No.598827

超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編

さん

その6

2013-07-18 00:09:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:613   閲覧ユーザー数:594

 

「あははははっは!!」

 

目の前のナイアーラトホテップは哄笑を響かせた。

びくっ、と離れていた子供や親が肩を揺らせてこちらに視線を向けた。

僕の手には、煉獄を生み出す聖魔剣『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』が握られていて、その刃は首元に振れる直前で停止されている。少し力を入れて掃えば、ナイアーラトホテップの首から上は宙に飛ぶことになる。

一見すれば僕が殺人鬼で今まさに、首を刈らんとしているように見えるだろう。しかしナイアーラトホテップは愉快そうに笑い、目を細めた。

 

「それは、あなたが一番理解していると思っていましたが?」

 

「…………ッ」

 

精神を逆撫すような口調に眉を細めた。

 

「私達、邪神の願いはいつだって変わることはありませーん。『現実』を塵一つ残さず、許さず、滅ぼすのが王の望み、欲望、悲願!!その為に彼にはどうしても『夢』から目覚めてもらう必要があるのですよ!今は、全く使えない塵芥ですが、素質だけは最上級。それだけで十分!それだけで満点!あれを媒体に種子を芽生えさーーー

 

鮮血が舞った。耳が悲鳴を拾う。

ことっ、と効果音が聞こえ、笑顔のままナイアーラトホテップの顔は地面に転がった。

 

「……うるさい」

 

小さく呟いた。

動かされた(・・・・・)右手を抑えながらベンチから立ち上がる。

噴水のように沸きだす逸水の血は、容赦なく純白のコートを赤黒く染めていった。

 

「……こんな白昼にごめんね」

 

呆然と何か起こったのか理解できていない子供はその無垢な瞳を真っ直ぐこちらに向けていた。

僕の声が聞こえていたのかは、分からない。ただ、子供たちの傍にいた親たちは一斉に自分の子供たちの抱きかかえ、悲鳴に近い声を上げながら僕を背に向けて離れていく。

 

「やれやれ、あなたも手が早い……いえ、彼ら(・・)と言うべきでしょうか?」

 

「…………」

 

右手に刻まれた証がチクリ、チクリと、痛み。

頭の中に淡々と命令が下される。殺せと百重に千重に積み重ねてくる。

その声は痛みだった。全身の神経に刺激を与え、流れる血流を強制的に活発化される、更に思考がピースのように別の物に組み込まれる。

呆れた様に嘆息を吐いた、頭だけになったナイアーラトホテップは何事もなかったよにぐるりと切断部分から触手を生やして、体制を整えて僕を見下ろしてきた。

 

「コントロールには練度足りず、経験も足りず、なにより人間的に甘く優しすぎる君……しかし、力だけなら私とほぼ同等の力を持つあなたが、捨て駒の立ち位置はあまりに不受理だ」

 

「なにそれ…、嫌味なの?」

 

「いえいえ、むしろ圧巻すべきですよ。あなたは旧神(・・)の虚しく動かされる操り人形、死ぬことも許されなく都合のいい時に消費される小道具、現実を知る者、あなたよくそれで正常で居られますね?」

 

「…正常……?はは、違うよ。そういう風に動かされているだけ…僕は」

 

瞳をゆっくりと閉じる。

紅夜と出会う前のもっと昔、まだゲイムギョウ界という世界そのものが生まれて、人々の希望から生まれた初の女神と出会って過ごした掛け替えのない想いでという宝物。

そして気づかされた、再認識された、あまりに愚かで、あまりに悲惨で、あまりに救いようがない人々の負の連鎖に

 

 

「分身体ではあったけど……君たちの王を殺した時点でーーー僕も死んだんだよ」

 

生きる希望も、存在する理由も、全てを奪われて絶望して。

悔やんで、悲しくて、涙を流せても、復讐することが出来ない現実に笑って。

ただ、愚かに。

ただ、悲惨に。

ただ、救いようのない行動で死んだんだよ。紅夜と出会うまでの間。夜天 空は確実に死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こーぅーちーゃーんーー!!!」

 

街の周囲に出現したモンスター討伐を終わらせた時、背中に衝撃が走った。

昼に食べた物が思わず逆流されるほどの衝撃を堪えながら無言で後ろを向き笑顔の彼女の頭部に拳を叩き込んだ。

 

「いったーい!?」

 

「いきなり何するんだネプテューヌ」

 

外側に跳ねた薄い紫の髪、ゲームの十字キーの形をした特徴的な髪留めを二つを付けたネプテューヌは頭を抑えた。

それを見て苦笑するのは手が見えないほど大きめのコート姿のアイエフと微笑む癖のあるクリーム色の髪色をしたコンパだった。

彼女達はラステイションで協力し合った仲間、たしか鍵の欠片とかいうアイテムを探すために旅をしている。

 

