No.495548

【改訂版】 真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 五、五章拠点編・霞+α後篇

甘露さん

・嘗て無い長さ
・ぅゎょぅι゛ょっょぃ
・実は最後の1ページをやりたかった為だけに翠ちゃん出しただなんて言えない

2012-10-13 01:36:48 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3819   閲覧ユーザー数:3275

 

 

 

「すごーい! お姉様みてみて、あそこでつかわれてるのって大秦の金貨だよっ!」

「がらすの箱に波斯の夜光杯(ガラス細工の器のこと)……すげー、あれ壊したらあたしのお小遣いじゃ一生かかっても弁償できないかも……」

 

あっちをうろうろ、こっちもうろうろ。

店の門から中を覗きこんでは歓声一つ、立派な軍馬や行商の群れが走り抜けてや歓声二つ。

それお小遣いどころか一般文官の生涯賃金でも払えない様な代物ですよ馬超さん。嫌ですね泥棒じゃないですよ傭兵さん剣を抜かないで今すぐ帰りますから。

 

そうして先ずやって来たのは城から程近い高級商店の立ち並ぶ区画だ。

 

地理的に、交易商の通る街道の真上にある金城には自然と西から東、北から南まで陸路の物流の数割が流れ込む。

そこには金が集まり、物が集まり、何よりそれらに敏感な金持ちたちが集まる。

金持ちが集まればそこで金の流れが生まれ、自然と物も人もさらに巡るようになりより多く手に入れようと金持ちは躍起になる。

人が集まる金城には商売のチャンスが溢れる。

それらを利用する商人たちは自ずと立派な門をここに構え巨大な商家と商業拠点、つまりは商店を設ける。

 

その結果に完成したのが、この上流区、とでも名付けるべき街並みだそうで。

均一に整えられ都市計画に基づいた建物の群れの中を行きかう人々、そんな中でも特段目に付くのは何処かはんなりと品のある御婦人か如何にもやり手そうな商人さんと戟と剣を携え周囲を巡回する華将軍配下の、月様の私兵である衛兵。

 

先代で完成した街並みをさらに洗練させた月様の方針で治安は超が付く程良好に、地価は天井知らずに。

ここに店を持ったら貴方はもう立派な商人です、融資を受けて西方貿易にチャレンジしてみても良いでしょう。但しご利用ご返済は計画的に。

どこの消費者金融ですかと訊ねたいがそれは置いといて。

 

「で、あたしたちってなにしに外に出たんだよ?」

「おばさまは案内のひとにまかせた! っていってたけど、なにするの?」

 

くりくりとした瞳を瞬かせながら二人はそろって訊ねた。

単に遊びに出てきたんだと浮かれないところが文句無しに立派だと感心する。未来の十歳の俺なんてひたすら遊ぶことしか考えて無かったからなあ。

じゃれ付く馬岱の頭を軽く撫でながら、俺は言葉を選びつつ彼女達に応えた。

 

「良い為政者は民草の日常を知っているものです。先ずは此処で大いに政治と経済を動かす商人の暮らしを見てみましょう」

「せーじとけーざいをうごかす?」

「はい。例えば戦で用いられる矢や武具、これらは何処で手に入りますか、馬超殿」

 

疑問符をたくさん頭上に浮かべて、そろってこてんと頚を傾げる三人。っておい、霞、おまえ、おい。

 

「あたしかっ!? えーと……んーと……武器庫?」

「確かに間違いではありませんね。馬岱殿、貴女はどうですか」

 

小さく笑顔を向けながら頭を撫でると、馬超はひとつ面白くなさそうにむうと頬を膨らませた。

正解ではなかったことが面白くないのか、子供扱いが不服なのか。

とりあえず撫でる手を跳ねのける様な様子も無いので、俺は手を止めることなく馬岱と目を合わせる。

 

「んーとねえ、さっきの北郷さんのあれが鍵のはずだからー……わかったよ! しょーにんさんから買うんだね」

「その通りです。我々為政者は、税を民から得ることが出来ますが品を得ることはできません。それを得るには持っている人物と対等に“商売”をし、買い取ることが必要なのです」

 

一寸考え込むそぶりを見せるも、馬岱は直ぐに顔を上げにやりとほくそえんだ。

悪戯を考えた子供そのものの純真な邪悪さを備えた表情につい背筋にうすら寒い物を感じる。

 

「えー、でもさ、商人だろ? あたしらがその人からもらっちゃ駄目なのかよ。あたしたちはそんな人達を守ってるんだぜ、外の蛮人とか盗賊とかから」

「いいえ、それではいけません馬超殿。例えば、私が数十の暴漢に絡まれた馬超殿を救ったとしましょう、そして私は、馬超殿にこういう訳です。“暴漢から助けたんだ、お礼にお前の持っている槍をよこせ”と。さて、馬超殿、どう思われますかな」

「えっと、とりあえずすっごい、なんていうかこう、むかーってなると思うけど……」

「それは何故ですか?」

 

俺の言葉に馬超は、何を言っているんだと懐疑の視線を向けた。

そしてそれを隠さないままにゆっくりと口を開く。

 

「そりゃあ、助けられた恩があるっていってもさ、それに漬けこんであたしを舐めてるんだぞ。怒るに決まっているじゃないか!」

「それと同じですよ、馬超殿」

「へ?」

 

望んだ台詞を引き出す事が出来た。

誘導しやすい馬超への少しの苦笑と、そこへ繋げることのできた十歳の指導者としての素質への賛辞の笑み。

合わせて混ぜたそれを張りつけて俺は諭す口調で首を傾げる馬超に言う。

 

「例え私達が彼等の商いを助けているとしても、それを笠に着て横暴なことをすれば彼らの心は離れてしまうでしょう。彼等も馬超殿と同じ人間ですから。するとどうなりますか、品物を売る彼等の心を離してしまえば、果たして買う側の私達は?」

「あ……」

「馬超殿も充分に聡明でいらっしゃいますね。さて、これで私が何故商人達を見せに来たか分かりましたでしょうか?」

「はいはーい! てことはあ、気づかないうちに舐めてえばっちゃってたひとたちもだいじにしなきゃ、ってことを気づかせたかったんだよねっ」

 

口を開け己の言葉の意味を理解し咀嚼した少女の隙を、すかさず馬岱が見逃す事無く取り込んでものにした。

彼女は馬超に無いものを持っているのだろう。それは女の子らしい姦しさであると同時に生き残るための目敏さと強かさだ。

 

「決してお二方が他人を嘲るような狭量の御方では無いと思っておりますが、やはり直接見ない事には実感が沸きませんからね」

「ちょ、たんぽぽあたし分かってたのにっ!」

「ほれほれ、ちぃちゃい事で喧嘩すんなや」

「うー……」

「えへへっ」

 

幼い笑顔で計算ずくに場を濁す。彼女は幼ささえ持ち札に打算的に行動しているのだ。

それはある人には天性のぶりっ娘の姿と写り、ある人には、霞なんかには背伸びして愛嬌をふりまく可愛らしい少女に映る。

俺には、その下に無言のまま損得を弾きだしそれに基づき行動する同族の臭いだと感じる。

 

どこか同族意識にも似たものを感じた所為か精彩さを失った俺を、知ってか知らずか、恐らくは無意識のうちに感じてフォローしてくれているのだろう。

ぐりぐりと二人の幼女の頭を撫でながら、にゃはと花咲く笑みで霞は明るい声を上げた。

 

