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真恋姫無双~年老いてNewGame~ 十一章・前編

2013-12-13 23:26:04 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3376   閲覧ユーザー数:2693

 

黄蓋下る。

 

いつものように朝議をサボり詰所で寝ていた俺にその一報は舞い込んできた。

連絡を受けた俺は、正直に言えば驚かなかった。

むしろ、来たか黄蓋、思ったより早かったなと、そう思った。

しかし、文字通りそのことを知っていた俺と知らなかった華琳とでは事の重大さはまるで違っている。

なにせ相手は呉の宿将、孫呉にその人ありとさえ言われる古株、黄蓋である。

孫堅の時代から孫家に仕え、支えて来たその人物が孫家の敵である魏に降ったとあらば…

 

「そりゃうちの連中が大騒ぎするってもんだろ、なぁ黄蓋?」

「そういうお主は全くといっていいほど動じておらんがのう?」

「まぁ事情なんて人それぞれだ。俺の働く理由なんて飯のため、首のため。

 あんたが一人増えたところで世はこともなし。」

「ふむ、魏にはケツの青いヒヨッコしかおらんと思っておったが…なかなかどうして…」

「ただ年食ってるってだけのことさ。部隊の出入でいちいち驚いてたらこっちの身が持たないってだけ。

 それにここは本隊予備の警邏隊だからな。人が出ちゃもどってくるところだ。

 ただいまおかえりってね。」

「訂正じゃ…お主はただ適当なだけじゃの…」

 

そう。周瑜、孫権とそりが合わずに、さらに口答えをした罰を受けた黄蓋は魏に降った。

華琳はそれを受け入れた。

それだけの話である。

 

「新兵はみんな一度警邏隊で訓練を受けるんだ。そこでいちいち誰がどうとか気にしてられないよ。」

「儂が新兵扱いというのもいささか疑問はあるがの。」

「全員に一週間の新兵訓練は義務付けられてるんだ。霞も恋もあいつらの部隊もみんなうけたんだぜ?」

「なんじゃと?」

「警邏隊の半分が実験部隊だ。もう半分は本隊に送る。そのかわりに本隊に警邏を手助けしてもらってる。

 そうやって成り立ってるんだ。だからその元になる部分の教育はうちらで引き受けるってことさ。

 本隊にいる連中は全員一度ここで訓練してるんだ。もっとも、春蘭と秋蘭だけは別だけどな。」

 

まぁそんなことしてるのはうちの国だけだろうけど。

 

「それでわざわざ七日間もとっておるんじゃな…」

「まぁね。地力はむこうで付けてくれるから、こっちの訓練は主に心構えと基礎知識の補填になる。

 そういう理由もあってなおさらみんなに受けてもらうんだけどな。」

「一手にやってしまえば良いものを。わざわざ面倒なことをするんじゃ…」

「ここを任されてはいるけど俺は一応客将扱いだからな。客将が本隊の育成ってのもまずいだろ?

