No.54745

彼らはポーのように <はいあお>

haruさん

繰り返す時間
止め処無い話

2009-01-28 22:43:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:478   閲覧ユーザー数:466

 

意味なんかなくて良いと笑うのはもう止めにしたよ。

君が求めるより多くの意味を紡ごう。

全ての言葉に意思の力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰青は昔から馴染みの店主で、店の中には骨董品やら古本やらを山積している変り者。

僕らは割りと彼を気に入っていて度々店を訪れる。

丸眼鏡の底から笑いかける穏やかな目も好きだ。

彼は珈琲を挽くのが巧い。

 

「灰青」

「なんだい」

「灰青」

「なんだい」

 

僕らは口々に彼を呼ぶ。

彼は同じ返事を繰り返す。

そうしてまた、僕らはクスクスと笑う。

 

灰青が一番愛しているのは小さな銀製の人形だ。

彼女は細い爪先で地面を踏みながらくるくると踊る。

古の西の都から海を渡ってきたのだという。

彼女がいとおしいのだと灰青はいつも呟く。

 

「灰青は彼女と結婚するのかい」

「結婚ならとっくにしているさ」

「灰青は彼女と添い遂げるのかい」

「彼女は私よりうんと長生きだよ」

 

そう言って灰青は笑うのだ。

僕らはそれを見るのが好きだ。

 

ある日灰青の元に赤い紙っ切れが届いた。

店を閉めなくてはと、彼はまた笑う。

僕らは彼の目の方を閉めて、彼女と共に埋めた。

彼の胸の上で彼女はくるくると回る。

 

彼女は君よりもうんと長生きだよ。

君が生まれる前から生きて、君が死んだ後も生きる。

 

今も骨董品屋の庭では、彼女がくるくると踊り続けている。

その銀の生き物は、ideeという名前を持っているのだった。

 

 

 

 
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