No.475111

RAG-FES30 エア新刊<< ユくモノ達 >>(クルセ×クルセ)

アキさん

日曜日はグッコミ、ラグフェスですね! 参加なさる皆様、天候に気をつけて頑張ってきて下さいませ! 自分はどちらにもサークル参加申し込みをしておりませんでしたので、無配レベルな新刊だけでも書けないかなーと突発で書いておりました。というわけで今回はROのエア新刊です。文中では名前を出しておりませんが、クルセのうち一人は「生前のクルセ時代のランデル=ロレンス」という脳内設定です。そこまでではありませんが、本文は流血表現を含みますので苦手な方はご注意下さい。

2012-08-25 12:58:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:869   閲覧ユーザー数:869

 栄光の地、ヴァルハラ。二次職を極めて初めて訪れる権利を得ることの出来る石造りの神殿に、一人の青年が佇んでいた。

 周囲にオーラを纏い、神への祈りを体現したかのようなクルセイダーの鎧を着た青年は、ヴァルキリーへの謁見を直前にして落ち着かないらしく、所在なさげに神殿の入り口で立ったり座ったりを繰り返していた。

 時折同じ目的で訪れた他の冒険者や、仲間の転生を見送りに来ているのか、既に転生を果たしこの神殿へ入場許可を得られている三次職がいたりするが、その誰もが一人この場に留まっている青年を訝しげに見ながら通り過ぎていく。

 その度に青年は出来るだけ神殿の端へと移動し、出来るだけ目立たないように努めてやり過ごしているのだが、実際この空中神殿はそんなに広さがない。

 ここはあくまでヴァルキリーと謁見するための場であって、ヴァルハラの入り口のような物なのだ。通路にスペースをとっても仕方ない。

(…………まだか)

 神殿を訪れた者が転送され、出現する場所をじっと見つめる。

 がらんと静かなその空間からは、先程から数人が訪れているのだが――青年の待ち人は一向に現れなかった。

 いつもなら人を待っているときだろうと、手持ちぶさたになることなどない。

 適当に手持ちの武器を手入れしているだけで時間はあっという間に過ぎていくのだが、今日ばかりはそうはいかない。

 神であるヴァルキリーとの謁見は身一つでなければならない。

 と言っても流石に服は着ていて良いので神との面会に恥ずかしくないようクルセイダーとしての正装である鎧を身につけているが、他は俗世に関連する物の一切を置いてこなければならない為、武器や他の防具類にアイテムは勿論のこと、青年が普段愛用している懐中時計も全てカプラ倉庫に預けてきた。

 またこの神殿には時を刻んだり日照の概念も無い為、青年がここに到着してからどれくらいの時間が経ったのか、皆目見当もつかない。

 精々が、辛抱強さには自信がある青年ですら、若干の飽きが来ている程度は経っているのがわかる、というくらいだ。

 ただ無為に時間を過ごすのは、青年の好むところではない。

 ならば何故この場から進まず、おまけにたいそう落ち着いていないかというと――ここで待ち合わせの約束をしていた相手がなかなか姿を現さず、更に言えば何度もWisを送っているにも関わらず返事は一切無く、梨のつぶてになっているからに他ならない。

「……昔はこんな、時間にルーズな奴では無かったんだが」

 真っ青な虚空に向けてやれやれとぼやいた青年は、待ち人の屈託ない笑顔を思い浮かべる。

 明るい心根をそのまま表情へと映したように、いつでも無邪気な笑みを絶やさず、夕焼け色の柔らかい毛先をぴんぴん遊ぶように跳ねさせている様子を思い出すだけで、仕方の無い奴だと許してしまう。

 我ながら相変わらず奴には甘い、と青年は内心苦笑した。

 待ち人は、同じくクルセイダーの青年だった。

 二人はクルセイダーばかりを集めた聖騎士団見習いのギルドに所属していた。

 初めて会ったその日からやけに気が合い、すっかり意気投合した挙げ句、勢いのまま友達登録をした。

 共に鍛練を重ね、背中を預けて戦いの場を切り抜け、時には飲みに行って愚痴を言い合い語り合えり、青年にとって彼は親友と呼んで差し支えない存在だ。

 けれど同じギルドに所属しているとはいえ、最近は任務でのすれ違いが続き、片やラヘルで長期の任務、片や短期の任務を幾つもこなすとなれば、逢う時間を作る方が難しかった。