 それに俺自身が本隊の育成ができるほど有能じゃない。戦えない奴の指揮で訓練なんてだめだろ。」

「それはそうじゃが…」

「全軍の士気を高めるには春蘭や霞の方がいいんだよ。調練は俺には出来ないしな。

 俺が教えられるのは死なない心構えと生きて帰る勇気だけだ。」

「…む?お主そんなことを教えるのか?」

「あぁ、全員に笑われたし春蘭なんか俺のことを殺そうとしたよ。

 『この軟弱者が!華琳様のために命を賭けるように兵を育てんか!』ってね。」

「それはそうじゃろう。兵は将の盾となり、将の駒となる。これは基本じゃ。」

「そうだな。だからじゃないか?」

「的を射らん答えばかりじゃのう。お主面倒くさいと言われんか?」

「よく言われるよ。たださ、俺は違う世界から来た男だから。こっちの常識は俺にとっちゃ非常識だったんだ。

 だから俺の常識をみんなに教えたい。ただそれだけさ。」

「ふむ…曹孟徳も訳の解らん男を捕まえたもんじゃのう。」

「半端者はいらない、あなたの好きなようになさい。華琳はそういった。それが華琳の望みなら俺はそれにそうだけだよ。」

「ふふん、見せつけてくれおって。」

「黄蓋だっておんなじようなもんだろ。呉との決着がついたら真の孫呉兵として魏と戦うだなんて…」

「それが儂なりの忠義の示し方じゃ。」

「そうかそうか。けど今は俺の部下だからな。こっちの流儀は覚えて帰ってもらうぞ?」

「ふん、言われんでも分かっておるわい。」

「じゃぁ今日の北郷隊スペシャル、ドキッ!仕掛けだらけの夜間行軍訓練(ポロリもあるよ…首だけど)も大丈夫だな!

 野郎ども準備にかかれー!」

 

「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」」」」」

 

「全くなんじゃというんじゃこの部隊は…。」

 

………

……………

 

 

「なぁ…これ川だよな?」

「はい、紛れもなく長江です。」

「だよな…」

 

それは思っていたものよりももっと広大だった。

だって考えても見ろ!日本にこんなでかい川ないじゃん!

向こう岸見えるじゃん!

 

「これじゃまるで海だな…」

「海ですか?」

「あぁ、ここと似たようなもんだけどもっとでかいんだ。そしてなによりしょっぱい。」

「しょっぱいのですか!?」

「そうだぞ。波なんかも高くてなぁ…」

 

ここは長江。

黄蓋が抜けた後、呉側で動きがあった。

蜀の劉備を始めとする主要な面々が呉の領土へ入り、戦の準備をしている。

さらにそれに同調するように呉も動いている、とのことだ。

以前より春蘭と孫策との因縁は浅からぬものであったし、華琳も孫呉を注視していたため、この動きに反応した。

国境付近の小競り合いも増えていたところへ持ってきてその動き。

即座に本隊を呼び寄せて準備をし、ここへ赴く事となった。

兵数は魏の本隊を含めたものと呉蜀の連合とでほぼ五分。

 

しかし…

 

「おまえらほんとに大丈夫か?」

「大丈夫なわけあらへんやろ…みてわからん?」

「そうなのー…沙和もちょっとしんどいの…」

「凪は?大丈夫か?」

「……………」

「だめだこれ、焦点があってない。」

 

そう、基本的に平地での戦闘しか行ってこなかった魏軍では水軍がまともな数育っていない。

それに対してほぼホームである呉軍の水上戦の練度は比べるべくもないだろう。

数の上では対等であっても、これではこちらが不利であることは明白だ。

訓練だけしか積んでない兵と実践もこなしてきた兵とでは比べるべくもない。

 

「華琳の奴はそのへんわかった上だったっぽいけど…これじゃちょっとなぁ…」

 

ひとりごちて船上を見渡してみても、酔っているのは決して少ない数とは言えなかった。

これじゃあまずいよなぁ…

頭が痛くなってきた…

 

とそこであることを思い出した。

 

「ん~…そうだ、おい、春蘭はどうしてる?」

「春蘭様やったらむこうでぐでーっとなっとったけど…」

「やっぱりそうか。よしよし、おーい流琉!ちょっと手伝ってくれ。」

「なんや隊長、何始める気なん?」

「ん?あぁ、これでも一応役に立つってところみせとかないとな。給料に響くじゃん?」

「なんやそれ?」

「たまには俺も役に立つところをみてもらおうってことさ。」

数刻の後。

 

「うるさいわね!一体誰が騒いでいるというの!?」

 

華琳はイライラしていた。

船の上は想像以上に居心地が悪い。

落ち着かない足場の上では考えもまとまらず、魏の頭脳ともいうべき桂花、稟、風も本調子ではない。

だからといって春蘭や季衣たちでは話にならない…

孫呉との決戦を前にして、落ち着かない状況である。

そんな中、前方の船団で乱痴気騒ぎが始まったのだ。

頭に来るのは無理からぬ事だった。

 

「秋蘭!あの無駄に元気な連中はいったいなんだというの!?」

「北郷のところですね。北郷隊ではいつものことだと聞いていますが…」

「あのバカ男!どうして静かに何か出来ないというの…?

