「そう言えば、お前名前は何と言う」
手を取ったまま隣を歩く呂布が今更のように聞いてきた。
まぁ、この子が名乗ったときに名乗らなかった自分も悪いんだけど。
「俺は一刀。北郷一刀よろしく」
俺の名前を聞いた呂布は聞きおぼえがあったのかわずかに首をひねり、
「かずと…聞いたことがある」
そうつぶやくと数十秒黙り、
「そうだ…みつかい」
「うん。この世界ではそう呼ばれているよ」
「魏の皆がずっと探してた人」
「はい」
「…捕まえた」
そう言って俺の手をさらにぎゅっとつかむ。
「いや、華琳とかにはもう会ってるよ?」
「……そう。なら…いい」
呂布は掴んでいた手を離す。
「もう勝手にいなくなったらだめ」
「わかってるよ。もういろんな人に何度も言われた」
俺は呂布の頭にポンと手をのせ、なでる。
呂布はそれを嫌がらず、されるがままに受け入れた。
中庭に近づくにつれて、金属同士がこすれあう音が響いてきた。
どうやらまだやってるようだ。
「ぬおらぁぁぁぁ!!!」
「はぁぁぁぁああ!!」
大きな怒号とともに地響きがした。
中庭を視界に収めるとともに見えたのは、いくつものクレーター。
ていうか、あっちの世界でもクレーターなんて金の赤でしかできなかったのに…
剣をあわせあっていたのは春蘭と愛紗だった。
赤と緑が目にもとまらぬ速さで激突しては離れる。
俺と呂布は近くのベンチに座ってそれを見る。
近くでは明命たちが介抱されている。
…どれだけ気合を入れたトレーニングを行っているのだろうか、あの二人は。
城中のヒマな人間が集まってるのだろうかギャラリーはそこそこ多い。
「どうかな。呂布ちゃんから見てあの二人は」
「強い…とっても」
呂布は二人の剣戟をじっと見ながら答える。
「…そっか」
「でも」
呂布ちゃんは二人の戦いから目を離し、俺の方を見て、どこか自信ありげに
「恋の方がもっと強い」
と言った。
あながち嘘でもないだろう言葉に俺は苦笑いするしかなかった。
しばらく…と言っても数分だと思うけど、見ていると段々目が慣れてきたのか、二人の動きが目で追えるようになってきた。
3年前はどれだけ見ていても全く見えなかった速さが見えるようになったのは二人が本気じゃないからだろうか、それともクウガとして戦った日々のおかげなのだろうか。
幾度となくこすれあう剣と槍の音と見た目のタイミングがあっていく。そんな中。
「あ」
ちょうど愛紗を挟んでこちらを向く形で斬りかかってきた春蘭と目が合う。
何のリアクションもしないのが無理なのは性格だろうか、笑いかける。
『!?』
どうしたんだろうか、春蘭の動きが目に見えて鈍くなる。
『隙あり!』
流石最強の武人と呼ばれる愛紗はそんな春蘭の一瞬の隙も見逃さず、脳天にひっくり返した槍の刃で一撃を加えた。
『のあ!?』
漫画だったら頭の上に星が出そうなくらいクリーンヒットをくらった春蘭は地面にうずくまる。
「まったく、勝負の最中によそ見をされるとは私もなめられたものだな」
そう言いながら愛紗はこちらを振り返る。
「一刀殿。…と恋。いらしていたのでしたら声ぐらいかけてくださってもよかったのに」
「ごめんごめん。なんとなく声かけづらくって」
「まあ、構いませんが。ああ、そこの娘待ってくれ」
愛紗はすぐそばを歩いていた侍従を呼びとめる。その手には布が乗っている。
侍従さんから布を受け取った愛紗はすぐそばに置いてあった水筒から水をかけて春蘭の頭にのせる。
「まったく。武人ともあろうものが好いた男が目に入ったくらいで集中を乱すな」
「なにおう!?」
今までぐでんと地面に伸びていた春蘭は愛紗の言葉を聞いて跳ね起きる。
「ん??」
と上半身を起こそうとした春蘭はまた倒れてしまう。
「……起きれん」
そう言い残し、春蘭は気を失ってしまった。
軽い脳震盪を起こしてしまったのだろう、起きてもすぐにふらついてしまう春蘭は愛紗に膝枕されてベンチに横立っている。
「安静にしてれば大丈夫だと思うよ」
「そうですか…安心しました」
ほっと、胸をなでおろす愛紗。椿さんにもしもの為とムリヤリ教えられたのが役に立った。
「訓練の時に兵士と戦うときは手加減出来るのですが…春蘭相手だとそうもいかず。
春蘭ならばたとえ態勢が悪くとも致命傷を避けることぐらいは出来ますし…」
あそこまでクリーンヒットするとは予想外…と。
面目ない、と頭を下げる愛紗。
「まぁ、大事がなくてよかったよ」
一応後で春蘭には謝っておこう。なんかめちゃくちゃ言われそうで憂鬱な気分になる。
ちょうど話が一段落したタイミングで、恋が俺の服の裾を引っ張る。
「次は…恋たちがやる」
「恋?しかし私も流石に春蘭との連戦はきついぞ?」
春蘭の介抱をしながら愛紗が答える。
そりゃそうでしょ。いくらスタミナオバケとはいえ名だたる武将相手に二連戦は流石に…
「違う…恋と一刀が…戦う」
「「えっ」」
「?」
呂布ちゃんから放たれた衝撃の言葉に、俺と愛紗はそろって目が点になる。
戦う?俺と『呂布』が?
慣れてるとはいえ、流石に自分が物事の中心として置かれるとやはりとてつもない違和感がある。
「恋?聞き間違えか?今、一刀殿と戦うと聞こえたのだが」
俺と愛紗共通の疑問に呂布ちゃんはふるふると首を横に振る。
「聞き間違いじゃない…一刀と恋が…戦う」
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前回の更新履歴見てドン引きしました。
ほとんど四カ月って…
お待たせしてしまったワリに今回短くて申し訳ないです。
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