貴柳ホワイトデイズ1
バレンタインに手作りチョコを渡された俺は今日という日を迎えた時から
貴之から刺さるような視線を受けていた。
何かしただろうかと頭の中で考えるも、思いつくのは貴之が何かしら
しでかしたことしか浮かばない。そして、ふとカレンダーに目を向けると。
ホワイトデーの文字が目に入った。
そういうことなら直接言ってくれればいいのに。仕事の途中で電話が入り
外での用事を済ませると、帰るのにちょうどいい時間になっていた。
俺の前には暴れていた不良がボロクソの雑巾のようになっているのを
部下に任せて俺は一度本部へと戻った。
「解決してきました」
「ごくろう」
警部に報告をしてから荷物を持って外へと出る。
まだ寒い空気が流れ吐く息は白く空へと上っていく。
いつもなら真っ直ぐに帰る予定だったが、近くにあった店に寄ってみた。
内装がそれっぽい雰囲気を醸し出していたから入ってみたら
ちょうどホワイトデーの商品が並んでいた。今日までのようでちょうどよかった
俺は商品を軽く流すように見ていると一つの売り物に目がいった。
それは綺麗に包装されてる美味しそうなホワイトチョコレートだった。
もらったのはチョコだし他に思いつきもしない俺は単純ながら色の違う
チョコレートでお返しをすることにしたのだ。
「お買い上げありがとうございました~」
店員の愛想の良い笑顔はやや印象的で、俺はそのまま店を出ると
買った袋を見て、らしくないほど胸が躍り早く貴之に見せるのが
待ち遠しく感じていた。
「おかえり、柳川さん!」
「あぁ、ただいま」
帰ってきたばかりですぐに玄関に飛んでくる貴之の表情がどこか犬のようである。
尻の方を見れば尻尾でもありそうなくらいだ。
貴之は何かを待っているかのようにそわそわしているが、それは俺も同じことで
背後に隠してある袋をいつ出すか。少しドキドキしていた。
「柳川さん、後ろのなーに?」
だが貴之が見つける方が早く俺は観念して貴之に袋を渡して、貴之の横を通り過ぎる。
「たまたま店を見つけてな」
俺の言葉の意味に気づいたのか、背中からでも感じられる嬉しそうにしている
雰囲気に俺は思わず口角が上がっていた。これほど口が緩むのもどの位ぶりだろうか。
「ねぇねぇ、柳川さん~」
「どうした」
食事が終わり食器を洗っていた俺に呼びかけてくる貴之。
こっちは忙しいから用事がある方から来ればいいのにと振り返ると、そこには
貴之の顔があり思い切りキスをしてきた。
手が泡だらけで濡れていて身動きができなくて、言葉で止めさせようとしても
口も塞がれて何もできない状態だ。貴之から一方的にされている内に
ある特有の甘さが口の中に広がってきた。
「おいしい?」
「んはぁ・・・」
少し息を整えている間に返事を待たずに再び口をつけてきた。
そうだ、これは帰ってくる時に買ってきたホワイトチョコレートの味なのだろう。
動けなくて息が苦しくて涙目になっている俺の口の中にほぼ溶けていたであろう
チョコレートが放り込まれた。
「柳川さんも美味しくいただきました」
「お、お前なぁ…」
お湯を流して手を綺麗にしてから悪気のない笑顔を浮かべて俺を待っていた貴之を
睨みつける。だが、顔中が熱くなっていて迫力なんか出ていなかったろう。
事実反省してないでヘラヘラしているのだから。
「俺にも食わせてどうするんだよ」
「だって、美味しいのは分け合って食べた方がもっと美味しいじゃん」
「ははっ」
俯きながら俺は口の中にあった残りのチョコを溶かして流し込んだ。
その中には貴之の唾液も混じっていて何だか不思議な気持ちになった。
「違いないな」
少しの間で考えて貴之に聞こえるか聞こえないかの音量で呟くと
貴之が聞いてくるので、恥ずかしい気持ちを消すように黙れと連呼した。
しかしいくら好きの気持ちからきた行為でも、不意打ちでしたことは頂けないので
貴之のおつむでも理解できるくらいには延々と叱る間に別のことを考えていた。
こういうイベントはあまり好きにはなれないが、好きな奴と一緒なら
悪くはないと、そう思えたのだった。
お終い
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リア友からリクエストを受けたので普段のお礼の気持ちを込めて書いたもの。