No.649046

真恋姫無双~年老いてNewGame~ 十五章

先日更新分について、誤字のご指摘ありがとうございました。
現在はすでに修正が完了しております。
また、誠に勝手ながらコミックマーケットへの参加(一般参加)を予定している関係で年末の更新は不定期になる可能性がございます。
本当に申し訳ございません。

2013-12-27 22:47:02 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3697   閲覧ユーザー数:2877

嵐は、去っていた。

皆が皆、去りゆく戦の、地獄の喧騒を眺め見送ることしかできなかった。

孫権を撃ち捕った将もまた、張遼を名乗った。

 

魏軍の奥深くから猛烈な勢いで影が突き抜ける。

その影は張遼を抑える孫策、周瑜の間をすり抜け、張遼と戦う甘寧、周泰を躱し、孫権の前に躍り出る。

完全に虚を突かれた。

 

視線が交差する頃には時既に遅し。

輝く筒状の兵器は轟音とともに弾を打ち出す。

込められたった一発の弾丸。

それは孫権に命中した。

 

「敵将孫権、撃ち取ったり!」

 

詠が、北郷より預かった大筒から放ったのは悪漢捕縛用の弾だった。

最初から殺すつもりなどなく、ただ負かすことだけを考えていたのだろうか。

それとも、ただ的を外すことが少ないこの弾を選んだだけだったのだろうか。

その真意は定かではないが、それが孫権を捉えた。

それが、この結果だった。

 

「敵将孫権、撃ち捕ったり!」

 

もう一度、大声で叫ばれたその声は、戦の終わりを告げるもの。

 

それ以上の攻撃は、なかった。

 

「見たか、これが西涼の馬術よ、チンコ隊長め!

 この戦、ボク達の勝ちよ!ボクだって西涼の女なんだから!このくらい馬には乗れるのよ!

 これで挨拶は済んだわ。さぁあの馬鹿男が死ぬ前に拾ってとっとと引き上げるわよ!」

 

それで満足と言わんばかりに張遼達は武器を収め、一目散に引き返していく。

そのあまりに突拍子もない光景に、孫策も、周喩も、甘寧も周泰も、そして孫権でさえも、口をあんぐりと開けてその背中を見送るよりほかなかった。

 

連中の素早い転進に、誰ひとり追いかける気になるものはいなかった。

あるものは呆然とし、あるものは憤慨し。

だが、ただその感情をどうすることもできずにいた。

 

そんな中、黄蓋が戻ってきた。

心なしか険しい顔をしている。

なにかを担いで戻ってきた黄蓋は、それを張遼達に引渡すとまっすぐ孫権に向かった。

 

「その様子では、やはり負けてしまい申したか。」

 

未だ網から抜け出せぬ孫権の前に膝をつき、黄蓋は言葉を続ける。

 

「しかし、生きておられますな。よかった。

 死んでいるとは思わんまでも、ご無事で本当に良かった。

 いま、縄を解きましょうぞ。

 ほれ、策殿も、軍師殿も手伝わんか!いつまで君主を転がしておくつもりだ!」

 

そう言って、黄蓋がまさに縄をとこうとした時。

「やめろ、触るな!」

 

孫権が、口を開いた。

 

「…。」

 

黄蓋は、答えない。

 

「このような様で転がされる小娘に失望しただろう。」

 

口をつぐんだまま、孫権の話を聞く。

 

「私が姉様ほど武芸に長けていたらこんな事にはならなかったと思っているのだろう。」

 

その言葉に耳を傾ける。

 

「お前たちは私を情けない君主と思うだろう。」

 

言葉を吐き出すようにつぶやくその姿に、口を挟めるものはいなかった。

 

「私は負けた。

 しかも敵に情けまでかけられてこのザマだ!」

 

見れば、孫権は涙を浮かべている。

 

「失望したでしょう!軽蔑したでしょう!わかっているのよ!

 姉様だってまだ生きているというのに、私が君主でいいはずがない!

 それは今日の敗戦でわかったはずよ!

 こんな情けない君主を慕う部下も民もいないということもわかっているわ!

 ならばいっそ!

 そんな私など、敗戦の責任をとって死ん…」

「それ以上続けるならば、儂が自らの命を断つ!!!」

 

お主のいうこと、理解できるぞ、北郷。

 

黄蓋が吠えた。

 

「雪蓮殿の顔を見よ!思春の顔を、明命の顔をよく見てみよ!

 誰一人として蓮華様を軽蔑したりなどしておりはせん!

 それがわからぬほど愚かでありますまい。

 見よ!周りを見よ!」

 

見れば、多くの兵が陣に戻ってきていた。

その顔に浮かぶ色のどこにも、孫権の思い描いていた色は塗られていなかった。

 

「儂の前の上司はこういった。死んで花実は咲くものか、との。

 負けてもいいと。

 無様にでも、かっこ悪くても、生きてさえいりゃなんとかなるとそういっておった。

 それにのう、権殿。顔をあげよ。考えても見よ。

 儂も、策殿も軍師殿も、既に一度奴らに負けておる。」

 

孫権の目の前にある表情は、思い描いていた失望の色ではなかった。

 

「勝てんかった、で終わらなければよい。

 次に見返せればよいのじゃ。

 その機会はある。

 儂らもまだ、みんな生きとる。そうじゃろう?」

 

その顔に安心したのか、孫権の目には、先程よりも大粒の涙が浮かんでいた。

 

「かっかっかっ!策殿も心配であればすぐに助けてやればいいものを!

 しかし、権殿でも勝てんかったか!

 そうじゃのう…

 これから国をより発展させていくためには、やはり権殿にも同じ立場の友が必要かもしれんのう。」

 

孫権の様子に満足したのだろう。

黄蓋はやっと、笑顔になった。

 

「あやつはこのために、あんな武器を使ったのじゃろうかのう…

 時に権殿、儂に一人、良い友人になってくれそうな知り合いがおるんじゃ。

 策殿にあわせていうとすれば、儂の勘が正しければ、そろそろ紹介しても大丈夫かもしれんのう。

 時代が変わる。

 その時が来ておる。

 そうは思わんか策殿!」

 

君主の拘束を解き、やっと、孫呉は立ち上がる。

 

「死なせたくねぇんだよ、泣かせたくねぇんだよ、笑ってて欲しいんだよ、か。

 格好つけおって。最初からこれを狙っていたのだとしたら、なるほど、確かに平和をもたらす天の遣いじゃ。

 主の目指した世界を、すこし見たくなってしまったではないか…」

 

その日、孫呉には確かに、力強く歩み始めた。

………

……………

 

馬の上?

揺れている。

死んだのかな?

帰らないと。

声が聞こえる。

誰の声だろう?

家に、帰らないと。

あいつが待ってる…


 
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