第33魔 反撃の時
アスナSide
「嘘、だよね…? うそ、って…言ってよ…」
反応が無いキリトくん。髪が長いせいでよく見えない瞳、しかしそこには光が宿っていない。
須郷は笑みを浮かべている。
「無駄だよ、アスナ君。コイツはもう人形なんだ」
「お願い…何か、言って……キリトくん…」
再び声を掛けるけれど、何も返事をしない。
「キリト、くん…」
呼ぶ、彼の名前を…。
「キ、リト…くん…」
もう一度呼ぶ…。
「キリ、ト……く、ん…」
まだ、わたしは、諦めれないから…。
「キ…ィト、く……」
だから、何度でも…。
「キリトくん!」
呼んで見せる!
「ははは、無駄だと何度言え「(バキッ!)」ばはっ!?」
「ちっ、耳元でガタガタ喚くなよ……下種が!」
「え………」
金髪の男が吹き飛ばされた……一瞬で動いた何かに、いや彼によって…。
「ごめん、アスナ……もう大丈夫だ」
「っ、キリトくん!」
微笑むキリトくんにわたしは立ち上がって抱きついた。
須郷が吹き飛ばされたことによって、魔法が解けたのか動けるようになったのだ。
「ば、バカな……何故、動ける!? いや、何故意識があるんだ!?」
奴は立ち上がって問いかけてきた。その表情は憎悪などによって歪んでいる。
「ペラペラと自白してくれたお陰で、色々と手間が省けた」
「え?」
「なん、だと…?」
キリトくんの思いもよらない一言にわたしも奴も驚いた。
アスナSide Out
キリトSide
くそ、ゲームの中だというのに頭がクラクラする。変な電子信号を送りつけやがって。
「なぜだ、なぜだー!?」
「ダマレ!」
「ひっ……」
喚く須郷に対して殺気を全開にして言い放ったことで、奴は後ずさりする。
「システムログイン、ID『ヒースクリフ』、パスワード『……………』」
「な、なんだ、そのIDは!?」
俺は茅場から譲り受けたIDを発動させ、須郷は展開についていけずに動揺している。
「さて……何故俺が無事なのか、そんなことはどうでもいい。まずは観客を紹介するとしよう」
「観客だと…?」
「ああ……現在ALOをプレイ中のプレイヤーのみんなだ!」
俺が宣言した瞬間、暗闇に包まれていた空間は消滅して俺達は鳥籠の中に戻された。
そして俺達の周りにいくつもの画像が映し出された、そこにはALO中の妖精達がこちらを
食い入るように見ていた。アスナは驚いた表情で俺に縋りついている。
「なあぁ!? ど、どういうことだ!?」
「実はさ、さっきまでのお前の発言、全部プレイヤー達に流していたんだ」
「あ…な、あぁ…」
驚愕のままに聞いてくる奴に俺は説明してやった。絶句してやがる。
「勿論、俺に斬り掛かっているところ、外道な研究の説明、ペインアブソーバーという危険なものの扱い、そして脅迫だ。
これだけの観衆に全部見聞きされていたらどうしようもないな」
「ぐ、バカ、な…」
俺の言葉に奴は表情を歪めていく、だがそれを笑みに変えてから宣言した。
「システムコマンド! ログアウトを不可能に!」
「システムコマンド! ログアウトを可能に! ログアウトシステムへの干渉を拒否!」
それに対して俺はログアウトを可能にしてから、そのシステムへの干渉を拒否させた。
「くそ!」
「さらにこんなものを用意してみたぞ…」
俺はウインドウを操作して新たな映像をALO中に展開させた。その映像とは…、
『皆さん。ここはSAOから生還できたにも関わらずに、ALOへと閉じ込められた300名の脳が囚われているところです!
『実験体格納室』と表示されています! 加えて精神に負担を与えているようです!』
「ど、どういうことだ!? やめさせろ!?」
映像に現れたのは黒髪に白いワンピースを着た大人の女性だ。
しかし俺とアスナが彼女を見間違えるはずなどない、彼女はユイである。
先程俺はユイにGM権限を譲渡して実験室に送り、茅場と協力してこの映像を配信させたのだ。
まぁそのせいで俺は権限を行使できなくなり、ヤバい状況になったのだが…。
しかしそれも茅場とユイのお陰で意識を取り戻せたわけである。
ちなみにユイの後ろには〈ブルスラッグ〉が2体いるのだが、
炎の大剣で地面に縫い付けられている……なんて恐ろしいことを。
「くそ、くそ、くそぉ!
