「…いい、自分でやる」
「えー…」
隣で漸く荒い息を収めた彼女の目尻を拭こうとしたら拒否られました。
「じゃあ下の方を」
「もっとするな!そっちも私が自分でやるからいい、あっち向いてろ!」
はいはいと返事をして背中同士をぴったりくっつける。背後のごそごそと衣擦れの音がなんかやらしい。
「ねえ春蘭さぁ」
「…なんだ」
「その…嫌なんじゃないんだよね?」
「くどい。体質だ」
「ならいいんだけどさ」
春蘭はその最中とその後、涙を見せることがある。不安がよぎってしまって前も聞いた問いを繰り返してしまう。そういえば始めっから最後まで泣きっぱなしのお姉さんもいるけど。
「…今他の女の事を考えていなかったか?」
「とんでもございません」
俺の大切な女の子達はエスパーが多い、っていうかほぼエスパーしかいない。
再び沈黙が降りる。
「一刀」
「なに?」
「最近、華琳様とはどうなんだ」
「仲悪くはないと思うけど…夜的な意味で?」
「そのぐらい察しろ馬鹿」
春蘭に馬鹿っていわれた!
春蘭に馬鹿っていわれた!
「うん、普通…以上にまあ、色々と、仲良くしてるけど」
そうか、と言いながら振り向いた春蘭に背中から抱きしめられる。
「泣かせたら許さんぞ」
「もちろん。ところでさ、最近華琳一緒じゃないけど…いいの?」
考えるようにああ…、と言いながら首筋に唇を添えてくる。
「無理させてしまっていたような気がしてな…控えている」
「無理?」
「ああ。ちょっと前まではその…四人でよくしていたじゃないか」
「うん」
「その頃から漠然と感じてたんだが…華琳様は本当は可愛がられたり甘えたりする方がお好きなんじゃないかと思ったんだ」
「うーん、…なるほどね…」
すげえ、いい線突いてる。春蘭のくせに!
旗揚げからこのかた統一されるまで、彼女は誰かを信頼することはあっても頼ったり甘えたり、安寧に浸ったりすることが出来なかったはずだ。桂花、春蘭、秋蘭達との夜にあってさえ彼女は主君であり続けたんだろう。
「最近そうかもな…ちょっとまえまでは華琳はそんな甘えてくるって感じでもなかったな、というかむしろすごくえっちになったって方が目立ってた。なんか色んな服とか下着とか着たし、色んなその…何?プレイやって。桂花とか桐花(荀攸)の真似とかもしてた」
「それはお前の歓心を買いたかったんだ」
「マジで」
「マジだ…と思う。秋蘭が言っていた」
「おおう」
秋蘭が言ったとなるとちょっと信憑性が出てくる。
「うーん…あの自信が服着て歩いてるような、華琳がねぇ」
「今まで自分が魏を引っ張って来たけれど、大陸が平和になって流石にそろそろ疲れたところに、寄り掛かりたい男が居る。なのにふと見渡してみると一刀の回りには可愛い女ばかりだが自分は可愛げが無い。そろそろ華琳様は一人の女の子としてお前と幸せを甘受したいのに、それが失われてしまうかも知れないと恐れているんだ。華琳様は、お前が思うよりもずっと、劉備よりも孫権よりも普通の女の子なんだ」
「…なんかほんとっぽく聞こえた」
「これも秋蘭の受け売りだからな」
「そうなんだ。…なんにせよ、華琳は…そのうん、情緒的に落ち着いたと思うから。これからも大事にするよ」
「そうしろ」
流石に『幼児プレイに目覚めて色々吹っ切れて幸せそうで良かった』とかは色々台無しなので言えない。
春蘭の廻された手に自分の手を重ねて、背中に感じる彼女の鼓動に暫く聞き入った。
「これはこれで悪くないからな…」
「何が?」
彼女の小さな呟きがふと耳に入る。
「いや大したことじゃない、こういう時もってことだ」
「こういう二人きりってこと?」
「いいから聞くな馬鹿!」
「あ、気になる!生意気言うのはこの口か!?この口か!?」
「あ馬鹿っんんっ…んぅん、んむ…んふ…」
正直春蘭はチョロい。ちょっとぎゅーっと抱きしめて口の中を舌でイイ子イイ子してやればほら。
「ね、教えて春蘭。いい子の春蘭は教えてくれるよね?」
「…だ、だって…四人の時は、皆と私の事をいじめるじゃないか、…でもふたりの時は、優しく、ちゅっちゅって、ぎゅって、いっぱいしてくれるから…ぁ?」
「すまん俺の中の危険な何かが目覚めた」
「ふぁぇっ!?」
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「うう…………ケダモノめ…」
「…ごめん」
「も、もう駄目だって、壊れるって…もう駄目って、私言ってたのに…うぇぇ」
「ほんとごめん俺も本気で謝りたいんだ、だからそんな可愛い顔しないでくれまた危険な何かが」
「馬鹿っ………………で、でも優しく…」
「?」
「優しく、ちゅっちゅって、ぎゅってするなら…、許してやる…」
「させてくれ、朝が来るまで春蘭と抱き合ってキスしたい」
「うん、わ、私もしたい…………っんぅ…ん……………………また、こんなにぃ………ゆっくり、ゆっくりならいいから………んっ……はぁぁん…」
ああもう春蘭はかわいいなぁ!
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『その後』の、春蘭さんと一刀さんです。超短編です。