「ちゅーわけや、今日はいっぱい社会勉強してもらうでなあ?」

「はーいっ」

「分かったよ。これは大事なことなんだなっ!」

 

それに対して聞き分け良く頷いた馬超と馬岱に。

 

「では行きましょうか」

 

例え何を感じても、思い切り甘やかすつもりで今日は二人を案内しよう、と俺は決めたのだった。

 

**

 

 

四半刻も歩く事無く、俺達は恐らく街で十指には入るだろう立派な門構えの屋敷を訪れていた。

家主の私兵である門番に一つ札を見せる。俺の身分と名の記されたIDカードの様なものだ。それと顔へ一瞬鋭い視線を走らせると門番の彼女は一つ小さく頷き門の向こうへ手を振った。

 

間延びした瞬間、門が音を立てすうと開いた。

流れる様に滑らかに行われたそれらに、馬超が感心したかの様にほうと吐息を零した。

 

「いらっしゃいませ、北郷殿。初めまして、馬超様、馬岱様。私、董卓様始め涼州各地で商人をしております張世平と申します。本日は当方への御指名、誠にありがとうございます。一同、西涼太守馬騰様が御嫡子であられる馬超様、及び馬岱様をお迎えできたこと、誠に嬉しく思っております。本日はごゆくっりどうぞ」

「こちらこそ急な申し出で済まなかった。手配は指定通り出来ているのか?」

「ええ、当然」

 

開き切ったその先。門番に導かれ入ったその先で出迎えたのは張世平と彼の数人の家人達。眼に見える範囲に居る労働者達も仕事場を離れる事なく、しかしその場で傅いていた。

彼は華将軍の紹介で出会ってから、何かと縁を築いてきた北方の大きな商家の当主。内密で非公式のこの訪問に対応するのに相応しい、程度の高過ぎず華美でなくかつ失礼でない。

そんな絶妙な彼のコーディネートと歓迎のスキル、当然と言い切れる自負に思わず羨望の吐息が漏れる。

 

意図を察したのか張世平は、少しだけ口元を吊り上げしてやったりとひそかにほくそ笑んだ。

反応するのも悔しいので意図的にそれを無視する。

 

「ならばよし。済まないが案内を頼むぞ」

「御意に。では、こちらへ」

 

掌を重ねての拝礼と共に、まるで熟練の執事の姿を彷彿とさせる身のこなしで張氏は俺達を誘導し始めた。

 

「お二人は一応、塩商家の御息女ということになっております故、お願い致します」

「なんでさ?」

「太守の嫡子様がいらっしゃったなんて素直に教えたら、張氏は兎も角、他の民は緊張してしまいますでしょう」

「あ、なるほど……」

「しょう人さんをちょくせつ見にきたんだもんね」

 

悪戯っぽく笑う馬岱とひとり頷く馬超。

理解の早さは明らかに子どもらしくない程で、それだけにその聡明さが良く見える。

張氏も少しだけ驚いているのが表情から感じられた。

 

「では、先ず此方から御案内致します」

「ここは?」

「流通部門です。ここではさらに貿易、販売、物流、市場企画の各部に分かれております」

「は?」

 

耳慣れない単語に馬超が思わず声を上げた。

俺も吃驚だ。朧気な記憶にある現代社会科の授業で習った商社の構造と、覚えている限りで殆ど相違なかったのだから。

何も言うまい。どうせこの時代は色々なものが時空をこえているんだから。と言うかとでも思わないとやっていられない。

……しかし、この社会見学は俺や霞にも為になるかもしれないなあ。今度風を連れてまた来てみようかしら。

 

「御心配なく、今からそれらについて説明致します。そもそも流通とは“私達商人が保持している商品を顧客や官へ販売するための物・貨幣・情報の流れ”のことであります。分かりますか?」

「どゆこと? たんぽぽよくわかんない」

「えっと……つまり、えーっと……あんたたちが何か売ったりするための道、ってことか?」

「ええ、その解釈で問題ありません。その、物を売る為の道を整備して、実際に売るのが彼等やこの部署の主な役割です」

 

噛み砕いた言葉に張氏は笑顔で肯定の意を示した。

 

「貿易は読んで字の如く、他州や中央から始まり、西方諸国や北方民族、南蛮諸国までの他地域や他王朝支配下との取引をする部門です」

「南蛮と取引なんてできるのかよ」

「ええ。彼らの文化も侮ることはできません。様々な植物や香辛料にも南蛮由来の物が少なからずあるのですよ。それらを始めとした、瑠璃の器や象牙、西域産の巨大な体躯をした馬などこの地で入手することの出来ない物を手に入れる為に日夜活動しております」

「ほぇー」

「へぇー」

 

騎馬民族とも交わりのあるらしい彼女達には、特に瑠璃の器なんて思い当たる節があるのだろう。涼州詩なんて漢詩で読まれる位だ。

少し間の抜けた返事をしながら、馬超と馬岱と……霞さんなにやってんですか。兎も角彼女達の眼は張氏の手元で蒼く煌めく硝子の杯に夢中になっていた。

女の子がそういうモノを好きなのは万国共通だねえ。結婚数周年記念、とかって何か贈り物を買うのもいいかもしれない。

 

「次は販売ですが、これは簡単です。取引をして余所の品物や生産したものを実際に売るのが彼等の仕事です」

「じゃあ、あたしらの所に馬や武具を売りに来るやつはここの人なんだ?」

「ええ、その通りでございます」

 

セールスマンのことだそうで。つまりは営業と販売の業務を一手に引き受けている様だ。

販売と他を分けると効率は下がるけれども、癒着や横領の危険性は減り権限は分散される。

仕事量と対応速度を犠牲にして組織を長持ちさせることを張氏は選んだようだ。創業と守成なら守成を重んじるタイプなのだろう。所謂保守派と言う奴か。

 

「続いて物流です。彼らの業務は貿易や販売の際に、買ったり売ったりするまでの道筋を確保することが主な業務となります」

「?」

 

さすがにこればかりは馬超も一度で理解でき無かった様で小首を傾げた。

売り買いの道筋、なんて言われても確かに分かりにくいからなあ。

 

「そうですね……たとえば先程あげた南蛮との交易を例にあげてみますと、南蛮地域の誰とどんな取引をしようと考え動かすのが貿易、それを売りに行き商談をするのが販売です。では、足りないのは何だと思いますか?」

「足りないの? えーっ、そんなのあるのかよ?」

「……んーと、んーと……あっ、わかったよ! はこぶ人がいないんだ!」

「まさか、運ぶのだけで部署つくるのかよ」

「その通りです、馬岱様」

「えっへへー」

「なんでだよっ! そんなの一緒にやっちゃえばいいじゃんか!」

 

納得いかないと身ぶり手ぶりで訴えかける馬超。尤もそれは当然で、軍部で言いかえるなら十歳で輜重隊の重用性を理解している様なもの。

故郷日本ではつい七十年前まで国軍の殆どが必要性を過小評価していた位だ。輜重隊の重要度は現場で実際に実感しなければ理解出来ない部門堂々の第一位なのだ。

 

「いいえ、馬超様。物流はとても重要なのですよ。例えば戦の時、購入した筈の矢が開戦後一時して届いたら、どうなりますか?」

「あ、そっか……矢が足りなくなっちゃうんだ」

「そう言う事でございます。如何に正確に、早く届けるかは商人への信用へ直結しているのです。だから、道筋を抑える物流部門はあるのです。御母上の元にも、確実に届ける為の輜重部隊がありますでしょう?」

