かなり前からネタだけは決まってました。
そろそろ暖かくなる筈なのに、まだまだ寒い卒業と入学のシーズン。
単身、遠方の学園に入学する事が決まった一刀は、もうすぐこの家からいなくなるんだなぁ。とか思いながら風呂上りにアイスを食べていた。
学校の担任は一刀が見事に試験に受かった事について非常に驚いていて、カンニングを疑われたのだが、それに関してイラッとする事は一刀にはなかった。
(だってアレどう考えてもおかしいもんなぁ……そりゃ担任も疑うわ)
機会があれば桂花に聞いてみたい。主に最終調整と言って渡してきた練習問題がそっくりそのまま試験問題だった件について。
進○ゼミもびっくりの的中率。なんか文字の大きさとか解答欄とか全部同じだったけど。復習が終わったらシュレッダーに掛けてそれを燃やせと言われたけど。
「か、一刀?」
「どしたの凪ねぇ」
「稟姉様が、部屋に来てくれって」
今からお風呂に入る所だったのか、手にパジャマと下着を持って凪が背後に立っていた。
はーい。と返事をして一刀は濡れた髪の毛をタオルでガシガシと拭きながらリビング件寝所を後にする。
「稟おねーちゃーん」
「入って下さい」
「おじゃまー」
どったんばったん聞こえてきたので、もうお風呂に入っていたのは気付いていた。
普段は纏め上げている髪を下ろして、自宅用なのかいつもとは違うフレームの眼鏡をつけている様子は、なんだかちょっと穏やかに見える。
「どしたの?」
「明日なんですが、買い物に行きませんか?」
「買い物? 何買うの?」
「一刀へのプレゼントですよ。進学祝いというやつです」
「え、いいよそんなの。買い物には付き合うけどさ」
「まぁまぁ。 もしかすると最後の良い機会かもしれませんしね」
さてどう断ったものか。と一刀は考えるが、いくら固辞してもこっそり買ってくれるのは目に見えている。
それなら一緒に見て回って、値段の安い物を買って貰うのが一番だろうと一刀は考えた。
「ちなみに候補は腕時計なんですが、何か希望のメーカーはありますか?」
「時計ねぇ……別にケータイあるからいらんけど」
「TPOに合わせるのも必要な事ですよ。 どうしてもしたくない、というのであれば勿論強制はしませんが」
「んにゃ、姉ちゃん達の言う事は大体は聞く事にする」
と、いう流れで明けて翌日。
稟と二人でお出かけというチャレンジに挑む事になった一刀はすったもんだの末、朝7時に家を出て、通常であれば5分もあれば辿り着けるバス停まで30分を費やし、バス停から駅の券売機まで通常なら20秒の道のりに7分かけ、なんとか電車に乗り込んだ。
休日だったが時間帯が良かったのか電車内は程よく空いており、二人で座席に腰掛けてほっと一息吐く。
「一大スペクタルだったね」
「やはり車で行く方が良かったですね……」
「休日は道混んでるし、俺は電車の方が良いけどね」
「それなら構いませんが……お腹は空いていませんか? お昼までに何か軽く食べましょうか」
「んー、それよかお昼を沢山のが嬉しいかなー」
「ではそうしましょうか。 職場の方から美味しい天麩羅の店を聞きましたので、そこにしますか?」
「稟お姉ちゃん大好きー」
などとのほほんとした会話をしながらガタンゴトンと揺られ、目的地の駅に着いたが此処からが正念場である。
電車から降りるまでに一回。降りる時に一回。ホームに向かうまでに三回。階段を見事に転げ落ちた稟は、乱れた服と髪を整えたい。と主張してお手洗いまで一刀に付き添ってもらった。
何とか送り届けたのはいいが、この駅は防犯の観点からか女性用と男性用のトイレが差し向かいに分かれていて、このまま女性用トイレの出入り口付近に突っ立っていると駅員さんを呼ばれかねない。
ちょっと口寂しくなった一刀は自販機で缶コーヒーを買うと、駅によくある大きな柱(案内とか情報とかが掛けてあるアレ)に凭れてコーヒーを飲んで休んでいた。
「;@l;;;「@;!!」
「はー……人多いなぁ」
ガヤガヤガヤガヤと、何を言っているのかは聞こえないが何かを喋っている音を聞きながら、疲れた時には甘い物。とポケットに忍ばせておいた飴を無造作に付かんで取り出す。
