ぐずっている呉の中枢二人を残し、玉座の間から自室に戻りながら明命と亞莎と世間話をしていると
「あ!」
「どうしたの?明命」
何かを思い出したのか、背筋をピッと伸ばして明命が固まる。
「春蘭様たちの手伝いをする約束をしていたのをすっかり忘れてました!」
「春蘭の?何やってるんだっけ?」
頭の中で明日のプログラムをめくる。
「演武ではなかったでしょうか」
全てを記憶してあったのだろう亞莎がやや食い気味に教えてくれる。
それを聞いて俺も思い出す。
「ああ、先週中庭にクレーターを作ってたあれか」
明らかに演武というものを勘違いしていた春蘭が霞と本気で戦って中庭に大きな穴をあけていたのを思い出す。
もう慣れっこだったのか、華琳はこめかみをぴくぴくさせながらも城でお抱えの園丁師に直させていた。
「ですです!お昼ご飯を食べたら中庭に集合でした!」
何日か前に武舞台が建設されていたのを覚えている。
「あー…早く行ってあげた方がいいかもね」
待ち合わせ相手が来ない春蘭が周りにあたり散らしているのを想像して苦笑する。
「は、はい!一刀様!私はこれで失礼します!」
「うん。気をつけてね…ホントに」
てててと中庭のほうに走っていく明命を見送りながら二人で手を振っていると、目の前からとてもいい匂いがした。
「すごくいい匂いがする」
「ぱーてぃの準備ですかね…?」
満腹感が残るおなかをさする。
「はっ。この匂いは…」
「どしたの?亞莎」
「ゴマ団子です!」
厨房からする色々入り混じった匂いの中からかぎ分けたらしい亞莎は目を輝かせ、洋々と厨房へと入って行く。
部屋に帰っても仕事くらいしかやることのなかった俺はなんの気なしにそれについて行く。
「あ!兄様!」
「え?あ!こ、これは隊長!どうしてこちらに!」
厨房の戸をあけた俺たちを迎えてくれたのは、流々と凪、それと後ろで灼熱の中華鍋をふるっている、華琳自慢の料理家たちだ。
流々は手に手に揚げたてほかほかのゴマ団子が乗った皿を持っている。
周りを見渡したが祭さんはまだ戻ってきてないらしい。
「どうしたんですか?兄様」
「うん。亞莎がね…」
言われて流々はゴマ団子に熱烈な視線を浴びせている亞莎を見る。
「ああ…」
全てを察した流々は
「亞莎さん。食べますか?」
手に持っていた皿を差し出した。
「へ?いえいえそんな…!私は…」
急に正気に戻った亞莎はなぜかゴマ団子を受け取らず大きな袖で顔を隠してしまう。
それを見た流々は『しまった』と言う顔をして、いまだに把握できてない俺にそっと耳打ちをする。
「兄様、亞莎さんは極度の恥ずかしがり屋さんなんです」
「そうなの?」
そう言えばさっき初めてあった時も明命のうしろに隠れてたような…
言われてみると、年頃の女の子がお菓子の匂いにつられて我を忘れる、なんて聞こえはいいけど本人からすると顔から火が出るほど恥ずかしいことこの上ない。
「うーん…」
だからと言って、ゴマ団子にくぎ付けな亞莎をそのままにしておくわけにはいかない。
「あ!」
「ひっ…どうしたんですか?一刀様」
いきなり大きな声にちょっぴり腰を抜かした亞莎はゴマ団子から視線を外さずに聞く。
「亞莎!ゴマ団子、作ろう!」
「へ?」
ここで初めて亞莎はゴマ団子から目線を反らし、俺を見る。
「作る…ですか?」
「そう、一から。亞莎と…ちょっぴり俺と流々だけのゴマ団子」
俺はグッと亞莎に向かってサムズアップを作る。
「作る…一から…私と一刀様と流々ちゃんだけの…」
言葉を呟くたびに亞莎の顔は笑顔になっていく。
「作りましょう!一刀様!」
亞莎は俺の腕をガっと掴んだ。
ここで、俺はひとつ懸念があることに気付く。
「…材料はあるよね?流々」
「はい!もちろんです!」
流々は元気よくさっきまでゴマ団子を作っていたであろうスペースへと案内してくれる。
「こちらです!」
机の上には餡子や白玉粉、ゴマや油の入った鍋などゴマ団子の材料がすべて整っていた。
「はやく始めましょう!」
鼻息荒く、亞莎は長く垂れた袖を必死にまくる。
…そういや服屋のおっちゃんが新作できたって言ってたよーな。
「じゃあ、やりますか!」
一時間後
