No.589518

詰め合わせ

kouさん

昔書いたものを一気に放出しました。読み返して思いましたが、僕はどうやら何も変わってないようです。変わらないこともまた1つの成長の形なのでしょうか?

2013-06-20 23:28:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:672   閲覧ユーザー数:667

 

僕らにとっての音楽とはなんであろうか?

 

恋愛と音楽が度々交差するのはナゼだろうか?

 

それはお互いが語り合うことを本質としているからだろう。

 

似たものは引き寄せ合い、自然と惹かれるのだろう。

 

互いに影響しえない「他者」は音楽でも恋でもない。

 

それはただの「音」という名の物理現象、波。

 

「恋や愛」を騙る、肉欲に他ならない。

 

 

6月12日、大阪府T市でOさん(17)の遺体が川の中で発見された。犯人である男子生徒Mの動機は、女生徒Kを困らせるOさんを許せず、彼女を助けるためにOさんの存在自体を消すしかないというものだった。

  最近、人々が人間らしさを失いつつある。殺人は確かに禁忌かもしれない。だが彼の行為は善なる嘘という言葉があるように、善なる殺人だと私は信じている。 大半の一般人よりも私は彼のような殺人鬼の方が私はよっぽど人間らしいと思えてならない。私は望む。あなたがアダム、そして私がイヴなんていう世界。それ が私の望む世界。だから私にとってはあなた以外の人間は忌むべき豚。安っぽい香水や整髪料を振りかけた家畜でしかない。彼ら存在意義は私たちを不快にさせ ることと屠殺。だから私は彼らを屠っても何も感じない。吉野家で牛丼を頼んで罪悪感を感じないのと一緒。

 

 

この腐敗した唾棄すべき 世界。私は世界を浄化するために生まれた。だから私は世界を清める。目障りにしかならない有象無象な連中を私は彼らの望み通りの、相応しい形にする。亡骸 というありのままの姿に変えて。世界が美しくなるには人間は死ななくてはならない。9割以上の何も考えてない肉の塊は死ねば良い。貴方という唯一の清潔な 存在が過ごし易くなるためにも。そのために私は人を殺める。私の全ては貴方なのだから。貴方の全てが私でありますように。

機械仕掛けの神さまへ あなたはあと何回愛され、崇拝され、抱擁を求められるのだろうか? あなたはあと何回殺され、見下され、拒絶されるのだろうか? 少なくとも今日は貴方と杯、抱擁、そして賛辞を交わし合いたい。

 僕(たち)は良いことがあると「神」を創造し、悪いことがあると「神」を殺す。ただ「」の中身が何になるかは想像できないけど。そんなバカげた営みをこれからも、し続けるだろう。

 

嘘と真実はどちらが残酷だろうか?僕はそれを実体験してしまっているから答えはほぼ間違えなく後者だと思っている。

 

僕は自分が五歳になるまで「コドモ」と呼ばれる人間は自分だけだと信じていた。そしてその後、本格的に自分が嫌いになった。

 

五回目の誕生日に僕は保育園に連れていかれたからだ。保育園の第一印象は最悪だった。それは、保育園を囲んでいる塀を見て、アウシュビッツを僕は連想し、僕もまた、皆と同じ様に閉じ込められ、ガス室送りになるのではと自分の身の危機を感じたからだよ。

 

生 まれてから僕の周りには5歳になるまで子供がいなかった。そんな環境だったから本来、人はオトナの姿で生まれると僕は考えていた。そこからコドモである僕 は出来損ないなんだという仮説をたてていた。そうでなきゃ、お母さんが僕を棒で叩いたり、殴ったり、蹴ったり、お腹を踏んだり、床に頭を叩きつけたり、首 を絞めたり、倉庫に閉じ込めたりするわけない。そしてそんなコドモという役立たずの烙印が大嫌いだった。でもその考えは違った。本当は保育園に行くまでの 僕はずっと幸せだったんだ。自分がダメなのは、コドモという存在だからではなく、ボクという自我、存在自体が原因だという事に気が付いてないのだから。つ まり自身の愚かさを「コドモ」という謎のレッテルのせいにすればよかったのだから。でも、今はもうできないんだ。

