No.523635

【改訂版】 真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 六章:話の五

甘露さん

・グロ中尉
・Sir! Yes,sir!(無関係
・奉先ちゃんすげえの回です

2012-12-26 23:26:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3974   閲覧ユーザー数:3479

 

 

**

 

 

「詠ちゃん、お疲れ様でした」

「ゆ、仲頴様、そんな」

 

月の天幕に召され集ったのは四名の最側近達であった。

賈駆、華雄、張遼そして、高順である。残りは賈駆の主簿である李儒と交戟の衛士だけである。

 

「いいんだよ詠ちゃん、此処にいる人なんて皆気心知れた仲でしょ?」

「そ、そうかな……」

 

霞が何とも言えない表情で乾いた笑いを漏らしたが、月はそれを意図的に無視し話を進める。

 

「さて、じゃあ始めましょうか。詠ちゃん、事の具合はどう?」

「ええ。至って問題なく進んでいるわ。損耗率や脱走率もずっと低くって兵糧も予想より余裕がある」

「じゃあ次からはもっと減らしても大丈夫なのかな、北郷さん」

「いえ、あくまでも今回は月様の支持基盤が盤石な地域での行軍でしたので民草や有力者からの支援が多々ありました。余所へと出向いた場合にはこうも行かないでしょう」

 

一刀の答えに月はにこにこと頷いただけであった。先程からの理解しがたい態度に思わず一刀は首を傾げそうになる。

月の行為の意図が見られないのだ。本当に重要な内容を近臣だけで話しあうのならばもっと機密性の高い空間で行われる筈なのだ。

手配された密室か、遮蔽物の存在しない平原か。

 

「華雄さん、こちらの騎兵たちの様子は?」

「はっ。誰も彼も無駄に体力精力共に有り余っている様子でありますな。つまりは非常に元気で」

「それは重畳。文遠さん、部隊を率いた感想はどうですか?」

「え、えっと。なんやこう、千よりもぎょうさん居ると思う様に行かんことばっかで疲れましたわ。華雄はんの凄さが身に染みます」

「初めてであの規模を指揮してこの成果ならば十分でしょう。文遠さん、期待していますよ」

「は、はいっ!」

 

その後もさして重要そうにも思えない問答がいくつか続くと、ついに疑問が堪え切れなくなったのか詠が口を開いた。

 

「……ねえ月、これの意味って一体?」

「そうだね、もうそろそろ良いかもね」

「へ?」

「奉先さん、どうでしたか?」

 

月の一言に、天幕の入り口に立った衛士が交戟を開く。現れたのは一般兵装に身を包んだ長身の少女、呂布奉先であった。

キリ、と通った眼筋から、形容しがたい圧倒的な気配が周囲に溢れた。月とは異なる、孤高の龍の様な、ただひたすらに“強さ”の溢れる気配であった。

この登場には書面の上で危険性を判断し、安全に隔離することを模索していた一刀が一番に目を剥いて驚き、そして月はその様子を見ると楽しそうにころころと笑った。

魔王の慧眼から、龍を隠す事は不可能であったのだ。

 

「……居た」

「首尾は?」

「……うまくいった。三人、……つかまえた」

「それで全員ですか?」

「恋が気付いた分は……みんなつかまえた」

 

その言葉に月も満足げに頷く。

 

「上出来です。生きていますか?」

「一人あぶない……でも、あとは、大丈夫」

 

奉先の答えに月は満足げな笑みを浮かべた。

対して奉先はその能面を崩す事無く無表情のままである。

 

「へぅ、ではご対面と行きましょう」

 

脱力を誘う月のほんわかした口癖と、真逆地で行く魔王らしい笑顔でへうと一つ、それを合図に奉先は簀巻きにされた“何か”をどちゃり、と擲った。

 

「っく、うぁ……」

 

簀巻きにされた何かは人であった。

衝撃に苦悶の声を一人が漏らす。残りの二人は身動ぎの一つもしない。

 

「奉先さん、これはもう一人も危ないですよ」

「……間違えた。ごめんなさい」

「太平道の間者ですか。しかし入り込んでいるものですねえ」

 

しょぼん、と触角のような二本のアホ毛が垂れさがる。

にこにこと微笑むだけの月に、最初に声をかけたのは一刀であった。

既に冷静さもなにもかも取り戻している様で、温度の感じられない怜悧な声色で地面に伏せた間者を見下ろしながら言った。

 

「へぅ、太平道だけじゃあ無い様ですけどね。ここに迫っているのは本隊でなく所詮は惨敗兵の一派ですがその割には、元気そうな彼女は特に中々に立派な装備です」

 