 …?いつもどおりですって…?」

「えぇ…北郷が馬鹿をやって真桜や沙和がそれを煽り、姉者も調子にのって北郷に返り討ちにあう。

 全くもっていつもどおりです。」

「待ちなさい…確か春蘭は船酔いがひどかったのではなくて?」

「そうだったのですが、今回は真っ先に騒ぎ出したのが姉者ですので…

 私としてはもう少し弱った姉者を見ていたかったのですが、北郷がなにやらするということで貸したらあの状態です。」

「では何?部隊全員船酔いもせずに馬鹿騒ぎしているというの?確か凪もひどい船酔いと聞いたけれど…」

「はぁ…それは実際に私も見ていないのでなんとも…呼びましょうか?」

「えぇ…お願い。」

 

いかに我が軍きっての変態調練で有名な北郷の特殊部隊でも水軍の訓練は満足に行っていなかったはず。

それに先程まで北郷の部下たちはたしかに青い顔をしていた。

なぜ北郷隊はそこまで元気なのか…?

当の本人を呼んで確認する方がはやそうである…

なにかしらの対策があるならば、軍の士気は上げられる。

もし無いのであっても、一刀の様子から対策を講じることはできるかもしれない。

…と考えたのだが、その期待はあっという間に霧散した。

 

この男、なぜこんなに酒臭いの?

 

「どうした?何か用か?」

「貴様!華琳様になんて口の聞き方を…!そこになおれ!今度という今度はたたき切ってくれる!」

「春蘭は少し黙りなさい。一刀…あなた今酔っ払っているわね?」

「酒の方にすこしな。うちの部隊で試した酔い止めが思ったよりきいたんで黄蓋とっ捕まえて一杯やってたんだ。」

「なんだ貴様、確証もないのにあんなこと言って私にあれを飲ませたのか?」

「確証はあったけど効果の程が解らなかったんだよ。なにせ流琉に頼んで大急ぎで作ってもらったんだから。」

「なんだと!?貴様あれはたしかに聞く由緒正しい薬だと…」

「ふたりとも少し黙りなさい!」

「ひっ!」

「…申し訳ありません華琳様。」

「私があなた達を呼んだのはほかでもないわ。なぜあなた達がそんなに元気なのか。順を追って説明なさい。」

「あぁ、それは俺から説明しよう。…ただなぁ…ちょっと春蘭が…」

「何が言いたいのだ貴様!」

「…いや、そのなぁ…俺の首が怪しいからできればちょっと…」

「なにぃ!?貴様まさかあの薬は毒だったとでもいうのか!?」

「違うよ!流琉がつくったって言っただろ!ただこっちにも事情があるんだよ!」

「貴様そう言ってこの私を誑かすつもり…」

「だからうるさいと言っているのよ春蘭。すこし事を急くの。悪いけれど席を外してくれないかしら?」

「そ、そんなぁ…」

「そんな顔をしてもダメよ。此度の戦が終わったら真っ先に可愛がってあげるからいまは席を外していなさい。」

「ほんとうですか!?」

「えぇ、本当よ。タップリとかわいがってあげるから…」

「わかりました!絶対ですよ!」

「約束は違えないわよ。ほら、はやく…」

「華琳様ー!絶対ですよー!!…」

「…はぁ…これでやっと静かになったわ。」

「はぁ…姉者はかわいいなぁ…」

「あれがかわいいって言ってた理由、最近わかるようになってきたよ。」

「あら、一刀ともあろうものが今更分かってきたの?」

「春蘭の本当のよさってそう簡単に分からんもんじゃないか?」

「おぉ、これは少し見直したぞ。そうだとも。姉者のよさというものはだな…」

「秋蘭も少し落ち着きなさい。そろそろ本題に入りたいのよ…」

「あぁ、そうだったな。で、なんだっけ?船酔いを治す方法だっけ?」

「あなたね…わかってて言っているでしょ?」

「あぁわかった、わかったからそんないまにも射殺さんばかりの目で見ないでくれよ。照れる。

 ほら、これだこれ。」

 

