No.618360

ALO~聖魔の剣~ 第35剣 木綿季の家に

本郷 刃さん

第35剣になります。
学校が終わり放課後の話しです。

どうぞ・・・。

2013-09-11 10:15:15 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10101   閲覧ユーザー数:9415

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第35剣 木綿季の家に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日奈Side

 

6コマ目の授業も終わり、和人くんと別れてわたし達は教室に戻った。

HRを終えるとクラスメイト達が集まってきて、みんなでユウキと色々な話しをして過ごした。

しばらくして、ようやく2人だけになることが出来て、ベンチの中庭に腰かける。

ちなみに和人くんとは別行動になってます。

 

『アスナ。ボク、今日はすっごく楽しかったよ! ホントにありがとう♪ 今日のこと、絶対に忘れないから』

「なに言ってるの、これからも通ってもらうんだからね。先生達だって、毎日来てくれて良いって言ってくれたんだから」

『そっか…うん、そうだね!』

 

本当にユウキは楽しんでくれたみたいで、わたしも凄く嬉しくて、良かったって思える。

 

「それよりも、これからどうする? もう1度行っておきたい場所とか、見たいものがあるなら行っておくけど…」

 

『それなら……一箇所だけ、行ってほしいところがあるかな…。学校の外なんだけど…』

 

彼女が行きたい場所は学校外みたいだけど、プローブのバッテリーはまだ保つし、

端末がネットに接続できる場所なら大丈夫なんだよね。それなら問題無いかな。

 

「うん、大丈夫だよ」

『良かった~…。あのね、ちょっと遠いんだけど、横浜の保土ヶ谷区にある月見台ってところまで行きたいんだ…』

「わかったよ、それじゃあ早速行こう」

 

ユウキから行き場所を聞いたわたしは、荷物を持って校門へと向かう。

そこで、校門に誰かが居るのに気付いた……それは2人の男の子で…。

 

「校内はもういいのか?」

「どうも、明日奈さん、ユウキ」

「和人くん。それに…」

『クーハ…』

 

ずっと待っていてくれたのか、制服に身を包んだまま右肩にデイバックを掛けている和人くん、

それに私服のままでその隣に立っている九葉君の2人がいました。

どうして2人が居るのか気になったけど、それを感じ取ったのか和人くんが説明をしてくれた。

 

「帰ろうとは思ったんだが、校門を出たところで九葉と会ってな。折角だから一緒に待つことにしたんだ」

「学校、どうだったのか気になってさ。頼れって言ったのオレだけど、

 なんにもしてないから……せめて、初日くらいは直接感想を聞きたかったんだ」

 

確かに他校の生徒が1人、私服で校門のところにいたら怪しまれたりするもんね…。

それを考えて、和人くんは一緒に待つことにしたみたい。

それにしても九葉君は偉いな~、態々感想を聞く為にこっちに残っただなんて。

 

『えっとね、す~っごく楽しかったよ♪ 授業も凄く面白くて、先生やアスナのクラスメイトのみんなも良くしてくれたし、

 色んな子達とお喋りも出来て、学校の中も案内してもらったからね! 明日も来て良いよって、言ってもらえたんだよ!』

「そりゃ良かった……安心したよ、問題無さそうで」

 

ユウキが今日のことを楽しそうに語るものだから、九葉君も安心したみたい。

 

『そうだ、これから横浜の方に行くんだけど、九葉と和人も一緒に行かない?』

「ん~、ならオレは行こうかな。今日の夜には奈良に帰らないといけないし」

「俺は、そうだな……今日は遠慮しておくよ。3人で行ってくるといい」

 

九葉君は新幹線に間に合うようにするみたいだけど、和人くんは何かを思案してから断ってきた。

わたし達は和人くんに見送られながら、学校を後にした。

 

 

学校のある西東京市から電車を乗り継いで移動し、わたし達は横浜市保土ヶ谷区へと到着した。

電車内では小さな声で囁くように喋り、だけどそれ以外の路上とかでは人の目を気にしないで3人で話しをして移動した。

移り変わった街の風情と接しながら移動したからか、目的地の星川駅で電車を降りた時には夕方の5時半を過ぎていて、

空の色も紫に変化していた。

 