システムコマンド! オブジェクトID『エクスキャリバー』をジェネレート! うおぉぉぉぉぉ!」
奴は最強の剣と言われているらしい剣を出現させ、俺に向けて振り下ろしてくるが…、
「遅い!」
「ごはっ!?」
俺は剣を避けてから掌底を奴の腹に放ち、吹き飛ばした。
「僕は、僕はこの世界の神だぞ!? な、なんで…!?」
「そうじゃないはずだ。お前はただ盗んだに過ぎない……茅場晶彦からこの世界の行く先を、
このALOを愛するプレイヤーから楽しみと希望を、住人達からは命を、盗んだ物を飾って見ている泥棒の王だろう?」
「き、さまぁぁぁ!?」
俺は真実の言を、ただ突きつける。それをこの世界の人達にも焼き付けてほしいから。
「ならばこの情景はなんだ! 空中都市の存在しない、アルフの存在しないこの世界樹は!」
映像に映っているプレイヤー達に動揺が奔っている。
自分達の目的は最初から存在しないのだと、そう知らされたからだ。
「さて、レクトがこのことを知っているのか? 知っているはずがない、お前は自身を神だと言った。
つまり在るように見せかけることはいくらでも出来る。
レクトもまた、お前に売られた被害者だ……そういえば、こんな音声も録音していたっけな?」
俺はウインドウを操作して決定を押した、すると…。
『少しばかり予定が狂ったけれど、結城の人間を思い通りに操ればどうとでもなるか』
「お前が俺の前で言い放ったことだ…人を操って自分の思い通りにしようとするとはな」
その須郷の声の音声が流れ、俺はそれに続けて言った。最早奴に弁解の余地はない。
「貴様に、何が…!」
「システムコマンド。
オブジェクトID『ルインアイド』、『ロキストレア』、『コート・オブ・ダークネス』をジェネレート」
奴の言葉を遮るように宣言した。俺の体を粒子化した光が纏うと漆黒の服とズボンを身に着け、漆黒のコートを纏う。
「そろそろ決着を着けるとしようか? 泥棒の王と覇道の王の戦いに……」
既に互いにペインアブソーバーはレベル0になっている。
俺が受けた激痛を奴も受けることになるだろう。
別に俺はそれで非道扱いされようが構わんがな。
「逃げようなどと考えるなよ? アイツは、茅場晶彦は決して臆するようなことはなかったぞ!」
「茅場…ヒースクリフ、またアンタが邪魔をするのか!? 死んだくせに、なんで邪魔をするんだ!?」
「戯言も大概にしろ、須郷伸之! お前程度があの男を語れると思うなよ!」
俺は覇気を展開して奴を黙らせた。
「う、あ……システムコマンド! 『オブジェクトイレイサー』!」
「システムコマンド、『イモータルオブジェクト』」
絶対破壊のシステム攻撃に対し、俺は絶対防御のシステム防御を展開して防いだ。
まったく、俺はこんな戦いは望んでいないんだがな…。
「くそがぁぁぁ!?」
「ちっ、あの野郎!」
須郷は叫ぶと鳥籠の格子を破壊してALOの空中へと逃げていった。
俺は追いかけようとしたが、アスナが俺の腕を掴んだ。
「キリトくん。いま、みんなが見てるんだよね?」
「ああ…」
「それなら全部が終わった後に、聞かせてもらいますからね?」
「は、はい…」
迫力のあるアスナによって言い負かされた。
ALO中のプレイヤーに見られていると思うとちょっとアレだな…。
「それじゃあキリトくん、これを…」
アスナはアイテムストレージから2本の剣と2本の刀を取り出した。
それらは俺の以ての愛剣達だ。
「『セイクリッドゲイン』、『ダークネスペイン』、『アシュラ』、『ハテン』、か…。ありがとう、アスナ」
「どういたしまして♪」
彼女に礼を言うと、俺は映像に浮かぶALOのプレイヤー達を見回し、宣言した。
「システムコマンド、全プレイヤーのフライトシステムをオールグリーンに!
システムコマンド、限界高度を削除!」
これはつまり、ALOでの完全飛行を可能にさせたということだ。
俺には翅は無い、だが飛行のイメージは出来る。
アスナと手を繋ぎ、ウンディーネの姿をした美しい彼女は翅を展開した。
「行くぞ!」
「はい!」
俺はアスナと共に逃げた須郷の後を追った。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
キリトさんは操られましたが、茅場とユイちゃんのサポートを受けて意識を復活させました。
『ルインアイド』、『ロキストレア』、『コート・オブ・ダークネス』はオリジナルの服と長ズボンとコートですが、
原作の妖精キリトの装備をイメージしています。
敢えてキリトさんは下種郷のシステムIDをダウンさせずに、1つ1つに対応しましたw
そしてある意味一番エグイキリトさんのやり口、レッツ『公開処刑』タイムが始まります♪
ちなみに全プレイヤー参加型ですが、なにか?
本当の最終決戦が始まりますので、是非お楽しみに・・・。
それでは・・・。
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第33魔です。
操られてしまったキリト、しかしそこに大きな光が差し込む!
どうぞ・・・。