第31話 拠点-3-2-
○翠
一刀「ふむふむ。なかなかいい出来栄えだ。」
新しくなった厩舎に視察にやって来たのはいいものの、厩舎の良し悪しなんてわからない。とりあえずそれっぽく知った風に頷いておく。
兵士「御存知の通り軍馬の増強が行われますので、ここと同じ構造のものを他でもいくつか配備する予定になっております。」
一刀「なるほどなるほど。」
てことは適当なことは言えないぞ?あとで霞あたりにもう一度チェックしてもらうとして、とりあえずは自分で気づいたとこだけでも報告書に書けるよう、隅々まで見ておこう。
収まっている馬も窮屈はしていないようだなどととりとめのない感想しか浮かばなかったものの、
一刀「お?」
見慣れた馬と言っても違うのだが、知った馬を見つける。
一刀「紫燕じゃないか。足はもういいのかい。」
紫燕は人間の言葉がわかるのか、大丈夫だと言うかのようにぶるんと唸って答える。俺が鼻先に手を出してみても嫌がる素振りもなく、気持よさそうに撫でられてくれる。すると紫燕につられたのか、これまた知った二頭がすっと顔をのぞかせてこちらを見つけている。
一刀「よ、麒麟、黄鵬。お前らも無事でよかったな。」
こいつなんで俺たちの名前知ってんだ?と思っていることだろう。心なしかその顔は怪訝そう。
??「へぇ、初対面で触らせてもらえるなんて、ご主人様って結構すごいんだな。」
後ろからかけられた声に振り返れば、そこにはこの馬たちの戦友が。
兵士「おはようございます、馬超様。」
翠「おう、お務めご苦労さん。」
兵士「あっ...馬超様がおられるなら、私はこれで失礼させていただきますね。」
何かを察して退場していく兵士。なんで拳握って頑張ってくださいみたいな合図送ってきてるの?わけがわからないよ!
一刀「はぁ...おはよう翠。普通は触らせてもらえないもんなの?」
翠「そうだな。とりあえず怪しいやつが触ろうとしたら蹴っ飛ばすんだが、ご主人様はうまくやったみたいだな。」
一刀「...まるで俺が怪しい奴で手練手管で丸め込んだって言われてるような気がするんだけど。」
翠「天の御遣いーなんて名乗ってるやつが怪しくないわけ無いだろ?まあこいつらにはそんなことわかんないだろうから、触らせてもらえたってことはご主人様には特別ななにかがあるのかもな。」
まあその通りである。もちろん、触らせてくれたのはただの気まぐれだろう。或いは馬超と愛紗の立会の後、愛紗と二人で翠を看ていたのを覚えていたのかもしれない。
翠「ところで、」
一刀「ん?」
翠「なんでこいつらの名前知ってんだ?」
一刀「それは...」
方針上真実を言う訳にもいくまい。となれば答えはひとつ。
一刀「俺が天の御遣いだからさっ!」
俺はキメ顔でそう言った。
翠「...あー、聞いたあたしが悪かったよ。」
そして何かを諦められた。
翠に手伝ってもらったことで視察も滞り無く終了したのだが、なんとなくまだここにとどまっている。俺にはひとつ尋ねたいことがあったからだ。紫燕の鼻先を愛おしそうに撫で擦る翠の背中に話しかける。
一刀「なあ翠。」
翠「おう。なんだ?」
一刀「俺を...殺したいか?」
翠「...なんだ、そんなことか。」
背を向けたままの翠。しんみりとした空気が二人の間に流れる。月たちが生きているかもしれないということは伝えたものの、連合軍に参加し馬超の部下たちの命を奪ったという事実は動かせない。直接西涼を滅ぼしたという曹操だけでなく、俺自身にも復讐心を持たれてもしょうがなかった。翠はやがて口を開いた。
翠「じゃあ逆に訊くけど、あたしが命とらせろって言ったら、アンタはあたしに命くれんのかい?」
...
一刀「それはできないな。俺にはまだやらなきゃいけないことがある。でもそういうのが全部終わって、それでも翠が俺の命欲しいってんなら...すっごく死にたくないけど、受け入れられるかもしれないな。」
その答えを聞いた翠は振り向き、真剣な表情で俺の目を真っ直ぐ見据える。
翠「そういうことならあたしの答えは決まってるよ。少なくとも、曹操の野郎をぶっ飛ばすまで、あたしにはアンタをどうこうする気はない。その後は、どうかわからないけどな。」
一刀「...そっか。」
中身は違う人物と言っても、仕方ないわかっていても、翠に殺したいと思われていることは正直かなりショックだった。
だが一気に暗くなった俺の様子を見た翠は慌てたように付け加える。
翠「でででも、べべ別にご主人様に恨みがあるかって言われると正直よくわからないんだ。...なんていうかさ、ご主人様といると理由はわからないけどなんだか安心するっていうか...だからそんなに気を落とさないでくれよ。」
必死になだめようとしてくれる翠の可愛さに一刀は俯いたままひとつ思いついてしまう。
一刀「...そうか!だったら翠を俺に惚れさせればいいんだっ!」
翠「...」
はじめはきょとんとしていた翠であったが、
翠「はぁぁぁぁぁ!?」
そして顔を上げ体を寄せ、翠の両手をとる。
一刀「翠...実は俺、汜水関で見た時から翠に一目惚れしてしまっていたんだ。俺と結婚してくれっ!」
翠「けけけ結婚!?ばば馬鹿!何言ってんだよっ!?」
一刀「紫燕たちのことを知っていたのも、翠が俺といると安心するのも...実は前世からの絆で、俺たちは深く結ばれているからなんだっ!」
デーン!