イチゴ、ブドウ、オレンジと色々あるが、一つ変り種の蜂蜜が飴玉の中に入った飴も出てきた。
最近の飴は洒落てんなぁ。と思いながら、オレンジの袋を開けて口に放り込むとまたコーヒーを飲む。
「Моя старшая сестра !!」
「………ん?」
周囲の喧騒の中に、一際強く、甲高い声が響く。
子供が駄々を捏ねているのだろうか。と一刀は空の缶を捨てに行くついでに声の主を見てみようと人ごみをすり抜けて歩いていくと、見事にポッカリと穴が開いた空間に出た。
「Моя старшая сестра !!」
「……」
小さな女の子が泣いていた。アチラを向いて、コチラを向いて、ソチラを向いて泣いていた。
保護者と逸れたのだろうか、涙を拭おうともせずに必死に周囲を見渡しては何語かわからない言葉を発している。
「……」
「Моя старшая сестра !!」
一刀は周囲を見回すが、誰も彼も係わり合いにはなりたくないのか、はたまた自分の語学力の無さを披露したくないのか、遠巻きに見つめるだけだった。
「グレート、眼があっちまった」
「Моя старшая сестра !!」
意を決して、一刀は一歩一歩踏み出す。
女の子は自分に近づいてくる一刀に気が付いて、この人誰?という顔になったものの、ようやく頼れる人物が来たと悟ったのか足早に駆け寄ってくる。
「おっと」
「Моя старшая сестра Это не знает?!」
「あー……どうしよ」
完全にノープランだった一刀は、自分の膝にタックルをしかけてきた小さな女の子を何とか受け止めながら、自分の歩いてきた所を振り返る。
その視線の先にいた人達が一斉に顔を背けるのを見て、おめぇらじゃねぇよ。と悪態を心の中で呟いて、そういや飴があった。と思い出す。
小さな子をお菓子で釣るのは道徳的にどうよ。と思ってしまったのだが、他に取れる手段もないし、その事で警察を呼ばれたら呼んだヤツとは全面戦争だ、訴訟も辞さないっ(キリッ
ポケットをまさぐり、あるだけの飴を右手で掴んで取り出すと女の子の目の前に差し出してやる。
「あー……飴、食べる?」
「Что это?」
「これ。分かる? あーめ」
「Пища……?」
「えーっと……」
既にオレンジのを口に入れていたので一度飲み込んで、そのうちの適当な一つを左手で摘み、口を使って包装を破くと食べてみせる。
「わかった? 飴。食べる?」
「Это питается.Хорошо?」
「あはは、何言ってるかサッパリわかんね」
右手を軽く揺すって女の子に促すと、オズオズと怖がりながらも一つ、蜂蜜のを手に取って口に入れた。
「Вкусно!!」
(ドラ○もーん!!早く来てくれー!!)「どーしよ…… おっとケータイが」
ズボンのポケットが微かに震えたので、右手の飴の軍勢を一度上着のポケットに戻してケータイを取り出すと、稟から電話が掛かっていた。
「もしもーし」
『一刀、何処にいるんです?』
「右の方に歩いてると人だかりあるんだけど、その中で非常に困ってる」
『直ぐに向かいますが、期待はしないでっ!?』
こけたのだろう。きゃあ。と言う悲鳴と大丈夫ですか!と男達の声が聞こえてきた。
その気遣いをこの子にも向けてやれよ。と思わずにはいられないが、このまま待っているより迎えに行った方が早いだろう。
女の子の頭に左手を添えてみると、?という顔つきになっていたが嫌がってはいない、と思われる。
「よーしよしよし。頼むから泣くなよお嬢ちゃん」
「Он гуляет?」
「ちょっとだけ移動するからねー」
「Где это идет?」
ずーりずーり。と足の裏を摺りながら後ろに向かって歩いていくと、身嗜みを整えに行った筈の稟が、行った時とさほど変わらないズタボロ加減で声を掛けてきた。
「一刀、どうしたのです一体」
「この子が泣いててさ。 周りは見てるだけだし、どうしたもんかと思って」
「Который?!」
「あぁ、成る程。 外国の子かしら?」