 

その台詞にはっとする馬超。前言撤回。彼女、花形どころかド裏方の輜重隊の重要度を理解していた様だ。

唯それがイコールで商人と繋がらなかっただけと言う。なんとまあ、末恐ろしい。つい自信過剰になっちゃうお年頃だろうに、どっかの俺の嫁みたいに。

 

「あ、たしかに。ご飯運んで来てくれるあいつらが居ないと困るし……なるほどなー。商人も色々考えて物を売ってるんだ……」

「確実に品物を用意できる、と言う事は信頼にも繋がります故、とても大切なのです」

「なるほどなあ」

 

感心したように呟く馬超。何にせよ将来が楽しみだ。

これだけ輜重にも気を配らせる将は割と貴重だからなあ。それとも馬騰殿の英才教育のたまものか。

 

「最後に市場企画ですが。これは主に近隣での動向を見てどの街のどの市場で商いを展開するか、その為にどんな場所を確保する必要があるか、等々の部分を動かす部門です」

「ん? 貿易と被ってねーのか?」

「ええ、ですが大きな違いがあります。貿易は基本帝国の外が対象ですが市場企画は帝国の内部が中心です」

 

一度理解したものだから、先程と比べるとすんなり腑に落ちた様だ。

得に追及することなく張氏に向き直ると彼は、続く部門へ俺達一行を案内して行った。

 

「さて、では次はこちらでございます」

 

**

 

 

「こちらは、金融部門です。子会社や他商会に関わる投資、融資・保証、両替、買収などを担当しております」

 

これまた小難しさ満点のところを見せに来たものだ。いやまあ全部紹介しろと頼んだのは俺なんだが。

俺だって高校二年で受験対策の必要性に駆られた所為でやっと暗記したから分かるだけ、この時代ならもう本当にごく一部だけの知識層が共有している秘儀にも等しい領域なんだけども。金融って。

その予想通り、聞いた事も無い単語の羅列に二人の頭上に疑問符がくるくると飛んでいる。

霞は……あ、駄目だアレ。窓から身を出して鳥とうふふと戯れてやがる。逃げたな。

 

「はーい!」

「何でしょうか、馬岱様」

「いってることのはんぶんもわかんないよっ!」

 

ここぞとばかりに手を上げ声を上げ馬岱は元気いっぱいに張氏に訊ねた。

 

「御心配なく、今から説明致します。まず投資ですが、これは有望な生産者や商会へ金銭を渡すことを投資と言います。そしてその投資先に成長や生産をして頂くことで、場合によっては商契約も結ぶことで利益を上げる、という部署です。何か質問は御座いますか?」

「えっと、意味はわかったけど、それって儲かるのか? もしさ、そのとーし? の先が逃げたり潰れたりしたらどうするんだよ、丸損じゃん」

 

当然至極なことを馬超が聞くと、あらかじめ予想していたのだろう張氏が、にこりと微笑み丁寧に語る。

 

「そこを見極め、利益の上がるであろうお相手にしか投資は致しません。勿論失敗する場合もありますが、そんなことを多々している様では大きな商会を作る才が無いということです」

「厳しいんだなあ……」

「たんぽぽにはむりだねー、だってよしあしが分かんないし」

 

八歳児が投資や株やらを自由に操りだしたら恐ろしくて仕方が無い。

と、そんな気持ちはどうやらまたその天性の黒幕思考回路になにかビビッと来たらしい馬岱には通じないのだろうなあ。

張氏も似た様な事を考えたのか、一寸だけ口元を引きつらせたような気がした。ついでに言えばそれを見てしてやったりとほくそ笑んだ馬岱も見えた気がした。

 

「では次、融資・保証についてご説明いたします。この部門でも、基本的に流れは投資と似ておりますが、違いは商会などに金銭を“貸し出す”という点です」

「ん? さっきのも利益で返してるんだから貸してるのとは違うのかよ?」

 

投資と融資の違いについて俺は習った事を直ぐ様繋げて生かせる馬超に感心する。

どこかの霞さんにも見習ってほしいものだ。どれだけ俺が仕事中に執務室へ突撃するなと言っても聞きやしないからなあ。

 

「ええ、投資は、金銭を渡したことで発生した利益を一部頂くことで私達も利益を得る部門ですが、融資・保証は貸す事そのもので利益を得る部門です」

「でも、貸したのを返してもらう事で何処に利益があるんだよ?」

「そこです。流石は馬超様眼のつけどころが鋭い。我々は金銭を“貸してあげる”という行為に値段を付けて貸しているのです。例えば北郷殿に五千銭を貸し出します。その時、融資をされた北郷殿には融資した五千銭に足す形で、融資をしたという商取引に値段を付けるのです。貸した金銭の五厘分の金額を、返済の際に上乗せすると言う形で」

 

利益がどこで生まれるかについての説明を張氏はするが、しかし納得していない様子の馬超に気付くと一度言葉を止めた。

そうして数瞬の後、上手く纏められたのか眉をほんの小さく下げ馬超に答えを聞かせた。

 

「そうですね……つまりは、五千銭の融資を受けた、五千銭を借りたと言う事は、少なくとも五千銭以上の商品を買い取った、と言う事と同義になる訳です。そして我々は商人ですから、その商品を売る際には手に入れた値段よりも高く売らなければ利益が出ない訳です。此処まではいいですか?」

 

黙って相槌を打つ馬超と馬岱。

 

「そこで、貸した金額を返す際、銭を提供した事への対価、として幾らかを上乗せして貰う訳です」

「……? なんだってそんな面倒なことするんだよ。みんな投資じゃ駄目なのか? やってること変わんないじゃん、お金かモノかってだけで」

「いいえ、そういう訳にはいきません。投資は、渡しても利益が帰って来ると見込めなければ易々と行えませんよ。私達が損をしてしまいますから」

「なるほどー。だからゆうしなんだねっ! 返ってくるからわからないから、銭をうるんだよね!」

「その通りです。信用の無い相手や個人でお金が必要なお方、そして信頼のおける相手だったとしても投資が不要だと判断した場合は融資、という形で回収できる環境を整えているのです」

 

どうやら二人ともそれなりに理解出来た様だ。なにやら感慨深そうにうんうんと頷いている。

 

「ほえー……お金儲けって大変なんだなあ」

「では次は両替へまいりましょう。こちらは簡単です、余所から流れてくる金銭を、それの価値に見合った五朱銭と交換するのが仕事です」

「交換で利益ってどこで出るんだよ?」

「差額と交換する事自体の代金で利益を上げます。たとえば、大秦の金貨の価値が下がった時にそれを手に入れ、上がった時に売れば、どうなりますか?」

「えっと……。あ、わかった、買った時より高う売れるんだ」

「その通りです。読み違えるとどうあがいても損益しか出ない場合もあるなど危険も多いですが、それに見合った利益を得られる可能性も秘めているのです」

 

両替商まで営むとは……とそこまで聞きそう言えば張氏は涼州牧董卓様から許可を頂いている大商人だったよなと改めて実感。

巨大な資本金と情報処理能力が無ければ通貨取引など到底行えないからだ。公的に両替商であることも認められているとなれば詰まりは相応に巨大な商会な訳で、最初のコネクションとしては今更ながらに巨大過ぎた気もしないでもないが……まあいいや。

