浮草
水草
根無草
連なる軒の一軒に
宿を構えた根無し草
彼の名前は浮草で
赤茶の髪をした男
片目を落とした色男
髪結いが静かに暇を告げてから半刻、
僕らはしげしげと浮草の髪を見る。
きちんと梳かされた赤茶は鋼のような、
銅のような鈍い色をしている。
「きれいだね」
「触ってもいいかい」
浮草は眉を上げて笑いながら、
「好きにしろよ」
とだけ返す。
雨上がりでばさばさとしていた髪が、
今はしんなりと強い。
「浮草は明日もここにいるのかい」
「俺は浮草根無草。好きなところで眠るのさ」
「浮草は明日はどこで寝るのだい」
「明日の俺が好きなところ、そこで明日は眠るのよ」
それはとてもいいねと、
僕らも笑う。
浮草も笑う。
浮草の片頬を歪めて作る笑いが、僕らは好きだ。
彼の瞼にぽっかりと隠された、暗い空洞によく似ている。
ある朝、
僕らは川の畔で眠っている浮草を見た。
彼は素足を水に浸し、熱を流しながら目を閉じている。
「やぁ、浮草」
「今日はそこが君の寝床なのかい」
浮草の髪はまたばらばらとしていて、
土を被り砂利に混じっていた。
髪結いを呼ぼうかと相談しながら、
僕らは橋を渡っていく。
彼は浮草根無草。
ここと定めたその場所に、
いるのは短い間だけ。
ほんの短い間だけ。
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止め処無い話