「だと思うよ。何言ってるかさっぱり分からん」
一刀の足にしがみ付いている女の子を一瞥して、稟はしゃがんで目線を合わせると流暢な英語で喋りかける。
【こんにちわ、お嬢さん】
「Который? 」
「英語じゃないようね。ドイツかしら」
「ドイツ語も喋れんの?!」
「嗜み程度ですから、期待はしないでね」
ドイツ、フランス、イタリアと様々な言語で喋りかけるがどうにも伝わった気はしない。
しかし、ロシア語で喋りかけると女の子が発する声のトーンが変わった。
「ロシア語なら通じるかも知れません」
「ロシア語がある事を今知ったよ俺」
【貴女のお名前は言えるかしら?】
【ミウ!! 日本語で『美しい羽』って書くの!!】
【そう、素敵な名前ね。 私はリン。貴女が抱きついている子はカズトって言うの】
【あ、ごめんなさい……】
女の子が急に離れた事に一刀は面食らうのだが、稟に説明を求めると「気が付いて恥ずかしかったみたいですね」と笑って返される。
「どんなもんよ?」
「今の所会話は成立していますね」
「親は? はぐれたの?」
【今日は誰と遊びに来たの?】
【お姉ちゃん……でも、人が多くてはぐれちゃって……】
女の子の目尻に涙が浮かんだのを見て、一刀は慌てて自分もしゃがむともう一度飴を取り出す。
「なんですそれ?」
「飴。 あー……食べる?って聞いてみてくれない? さっき食べたんだこの子」
【ミウ。 このお兄ちゃんが飴食べる?って】
【飴…… さっきの! さっきのある!?】
「さっきのが欲しい。と言ってますが」
「さっきの? あー、あるかな……」
道端でしゃがみ込んだままという訳にもいかず、一刀達は美羽のお姉ちゃんを探すがてら、駅員さんに事情を説明しにいく事にした。
ちなみに蜂蜜の飴は運良く残っており、まだあると聞かされた美羽はぱあっと顔を輝かせて、現在ご機嫌で一刀の足にしがみ付いている。
一刀は右手で美羽を抱える様にして、左手でしっかりと稟と手を繋いでそう遠くはない道を歩こうとしたのだが―――
「Красота Перо!!!」
美羽をそのままスケールアップさせたかの様な金髪の外人さんが、美羽と同じ様な感じであちこちに声を掛けていた。
「稟お姉ちゃん、あの人の行動にすっごい見覚えがあるんだけど」
【ミウ? 彼女は貴女のお姉さんかしら?】
【あ!! レーハねえさま!!】
稟が促すと、美羽は一刀の手から離れて騒いでいる女性に駆け寄る。
「Красота Перо!!!」
「Старшая сестра Прекрасно Перо!!!!!」
ひしっと抱き合いながら涙を流して再開を喜ぶ二人の姿は確かに美しいのだが、ホンの百メートルほどしか離れていなかった事を知っている一刀は何だか微妙な気分である。
「どうしよ」
「立ち去ってもいいですが、一声ぐらいは掛けていきましょうか」
「俺喋れないから通訳宜しく」
美羽は姉の手を引き、一刀と稟を指して何やら喋くり倒している。
姉は一刀と稟を見ると、ちゃんと美羽の手を引いてモデルの様なウォーキングで近づいてきた。
「ごめなさい、妹、お世話をなりまして」
「あれ、日本語だ」
「ちょとだけね」
親指と人差し指で小さな隙間を作ってはにかむ舶来の美人さんに思わずキュンとする一刀。
一刀には日本に来るなら日本語を分かろうとする努力ぐらいしてからこいや。という主張があるので、その点でも好印象だった。
「私、レーハ言いです。 日本語は 麗しい羽。書いたです」
【親日家ですか。 妹さんも日本語で当て字をされてますね】
【わぁ! ロシア語お上手ですのね!】
【ちょっとだけです】
【お上手ね】
「俺おいてけぼりだよ」
【カズト! ありがとう!】
んー? と自分の服を引っ張りながら何やら言う美羽に首を傾げる一刀だったが、ありがとうの言葉だけは聴き覚えがあった。バラエティって偉大。
「稟お姉ちゃん。どういたしましてって何ていうの?」
「Вы любезно приглашаетесь」
「なるほど、喋れん」
