すんなり書けると思いきや、意外に難産でした。
「なんだこれ」
「おいしそう……」
「一刀、貴方本当に幾ら使ったんです」
拳を振るった汗を流してサッパリした凪、温泉で泳いできた恋、早々にあがってマッサージ機で『あ゛-----』と癒されていた稟の三名が部屋に戻ると、八人部屋の広さの和室ですらキッチキチになるぐらいに大きな御膳が敷き詰められていた。
一刀と霞はマッサージ機を粉砕しそうになった稟の尻拭いをしに、支配人に頭を下げに行っていたのでお風呂は無し。同行した華琳様マジ偉大。
ちなみに桃香は未だ別室で唸っていたのだが、帰ってきた霞に肩を担がれて室内風呂に放りこまれて復活した。
年頃の乙女の入浴時間が五分ってどうなの。
「こまけぇこたぁいいんだよ」
「一刀バイト頑張ったもんねー」
「食べよーぜー」
一刀の一声で浴衣に着替えた姉’s+華琳ちゃんはそれぞれ用意された膳の前に陣取る。
一刀の隣争いで一悶着ありそうな面々なのだが、長女権限は強いのだ。
ちゃっかり用意されているビールの栓をしゅぽっと抜いて、霞に稟にと注ぐ一刀。
それを受けて華琳も凪や恋にビールを注いでいく。凪はいや私は……と遠慮していたのだが、まぁまぁと華琳に押し切られた。
「えー……んじゃ乾杯なんだけど、その前に……えー……」
一刀だけはウーロン茶を持ったのだが、どうにも歯切れの悪い弟の姿に姉一同は首を傾げる。
唯一事情を知っている華琳だけは内心爆笑しているのだが、間違っても表には出さない。だって淑女だもの。
あーとかうーとか唸っている一刀だったが、唇を噛み締めて気合を入れると持っていたウーロン茶を膳の隙間にトンと置く。
「……色々あったけど、俺はねーちゃん達の弟になれて良かったです。今までありがとう。これからも宜しく」
一滴も飲んでないのに顔を真っ赤にして、俯いて何とか言い切った一刀に、おねえちゃん達は互いに目配せをして頷く。
唯一部外者の華琳は必死で気配を押し殺し、邪魔にならないように行く末を見守る。
「一刀!」
「はい!」
「胸張りぃ!!」
隣に座った霞に背中をバチン!と叩かれて、慌てて顔を上げて前を向く。
「ほれ、かんぱーい言わな、何時までたっても飲めへんやんけ!」
「か、かんぱーい!」
「「「「「「かんぱーい!!!」」」」」」
結論からいうと、皆弟の心遣いに感極まっていたのだ。
華琳も皆の和気藹々とした食事風景に『イイハナシダナー』とほっこりしてたので、見落としていたのだ。
料理とお酒の事を旅館の人に聞かれた時に『笊の飲兵衛が五体揃っています』と報告していたのを。
加えて言うなら、まさか畳に布団という日本旅館で、まさかウイスキーが出るとは思わないじゃないですかーやだー。
一刀も飲め!と注がれたウーロン茶がウイスキーで、勧めた霞は酒はかなり強いけどもう弟の心意気に酔っていて、おねーちゃん達もノリノリで飲ませちゃったの。
「……」
ごくん。と一刀の喉元を液体が通って、徐々に下がってぴたり。と止まる瞼にまず反応したのは華琳だった。
「ちょっとすいません!!」
なんだなんだ?と突如立ち上がった華琳を見守るしかない皆だったが、貸して!と一刀が握っているグラスをぶん取ると鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぐ。
「うえぇぇ……ちょっと一刀、飲んじゃったの?」
「あー……眠い……熱い……」
「どうしたんです?」
「これ……今一刀が飲んだの、ウイスキー……」
その瞬間、全員の顔色がサーッと青く変わった。
「んー……んー?」
アカン!と霞が一刀の前にある膳をぬぉりゃあ!と持ち上げて、桃香と凪がそれぞれ膳を滑らせて隅に押し出す。
霞の進路を確保する為に恋が邪魔な膳を持ち上げて、稟はそれを横目で見ながら眼鏡をそっと外した。
「華琳。貴女は隣の部屋に行って、布団をこちらに持ってきて下さい。一つは向こうに敷くように」
「り、稟さん、は?」
華琳の問いかけに稟は柔らかく微笑むと、四つんばいで一刀の前に進み出る。