 

保育園に入園して一か 月もして、コドモには2種類いることに気付いた。僕みたいな屑と僕とは違う子供と2種類の人間がいるんだと気付いた。自分が屑なのは、自分が「コドモ」だ からじゃなくてボクだからだと分かった時は、本当に悲しかった。泣かずにはいられなかった。大声で僕は泣いた。慟哭した。その時は死にたくて、死にたくて しょうがなかった。毒が盛ってあると信じていたあの不味い保育園のオヤツを食べることにした。お母さんを、皆を、先生をそして神すらも呪った、僻んだ、妬 んだ。その日から自分の名前を呼ばれるのが嫌になった。親ですら呼ばせなかった。

 

 勉強も顔もスポーツも、とにかく何もできない僕は小学 校、中学校、高校全てにおいて名前すら覚えてもらえない存在だった。助けはなにもなかった。あったのはルサンチマンだけ。過去も、今日も、この一瞬も、そ して未来も僕は名前も知らない誰かを妬んで生きていく。いや、家畜の如く生きていくだけだ。最後に白状すると、短剣でラクになりたいけど、ただ死ぬのが怖 い臆病モノなんだ。そう僕は殺す価値もないクズなんだ。生まれてきてごめんなさい。呼吸してしまって、地球の有限な酸素を浪費してしまったことにお詫びを 申し上げます。みなさん、それでは、さようなら。 

 

「アキラくん、おきなさーい」

母さんが僕をゆすって起こそうとしている。僕は分かったよと言って、目を擦りつつ、ベッドから立ち上がった。それに しても、朝は『キャンバス』みたいに幼馴染みに起こして欲しいと思ったのは今日で何百回目だろう。ま、幼馴染みなんていないんだけどね。現実って世知辛い ね。そうは思わない?僕は誰に話し掛けてるんだろう?ま、いいや。話を戻すんだけど、僕は最近、どっかの神様みたいに現実がいかにクソゲーだってことをこ れでもかってくらいに実感してるんだよ。でもそれと同じくらいにこの世界がいかに愛おしいってことも分かったんだよ。

 

「今日もまた何もできなかったよ」

ベッ ドから上半身を起こし、これで何回目か分からないけど、僕は泣くなんてダサイなと思いながら、涙を拭った。拭っても拭っても涙は止まろうとしない。それど ころか堰をきったように涙がどっと溢れだした。終いには、僕は嗚咽まであげてしまった。涙を堪えようにも叶わない。涙は血と同じらしいから、泣くって行為 は他人のために自分の血を流すことと同じなのかな。だとしたら、人のために涙を流す事は、やっぱり人にとっての最大の美徳の一つなんだろうね。だから間違 いなく、泣くことは素敵な行為なんだろうね。でもね、僕のこの涙はそんな綺麗なものじゃなくて、薄汚れているんだ。ぼくの涙は人のための血液じゃない。僕 のための血なんだ。僕が涙を流してるのは、僕の無能さに失望してる訳でも、あの人に同情してるからでもないんだ。そんなこと絶対ないんだよ。こんなに僕が あの人の為にいろいろと頑張ってるのに、全く報われない僕が可哀そうだから泣いてるんだよ。悲劇のヒロインを僕は演じていたいだけなんだ。リストカットの 目的が痛みを通して自分の存在を確かめるように、泣くことで自分の存在を保とうとしてるんだよ。僕はあの人のために何一つできないっていう残酷な事実に、 自身の無力さに悔しくて泣いてるんじゃないんだよ。ただ僕が報われないから泣いてるだけなんだよ。彼の為に泣いてる演技をするなんて、僕はとんだ、偽善者 だよね。

 

僕は17才の春に、初めて恋に落ちた。僕を取り巻く全てがもう劇的に変わってしまったんだよ。僕の網膜を覆っていた鈍色の霞が晴 れ渡り、世界は極彩色で溢れちゃったんだよね。ただ参っちゃうのはね、僕が好きになっちゃった相手はね、実在する人じゃなくて、毎日、僕の夢の中に出てく る人なんだよ。だからね、僕がどんなにがんばったって、あの人には夢の中でしか会えないんだ。ほんとに神様ってのは意地悪るだよ。