早急に喋る事を諦めた一刀はしゃがんで美羽と視線を合わせると、ほっぺたを軽くパチン。と挟んで笑いかける。
そして手を頭に添えて軽く撫でると立ち上がり、稟に行こうか。と声を掛ける。
【それでは、私達はこれで】
【そんな!! お礼もしてませんのに!!】
「一刀、お礼がしたいと言っていますが」
「いいよそんなの」
【弟は遠慮してますから】
【妹を守ってくれた人を何のお礼もせずに帰したら、私は国に帰れなくなります!】
「人生の瀬戸際だと言ってますが」
「いやその理屈はおかしい」
喧々諤々と稟を間に挟みつつ、一刀+稟と麗羽の押し問答はけっこう長く続いたが、美羽が飽きたのか一刀の腕を引いて外に出ようと促した事で終わりを告げた。
想像してごらん。甘い匂いがする金髪ロリッ娘が天真爛漫な笑顔で自分の腕を引いてくる所を。
想像してごらん。可憐な花っぽい匂いのするクルクル金髪で肌真っ白なお姉さんが両手で自分の手を包み込んで、上目遣いで何かを訴えてくる所を。
可愛いは正義。それは真理なのだと身をもって知った一刀だった。
「レーハさん達は観光できたの?」
【滞在の目的は観光ですか?】
【うん、私も妹も日本が大好きなの!】
「そのようですね」
一刀達の目的地はここで、麗羽と美羽も当然そうだった。
観光なら名所に行くもんじゃねーのかなぁ。と思った一刀だったが、稟曰く「何度も来日しているのなら目ぼしい場所は行きつくしているのでは?」との事だった。
実際それは当たっていて、外人さんが好きそうな観光名所はコンプリーツしているとの事。
「でもなんでこんな所に。 見回る場所なんか何にもないんじゃねーの?」
【弟が態々此処に来たのを不思議に思っているわ】
【聖地巡礼!!】
「……聖地巡礼と言ってますが」
「……聞き覚えのある単語の意味で言ってるなら、ソッチの方なのかしら?」
【カズト!! 私ともお喋りしてよ!!】
「美羽さんが拗ねてますよ」
「なんじゃーこのー」
「キャー♪」
麗羽と美羽に根負けした一刀達だったが、行動を共にするに当たって大きな問題が稟以外に浮上した。
問題のシーンをりぷれい。
「んじゃ飯食いに行こう。腹減ったよ俺」
「そうですね。 親日家ですし、今更天麩羅で大騒ぎもしないでしょう」
「ま、一応――――二人は?!」
「え?」
一刀と稟が慌てて見渡すと、そこには人ごみの中で二人しっかりと手を繋いで「ノォーーーーー.・゚・+゚・(つд`)・゚+・゚・.ーーーーゥ!!!」と泣きじゃくる姿が!!
俺たちは一歩も動いていないのに何で逸れる事が出来るんだ?!と一刀は疑問に思いながらも慌てて人ごみを掻き分けて麗羽と美羽を回収する。
グスングスンと泣きながら一刀に抱きついてくる美羽と、一刀には分からない言語で腕にしがみ付いてくる麗羽だったが、一刀にそれを愛でる余裕はありゃしなかった。
「稟お姉ちゃ……」
「ノォーーーーー.・゚・+゚・(つд`)・゚+・゚・.ーーーーゥ!!!」
「ですよねー!!!」
恥ずかしいとか胸の感触とか言ってらんないっすよマジで!!と思いながら今度は稟を回収。
泣きじゃくる三人を必死で抱え、何とか人の少ない、どう考えても逸れる要素のない道まで出てこれた。
「なんでこうなんだ?いやマジで?」
「す、すいません……グスッ……迷子は初めての経験だった……ひっく……」
「いや稟お姉ちゃんはケータイあんだろ」
「……二人は?!」
「ノォーーーーー.・゚・+゚・(つд`)・゚+・゚・.ーーーーゥ!!!」
「なんで反対側の歩道に居るんだよ!!」
美羽を麗羽に預けていても何の解決にもならない事が良く分かったので一刀が手を繋ぐ。いやもう抱き抱える。
稟お姉ちゃんをもう片方の手で掴み、稟が麗羽と手を繋ごう。というのが第一案。
「カズトーー!!!・゚・+゚・(つд`)・゚+・゚・.リンーー!!!」
「えー……」
「い、いつの間に……」
結果こうなったので、もう稟お姉ちゃんは転べばいいと思うよ。との結論に至り、稟も渋々それを飲んだ。
流石に自分の我侭でこの二人を迷わせる訳にもいかないし。という事で稟を先導とし、一刀が麗羽と手を繋ぐ事になった。