俺たちの目の前には、お店に並んでそうなゴマ団子とそこまで言わないまでも十分おいしそうなゴマ団子が並べられていた。
「はやく、食べましょう!一刀様!」
どうやったかは知らないが、鼻にたっぷりと白玉粉をつけた亞莎が俺の服を引っ張る。
「うん。じゃあ、いただきます!」
「いただきます!」
亞莎は文字通り食い気味に挨拶の途中からゴマ団子を口へと運ぶ。
「おいしいです!」
「うん!うまい!」
流々と俺は一口かじり感想を言うが、亞莎は一口は小さいながらも黙々と口へと運ぶ。
「どう?亞莎?」
「おいひいでふ!ゆめみひゃいでひゅ!」
恐らく、ゴマ団子が実質食べ放題なのと自分で作れたことで感激してるのだろう。
流々の作り方を熱心に見ていたし、あと数回一緒に作れば完璧にマスターすることだろう。
次々とゴマ団子を口に運ぶ亞莎を残し、俺は凪の調理場へと向かう。
「どう、凪。調子は」
「隊長、こちらは順調です。隊長たちの方はいかがでしたか?」
「うん、ばっちし。…て、凪」
俺は机の上に置いてあった紅蓮のように赤いソースのようなものが入った小瓶を手に取る。
「これなに?」
少し顔を近づけるだけで刺激臭がする。
「はい、料理の調味料ですが…それがどうかしましたか?」
満面の笑みで受け答えされる。
「…いえ、何でもないです。…ってこれは」
俺は瓶の一つに嗅ぎ慣れた匂いがあることに気付く。
よくまわりを見ると、他にもいくつか懐かしい香辛料がある。
俺はそれをかき集め、向こうにいたころに習ったレシピを思い出す。
「…うん。凪、俺も一品作るよ」
「た、隊長が自らですか!?」
「うん…だめかな?」
驚愕の表情を浮かべた凪は、ブンブンと頭を振って、
「いえ!ぜひお願いします!皆、喜ぶかと」
「ありがと。…久々にやるかぁ!」
俺は袖をまくって、そばにあったエプロンを装着し、作業に取り掛かった。
「やっぱ匂いがつくなぁ…」
百人前ぐらいと特製を作って後は煮込むだけにした鍋を調理場の人たちに任せ、俺は自室へと向かう。
「…いい匂い」
「へ?」
後ろからゆるそうな声が聞こえた。
「キミは…?」
振り向いた先にいた赤い髪の女の子は首をかしげ、
「恋は恋…」
「それは、キミの真名じゃないかな?」
ややあって、『レン』と名乗った女の子は
「恋は呂布…」
その言葉に俺ははっとする。
俺はあまり前線に出ることはなかったので直接見る機会は少なかったが、それでも何度か戦場で目にすることはあった。
それに名前だけなら俺の世界でも各地に名をはせている。
『伝説』と言っても過言ではないだろう。
「そっか、キミが呂布か…」
呂布はコクンとうなづく。
「それより」
呂布はそんなことはどうでもいい、と言わんばかりに強引に話を戻す。
「おいしそうな匂いがする」
いくつか言葉を区切ってゆっくりと言葉を紡ぐ。
鬼神と言われた人物と同一とは思えないほどに。
「ああ。晩御飯を楽しみにしてて。ぜっっっったい、おいしいから」
俺はサムズアップを作る。
呂布はコレが何か分からなかったのか、俺と同じポーズをとる。
「そういや、なんで武器持ってるの?」
「…これはニセモノ。真桜が作った」
よく見ると刃引きされている。
「よくできている。重さも恋のにそっくり」
「…それはすごいね。どっかに行く最中だったのかな?」
呂布はコクンとうなずき、
「春蘭に呼ばれた」
「…ああ」
…まだやってたのか。
呂布は少し考え、俺の手を取って、
「お前も来る。恋の強いとこ見せる」
「へ?」
彼女の強さは十分知っているが、少し興味もある。
「…うん。じゃあお言葉に甘えようかな」
明命も気になるし。生きてるかなぁ…
お待たせしました。
一応話の流れは最後まで組上がってるのですが、いかんせん時間が取れない…
時間がほしいです。ペースをあげたい…
次の話は今日中に何とかかきあがるといいなぁと思っております。
ではまた次回。
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恋姫とクウガのクロスです。
今回はゴマ団子篇です。
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