 

夢の中 であの人に初めて会ったのはいつだったかは、はっきりとは覚えてない。でも、あの今にも泣きだしちゃうんじゃないかって表情は今でも、ありありと思い出せ る。初めてあの人を見かけたときに誰かあの人を助けてあげなくっちゃって思ったんだ。夢から目を覚ました後、僕の夢は僕しか何とかできないんだから、僕の 夢の中の住人が何かを憂いているんだったら、夢の持ち主の僕がしっかり責任とらなきゃって、今思えば変な使命感を覚えちゃったんだよ。それ以来、あの人を 何とかして笑わせられないかなって考えるのが僕の主な関心事であり、段々生活の一部になっていたんだよ。あの人を笑わせる為にクラスの変顔が得意な友達に 教えてもらったり、夢についていっぱい勉強すれば、あの人の為に何かしてあげられるかもって、図書館にある夢に関する本を全部読み漁っちゃった。あの人を 笑わせる為にジョークの本や大っ嫌いな漫才も一生懸命に見て、どういう仕草が面白いのかを研究していた。そして、気が付くといつの間にかあの人は僕の心に 住み始めていた。でも、あの人をこんなにも僕は好きなのに、あの人の名前や声すらも僕は知らないんだ。僕が知ってるのは、あの人がいつも悲しそうだという 事だけなんだ。更に酷いのが、僕は夢の中で動けないし、声もだせない。だから僕の想いを告げるどころか、話し掛けることもできない。涙を堪えてるあの人に 近付いて、ハンカチをそっと手渡すこともできないんだ。僕ができるのは、二、三百メートル離れた場所で、泣きそうなあの人をただじっと見守ることしかでき ない。でもね、僕はあの人のことを知らなくても平気なんだよ。照れ臭いけど、あの人を僕が愛せるだけで、幸せなんだよ。あの人が一瞬でもいいから、微笑ん でくれさえすれば、それで僕はいいんだ。その笑顔が僕に向けられなくても、一向に構わない。僕の行為が最終的にあの人の涙を止めさられるのなら、手段なん て選ばない。何だってするよ。僕の命が必要なら喜んで差し出すよ。あの人が僕を好きにならなくていいんだよ。僕に一瞬だけでいいから、その笑顔を見せてく れさえすればそれでいいんだ。僕にとって、あの人の笑顔はそれくらいの価値があるんだシェークスピアが狂人と金の矢じりで心臓を射られた人間を同列に扱っ ていた理由が今の僕なら分かるよ。僕ってホントにバカだね。