彼女の決意を無駄にしてはならない。華琳は零れる涙を拭う事もせずに、形見の眼鏡を胸に抱いて隣室へ飛び込む。
人の押し倒される音がした。
稟を除いた五人は、稟と一刀を決して見ないようにしながら、隅においやった膳をえっさ!ほいさ!と持ち運んで隣室で二次会を始めた。
時折艶声が響くのを除けば、まぁいい環境だった。
「あの……霞さん、いいんですか、一刀……」 『んー……やーらかい』
「電源切れるまで待つしかないわ……恋、お前あんま食べすぎんなや」 『か、一刀、ちょっと、ダメ…』
「御飯、美味しい……」 『うるせぇなぁ……ちょっと黙れ』
「まだ初日やろ。明日があるやん」 『んーっ?! ちょ!待って下さい!!駄目!駄目です一刀そこは……【見せられないよ!!】』
「霞姉様、二番手は誰が逝きますか?」『稟おねーちゃん、ブラ邪魔ー』
全員が隣の部屋から聞こえてくる会話にうわぁ……と思いながら、ちびちびと食べたり飲んだりしながら、ただ只管暴君が大人しくなる事を願う。
「桃香、次お前逝き」
「ちょっと待て!なんでアタシなんだよ!」
「お前今日一日寝てたから体力余ってるやろ」
「体力馬鹿の恋ちゃんに凪ちゃんも居るじゃねーか!」
「今の一刀、怖い……」
恋が桃香の背後に回り、自分の腰に巻いていた帯を解いて後ろ手にギュッと縛る。
「桃香、逝ってこい」
凪が桃香の口にタオルで猿轡を噛ませ、一刀の注意が此方の部屋に向かない様にする。
「んーっ!!んんーーーーっ!!」
霞は隣室に通じる襖に耳を当て、姉妹のチームワークに若干引いている華琳を手招き。
呼ばれた華琳はアタシ?!と驚きながらも素直に霞の傍に、音を立てずに駆け寄った。
「な、なんですか?」
「ええか、いっせーのせでいくで。 ウチが襖開いたら、分かってるな?」
「桃香、すまん」「桃香ならだいじょうぶ」
「うぉまうぇわうぉもえへわわうえぇ!!(お前ら覚えてがやれ!!)」
「華琳、お前は稟の足か腕掴め。反対をウチが掴んで救助する」
「ら、らじゃー!」
一際大きい稟の声が響いて、静かになる。
「いっせーのー……せっ!!」
「GO!!GO!!GO!!GO!!」
「ムーブ!!ムーーーーーーゥブ!!!」
「んーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
準備しておいた布団に、酷い有様になっている稟を寝かせると四人は酒盛りを再開する。
隣部屋の会話は聞こえない。聞こえないったら聞こえない!!あーあーきこえなーい!!
「それにしても、一刀がこんな事してくれるなんて、姉冥利につきますね」
「一刀、良い子(*´ω`*)」
「前からバイト頑張ってましたからねー」
「あれだけ働いてたんはコレが狙いやったんかいな……自分の事につこたらええのに」
霞の言葉にちょっぴりしんみりしてしまう四人。沈黙はいけない。
『あーーー、とーかの乳やーらかいなー』『んーーーっ!!』
「……お姉さん達がしてくれた事俺もやるんだ!って言ってましたよ?」
「アホやなぁアイツ。 気にせんでもええのに」
「一刀は優しい子ですから。 私、ちょっと泣きそうになりました」
「良い子(*´ω`*)」
『ちっ……お前なんで服着てんだよ、ざけんなこの』
((((うっわぁ……))))
「ウイスキーでこうなるんは、初めてかもわからんな」
「何時もは、日本酒ですもんね」
「酔った一刀は怖い……」
「あ、あのー……ちょっち気になってる事があるんですけど、いいですかね?」
全員で隣の部屋に背をむけつつ、片手にビール、片手におつまみを持ちながら華琳が長い間気になっていた事を訪ねる。
「一刀、お酒にはひっっじょーーーに弱いですけど、でも二日酔いとかならないですよね?」
「あー……そういえば何飲んでも翌日はケロッとしてますね」
「でも、お酒好きじゃない」
「んー、二日酔いにはならん体質なんやろなぁ。難儀なやっちゃ」
「缶チューハイとかだと直ぐに寝ちゃいますよね?」
「弱い酒は直ぐに潰れて、強い酒は―――」
『とーかー? あれー? とーかーーー?』