「カズトさん?」
「何?」
「リンさん、いねーよう」
「……あーいた。引っくり返ってら」
【何で前を歩いていたのに後ろで転んでいるのかしら……】
「何言ってるか分からんけど言ってる意味は理解出来た俺は凄い」
【カズト、リン大丈夫なの?】
「へーきへーき。稟お姉ちゃんふぁいとぅー」
「ふぁいとぅー?」
【なにそれ?どういう意味なの麗羽姉様?】
「意味はどれですが?」
「……あー、意味ね。 がんばれーって事」
【頑張れだって】
「……ふぁいとぅー?」
「おお、上手い上手い。さぁ皆さんご一緒に」
「「「ふぁいとぅーー」」」
「ぐぬぬ……」
なんて事を繰り返しながら目的地である天麩羅屋まで辿り着き、個室があった事に胸を撫で下ろした一刀は擦り傷だらけのお姉ちゃんに耳打ちする。
「もう今日は俺の買い物諦めようぜ」
「……そうですね。流石に一刀に負担が掛かりすぎますし」
「別にそんなのはいいよ。 でも二人が大変過ぎるだろ。なんか二人のプランとかねーの?」
【麗羽、貴女達の目的は聖地巡礼だったわね?】
【そう!! ●×公園のジャングルジムに登るの!!】
【……そう。 それは素敵ね。良かったらご一緒してもいいかしら?】
【構わないけど……リン達の予定は?】
【今日は二人でデートだったから、特定の場所に用はないのよ】
と、稟が麗羽と打ち合わせをしている最中も一刀はてんてこ舞いだった。
具体的には何故あるのか分からない生簀に興味津々な美羽が泳いでいる魚を見ようと空いている椅子に登り始めたからだった。
「こらミウ!椅子で遊ぶんじゃありません!」
【この椅子には座っちゃ駄目なの?お魚みたい!!】
「何言ってるかわかんないけど俺たちはあっち。 良い子。おっけー?」
【お魚……あ、捕ってる!!】
「指さしてどうしたの……あーなるほど。キス天とかに使うのか。すげぇなこの店」
【あ……いやーーー!!お魚の首がぁむぐっ】
「すんません!!お騒がせしました!!」
天真爛漫にも程がある。大将が美羽を見て困ったように笑って首を振ってくれているのが本当に救いだった。
何がショックだったのかが分からない一刀は説明を稟に任せ、ちょっと横になるわ。と言って畳に寝転んだ。
「いい匂いがする」
「ナイスタイミングです。ちょうど来ましたよ、一刀」
「おーめっちゃ豪華じゃん。 あれ、レーハは天丼なの?」
「丼、食べるが早いね?」
「ビジネスマンかよ」
【お魚さん、美味しく頂ますので成仏なむー】
【あら、偉いわね美羽。ちゃんと日本のいただきますが出来るのね】
【何時もこうだよ? でもいただきますは言うの忘れちゃうの……】
「いただきまーす」
「いただきまんもーす」
「……レーハに間違った日本語教えてんのは何処のどいつだ、修正してやる」
金髪巨乳の別嬪さんがこんなふざけた事言う世界なんて間違ってる!!
【麗羽、間違ってるわよ】
【え?! 日本語の頂きますってこう言うんじゃないの?】
【全然違うわよ……まぁ、良いわ】
【美味しいね、カズト!】
「んー?なんていったんだこのやろー」
「美味しいね。と言ってますよ」
「あー、んまいなー」
「んまい?」
「んまい」
「んまい!!」
あ、やべ。と一刀は焦ったが後の祭り。麗羽と美羽は二人して、口に運ぶ度に「んまい!」と連呼。
稟を見ればおでこに手を当ててやれやれ。と零している。
「まぁ、やっちまったもんはしょうがねぇ。ギリギリ上品だ」
「いえその理屈は……まぁ、いいです」
サクサクと天麩羅を平らげていく四人。麗羽は早く食べれる。と言った天丼を一口一口丁寧にゆっくりと食べていく。
麗羽のその様子を見ながら、やっぱ天丼は似合わないよなぁと思いながら一刀がかっ食らっていると、稟から天麩羅を譲渡された。
「一刀、キス天好きでしたね」
「いいの? やった」
「えぇ、構いませんよ。 私には少し多いみたいです」
【カズト、いっぱい食べるのねー?】
【それもあるけど、キスは好きなのよこの子】
【あら、そうなの? やっぱり男の子ね】
立った!フラグが立った!