今日はとっても嬉しいことがあったんだ。なんと我が家に新しい家族が出来たんだよ。ま、出来たと言っても、お父さんが弱ってるダルメシアンって種類の犬を 拾ってきてね、しばらくの間だけお世話をすることにしただけなんだけどね。因みにダルメシアンってのは『101匹わんたん』で出てきたあの犬だよ。ただ 弱ってたあのワンちゃんは本当に可哀想だって思うんだ。だって僕の家に一時的とはいえ引き取られちゃったんだもん。もちろん家の人がね動物に虐待するって わけじゃないよ。ただ家のお父さんとお母さんがある意味でヒドいんだ。お父さんはネーミングセンスが壊滅的にヒドいんだ。この前まで家で預かってた2匹の 猫に、シュレディンガーとプルートって名前を付けちゃうような人なんだよ。その名前は絶対付けちゃダメでしょって思っちゃうよね。しかも悪気なんてないか ら一層性質が悪いよね。あとね、あのダルメシアンにはお父さんがゴンちゃんって名前を付けたよ。名無しの権兵衛だからゴンだってさ。ら名無しならせめて ジョン・ドゥーからとってジョンって名前って名前を僕ならあげるよ。お母さんはお母さんでちょっとひどいんだ。茶目っ気があるって言えば聞こえはいいけ ど、僕たちによくイタズラをするんだ。この前なんか久々に家に来たおじいちゃんのズラを引っこ抜いて、僕にパスして、どっか行っちゃったんだよ。あの後お じいちゃんの機嫌を直すのはホントに大変だったよ。もちろん、ゴンちゃんもお母さんの餌食になったよ。油性のペンで芋虫2匹飼ってますってくらいに太い眉 毛をわざわざ書いてくれてくしたんだよ。油性のペンってなかなか落ちないんだよね。可哀想なゴンちゃん。ただね、勘違いして欲しくないのは、お父さんとお 母さんは弱ってたゴンちゃんを殆んど寝ないで看病してたんだ。その看病の甲斐もあってすぐ元気になったんだ。だからあんなことができるんだ。だからってヘ ンな名前を付けたり、イタズラして良いってわけじゃないけどね。このままだと僕がゴンちゃんの為に何もしてないように思われちゃうけど、そんなことはない よ。元の飼い主を探す為にポスターを作って電柱に張ったり、回覧板にゴンちゃんの写真を載せてもらったり一生懸命ゴンちゃん(仮)の飼い主さんを僕は捜し てたんだよ。他にもゴンちゃんの散歩を僕が担当してるんだ。僕は学校から帰ってすぐにゴンちゃんと散歩するんだけど、ゴンちゃんは散歩のときには人ならぬ 犬が変わる。普段はノソノソしてるのにその時だけは何かに憑り付かれたみたいにダッシュするんだ。ゴンちゃんは僕が帰るまでお母さんとずっと一緒だからイ タズラされっぱなしでストレスが溜まってるんだろうね。だから仕方ないんだけどね、ゴンちゃんは大型犬だから僕は散歩のときすごい力で引っ張られるから転 びそうで怖いんだ。それでもやっぱり僕はゴンちゃんが好きだよ。ただ、少し散歩のときに落ち着いてくれると最高なんだけどな。

ゴンちゃんが我が家に来て5日たった日曜日の朝、僕はすかした太陽光を睨みつけながら、ゴンちゃんと我が家を後にした。早い話が散歩に出かけたんだよ。そ れにしても、寝起きに太陽を見るとホントにイラっとしちゃうよ。清々しい朝なんて真顔で言っちゃう人とは僕は友達になれないな。逆に僕は太陽に向かってバ カみたいに「今日も眩しすぎるじゃないですか。太陽さん少しは今日くらい自重してくださいね。」なんて訳が分からないことをつぶやいちゃう人の方が僕は好 感を間違いなく持てるなぁ。そんなまぬけなことに僕が想いを馳せているとゴンちゃんは例の如く発狂した。ゴンちゃんが風を切り始めたんだ。僕はなんとかゴ ンちゃんのリールを離さないように必死でリールをつかんだ。ほんとは2,3分なんだろうけど、僕にとってはこれが永遠に思えたよ。でもね、永遠ってものも 必ず終りがくるんだよ。ゴンちゃんは更に速度を速めると、どこかで見覚えのある男の人に飛び付き、押し倒した。

「あ、あなたは」

ゴンちゃんに押し倒された男性はいつもの夢のあの人に酷似していた。だから、僕は謝罪を忘れて、思わず声をあげちゃったんだ。

「変に思われるでしょうけど、私は毎晩のように貴女に似た女性の夢を見るのですが、以前にお会いしたことがあるでしょうか?」

これが初めて聞くあの人の肉声だった。脳内フォルダーに録音しとこう。

「会っ ては、いないはずです。ぼ、僕じゃなくてw、w、わ、ワタシはずっと女子校に通っていたから男性の方と会ったことはないと思います。ただ、変な娘って思わ れちゃうかもしれませんが、僕も貴方と夢の中でなら何度もお会いましたよ。だから答えはイエスでありノーですね。」

「僕からも一つ質問していいですか?」

「どうぞ」

「夢の中で僕は動けないし、声すらも発せなかったから聞けなかったんですが、貴方は夢の中でなんで悲しそうにしてたんですか?僕にできることなんてほとんどないけど、もしあるなら言ってくれませんか?」

「そんな風に貴女みたいな方に心配されると嬉しいですね。悲しみの理由は家のサツキ、今、私の顔を舐め回している犬が逃げちゃったからですよ。さつきは母の形見なんですよ。