 

「では最後、買収部門ですが、ここも簡単なのでご安心ください。買収とは買い取る事、分かりますか?」

 

M&Aだとか公開買い付けだとか色々あるがつまりは企業買収ってことか。

俺が一人納得しているのを尻目に霞以外の二人は黙ってこくりと頷いた。霞……お前は勉強したり無さ過ぎないか? まあ、勉強できない環境に追い落としたのは俺だけどさあ。

兵法書以外も読んでみろって何度も言ってんのに……。

 

「この部門で行う事は、まさにその通りのことです。余所の商会や生産者、行商人など、物品以外の利益を生むものを買い取る部門です」

「モノじゃないもの?」

「はい。傘下に収めることで利益を生むものを買い取ることを中心に行うのです。有能な商人や商会に職人、人材に傭兵に技術などです」

「いろんなものをかうんだねえ」

「それが商人、というものです」

 

感心した様子で話に耳を傾ける少女の姿は、それだけで秘めた為政者の才を感じさせるのに十分で。

馬騰殿の育児は余程厳しくて優しいに違いない。そうして俺はこの身体の両親を想い、一瞬の後に前の世界の両親を思い出し少しだけ羨望と望郷の念を感じてしまう。

 

後で思いっきり霞を抱こう。心に誓った。

 

**

 

 

「これで一通り、我が紹介の説明は終わりましたが……北郷様、この後はどうされるご予定で? よろしければ昼食の御用意をさせて頂きますが」

「いや、構わない。一応計画があるのでな。文和殿の胃に態々負荷をかける事も無いだろう」

「畏まりました」

 

こっそりと目を光らせている警備担当者の人に態々迷惑をかける事も無いし、こんなところで唯でさえ無い人望を益々失うことは得策じゃあない。

文和殿の直属だからって俺に対して好意的な訳でも無いのだし。……うん、泣いても良いかな。

等と世の理不尽を嘆く俺に構う事無く、張氏はすっと拝礼の姿勢を取ると恭しく二人の少女と向かい合った。

 

「馬超様、馬岱様。本日は当商会にご来店頂き、誠に有難うございます。如何でしたでしょうか?」

「うん。知らなかった事沢山知れたよ。お前等もあたし達と一緒な人なんだよな。知らなかったとはいえ、あたしちょっと軽く思ってたからさ。知れてよかったよ、あたし。ありがとうな、とっても有意義だった」

「いえ、とんでも御座いません。そう御思い下さるだけでこの張世平、感涙の極みに御座います」

「えへへー、たんぽぽは何だかむずかしいことってしか、はんぶんくらいわかんなかったけどね、でも、あなたたちもかるく見てあつかえるようなにんげんじゃない、ってわかっただけでも、おおきなことだとおもったよ! やっぱりナマでみること、たいせつだねっ」

「有難う御座います。ご聡明な馬岱様の糧と成れた事、我々一同至上の喜びに御座います」

 

背中がむず痒くなる様な賛辞の句のオンパレードだ。

尤も二人の聡明さには全く同意見だが、それらも考えてみれば将来性のある人材と早々にコネを造れた事になる訳だから切り離されないように一生懸命なのだろうと予測できる。

 

「では、北郷様、張将軍様。今後ともご贔屓に」

「ああ」

「へ、うちも?」

 

くるりと俺と霞にも拝礼を一つ。

きょとんとする霞に苦笑を浮かべつつも、この機会を造ったことへの最大限の報酬となる言葉をちゃんと述べた事に俺は満足して笑顔で返事を返した。

何が何だか分かっていない霞はこの際放置だ。

軍属の人間に便宜を図ると宣言したのだからつまりは軍需品や情報、逃走経路や経済支援も期待できる大事だと言うのに。

まあ霞も愚暗では決して無いから後で噛み砕いて説明しておこう……。

 

 

 

「馬超様、馬岱様。本日は御来訪、誠に有難う御座いました」

「あたしこそありがとうっ! 沢山いろんなこと初めて知れて嬉しかったからなっ!」

 

門の前で御見送りをする張氏に、先ず馬超がにひひとはにかみながら可愛らしく答えた。

その一瞬後、にやり、と口元を歪めた馬岱が徐に一言……。あれ、この感じはもしかしなくてもまた小悪魔的なことを……。

 

「まったねー、張さん! こんどはもっと、ゆーしとか、ばいしゅーとかのおしえてくれなかった“くわしい事”もしりたいなっ」

 

その一言で、和やかだった別れの空気が一変した。

可愛らしくそろって小首を傾げる馬超も霞も目に入らない程度に俺と張氏はあっけにとられてしまったのだ。

 

馬岱はどうやら、金貸しと買収、一番エグい二つの敢て省いた部分に気付いていたらしい。

人材を買う買収に融資、言い方を変えれば人身売買に高利貸し。説明もその雰囲気も出来る限り感じさせないようにと俺が頼み忠実にそれを張氏が守っていたと言うのに。

馬岱はどこかしらでヒントを得て勝手にそこへたどり着いた様だった。くわしい事、の一言強調しにやりとほくそ笑む辺りがもう何とも言えない。

 

聡明なんて言葉を通り越し、俺はあの黑社會時代に俺も含めてそうだった、生きる為にどんなことでもしてしまう子供を思い出した。

しかし俺達は生きるか死ぬかの明日の糧を得る為に魂を切り売りしてそうなったと言うのに、この八歳の少女は富んだ環境で育てられ教育を受け糧を得てこの領域に辿りついている。

 

「……北郷様、もしかして馬岱様は貴方様のお弟子様で?」

「天然ものだ」

 

弟子とか言うがな張氏よ、俺もあんなに黒い物が満ち溢れた性格はしていない……筈なんだが……そうだよね? ねえ違うと言ってよなんで眼を逸らすのさ。

 

片や君主の素質と天武の才を持つ姉、片や既に冷酷さと洞察眼を備えた副官の素質を持つ妹。

とんでもないの一言しか出てこない組み合わせだ。俺と張氏は事前に合わせていたかの様にそろった深いため息を一つ吐いた。

 

**

 

 

「文遠お前言ってたことの半分も理解して無かっただろ」

「にゃははー。ウチは荒事担当やし、そういうんは北郷に丸投げやさかいなあ」

 

笑って誤魔化す霞に視線を投げると口笛を吹きそっぽを向いてしまった。

幾らなんでも無理のあるリアクションではなかろうか。

 

「なあ、さっきのはすっげえ為になったけど、今日はもうこれで終わりなのか? もしそうならあたし文遠と手合わせしてみたい!」

「いやいやお姉様、まずはおひるだってばー。ごはんはどうするの? かえって食べるの?」

「ご安心を、寧ろこれからが本番ですので外でお昼にします」

「あ、せやったな。馬騰はんの言伝は他やったもんなあ。ちゅーことはさっきのって、一刀が考えたん?」

「名門馬一族の御息女様には、様々な経験を積ませたいと言うのが馬騰様の方針だ。提案したら喜んで受け入れてくださったよ。と言う訳なので、お二方にはもう暫らく、私達にお付き合いして頂けませんでしょうか?」

 

昼食を余所で食べる旨などを伝えると、どうやら今までそんな経験は無かったのだろう。

興味津津とばかりに目を輝かせながら馬超が見つめてきた。そんな年相応の言動に自然と俺や霞も頬が緩んでしまう。

やがて生温かい視線に気づいた馬超は咳払いを一つすると誤魔化す様に頷いた。

 