楽しそうに苦痛に顔を顰める間者の額当てをなぞる月。

一寸一刀に遅れ状況を理解した詠はやれやれとこめかみを押さえながら近衛を率いる華雄に向き直った。

 

「……警備を徹底させなきゃねえ。ったく、華雄、アンタの部下たるんでるんじゃないの?」

「面目ない。行軍が終わったと気が抜けたのだろう」

「近衛は高々五百なんだから、顔と名前くらい全員に覚えさせときなさいよ、本当」

「うむ、以後徹底する」

 

徐に華雄は頷くと、衛士の一人に怒気のこもった視線を送る。

贈られた彼は一つ頷くと戟を携えたまま華雄を先導し、のっしのっしと表へと出る。一瞬の後に怒声が飛んできた。

将軍直々の命である。外では筋骨隆々の大男やしなやかに鍛え上げられた女戦士が慄き縮こまっているのだと容易に想像がつく一刀たちだった。

しかし状況を未だはっきりと理解して無いのか困惑の表情できょろきょろとする者が一人、霞で在る。

 

「あの、えっと、なんぞです、これ?」

「呂布が間者を見つけて捕まえてきたのよ」

「いや、それは分かるけど……」

「なんで今? って聞くのは無しだぞ霞、ちょっと考えてみなよ」

 

可愛らしく小首を傾げる姿を尻目に、一刀は奉先へ向き直ると問いかけた。

 

「呂布、彼らの身がらは引きとっても構わないか?」

「……いや」

「え」

「呂布は嫌、恋は奉先」

「ああ、なるほど。済まない奉先」

「……構わない」

 

字を呼ぶ、という行為は、姓名で呼ぶよりも相手を認めている、或いは親しみを込めたり対等に扱っているという証である。

社会的な階級という点で見れば奉先は比べるまでも無く格下である為、なんら妙なことではないのだが、彼女自身の開花した才能がその扱いを良しとしなかった。“強い”己がどうあれ個人として認識した存在に侮られるのは許せなかったのだ。

それは一般の視点からでが驕りと捉えられる行為であり、相手次第では首が飛びかねない行為であるが、一刀は憤慨する事も無く素直に従うことを選んだ。

真名を利用する彼らしい、実に冷めた客観視点から怒りに流され現在に危険を生み出すよりも、主にとって有用な少女を今この瞬間に認めることで危険を回避することを彼は選んだのだ。

加えて彼自身、目の前で、肌で感じ取った最強に一番近い存在への敬意とも畏怖とも取れる情を、彼の“男の子”の心に感じさせていた。

董仲頴とは異なるが、またこれも王才である、と。

 

その光景を目にし面白くないのは詠と霞であった。奉先の行為は、仮にも自らの才能を自負する彼女達二人がそれぞれ認めた男を見下した態度でしかないのだ。

二人は、字を強要した奉先を無礼な教養の無い者だと思い、それを笑顔一つで許容した一刀に形容しがたい嫌な感情が沸き上がった。

一刀は王才と無双の強さに感嘆し奉先を見詰め、奉先は不意に向けられた霞と詠の敵意にすっと目を細め威嚇する。現状が面白くない二人、詠と霞はむすっとへの字に口を曲げ奉先を睨んでいた。状況に踊らされていないのは、相変わらず聖女の如く微笑みで見守る月くらいである。

 

そして、数瞬の後。

ちりちりとした空気を破り、月は一刀に声をかけた。

 

「詠ちゃんと北郷さんに、彼らへの対応はお任せします」

「太平道の者は虫の息ですが」

「規模に戦力、保有する騎馬や弓の情報は多い方がいいですからね、ある程度は蘇生を試みても構いませんよ」

「御意」

 

すかさず主の声に適当な答えを返すのは流石であった。

王才を感じる奉先と、己を使役する覇王であり魔王で在る月では、優先度が天と地ほどに一刀の中で異なっていたのである。

一刀にとって美しさすら感じる圧倒的な強さの気配も、魔王の一言の前ではたなびく霧と変わらない。

 

「元気そうな彼女は……そうですね、所属くらい聞き出せたらそれで構いませんよ」

「畏まりました」

 

拳を突き出し拝礼一つ、一刀は月に臣下の礼をとった。

 

「ああ、そう。奉先さん、大義でした」

「……」

 

奉先がこくり、と無言でうなづく。

拝礼の一つも無い無礼な態度であったが、月は咎めもせず座から立ちあがった。

 

