 金剛竜輝……お前は自分が目を付けた女を、何が何でも手に入れようとする人間だって事くらいはなぁ?」

 

「あぁん!? 当たり前の事だろうが!! この俺が目を付けたんだぞ!? そんだけ可愛い女を、俺がみすみす逃すとでも思うか!!」

 

「はん、そんなに女が好きか?」

 

「世界中にいる全ての女は皆、俺の嫁にしてやるのさ!! テメェが奪った小娘だってそうだ、可愛いから俺が買ってやった!! 既に買い取った嫁達が待ち遠しくしてるから、俺は仕方なく先に戻ってやった!! 買った奴隷の護送も部下に任せた!! だのにテメェはそんな俺の趣味を邪魔してくれやがってよぉっ!!」

 

(…なるほど、蒼崎より酷ぇなコイツ)

 

ZEROがそう思っていたその時、少女が甲板へと上がって来た。

 

「はぁ、はぁ…!!」

 

「ん? お前…」

 

「おぉ、ミレイちゃん。さぁおいで、怖くないから」

 

「…ッ!?」

 

金剛がニコリと笑顔を見せた途端、少女―――ミレイは怯えたような表情でZEROの後ろに隠れる。

 

「…お前、ミレイってのか」

 

「ッ…」

 

「おいテメェ、ミレイちゃんの名を気安く呼んでんじゃねぇ!!」

 

ZEROの言葉にミレイがコクコクと頷く。そんな光景が気に入らなかったのか、金剛はZEROに対して怒鳴り散らす。そんな状況の中、miriとディアーリーズの二人も甲板へと上がって来た。

 

「「え、何この状況」」

 

いざ甲板に上がってみると、やたら怒鳴り散らしている銀髪オッドアイの男と、少女にしがみ付かれて何やら面倒臭そうにしているZERO。事情を知らないmiriとディアーリーズにとっては、何が何だかよく分からない光景だった。

 

そんな時、ZEROは横目でmiri達の方を見る。

 

「(面倒だな、後は任せるか)…ミレイ、アイツ等と一緒にいろ」

 

「ッ…」

 

ミレイはコクコクと頷いてから、miriとディアーリーズの方へと駆け寄る。

 

「君、大丈夫?」

 

「は、はい…」

 

「そう、良かった。おいで」

 

ディアーリーズはミレイの頭を優しく撫で、甲板から別の場所へと隠れさせる。しかしそんなディアーリーズに対しても、金剛は気に入らない様子で怒鳴り散らす。

 

「おいテメェ!! 俺のミレイちゃんに触ってんじゃ…」

 

「ハッハァッ!!」

 

「ごぶぁっ!?」

 

金剛がデバイスを振おうとした瞬間、ZEROの放った魔剣が金剛の腹部を貫き、鮮血が舞った。しかし金剛は倒れず、余裕そうな表情で魔剣を強引に抜き取る。

 

「ハハハハハハハハ!! 馬鹿が、テメェみたいなモブなんぞに、俺は殺せやしねぇよ!!」

 

「…!」

 

魔剣で貫かれた筈の傷が赤い光に包まれ、あっという間に治ってしまった。それを見た途端、ZEROの目付きが変わる。

 

「ほう、なるほどな」

 

「分かったか? モブがこの俺に楯突こうなんざ、百年早ぇんだよ!!」

 

「…いや」

 

ZEROの右腕が再び、黒と紅色の籠手に覆われる。

 

「予定通りだ…!!」

 

「ぶがっ!?」

 

ZEROは瞬時に金剛の前まで接近し、金剛の首を撥ねる。しかし金剛の首はすぐに再生される。

 

「グハハハハハハははははははっ!! 無駄だ!! 俺に弱点なんざ存在しねぇっ!! 何故なら俺は不死身なんだからな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「賢者の石を、持っていたらの話だがなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その発言を聞いた瞬間、金剛の顔色が変わった。

 

「な……テ、テメェ、何でそれの名を…」

 

「やはりな。お前は体内に賢者の石を持ってやがる……何千万もの命で生成された、とびっきり大きな賢者の石をなぁ…!!」

 

「ッ!?」

 

ZEROがニヤリと笑みを浮かべるのを見て、金剛は先程までの余裕もなくなり焦り出す。

 

「し、質問に答えやがれ!! 何でテメェみたいなモブが、その名を知ってやがんだ!?」

 

「聞いていたのさ。そこの二人が、お前に関する資料を一通り読み上げているところをなぁ…」

 

ZEROの発言に、今度はmiriとディアーリーズが驚かされる。

 

「なっ!? まさかテメェ、盗み聞きしてやがったのか!!」

 

「じゃあ、ZEROさんが僕達を突き飛ばしたのも…」

 

「そうさ。お前等に任せると、賢者の石ごと殲滅されちまう……だから俺が直接出向いたのさ。こいつの中にある賢者の石を、誰よりも先に喰らう為にな…!!」

 