翠「☆□△○☓!?」
まあ、あながち間違いでもないと思う。翠は意味不明な言葉を発したままアワアワしてしまっている。
一刀「照れると可愛いところも大好きだ。だから俺と...」
翠「かわっ!?...うぅ、う、うあーーーっ!」
ダダダダダ!
翠は恥ずかしさの限界が来たのか、奇声をあげながら走り去っていってしまった。
一刀「行っちゃったか...」
その姿は一刀にとって懐かしいものであった。
一刀「またよろしくな、翠。」
○祭
祭「こ、こらおまえら!」
女の子A「黄蓋さま~。」
男の子A「黄蓋さまー!」
街に警邏に出たのはいいものの、いつものごとく子どもにまとわりつかれる祭。なんやかんやで北郷軍の将は町人たちとかなり仲が良かったりする。それはもちろん街の再建から一緒であった一刀や愛紗たちだけでなく、後から参加した者達も例外ではない。それぞれ仲のいい層は違ったりするのだが、中でも祭は子どもたちと仲が良かった。だが本人はというと子どもに周囲を取り囲まれるというのは苦手だ。どうしたのかと四苦八苦していると、
華雄「こ、こら、寄るなと言っているだろうっ!」
女の子B「だ、だめなの...?」
華雄「!?ええい泣くな!すまなかった、寄っても構わん、この通りだから泣くのだけはよしてくれ!」
女の子B「やたー。」
華雄「ぐぬぬ...」
こちらも子どもたちに懐かれて困っている人物が前方からやってきた。お互いの醜態を見た二人は、
祭・華雄「なんじゃそれは!(なんだそれは!)はははっ!」
滑稽な姿はお互い様。それでも二人は笑わざるを得なかった。
祭「苦戦しておるようじゃのう。子どもの一人もあやせぬようでは部隊の兵どもを率いることなど到底できぬぞ?」
華雄「それはそっくりそのまま返させてもらおう。黄蓋こそ、関羽は元より子どもまで苦手とは、武官として弱みが多すぎるのではないか?」
祭「それとこれとは話が別じゃ!」
同レベルにして低レベルの張り合いを始める二人。そんな二人を見た子どもたちの一人が言う。
男の子B「黄蓋様と華雄様ってどっちが強いんだ?」
女の子C「華雄様に決まってるわよ!」
男の子A「ばっかだな、黄蓋様の方が強いに決まってるだろ!」
男の子C「華雄様だろっ!」
二人とは関係のないところでも争いが始まる。そして、
男の子C「華雄様の方が強いですよね?」
女の子D「黄蓋様ですよね?」
その争いが二人にも飛び火する。そしてその問いに、二人はこれまたお互いに自信満々に答える。
華雄「当然、私に決まっているだろう。」
祭「儂に決まっておろう。」
華雄「む?」
祭「むむむ。」
華雄「何がむむむだ!」
祭「お主こそ、分というものをわきまえておらんようじゃな。」
一触即発。そんな空気が流れたところで、
一刀「なにやってんだ?」
子どもたちに取り囲まれて睨み合っている二人のところに、一刀がお付きの兵士を伴って現れた。
女の子「あ、御遣い様だっこー。」
一刀「はいはいっと。で、二人はどうしたのかな?」
男の子C「華雄様が黄蓋様をけちょんけちょんにしてやるんだ!」
男の子A「違うだろ、黄蓋様が華雄様をぼっこぼこにするんだ!」
一刀「それは穏やかじゃないなぁ。」
まあ子どもが回りにいるということはそこまで深刻な話ではないだろう。子どもが近くにいる以上本気で暴れる気はないはずだ。...だよな?
兵士「北郷様、さすがに将軍二人がこのような往来で諍いを起こしているのは問題があるかと...」
一刀「そうだよなぁ...ちょっとちょっと二人とも。」
華雄「北郷か、お前からもこいつに言ってやってくれ!」
祭「何を言っとる。華雄より儂の方が頼りになるじゃろう?のう?」
一刀「わかったわかった。とりあえず安全な方法で決着つけよう。な?」
華雄「北郷がそう言うなら...従おう。」
祭「む...こやつ、だんだん儂らをあしらうのに慣れてきよったな。」
一刀「それじゃ...」
近くの飯店に駆け込んだ。
店主「さあ張った張った!華雄将軍と黄蓋将軍が腕相撲で勝負だよ!」
男性A「華雄将軍に2枚だ!」
男性B「黄蓋将軍5枚くれ!」
一刀「...」
どうしてこうなった。俺はちょっと店の一角を貸してくれるよう頼んだだけなのに。しかも子どもたちのいる前で賭け事するなよ...