「ですのでご褒美です。そうですね……これを上げましょう」

 

その手には小柄な少女の倍ほどもある、長柄の美しく装飾された戟が握られていた。

戟は月の身長よりもはるかに長く不釣り合いであるのに、その姿は英雄伝の壁画よろしく非常に様になっているから不思議である。

 

「……牙戟?」

「はい。貴女の才とその戟で敵を討ったら、また会いましょう?」

 

そう言うが早い、月は戟を奉先に向かい投擲した。

まるで竹簡でも投げる様に軽々と放られたそれであるが、数十欣の重量は確実である。

しかし中を舞い、そして奉先へと至った戟はやはり軽々と受け取られる。一連の光景はまるで重さが無いかのように見ている者に錯覚させる程だ。

 

「分かった」

 

ぽつりとよく通る声で一言。同時に戟の石突きで一つ地を打てば、ずん、と地鳴りの如く鈍い揺れが辺りに伝わった。

軽いなどとんでもない、到底片手では扱えない程の重量に満ちている、そんな轟音と震動である。

これには月以外の全員、衛士までもが驚きに目を瞬かせ、月は確かな技量と無双に相応しい剛力であることに満足したらしく、ほう、と艶やかな吐息を漏らした。

 

「下がってよろしい」

「……失礼、しました」

 

命令にお返しの拝礼を一つ、奉先は賜った戟を携え天幕から消えた。

 

「文遠さんも今日は下がって構いませんよ」

「あ、はいな。ありがとございます」

「詠ちゃんは残って。北郷さん、明日の朝また報告してください」

「御意」

 

どうやらこれでお開き、であるらしい。

簀巻きにされた間者を兵に引き摺って来るよう指示すると一刀と霞は揃って拝礼をして天幕から退いた。

 

「なーなー一刀、結局仲頴様は何がしたかったん?」

「……まさか分からんかったのかよ?」

 

衛士に見送られ天幕から出れば開口一番、霞が一刀に寄り添いながら訊ねてきた。

 

「いや、さっき言うた通り、今なら一番ゆるんどるやろうし、そういう時ん方がやりやすいんやろなー、とは分かったんやけど」

「じゃあどうしたのさ」

「なんでウチら集められたん? ……おもろないけど、護衛も捕縛も奉先ちゃん居ればうちらいらんかったやろアレ」

「確実に誰か捕まえたかったんだよ。考えてみろよ、仲頴様の軍勢の中心人物が一同に揃ってる会議なんてネタの宝庫にしか思えんだろ」

 

一刀の説明に納得した様子を見せない霞。

一寸悩み、再び疑問を口にした。

 

「うーん、でもそんな露骨にしたら警戒にいってまう人も出るんやない? てかウチなら絶対警戒する」

「端から全部捕まえる気なんて無いさ。ただ警告しただけ、お前等が居ること気付いてんだぞ、下手なことしてみろ、殺すぞ。て」

「死ぬことビビるタマがこないなとこに居るかいな」

「臆病風に吹かせたい訳じゃなくてだな、ただ情報を探ることを警戒させた方が相手も鈍くなるだろ?

 情報が漏れないなんて最初から無理、なら始めっから損失覚悟しておいて、如何にその損失減らせるかを考えた方が建設的な訳よ」

 

霞は答えにどうも納得できないのか、うー、だの、むー、だの一頻りの唸り声を上げた後、諦めた様子で顔を上げた。

 

「……小難しいこと考えとるんやなあ。やっぱウチには向かんわ」

「大丈夫、最初から期待して無い」

「酷っ」

「大体だ、五年前にあんな外道まっしぐらのクソ餓鬼と同居しちゃおうなんて思う時点で霞の賢さは理解してる訳でだ」

「あれは一刀が悪い、あんな興味引かせる言動した一刀が悪い」

「釣られた霞も大概だろ」

「『……なら悪い事は言わん。さっさと出てけ』っとか、キリッとふて腐った顔で言われたんやで」

「……覚えてんのかよ」

「一語一句違わず」

「……嘘だな」

「ほぉー、かずぴーさんや、そない態度とってええんか、ああん? 今のウチはあんたを悶絶し殺す事も不可能や無いんやで?