「お、おう……分かったよ」

「じゃあたんぽぽ、文遠おねーさんと手ぇつないじゃおー!」

「かわええなあ馬岱ちゃん! 媚売りまくりなんにかわええなんて卑怯やわあ!」

「えっへへー、すごいでしょー」

 

果てしなく微妙な賛辞(?)の句に笑って見せる馬岱。

霞は天然モノなので怒らないで上げてください。餌を与えて餌付けしてはいけません。ってことでさて自分で言った事なのに意味が分からないな。

 

「ではお嬢様、此方へ。お手を拝借致します」

「……うん」

 

と、何故かモノローグで自爆する思考回路をそこらに投げ捨てて、俺は傅き馬超と視線を合わせるとその手を緩く取り握った。

思っていた程過剰な反応をされる事も無く、それでも少しだけぽっと頬を染める辺りが子供らしくて可愛らしい。

 

「んで、何処行くん?」

「先ずは下へ降りよう。何時もの辺りに行ってそこで昼食、予定の確認をしますから。よろしいですか?」

「えっ、あっちでご飯食べるのかっ」

「わーっ、たんぽぽそーいうの初めて!」

「大丈夫なのか? あたしの住んでる街にもそーいうところあるけど、良い噂は聞いた事ないぞ」

「ご心配なく。ただ民草の生の暮らしを見るだけですし、いざという時にはこの北郷も、文遠も、一命を賭してお守り致します」

 

興味津津であるものの最初に可能性を考慮する辺りが何ともらしくなくて小憎たらしい。

この感覚を殺さず大人になるまで育てることが出来たならば、馬超はやはり良い軍人になるだろう。

それとは変わって無邪気にはしゃいでみせる馬岱が可愛らしいかと言えば別にそうでも無く。甘やかしてあげようと最初に思ったのにも拘らず、あんな一面を見た跡ではまず最初に何をその笑顔の下に秘めているのか、と最初に疑ってしまいそうになる。それは彼女に対しても良くないだろうし失礼だと分かっては居るのだけれども。

不器用な自分が嫌になるなあ。子供くらい純真に喜ばせてあげたいのにそれが出来ない、余りにも不器用な自分が。

 

だから、職務に誠実な人間になりきることで俺は誤魔化す。そして霞も上手いタイミングで繋ぐ台詞を二人にかけてくれた。

天然だろうと無意識だろうと絶妙なサポートをしてくれる霞には感謝してもしきれない。

 

「それになあ……馬超ちゃん、手に入れて馬超ちゃんみたいな人に売るのはさっきの商人はんみたいな人やけど、馬超ちゃんが食べる麦も豚も青菜も豆も、作るんは“下”に住んどる人なんやで?」

「あ、そっか……」

「せや。そりゃあ、キチガイとかヘンタイは勿論居るし、邪なこと考えとるやつもぎょうさんおるわ。やけどそれも変わらんやろ? 馬超ちゃんの知っとるやつでも邪なこと考えとりそうやなーって奴、いっぱい居らんか?」

「……居る。身近にも一人いる」

 

じとりとした視線を馬岱に向ける馬超。

 

「えへへっ」

「それはともかくや、さっき馬超ちゃんは商人はんも蓋を開けたらウチらとも仲頴様も馬騰はんとも、同じ人間やって知った訳やろ。なら、“下”に住んどる人も見てみんことにはどうかわからんし、見てみたらちゃうかもしれんやろ?」

「そっか。だからさっきも、あたしたちは張氏の仕事を見たんだよな……」

「そゆことや。なっ、一刀」

 

自然な笑顔でつい真名を口にする霞。

一瞬後にハッとして慌てる辺りがいろいろ抜けていてまた可愛らしいから許す。

俺は追求することなく横を歩く馬超と馬岱に言いかけた。

 

「はい。ですがお二方には、学ぶだけでなく楽しんで頂きたく思います」

「楽しむ、のか?」

「多くの違う人と交わりあうこと、交流することは有意義であると同時に、とても楽しいことですから」

 

混じりッ気なしの本音を言うと、馬岱に少しだけ驚かれる。そんな反応の原因はよっぽど台詞が似合わなかったのか、俺の被り物越しの台詞に気付かれていたからなのか。……ほぼ間違いなく後者だろうけども。

戯れ半分、尚且つ警戒しないように自分に意識を向けていた状態だからと言って八歳の女の子に見抜かれていたと言う事に俺は内心で少しだけ落ち込んでしまったのだった。

 

**

 

「ひゃあー……すっごい人いっぱい」

「せやろせやろ? お天道様が真上におる頃はこの辺がいっちばん元気になる時間なんやで」

「いままで馬の上からちょっとだけしか見た事無かったもんな……。すっげえ人いっぱいで、なんだか流されちゃいそう」

「手を離しては駄目ですよ。楽しい場所でもありますが、活気と人の数と同じくらい悪意がある場所でもあります」

 

何故か我が事の様に嬉しそうな霞を先頭に進む俺達馬超一行。

興味深そうな子供達二人に向けて、なにより一番楽しそうでもう仕事忘れてんじゃねえのかって霞に向けて俺は釘をさすのを忘れない。

 

「そんなに危ないのか?」

「人がいるのですから。小さな戦場だと心のどこかで思うくらいは必要です。でも、張り詰めてばかりではいけませんよ。抜く所と込める所を考えてめりはりをつける訓練だと思うのです」

「……お前、実は楽しませる気無いだろ」

「いえいえ、滅相も御座いません。それにほら……文遠をご覧ください」

 

そう言って指を指す。その先には……。

 

「えーっ! ちょい待ちいやおっさん! ウチやで、ウチ。お得意様に加えて今日は子連れやで? ほれ、子連れ。こんな美人の子連れにもう一声、とか無いんかいっ!」

「そーだそーだ! かわいいおんなの子たちに免じてもうひとこえほしいなっ!」

「うっせー人妻将軍がっ! 旦那にツケてばっかじゃねえか何がお得意様じゃコラ! それにまだ俺は二十九だ!」

「たんぽぽからみたらじゅーぶんオッサンだよっ」

「っ~~~! お嬢ちゃん、……俺になんか恨みでもあるのかい?」

「ないよっ。強いていうならオッサンあせくさいっ!」

 

「たんぽぽ……おまえって奴は……」

「楽しそうに適応してますよねえ。……でも、文遠の全体を見てください」

 

笑顔で天中殺、撲殺天使馬岱ちゃんと言ったところだろうか。呆れた様な申し訳ない様な表情で馬超はやれやれと首を振った。

そんな馬超の肩にぽんと手を置く。一瞬ぴくりと跳ねたのを無視しそのままもう一度馬岱と霞を指差した。

 

「両足を地にぺたりと付けることなく、重心は一切ズレてない上に、馬岱殿を守れる様に必ず右手の届く範囲にとどまらせています」

「ホントだ……隙が無いんだな。右手の間合いの中にずっといる」

 

馬超が感心の吐息をほうと漏らした。

あの姿は霞に到底敵わない程度でしか無い俺にも霞の積んだ練磨と経験と才能を感じさせる。

勿論俺も同じことを気にしてはいるが……正直出来ることの精々が肉壁程度だろう。

 

「上とは違って、揉め事が起きたら瞬く間に警備兵が来てくれる訳ではありません。己の身は己で守る必要があるのです。それを怠って、身ぐるみ剥がれたり殺されても、文句は言えません」

