「…斗詩、もういいよ?」
「ふぁい?」
彼女の黒髪を撫でながら声を掛けると、きらきらとした瞳と唇を上げて不思議そうに答えた。
「こっち来て、一緒に寝よう」
「あ、いいんですよ一刀さんはこのまま眠くなったら寝ちゃって下さい。全部その、困らないようにしておきますから」
「…いや、一緒に寝ようよ」
「?はい」
三度目のお願いに漸く顔を離し、水を一口含むと口元を拭って隣に添い寝する彼女。
「腕、いいですか?」
「ああうん、でも寝にくくない?」
「そんなことないですよ。あでも、痺れそうだったら言って下さいね」
「うん」
そう言うと腕を枕に、こちらを向いて一度細めた瞳がまた開く。
「…あんまりよくありませんでした?」
「えぇー!とんでもない、冗談やめてよ」
「そうならいいんですけど…」
真顔で突然何を言い出すのか。というか、なんでまた。
「いえその…一刀さんならもっとかなーって」
「いや十分堪能させてもらったし、それにその…あんまりこう、至れり尽くせりしてもらっちゃ悪くて。あ、もし斗詩がもうちょっとってことなら、喜んでお相手する」
「あ、私はどっちでもいいんですけど、こうしてるのも好きですし」
「そう?」
斗詩はあんまり自己主張しないから、して欲しい事がありそうなら俺が気をつけてあげなきゃいけない。…それで却って負担になってもいけないんだけど。
「それに、私に悪いとか気にしなくていいですよ?好きでやってますから」
「そうは言われてもねぇ…」
「ほら、蜀の鄧芝さんだって聞いた話では」
「いや、彼女は特別過ぎるし」
最近、気になっている事を聞いてみる。
「斗詩はその…元々そうって程じゃなかったと思うんだけど、最近すごくその…いっぱいいろいろしてくれちゃってるじゃない?嬉しいし凄くいいんだけど、無理してくれちゃってないかなーって少し心配になって」
四人でしてた頃はまあ受け体質っていうか、経験量が違うってのもあるけどされる側だったのが、麗羽があっち方面に目覚めた頃位から物凄い御奉仕体質というか色々してくれてしまうようになったと思う。
こっちが止めないと口に始まり口に終わるし、風呂行きゃ全身洗われるし水は口移しで飲まされるし、麗羽と一緒の時は「ついでに私も縛っちゃいます?」とか真顔で言って幾らかかってるのか分からない道具一式用意するから頷くしかなかったり、年度が替わって書類整理手伝ってくれるって言うのでお願いしたら「スカート短めにしてみたんですけど、その…ちゃんと見えてます?」って聞かれるとか、もうどこのエロ専用メイドかと。
「ああ…えーと、そんな無理してるつもりは無いんですけど、まあ私自身変わっちゃったかなぁとはちょっと思ってます。一刀さんから見てもそう思います?」
「凄くそう思う。兎に角斗詩が辛くさえなければいいんだけど」
「私自身は別に辛くも何とも無いですよ。うーん…何ていうんでしょうね、ちょっと好みが変わってしまったと言いますか。…あの頃は、こういう時はわけも分からず『わーっ!?』ってなっちゃってたのがちょっと余裕が出てきたって言うか、うーん…麗羽様の影響かなぁ、好きな人が嬉しそうだったり気持ち良さそうだったりすると嬉しいなぁって強く思うようになりまして。気がついたらこう…もごもごとその、させてもらってたり。一刀さん疲れてるかなぁーと思ったらつい上になってみたり。一刀さんが鬱陶しいなあと思うようだったらやめようとは思ってるんですけど…お気に召しません?」
「とんでもない」
「きゃっ?」
いとおし過ぎて抱きしめた。勢い余って口付けた。舌を差し入れると瞳を閉じて柔らかくぬめるそれで応えてくれた。
「申し訳ない。有難う。愛されてて凄く嬉しい。あと愛してる」
「いえとんでもないです、私こそ。…って、さらっと凄い事言われましたよ?」
「さっきはあんなこと言ったけど、斗詩まだ大丈夫?」
「あ、はい、いいですよ?じゃあちょっと準備しますから」
「いやそんなの止めてくれ!…一応聞くけど斗詩、するのはいいけどされるのが嫌いって訳じゃないんだよね?」
「え、あ、はい」
「では今日は尽くさせて下さい斗詩御嬢様!」
「ええー?御嬢様って何です…あっ、あはっ、んっ…」
其処彼処に優しく指を這わせながら再び口内を舐め回すと、彼女の瞳と声がとろけていく。一度唇を離し、大好きだと囁くと私もです、と応えて背中に腕を回されるのが温かい。
この後はいっぱいされてもらうから。そう囁くと彼女はえぇ~?と照れ笑った。
それがあんまり可愛かったので、俺も笑って「されろ」と言うと、斗詩は恥ずかしそうにその髪を縦に揺らした。
(さらに事後)
「…そうだ、斗詩」
「んふ…なんですか?」
「俺は斗詩の事、優しいし可愛いし大好きなんだけど…斗詩の事を『優しいし真面目でいい娘なんだけど怖い』って聞くことがあってさ。なんか、誤解されるような事した覚えある?」
「はあ…?…ああ、麗羽様に『斗詩さんも真面目なのは結構ですけれど、特徴を持ちませんと埋没してしまいましてよ』って言われまして。たまーに悪戯を、そのちょっと、少しだけ」
「?悪戯って何してんの」
「ええー…えへへ、一刀さんには言えませんよぉ。…でも人づてに伝わるのもやだなぁ、どうしよっかなぁ」
「なら体に訊いてやるー」
「きゃー助けてーうふふっ、んむ…」
(この後こんなやりとりがあったかどうかはあなたの妄想力次第です)
「ふぅ………………いい子にしてましたか、審配さん?いま全部外してあげますから。私たちのを覗き見してて、興奮しました?…ふふっ、ここをこんなにしちゃってて聞くまでも無かったですか、でも審配さんにはお預けはむしろ御褒美ですもんね?前も聞きましたけどもう一回聞きましょうか、貴女は一刀さんの何ですか?…うふ、そうですよね、いいお返事ですよ。…はい、これで全部外れましたから。一刀さん寝てますけど、審配さんのお誘いの仕方次第ではまだお願い出来ると思いますよ。ああ、一刀さんが目を覚ますまで添い寝だけで更にお預けの方がお好みですか?まあ、お好きにされるといいんじゃないですか。では、お休みなさい。よい夜を」
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『その後』の、一刀さんと…さんです。