兵士「北郷様...」
そんな目で俺を見ないで!飯店の前に群がる人の山。ここまでことが大きくなるともう収集がつかない。一方で当の本人たちは一等張り切っている様子だ。
黄蓋「さあ、決着をつけようでないか。」
華雄「おう。北郷、立ち合いを頼むぞ。」
一刀「うん...」
諦めて椅子に座って向かい合う二人が組んだ拳に手を置く。周囲からは野次が飛び交うが、大人も子どもも一緒になっているのがなんか不思議だ。
男の子A「黄蓋様頑張れーっ!」
おっさん「華雄の姐さん気張ってってくだせえ!」
祭「そういえば北郷。」
一刀「ん?」
祭「今夜は旨い酒が飲めそうじゃ。付き合ってくれるな?」
華雄「既に勝った気でいると、後で恥をかくことになるぞ。」
祭「ほう。ならばあれからどれほど成長したのか見せてもらおうか。」
華雄「!」
何か含みをもたせた祭の物言いが華雄の触れてはならない部分に触れたのか、華雄は怒りをかみ殺しているようだった。
一刀「大丈夫か?祭もいくら勝負に勝ちたいからって華雄を煽るなよ。」
祭「すまんな。それでは始めるか。」
華雄「...ああ。」
一刀「それじゃ、れでぃ...じゃなかった。はっけよーい、」
皆の注目が一点に集まり、一瞬の静寂が生まれる。
一刀「のこったっ!」
祭「かーっ!やっぱ勝利の後の酒はうっまいのう。ほら、お主ももっと飲まんか。」
一刀「お、おう...」
杯をぐいっと傾けて気持ちのよい笑みを浮かべる祭。勝負の結果はというと祭の勝利で終わった。華雄は負けてすこぶる悔しそうだったが、終わった後に話を聞いてみると修行にさらなる気合が入ったらしい。変なわだかまりができなくて幸いではあるのだが、修行に気合が入りすぎて怪我でもしないか心配だ。
そんなこんなで取り残された祭と俺は、当然のごとく兵から報告を受けた愛紗にこってり絞られてようやく開放されたのであった。だが、開放されてすぐ部屋に連れ込まれて酌させられていることから考えるに、祭は全く反省していない。
祭「ほら、杯が開いてしまったぞ。」
一刀「はいはい...」
内心部屋の前を通りかかった愛紗が騒いでいるのを聞きつけ踏み込んできやしないかとヒヤヒヤしているのだが、そんなことはこの御仁にはとんと関係がないらしい。
一刀「ところでさ。」
祭「なんじゃ。」
一刀「華雄と前になんかあったの?」
一瞬溜めがあったのだが、
祭「いや、儂とは何もなかったぞ。ただ奴の昔の恥ずかし~い過去を知っておったというだけじゃ。まあ人の過去など自分から他人に言うことではない。どうしても気になるなら奴に直接訊け。しかし、」
一刀「ん?」
祭「よくよくお前も気の細かいやつじゃな。正直、気配りに限らずお主の手慣れた感じはお主の見た目より年老いて感じられるぞ。」
一刀「(!)」
もしや祭気づいて...
祭「まあ、これまでに色々あったのじゃろ。お主も気苦労が耐えんな。」
一刀「祭ももうちょっと大人しくしてくれると助かるんだけど...」
祭「それはできん相談じゃな。はっはっは!」
大笑いしながら酒を呷る祭にホッとしちょっとため息。
一刀「まあ一応皆のまとめ役ってことにはなってるし...仲間同士がうまくやれるよう気を回すのも主君の仕事ってもんだろ。」
祭「うむ。それだけ出来れば及第点じゃな。あとはもっと儂のオンナを感じさせるような男振りをだな...」
一刀「ほら、飲んで飲んで!」
何か前に感じたことのあるような危険な香りを感じて、一刀は酒を用いてそれを回避したのであった。
-あとがき-
れっど「そういえば翠さんは結構イケるクチなんでしたっけ?」
翠「おう。まあそこそこだな。」
祭「おお、それはよい。今度儂らで飲むから付き合え。」
翠「いいぜ。他には誰が来るんだ?」
祭「いつもおるやつらじゃから、霞と星と儂。そしてお主じゃな。お主も来るか?」
れっど「全力でお断りさせていただきます。」
翠「(なんかあったのか?)」
れっど「(ガクガクブルブルガクガクブルブル...)」
翠「だめだこりゃ。」
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恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第31話拠点の2つ目になります。 この作品は恋姫†無双の二次創作です。 設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。
暦の上ではすっかり秋...のはずなんですがこの暑さは...
体調管理にはお気をつけてくださいまし。
それではよろしくお願いします。