「厳しいんだな……」

「しかし、我々が食べるものを作り、我々の労働力となり長城を築くのはそんな世界で生きる人間が殆どなのですよ。そして、常にある程度気を張って生きる事も当たり前なのです」

「それって、息苦しくなったりしないのか?」

「もちろん。彼等も私も皆人間です。何処かに息の抜ける場所は持っています。そこに居られる時間が、生きる為に必要な時間に削られて馬超様達よりも少ないだけです」

「……恵まれてるんだな、あたしって」

 

もし、ここで可哀そうだなんて同情でもされたなら、またがらりと印象は変わっていただろう。

同情するくらいならいっそ侮蔑された方がずっと心境が良い。同情から差しのべられた手は掴むんじゃない、利用しなければいけない。妬みだろうとなんだろうと言われようが、その行為は持たざる者へ贈る持つ者からの最高の侮辱なのだから。

だから俺は、同情でなく事実を感じ刻みつける言葉を選んだ馬超を内心で評価した。

もし、彼女の様な考え方の為政者が増えれば……。俺の様な境遇に生まれる者が減るかもしれないから。

 

「ええ。ですから馬超殿、今日は学んでください。そんな民草たちのありのままを見て、生きる姿をみて何か感じてください。それが、いずれは民草を導く者としての糧となります」

「うん……」

「為政者も商人も彼等も、皆人だと言う事を知れた馬超殿は、民を民として見られる徳のある人物へと成長することへ繋がりますから。貴方様の御母上は、貴方に民を民として政を行える視野を手に入れて欲しいのですよ」

「そうだよな、おなじ人間なら、嫌なこともしたくない事もあるからな……。知らなかったらあたし、大人になってもさっき商人に思った様な事思っちゃったかもしれないもんな」

「貴方は、とても素直で聡明なお方です。……文遠、俺とこの娘の分も追加で頼む!」

 

そうやって、みるみる内に沢山の事を海綿のように吸収する馬超に俺は素直な賛辞を贈る。

不意の事にきょとんとする彼女を見ると何だか可笑しくて、俺は誤魔化す様に霞へ声をかけた。

 

「けっ、美人の嫁に美丈夫の旦那まで現れやがったのかよっ、お前等なんて石に躓いてこいつぶちまけて涙目になりやがれってんだ!」

「そういいながらちゃんとオマケ増やしてくれるおっさんのこと、ウチ好きやで」

「……けっ」

「野郎の照れがおなんて嬉しくないぞオッサン。それにぶちまけるのは勘弁だな、この旨い飯が食えないのはもったいない」

「気障ったらしいこと言いやがってよお。ったくこれで唯の嫌な奴ならどんだけ楽なことか、嫌味のひとつも言えやしねえ」

「でも、好きなんやろ?」

「うっせえ! 次は仲徳の嬢ちゃん連れて来いよ」

「ああ、そうするよ。じゃあな」

 

馴染みの饅頭屋の兄サンをからかいながらほかほかの肉饅頭を受け取る。

饅頭のほわほわした暖かい香りが鼻に心地いいからか、受け取った霞は嬉しそうに口元をほころばせた。

 

「友達なのか? やけに気安い感じだけど」

「友達っちゅーか……常連客? 何遍か通うとる内に、気ぃ付いたらこんな感じや。なあ?」

 

俺と目を合わせ同意を求める霞。

確かにいつの間にかこんな感じだったことは事実なので俺も頷き返すと、馬超と馬岱はまた素直に驚いてみせた。

 

「あの人、ふたりのみぶんは知ってるの?」

「ウチの身分はしっとるで? でも、やからって向こうも強張ったりせんかったさかい、いつの間にか仲良うなっとってん」

「将軍の婿だからまあ軽んじれる様な身分じゃないとは気付かれていると思いますが」

「こっちは皆こうなのか? それとも文遠が特殊なのか?」

「せやねえ……華雄はんはウチと大して変わらん感じで皆に接しとるし、部下どもも酒飲みに繰り出すならこっち側やし……うん、ウチの部下は基本ウチと大して変わらんノリやであんなもんやね」

「文官達は多くは逆ですね。というか城内で済ませて、下に来るのは精々個人的な買い物程度じゃあ無いでしょうか」

 

何故か疑惑の視線を向けられる。

しかし実際に将軍と霞も呼ばれていたりしたので、二人は半分無理やりだが納得した様だ。

 

「ふーん、そうなんだ……」

「たんぽぽたちのところはたいへんだよー。うまにのる人と畑しごとやるひとの仲がわるいし」

「羌と一緒に住んでるから折り合いがなかなかなあ。だから騎馬兵たちがちょっと我がままするんだよ……。お母様もそれ困ってるし」

 

そう言えば馬騰殿が混血なこともあって、馬騰殿が治める幾つかの都市では羌族の入植が行われているとか。

……まあ騎馬民族と漢民族の折り合いが悪いのは歴史が証明してるからなあ。この場合はどちらを優遇とかそういうのが無いから結果的に軍事力の高い騎馬民族が優位に立っちゃう訳だし。

 

「まあどこもそんなもんやで。なっ、一刀」

「だなあ。仲頴様が人材の一新を行って日が浅いから、下手な行動をしないよう気を張ってる人も多いのですよ。実際、表立てないだけで態度の悪かったり横暴だったりする兵はいますから」

 

あの門番とか、態々勤務時間外なのに威圧の為に帯刀して酒家に行って呑み代ツケばかりで払う気がなさそうな奴とか、道を尋ねると無駄に偉そうで億劫そうに答える奴とか。

ぶっちゃけ態度はデカいが被害が直接出て首がぽーんとなりそうな事はしない様な小悪党レベルだけれども。

 

「月、見た目はすっげえ綺麗なのに怖いし強いもんなあ……。表だって悪いことする度胸のある奴はいないってことか」

「月ちゃんの強さにはあこがれちゃうよねえ」

「ウチも憧れるわあ。仲頴様もウチら将軍と比べてもそん色ないくらいにごっつう強い、っちゅう話やもんなあ。そんでいてあのいかにも儚げな感じとかめっちゃ羨ましい」

 

そう言うと霞は自分の手に目線を落としていた。

どうやら鍛錬で厚くなった手が気になる様だ。可愛いなあもう。良し今夜はずっと手を繋いだままでするとしよう。

 

「と、折角買った料理が冷めてしまいますね。どうぞお二方」

「これは?」

「豚を詰めた饅頭(マントウ)ですよ。色々食べ歩きましたが、あの屋台の饅頭が私と文遠は一番好きです」

「こうな、薬膳とちょっと入った唐辛子の辛味に、じゅわっと溢れる肉汁が絡んでな、それでいて饅頭の生地の厚さとしみ込み具合も丁度ええんやで」

「……ごくり」

 

グルメリポーター張りの紹介に思わず馬超の喉が鳴る。

肉汁じゅわっ、とかって確かに空腹時に聞いたらヤバい破壊力だものね。

 

「せやでほら、熱いうちに食べような」

「え、でも……立ったままなんて……」

「おばさまにおこられそうだよ」

「心配せえへんでええ。こういう暮らしを知るにはまず形からや。皆がどんなふうに、どんな飯食っとるか、ってのも大事なんやで」

「周りの人にもほら、ちらほらと饅頭とかを頬張りながら歩いている人がいますでしょう?」

「あ、ホントだ」

「お行儀わるいわけじゃないんだね」

 