「――――あぁなるし。 次は恋や。逝ってこい」
「凪逝け」
「酩酊した一刀は乳を好みますし、このまま桃香で良いんじゃないですか」
「このままやったら桃香壊れんで? どっちでもええわ。逝け」
「霞姉様逝けばいいじゃないですか」「凪に同じ」
「ウチ逝って一刀潰れんかったら後どないすんねん。今は華琳居るねんぞ」
「あの……アタシ、逝きましょうか?」
別に初めてじゃないし。とは流石に口には出さない学習した華琳。
しかし霞以下三人の姉達は身内の不祥事の尻拭いを他人にさせる事を良しとしない(キリッ
「凪、恋。じゃんけんしぃ」
「三回勝負」
「じゃーんけーん……死ねっ!!」
振りかぶった凪のグーを恋が平手で握りこみ、恋が一勝。
そのままチョークスリーパーに移って二勝。
「ぎぶ?」
「ノーッ!!」
「オーライオーライ、おーぷせさみっ!」
「どっせいっ!」
地獄車で襖に向かってぶん投げられ、霞と華琳が素早く襖を開いてダイナミック入室は完了した。
桃香のそこかしこを触っている腕を華琳が何とか御し凪に向けさせ、霞と恋が桃香を回収。
急いで避難所に帰ってきた三人は、一度だけ後ろを振り返る。
「んー……?あれ、桃香が凪ねぇに変身してる……」
「か、一刀、お、おねがい、優しくして……」
「んー……んーーーーー……」
「一刀?だいじょ「うるせぇ」
凪の口を左手で封じて、右手を浴衣の内側に潜り込ませた所で、三人は見るのをやめた。
「そういや華琳、ココもお前の伝手か?」
「いえいえ、此処は冥琳の噛んでる物件ですよ。 えっと、ご存知、ですよね?」
「おっぱいめがね」
「大体合ってる」
「帰ったら礼ゆーとかなあかんな」
桃香に噛ませていた猿轡を解き、縛っていた腕を開放するも桃香が起き上がる事は無かった。
これはこれで本人幸せなんじゃね?と判断を下されたので、とりあえず二枚目の布団に放りこんで、三人は酒盛りを続ける。
廊下にある冷蔵庫まで、この部屋からでも行けて良かった。本当に良かった。
「無とはいったい……うごごごご」
「稟起きたか」
「ええ何とか……私の眼鏡、ご存知ないですか」
傷は浅かったのか、稟が復帰して酒盛り会場まで這いずってきた。
あ、それならここに。と華琳が退避させていた眼鏡を渡すと、スチャッと装着してよ!と両腕で身体を持ち上げて正座する。
「なんや、もう一回ぐらい逝けそうやん」
「今度こそ死にますよ、私」
「冗談や。 流石に一刀もそろそろ電池切れるやろ……多分」
「明日は凪さんと桃香さん、動けないんじゃないですか?」
「凪は一刀次第やろなぁ……桃香は多分普通に復活すんで」
うそ……と華琳が桃香に視線を送ると、もうなんか凄い事になっていた。なにかブツブツ漏らしているが、聞き取れないし聞き取り無くない。
「あ、それで冥琳なんですけど、良かったらお酒付き合ってあげて下さい。彼女アレでウワバミなんで」
「ごっつ高い酒飲めそうやんけ」
「この状況で良くお酒に喜べますね、霞姉さん」
「霞は基本馬鹿」
「あ、ちょっと恋それ一口」
恋がむしゃむしゃと食べているイカの刺身を要求する稟に、稟の口にぽーいと一切れ放り込む恋。
餌付けの図だが、逆じゃないのかなーと華琳は思いながら、昼間に売店で仕入れてきたチーカマを齧ってビールを飲む。
「お前かて嫌いやないやろが、恋」
「恋は御飯の方が良い」
「そう言えば恋は全然酔いませんね。強いとかそういう次元を超越したレベルで」
「頭はふわふわする」
「姉妹の中でいっちばんお酒強いのって誰なんですか?」
華琳の問い掛けに、霞と稟は同じタイミングで恋を指差し、恋は桃香を指さした。
「……え、あれ? 霞さんじゃないんですか?」
「ウチは稟とどっこいどっこいやで」
「私を同じレベルにしないで下さい」
「恋より桃香の方が強い。でも酒癖も一番悪い」
「そうなんですか? えーでも、霞さんは潰れてる所見たことないですよ私」
「恋はどんだけ飲んでも顔色も態度も変わらん。 桃香は酔っ払いはするけど、その分だけ飲む量が増えてしかも二日酔いせーへんねん」