 ギルドチャットやWisで言葉を交わすことはあったが、任務の内容によっては一時期ギルドを脱退して聖堂や聖騎士団への出向なども日常茶飯事であった。

 実際、年単位で顔を合わせていない。

 今度こそ飯でも食おうと、お約束の台詞を吐きながら実行できていなかった、そんな日々が続いた先日のこと。

 お互いオーラになったのをギルド情報から確認し、それならば折角だから一緒にヴァルキリーへ逢いに行こうと、Wisを送ったのはつい一週間前だ。

 ヴァルキリーへの謁見にはそれなりに費用を要するため、それを用立てる意味でも一週間は必要だろうと、そう約束したのだ。

 転生の為の準備が無事整い、彼と約束した日がきた。

 どうせならプロンテラから一緒に移動しようという話だったのだが、生憎聖堂で頼まれ事を引き受けてしまったと彼から謝罪のWisが入り、判った判ったと青年は先にジュノーの神殿へと足を運んだのだ。

 ――そして今に至る。

 こうまでして連絡が取れないと、二人だけで誰にも邪魔をされずに転生しようとギルドを一時的に脱退したのが、今となってはあだになったと思ってしまう。

 かといって共通の知り合いに片っ端から彼の居場所を知らないかとWisするのも抵抗がある。

 そもそも何でギルドを抜けているのか、そこからいちいち説明しなければならないし、二人してノービスハイの姿で現れ、皆を驚かすというのも趣旨の一貫だからだ。なのであまりバラしてまわりたくはない。

「いくら何でも遅すぎやしないか?」

 ふうっと息を吐いて両手を腰に当て、青年は首を疲れたように傾けた。

 楽しみにしていた企てをフイにしてしまうのは勿体ないが、ここまでくると彼の安否が気になってくる。

 登録をしている共通の友人に、彼の居場所を知らないか青年がWisを送ろうとしたその時――遙か前方から聞き覚えのある声が微かに聞こえた。

「……うん?」

 まさかと思って進んでみると、そこには宙に浮く神々しいヴァルキリーの姿と、その真下にいる彼の姿だった。

 急ぎ足でヴァルキリーの居る場所まで来てみると、きょとんとした表情の彼が青年の姿を視認すると、途端に瞳を泳がせた。

「……おい。まさか……先に来ていたのか?」

「……そっちこそ、もしかして入り口でずっと待ってたりして?」 

 自分よりも頭半分ほど身長の低い彼が、悪戯っぽいくりんとした瞳でこちらの顔を覗き込んでくる。

 怒り半分、呆れ半分な青年の心。けれどこの、夕焼け色をした髪よりも尚濃い黄昏色の瞳を見ていると、やっぱり仕方が無いという気分になって、がっくりと両肩を落としつつも許している自分を自覚した。