「いやー疲れた。ホント疲れた……」
「ご苦労様です……」
天麩羅屋を後にした四人は、麗羽と美羽の目的地である●×公園に辿り着いた。
楽しく遊ぶ美羽はまぁ良いにしても、スカートでジャングルジムに登ろうとする麗羽にはまいった。
キョトンとする麗羽に稟が必死に説明したが、本人は周囲には誰もいないし気にしないと譲らない。
いや俺がいるだろ。と一刀が主張すればカラカラと可笑しそうに笑う始末。
「ロシアンビューティーってイケメン以外は男じゃないって認識なんだろうか」
「いや流石にそれはないでしょう……あぁ美羽!!砂の付いた手で眼を擦らない!」
稟が思わず立ち上がって一人逆海老固めを決められたので、一刀はため息を吐いて美羽を水の出る所まで連れていく。
【おねーちゃんどうしたの? ジャングルジムの上で高笑いするんでしょ?】
【うん。後で、ね】
やるんかい。
【美羽、ちょっと稟の所まで行っててくれる? また転んだみたいだから、ハンカチ持っていってあげて】
【わかった!】
ハンカチをジャブジャブと濡らし、美羽が軽い足取りで稟の所まで向かう。
ほんの少しの距離だが気が気ではない一刀は迷子になるなよーと念を送っていたので、麗羽が頬を染めて俯いて、よし!と気合を入れる所を見逃した。
「カズト」
「ん?」
ファーストキスじゃなかった。でもビックリはしたしドキドキもした。
「……」
「あは。 はずかし、ね?」
「いや……そうじゃなくて……」
「ありがと。ね?」
「いやこういうのはさ、そういうんじゃねぇだろ?」
【貴方は大事な妹を助けてくれたから。だからこのお礼が相応しいの。私が帰せる、一番正しいお礼】
「わかんねーよ」
「Спасибо.Любимая личность」
「あー……その、さぁ……」
「? あ、そだね」
んん! と咳き込んでから美羽と稟をチラリと見て、自分達を見ていないのを確認して。
(I love you)「Thank you,my dear」
「……どーいたしまして」
ありがとうは辛うじてわかったけれど。
その前の、声の無い唇の動きまでは流石に読み取れなかった一刀くんでした。
あとがきの解説。
【】内はロシア語で会話してると思ってくだしあ。ありがとうエキ○イト翻訳。
ロシア語そのまま使ったのはちょっと調子に乗りすぎたと今は反省しています。すいません。
コンセプトは「可愛い外人」。実は思春より先に思いついていた二人。
ロシア語が通じるのはとある超大作恋姫SSに影響を受けてです。
最後に麗羽が英語で喋ったのは、ロシア語が通じないのを思い出したのと、日本語で言うのは恥ずかしい(*ノωノ)キャッという乙女心のなせる技。萌えます。
ちなみに二人と七乃(張家)は親戚。微妙な所です。
お礼返信
Kito様 なぜだ、バレてる。
roger様 鉄面皮クール淑女、いいじゃないか!
tyoromoko様 (自分で読み返して)いつも通りです(キリッ
zero様 桂花ちゃんは自分からは誘えない女の子ですから
ちきゅさん様 おや、奇遇ですな。私のコーシーも無糖なのに何故か甘いんですよ。
ノワール様 気分を害すと搾り取られますからね。あれ待って、それ天国じゃね?
ゴーストチャイルド様 秋蘭はむっつりさんだから仕方ないの。
トランプ様 個人的にはあまり良い出来じゃなかったんですけど、皆さんが満足して下さって嬉しい限りです。
ヴィヴィオ様 コメント感謝です(>Д<)ゞ 桂花さんは個人的に誘い受け、またの名を攻めドMです(キリッ
月光鳥~ティマイ~様 雇ってくれるなら出したいです。割とマジで。
MiTi様 案ずるな!こんなの日々妄想している俺が一番のHENTAIだ!!ww
悠なるかな様 ご希望の袁家です、お待たせしました。いやホント。
観珪様 皆さん桂花大好きですねww
ムー部長様 桂花人気に全秋蘭がSHIT!!
shirou様 おっぱじめるとずっと一刀のターンなんですけどね。つらいわー、TINAMIだとR-18書けないのマジつらいわー。
happy envrem様 やめてよね、また全キャラで妄想が始まっちゃうだろ。
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暖め続けた袁家ネタです。