「綺麗な街だね、ユウキ」

「東京と違って、空が広く見えるもんな」

『うん…。それよりも、2人はお家の方とか大丈夫なの? ボクのわがままで、こんな遅くになっちゃってるけど…』

 

わたしと九葉君が声を掛けると、彼女は応じてからそう言った。もう、気にしないでいいのに…。

 

「大丈夫だよ。さっきメールをしておいたから」

「オレは実際のところ、明日の学校までに家に帰り着けばいいし」

 

母さんには遅くなることは伝えてあるし、身の安全なら九葉君も居るし、

連絡を入れれば和人くんも来てくれることになってる。だからわたしのほうは何も問題無い。

九葉君も見た感じでは本当に大丈夫みたいだし。

 

「ユウキ、行きたいところってのはどこなんだ?」

『あ、そうだね。駅前を左に曲がって、それから信号を……』

「ん、了解だよ」

 

わたし達はユウキの説明を受けてから歩き出し、彼女のナビゲーション通りに進んで、街の中を通っていく。

彼女は懐かしそうな言葉を何度も呟いていて、だからこそわたしは気が付いた。

この街にかつてユウキが住んでいたっていうことに…。

 

 

少し歩いてからわたし達は一軒の住宅の前に辿り着いた。

白いタイル張りの壁を持ち、青銅製の門扉を構える家。

肩にあるプローブからはユウキの長い吐息が聞こえてきた。

間違いない、この家がユウキの…。

 

「ここがユウキの家なんだな…」

『そうだよ…。まさか、もう1度見られるとは思ってなかったけどね…』

 

白い壁と緑色の屋根、周囲の住宅よりも小さめの家だけど広い庭、

芝生には白木のベンチ付きのテーブル、赤レンガで囲まれた大きな花壇のある家。

だけど、放置されているのが良く分かるくらいになっている。

テーブルは色をくすませていて、花壇には枯れた雑草、家の窓全てが雨戸によって閉められている。

もう、この家には誰も帰って来ていないから、だから周りの家と違って温かさが欠けてしまっている…。

 

『ありがとう、アスナ、クーハ。ボクをここまで連れて来てくれて…』

「ユウキの家だもの、わたしも見れて良かったって思うよ」

「オレは、何もしてないけどな…」

 

ユウキがお礼を言ってきたのでわたしは素直な感想を伝え、九葉君は自嘲気味に苦笑して言った。

それでも彼女にとっては嬉しかったみたいで、小さな笑みが聞こえた。

ユウキはもう帰ってもいいと言ったけど、わたしと九葉君は彼女の家をもう少し見ていたいと思って、

向かいにある公園の膝の高さくらいまである石積みに腰かける。

ここからなら、ユウキでも家を全部見渡せるはずだから。

しばらくの間、沈黙が流れたけれど、ユウキがポツポツと語り始めた。

 

この家で暮らしたのはたったの1年、ユウキは庭があったことをお姉さんと一緒に喜んだらしい。

お母さんは感染症を心配していたけれど、ユウキと藍子さんはいつも庭で走り回って遊んだという。

ベンチでバーベキューをし、お父さんと本棚を作ったり、様々な思い出を語った。

わたしはそんなことをしたことがなくて、それを呟いたらユウキは、

ALOのわたしの家でバーベキューパーティをしようと言い、九葉君も賛成して、わたしも大いに乗り気になった。

わたしの仲間達とスリーピング・ナイツのみんな、大勢でやることを約束した。

 

そんな明るい雰囲気が漂う中、ユウキは再び呟いた。

 