「あがぁっ!?」

 

ZEROの左腕が金剛の胸部を貫き、そのまま左右にバックリと開く。miriとディアーリーズは「ウゲッ」と言いたげな表情になる。ちなみにミレイは別の場所に隠れさせた為、この光景は見えていない。

 

「がは……な、なら、テメェがこの船を襲ったのは…!!」

 

「勝手に管理局の本部を襲うってのは、流石にうちの団長も黙っちゃいねぇんでな。お前を本部から引き摺り出す為に、この船を利用させて貰った」

 

「テ、テメ…あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

自分を利用したZEROに対して怒りを露わにした金剛だったが、直後に彼による断末魔が上がる。何故ならZEROによって、露わになった賢者の石を体内から取り出されようとしていたのだから。

 

「や、やめ、やめろ!? やめで、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いひぎぁがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ハハハハハハハハ……喰わせて貰うぞ、賢者の石を…!!」

 

-ブチブチブチィッ!!-

 

「いぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!??」

 

遂に賢者の石が取り出され、そのままZEROによって噛り付かれた。想像を遥かに上回る痛みに金剛がのたうち回る中、ZEROはそのまま賢者の石を飲み込んでしまった。

 

「ぷはぁ……ついでだ。テメェも喰っておくかぁ…!!」

 

「やめで、だずげで…あが、ぁ…ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃあがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!???」

 

断末魔が響き渡る中でも、ZEROの“捕食”は止まらない。臓物は喰われ、骨も噛み砕かれ、手足も喰い千切られ、次第に金剛の断末魔すらも聞こえなくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ」

 

それから数分後。

 

ZEROの目の前には、金剛だった物(・・・・・・)の肉片だけが僅かに残っていた。彼の周囲は血に染まり切っており、ZEROの両手や口元も血で赤く彩られていた。

 

「うぇぇ…これはヤベぇな」

 

「ッ…!!」

 

目の前で凄まじい一部始終を見せ付けられ、流石のmiriとディアーリーズも思わず口元を押さえる。

 

「クハハハハ……ご馳走様だ」

 

ZEROは舌舐めずりをしてから、口の周りの血を舐め取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

 

ミレイ以外の船に囚われていた奴隷達も無事に救助され、全員が旅団のメンバー達によってそれぞれ暮らしていたという世界に送還される事となった。その後に旅団の手によって金剛竜輝の悪事が全て暴露され、彼の悪事に加担していた局員達も全員逮捕され、金剛に洗脳されて性奴隷にされていた女性達も無事に保護されたという。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミレイちゃんが?」

 

「うん、そうなんだ…」

 

支配人の仲間が経営しているという孤児院に、支配人に連れられる形でやって来たmiriとディアーリーズ。そこで三人は、フィアレスからある事を聞かされていた。

 

「ミレイちゃん、あれから孤児院の外に出ようとしないんだよ。部屋にいる間も、窓際に座ったままあんまり動こうとしないし……ボクやヴァニシュで何度か呼びかけてはいるんだけど、そのたびにいつも聞かれるんだよ」

 

「聞かれるって、何を…?」

 

「うん、それが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『あの人はいつ来てくれるの?』って。誰の事を言ってるのか、サッパリ分からなくて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

“あの人”。

 

事情を知っているmiriとディアーリーズは、“あの人”が誰を指しているのかすぐに理解出来た。

 

「…miriさん」

 

「あぁ……アイツの事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前、あの“捕食”の後…

 

 

 

 

 

 

 

『ZEROさん!!』

 

『あ?』

 

ディアーリーズは“捕食”を終えたZEROに対して、ある事を問いかけていた。

 

『…ミレイちゃんの事で、聞きたい事が』

 

『…あぁ、あの“囮”に使ってたガキの事か。それが何だ?』

 

『ッ……いえ、何でもありません』

 

『? …おかしな奴だな。用が無いなら俺は行くぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ZEROの奴は、獲物を喰らう為なら何だってするんだ。罠を仕掛けて、獲物を誘き寄せる事も……その為に、女の子一人を利用する事も」

 

「けどミレイちゃんは、ZEROさんの事を必要としています。なのにあんな言い方は…」

 

「だが今のZEROにとっては、もうミレイちゃんの事は必要じゃない。それだけは事実だろうよ」

 

「ッ…」

 

miriから告げられる、非情な一言。

 

それを聞かされたディアーリーズはどうにもやり切れない気分になり、事情を知らない支配人やフィアレスは顔を見合わせて首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球、海鳴市…

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

何か良い事でもあったのか、ルイは楽しそうに鼻歌を歌いながらスーパーまで買い物に向かおうとしていた。

 

そんな彼女に、一つの黄色いエネルギー体が近付いていき…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴様の望みを言え。やれるところまで、叶えてみせよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また新たな騒動が、始まろうとしていた。

 


 
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