 たとえばー……『霞……二人で、逃げよっか……』とか?」

 

冷や汗が止まらない一刀を尻目に、少し照れたのか頬を染めつつ、霞はにゃはと二ヤケながら一刀に言葉の剣を突きさした。

 

「ちょ」

「えへへ、一刀ん恥ずかしい台詞は全部ウチの甘酸っぱい思い出やで?」

「おま」

 

惚気殺すってこういうことか、と謎の理解が一刀の中で深まる。

これで死んだならば死因は憤死なのだろうか。いや、恐らく死妬に狂った兵士による血祭りが原因になるだろう。

 

「『霞が起きたんだろ! 落ち着いてなんて居られるかっ!』にゃは、あれにはじゅんときたで?」

「ごめんなさい俺が悪かった」

「そう言えばウチらと仲良かった猪々子と斗詩は元気しとるかなあ」

 

色成分の不足しがちな陣中、そのど真ん中でいちゃいちゃと桃色を垂れ流す一刀(彼限定)には既に絶対零度の視線が降り注いでいたのだが、新たに登場した女性の真名にさらに体感温度が二五八度程下がった様に、一刀には感じられた。

 

「本当に申し訳ございません赦して下さい」

「『霞無事か!? 怪我は無いか!? 体調は良いか!? 凍傷になってないか!? 誰かに孕まされてないかっ!?』とか、流石に恥ずかしかったけど、やっぱ嬉しかったで?」

「ねえ、聞いてよ、ねえ。ごめんってば」

 

最早屋外と言う事さえ関係なく、情けない言葉づかいで平謝りする一刀。

 

「んじゃ、ウチ部屋に戻るわ。お仕事頑張ってな、一刀」

「嗚呼、兵の視線が痛いよ。視線・物理だよこれ絶対」

「あ、奉先ちゃん確かにむっちゃすごかったけど、あの対応はいかんで。ウチ泣いてまうで?」

「霞さんの優しさに感動、周りの温度が氷点下だけど俺は今日も元気です」

 

絶対零度なんて目じゃないぜ、と謎の自信が一刀の中に芽生え始めていた。

そんな旦那を余所ににゃははと笑いながら手を振り何処かへ去る嫁に手を振り返し、やがてその姿が見えなくなると、途端に一刀の表情から一切の色が抜け落ちた。

残虐で外道、生き残るために培った一刀の裏面が姿を現したのだ。

 

「……さて、と。嫁にゃ見せられんお仕事、やりますかね」

 

冗談半分で嫉妬と憎悪を向けていた兵士たちはいつの間にか、そそくさと散って消えた。

 

「用意は出来たか?」

「はい、滞りなく」

「良し。始めるぞ、着いて来い」

「御意」

 

忠誠の表れとばかりに深々とされた、間者を引き摺る兵士の拝礼には振り返りもしない。表情、行動、言葉、どれも無味無臭。

引き摺られ消耗し、悲鳴も出なかった筈の間者から悲痛な恐怖の呻きが聞こえた。

 

 

**

 

 

「お、おい……あれを見ろよ」

「……見てるだけで痛ぇ、死んだ方が余程マシだろありゃあ」

「こう、腹の底がキュッてなるわね」

 

明朝、朝靄が陣に立ち込める。

夜のうちに置かれたのだろうか、手足を拘束し一切の挙動を赦さない座椅子に括りつけられた間者が陣の中央に据えられていた。

ぞり、ぞり、ぞり。と。足の先から。

 

「まあ、捕まった間者なら仕方ねえわな」

「怖い怖い、っと、眺めてて遅刻とか笑えんぜ」

「行きましょ。愚図に寛容な程隊長様は優しくないわよ」

 

兵たちは一瞬、驚き立ち止まるがそれ以上の興味を示す事も無い。

ぞり、ぞり、ぞり。と。無くなってゆく。

 

「だな」

 

くるり、と兵士がせを向ける。

間者は既に発狂していた。

 

ぞり、ぞり、ぞり。と。

その足に群がる山羊のやすりの様な舌は、間者の血肉を生きたまま削ぎ落す。

最初は塩を塗られた足をぺろぺろと舐められる、それだけだった筈なのに。

皮膚は当に無くなり、真っ赤な血肉が顔をのぞかせる。奥に見える白いものは骨だろうか。

人畜無害の家畜に貪り削がれる間者は、今だ死ぬことも出来ずに、ぞり、ぞり、ぞり。と。

 

ゆっくりと、家畜に削ぎ殺される。

 

 

**

 

 

 

お久しぶりです、甘露です。

ごたごたしてたら結構時間経ってたのぜ。

 

三人称って難しいですね。

 

 

 

シリアスどうよ?って聞いたらリアクションが沢山あって結構嬉しかったです、はいw

なのでこの路線でしばらく走ってみる事にします

 

では


 
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