その男は変わらない。
週に一度でも訪れれば、それは頻繁といえるだろう。
その店に目を付けてから既に二年が経っている。切っ掛けは覚えていない。
紫煙を燻らせつつ、カウンターの端に座る男に目を向けた。
何故そこにいるのかは知らない。何時から居るのかも知らない。ただ、一度としてその男が訪れるのを目にしたことはない。私よりも早く店を出ることもなかった。
私よりも馴染みであることは確かだ。
頼む酒は変わらない。お互いにだ。
私はワイルドターキーを、その男はレモンハートを。好んでいるのかは不明だが。
「同じものをお願いします」
言葉は無く、ただグラスがカウンターの内側へと消える。
もう一度男を見る。やはり、彼も同じものを頼むのだろう。
店内の照明は極力自己主張をしない程度に、灰色のコートに燈の装飾を施している。やはり、着衣も変わらない。
いや、私も五年近く同じコートを着ている。愛着とはまた違うが、それなりに気に入っている。
益も無いことか。
新しく用意されたグラスに口を付ける。同じくして、彼もグラスを傾けていた。
体を巡る熱を感じながら、この二年間、ここで意識し続けてきた疑念を浮かべた。
やはり意味はない。
支払いを済ませ、変わり映えのない声を背中に受けながら店を出る。
今回もあの男より早かった。それだけのことだ。
ただ、やはり、常に我慢していることがある。
口に出して言いたいのだ。
貴方は何者かと。
男の身長は、私の目が誤作動を起こしていなければ4mを軽く超えていた。
一々酒を飲む度に、天井の窪みから首を外す光景はコミカルなのだ。
しかし、首から上が天井のさらに奥へと続いているなどと、初見で誰が考えるものか。
その店も、その男も、変わることはないのだろう。
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現実逃避