そういって俺はポケットの中から小さい包み紙にくるまれている物を華琳たちにわたした。

 

「いいか、よく聞くんだぞ。これは征呉丸といって天の国に伝わる酔い止めの特効薬なんだ。

 これを舐めてしばらくすると少し眠たくなるんだが、それをちょっと我慢するとあら不思議。

 酔いは醒めて気分は爽快。体の疲れと頭の重たいのも取れるという優れものなんだ。」

「ほう…そんなものがあるのか…」

「おう、そうだぞ。その証拠にさっきまでひどい船酔いで唸ってた春蘭もあのとおりだし、凪も真桜も元気いっぱいだ。」

「へぇ…天の国には変わったものがあるのね…しかしなぜもっと早く作らなかったのかしら?

 …?

 …ところで一刀、これはたしか流琉が作ったといったわね?」

「あぁ、手伝ってもらってな。だから味の方は大丈夫だぞ。」

「そう…味、ね…秋蘭、これ、食べてみなさい。」

「御意…むっ…これは…?」

「やはりね…。一刀、本当のことをいいなさい。これは『酔い止め』なのかしら?それとも『料理』なのかしら?」

「…まぁふたりなら気がつくと思ったから春蘭に席を外してもらったんだけどね。

 そうだよ。それはただの飴玉だ。到底酔い止めなんて言えるシロモノじゃないよ。」

「やはりね。で、一刀。本物の征呉丸とやらはどこにあるの?」

「…は?いや、ないけど?」

「からかうのはやめないか北郷。実際にお前の部下や姉者たちは元気になっているではないか。」

「ん?あぁもしかして俺が冗談で飴玉なんか渡したと思ってるのか?」

「違うのであればなぜ、いま、この状況で、こんなものを渡したのかしら?」

「やめろって、その顔怖いって。綺麗な顔が台無しだよ。

 …ったく。たしかにこれは『飴玉』で、薬じゃない。でもこれは『酔い止め』なんだ。」

「おい、北郷、私たちをばかにしているのか?」

「違うよ。これで本当にみんな治ったんだって。

 俺の世界じゃ確かに酔い止め薬ってのがあってな。だけどそんなもん普通の生活してる俺なんかじゃ到底作れるようなもんじゃないんだよ。

 だけど薬以外で酔い止めを治す効果を得られる方法もあるんだ。それがこれ、征呉丸さ。」

「…言っている意味がよくわからないのだけれど?」

「ある実験で、ただの強壮剤を酔い止めと偽って渡したところ、そんな効果がないにもかかわらずおよそ4割の人が船酔いせずに旅を乗り切った。

 それは、『これは効く。効果のある薬だ』っていう思い込みの効果なんだ。

 天の国ではそれをプラシーボ効果っていうんだけど、今回のはまさにそれだ。

 俺が皆の前で『これは天の国のありがたい薬で』云々説明して、春蘭に食わせた。春蘭は元気になった。

 それをみた兵達はこれは効くと思い込む。その後みんなに配る。

 効果は…まぁあんな感じだ。」

 

外では相変わらず北郷隊が騒いでいる。

 

「どうやら、嘘はついていないみたいね。しかし、あなたもう少しマシな名前はつけられないの?