褒められた行為じゃないですが、と内心で付け加えておく。

これも庶民を見せる為の一環ですよ、だから問題無し! ……いざという時は助けてくださいね月様。

 

「どや、めっちゃ旨いやろ?」

「……うん。これ旨いな」

「おねだんのやすさにみあわないね、これ。もっとたかくてもうれるんじゃないのかなあ」

「そこがあのオッサンのこだわりや。オッサン元々貧乏やった、って話やからな、安くても高い者に負けん美味さのモンをつくりたかったんやとさ」

 

オッサンの気持ちは俺も良く分かるので激しく肯定できる。

金掛ければ何でもそれなり以上になるのは当たり前なんだから、何事もそれを金をかけずに越えてこそ意味があるってもんだ。

と言えば聞こえはいいが、実際は唯の貧乏根性だったりする。

 

「職人の意地ってやつだな」

「おねえさまなにドヤ顔でいっちゃてるの?」

「った、たんぽぽぉっ!」

「うわっちい!? ちょ、お姉様くちからなにかとんだよっ!?」

 

口では言い争っている様な調子でも、二人の表情には笑顔が垣間見ることが出来た。

食事の力って偉大。

 

「お二人とも落ち着いて。では食べながら、次の市場へ向かいましょう」

「市もすごいんやで。上とはまた違った西域から南蛮から、そっこら中のモンがあるんやで」

 

俺は計画に則した道順へと二人を導く。

西域の品という言葉に興味をそそられたのか二人は良い子にして俺と霞の手をそれぞれ再びとったのだった。

 

 

「……ん?」

「どないしたん?」

 

ふと何かを感じ辺りを見回す俺に霞が反応する。

視線、しかも何やらよろしくない感情が混ざった類だと思ったのだが……それは既に霧散していてはっきりと思い出す事もままならない。

 

「いや……なんでもない。視線を感じた気がしただけ」

「……大丈夫なん?」

「もう何も感じないし。うん、多分は大丈夫だけど……少し早めに切り上げるか」

「承知や」

 

直ぐに思い出す事も出来なくなる程度の視線ならば恐らくは大した力量の持ち主ではないのだろう。プロフェッショナルなら先ず気配すら感じさせない事必至だし。

あんな半端な程度ならばどうと言う事はないだろうと区切りを付け俺は手早く霞に報告を済ませた。

 

やはりそうだった様で、結局その後に何か起こる訳でもなく。

無事市の見学を済ませた彼女達を城門まで送り届けると、俺達の長い様な短い様な観光案内的一日は無事、終了したのだった。

 

 

**

 

 

 

「お兄さんが、知らない人と……。お出かけするとき、一緒に連れて行ってくれるって、前、約束したのに……」

「――さん、どうかしましたか?」

「あ、いえ。なんでもないのですよ。先生、行きましょう」

 

 

**

 

 

「いやあ楽しかったなあ」

「ははっ、霞が一番はしゃいでたもんなあ」

「そんなことあらへんてー。そいや、風はどうしたん?」

「樊稠曰くもう寝てる、ってさ」

「文和はん報告書の即日提出とか言ってくるもんなあ。その所為で遅くなってまったし、風には悪い事してもうたかな」

 

そう言うと霞は気遣わしげな表情で右隣の部屋の方を見つめた。基本夜は三人で川の字状態で寝るのだが一応風の部屋も別に作ってあるのだ

先に寝たと言う事は、風は恐らくそこに居るのだろう。霞はそんな、一人で寝ている風が気になって仕方ない様子でそわそわとしている。

 

「まあ連絡は入れといたから大丈夫だろ。それはともかくとして、だ。報告書殆ど俺にやらせといて何を言うかきさまー!」

「にゃー!?」

 

一言だけその心配を晴らす言葉をかけると、俺は霞に飛び掛かった。

文和殿に報告書やら結果報告やら支持を受けている俺の横で何をしていたかと言えばこの関西猫娘は椅子に座って爆睡してくださりやがった。

無邪気な子どものパワフルなテンション+緊張感を絶やさずに辺りを警戒しながらの一日で気疲れしたり等々なところで抉りこむように俺のメンタルにブチこまれた霞のストレートは、後で報復してやると決意させるには十分過ぎたのだ。

 

「悪いのはこの乳か? それともこの隠す気皆無なちらりとエロいおへそかっ!?」

「ちょっ、にゃはっ、やめっ、くすぐったいわあっ!」

「止めぬ、退かぬ、媚びぬ!」

「ひゃあっ!? そ、そこは駄目やっ! あほ! すけべ! へんたいっ!」

 

だが敢て俺は手を止めない。霞も本気で嫌がっていないのだからスキンシップの範囲内だ。

と、俺が歳の割に豊満な乳に顔を埋めると不意に背中へ手を回され抱きしめられた。顔が深くふるんと震える乳房に埋まり、包む霞の香りは俺をくらくらさせた。

 

「……んで、どないしたん? 今日は何を思い悩んだんよ、ウチのかわいい一刀くんは」

「かわいいは止めろ。……やっぱり霞にはお見通しだったか」

「当たり前や。ほれほれ、ウチの胸枕でぶちまけや。あ、ぶちまけるんは子種でもええけど胸に出したらその倍はうちの女の子の部分に出さんと怒るで」

「唐突な下ネタとか勘弁してよ、女の子だろ……本当霞はこれだから」

「えへへ、そう?」

「褒めてねーし……なんだかなあ、子供に真っ先に何教えるってガチガチな経済学と辺りを警戒してなくちゃ下町では満足に買い物もできない事、ってのが虚しいなあ、って」

 

なんでもない簡単なやり取りがすっかりと俺の心を落ち着かせた。霞だからこその、俺だけの最高級なリラクゼーションだ。

深く彼女を信頼していることを自分で実感しながら、気付けば自身でさえ不鮮明だった悩みの源がするりと口から滑り落ちていた。

 

「もっとさ、いろんな遊びとか楽しい事とか、子どもらしいことを教える必要が無い今がさ、確かに必要なんだけど虚しいよなあって」

「……せやなあ。ウチらみたいななりたてでも、百のよう生きた老師でも、大人はみんなセカセカ忙しいもんなあ。それが子供の育て方にも映っとるみたいな気ぃするで、ウチ」

 

言われればそうだと思った、確かに、漢帝国中が生き急いでいるかの様な官吏の若年化とか老師の早い隠居とか、全然珍しく無くなっているもんなあ。

客観的に見れば州の上層部の殆どが二十代までの人間なんて異常だ。

何処かで、頭では理解できない、いや、理解することを拒絶しながらも本能が動乱の時代の幕開けを感じているのかもしれない。そんな気がした。

それが子育てにまで、気付かない内に誰にも彼にも伝搬しているというのも、あながちあり得ない事も無いかもしれない。

尤も、君主になる為の帝王学の早期実践だったとしたら俺の心配すら勘違いも甚だしいことになるのだけれど。

 

「でもまあ、あれやで! そないなこと悩んでも仕方ないて。仲頴様の道をウチら武官が切り開いたら一刀たち文官が教えたればええやん。おっかないこと態々教えんでも生きてける時代つくりゃあええんやて」