 だがせめても、と青年はささやかな仕返しにと彼の額を指で弾く。

「痛ったー!」

「この阿呆」

「え、なんで。俺、君にデコ弾かれる覚えなんてない」

「待ち合わせは神殿に入ってすぐ、と言ったろう。まさかこんなところまで進んでいるなんて、いくら何でも予想外だ。おかげで何人も他の人を見送ってしまったんだぞ」

「それはゴメンって! ……怒ってる?」

 ぱん、と音を立てて掌を合わせて謝罪の意を示す彼の頭を、青年の大きな手がくしゃりと撫でる。

 相変わらず触り心地の良い髪だ、と青年はそのままくしゃくしゃと頭皮をまさぐるように髪に指を通しながら「怒ってないさ」と笑んだ。

「こらこらこら、怒ってないのは嬉しいけどセットが乱れるって! ヴァルキリー様の前なんだから、身だしなみはちゃんとしなきゃって言ったのは君だろ」

「そうだが、あんまりお前の髪が柔らかいんで、ついな。俺の髪はお前と違って硬いから」

「でも、俺は君の髪って好きだよ。綺麗な硬質の金髪をそうやってポニテにして束ねてんの、すごく似合う。自分に持ってない物を欲しがるって奴じゃないかな、お互いにさ」

 てらいなくそう言ってのける彼の発言に、照れ臭さのあまり撫でている手を更に乱雑な動きにすると、流石に彼から抗議の声が飛んだ。

 渋々頭から手を離したが、ああいう台詞をさらっと言ってのける彼が悪い、と青年は胸の内で責任転嫁をする。

 ふと、互いの視線が混じり合う。こうして真っ直ぐ目を見てゆっくり話すのは本当に久しぶりだ。

「長いようで、あっという間だったな」

「うん、そうだね。任務優先でなかなかレベル上げにもいけなかったから、随分遅くなっちゃったなあ」

「今からでも遅くはないだろう」

「そうだね。お陰で君と一緒に此処に来られたんだから、結果オーライかな?」

 くすくすと二人で笑い合う。

 同期の皆はその殆どが転生を果たし、上級職へとステップアップしている。

 だがクルセイダーの姿でこそ出来る任務という物も有り、それもあってこれまで彼と青年は転生にそうこだわっていなかったのだ。

 これからはその役目を後輩に任せ、心行くまでレベルを上げてさっさと上級職になる気で居る青年は、彼に向かってにやりと口角を上げた。

「この門をくぐったら、ノービスハイからやり直しか。皆を驚かせた後は、すぐレベル上げに行くぞ」

「スパルタだなあ。今日くらいはゆっくりしない?」

「馬鹿言うな。ろくな剣も握れないなんて落ち着かないだろう。せめて剣士にはならないとな。来週にはグリフォンに乗るぞ」

「来週って……本気?」

「当然だ」

「君らしいね。格好良いだろうなあ、君がグリフォンに騎乗してる姿」

 ふわり、彼の浮かべた笑みがどことなくいつもと違って見えて、青年はその違和感に思わず首を傾げる。

「何?」

「……いや。いつもと表情が違うから、怖い物知らずなお前でも緊張しているのかと思ってな」

「そりゃあ、俺だってヴァルキリー様の御前じゃ緊張もするよ。君は違うの?」

「してるさ」

「じゃあおあいこだ」

 再び互いの唇がほころんだその時、周囲を青い光が包み込む。

 何だろうとふと顔を上げると、ヴァルキリーが慈愛の眼差しをこちらに向けていた。

「早くしなさいって言ってるのかも」

「そうだな。いつまでも此処で喋っていても仕方が無い。転生を果たそう」

 こくりと頷いた青年は、意を決してヴァルキリーへと話しかける。

「ねえ。本当に君と出会ってからここまで、あっという間だったね」

 直接脳内へと語りかけてくるヴァルキリーが有り難い訓示をくれているというのに、彼は意に介せず言葉を紡ぎ続ける。

 普段は空気の読める奴なのだが、感極まっているのだろうか。

「最近は機会もなかったけど、君の背中を護って君に背中を護られて、それがすごく幸せだった。君は俺の誇りだよ。いつまでも」

 何が言いたいのか、と怪訝な顔をした青年と彼の躯がまばゆい光に照らされ――その瞬間、彼の唇がほんの一瞬、青年の唇に掠った。

「……おいっ!」

 驚きのあまり声を上げた青年の意識が暗転する直前に見たのは、ほんのり頬を染めて満面の笑みを浮かべながら頬を濡らす彼の表情だった。

 

 

 

 深い混沌からゆっくりと意識が浮上していく感覚に、青年は重たい瞼を開ける。

 そこは見覚えのある景色――イズルートの剣士ギルド前だった。

(そういえば、転生後は前職で最も縁の深い街に飛ばされるのだったか)

 とりあえず、同じくこの街に来ているはずの彼を探そうと、新鮮なノービスハイの姿でてくてくと歩く。

 思考が彼のことに行き当たった瞬間、転生直前のことを思いだした青年は瞳を挙動不審に動かした。

 あれはいったいなんだったのだろうか。

 ほんの一瞬だったが、この唇に宿った温もりと感触を確かに覚えていた。

 親友だと思っていた彼の行為が意味するところをどう解釈して良いか、青年は頭を悩ませる。

 ただの親愛――いや、それにしては少々度を超えている。

 悪戯心――彼の性格上なくはないが、それならば満面の笑みと共に濡らした頬の意味が判らない。

 つまりこの二点は可能性の候補から外れるのだ。

(……………そう、なのか?)