現在、この家をどうするかで親戚じゅうが大いに揉めていると…。

取り壊してコンビニにする、更地にして売る、このまま貸家にする、そんなことを言い合っているらしいのだ。

さらに、ユウキ達の病気のことを知ってからリアルで避けていた彼女の伯母に当たる人が、

フルダイブをして会いに来たという……「遺言を書け」と、言いに…。

それを聞いたわたしは息を呑んで、右隣に座る九葉君は怒った雰囲気を醸し出した。

ユウキは申し訳なさそうに謝ってから、言い返した言葉を伝えた。

彼女は伯母に「ペンもハンコも持てないボクは遺言を書けませんよ」と、それを聞いて九葉君は苦笑していた。

そのあとユウキは伯母に頼んだという、この家をこのまま残してほしい、と。けれど、結局はダメだったらしい。

だから今日、彼女はここへ来たかったのだ……せめて、家が壊される前に、一目だけでもその眼に焼き付けておこうと…。

 

そんなユウキの言葉を聞いていたからか、わたしはふと思いついたことを口にしていた。

 

「ユウキ、いま15歳だよね?16歳になったら、好きな人と結婚すればいいの。

 それなら、その人がこの家をずっと守ってくれるよ…」

「あぁ、確かにその手ならいけるかもな」

『っ、け、けけ、結婚なんて、ボク…//////』

 

わたしの思いつきの言葉に九葉君は同意して、ユウキは混乱した様子を見せる。

この反応、もしかして好きな人がいるのかな?と思い、同時にいままでの彼女の反応を見て、もしやとも思った。

ユウキの好きな人は、まさか…。

 

『あ、あははは/// でも、アスナは凄いこと思いつくね///

 それなら、婚姻届なら、頑張って書こうって思えるね///!

 でも、ボクなんかもらってくれる人、いないと思うけどなぁ…』

 

彼女が明るく装ってるのに気付いた、最後の方は少し落ち込んでる感じがしたし…。

それとレンズが方向を僅かに変えたことにも……その方向は、九葉君の顔が見えるくらいに…。

やっぱり、ユウキは…。

 

「(ぼそっ)そうでもないんだけどな……その時は、オレが…」

『え…?』

 

そこで彼女は驚いたような声を上げた。

 

「ユウキ、どうかしたの?」

『う、ううん…なんでもないよ!(いまの、気のせいだよね…///?)』

 

ユウキの様子が少しおかしいと思ったけど、大丈夫そうだね。

 

『でも……ホントにありがとう、アスナ、クーハ。

 この家を見ることができて、ホントに満足してる。家が無くなったとしても、ママやパパ、姉ちゃんと過ごした記憶は、

 思い出はずっとボクの中にあるんだから…』

 

そこから彼女は再び言葉を紡いだ。

ユウキと藍子さんが薬を飲むのが辛かった時、2人のお母さんはイエス・キリストの話しをして、2人を諭したらしい。

ユウキはそれが不満で、聖書の言葉じゃなくてお母さんの言葉を聞きたかったって、ずっと思っていたという。

けど、今日この家を見て解ったと言った…お母さんは言葉じゃなくて、気持ちで自分達を包んでいてくれたことを。

辛くても、悲しくても、最後まで自分が前を向いて歩けるよう祈ってくれていた、そう気付いたというのだ。

だから、わたしも伝えよう、自分の中のことを…。

 

「わたしもね、まえまでは母さんの言葉がずっと聞こえなかったの…。

 決められた道を行くことしか出来なくて、自分の思いをぶつけることが出来なかった。

 だけど、SAOでキリトくん達と出会って、ぶつかり合うことの大切さを知ったんだ…。

 まぁ、SAOから帰ってすぐ、自殺を図っちゃったんだけどね、わたし」

『えっ!? そ、それ本当、アスナ!?』

「マジかよ…」

 

わたしの思いがけない言葉に驚くユウキと九葉君、それは驚くし、仕方がないよね。

 

「SAOの最後で、わたしを庇ってキリトくんは消滅した…。

 わたしは彼が死んだと思って、SAOの最後で1度、そしてリアルに帰って来て2度目の自殺を図ったの。

 親に決められた道を脱線して絶望し、SAOで救われたと思ったら、帰って来てまた絶望して……もう、死にたいって思った」

 

あの時を思い出しながら語り、2人はしっかりと聞いてくれてるのが分かる。

 

「だから、両親の目の前で花瓶を割って、その破片を自分の喉元に突きつけたの。

 溜まりに溜まった鬱憤を吐き捨てながらね…」

『っ……』

 

