意味なんかなくて良いと笑うのはもう止めにしたよ。
君が求めるより多くの意味を紡ごう。
全ての言葉に意思の力を。
灰青は昔から馴染みの店主で、店の中には骨董品やら古本やらを山積している変り者。
僕らは割りと彼を気に入っていて度々店を訪れる。
丸眼鏡の底から笑いかける穏やかな目も好きだ。
彼は珈琲を挽くのが巧い。
「灰青」
「なんだい」
「灰青」
「なんだい」
僕らは口々に彼を呼ぶ。
彼は同じ返事を繰り返す。
そうしてまた、僕らはクスクスと笑う。
灰青が一番愛しているのは小さな銀製の人形だ。
彼女は細い爪先で地面を踏みながらくるくると踊る。
古の西の都から海を渡ってきたのだという。
彼女がいとおしいのだと灰青はいつも呟く。
「灰青は彼女と結婚するのかい」
「結婚ならとっくにしているさ」
「灰青は彼女と添い遂げるのかい」
「彼女は私よりうんと長生きだよ」
そう言って灰青は笑うのだ。
僕らはそれを見るのが好きだ。
ある日灰青の元に赤い紙っ切れが届いた。
店を閉めなくてはと、彼はまた笑う。
僕らは彼の目の方を閉めて、彼女と共に埋めた。
彼の胸の上で彼女はくるくると回る。
彼女は君よりもうんと長生きだよ。
君が生まれる前から生きて、君が死んだ後も生きる。
今も骨董品屋の庭では、彼女がくるくると踊り続けている。
その銀の生き物は、ideeという名前を持っているのだった。
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止め処無い話