「ただのコミュニケーションじゃん!それにこんな美少女に抱きつけられるのにそんな反応だと、これから画面の向こう側のひとに勘違いされるよ!」

 

「へー、美少女か……どこにいるんだ?」

 

ワザとらしく陽射しを隠すように手を顔に付けて左右を見渡す。

 

「ムッキー!こぅちゃんーー!!」

 

襲い掛かってくるネプテューヌのお凸に手に置けばあら不思議、リーチ差でネプテューヌの手は俺には届かない。

そして俺は視線をアイエフの方に移す。

 

「久しぶりね、紅夜」

 

「お久しぶりです。こぅさん」

 

「あぁ、ちょっと久しぶりだな。ここに来たってことは鍵の欠片を見つけたのか?」

 

「えぇ、守り手のモンスターもいたけど大したこと無かったわよ」

 

「ねぷねぷがいれば常に無双状態です!」

 

横目に視線をずらせば、手を風車のように回して怒っているネプテューヌが映った。

 

 

ーーーはぁ……、そうよあいつがプラネテューヌの女神、ネプテューヌよ。

 

 

昨日、テレビ電話で話したノワールの言葉が思い浮かぶ。

元気に明るく、どこにでもありそうだけどそれが、彼女だけの魅力。

こう見ると思わずこっちも誘われるように元気になる不思議なカリスマ性がある。……しかし、まさか女神だとは考えれなかった。

 

「世の中、本当に分かんないことだらけだな」

 

「ん?どうしたの紅夜」

 

「いや、……なんでもない」

 

頭を振るう。今はそんなことを考えず再会できたことを素直に喜ぼう。

ネプテューヌは諦めたのか不機嫌な顔で腕を振り回すのをやめたので、ネプテューヌから手を離して、彼女たちを招待するように体を横にして手を広げる。

 

澄み切った青空。温かく降り注ぐ陽光。風と共に踊る草原。

目を凝らせば見える、俺が住んでいて、この大陸を守護する女神グリーンハートがいる街に手を向けて口を開ける。

 

 

「ようこそ、ーーー雄大なる緑の大地リーンボックスへ」

 

その時、俺達は能天気にこれから起きる事件なんて想像もしていなかったーーー。

 

 

 

 

 

 

 

見上げる。人の血をぶちまけたような赤黒い空を。

見下ろす。暗黒から見える幾多の餓えた赤い瞳を。

 

「ふぅ……この頃、モンスターの量は増える一方だ」

 

空中に投影されるディスプレイに表示された棒グラフを見ながらため息を吐いた。

ナイアーラトホテップは、あれから僕の発言がとても気に食わないのかあっさりと退散した。

真に遺憾だが、今の僕には奴を滅ぼせるだけの力が出せない状態なので、ただ僕はつまらなく顔を歪めたナイアーラトホテップの体が消えるのを見届けることしか出来なった。

もし、あいつが戦う気ならどう考えたって最低でも大陸の一つや二つは消し飛ぶのは目に見えているので実はちょっと安心している。

それより問題はこの頃、負の増量が一方的なことだ。

 

「特にプラネテューヌとラステイションが酷いんだよねー」

 

そうぼやきながら僕は、別のディスプレイで四大陸のシェアを円グラフで表示させる。

今の所は、リーンボックスとルウィーがいい線行っている。

プラネテューヌは女神不在と教祖不在で経済的にもモンスターによる被害的にもボロボロ……まぁ、最低ラインは守るけど、ラステイションはアヴニールによる事件で女神の不信感が多少なりも上がってしまいそれが原因でモンスターの戦力が増えた。

冥獄界の役目であるゲイムギョウ界に向けてのモンスター配給も今はかなり限定している。

中世を感じられる城のバルコニーから見えるのはモンスターの共食い大合戦。肉体がなく穢れた魂だけがぶつかり合うここでは、死の概念はない。存分に八つ裂きにされても、一日あれば完全に修復される。

 

 

永遠の憂さ晴らし、人の負が奏でる夜想曲(ノクターン)

憎しみは怨みにーーー肉の引き裂く音、潰される音。

悲しみは怒りにーーー獣の咆哮は、虚しい勝利の奏。

苦しみは妬みにーーー肉片となった敗者は明日の絶望を弾く。

 

 

 

「………今日も頑張って、管理しますか」

 

 

ざっと、一億(・・)は蠢いているモンスターを見下ろしながら僕は、プラネテューヌの書類を片付けることにした。

 

 

 

 

 

 


 
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