 残る一つの可能性を考えた途端、青年の頬に熱が集まる。

(まさか、自分に口吻けたのは――自分を想っているから?)

 人から好意を向けられたことが無いとは言わないが、自他共に認める堅物で通っており、色恋よりも鍛錬大事で、同性は勿論のこと、異性と交際した経験すら無い青年はようやく把握した事態に目を白黒させる。

 どんな顔をして彼に逢えば良いのかと頭を抱えながらも、とにかく合流しないことには何も進まないと彼の姿を探す。

 が、珍しいだろうノービスハイの姿は一人も見当たらない。

 もしや待ちきれずにプロンテラへ移動してしまったのだろうか、それとも自分と同様に顔を合わせ辛く先に行ってしまったのか。

 そんなことを考えている青年の前に、人集りが見えた。

 もしやあの中に居るのかもしれないとそこに駆け寄った青年は、想像もしていなかった光景に言葉を失う。

「…………どういう…………ことだ…………」

 脳が視覚から伝わる映像を拒絶しているのか、酷い目眩がする。

 ぷん、と辺りにむせ返る血の臭いは、地に伏せ倒れている人物から発せられていた。

(嘘だ)

 首に暗殺用のナイフが深々と刺さり、傷口から今もどくどくと溢れる血だまりが、本来白銀であるはずの鎧と群青色の外套を深紅に染め上げていた。

(嘘だ)

 見る人間が見れば判るクルセイダーである証の鎧。

 うつ伏せていて、顔が見えない。夕焼け色の髪だけが、海風を受けてふわふわ元気に踊っている。

「見つけるのがもう少し早ければ、リザも間に合ったんだけど」

「支援さんが丁度居なかったのよね」

「いやいや、あのナイフ見ろって。アサシンギルドがらみっぽいし、関わらない方が身のためだよ」

 無責任に噂をする群衆をかき分けて、青年が血だまりに足を向けると、イズルートの町人らしき年配の女性に腕を掴まれた。

「近寄っちゃダメだよノビさん! あのクルセさん、ギルドエンブレムもついてないってんで、さっき他の人がイズルートの警備隊を呼んだって言ってたから、現場を荒らしちゃ怒られちまうよ!」

 ぐいっと無造作に引っ張られた腕を強引に振り払い、制止の声も耳に届かず、青年は物言わぬ骸と成り果てた聖騎士にふらふらとおぼつかない足取りで近づき、がくんと膝をついた。

(――――ああ)

 ついさっき見たばかりのものと相違ない満面の笑みと濡れた頬。

 それは事切れる瞬間の苦しさを全く感じさせない、どこか幸せそうにも見える、間違いなく彼の変わり果てた姿だった。

 ぼたり、と青年の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

 こうなってしまった以上、もう何をしても無駄だと判っていても、力も無くスキルも使えないノービスハイでは何も出来ないのが悔しくて仕方ない。

 自身が血に塗れるのも厭わず、止めどなく流れ続ける涙をそのままに、青年は『彼だったモノ』を掻き抱いた。

 仄かに熱の残っている躯は、彼が逝ってそんなに経っていないことを示している。

(――そうか。お前は――最期の力で、俺に逢いに来てくれたんだな) 

 ぐっと腕に力を込めると、がくんと首が力なく折れ、青年の肩を埋めた。

 なんだか彼と抱き合っているような気がして、哀しみと絶望で埋まっているはずの青年の心へ僅かに歓喜が混じった。

 胸を締め付けられる切なく虚しい喜びに、青年は彼への感情を自覚した。

(今更――今更っ……!)

 告白の言葉一つなくたって、互いに想い合っていたのに――。

 堪えきれずに嗚咽を漏らして泣き続ける青年を止める事の出来る群衆は一人も居ない。

 イズルートの警備隊が駆けつけるその時まで、彼からもたらされる血と青年の涙が混じり、真っ白なタイル張りの美しいイズルートの街を濡らし続けた。


 
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