No.588930

去天葉がダムに沈むとき、君はどんな顔をしているのかい?

kouさん

大学の自由科目で故郷をテーマにして短編を書けという課題が出ました。みなさん、良い子ばかりなので恐らくノスタルジックな作品や故郷での心温まる思い出を基にしたいい話が出てくると思います。ただ、そんなの聞きたくないですし、僕が書きたくないwエロが書けないので今回は少し頑張りましたw でも、ぼかし程度ですw

2013-06-19 00:55:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:430   閲覧ユーザー数:430

天葉、キョテンバ、きょてんば。

 

来年には、如何なる地図を広げようともこの地名を見つけることは叶わないだろう。

 

キョテンバ。

 

それは、たった今開いている地図の上にぽつんと佇むだけのシミや点だ。

 

それなのに、僕は自分が生まれたというだけでこの黒い文字列を特別視してしまう。

 

たとえ、この土地が火山の噴火や地震あるいは宇宙人の襲来により滅び去ることを幾度も願ったとしてもだ。

 

なに一つ、思い返したい蜂蜜のような思い出などこの土地にはない。

 

頭を繰り返し沈めてしまう悪夢。 

 

憂鬱に引きずり込む過去。

 

堰き止めようと試みても記憶のダムを決壊させる忌まわしい光景。

 

幼少期の過去に身を浸す度に、塩水が傷をヒリヒリさせる。

 

それなのに、いつのまにか僕は月日の浄化作用でもって故郷を愛してしまっていたらしい。

 

いや、単に忘れられないだけなのかもしれない。

 

愛と憎悪は表裏一体。愛の反義語は憎悪ではなく無関心。上手い言葉があるものだ。

 

 

明日、精液と血液と欲望に塗れたキョテンバは、ダムに沈む。

 

穢れた過去と一緒にダムの水底に葬りさられる。

 

何度のなく流されたキミの涙も水に溶けてなかったことになる。

 

キミにキョテンバの沈みゆく様を見せられないことだけが心残りだ。僕のオフィーリア。

 

 

オフィーリア。僕のオフィーリア。君に会った時を僕は今も覚えているよ。

 

忘れたいけど、何度も忘れようとしたけど、アレはいくら沈めても僕の意識の水面から繰り返し顔を出す。

 

 

数学教師の下ネタに嫌気が差して、気分転換に顔なじみの窓と談笑を始めたばかりの頃だった。

 

窓の向こうには、地面に白線を引いただけの通称テニスコートが広がっていた。

 

コートの周りを等間隔に植えられた木々は今日も陶然と空を見つめていた。

 

屋上から見下ろせば、目と耳と口を塞いで久しい木々は全体でホッチキスの針の形をしていることが分かる。

 

今考えると、彼らはロマンチストなんかじゃなくて、醜い現実に目を逸らしていただけだ。

 

木々は己の背後で行われている凶行に恐怖し、小刻みに震えている。

 

妊婦さん並みに膨れ上がった3個の腹が少女を貪っている。

 

地面に除除に広がる血。

 

小判大に広がった血を地面は無理やり飲まされる。

 

少女は地面に押し倒され、地面がいかにひんやりとしていて冷たいかを思い知った。

 

少女の腕にはこれから毎日強烈な色彩をもった線が一本ずつ描かれることになる。

 

朱色の線が描かれるたびに彼女の中の何かが壊れていった。

 

十分楽しんだ腹は、無色の鬱憤を彼女にこれでもかとブッかけた。

 

彼女の力ない視線は雲一つない快晴の青空に注がれていた。

 

蒼穹の空は、何も見ていないと自分を納得させた。

 

彼女に降り注ぐ陽光は侮蔑の言葉だけを発した。

 

世界は沈黙の代わりに彼女へ純白のタオルケットを一斉に投げつけた。

 

僕は学校が大嫌いだからYシャツを脱いで彼女に貸した。

 

善意も下心も僕には無くて、ただの御遊びで。

 

これが彼女との最初の出会いだった。

 

 

転校生の彼女と次に出会ったのは図書室だった。

 

フォークナーのサンクチュアリーを探していた時だった。

 

お互いがお目当てのサンクチュアリーを取ろうとして手があった。

 

なんてことはないから安心してほしい。

 

僕が先に本棚から取り出したから、微笑ましい展開などない。

 

この作品には、トウモロコシの軸先で女性を強姦する場面が登場する。

 

そんな作品を彼女に見せたくはなかった。

 

でも、ここでは女生徒への強姦など日常茶飯事。

 

成積の悪い生徒や有名高校への進学を望む生徒は教師に春を鬻ぐのは、生徒の権利であり、義務ですらあった。

 

理科室の黒い耐火性の机の上で、誰も寄り付かない図書室の世界名作全集が収められている本棚の後ろで、ラファエロの聖母子像のコピーが見つめる美術室で、テニスコートの木々の後ろで、音楽室のピアノの上で、保健室のベットの上で、ありとあらゆる場所で教師と生徒が互いの欲望を満たすためだけに体を獣のように合わせていた。

 

どんなに耳を塞ごうとも、目を閉じようとも、口を噤もうとも、嬌声は僕らを放ってはおかない。

 

嬌声は廊下、教室、更衣室、ロッカーありとあらゆる場所に偏在した。

 

逃げおおせることなどできない。

 

続く

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択