ユウキが息を呑んだのが聞こえ、九葉君は静かなまま眼を閉じて耳を傾けている。

 

「でも、その時にわたしは聞かされたの。仲間の2人からキリトくんは、和人くんは生きているって。

 だからわたしは生に縋って、それがきっかけで両親と話しをすることが出来たの…」

「なるほど…」

『そうだったんだ…』

 

話しを聞き終えた2人は息を吐きながら納得したような声を漏らした。

 

『アスナは、強いんだね…』

「強い? わたしが?……わたしは強くなんかないよ。

 和人くんがいなくなったらどうなるのか、自分でも解るくらいに弱いよ…」

 

ユウキはわたしが強いと言ったけれど、わたしは弱い…。

特に、和人くんが居なくなってしまったとしたら、すぐに壊れてしまうのが容易に想像できるし…。

 

「それに、わたしよりもユウキの方が強いと思うけど…」

『ボクは強くなんかないよ…。パパとママの一番奥の気持ちに気付いたから、病気でも元気だって、

 振る舞うことしか出来なくなってたんだと思う。本当のボクは、もっと弱いのは間違いないと思うんだ…。

 でも、たとえフリだとしても、笑顔で居られるならそれでもいいやって、思えたんだ。

 ボクはもう、あんまり時間が無いから、遠慮して時間を掛けちゃうよりも、

 嫌われてもいいから距離を縮めることが大事だって、その人の近くに行くことが出来たのと変わらないからね』

 

そう言った彼女の言葉を聞いて、またユウキの強さを知ることができた。

嫌われることを恐れないで、相手に近づく勇気を持つようになった。

たとえ彼女が強がりだと言っても、やっぱりそれは強さだと思う。

 

『それにね……ボクが逃げても、アスナはクーハと一緒に一生懸命追いかけてくれた。

 昨日のモニタールームで2人を見て、声を聞いてたら、2人の気持ちがすごく伝わってきたんだよ…。

 ボクのことを知っても、それでも会いたいって思ってくれてる2人の思いが解ったんだ。

 だから、すっごく、泣いちゃうくらいに嬉しかったんだよ』

 

そこで1度区切ってから、彼女は言った。

 

『だからね、アスナだって強いんだよ』

「…うん。ありがとう、ユウキ」

 

ユウキの言葉にお礼を言う。誰の、どこが強いのかは、1人1人違ってくる。

彼女にも強いところがあるように、わたしにも強いところがある。それでいいんだね…。

 

「ま、オレからすれば2人とも大した強さだと思うよ」

 

しんみりとしていた空気を破るように九葉君が告げた。

 

「明日奈さんは“キリトさんを失う絶望”を経験して、それでも立ち直って和人さんの隣に立った。

 ユウキの境遇は、それこそ“完全に理解できる人がいない絶望”を物語ってる。

 正直、そういったのを経験したことないオレからすれば、2人ともメチャクチャ強いと思うんだ」

『……でも、クーハはそれを知っても、ボクを追いかけてくれたよね? なら、クーハだって強いよ!』

「ふふ、そうだね」

「っ…ったく///」

 

彼の言葉はわたし達を勇気づけてくれるものだった。

そして、そんな九葉君をユウキは強いと言えるし、わたしも同じ考えになる。

わたし達にそう言われたからか、彼は照れてるけどね。

 

『それじゃあ、今度こそ帰ろうよ。それにすごくすっきりしたからね』

 

わたし達は腰を上げて立ち上がり、談笑しながら駅へと向かった。

冬の夜空に輝く星は、まるで見守ってくれてるかのようだった。

 

明日奈Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

というわけで、原作とは会話内容がそれなりに変わりましたね。

 

明日奈が京子さんと和解していますし、オリキャラである九葉もいますので、

木綿季が明日奈に結婚しようは言いませんでした。

 

それに和人に対して気を付けた方がいいという件もありません、ウチの和人は原作と違いますのでね。

 

ではまた次回で~・・・。

 

 

 

 

 


 
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