「……霞にしては良い事言うじゃん」

「なにそれ、失礼やで一刀」

「冗談、冗談。まあ、それが一番でっかい俺の野望かなあ。因みに今のところ一番叶えたい野望は霞とか風とか、今居る家族と幸せになること。次席で月様のお役に立つこと、かな」

「ちっちゃいなあ一刀の野望は」

 

霞だっていろんなことを経験していろんなことを感じているのだ。

茶化しながらも俺は素直にそれを実感して、そして少しだけ嬉しくなった。

だから思わず普段は語らない様な事まで口を滑らせてしまう。それに対して霞はけらけらと笑いながら向日葵の様に笑った。

 

「んだよ、悪いかよ」

「んーん。全然悪ないで。寧ろな、ウチと野望と殆ど一緒で普通に嬉しい」

 

こてん。

胸に埋めていた顔を上げ隣に座ると、霞の頭が俺の肩にもたれかかる。前にもこんな状況あったな、なんて思いだしつつ。

ふわり、と霞の髪から爽やかで甘い香りが漂う。

 

「でっかいひとやもんなあ、仲頴様は。何目指しとるんかはよう分からんけど、とりあえず信じとうなってまう様な、そんな人やもんなあ」

「……」

 

その言葉は、忘れていた月様の大きさと、そう言えば未だ語られたことの無い月様の目指す高みについての思考を俺に促す。

一寸考え込んで、そして俺は何か大きな不安を見つけてしまいそうな、背中の毛がぞわりと栗立つようなそんな感覚に襲われた。

今は考える時では無い。無理やり想いの釘を打ち蓋をする。そして、突然黙ってしまった俺に不思議そうな眼を向ける霞に向き直った。

 

「ん? どないしたん?」

「ああ、いや。なんでもないよ。……霞」

「んにゅー? なんや?」

 

こく、と霞が髪止めを外しながら小首を傾げる。

解き放たれた紫の絹の様なそれらはさらりと肩から滑り落ち、ふわりと広がった。

 

にこり、と微笑む様はどこぞの聖母様にも劣らない程に神々しくて。

思わず息を呑みかけ嫁の前で晒す態度じゃあないと思い直した。

 

「俺も、頑張るからさ。霞が最高の槍働きを出来る環境をつくるからさ。だから……えと、その、なんだ。……ちゃんと、俺のとこに帰ってこいよ」

「……ぶふっ。ひゃはははっ、なーんやそれ! 気障ったらしい台詞やわあ」

「っ、うるせー!」

「ったく、今日のかずぴーは本当に柄でないことばっかやなあ」

「ちょ、なんだよいきなりっつ」

「うっさい、だまってウチに抱きしめられとれ」

 

気恥ずかしさを誤魔化す為に霞の隣から人一人分離れそっぽを向く。すると、えいと抱きついた霞に再び胸に顔を埋める体勢で捕まってしまった。

抵抗は一瞬で治めさせられ、代わりに優しい手が背中をぽむぽむと撫でる。

 

「心配せんといて。流石にずーっと恋人よろしく甘甘で居れるとは思わんけど、自分で決めた真名の契から始まった関係や。一刀の事、一生愛す。ウチの帰る場所は一刀の居るとこや。これ不変の摂理な」

「……まさか霞に口説かれる日が来るとはなあ。そりゃ俺の仕事じゃ」

「駄目駄目、一刀に女の子口説かせたらもう即刻子宮きゅんきゅんお股びしゃびしゃやで」

「自嘲しろ阿呆」

「せやけど真面目な話、妾は赦すけど……浮気したら、ウチ、泣いてまうかも」

 

霞を泣かせたら……うーむ、俺は自責の念でちょっとヤバいことになりそうな気がする。

惚れた弱みだ。惚れた女の涙に敵う男なんて居ないのだ。胸から顔を上げ、霞と同じ高さで視線を合わせる。

 

「心配するなよ、俺だって霞に負けないくらい、霞が特別なんだからさ。

 俺の初めては皆霞と一緒に共有してんだ。真名を呼ばれて一番嬉しいのも霞、一緒に居て一番自然体で居られるのも霞。霞、霞、霞。……霞、愛してるよ」

 

右手をそっと、頬に添え真っ直ぐに霞へと言葉を贈る。

もし録画されていたら後々羞恥で死にそうになる事間違いない。そんなことをしている自覚は頭の中の冷静な部分で感じていた。

だけど、もう溢れてしまった愛おしさが止まらない、止められない。止めようとも思わない。

 

口をぽかんとあけて一瞬、すぐ後にぼんと霞の頬に朱色が注しあわあわと言葉にならない声を上げた。

それだけで堪らなく愛おしく感じてしまう。そんな表情がもっと見たくなって、何時までも眺めていたくなる。

 

「ッ~~~っう、あ、あほっ! マジ顔でそないなこと言うなやっ! 嬉しくてもうヤバいやんけっ!」

「狙ったからね」

「……かずとの、いぢわる。……ん、ちゅ……」

 

潤んだ瞳でそんなこと言われればもう止まらない。

どうせさっきから拳一つ分のスキマしか俺と霞の間には無かったのだ。

間に立ちはだかる空気達には早々と退場して頂き……気付けば桃色の唇と俺が重なっていた。

唇をついばみ合うだけのバードキス。それだけの動作で充足感と愛おしさが飽きることなくこみ上げ続けてくる。

 

「ん……。そう言えば霞。殆ど一緒って言ったけど、俺の野望と何が違うの?」

「……聞きたいん?」

「うん、すっごい気になる」

「しゃーないなあ。……あのな、えへへ。今居る家族と、それから、ウチな……ウチと、一刀の二人の赤ちゃんと一緒に幸せになりたいんよ。だからいつか、世の中が落ち着いたらな、ちゃんとウチらの赤ちゃん、つくろ? 楽しい事ぎょーさん教えて強い子に育ててあげよな」

 

女の顔と、母の顔が同居した少女のあどけなさ。

そんな表情を愛おしい女にされてしまうと、もう、守らずにはいられなくなってしまう。

 

「……なーんて、それがウチの野望や。にゃは、どや、感心したんむぅっ!? ……ぁ、ん……ちゅ、む、んちゅ、れろ……ぷぁ。い、いきなり何すんねんっ、あ、あかん……腰ぬけてもうた……あんなくちづけするから……」

「霞……可愛いよ。今の話きいてさ、益々思ったよ。霞が全部欲しい。……だから、子どもはまだだめだけど、俺だけに、もっと見せてくれよ。いろんな霞をさ……」

 

止まらない。止まる必要も無い。

 

「……しゃーないなあ。じゃあその代わり、ウチの事、目一杯可愛がってな?」

「勿論」

「ん、じゃあ……ちゅーからやり直しして? もっと、ウチの舌もくちも、味わって、感じさせてな」

 

 

溢れる愛おしさに任せるままに、俺と霞は重なり合って──……。

 

 

**

 

 

「……お兄さんの馬鹿。っ……風は、嫉妬深いのですよ……」

 

芽生えたそれが、寂しさという色だと言う事に、風は気付かない。

 

 

 

お久しぶりです、甘露です。

霞と一刀君が砂糖吐くレベルでいちゃこらさせたかったが故にこうなりました。

つまり馬超と馬岱は壮大なあて馬だった訳です。馬一族だけに。

 

あ、石は投げないでっ!

 

 

次回は風ちゃんが大活躍(爆)します。そしてやっと拠点が終わります。

拠点だけで5万文字以上書いちゃう馬鹿がここにいるぞー!

 

では


 
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