それにしても、さつきを保護して頂きありがとうございました。お礼といってはなんですがこちらこそ、貴女の為に何かできませんでしょうか?」

彼の言葉で夢の意味がなんとなく分かった気がした。もしあの夢の意味が僕の想像と同じだとしたら僕は神様を少しは見直してもいいと思うよ。きっと彼の笑顔を僕に見せるためなんだね。きっとそうだね。間違いないよね。

「そうだねー。じゃあまず、僕に君の名前を教えてくれないかな?」

「あ、はい。私の名前はショウです。よろしくお願いします。」

「ショウ君だね。僕はアキラだよ。こちらこそよろしくね。ついでに僕のことをアキラくんって呼んでくれると嬉しいな。」

僕はショウという言葉を頭の中で何度も復唱しながら僕と彼の将来を思い描いてみた。

 

⑥あれは始業式が終わり、僕が家へと真っすぐ伸びる並木道を下っている時だった。神様の計らいかどうか分からないが鈍色で塗りつぶされていた空から太陽が顔 を覗かせた。柔らかい日差しが僕を優しく包み込んだ。僕はそんな太陽に母性を感じた。そんな突拍子もないことを考えている僕に優しい風が現実から一歩また 一歩と逃げ出している僕を呼びとめようと僕の頭をなでてくれた。この風がもし人間だったらこんな僕の友達になってくれるんじゃないかと思うくらいにその風 は慈悲にあふれていた。僕なんてつまらない人間が風と友人になれるなんて考えに風は腹を立てのだろう。風は自身の頬が吹き破れる位に強い風を引き起こし た。その風のお陰で街路樹の桜の花びらが舞い散った。杞憂だが桃色の空が落ちたのだろうかと思わせるくらいにはピンクだった。形容しがたいほど美しい。こ の風景を前にこんな陳腐な表現しかできない自分がいやになる。死にたくなった。このセリフを今日、何回僕は口にしただろうか。

そんな取り留めもな いことを考えながら何回かまた花びらが風に吹き飛ばされた後、僕は前言を撤回したい衝動に駆られた。桜のピンク色に言い知れない卑猥さや嫌悪感を僕は覚え たからだ。僕は衝動的に目前の踊る花びら達を掴もうと子供が蝶を追いかけるように一心不乱に追いかけた。愛でるためではなく邪悪な花びらを一枚でも多く握 りつぶすために。そんな異様な義務感がぼくを急きたてた。

それからどのくらいの時間がたったか分からない。10分かもしれないし、90ぷんかもし れない。ただ確かなのはゴツンと衝撃が僕を襲い、意識を桜ではなく、現実に戻したこと。そして僕が女性にぶっかってしまったことだけだ。幸い両者怪我をし ていない。だが不幸にも彼女は僕の彼女じゃない。

彼女はあまりにも美しかったから僕は不意に見とれてしまい謝罪の機会を逃した。彼女が私は桜の妖 精と言えば少なくとも僕は信じるだろう。ある芸術家は「美」とは手を加えることのできない完成したものだと定義した。それくらいに彼女は美しかった。そし て僕の目の前の「美」が服についた桜の花びらを親の仇といわんばかりに執拗にはらっていた。僕は彼女に桜の妖精さんですかとかイデア界からいらした美の伝 道師ですかと本気で尋ねそうになった。それが口から逃げ出さないように僕は手で口を封鎖した。口を僕が手で覆ったから彼女は僕を心配してくれたのだろう。 僕に囁くような声で彼女は大丈夫かどうか尋ねてきた。ぼくは歌舞伎みたいに大げさに頭を振った。彼女の声はガラスみたいに透き通っていて、いつまでも僕は その声を聞いていたかった。だからまた彼女が僕にあの声で話しかけてくれたときは昇天しそうだった。「ずーっと桜を追いかけてたけど、君はなんで追いかけ ていたの?私も追いかけようとしていたから人のことは言えないんだけどね。どうしてかしら?もし良かったらおしえてくれない?」