 征呉丸なんてそのまますぎるじゃないの。」

「そこらへんはもうノリだよ。黄蓋は憤慨してたけどな。」

「それはそうでしょうね。私だって征魏丸なんて名前つけられたら怒るどころではないわよ?」

「だろうな。ただ俺の世界にさ、正露丸っていって、本当にその国を攻略するため、なんて言われてる薬があったんだよ。」

「ふむ…まぁそれはいいとして、華琳様、いかがなさいますか?この『薬』を全軍いたしましょうか?」

「そうね…効果があがるのならばそれもいいかもしれないけれど…」

「あ~、ちょっとまった。それは無理だぞ。」

「うむ?どういうことだ?」

「いや、いったまんまだよ。理由は二つ。ひとつは効果のことだ。全軍に俺が説明して配るには時間がかかりすぎる。

 そしてもう一つ、こっちのほうが重要だ。材料がない。」

「それもそうね…たしかに限られた兵糧しか持っていないものね。」

「ちなみに材料はなんなのだ?」

「砂糖とか蜂蜜とか…そこらへんのものを結構な量使う。ここにある分は流琉にやってもらったけどさすがに全軍に行き渡る量はないらしい。」

「うむ…。しかしこのまま船酔いを放って置くのも全軍の士気に関わる。」

「一刀の様子からなにかいい案があるのかと思ったのだけれど…これでは根本的な解決にならないわね。」

「さすがに全軍を手広く治すのはなぁ。

 ただいざという時のために親衛隊くらいは動けるようにできるんじゃないか?」

「それもそうね…そのくらいの量は確保できそうなの?」

「多分大丈夫だと思うぞ。」

「では秋蘭は親衛隊を集めて頂戴。一刀は『薬』の準備をお願い。最低限の戦力は確保するわ。」

「御意。」

「了解。」

「しかしこれでは根本的な解決にはならないわね。一体どうしたものかしら。一刀、本当にほかに方法はないの?」

「う~ん、今思いつく限りのことはあるっちゃあるけど、どれも似たようなもんだしな。

 確実にどうこうできるものじゃないといざ開戦したら困るだろ?だから献策はしかねるな。」

「うむ。この状況で確実で無いものを取り入れるにはあまりに危険過ぎるからな。」

「まぁこればかりは考えていても仕方ないわ。親衛隊の件が終わったら一刀は手の回る範囲で治してまわって頂戴。

 将を優先してね。先程のぷら…なんとか効果は恐らく将の方が効果があるわ。

 秋蘭もそれに手を貸してあげなさい。

 まともに動ける兵は多ければ大いに超したことはないわ。」

「はいよ。じゃぁ早速流琉のところにいってくる。」

「では私は親衛隊を集めてこよう。」

「ふたりとも、頼んだわよ。」

「「御意。」」

二人が出て行き、船室はうってかわって静かになった。

そして、ふと思いを巡らす。

一体いつからだろうか。自分の周りがあのようにうるさく…いや、賑やかになったのは。

確かに春蘭は決して静かとは言えなかったがアレでいて気が向く方だ。

秋蘭は秋蘭で気を使える。

桂花たちはいうまでもなく…

「ふふっ…やはり、あの男の影響かしらね。」

拾ったときはその存在だけを利用するつもりでいたけれど。

知識を引き出し、使えなくなればただ飼い殺すつもりでいたあの男は、いまでは曹魏の中心にいる。

それも、もはや無視できないくらい大きな存在となって、我が覇道を支えている。

 

「問題は本人にどこまでその自覚があるか、ということね?」

 

本当におかしな男である。

あいつよりよっぽど頭のいい文官や腕のいい武官でさえ、自分を殴ってまで諌めたことはない。

いくら春蘭であろうと秋蘭であろうと、自分に説教などすることはなかった。

ヘラヘラと頼りないかと思えば、時より見せる意地には眼を覚まさせられる。

何かしょうもないことを考えてるかと思えば、年に似合わぬ子供のような笑顔を見せる。

 

「たしかに半端者はいらないといったけれど…まさかあそこまでとはね。」

 

一人の覇道だと思っていた。

使えるものを使い、乗り越え、歩んでいく一人の道だと思っていた。

 

「ただ、そうね。あなたとふたりならば…いえ、そんなことを言えばまた叱られかねないわね。」

 

口元が緩んでいるのを自覚する。

すでに一人の覇道ではないのだった。

 

「今までも、そしてこれからも、敗北は許されないのだったわね。」

 


 
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