「結果的に酒量が多くなるのが桃香ですね。恋は飲んでも酔わないですが、量的にはそこまで飲む訳じゃありませんから」
「稟はまぁ普通か。 お前限界ってどれぐらいなん?」
「試した訳ではないですけど、二斗ぐらいですかね」
いやそれは化け物の分類に入ると思います。と華琳は内心で呟く。
というか、それで最下位とかどんな化け物揃いなんだ、いや化け物なのは分かっちゃいたが。
「順番付けるんやったら桃香≧恋>>凪>>>ウチ=稟か?」
「霞姉さんと私の間に越えられない壁を付け足しといて下さい」
「え、凪さんそんなに強いんですか?」
「アイツは樽酒一人で空けるからなぁ。 ほれ、よーやってるやろ、木槌で割るアレ」
「はぁ……皆さんお強いって事は良く分かりました……」
呆けてしまった華琳が黙ると、会話が途切れてしまう。
しかし、待っていたのは静寂だけで、隣室からの会話が聞こえなくなっていた。具体的には一刀の声が。
「……ん? 落ちたか?」
「かもしれませんね。恋、ちょっと見てきなさい」
「稟行け」
「良いんですか?私が立ち上がって、歩いていいんですか?大変な事になりますよ?この部屋だけ爆発しますよ?」
「分かった分かった。ウチが見てくる」
よいしょ。と立ち上がった霞に続いて、何となく華琳も立ち上がって襖をソーッと開いて部屋を見ると、凪に覆いかぶさった一刀の姿が見える。
(どう思います?)
(…あれは電池切れてんな)
(マジっすか? よく分かりますね?)
(一刀があないなったら絶対止まらんもん)
霞の言葉を信じて二人は部屋へ乗り込んで、一刀の肩をポンポン。と叩いてみる。
しかし反応は無く、霞が身体を起こしてみると、すかーと寝息を立てていた。
「恋、大丈夫や、もう寝てるわ」
「ほんと?」
「布団持ってきー。 一刀はもうこっちで寝かすさかい」
「あの、凪さん、どうします?」
「うわぁ……」
うつ伏せのまま反応が無い凪を転がして仰向けにすると、桃香と同じぐらい酷い事になっていた。年頃の乙女失格である。
「どう、します?」
「ウチらはなんにも見んかった」
「ひでぇ」
「とりあえず運ぶか」
こうして一刀暴走事件はあっさり幕を閉じた。
一人だけ別の部屋に寝るのは可哀想だ(*・ω・*)と恋がいそいそと一刀の布団に潜りこみ、起きた時まだ酒が残っていたので、ド深夜にまたエラい事になるのだが、それはまた別の話。
あとがき。
ガールズトーク回でした。
酒が完全に入った一刀は、別次元の愛紗と思春の理想の姿です(キリッ
お礼返信
月光鳥~ティマイ~様 俺だって本当はシリアスなかっちょいい話書きたいんだよ……
ちきゅさん様 こっちが本当の姿なんですよ。今回とかのノリは無理して書いているんですよ。本当なんですよ。
dorie様 書きましたー。いやー苦手なコメディ書くのマジ辛いわー
R田中一郎様 雪刀は夢でしょっちゅうおばあちゃんとお父さんに会ってます。あっちは子沢山。
happy envrem様 いやー私が本当はシリアス得意なのバレちゃったなー。コメディ苦手なのバレちゃったなー。
ゴーストチャイルド様 男前チート入ってますので。
よしお。様 四十路ぐらいですかね?祭さんの美貌なら十分にストライクゾーンです。
悠なるかな様 とうとうバレてしまったか……本当は何時もの馬鹿馬鹿しいノリは苦手なんだ(キリッ
SRX-001様 実はそういう毛色の得意なんですよ(キリッ
HIRO様 そりゃぁもう“とら”の最後の笑顔ばりに、いかした笑顔で逝きますよ。
観珪様 細かい設定だと、そこで雪蓮につわりがきて、魏軍はギリギリ逃げ延びる事になります。赤壁を通ってるのはそういう事です。
Alice.Magic様 感想感謝です(>Д<)ゞ 後者の話だと死んでからも色々出てくるんですけどねw
MiTi様 揚げパンを考えた人は天才だと思います。色んな意味でw
ヴィヴィオ様 半挿し伝はなんかもう凄い事になってます。勝手に指が動くw
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途中で終わってた温泉回の続きです