僕は花びらに嫌悪 感を覚えた。だから無性に握り潰したくなった。そんな酔狂なことを言って彼女に変な人だと思われたくなかった。だから嘘を必死に考えてみたけど一瞬たりと も僕の口は動いてくれなかった。彼女はまた口を動かしてくれた。「私って変かしら?私は桜が大っ嫌いなの。だから花びらを握り潰してコイツを苦しめてあげ ようと思ったの。でもあなたが代わりにやってくれていたから私はあなたをずっと見ていわ。いいえ、白状すると見とれていたわ。あと良い?私、普段は絶対に こんなことは言わないのよ。男は蛆虫だって思ってんだから。」

僕がトマトみたい顔を紅潮させていると彼女が笑った。こんなくさいことを好き好んで言う性質は僕にはないんだけど、泡沫のようにくさい文句が次から次へと僕の頭に浮かんでは消えていく。彼女の笑顔は太陽よりも眩しかった。直視できない。

僕がまた思考の渦に囚われていると、彼女は胸を張って僕を指差した。人を指さしちゃいけないって教わらなかったのかな?

「恥 ずかしがらなくて良いわ。それに言ってるこっちの方がむしろ恥ずかしいわ。むしろ名誉だと思って良いわ。私を見とれさせた自分に誇りをもちなさい。私はあ なたを馬鹿にしているんじゃないから。私ね、あなたを見て嬉しかったの。その時に違和感に気付いたの。いいえ、違和感に気付いたから見とれていたんだわ。 桜の花びらを追いかける時は楽しそうに追いかけるわ。普通だったら。でもあなたはそうじゃなかった。花びらを追いかけている時に間違いなくあなたは楽しそ うじゃなかった。あなたは絶対に追いかけているとき楽しそうじゃなかったわ。そうよね?その代わりに敵愾心をあなたは桜に抱いていたわ。はっきりと私には あなたの桜への悪意が伝わってきたわ。親の仇とでもいうように花びらを睨んでいたわよね。」どうやらさっきの発言で自暴自棄になってしまったのだろう。彼 女の口調が少し荒くなった。というか有無を言わせぬ口調になった。

「ごめんなさい。こんなこといきなり言われたらビックリするわよね。忘れて。あ とゴメンなさいね、どういうわけか貴方の前だと雄弁になってしまうわ。私、そうは見えないかもしれないけど普段は寡黙な方なの。自分でも驚いてるの。その 顔は信じてないわね。いいわ、別に信じようかどうかなんて。私が知ってればそれでいいのよ。でも不思議ね。人間嫌いの私を見とれさせて、マシンガントーク させる。さらに鉄面皮の私の表情をここまで変化させることに成功させるなんてあなた何者なの?答えて頂戴?」

彼女は少し電波なところがあるらしい。彼女のサイコロのように変わる表情、独特な声色やイントネーションを何とか自身の記憶に刻み込もうと僕は必死だったから、少し僕は返答に遅れた。ただ回答を待って眼を光らしている時の彼女の表情はヤバかった。大量破壊兵器だと思う。

「1年5組13番 晶です。」

僕の答えに不満だったのだろう。彼女の顔が少し歪んだ。だがその表情がまた良い。

「自己紹介をだれがしろといったの?でも良く考えたらさっきの質問はそうとれてもおかしくないわね。問題提起に失敗したわ。ごめんなさい。」

 

 

もしかして私に薬でも盛ったの?私は捕まるの嫌よ。でもきずかれずに毒を盛るとはあなた忍者かスパイかしら?プーチンさんってどんな人?

 

幸せ、しあわせ、shi-a-wa-se。 

 

 音と意味そして両者を仲介する統語構造も知っているのに実感が分からない。

 考えれば考えるほど音は更にバラバラに裁断され

 意味は両手から零れ落ち

 僕のなかの言葉さえ 時とともに風化し、崩れ落ちる。

 

 

 ただ君がいた事実が

 一緒にいれたことだけが

 このノイズに意味を持たせた

 

 君のいない世界は

 音は波になり

 意味は運用の巧みさに堕し

 皆が存在の無意味さに気付き、「嘔吐」するだろう。

 

 ただ今は君の比類なき存在の重さを実感し

 神に君との刹那の邂逅を感謝したい

 

 さつき 

 いままで

 ありがとう

 天国でまたね 

 


 
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